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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2016年09月10日

Lazy Daisy


安全地帯III 抱きしめたい』二曲目、「Lazy Daisy」です。

「怠惰なヒナギク」? 手元のリーダーズ英和辞典によりますと、daisyには「逸品、すてきなもの〔こと、人〕、ピカ一、かわいこちゃん」という意味があるようです。きっとこの意味で使っているのでしょう。「Lazy Daisy」は「だらっとしたかわいこちゃん」くらいの意味なのかもしれませんね。

さて、イントロに用いられるツインギターの単音リフは、コピーしてみると、しばしば自分がいまどこを弾いているのだかわからなくなります(笑)。また、ギターソロの直前が三拍子の小節になってまして、わたくしこれに気づかず、「あれっ?音が足りない?」と戸惑った記憶があります。まぬけです。

志田歩さんの『幸せになるために生まれてきたんだから』には、武沢さんが「変拍子とか」……「あのアレンジは画期的」と語っている個所がありまして、あーあーわかる、あるよねー変拍子、俺にはわかるよフフン、他の人たちにはわかるかな〜?などと、まんまと引っかかったくせに謎の先輩風を吹かせて読みました。おそろしく恥ずかしい思い出です。

さて、この曲、スタジオ盤では派手にストリングスっぽい音のシンセサイザーが用いられていますね。おそらく六土さんがお弾きになったキーボードによるものでしょうけども、ライブではそうはいきません。『ONE NIGHT THEATER』からは川島さんがステージにいますが、『ENDLESS』ではそうはいかなかったはずです。さて、どうやって解決していったんだっけな……? と思って聴いてみると、(おそらく)矢萩さんがオーバードライブの効いたギターサウンドでお弾きになっていました。おお、そうだそうだ、この音だった!しかしライブアレンジでも全然違和感なく聴けてしまうのが相変わらず凄い……!

基本的には、武沢さんがリードというかアオリというか……ともかく単音引きで目立つフレーズを弾き、矢萩さんがカッティングとソロですね。ふだん矢萩さんのカッティングにあまり注目して聴いたことがなかったんですが、この曲はカッティングも目立ってますね。「ジャン・ジャッジャッンジャ」の繰り返しがいつまでも聴こえます。あ、いや、よく聴いたらもう少し複雑なんですけど、ともかく耳に残りますね。この矢萩さんのリズムがこの曲の基調になっているように聴こえます。時折16分の混じるややキープの難しいベースラインと、派手なフィルインのリズム隊が、矢萩さんのカッティングリズムを鋭く切り取って曲を展開させています。ここに玉置さんのボーカルと武沢さんのリードが加わって、曲全体をドラマチックに彩っています。

こう書くと、とてもじゃありませんが、歌メロが先にあって、それに伴奏を付けたように思えません。まずギターのイントロが最初にあって、それを発展させて曲の骨格(コード進行と展開)を作り、あとからボーカルとリードギターを載せた……ように感じてしまいます。安全地帯の曲作りは玉置さんのギター弾き語りデモテープから始まるのが常でしょうから、伴奏は後付けなんでしょうけど、凄まじいアレンジ能力です。メンバー全員の、よっぽどの共通認識と技術がなければ、こんなことはできません。もちろんそれができるからこそのスーパーバンド安全地帯なんですけど。

田中さんがWEB上でアレンジの中心にいたのは「浩二だね」とおっしゃっていたのを読んだことがあるんですが、それだって各メンバーが玉置さんのアイデアを聞いて、「こうかい?」「こうだよね?」「こうしてみたほうがいいんじゃない?」と即座に対応できる能力を持っていなければなりませんから、凄まじい力量です。アマチュア時代に育まれた鉄の結束と、信じられないアレンジ・演奏能力が、「ワインレッドの心」以降の安全地帯を可能にしたのでしょう。

ああー、じゃあ、そこでサンタナっぽくソロ入れてみてくれる?とか、ワガママなプロデューサーに即座に応えるスタジオ・ミュージシャン(対応できなければ即座にクビ)をわたくしは尊敬しておりますが、安全地帯は「そんなことできて当たり前じゃん」というレベルに全員が達している、しかもおそらくデビュー前にです。こりゃー、そこらのバンドじゃ敵うわけないです。

とはいえ、この時代、「そんじょそこらのバンド」(イカ天以後のようなバンド群)がメジャーデビューすることは難しかったでしょうから、バンドとしてここまで活躍できた安全地帯は、ある意味正当な評価を受けたと言えるのかもしれません。ジュリーとショーケンのツインボーカルバンドPYGのみなさんくらいの技量レベルでないと、ロックバンドとして認知を得ることは難しかったでしょう。「ツェッペリンで一番すごいのはジョン・ポール・ジョーンズだと思うんだけど」というくらいロックを聴き込んだレベルのリスナーは、今も昔も少数派です。その少数派がいかにしてジョン・ポール・ジョーンズへの支持を表明するか? いまのようにインターネットで個人がジャンジャン発信する時代ではありませんから、「レコードが売れる」「テレビに出演依頼が来る」「コンサートに人が殺到する」ことこそが、アーティストが支持を感じることのできる出来事だったでしょう。これではアイドル歌手と変わらない……とメンバーが思ってしまったのではないかと、ついつい、いらぬ心配をしてしまいます。

さて、いつものことですが、曲の話から完全にずれてます。

歌詞の話をしますと、「ジン」なんて何のことか知りませんでした。この曲で初めて聞いて、調べてようやくある種の酒のことだとわかりました。その「ジン」で「言葉をくちうつし」だとか、「タップダンス」で噂を霧散させようとするだとか、完全にオトナの世界でした。やけにカッコつけたオシャレなオトナ限定の世界だとわかったのは、自分が大人になって、ジンなんかそんなに飲まねーよ、日本酒くれ、冷で、とか思うようになってからでした。このように、現実感をほとんど失っているくらい極端にカッコいいオトナの世界、都会の夜、それもススキノとか三六街とかのローカルな感じじゃなくて、明確にトーキョーの六本木とかをイメージさせる音楽で、安全地帯はスターダム街道を突っ走ります。『リメンバー・トゥ・リメンバー』でみられたような「北海道ロック」的要素は、ほとんど感じられません。人はこれを「洗練された」と呼ぶのでしょう。

