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2021年02月14日
非常事態宣言の終わり(二月十一日)
去年の秋に再度宣言が出されてから、いつ終わるともなく延長が繰り返されてきた非常事態宣言がようやく今度の週末に終了することが決まった。これは感染状況が改善したことが理由での解除ではなく、下院の審議で、政府の提案した非常事態宣言の延長案が事前の予想通り否決されたことによる。これまでは、政府与党に加えて、共産党が多少の政治的な要求を飲ませるのと引き換えに賛成に周ることで延長されてきたのだが、共産党までが支持を拒否したのである。その結果、下院に過半数を持たない政府の延長案は否決され、現在の非常事態宣言の期限が切れると同時に、解除ということになった。
ただし、これが野党側が非常事態宣言を不要だと考えていたということにはならない。不要だと主張しているのはオカムラ党だけで、ほかの野党は非常事態宣言の有用性は認めつつ政府の行っている対策では効果が出ていないから、自分たちの立てた対策を取り入れるように求めていた。当然、政府にとって都合の悪い部分のある野党側の提案を政府が議論の俎上に上げるわけがなく、話し合いは話し合いにならず、非常事態宣言の延長は否決された。野党に所属する各地方の知事からも非常事態宣言の継続を求める声が上がっていたのだが、中央での政局が優先されて、与党も野党も妥協に走らなかったのである。
政府は非常事態宣言が解除されると、あれもこれもできなくなると主張しているのに対して、野党側は逆に非常事態宣言がなくても、あれもこれも既存の法律に基づいて規制できると主張していたから、解除されても完全に規制がなくなるということはないようだが、全国的な一律の規制は難しくなり、どの規制が継続し、どの規制が解除されるのか判然とせず、解除後に地方単位で出される規制もありそうだから、混乱を極めるに違いない。
それでも、あえて言うと、オカムラ党の主張に賛同したくはないのだが、ここで非常事態宣言が解除されるのは悪いことではない。チェコの政治家は、春にはチェコ人の間に存在したモラルが消えてしまった結果、規制を守らない人が増えていると主張して、守らない人を批判しているが、その原因が政府にあることは無視している。何よりも、どうなれば規制が解除されるのか、非常事態宣言が解除されるのか基準がまったく示されなかったのが最悪である。
いや、犬システムが導入された当初はよかったのだ。この数字がよくなれば規制が緩和されるという目標があったのだから。それがクリスマス商戦に向けて規制を緩和して営業の再開を許可した後、数字が悪化し始めてからも規制の強化を先送りしたあたりから、おかしくなった。その反動のように、数字が改善されても規制の緩和は行われず、何をしてもしなくても規制は変わらないという絶望感を人々に与え、規制を無視する人が増えたのである。
去年の春は危険を声高に訴えて規制を守ることを主張していた知人が、規制の例外となっている出張と称して家族旅行に出かけて観光地のペンションに宿泊していたのがその辺の事情を如実に物語っている。そういう人が増えた結果、宿泊施設側が宿泊客に出張である証明書をもとめる義務が追加されることになった。
正直な話、非常事態宣言があろうがなかろうが、規制があろうがなかろうが、守る人は守るし、守らない人は守らないのが今のチェコの現状である。自分で守れる範囲で守っている人が多いという方が適切か。だから、非常事態宣言が解除されて、一部の規制が解除されたとしても、人々の行動には大きな変化は出ず、政府が主張するような感染の爆発的な拡大にはつながらないだろう。レストランやお店が営業再開したとしても、客が押し寄せるなんてことにはならないだろうし。
非常事態宣言が解除されることで変わるのは、行動よりも精神的なもので、これまでの先が見えない閉塞感や圧迫感が多少は消えて、例年と比べて大きく増えているらしい家庭内暴力も減るのではないかと思う。この辺の規制強化による悪影響というのは、日本と同様チェコでもあまり大声では話題にされないのだが、さすがにデータが漏れてくるようになった。
命や健康が一番大切というのはその通りだとしても、規制によって失われる命や健康があることも忘れてはなるまい。病気で死者が増えるのと、家庭内暴力や経済的困窮から自殺者が増えるのと、どちらが政府の責任が大きいかと言えば、後者だと思うのだけど、話題性に欠けるのか取り上げられることは少ない。
非常事態宣言が解除されても、これまでの自分の生活を変えるつもりはないけれども、気分は楽になるだろうから、ちょっとだけ健康にはなれそうである。
2021年2月12日23時。
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2021年02月13日
五格の使い方(二月十日)
チェコ語の名詞、形容詞には7つの格があるわけだが、その中で最も使う機会が少なく、覚えていなくても問題ないものと言えば五格、言語学の専門用語的に言えば呼格である。文字通り呼びかけのときに使う格なのだが、1格で代用しても問題ないし、中性名詞や、複数形の場合には1格と共通の形をとるから、どちらを使っているのか気にする必要もない。
チェコ語に一番似ているとされるスロバキア語には存在しない格だし、ポーランドやロシアなどの伝統的なスラブ語学の世界では、呼格は、五番目ではなく最後の七番目に置くことになっているらしい。使う機会が一番少ないから最後に持って行くというのはわからなくはない。ではチェコ語ではなぜ5番目なのかというと、明確な答えは返ってこない。これが伝統的なチェコ語の考え方であるらしい。
