今年9月、国連は世界の9人に1人が飢えに苦しんでいると発表した。人口にして日本のおよそ7倍、世界的な食料不足を解消するには栄養価が高く安定した収穫が見込める食べ物が必要で、注目を集めているのが理科の教科書でおなじみのミドリムシだ。
植物でありながら自分で動き回るミドリムシは、水と光と二酸化炭素があれば、ビタミンやミネラルをはじめ豊富な栄養分を作り出す。現在は健康食品が登場したばかりだが、量産できるようになれば世界を救う「食料」になる可能性を秘めているのだ。
■余っているのに「食料不足」?
WFP(国連世界食糧計画)が推奨する1日の摂取カロリーが2,100kcalなのに対し、FAO(国連食糧農業機関)の資料では世界の平均摂取カロリーは2,868kcalと、700kcalほど多い。つまり、地球全体では食べ物が余っている計算となる。
ところが2011年の摂取カロリー、外務省の危険情報を比較すると、
・日本 … 2,719kcal
・アメリカ … 2,809kcal … 危険情報なし
・ハイチ … 2,105kcal … 渡航延期勧告
・ザンビア … 1,937kcal … 渡航の是非検討
・ソマリア … 1,696kcal … 退避勧告
で、気候や天災によって上下することもあるが、政治情勢も大きく関わってくる。情勢が不安定で危険な地域ほど、摂取カロリーが減るのだ。
食料不足のもう一つの要因は人口増加だ。およそ0.83億人/年のペースで増えており、2050年には100億人を突破すると予測されている。現在の1.4倍ほどになるので、食料事情はさらにきびしくなる。カロリーベースの食料自給率が40%未満の日本も同様に、食料を増やす方法を見つけない限り、栄養不足に陥る可能性が高いのだ。
この状況を打破できるのは、理科の教科書でもおなじみのミドリムシだ。ミドリムシは藻(も)の仲間で、体長0.1ミリほどの単細胞生物である。ミドリの名の通り葉緑体を持っているので、自分で養分を作り出すことができる「植物」だが、鞭毛(べんもう)という組織を動かして泳ぎ回るので「ムシ」と表現される不思議な生き物だ。
■ミドリムシは栄養の宝庫
このように紹介すると「マジ?食べるの?」と思われるかもしれないが、固い細胞壁を持たず栄養も豊富なミドリムシは、食料に最適な存在なのだ。
ミドリムシに含まれる栄養素はじつに60種類近くもあり、例をあげると、
・ビタミン … ビタミンB、C、D、E
・ミネラル … マンガン、鉄、亜鉛
・アミノ酸 … アスパラギン酸、グルタミン酸
・不飽和脂肪酸 … DHA、オレイン酸、リノール酸
など、健康食品やサプリで見かける成分が数多く含まれている。さらに植物でありながらも固い細胞壁を持たないため、90%以上の高い消化率を誇る。ミドリムシには少々気の毒だが、食品になるために生まれてきた存在と言えるのだ。
今までミドリムシが話題にならなかったのはなぜか? 食品として最適なのはわかっていたが、大量生産できなかったからだ。
人間の食料としても理想的なミドリムシは、ほかの生物にとっても同様で、「とてもおいしい」が災いし、培養中に食べられてしまう。そのため菌や微生物をシャットアウトするクリーン・ルームが用いられていたが、生産量も少なくコストが跳ね上がってしまう。
そこで現在は、ミドリムシ以外は生息できない環境を作り出し、量産できるようになったのだ。
基本的には植物なので、水と二酸化炭素を与え、光を照らせば培養できるため、CO2削減にも寄与できる。通常の水の350倍まで二酸化炭素濃度を上げると、収穫量が30〜40倍も増えるとのデータもあるので、工場に隣接した「ミドリムシ菜園」が登場する日もそう遠くないだろう。
・世界の9人に1人が、食料不足に悩まされている
・2050年には、世界人口が100億人を超えると予想され、さらなる食料不足は必至
・自分で泳ぎ回る植物・ミドリムシは、栄養豊富
・二酸化炭素も減らせるので一石二鳥