思い起こせば、当時の石原真理子さんや薬師丸ひろ子さんは、おそろしくこういう曲の女性像にマッチしていました。ある程度まで意図的なんでしょうけど、こういう現実の世界をリンクさせて、アーティストをある恋物語の登場人物のように思わせてしまう手法は、後にも先にもなかったのではないでしょうか。これは、当時のファン(おもにラブソングクリエイターとしての玉置さんのファン)としては、たまらなかったことでしょうね。玉置さんの歌唱力と、安全地帯・星勝さんによる絶品のアレンジ・演奏能力とが、この物語のBGMになる……いや、バックどころかフロントですから、オペラに近い……いや、さらに、物語でなく音楽のほうが主役になっている新しい芸術であるかのような感覚さえ抱くことができたのかもしれません。当の本人たちは真剣なんですから、そんな見世物のような表現の仕方をするのは甚だ失礼なのは百も承知なんですけれども。当時の安全地帯近辺の熱狂には、そんな要素もあったことは確かでしょう。

いつにもまして話がそれましたが、「かわいこちゃん」と題されたこの曲の魅力は、曲のなかにも曲の外にもあったのです。

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2016年09月08日

yのテンション


安全地帯III 抱きしめたい』一曲目、「yのテンション」です。

この曲は、イントロ〜Aメロのアルペジオだけでもう「勝ち」って感じです。イントロだけで名曲の予感がゾクゾク来ます。

やってることは、Dmで半音ずつずらしていくという、ごく普通のことをしているのにすぎないんですが、なぜか震えてしまいます。何なんでしょうかね、スピードとか、トーンとか、「安全地帯だからきっとやってくれるに違いない」という期待値とか、田中さんのハーフオープンなハイハットとか、いろんな要素があるんだと思います。

玉置さんの歌が始まると、まずはその抑揚を小さく感じるメロディーに、ちょっと意外な感じを受けます。松井さんの、やるせない、じれったい、どうするんだよこれ……という心情を表す歌詞が、異常なくらいマッチしています。「やるせない」「イライラする」といったような、直接的なことばを使わないでその気持ちを表現するのは、おそらく意図的にそうしているんでしょうけど、ほとんど神業です。

リチャード・マークスの「Right Here Waiting」(懐かしい!)が、これほどのラブソングなのにひとつも「love」という言葉を使っていないという解説付きで売られていましたが、松井さんの歌詞も、それに近い感覚があります。のちに「じれったい」とか「好きさ」とか、思い切り直接的なことばを使ったのも、おそらく意図的でしょう。狙っているようにしか思えません。

そしてたった四小節のBメロ、六土さんのベースで曲全体のリズムを変えて、曲はサビへと一気に突き進みます。なんというスピード感!スリル!曲は速くないんですが、展開で速さを感じさせます。

サビは、コーラスの掛け合いで一気に盛り上がりますが、気分的に盛り上がるのは焦燥感であって、心はすこしも明るくも楽しくもなりません。切なさが最高潮に達したところで、イントロのアルペジオです。心の抑揚・空回り感をそのまま曲にしたんじゃないかと思わせてくれるくらい、ボーカル・歌詞・楽器演奏が見事な緊張感で「心のテンション」とでもいえそうなものを表現してくれています。カラオケなどで歌う際には、よーく場の雰囲気を読むべきでしょう(笑)。

アルバムのクレジットには、キティの伊豆スタジオで1984年の9月から11月にかけて録音・編集されたとあります。曲作りの期間というのも当然あったでしょうから、メンバーはそれ以前から伊豆にいたのでしょう。松井さんの『Friend』には、「夏に近づいていた」ときに合宿スタジオから北の高原(おそらく軽井沢)に行った、という記述がありますので、初夏にはもう曲作り合宿に入っていたのでしょう。その合宿で、玉置さんと松井さんは同室だったそうなのです。もしこれによって生まれた二人の相互理解が、こういう緊張感を生み出したのかもしれませんね。同書によれば、この歌詞は、思うように歌えない玉置さんが感情移入しやすいように歌いやすいようにと、松井さんがレコーディング期間中に書き直したものなのだそうです。なんという…なんというゴールデンコンビでしょうか。もう、聴かせていただいて楽しませていただく側からすれば、ありがとうございます、二人の天才に乾杯、なんて喜ぶべきところなんですが、この曲はそうした嬉しささえも許さないほどの迫力があります。ジューダス・プリーストが「Painkiller」のレコーディングが終わったときに、ハイタッチして喜んだとはとても思えないのと同様です。いや、ふつうに喜んだと思うんですけど、曲を聴くととてもそんな想像ができないくらいシリアスさに圧倒されるということです。

さて、このアルバムではストリングスアレンジに星勝さんがクレジットされていますが、ストリングスを誰かが演奏したというクレジットがありません。ほんとにありませんので、誰かがクレジットなしの仕事をしたか、メンバーが演奏したかです。これは、おそらくメンバーが演奏したのでしょう。このアルバムは、どのメンバーがどの楽器を担当したかも書かれていませんので、想像するしかないんですが、キーボードシンセは六土さん、ギターシンセは武沢さん、といういつもの布陣で臨んだことと思われます。ですから、この曲(yのテンション)における、ソロやアオリに用いられたサックス的な音色は、武沢さんのギターシンセでしょうね。前作ではギターシンセにローランド(富士ローランド?)の名前がクレジットされていたんですけど、それはレコーディングにあたって機材の提供を受けたということかもしれません。すると、このアルバムからは自前のギターシンセを入手されたのでは……下世話なうえにどうでもいい話ですが(笑)。

『ENDLESS』ライブ盤では、ギターソロが甘いオーバードライブの音で弾かれています。おそらく、武沢さんが弾いたんだと思うんですけど……シングルコイルっぽい音ですし……思うんですけど、エンディングのソロはハムバッキングっぽい音で、矢萩さんな感じなんですよ……。わたくしの耳はよいほうではないと思いますので、完全な戯言なんですが、この曲は間奏のソロを武沢さん、エンディングのソロを矢萩さんが担当したように聴こえてしまいます。別に何も不思議はないんですけど、何か釈然としないものを感じます。アルペジオのフレーズが一緒ですので、わたくしこれを矢萩さんが弾いていると思っていましたが、エンディングだけパートを交換した?いやいやいや、そんな不自然なことをあえてやるとは思えません。歌の最後が「No No Nooooooooooo」とやけに伸びているのは、歌の凄さを客に披露するためではなく、もしかして武沢さんがギターを取り換える時間を稼いでいた? いやいやいや、それはもっと不自然な気がする!武沢さんのギターには、当時からシングルコイル→ハムバッキングのタップスイッチが付いていて、それを切り替えた?なんでわざわざそんなことを?音量を大きくして盛り上げるためだったらペダルでいいし……。

わたくしの聴き取りがヘボなだけという可能性が一番高い気がします。悔しながら……。これは、ちょっとわかりません。映像で確認しようと思ったんですが、いま手元の『ONE NIGHT THEATER』のDVDにちょっと問題がありまして、確認できません。記憶では、ライブ映像ではなくて玉置さんがオープンカーを走らせている映像だったような気がしますので、知りたいことがわかるかどうかは何とも言えませんが。

【追記】うえの段落では、確認もせずにデマを書いておりました!オープンカーではありませんね(サンルーフはありますけども)。しかもライブの映像のほうが多かったです。ソロは間奏も終奏も矢萩さんが弾いていますね。たんにわたくしの耳が悪いだけでした。とんだ赤っ恥!