とはいえ、まったく使わないというわけではないので、五格を使う際に絶対に覚えておくべきことは二つ。子音で終わる男性名詞の場合には、原則として語尾に「e」をつけることと、男性名詞であれ女性名詞であれ「a」で終わる名詞の五格の語尾は「o」になることぐらいである。軟子音で終わる男性名詞の中には、「i」が出てくるものもあるし、「k」で終わるものは語尾に「u」を付けるなんて例外もあるけれども、間違えても仕方がないし、慣れれば何となく使えるようになる。
この五格がもっとも頻繁に使われるのは、実は人を呼ぶときではなく、「牛(vůl)」の五格である。以前「牛の話」に書いたように、意味のない間投詞的に、特に若い人たちの話し言葉の中に頻繁に登場するし、驚きを表すときには、人称代名詞のと組み合わせて「ty vole」という形で使われる。
ほかにも怒りや驚きを表す感動詞的な言葉は、五格で使われることが多く、「ty Brďo(Brďaが何を指すかは知らない)」や、「Kristova noho(キリストの足)」、「pane Bože(神よ)」なんてのもよく使われる。ただし、この手の表現で最もよく使われる「Ježíš Mária」は、五格にはしない。しかし、これにイエス、マリアと来ればということで、ヨゼフを付け加えると、「Ježíš Mária Josefe」とヨゼフだけ五格になるのである。もちろん、五格にしないこの手のののしりの言葉は他にもあるのだけど、こういうところに書くのにふさわしい言葉ではないので省略する。
さて、最近のチェコ語では、本来の五格とは違う呼びかけの形が使われている。特に女性の二音節からなる「a」で終わる名前によく見られるのだが、呼びかけの際に「o」ではなく、「i」(「y」かもしれないない)で終わる形を使うことが増えているのである。例えば「Jana」呼ぶときに、「Jano」ではなく、「Jani」と呼ぶのである。ちょっと長い名前でも、「Tereza」が「Teri」と呼ばれるのを聞いたことがある。
師匠に質問したら、あだ名とも言える指小形を短縮したものだという答が返ってきた。つまり「Jana」なら、「Janička」の最初の部分だけを呼びかけに使っていると解釈するらしい。それは「maminka」を「mami」と呼んだり、「babička」を「babi」と呼んだりするのにつながるという。男性名詞でも「tatínek」を「tati」と呼ぶから、指小形の短縮形と考えるのも間違いではなさそうだけど、ここは、女性名詞に新たな五格の形が生まれつつあるといいたくなるなあ。すべての女性の名前に適用できるのかどうかはわからないのだけど。
短いけれども、五格に関してたれられる薀蓄はこの程度しかないのである。
2021年2月11日23時。
タグ:五格
2021年02月12日
監督交代2本題(二月九日)
昨日のハンドボールの代表監督の話は、これから書く話の枕のつもりで書き始めたのが、例によって長くなってしまって独立させることにしたものである。ハンドボール代表の新しい監督が決まったのは一月末のことだから、それから数日後に、サッカーのスパルタ・プラハでも監督交代が行われ、週末にその新監督の指揮の下で、最初の試合がオロモウツで行われたという話を書きたかったのである。
去年も二月になって監督のイーレクを解任して、コタルを就任させたスパルタだが、今年も年明けのリーグ再開後からチームの状態が上がらないのに不満を抱いたフロントが、監督交代を決断した。昨シーズンのコタル就任後も、今シーズンの開幕直後もスパルタは好調で、勝ち点を積み重ねていたのだが、ヨーロッパリーグでは相手が悪いのと審判に恵まれなかったのとで、セルティック相手に二勝しただけで敗退し、チェコリーグでもスパルタの至宝とまで呼ばれた若きエースのフロジェクが負傷して欠場するようになって以来、勝ち点を失うことが増え、内容的にも低調な試合が増えていたようだ。
それで、コタルの後任として、就任することになったのは以前から何度も交渉を重ねていながら合意に達することのなかった元代表監督のパベル・ブルバである。ブルバはプルゼニュをチェコ最強チームにそだてた後、2016年のヨーロッパ選手権に向けて代表監督に就任。予選は突破したものの本戦では結果を残せず、協会側は継続を求めたものの辞任して、ロシアのマハチカラの監督に就任した。
ロシアリーグでどうだったのかはよくわからないのだが、一年持たずに解任されていた。このときチームのオーナーが約束した補強をせず、結果を残せなかったなんて話も聞こえてきた。その後、何人かの監督が結果を残せなかったプルゼニュに復帰したのだが、選手の高齢化などもあって、以前ほどの成功は納められなかった。監督、選手、どちらにもマンネリ感が出始めたのがよくなかったなんて話も読んだ記憶がある。
それで、ほぼ1年前にブルガリアのレドゴレツに招聘される形で監督に就任し、プルゼニュは以前スパルタの監督候補に挙がっていたスロバキア人のグリャが監督を務めることになった。ブルガリアでは最初は悪くなかったようなのだが、今シーズンのチャンピオンズリーグだったか、ヨーロッパリーグの予選だかで敗退したことで、オーナーが解任を決め、以後フリーになっていたのである。
スパルタは、ブルバがフリーになるたびに、いやどこぞで監督を務めていた時期にも声をかけていたようだが、いろいろな事情があって契約には至っていなかった。それがようやく何度目かの正直で監督就任に合意したわけである。むしろ、ブルバと合意に達したから、コタル解任を決めたような印象もある。もちろんチーム状態がよければ、監督解任なんてことにはならないのだろうけど。今回も、ブルバはバニークからも声がかかっていたらしいから、チームが不調に陥るタイミングが悪かったら、スパルタ監督就任が実現していなかった可能性もあるのである。
