目は口ほどに物を言う、という言葉があるように、人は他者の目や表情から非常に多くの情報を読み取っている。
相手が喜んでいるのか、楽しんでいるのか、あるいは怒っているのかなど、誰かとかかわる中で、その表情の変化を読み取ることはコミュニケーションを円滑にする欠かせない要素である。特に、遠慮がちで思いを言葉にしにくい日本人にとって、相手の表情から感情を読み取る力は大きな武器である。
カリフォルニア大学バークレー校で行われたある実験では、この他者の表情を見分ける能力が睡眠不足によって鈍くなる、という結果を明らかになった。
□表情を見分ける実験
カリフォルニア大学のGoldstein-Piekarski氏らは、睡眠不足のときとそうでないときで他者の表情を見たときの脳活動の違いと心拍数の変化を調査している。
Goldstein-Piekarski氏らは、この実験のために集められた18人に対して、十分な睡眠をとった直後と、一晩中起きていた後とで、70種類ものバリエーションの表情を見せた。
その表情は親しみやすい笑顔から、威嚇するような怒った顔までさまざまである。
□睡眠不足による脳活動の違い 寝不足で表情を区別できなくなる
さまざまな表情を見ているときの脳活動をファンクショナルMRI(fMRI)で観察したところ、睡眠不足の時の脳活動に決定的な違いが見られた。それが、人の情動機能に関する部分である前頭、前帯状皮質、扁桃体である。
つまり、睡眠不足の脳では、笑顔や怒った顔などそれぞれの表情の違いを区別しきれていなかったのである。
これは、心拍数変動においても同様であり、十分な睡眠後は怒った顔に対して心拍数上昇がみとめられたのに対し、睡眠不足の状態では明らかな変化を示さなかった。
□睡眠不足で表情の見分けがつかなくなると…
他者の表情から何かを読み取る能力というのは、普段の生活においては欠かせないものである。例えば、満足に言葉で伝えることができない子どもが痛みや不快感を覚えているとき、親はそれを鋭敏に感じとってあげることが求められる。
また、他者の表情を読み取れなければ、自分に敵意を持っている人が近づいてきても分からないし、怒っている人をさらに怒らせてしまうことにもなりかねない。
表情を読み取るということは、自分が人と関わっていく中で大変重要な要素である、と研究チームの一人であるWalker氏も言う。「怒らせるつもりはなかったのにいつも上司や恋人を怒らせてしまう」…こんな人がいたら、睡眠不足を疑ってみても良いかもしれない。