そんなわけで、一曲目からわたくしの文章は情けないことこの上ない状態になってしまいましたが、曲はとってもオススメの名曲です!

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2016年09月06日

『安全地帯III 抱きしめたい』


安全地帯のサードアルバム、『安全地帯III 抱きしめたい』です。

「抱きしめたい」などと、サブタイトルのようなものを付けていますね。なんだかなー、と思ったら、サブタイトルのないもののほうが少ないのかも?と、ちょっと思い起こしてみました。

I  『リメンバー・トゥ・リメンバー』
II  (サブタイトルなし)
III 『抱きしめたい』
IV  (サブタイトルなし)
V (サブタイトルなし、ただしバラ売り版は『Friend』『好きさ』『Harmony』)
VI  『月に濡れたふたり』
VII 『夢の都』
VIII 『太陽』
IX (サブタイトルなし)
X  『雨のち晴れ』
XI 『STARTS 「またね…。」』
XII (サブタイトルなし、ただしジャケットに「清く 正しく 美しく」の大書きアリ)
XIII 『JUNK』
XIVI『The Saltmoderate Show』

サブタイトルなしは少数派でした! ああー、80‐90年代のレコードショップでの印象が強すぎですね。あのころは、『月に濡れたふたり』がわりと最新版で、サブタイトルなしのものが半分くらいあったものですから、安全地帯がサブタイトルを付けるときは何か特別な意味があるんだろう、なんて思っていたわけです。その後『夢の都』『太陽』がリリースされ、それを味わっているうちにいつのまにか10年くらい待たされることになったので、サブタイトルなしが多いという印象が残ったままだったのです。サブタイトルなしのローマ数字って、なんかカッコいいと思ってましたが、別に安全地帯にとっては特に意味がなく、サブタイトルが思いつかなかったから、くらいの理由なのかもしれません。あれま。

さて、三枚目のこの『抱きしめたい』は、難産だった『II』に比べて、かなりあっさりできてしまったそうです。リリース時期だけ見ても、『II』が1984年5月なんですが、『抱きしめたい』は同年の12月です。半年ちょっとしか経っていません。それなのに粗製乱造にならないのが物凄いところです。リリースまでの期間が短すぎて、シングル曲が「恋の予感」しかない(カップリング「Happiness」をいれても二曲)のも物凄いです。いかに当時の安全地帯に勢いがあったかがわかりますね。

安全地帯のターゲットは20代だったと考えれば、一年に二枚のアルバムでも売れるとスタッフは踏んだのかもしれません。そしてそれ以上に、安全地帯の生産能力が高くないといけません。これは奇跡的なことでしょう。安全地帯は、アイドル歌手のように、複数の作詞作曲者を抱えるチームではないのです。玉置さんの作曲能力、松井さん井上陽水さんの作詞能力、安全地帯と星勝さんのアレンジ能力、スタッフワークのパフォーマンスのすべてが高くなければ、こうはいかないはずです。

「ワインレッドの心」と「悲しみにさよなら」の狭間にあり、「熱視線」も収録されていない(時期的にムリそうですが、曲調的にもこのアルバムには入りにくい曲でもあります)このアルバム、ヒット曲は「恋の予感」のみ、そしてジャケットがなんだか怖い(笑)このアルバムは、もしかしたら後追いファンだとなかなか手が出ないアルバムかもしれませんね。でも断言しましょう、それは恐ろしくもったいないです。どんな順番で聴くのもOKですから、もちろんこのアルバムを最初に聴いてもいいと思いますよ!

さてさて、ここで、曲目へのショートコメントをして、次回以降、一曲ずつ語っていくことにしたいと思います。

1.yのテンション イントロ〜Aメロの、Dmのアルペジオ、サビでのボーカルとコーラスの掛け合いが印象的な曲です。暗くて「「シン!」と張り詰めた緊張感がたまりません。その緊張感を「テンション」と呼んでいるのかもしれません。
2.Lazy Daisy  これまたイントロが、ツインギターでバトルをするかのようなフレーズで、印象的な曲です。「抱きしめたい」はこの曲の歌詞から取られたのかもしれませんね。

3.Happiness  「恋の予感」のカップリング曲です。「眠れない隣人」的なことば遊びで楽しませてくれますが、このアルバム全体の雰囲気にマッチしているところが不思議です。こんなに楽しい曲なのにどこかシリアス。

4.ブルーに泣いてる 「エイジ」「真夜中すぎの恋」の系譜上にある「エレキギターバリバリ」のシリアスなロックです。全然「バリバリ」に聴こえないのは、武沢さんがギターシンセを駆使しているからでしょう。

5.恋の予感   シングル曲のバラードです。「ワインレッドの心」的なものを期待した人は、この曲で「やっと来た!」と喜んだかもしれません。一度聴いたら耳から離れないメロディーと玉置さんの歌いっぷりです。

6.Kissから   B面一曲目の、勢いあるロックナンバーです。「真夏のマリア」的な位置づけでしょうか。いい意味で、ちっとも気分が明るくなりません(笑)。これはノリノリになる曲でなく、浸る曲でしょう。

7.      「あなたに」に匹敵する名バラードなんですが、知名度は高くないでしょうね。「…ふたり…」を超える難易度で繰り出されるツインギターのアルペジオが、「見事!」の一言です。

8.アトリエ    どうしてこういう曲を、「風」みたいなナイスバラードの後に持ってくるんでしょう。これまたナイスすぎて、「風」を聴いた後にかならず続けて聞いてしまいます。「あなたに」後の「…ふたり…」と同じ手口です。

9.エクスタシー  このアルバム随一のハードナンバーです。「ダンサー」の位置づけそのままなんですが、「こんなのライブでできるわけないじゃん」レベルの演奏能力をたっぷり披露してくれます。ちなみに安全地帯はサラッとライブで演奏してくれていました。恐るべし。