そのブルバ監督の就任が発表されたのが先週の半ばで、週末にはオロモウツでの試合だったから、ほんの二、三日でブルバ流のチームが出来上がるわけもなく、オロモウツでの試合も最初はこれまでのスパルタと同じで、あまりいいところがなかったらしい。前半はオロモウツが1−0でリードして終了。後半も信じられないような守備のミスから失点。キーパーが前線に出したパス一本でシュートまで持ち込まれて失点するなんてスパルタとしてはありえないなんてOBがテレビで批判していた。イーレク就任以来の守備のミス乱発はあれから1年半以上たっても改善されていないのである。
改善されたのは、恐らくハーフタイムにブルバによって活を入れられ選手が交替した攻撃で、2本のPKにも助けられて逆転に成功した。シグマが2点差をつけた時点で、必要以上に守りに入ったのが悪いと批判する解説者もいた。実はシグマも2−2の同点の時点でPKをもらって再度リードするチャンスはあったのだが、見事に失敗。あそこで決めていれば勝てていただろうに、残念である。
実はスパルタの1本目のPKはビデオ審判の介入でPKになったもので、解説者の中には何でこれがPKになるのか理解できないという人もいた。実際、映像を見ても攻撃側のファウルにしか見えなかったのだけど、ビデオ審判は何を見たのだろう。主審もビデオを見てPKの笛を吹いたわけだけど。一体に、ビデオ審判の導入で、判定が目に見えて改善したのはオフサイドの判定ぐらいで(これも微妙なものはあるけど)、それ以外は、大騒ぎした割には大差ないような気がする。
PKになるような反則でも、見逃しは減ったかもしれないけど、その分、それPKにするのは無理があるだろうと言いたくなるような微妙なPKが増えているような気がするし、退場モノのファウルを見逃すことも多いし、主審が明らかな誤審をしてしまったときと同様、ビデオ審判の誤審にも処罰が必要なんじゃないかという解説者の意見には賛成するしかない。主審の誤審の原因がビデオ審判にあることも多いわけだしさ。
とまれ、ブルバがこれから神通力を発揮してスパルタを、昔の強いスパルタに戻せるのかどうか注目である。スパルタの一番の問題は、監督の替え過ぎだと思うのだけどね。ブルバもプルゼニュで時間をかけてチームを作り上げたわけだし、オーナーが待てるかどうかが一番の問題である。
2021年2月10日23時30分。
2021年02月11日
監督交代(二月八日)
エジプトで行われた世界選手権に出場できなかった責任を問われて二人の監督クベシュとフィリップが解任されたハンドボールの男子代表だが、後任が決まったようである。どこかで見たことがあるような顔だと思ったが、以前も代表監督を務めたことがある人物だった。2000年代の初め、クベシュやフィリップが代表で活躍していたころの監督である。あの頃は黒かった髪や髭が真っ白になっていて時代の流れを感じさせる。
名前を書いても誰も知らないだろうけど、ラスティスラフ・トルティーク。ドイツリーグで二部のチームを率いて一部に昇格させたりはしているから、ドイツハンドのマニアなら聞いたことがあるという人もいるかもしれない。もともとは、1990年代後半にチェコ最強を誇り、ヨーロッパのチャンピオンズリーグでも頑張っていたカルビナーの監督を務めていた。その後、フリーデク・ミーステクに移って、チームを優勝に導いたのである。
2004年から2年代表の監督を務めたのだが、同時期にドイツの二部のチームの監督に就任している。2007年にカルビナーに戻ってきてまたチェコリーグで優勝させた後は、スロバキアやポーランドで監督を務め、2020年からはチェコのハンドボール協会のモラビアシレジア地方担当の監督を務めているらしい。これは若い才能を発見するために各地に設置されたハンドボールのアカデミーみたいな施設で若い選手だけではなく、コーチ、監督なども指導する役割と考えてもいいのかな。
代表の監督としては、2004年のヨーロッパ選手権、2005年の世界選手権と、担当した予選をどちらも勝ち抜いて本戦に進出している。本戦でもグループステージ全敗ではなかったようだから、過去の代表監督の中では成功を収めた監督である。協会が政治に走らず、現時点で最高の人材を選んだことは素直に高く評価しておこう。専業のハンドボールの監督というのは、実はあまり多くないようだから、他に引き受けられそうな人がいなかったという可能性はあるけど。
トルティークが以前監督を務めていた頃と比べると、平均的な選手層は厚くなっているかもしれないけれども、ヨーロッパのトップリーグで主力として活躍する選手は減っている。クベシュたちが鍛え上げた代表候補をどこまで生かせるかお手並み拝見というところである。幸いなことに、これまでの代表選手のほとんどは、代表活動を継続したいと考えているようだし、ガリアが選手とコーチを兼任することになっているから、戦力の低下はなさそうだ。
トルティークの契約は、とりあえず来年のヨーロッパ選手権に向けた予選限定だという。一月の試合が中止になったフェロー諸島、ロシア、ウクライナと同組で、上位二位に入ればいいんだったか、三位でも出場の可能性があるんだったか。世界選手権もそうだけど、ヨーロッパ選手権も出場国の数を増やす傾向にあって、本戦出場へのハードルは以前に比べると下がっている。ロシアには勝てそうもないし、ウクライナとは前回の予選で1勝1敗だったと記憶するから(2勝だったとしても接戦だったのは間違いない)、簡単に勝ち抜けとはいきそうもない。
おまけに、1月に予定されていたフェロー諸島との試合は開催ででておらず、代替の開催日も目処が立っていない。このまま感染状況が改善しなければ、この二試合が没収試合扱いにされて、開催できなかった原因を作ったチェコの不戦敗扱いになる可能性も残っている。ロシアもウクライナも、この手の感染症対策ではあんまり信用したくない国だし、これ以上選手たちから感染者が出ないことを祈るしかない。
そういえば、来週サッカーのヨーロッパリーグの試合で、イングランドのチームがチェコに来るのだが、入国して試合をしてもいいという許可はでたものの、チェコ国内での滞在時間が24時間に制限されるという話もある。なんともまあ、困ったものである。
