『安全地帯III 抱きしめたい』一曲目、「yのテンション」です。
この曲は、イントロ〜Aメロのアルペジオだけでもう「勝ち」って感じです。イントロだけで名曲の予感がゾクゾク来ます。
やってることは、Dmで半音ずつずらしていくという、ごく普通のことをしているのにすぎないんですが、なぜか震えてしまいます。何なんでしょうかね、スピードとか、トーンとか、「安全地帯だからきっとやってくれるに違いない」という期待値とか、田中さんのハーフオープンなハイハットとか、いろんな要素があるんだと思います。
玉置さんの歌が始まると、まずはその抑揚を小さく感じるメロディーに、ちょっと意外な感じを受けます。松井さんの、やるせない、じれったい、どうするんだよこれ……という心情を表す歌詞が、異常なくらいマッチしています。「やるせない」「イライラする」といったような、直接的なことばを使わないでその気持ちを表現するのは、おそらく意図的にそうしているんでしょうけど、ほとんど神業です。
リチャード・マークスの「Right Here Waiting」(懐かしい!)が、これほどのラブソングなのにひとつも「love」という言葉を使っていないという解説付きで売られていましたが、松井さんの歌詞も、それに近い感覚があります。のちに「じれったい」とか「好きさ」とか、思い切り直接的なことばを使ったのも、おそらく意図的でしょう。狙っているようにしか思えません。
そしてたった四小節のBメロ、六土さんのベースで曲全体のリズムを変えて、曲はサビへと一気に突き進みます。なんというスピード感!スリル!曲は速くないんですが、展開で速さを感じさせます。
サビは、コーラスの掛け合いで一気に盛り上がりますが、気分的に盛り上がるのは焦燥感であって、心はすこしも明るくも楽しくもなりません。切なさが最高潮に達したところで、イントロのアルペジオです。心の抑揚・空回り感をそのまま曲にしたんじゃないかと思わせてくれるくらい、ボーカル・歌詞・楽器演奏が見事な緊張感で「心のテンション」とでもいえそうなものを表現してくれています。カラオケなどで歌う際には、よーく場の雰囲気を読むべきでしょう(笑)。
アルバムのクレジットには、キティの伊豆スタジオで1984年の9月から11月にかけて録音・編集されたとあります。曲作りの期間というのも当然あったでしょうから、メンバーはそれ以前から伊豆にいたのでしょう。松井さんの『Friend』には、「夏に近づいていた」ときに合宿スタジオから北の高原(おそらく軽井沢)に行った、という記述がありますので、初夏にはもう曲作り合宿に入っていたのでしょう。その合宿で、玉置さんと松井さんは同室だったそうなのです。もしこれによって生まれた二人の相互理解が、こういう緊張感を生み出したのかもしれませんね。同書によれば、この歌詞は、思うように歌えない玉置さんが感情移入しやすいように歌いやすいようにと、松井さんがレコーディング期間中に書き直したものなのだそうです。なんという…なんというゴールデンコンビでしょうか。もう、聴かせていただいて楽しませていただく側からすれば、ありがとうございます、二人の天才に乾杯、なんて喜ぶべきところなんですが、この曲はそうした嬉しささえも許さないほどの迫力があります。ジューダス・プリーストが「Painkiller」のレコーディングが終わったときに、ハイタッチして喜んだとはとても思えないのと同様です。いや、ふつうに喜んだと思うんですけど、曲を聴くととてもそんな想像ができないくらいシリアスさに圧倒されるということです。