10.瞳を閉じて   ソフトな、かわいらしいバラードです。「La-La-La」が「大作!」「有終の美!」みたいな感じだったのに対し、こちらはあくまで小品といった趣きです。個人的には「ゆびきり」「夢のポケット」的な曲の始祖にあたるのでは……いやいや「ENDLESS」が先というべきか……?と悩む曲でもあります。

……と、このように、全十曲、バラエティに富んだ構成になっています。それなのに、(当たり前ですが)すべて安全地帯!の色としか言えないものに完全に染まっています。その色さえも、前作、前々作とは違うのですが、それでも「安全地帯色」としかいえない色です。なんというか、初期クイーンズライクのように(安全地帯のほうがやや先輩ですが)、アルバムごとにはっきり違う色が楽しめるのに、同じ色が根底にあるのがはっきりわかる……わけのわからない話なんですが、わたくしの力量ではそうとしか言いようがなくて申し訳ない限りの話なんです。

「もっと音楽的に評価されたかった」武沢さんは、このアルバムの出来には満足できたのでしょうか。武沢さんビイキのわたくしには、これ以上できないくらいの力の入れ具合が武沢トーンに載って聴こえてくるようです。ただ、それが「評価」されるかされないかは、結局はリスナーの勝手ですので、きっと苦しかったのではないかと思います。

安全地帯こそが英米のベテランバンドと並び立つことのできる、数少ない日本のバンドだと、わたくしは信じております。次回以降、そんな彼らの入魂のアルバム『抱きしめたい』を一曲ずつ語りたいと思います!

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2016年09月04日

La-La-La


安全地帯II』十曲目、「La-La-La」です。

これがこのアルバム最後の曲になります。

天才としか思えない歌詞……当時のわたくしは、まっさきに歌詞の世界に夢中になりました。

「挨拶はモノクローム」とか「風の匂い」とか「果実の彩り」とか、わたくしが想像もできなかった言葉の組み合わせで、こんな世界を描けるとは!

あまりにハマりすぎて、学校の授業中に歌詞を何度も頭のなかで反芻して楽しむほどでした。はた目には、けっして上の空には見えなかったはずです(笑)。

大人になって冷静に読むと、ひたすらユルい同棲生活か何かの描写だなあ〜と、非常に夢のない解釈をしてしまいます。ああよかった、ティーンの時にこの曲に出会って。

さてこの曲、ひたすらやさしい(ユルい)世界を描写していますが、アレンジはさすが安全地帯、鬼のように激しいです。きっと迷わずにいられることでしょう(笑)。

Aメロで、ボーカルラインをなぞるようなリズムでギターとベースが演奏されています。息が合ってないとできないのはもちろんなんですが、六土さんはさぞかし疲れることでしょう。「この程度じゃ疲れないよ!」とニコニコ言いそうですけど、はた目にはかなり疲れるフレーズをあえて弾いているように見えます。そりゃーそうですね、曲の完成度がなによりも優先です。

安全地帯は気合の入ったアレンジで、ライブでもまったく同じに演奏してしまうのが恐ろしいんですが(ドリーム・シアターのライブ盤で衝撃を受けた人にもぜひ聴いてほしいですね)、この曲でも事情は同様です。

なによりも恐ろしいのは、曲のユルさを表現するためか、田中さんのドラムがただ八分で淡々と刻まれるだけだということです。しかし!しかしなんですが、何か、打楽器がずーっと同じ細かいリズムで刻まれて、ギターとベースのリズムを支えていますよね。おそらくコンガっていう太鼓なんだと思うんですけど…これ、どうやって叩いてるんでしょう……?

アルバム盤にも、『ENDLESS』のライブ盤にも、とくにクレジットはありません。ということは、田中さんが根性でたたいているか、自動演奏か録音したものを再生して、それにあわせてメンバーがこれを演奏しているか……

ハイハットはずっと閉じられていますので、左足でなんとか叩けるように工夫した……というのもかなりムリがあります。

これは謎です。ただ単に、アルバム盤では田中さんが別に叩いたのを録音し、ライブではクレジットされていない何者かが舞台裏で叩いただけかもしれませんが。

いずれにせよ、気を抜いたらあっというまにアンサンブルが成り立たなくなり、途中から復帰するのも難しそうなアレンジです。どれだけリハーサルしたらここまでできるのでしょう。

さてギターといえば、Bメロのツインギターによる単音刻み、ソロのバックでひたすら繰り返される武沢トーンによる単音リフ(余談ですが、わたくしここで武沢トーンの存在に気づき、ハマりました)、矢萩さんの、おそらくフロントピックアップによる丸っこい、それでいて粘っこい音によるソロ、どれも絶品です。

わたくしこの曲をひたすら聴き、ひたすらギターでコピーしました。バラードってこんなに複雑で忙しいんだ……と思っていたのですが、のちのバンドブームのころに他バンドのコピーをしてみるとバラードがあまりに単純でヒマだったので、安全地帯が特殊だったのだと知りました(笑)。

この曲で、『安全地帯II』は終わりです。終わりにふさわしい絶品バラードですが、そんなに有名じゃないですよね、シングル曲が三つ(カップリングを入れれば五つ)もありますし、バラードとしても「あなたに」の存在感には今一つ及ばない……といったところでしょうか。この曲の輝きは、一聴しただけではわかりにくいのかもしれませんね。ただ、玉置さんが近年(といってももう10年くらい前ですが)ソロ活動のライブでもこの曲を演奏されていたところを見ると、案外お気に入りなのかもしれません。

そんな隠れているような、隠れていないような名曲「La-La-La」でした。

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2016年09月02日

ダンサー


安全地帯II』九曲目、「ダンサー」です。

圧巻!のスペイン音楽風ハードロックです。こんな曲、ほかにあるんでしょうか。スペインのロック事情を少しも知らないので、おそろしく恥ずかしいことを書いていると自分で思っているんですけど、よく考えたら、スペインどころか、ほとんどの国のロック事情を知らないことに気が付いてしまったので、「ダンサー」がなに風かは、もう語らないことにしたいと思います。あー恥ずかしい。そんなわけで、こんな感じの曲がなに風なのか、どなたかこっそり教えてくださるとうれしいです。

安全地帯とスタッフのみなさんが曲作りの合宿にいくと、玉置さんがギターを弾きながら「こんなのどうかな?」「こんなのは?」と、ドンドンどんどんいろいろな曲を即興で作って聴かせてくれるんだそうです。テレビとかでたまに披露してくれますよね、即興。あんな感じのが一晩中続くんだそうでして、ぜひその場にうっかり居合わせたくて仕方ない気分にさせられます。