2021年2月9日23時30分。
2021年02月10日
冗談だろ(二月七日)
チェコでは感染状況が改善しないということで、犬システムによる危険度判定ではレベル4であるにも関わらず、規制はレベル5の状態が続いている。つまり、旅行など以ての外で、ホテルなどの宿泊施設を利用できるのは、仕事で出張の場合だけである。当然、国外に出るのも原則禁止で、仕事で出る場合のみ特別に許可されることになる。
それなのに、バビシュ首相の夫人が飛行機に乗って中東にバカンスに出かけたというから開いた口が塞がらない。秋には非常事態宣言が再度出された直後ぐらいにANOの副党首のファルティーネク氏が、プリムラ氏のスキャンダルを引き起こした責任から逃れるために、カナリア諸島だったかに出かけていたけれども、政治家とその家族が自ら規制を守らないのだから、一般の人々が守ってられるかと怒るのも当然である。
ハブリーチェク大臣と言えば、遅れてバビシュ内閣に参画したにもかかわらず、産業省、交通省という二つの重要な省の大臣を務めているわけだが、バビシュ首相の仕事の効率ではなく、時間による評価によれば最も有能な大臣ということになる。何でも毎日早朝から深夜まで働き続けているのだとか。それでかどうかは知らんけど、スーパー大臣とか、マルチ大臣とか揶揄されている。文部大臣が学校での授業の再開のためにあれこれ厚生省と交渉しているのに対して、営業の再開を口にするけれども、そのために何をしているのかはさっぱりわからない。
そのスーパーマルチ大臣が、SNSで犬の散歩をしている写真を公開したらしい。それが雪の積もった山で撮影されたもので、大臣の住居からは100km以上も離れたところだという。散歩ってのはそんな遠くまで出かけることを言うのか。政府はクルコノシェなどの山に出かける人が多いのが、流行の拡大をもたらしているとして、移動は自分の住む地方内に限るという規制の導入をしようとしているのに大臣がこんなことをしていたら、守ろうとする人はいまい。
もう一人のバビシュ内閣の名物大臣、シレロバー財務大臣は自分で車を運転してプラハのスーパーマーケットの視察を行ったらしい。目的はFFP2にカテゴリーされるマスクの販売価格を確認すること。感染の拡大が止まらない中、厚生省では手作りのマスクよりもFFP2のマスクを着用することを推奨し始めており、文部省でも卒業学年の学校復帰にかんして、FFP2のマスク着用を義務づけることで厚生省側と交渉しているようである。
ただ、品薄ではなくなり、以前ほどではないとはいえ、このマスク、値段はそれなりに高い。この値段で義務付けられたらたまらないという批判の声が上がっていた。それに対して政府は、このマスクに関しただけ消費税を取らないという決定を下した。つまり、業者や販売店が値下げをしなくても、消費税の分、約20パーセントは販売価格が下がるはずである。
財務大臣がチェックして回っていたのは、この消費税分の値下げ、別な言い方をするなら、FFP2のマスクの税抜き価格での販売が実際になされているかどうからしい。以前の価格で販売されていたら脱税みたいなものだし、チェコ人ならしれっとやりそうだから、チェックが必要だというのはわからなくはないのだが、大臣自ら車を運転してやるべきことなのかねえ。しかもシートベルをしていないのを指摘されたらしいし。
マスクを1、2枚配るよりも、供給を安定させて販売価格を下げさせるほうがはるかにましであろう。ただし、これをチェコ政府素晴らしいなどと称賛したのでは、正しくチェコを理解したとは言えない。ここはアグロフェルト社がマスクの生産に乗り出したのかとか、中国にぼったくり価格で売りつけられたマスクが余っているのかななどと疑わなければならない。この疑いの真偽はすぐにはわからないだろうけどさ。
ここにあげたのは、政権関係者の行状だけれども、野党の政治家の中にも同じようなことをしている人はいるに違いない。ただ、ユレチカ氏とかカロウセク氏のような大物ならともかく、無名の議員じゃあニュースにならないからなあ。
2021年2月8日23時
タグ:コロナウイルス
2021年02月09日
買い物のついでに(二月六日)
久しぶりに入ったシャントフカは、秋の規制が一番厳しかった時期とは違って、立ち入り禁止ゾーンは設けられていなかったが、営業禁止令に引っかかって営業していない店が多かった。一時はネット上で購入した商品の受け取り窓口としては機能している店舗も結構あったのだが、今回はピエトロ・フィリッピも含めて、窓口営業さえもしていない完全閉鎖の店が増えているような印象をもっった。
ピエトロ・フィリッピに関しては、一月初めに、資金切れで従業員に対して給料が出せないから雇用契約破棄の手続きをするように指示を出したというニュースがあった。春の規制が厳しかった時期にはオーナーがしばしばニュースに登場して、窮状を述べていたけど売り上げのない状態での家賃負担が限界にきたということだろうか。家賃の高そうな各地のショッピングセンターに出店していたし、規模の割りに店の数が多すぎるという印象もあったしなあ。
これで、OPプロスチェヨフに続いて、ひいきにしてワードロープの中心にすえたお店が消えることになりそうだ。おっちゃんの店は今のところ営業をやめるなんて表示は出ていないけど、もともとアウトドアスポーツのブランドが中心の店だから、フォーマルよりのものはほとんどないんだよなあ。一番いいのは、ピエトロ・フィリッピが立ち直って、オンラインショップだけでも復活してくれることだけど、どうなるんだろう。
外出を控える人が増えて、服の需要自体が減っているから、衣料品店はどこも大変なのだろう。そう言えば、ピエトロ・フィリッピでは。ホームオフィス用と称したシリーズの商品を販売していたけど、あれ売れたのかなあ。自分ではあまり気に入らなかったから、特別割引であれこれ買ったときも別のシリーズの商品を購入したけどさ。ビデオなしで仕事するなら普通の部屋着でいいし、ビデオで会議するなら上半分だけはワイシャツを着るよなあ。着る時間が短いから洗濯の回数も減ったし、新しいものを買わなければならないという状態にはならなかった。