さて、このアルバムではストリングスアレンジに星勝さんがクレジットされていますが、ストリングスを誰かが演奏したというクレジットがありません。ほんとにありませんので、誰かがクレジットなしの仕事をしたか、メンバーが演奏したかです。これは、おそらくメンバーが演奏したのでしょう。このアルバムは、どのメンバーがどの楽器を担当したかも書かれていませんので、想像するしかないんですが、キーボードシンセは六土さん、ギターシンセは武沢さん、といういつもの布陣で臨んだことと思われます。ですから、この曲(yのテンション)における、ソロやアオリに用いられたサックス的な音色は、武沢さんのギターシンセでしょうね。前作ではギターシンセにローランド(富士ローランド?)の名前がクレジットされていたんですけど、それはレコーディングにあたって機材の提供を受けたということかもしれません。すると、このアルバムからは自前のギターシンセを入手されたのでは……下世話なうえにどうでもいい話ですが(笑)。
『ENDLESS』ライブ盤では、ギターソロが甘いオーバードライブの音で弾かれています。おそらく、武沢さんが弾いたんだと思うんですけど……シングルコイルっぽい音ですし……思うんですけど、エンディングのソロはハムバッキングっぽい音で、矢萩さんな感じなんですよ……。わたくしの耳はよいほうではないと思いますので、完全な戯言なんですが、この曲は間奏のソロを武沢さん、エンディングのソロを矢萩さんが担当したように聴こえてしまいます。別に何も不思議はないんですけど、何か釈然としないものを感じます。アルペジオのフレーズが一緒ですので、わたくしこれを矢萩さんが弾いていると思っていましたが、エンディングだけパートを交換した?いやいやいや、そんな不自然なことをあえてやるとは思えません。歌の最後が「No No Nooooooooooo」とやけに伸びているのは、歌の凄さを客に披露するためではなく、もしかして武沢さんがギターを取り換える時間を稼いでいた? いやいやいや、それはもっと不自然な気がする!武沢さんのギターには、当時からシングルコイル→ハムバッキングのタップスイッチが付いていて、それを切り替えた?なんでわざわざそんなことを?音量を大きくして盛り上げるためだったらペダルでいいし……。
わたくしの聴き取りがヘボなだけという可能性が一番高い気がします。悔しながら……。これは、ちょっとわかりません。映像で確認しようと思ったんですが、いま手元の『ONE NIGHT THEATER』のDVDにちょっと問題がありまして、確認できません。記憶では、ライブ映像ではなくて玉置さんがオープンカーを走らせている映像だったような気がしますので、知りたいことがわかるかどうかは何とも言えませんが。
【追記】うえの段落では、確認もせずにデマを書いておりました!オープンカーではありませんね(サンルーフはありますけども)。しかもライブの映像のほうが多かったです。ソロは間奏も終奏も矢萩さんが弾いていますね。たんにわたくしの耳が悪いだけでした。とんだ赤っ恥!
そんなわけで、一曲目からわたくしの文章は情けないことこの上ない状態になってしまいましたが、曲はとってもオススメの名曲です!
価格:1,545円 |
youtube!それは朗報!しかしすっかり自信を失っているので(笑)、念には念を入れてDVDのほうも観てからにする所存であります。
でもって、玉置さん一人で運転してると思っていたのですが、隣に女性が乗っているのですか……むむむ…
確認しなきゃ〜〜(笑)
始めにオープンカー(正確にはオープンカーでないような…)の映像が確かに入ってます。
玉置さんが運転してる映像。
(ちょっと『シャイニング』とか『ブレードランナー』みたいな)
でも、演奏もちゃんと入っています♪
これのことですね。
全部、車で走っている映像とと思われたのですね。
おお、LPだと、失われがちですよね……わたしももう一枚もありません。切り替え当時は金返せと思いながらCDで買い直してましたが、だいたい満足できるまで数年かかりました。昔の3000円って高かったですね。
ご友人の反応は、しごく全うというか、ごく自然というか、残念ではありますが無理もありません。どうぞ、当ブログをお楽しみください!(営業的トーク(笑))
ひとつ質問です。最初のお返事にあった『ただ映像が演奏でなかった』とはどういう意味でしょうか?