そんな感じの「スペイン風」で、この曲もきっとそうやって生まれたんじゃないかな〜なんて、考えたんです。上記の「合宿」は時代的にもっと後のことなんでしょうけど、合宿にしろ一人ぼっちにしろ、玉置さんの即興がテープに残り、松井さんが歌詞を書き、メンバーやスタッフがアレンジをしてゆく……そんな音楽制作をしていったんだと思われます。おそらく武沢さんによるスパニッシュギターのソロがパーフェクトにハマってるあたりが、この時代の安全地帯がノリにノっていたことを示しているかのようです。

さて、この曲ですが、Aメロで六戸さんのベースが忙しくうねっているのがおわかりになるかと思います。これがこの曲の、疾走感を演出しているように思えます。

Bメロではルート中心に抑揚少なめで曲を引き締め、サビでは八分のルート刻みとAメロ的なうねりを混ぜたような、疾走感と盛り上がりの両方を醸し出すフレーズになっています。

そうやってベースを中心に耳を澄まして聴いていると、「パイーン!」という矢萩さんの凄まじい効果音的なギターと、細かい刻みのカッティングの武沢トーンが、よりよく聴こえてくるように思われます。

今回気づいた、というよりも考え付いたことですが、サビ裏の速弾き的なギター、これ、ディレイ……ですよね。

ディレイというのは、弾いたフレーズを山びこのように勝手に繰り返してくれる機械のことなんですけども、調整次第で、弾いた音と同じ音量で何度も繰り返させることが可能なんです。当時のディレイがどのくらいの性能だったかははっきりとはわかりませんが、最初の一回を弾いただけで、あとはギターに触らなくてもこのフレーズはできそうな感じではあります。

ただし、ド根性の矢萩さんのことですから、ディレイはあくまで補助的なセッティングにとどめ、ほとんど全部手で弾いている可能性も、なくはありません。むしろこれが真相に近い気がします。

この曲は、『ENDLESS』ライブで聴くと、とつぜん音がでかくなったような気がしてビックリします。会場ではさぞかし大迫力だったことでしょう。2010年ツアーの「LONELY FAR」みたいな感じだったんでしょうかね。けっしてメジャー曲ではなかったと思うんですけど、ド迫力に度肝を抜かれて一気に会場が盛り上がったのを覚えています。なんというか、「ハードロック」な感じなんですね。

もちろん、ヨーロッパの「ファイナル・カウントダウン」とか、BON JOVI「You give love a bad name」みたいな典型的なハードロックではないですが、「ダンサー」の、この疾走感、この重厚さによるド迫力は、ハードロックと呼びたくなります。そんなわけで、スペイン風だのなんだの、わけのわからない枕を承知で、「ハードロック」といい続けているんです。

いい続けているんですが、いままでこの曲のことを話し合える知り合いに会ったためしがありません(笑)。いや、いるんですよ、この曲を知っているはずの人は。ですが、わざわざ話さないって感じですね。そもそも安全地帯をアルバム単位で聴いているような人は、他の音楽もよく聴いていた人が多い気がします。ビートルズでもエアロスミスでもBON JOVIでもガンズでも、いくらでも話すネタがあるんですから、わざわざ安全地帯の、しかもアルバム曲の話をする機会は、そんなに多くないわけです。

きっと、それが埋もれていくってことなんでしょうけど、埋もれさせるにはあまりに忍びない曲だらけなため、こういうブログを作ったわけです。

埋もれる寸前かもしれない!スペイン風(まだ言ってる)ハードロック!聴くのはいまだ!

「ダンサー」のご紹介でした。

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2016年08月21日

つり下がったハート


安全地帯II』八曲目、「つり下がったハート」です。

この曲は…ツインギターの絡みが聴きモノです。いつも同じことばっかり言っているんですが(笑)、安全地帯はなんといってもギターバンドなんです。ボーカルの威力が凄まじすぎたせいで、ボーカルばっかり注目を集める結果になってしまっているだけで、よくよく聴けばボーカルに負けない魅力のあるメンバーたちのアンサンブルこそが、安全地帯の真の魅力だとわたくしは思っております。

注意して聴いていないと聴き取れないのですが、右チャンネル(おそらく矢萩さん)ではフロントピックアップを使用したような丸みのある音、左チャンネル(たぶん武沢さん)ではリアピックアップを使用したようなシャリーンというクリーントーンが聴こえます。このクリーントーンは、MIASSツアーのビデオ(『I Love Youからはじめよう』)で聴くことのできる、メンバー紹介中の武沢さんのカッティングの音と同じに聴こえますので、おそらく武沢さんだろう、じゃあそうじゃないほうが矢萩さんだろう、という安易な推測なんですが。

で、サビでこの二本のギターが入れる刻みが、ズレているんですね。ズレているって書いたらなんだかミスしているみたいでヘンですが、そうじゃなくて、わざとズラしてあるんです。比較的よく聞こえる丸い音が頭打ち、クリーントーンが裏打ち、というとわかりやすいでしょうか。

メンバーは、へ?こんなのできて当然じゃん?と、きっと意識せずにサラッとこなしているんだと思うんですけど、これは二人のギタリストがリズム感覚に優れており、かつリズム隊がほぼ完ぺきなリズムをキープしていることが求められます。簡単に真似できるものではありません。キミたちなんでギター二人いるの?、ああ、高校とか大学で仲良しだったわけね、ってレベルのバンドでは、ほとんどムリでしょう。

そんなわけで、安全地帯なら楽勝だろうけど、そんじょそこらのバンドではムリっぽい、ステキなアンサンブルを聴くことのできる曲なわけです。

ギターソロは、おそらく矢萩さんなんでしょうけど、アームやチョーキングを使ったビブラートが凄いですね。けっして複雑なフレーズじゃないんですけど、同じように弾けといわれても、わたくしレベルでは弾けないです。わたくし人前で「メロディー」のソロを担当したことがあるのですが、似せるのに四苦八苦したあげく、とうとうごまかしてそれっぽく、しかし確実に違うように弾いてしまいました。これは、歌で考えてみるとわかりやすいんですが、玉置さんのように歌える人がほとんど皆無なことに似ています。矢萩さんのソロと、武沢さんのカッティングは、完コピできる自信がほとんどありません。わたくし彼らの曲を20年以上ちょろちょろとコピーしてますが、完コピできたと思ったことは一度もないのです。単にわたくしがヘタクソなだけかもしれませんが。