オロモウツの街中を見回しても、すでにいくつか閉店を決めたところがある。ガレリエ・モリッツに入っていた靴屋のCCCは秋の規制が強化される前に閉店が決まっていたが、在庫処理セール中に営業禁止になったので現在どんな状態にあるのかはわからない。ホルニー広場周辺だけでも何軒か、単に営業停止ではなく完全に閉店を決めて、店の中が空っぽになっている。春の規制は生き延びたけれども、秋から冬にかけての営業停止がとどめを刺したのである。政府の支援も不十分かつ遅すぎるという批判を浴びていた。
春と同様にこの強制的な休業期間を、店舗の改装に利用しているところもある。コーヒー豆を買いに通っているコドーも、豆の販売店としては営業を続けているけれども、喫茶店としては営業停止中で、改修工事のためにちょっと離れた仮店舗に移って豆の販売を始めた。その仮店舗のある場所に入っていたお菓子屋は閉店したのかな。
仮店舗での営業は、完全に通常通りとはいかず、特に移ったばかりのときは、販売している豆の種類が二種類に減っていた。その後、焙煎を再開して買えるものが増えて通常販売しているものはすべて買えるようになったけど、以前やっていた週替わり(月替わりかも)特別なコーヒーの販売は停止中で、仮店舗での営業中は再会する予定はないらしい。ブルーマウンテンとかこの枠での販売だったから、ちょっと、いや非常に残念である。
現時点では、店の中に商品が残っていて、営業停止中にしか見えない店の中にも、売り上げがない中でも家賃は払わなければならないために経費がかさんでいて、規制が緩和された後に経営が立ち行かなくなるところも多いだろう。どれだけの店が生き残るのか心配でならない。
その一方で、パン屋さんなどの最初から持ち帰り用の食べ物を販売しているところは、比較的売上強調のようで、サーザバというチェーン店がドルニー広場に新たに出店していた。もともとは喫茶店があったのかな。これで旧市街だけでも4軒目ということになるのかな。職場から一番近い店舗なので、午前中から出るときにはお世話になりそうである。
2021年2月7日24時。
今日のニュースで、ピエトロ・フィリッピとカラの破産手続きが始まったことが伝えられた。さらにもう一つのチェコの服屋ブラジェクも同様の状態だという。チェコの服のブランドが一つだけでも生き残ることを願っておこう。2月8日追記。
2021年02月08日
お買い物(二月五日)
DVDからの録画した映画やテレビドラマのデータの変換と、ハードディスクへの移動は順調に進んでいるのだが、数が多いので、さすがにPCのハードディスクも、さまざまなデータのバックアップに使っている外付けのハードディスクも、容量の限界が見えてきた。それで変換済みの映像データののみを保存するハードディスクを買うことにした。今後、セットトップボックスで録画する番組も出てくるだろうし、いずれ必要になるのだから今買っても大差はない。
問題はどこで買うかだが、DATARTという全国チェーンが、ネット販売だけでなく、ネット上で注文した品を、店舗で購入できる「Rychlart」というサービスを行っている。この注文から30分後には店舗で購入できるというサービスは、当然その店に在庫がある場合にしか使えないが、徒歩で行ける範囲に二つも店舗があるので、どちらかにある品を選べば問題ない。いや、逆にそういう選び方をしないとどれを買うか決められなかったのである。
ハードディスクの商品のラインナップを見ると、こちらが考えていた1Tの容量のものだけでも多種多様なものがあって、どれを選んでいいのかさっぱりわからない。値段も多少の違いがあるとは言っても、どれも1500コルナ前後で、上下100コルナぐらいの違いしかない。接続形式がUSB3.0で2.0と互換性があるというのが多いが、3.1とか、3.2というのもあってどう違うのかわからない。どれを選んでも大差はないと思うが、PCやセットトップボックスと接続できないという事態だけは避けたい。
どれを選んでいいかわからなくなった中で、ガレリエ・モリツかシャントフカの店舗でに在庫があるものという条件で探したら、一番安かったのがシャントフカの店に在庫のあるウエスタン・デジタル社の製品だった。以前シャープのテレビを買ったときにUSBで録画するために買ったハードディスクもウエスタン・デジタル社のもので、購入以来特に問題もなく使えているからこれで、いいやと購入を決めた。以前買ったのは500Gの製品でテレビの録画にはフォーマットの形式の違いで使用できなかったけど、USBメモリーやPCのハードディスク内のデータのバックアップ用、DVDのコピーなどに利用してきたのである。
注文したのが朝の9時過ぎで半分寝ぼけていたのも、早々に決断にまで至れた理由である。同じウエスタン・デジタル社のもので、同じ1Tだけど値段がちょっと高い、製品の見た目はほぼ同じでどこが違うのかよくわからないのもあったのだけど、深く考える前に注文していた。在庫のない商品でも注文して取り寄せられるようだったから、深く考えていたらいつまでたっても決められなかったに違いない。やはり、注文は深夜か早朝の寝ぼけた時間帯にするに限る。
テレビのCMでネット上では注文だけで支払いは店舗で受け取りの際にするのだと理解していたのだが、ネット上でも支払いが可能だった。いや、店舗での支払いを選ぶと多少の手数料を取られるようだった。普通のネットショップと違ったのは、会員登録をする必要がなかったことで、連絡用のメールアドレスと電話番号を入力するだけでよかった。
注文と支払いを済ませた直後に、連絡が来て、受け取り可能になるのは、9時45分ごろと書かれていたのだが、それよりもずっと早く、9時半前には準備ができたというSMSが携帯電話に届いた。注文番号と受け取りに必要なピンコードが書かれていたので、メールで届いていた注文書や支払い証明書みたいなものは印刷して持っていかなくてもよさそうだ。