先日、友達と飲んでいて『仕事でストレス溜まった時、どうしてるの?』と聞かれ、あまり詳しくは言いませんでしたが、チラっと話したら
「今ごろ?」
まあ、当然な反応ですわね(笑)
サイモン&ガーファンクルのレコードは結婚する時に友達にあげちゃいました。
持っておけば良かった〜
玉置さんの歌以外に注目して聴く向きは、わたくしの知る限り2000年近辺にネットで散見されるようになってきたのですが、おそらく、そのような方が全国規模ならそれなりの数がいたものと思われます。そうした方々のうち一部がネットで発信をされるようになって、同志とでもいうべき人々の存在を知ることができるようになりました。あれはうれしかったものです。それまで、一人ぼっちだと思っていたのですから。
安全地帯は、才能もあり、若くして十分な技量をもった稀有なバンドでした。いまは当時と比べて若くはないですが、もちろん稀有なバンドであり、進化し続けている音楽集団です。ぜひこれからも、そのような聴きかたをして、人生を豊かに楽しんでまいりましょう!
「アメリカ」とか「冬の散歩道」とか!どちらも『グレーテストヒッツ』や『ブックエンドのテーマ』に収められた名曲ですね。これも別ブログを作りたくなるくらい聴き込んだものです。お好きだったと聴いて、わたくし勇気が湧いてまいりました(笑)。
ちなみに、サイモン&ガーファンクルは、もともと数枚しかオリジナルアルバムを出していませんので、もしかしてお持ちの数枚だけでもコンプリートなさっているかもしれませんよ。
こんな感動を友達に話しても分かって貰えない。(分かって貰えなくてもいいのだけど)
あの時代、自分の息子より若い人達がこんな凄い音楽を創っていたなんて、とても感動的なことなのに!
あ、私もサイモン&ガーファンクルの「アメリカ」のレコード、買いましたよ。
大昔のことですが、数枚持ってました。
一番好きだったのは「冬の散歩道」だったかなぁ。
『ONE NIGHT THEATER』の「yのテンション」とは、またお目が高い!あの当時の安全地帯劇場とでも呼ぶべきストーリーを象徴するような曲、そして迫真の演奏だとわたくしも思います。ただ映像が演奏でなかったのがさみしい限りですが。
パチニ小体!皮膚に!それはさぞかしたまらないことでしょう。体の表面からビシビシ快感が浸透してくるわけですから。うーん、玉置さんの歌以外でこれほどの浸透力を持つものをわたくしは知りませんので(しいていえばアートガーファンクルくらいでしょうか)、その仮説はもしかして当を得ているのかもわかりませんね。
いやーしかし、安全地帯は無敵艦隊ですね。史実スペインのそれでなくて、実際に無敵です。演奏がうまいバンドはいくらでもあるんですが、あの歌と歌詞はありません。「好みの違い」とかで片付けてほしくない、圧倒的レベルの高さがあります。いまの若い人にこれを理解しろというのは、『りぼん』『なかよし』もろくに読めない幼稚園児に『別冊マーガレット』を読ませるくらい無茶なのでしょう。これはリスナーのレベルを、ミュージシャンのレベルが不釣り合いなくらい上回っていた時代の産物なのでしょうね。
『Yのテンション』、大好き! 死ぬほど好き(笑)
『ONE NIGHT THEATER』を観た時、最初はさらっと流してしまったけど、じっくり聴くと嵌ってしまいました。イントロからもうたまりません。最初の玉置さんの低音がとても魅力的ですね。
恋が音を立てて壊れていく様が目に見える。鋭い言葉と描写、破滅に向かうかの様なギターの音色。本当に天才集団だ。
先日探し出したサイトに書いてあったこと、かなり当たっています。
女性の皮膚には「パチニ小体」という感覚器官があり(男性にもあるが、女性の方が多いらしい)、男性の低い声を「快感」と捉えるそうです。
200ヘルツの声が一番らしいけど、きっと玉置さん、そうなんでしょね(笑)。
しかもあの表情、松井さんの詩、メンバーの演奏、もう無敵艦隊ですやん!(あ、関西在住です)
聴く曲、聴く曲全部大好きになっちゃって困ります(笑)。