さて、この曲は、このアルバムのなかでは地味な存在かもしれません。「あなたに」や「…ふたり…」のような、うっとりする歌メロとはちょっと違いますし、「真夜中すぎの恋」や「ダンサー」のような激しさやスピード感があるわけでもありません。

しかし、この曲の凄さはそういう特徴ではないのでしょう。なんというか……この「ダルさ」とでもいうべきところが、妙にクセになる曲です。すでに述べたように、メンバーの凄まじい演奏能力によって緻密に計算・演出されたダルさとでもいいましょうか、心臓の音を思わせるドラム、血液の流れのようなベース、楽器を操る両腕のようなツインギター、そして悩みと安心が同居する不安定な心のようなボーカル、このすべてがメンバーの卓越した技量によって表現されているように思えてなりません。夜明けに聴いていると、この曲が妙に効きます(笑)。いやなに、このアルバムが良すぎて、夜じゅう聴いていて朝になってしまったことがあるもので。

そうそう、歌詞では「時計」初登場かもしれませんね。「青い時計」「時計の針」は、松井さんの歌詞にはしばしば登場するようなイメージがあります。

そんなわけで、安全地帯の、なんというか、バイオリズム直撃な感じの、異色の名曲といえるのではないでしょうか。

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2016年08月20日

真夏のマリア


安全地帯II』七曲目、「真夏のマリア」です。

石原真理子さんの暴露本を立ち読みしただけなんですが、この曲の「マリア」とは石原真理子さんのことだと、玉置さんがおっしゃっていたそうです。

うーーーーん、どういう理屈で松井さんの書いた「マリア」が石原真理子さんのことになるのかは、とんとわかりませんが、石原真理子さんの書かれたことが本当だとしたら(あくまでこの件に関してのみ言及するとして)、玉置さんが石原真理子さんのことだと思ってこの歌を歌っていた、ということなのでしょう。

それはさぞ、真に迫った歌いっぷりでしょう。

このエピソード自体はもちろんロマンのある話なんですが、わたくしは、玉置さんがそんなふうにだれかへの思いを込めて歌っているんだ、ということに新鮮な驚きを感じました。

玉置さん!あなた、やたらめったら歌がうまいけど、心もこもってたんですか!

いや、わたくし「心をこめて歌う」ということに、ほとんど価値を見いださない人間ですもので、てっきり玉置さんは、恵まれた身体とテクニックのみであの凄みを出しているんだとばっかり思っていました。

もちろん、心「も」こもっているというだけで、本当に身体能力とテクニックのみであのモノ凄い歌が歌えているのかもしれませんけど、そこは誰にもわからないですね。

ともあれ、ちょっとキケンな恋の物語を思わせる歌詞、玉置さんのモノ凄い歌、明るく軽快なアレンジは、のちの「熱視線」「こしゃくなTEL」「ノーコメント」「恋はDANCEではじめよう」「きっかけのWink」「じれったい」といった曲たちの原型(しかもほぼ完成型)となったといえるでしょう。安全地帯の、この系統の曲が好きな人も多いのではないでしょうか。わたくしも大好きです。この手のキケン・ポップ路線は、ハードロック路線の代わりに登場したといってもいいかもしれません。

さて、この曲、ツインギターは、Aメロでほとんど単音刻み、Bメロとサビは歌のアオリをおもに担当しています。「ビッグ・ジョーク」と基本的には同じアレンジ方針ですが、「ビッグ・ジョーク」ではサビでも矢萩さんが刻みを担当していたのに対して、こちらはサビで二人とも刻みをしていません。これは歌の力をより前面に押し出そうという仕掛けなのではないかと感じられます。

ギター、そしてベースもシンプルさを心掛けたかのようなこのアレンジで、一番大変なのは、もしかして田中さんなのかもしれません。わたくしがドラム一番苦手だからかもしれませんが、この曲で一番コピーしたくないのはドラムです。なにしろ足が大変なのです。八分だらけで、完全に曲に合わせて叩かなければなりません。曲に合わせるって、そりゃアタリマエだろと思うんですが、ドラムは同じリズムの繰り返しで案外ゴマかせるものなので、途中ちょっとボヤッとしてても、ベースの音を聞いて「ああそうか」と思い出して再開するということが可能(あくまでもワタクシのようなダメドラマーの経験談)なのです。ところがこの曲のドラムは、完全に他の楽器と絡み合ったフレージングになっている箇所が多く、一小節でもテキトーなことをしたら演奏中に他のメンバーから視線の総攻撃を食らいそうです(笑)。サビの前半八小節くらいでしょうか、同じリズムが続くのは。とはいえ足が大変なフレーズなので、ワタクシ程度ではまったく気が抜けませんが。

余談ですが、『We're ALIVE』に、この曲のリハーサル風景らしき映像が入っていますね。玉置さんが「ちょっと速かったね、もう一回」というやつです。そのときの音が、いかにも貸スタジオの中で響く音だったのがうれしかったです。安全地帯でもこういう音でリハーサルするんだ……(当たり前)。

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2016年08月19日

…ふたり…



安全地帯II』六曲目、「…ふたり…」です。

LPではB面の一曲目にあたる曲なんですが、どうしてここで「真夏のマリア」のように景気のいい曲にしなかったのか、少しだけ謎です。

じゃあここを「真夏のマリア」にしたところで、「…ふたり…」は何曲目になるべきでしょうか?

うーーーーん、ないですね。やっぱりここ以外ないのかもしれません。

じゃあ、根本的に入れ替えてみると……A面一曲目はワインレッドにするとして、B面一曲目を「真夜中すぎの恋」、どう考えても「La-La-La」はラストだから、「あなたに」はA面ラストかな……。A面もB面もラストはバラードだから、その直前は勢いのある切なめの曲だ。するとA面は「マスカレード」、B面は「ダンサー」……

なんだ、ごちゃごちゃ考えても、元とあまり変わらないですね(笑)。

そんなわけで、この「…ふたり…」は、置き場所に困る曲ではあるのです。いろいろ考えた末に、「あなたに」の次に置くことにしたのでしょう。しかし、至高のバラード「あなたに」の後続曲として無難な曲、などでは決してありません。かりに「あなたに」がなくとも、それにとって代わるくらいの名曲です。セレッソ大阪でいえば香川君に対する乾君のような立ち位置でしょう。まさにゴールデンコンビです。ワインレッドと真夜中すぎの恋?ああ、あれは東京ヴェルディのフッキとディエゴのようなもので、はじめから役割が違います。「みるものがどこか違う」です。