当初の予定では、先に職場に出て午前中から仕事をして、昼休みがてら受け取りに行くつもりだったのだけど、予想よりもかなり早く受け取り可能になったので、職場に出る途中に寄ることにした。DATARTのHPでも午前中のほうが受け取りの客が少なくて待ち時間も短いようなことが書かれていたし、ついでに昼食代わりのパンを仕入れることもできる。
久しぶりのシャントフカは、流石に人の数も少なく、郵便局ですらほぼ人がいなかった。そのとなりのDATARTではレジのところに一組の客しかいなかったのだが、何をしているのかかなり時間がかかっていた。その客の手続きが一段落したのか、担当していた店員が商品を取りにレジを離れた時点で、別の店員が、前の客に店の外で待つように言って、こちらの順番が回ってきた。SMSで送られてきた注文番号を見せて、ピンコードを伝えて手続きは終了。何の問題もなく、あっさりと買い物が終了してしまった。
その後、お店の人にほかに必要なものはないかと聞かれたので、受け取りしかできないんじゃなかったのかと聞き返したら、その辺はハードディスクと一緒に注文したことにするから大丈夫という返事が返ってきた。この辺の融通の利かせ方がチェコである。次に何か買うときには、追加で買ってみようかななんてことを考えてしまった。電動髭剃りの刃が欠けてうまくそれなくなっているから、新しいのを買おうか考えているところなのである。
2021年2月6日24時。
買ったのはこれと同じかな。
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2021年02月07日
選挙法改正続(二月四日)
前回簡単に説明した現行のチェコの選挙法の改正が成立したのは、2000年のことである。当時は市民民主党と社会民主党が政界を牛耳っていて、交代で政権を担当していたのだが、どちらも単独で過半数を確保するのはもちろん、他党と連立を組んで過半数を確保するのにも苦労しており、ビロード革命後に雨後の筍のように(ちょっと大げさ)乱立した泡沫政党や、伝統はあるけれども支持者の数はなかなか増えない小政党が、いくつも議会に議席を確保できる選挙制度の弊害が現れていた。
二つの大政党は、この状況を両党で、どちらが第一党になっても、連立はしないが、もう一方の党が野党として政権運営に協力するという協定を結ぶことで解決していた。だからこの時期には、少数与党の内閣が誕生することがままあったのである。この状況の抜本的な改善を求めて制定されたのが、第一党の議席が増えやすい現行の選挙法だったらしい。
ドント方式もこのときに導入されており、仮に2017年の選挙でドント方式ではなく、以前の議席配分方式が使われていたとすると、現在の与党ANOと社会民主党に、閣外協力をしている共産党の議席を合わせても半数に届かず、逆に市民民主党、海賊党以下、反バビシュ政権の野党の議席を合わせても半数に届かないという結果になるらしい。そうなると仮の計算ではどちらにも入れなかったオカムラ党が完全にキャスティングボードを握って今以上に存在感を発揮していたということになるから、ドント方式でよかったと思うんだけどね。
それはともかく、憲法裁判所が現行の選挙法で問題にしているのは、二つの点にまとめられる。一つ目は合意に達するのも難しくなさそうな、二つ以上の政党が共同で選挙に臨んだ場合に必要となる最低得票率の問題である。これが原因で議席を獲得できなかったという党はないようだが、共同での選挙を取りやめたという例ならいくつかある。また名目上合併して一つの政党として選挙に臨んだ例もあったと記憶する。
憲法裁判所では、政党の数が増えても5パーセントという最低得票率を変えないように求めているようだが、政治家たちはさすがにそれはまずいと考えているようで、現時点ではスロバキアを真似て、当の数が一つ増えるごとに最低得票率を2パーセント増やすという方向で話し合いがまとまりつつある。つまり2党なら7、3党なら9パーセントで議席が獲得できるようになる見込みである。秋の選挙に向けて共同で候補者を立てる交渉が進んでいるので、この辺は切実なのだろう。
もう一つの問題は、恐らくぎりぎりまで合意に達しないであろう。地方を単位に14の選挙区に分けた上で、ドント方式を採用したことで、得票率の高い大政党への優遇が過ぎるというのだが、これは安定した政権をという前回の法改正の理念を完全に否定することになる。ということは、法改正の理念から話し合いを進める必要があるということで、半年で間に合うとは思えない。もちろん、理念など無視して、制度だけ決めるという手もあるだろうけど、憲法裁判所が求めるものとは違った方向に進む可能性も高い。どの党も自党に最も都合のいいルールを求めるはずだし、合意しない可能性も高いか。
そもそも、海賊党と市長連合、市民民主党とTOP09など、野党を中心にこの秋の選挙に向けて共同で候補者名簿を作成する交渉が進んでいるのは、得票率が高い政党ほど有利になる現行の制度を前提にしている。つまり二つの党がそれぞれ10パーセントずつ獲得した場合よりも、共同で20パーセント獲得した場合のほうが議席数が増え、政権獲得に近づくのである。それが、どちらの場合でも差が出ないような制度になるのであれば、これまでの交渉は無駄になる。いや、協定を結ぶことを嫌う支持者の存在を考えると議席を減らす可能性さえ出てくる。だから、今回の憲法裁判所の決定に不満を持っているのは、ANOだけではないはずだ。喜んでいるのは協力相手がなさそうなオカムラ党、共産党ぐらいじゃないだろうか。