さてこの曲、ギター二本の複雑なアルペジオのコンビネーションで曲を盛り上げるという、フォーク時代のジャンジャカ弾きのみなさんには、到底真似のできない超絶テクニックを披露しています。

この手法はのちの「風」でも用いられますが、「風」はもうコピーのために聴きとるのが面倒になるほどのレベルに達していまして、コピーするならこの「…ふたり…」に先にトライするのがおすすめです。ほぼ全部八分ですし、二人が同じフレーズを弾いている箇所も多いですから、比較的楽にコピーできるはずです。ただ、ギタリストがコピーに四苦八苦しているようだと、リズム隊はヒマで困ってしまうでしょう。そういう曲です。

「あなたに」がほとんど歌の力だけで成り立つ曲であるとしたら、この曲は、歌の力に加えてギターの力がなければ成り立たない曲といえるでしょう。

安全地帯に限らず、バラードは歌の力が強く出がちで、聴き込みがやや不足気味な方々にも人気がありがちです。このことは、バンドマン的には演奏しててたいして面白くない曲でもあるということです。まあボーカリストには負担が増えるわけですけども。エアロスミスもクライングとかI don't wanna miss a thingとかだとスティーブンばっかり大変なんだけど、観客が聴きたがるから演奏しないわけにいかないなあ……まあ頑張ってよスティーブン、とかいう感じです(笑)。すっかり話がずれましたが、安全地帯は意外に代表曲にバラードが少ない、すくなくともボーカリスト以外がヒマになるバラードは少ないかもしれないですね。「あなたに」「Friend」くらいでしょうか。他バンドに比べて全員の活躍がバンド内で求められる率が高いのかもしれません。

さて華麗なアルペジオ・ショーに載せて、玉置さんの高音ボーカルが冴えます。女性的心理を見透かしたような松井さんの歌詞も見事です、「欲しいと思わせるもの 捜すのがとてもうまい」は、男性にとってはかなりどうでもいいことだと推察されるのですが、男性は女性にしばしばそれを求められて困惑するというシーンがありすぎるわけです(笑)。松井さんは意図的にそれを男女さかさまに書いたのではないでしょうか。男だってこういう心をもっているよ、わかっているよ君の心づかい、という、聴こえないささやきを、玉置さんの歌に忍ばせたのかもしれません。これは破壊力抜群です。

【追記】SaSaさんにお教えいただいたのですが、この詞は男女の恋物語でなく、少年二人の物語だったようなのです!くわしくは、本記事コメントをどうぞ!

安全地帯の歌詞の内容を議論する、などという機会はおそらく一生に一度あるかどうかで、おそらくないまま一生を終えるのでしょうけども(笑)、わたくしはこの歌詞の意味を誰かと話し合ってみたいと願ってきました。しかし、「議論するもんじゃないよ、感じるものだよ」とか言うスットコドッコイはご退場願います、といえるような連中には、とうとう出会えませんでした。議論しようとするわたくしがスットコドッコイなのです。仕方ありません。

圧倒的な「あなたに」の陰に隠れてしまうかと思いきや、負けじと強烈な個性を見せつける、「…ふたり…」はそんな健気な名曲といえるのではないでしょうか。

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2016年08月07日

あなたに


安全地帯II』五曲目、「あなたに」です。

これはもう……語る言葉がないくらい、至高のバラードです。

初めて聴いたときにあまりの凄さに言葉を失ってボヤッとしているうちに次の「…ふたり…」が始まり、それがまた聴き逃せない曲だと直感したがために、「あなたに」の余韻を楽しむ暇を失いました。レコードでないことを恨めしく思ったものです。まあ、CDをカセットテープに録音したり、プログラム再生すればいいだけのことですけどね。LPも買いましたが、傷つけるのがイヤで聴きませんでした(笑)。

さて、この曲、『We're ALIVE』では六土さんがピアノを弾き、矢萩さんがベースを弾いている様子を見ることができます。同時に、武沢さんがギターシンセでストリングスっぽい音を出している……んだと思うんですけど、途中から、六土さんが何やら上段?の鍵盤を弾いているらしき様子が見て取れます。暗くてよく分からないんですが、おそらく上段の鍵盤は、このストリングスっぽい音なんです。それは、武沢さんがギターソロを弾いているバックにも流れている音ですので、ギターシンセの音でないことは間違いありません。しかも、エレクトリックピアノの音は途中、完全に消えているように思われるのです。

もちろん、わたくしの耳が悪いだけかもしれませんので、ひどい勘違いをしている可能性があります。ご承知おきください。

おそらくですが、ピアノの音で始まる曲ですので、ある程度曲が盛り上がるまでピアノを弾き続け、それまで武沢さんがギターシンセでストリングスを担当したのでしょう。最後はギターソロでないといけませんので、そのときまでには六土さんがストリングスを弾くように、交代したのでしょう。

何が言いたいかというと、このころは五人だけでステージをやってますから、これ以上のことはやりようがないんですけど、スタジオ版でのギターの音が犠牲になってしまったということです。歌のバックに、アオリで入っている、うっとりするようなシャリーンとしたクリーントーンです。わたくしが「武沢トーン」と読んで、昔から再現を試みては失敗しているあの音です……。やや、つい熱くなり失礼しました(笑)。のちに川島さんがステージに立つようになり、おそらくこの事情は解消されたのでしょう。『ONE NIGHT THEATER』では、ちゃんとギターが入っています。ただこのライブ映像、ひたすら玉置さんのアップばかりで他の演奏者の様子がまったく映されていません。実にけしからんことです(笑)。さすがに武沢さんのソロの時には武沢さんが映ってたかも……と思ったら、客席の映像でした(笑)。これは、エルビス・プレスリー没後50周年ライブのDVDを、矢沢永吉さん目当てで買った人並みの落胆です。

そういや、シングルでない曲で、これほど有名な曲も珍しいのでは?というくらい、多くのミュージシャンがカバーしていますね。わたくしも、何人か聴きました。もう聴きたくないです(笑)。いやー、横山やすし・きよしの漫才を観た後に、現代のお笑い芸人たちの「コント」を見るくらいのガッカリ感です。もちろん、そもそも見ているものが違うからそうなるだけであって、実際にはみなさんそれぞれの「あなたに」を歌ってらっしゃるのでしょう。わたくしには、そこまで許容する幅広い度量がないのです。情けないことですが。玉置さん以外の「あなたに」はありえない、安全地帯以外に「あなたに」を演奏できるバンドもいない、と、もはや唯一神扱いです。この壁を超えたとき、わたくしも音楽リスナーとして一皮むけるんでしょうけど、むけなくていいです(笑)。