個人的には、国会議員を比例代表制で選出すること自体が受け入れがたいのだが、最低でも比例代表で当選した議員が所属政党を離れる場合には議席を失うぐらいの規定は導入してほしいものである。それから、議席獲得のための条件が全国で5パーセントの得票率というのも、選挙区制を導入しているのと矛盾している。全国での得票率に関らず、それぞれの選挙区での議席獲得の条件が5パーセント以上ということになっていれば、一つの選挙区にしか候補者を立てない地域政党が活躍する余地も出てくる。この二点ぐらいなら半年もあれば、合意できるだろう。
抜本的な選挙法の改正を行うなら、今年の選挙の後から始めて、次の選挙に間に合うように、4年かけて行うほうがましだったのではないかと思う。いや、ほぼ確信を持って、現行の選挙法と大差のないものになると断言しておく。一見大きな改正に見えても、優遇する対象、もしくは優遇のやり方が変わるだけで不公平な点では変わらないものになるに違いない。それがチェコという国の政治というものである。
2021年2月5日24時。
2021年02月06日
選挙法改正(二月三日)
チェコでは解散がない限り4年に一度行われる下院の選挙まで半年ちょっとという時期になって、憲法裁判所が現行の選挙法を違憲だと認定し、選挙までに新たな選挙法を制定するように議会に求めた。事前にゼマン大統領が、この時期に、この決定を下すことは、混乱を引き起こすだけで、何の役にも立たないと警告したらしいが、憲法裁判所では採決を強行して、意見の判決を下したということのようだ。
チェコの現行の選挙制度が不完全で、不平等なものであることは周知の事実だが、いやそもそも完全に平等な選挙制度など存在しえないことを考えると、バビシュ首相がこの決定に対して強く批判する気持ちもわからなくはない。このままでは、わずか数カ月で、現行の選挙法に変わる新しい制度を作り出さなければならないのである。しかも、各政党がそれぞれ自分たちに都合のいい方向に話を持って行こうとするだろうから、現行よりもマシな法案ができたとして、国会で可決される保証はどこにもないのである。
この件について少しわかりやすく説明をすると、憲法裁判所というのは日本の最高裁裁判所が持っている違憲立法審査権を行使する権利を持つ裁判所で、一般の最高裁判所を含む裁判所とは役割を異にしている。原則として法律や法令、政府の決定などが、憲法に違反していないかを審議する機関である。審議するのは訴えがあってからだと思うのだが、今回の決定が誰の訴えに基づいて開始されたのかは、わからなかった。
憲法裁判所がチェコの政治に大きな影響を与えたものとしては、2009年の判決がすぐに思い出される。チェコは当時EUの議長国を務めていたのだが、トポラーネク内閣が、下院での不信任決議だったか、信任決議だったかで、信任を得ることができず、下院の解散、総選挙の実施を決定した。これに対して、共産党かどこかの下院議員が、憲法上内閣に解散権はないのではないのかと、憲法裁判所に訴えた。その結果、下院の解散は違憲だという決定がなされて選挙が中止になり、任期満了までの半年ほどの間、暫定内閣が成立し、暫定でEUの議長国を務めるという恥をさらすことになったのである。
2009年以前には、下院の解散が行われたこともあるのだが、誰も問題にしなかったため、憲法上、もしくは選挙法上解散権はあるものだと思われていたようだ。さすがに、下院に不信任決議をする権利があるのに、内閣に解散の権利がないという偏った関係はよくないと考えたのか、法律が改正されて(憲法かもしれない)、内閣の解散権が明記されることになったはずである。当時は珍しく与野党の意見が一致して、速やかに合意がなされたと記憶する。
この2009年の前に憲法裁判所が政治的な判断を下したのが、実は現行の選挙法が制定されたときのことで、このときは当時のハベル大統領まで担ぎ出されて、違憲という判断は下されたものの、選挙法の効力を止めたり、改正を求めたりまではしなかったようだ。だからこそ、当時の法律が今まで生き続けてきたわけである。面白いのは、当時社会民主党の中心人物の一人で、現行の選挙法の導入に貢献したリヘツキーが、現在は憲法裁判所の長官で、違憲だと糾弾する立場になっていることである。
現行の選挙法のどこが問題なのかを説明する前に、簡単に下院の選挙の制度をおさらいしておく。選挙は政党に投票する比例代表制で行われ、プラハと13の地方、合わせて14の選挙区に分けられており、政党はそれぞれの選挙区ごとに候補者名簿を作成することになる。選挙区ごとの定員は、人口、もしくは有権者数に基づいて制定されているが、その割り振りのルールはよくわからない。カルロビバリ地方のように定員が非常に少なく、どうして独立させているのだろうと不思議に思うような地方もいくつかある。
また極右政党が議席を獲得することを防ぐために、得票率5パーセントという議席を獲得するための最低得票率が制定されているが、これは各選挙区での得票率ではなく、全国での得票率5パーセントである。そして、二つ以上の政党が連合を組んで共同で候補者名簿を作成する場合には、地方単位では認められず、全国すべての選挙区で連合しなけらばならず、議席を獲得するための最低得票率は5パーセントに政党数をかけたものになる。つまり、2党なら10、3党なら15パーセントというわけである。
実際の得票数に基づく議席の配分は、日本などでも取り入れられているドント方式が採用されている。この方式は、いくつかある配分方式の中では、得票率の高い政党に有利な方式だと言われている。つまり得票率が高ければ高いほど、1議席を獲得するのに必要な票の数が減っていくのである。弱小政党の乱立を防ぎ、第一党が議会で過半数を取りやすい、取れなくても連立相手を見つけやすい制度だということもできそうだ。
というところで、いったんおしまい。
2021年2月4日21時。
2021年02月05日
アルノシュト・ルスティク(二月二日)