さて、曲の中身を(笑)

……とは言っても、「とにかく聴きましょう」以外の言葉って出てこないんですよね、こういう、好きすぎる曲の場合。

ややムリして言葉を出してみると、「松井・玉置コンビ」の、ロマンチックさ(エロやさしさ)が炸裂し、多くの人が一発でその威力に屈した、という歴史的事実を、ここに記しておくべきでしょう。

「熱い吐息が胸をほどいてゆく」とか、なんという(エロい)言葉の選び方と、歌い方!松井&玉置コンビが、(エロさの)黄金コンビであることを決定的にした、名曲中の名曲でしょう。「悲しくさせるならみつめない」とか、なんという(オトコ的な)ニクい気配り!そしてそれを歌う玉置さんの説得力といったら!どう聴いても本気です(笑)。

いや、これは、もう歌の力です。わたくし、歌以外の要素を聴き込んで新たな魅力を見つけることを喜びとするものですが、この曲は何べん聴いても歌の力が圧倒的過ぎて、もうお腹いっぱいです。

カラオケでも「あなたに」が選択できるリストに入っているんですが、とても歌う気になれないです。だいぶ昔に一度だけ「これ、誰の曲?」と驚いた顔で訊かれ、その後すぐにCDを買ったという報告を受けたことがありますが、それは安全地帯の「あなたに」を聴いたことがなかった相手だったからこそ起こったことです。

ただただ、一人で、静かな夜に、部屋でお茶でも飲みながら、CDを聴いてほしい、そんな曲です。歩きながらスマートフォンとかで聴いてしまうのは、おそろしくもったいないです。

さて、何かの参考までに記録として付け足しておくと、最初の「Tonight」を、ほんとうは日本語にしたかったんだけど、松井五郎さんが、どうしても「Tonight」以外の言葉をみつけられなくて、やむを得ずこうした、というエピソードをどこかで読んだ記憶がありますが、定かではありません。

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2016年08月06日

マスカレード


安全地帯II』四曲目、「マスカレード」です。

これは「ワインレッドの心」「真夜中すぎの恋」に続く、このアルバム三つ目のシングル曲でもあります。アルバム発売後に出ましたので、いわゆるシングルカットってやつです。

シングルのほうは……前奏が短いですね。間奏の「ハーレスカ〜マスカレード〜」のところが違うような気もします。なんだか、それだけな気もするんですが……これで十分違うのかもしれませんけど、曲の印象が変わるほどのものではないように思います。よく聴き込んだ方なら何か違いが見えるのかもしれません。こっそり教えてください。「ワインレッドの心」で一気に忙しすぎるスケジュールに巻き込まれた安全地帯が、大幅に録音しなおしするとは、ちょっと思えないんです。カップリングの「置き手紙」も隠れ名曲であることは確かなのですが、このアルバムに入るべきではない曲であることに、さしあたりの異論はないものと思われます。そもそも、このシングルはファンサービス的なものであり、かつ、アルバム(当時でもLPは2800円しました)にちょっと手の伸びない人へのサービスというか宣伝というか……そういう位置づけであったと思われます。

しかしどうでしょう、この曲の雰囲気といったら!

「ワインレッドの心」「真夜中すぎの恋」で描かれてきた男女像にピタリ! 同じ映画の、別のシーンを観ているかのような心もちにさせられます(ずいぶん切迫したシーンにはなっていますが)。作詞は井上陽水さんでなく松井五郎さんなのに!

「そして、まずはじめに、そのせつない旋律を、ぼくは選んだ」(松井五郎『Friend』より)

松井五郎さんが最初に手掛けた曲が、シングルカットされたわけです。シングルカットされるような曲だからこそ、松井さんも最初に気になっただけであるような気もするのですが、ともあれ「玉置慣れ」の最も浅い状態で作られた曲であることは確かでしょう。

なんせ、「揺れるあなたの瞳」「肩をもてあまし」の二つと「風に消されて」「闇の素顔に」の二つとで、やや節回しが違う(といっても、八分音符が入る入らないの違いだけですが)だけという、おそろしく正確な譜割です。玉置さんも、さぞ歌いやすかったことでしょう。

さて、アレンジですが、なんといっても武沢さんのギターと六土さんのベースのコンビネーションこそが聴きどころです。歌の裏で、武沢さんがキレのいい八分で拍の表を叩き、六土さんが八分と十六分のコンビネーションで表と裏の両方を叩いています。田中さんはひたすら八分で刻んでいますので、六土さんが最も細かく刻んでいて、武沢さんがそれに釣られず八分で「切り取って」いるような感覚を味わわせてくれます。おかしな言い方になりますが、正確に16等分できるように目印を付けたヨウカンを、走りながらナイフで正確にスパスパッと切って三番目、五番目、七番目だけ取って持っていくかのような……めちゃくちゃな喩えですが、そんな神業をみる思いです。いやー、スタジオ盤ならできないわけないんですが、おそろしいことに彼らはライブでもこれを完全にやってのけるんですね。

サビでは八分で刻むだけですので(これが一体感を出すんですけれども)、アレンジの変化的には一息つけるところですが、この何でもないプレイが、前奏Aメロでの切り取りショーとの変化を際立たせるという、ニクい構成になっています。これは「エイジ」ですでに使われたパターンではあるのですが、「ワインレッドの心」的なアオリのギター(矢萩さん担当)を融合させるという進化を遂げています。付記するならば、田中さんのドラムは、「エイジ」のほうがやや複雑です(田中さんほどの凄腕には、そんな意識があるはずがないくらい、「やや」ですけども)。

わたくしもこの曲、ギターとベースをコピーしましたが、バンドでキッチリ合わせる自信がありません。少なくとも、毎週かそれ以上集まれるメンバーで、それなりに時間をとってリハーサルしないとグチャグチャになるでしょう。アイアン・メイデン「Ace's High」の前奏ツインギターが合っていない学生バンド並みの惨状です。それにしても、ギターソロでなくて歌の伴奏部分を合わせるのが一番難しいという、BOOWYコピーバンドブーム以降の初心者はお断りレベルです。

……いつか、安全地帯のコピーバンドを、思う存分やってみたいものです。合うまで頑張ろうと同じくらい強く思ってくれるメンバーがあと三人と、とてつもなく歌のうまい人が一人必要ですが。

そんなわけで、この「マスカレード」は、『リメンバー・トゥ・リメンバー』時代の安全地帯が、新しい武器をいくつか得て、新しい時代に突入したことを示すシンボルのような曲でした。

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