アルノシュト・ルスティクというと、真っ先に思い出すシーンがある。テレビでルスティクの生涯と現在を紹介するドキュメンタリー番組を見ていたときのこと、どんな文脈だったかは全く覚えていないのだが、「ドイツ人はブタだ」とドイツ人への悪口を現在形で吐き捨てるように口にしていたのである。ユダヤ人として第二次世界大戦中に強制収容所に送り込まれるなど、ドイツ人に迫害されていたルスティクが過去形で語っていたら、当然のことと考えてあまり印象に残らなかったのだろうが、現在形で、しかも強い口調だったから、忘れられなくなってしまった。
恐らくは、戦後の雌伏の期間を経て、東西ドイツが再合併してEUの中心になったドイツが、経済力を背景に旧共産圏の諸国でやりたい放題していたことに批判的だったのだろう。もしくは、敗戦を経て一見変わったように見えるドイツ人たちのメンタリティが、実はその根本の部分では変わっていないことを警告する意味があったのかもしれない。
この手の、「○○人は○○だ」的な決めつけ、特に批判、罵倒の目的でなされる決めつけは、しばしば差別だとして批判の対象になるが、なぜかドイツ人と日本人という第二次世界大戦で負けた国に対する罵倒は問題にされないことが多い。この辺も、いわゆる「ポリコレ」ってのを受け入れる気になれない理由になっている。とはいえ、ルスティクの「ドイツ人はブタだ」という罵倒を批判する気はないし、ドイツがやっているからというだけの理由で賞賛する一部の日本人もおつむの中身が「ブタ」だよね。
さて、本題である。ルスティクの作品の日本語訳は、1960年代後半に集中して現れる。作品の多くは第二次世界大戦中のユダヤ人を題材にしている。以下の書誌情報は国会図書館オンラインで検索した結果である。
➀栗栖継訳「一個のレモン」(「太陽」第3巻10号、平凡社、1965.10)
この作品については、原典が何かも、どうして「太陽」なんて雑誌に乗ったのかも不明。オンライン目録では、舞台芸術家の朝倉摂の名前も付されているが、翻訳ではなく挿絵を担当したものかとも思われる。
A訳者不明「私たちの生れてきた世界」(「世界」241号、岩波書店、1965.12)
こちらはさらに訳者名まで不明。岩波の雑誌であることを考えると栗栖訳である可能性は高そうだ。同時に雑誌の性質、同号の目次に並ぶ記事を見ると、小説ではなく、エッセイの類ではなかろうかとも思える。
➂栗栖継訳「闇に影はない」(「新日本文学」第21巻4号、 新日本文学会、1966.4)
原典は1958年に刊行された短編集「Démanty noci(夜のダイヤモンド)」に収録された「Tma nemá stín」。チェコ語版のウィキペディアによると、「Tma nemá stín」はビロード革命後の1991年に単行本化されているようである。
日本語訳のほうは、1967年に恒文社から刊行された『現代東欧文学全集』第11巻に収録されている。前年の雑誌発表は、全集の宣伝の目的があったものかもしれない。この全集は1966年から69年にかけて全13巻で刊行されたもので、チェコスロバキアの作家は10巻と11巻があてられている。11巻には、ルスティクの作品以外にも、イジー・バイルの「星のある生活」が収録されている。
その後、この全集の11巻は、単行本化され内容は変わらないまま『星のある生活 少女カテジナのための祈り : 他』(1971)、『星のある生活』(1978)と題名と版を改めて刊行されている。国会図書館のオンライン検索では、『星のある生活』に「第4版」という情報がついているが、この題名での第4版なのか、全集から合わせて第4版なのかわからない。個人的には後者だと認識している。
C栗栖継訳「少女カテジナのための祈り」(『現代東欧文学全集』第11巻、恒文社、1967)
原典は『Modlitba pro Kateřinu Horovitzovou』(1964)。第二次世界大戦中にイタリアのシチリアで起こったユダヤ系のアメリカ人一家をドイツ軍が拘束した事件を基にした物語らしい。1965年には著者本人の手で脚色されて長編テレビドラマが制作されている。監督は「チェトニツケー・フモレスキ」のアントニーン・モスカリク。ちょっと見たくなってきた。
D栗栖継訳「一口の食べ物」(『現代東欧文学全集』第10巻、恒文社、1967)
原典不明。特に書くべきこともない。
E野口忠昭・羽村貴史訳『愛されえぬ者たち : ペルラ・Sの日記より』(吉夏社、2007)
次の日本語訳は60年代、いや『星のある生活』の刊行された70年代末からも大きく飛んで、2007年の刊行である。原典は『Nemilovaná: Z deníku sedmnáctileté Perly Sch』(1979)。テレジーンのゲットーの売春婦の日記という体裁で記された作品。日本語に訳した人たちの情報もほとんどないのだが、チェコ文学、チェコ語の世界で聞いたことのある名前ではないので、英語からの翻訳だろうと推測する。それを裏付けるのはhontoのこの本のところに、「1986年全米ユダヤ図書賞(小説部門)受賞」とあることである。ルスティク自身が英語に訳した可能性もなくはない。
出版社の吉夏社もあまり聞かないが、こういう作品を刊行してくれるということは、ユダヤ系の文学に力を入れている出版社だと考えていいのだろうか。その前に、社名の読み方は「きっかしゃ」でいいのかな?
チェコ語版のウィキペディアによると、ルスティクは「プラハの春」に対するワルシャワ条約機構軍の侵攻がおこった1968年8月21日の時点でイタリアに滞在しており、そのままチェコスロバキアに変えることなく、ユーゴスラビアを経てアメリカに渡り、アメリカに活動の場を移したという。チェコに戻ってきたのは、ビロード革命後のことで、1995年にはチェコ語版の雑誌「Play boy」の編集長になったことで話題を集めたらしい。
ルスティクが亡くなったのは今からちょうど10年前の2011年2月のこと。享年84歳。プラハのジシコフにある新ユダヤ人墓地に葬られた。
2021年2月3日24時。