2016年09月16日
人への応用にも期待! 不安性のラットを社会的に成功させる方法解明
人と話したいのに、不安でうまく話せない……。そんな悩みを持つ人のなかには、積極的な人をうらやんだり、引っ込み思案な性格の自分を責めたりする人もいるかもしれない。
しかしそうする前に、まずはこの研究を知ってほしい。人間に対する研究ではないのが恐縮ではあるが、2015年に実施されたある実験によると、社会的地位を獲得できないラットは不安感が強くなるが、脳のある領域にビタミンB3を投与するとラットたちの自信が増大し、社会的に成功したというのだ。
□不安感と社会的地位獲得との関係性を調査
スイス連邦工科大学ローザンヌ校脳精神研究所の研究チームは、オスのラットにおいて、特性不安が社会的優位性にどう影響を与えるのかを調査した。
「特性不安」とは、ある特定の状況で不安や恐怖を感じやすい気質のこと。ラットたちは特性不安の程度(高い、中程度、低い)によってグループ分けされ、不安感が高いグループと低いグループのラットたちに新しい縄張りを争わせた。
□不安症のラットは成功できない
実験の結果、不安感が強いラットたちは、実験開始後すぐには不安感が低いグループに対して従う様子を見せなかったものの、しばらくすると攻撃的な行動が減った。争う意欲を無くしたこのラットたちは、1週間後再度同じ状況に置かれても縄張りを勝ち取ることはできなかった。
つまり、不安の大きいラットは社会的に成功できない可能性が高いことを示唆している。
□ビタミンB3の投与で社会的競争率が向上!
この不安の大きいラットたちには、やる気やうつ病に関わる脳部位で、前脳に位置する「側座核(そくざかく)」という領域内のミトコンドリアの活動に低下が見られた。さらに、細胞内でエネルギー源として働くアデノシン三リン酸(ATP)の存在量も少ないことが判明した。
そこで、強い不安感を持つグループのラットの側座核に、ミトコンドリアの呼吸活動を増加させるビタミンB3を投与した。
すると、不安感の少ないラットたちと同じように社会的地位を獲得できるようになったのだ。
しかし、ビタミンB3の効果が切れると、積極的に縄張りを得ようとする行動や不安感は元のレベルに戻ってしまった。
□ラットでの研究は意味があるのか
今回の実験内容は、社会的不安を抱える人たちにとって興味深い内容だろう。しかし、実験の対象となったのはヒトではなくラットだ。ラットの脳はヒトほど複雑ではなく、ラットで結果が出たからといって人間も同じと言えるのか? そう思う人もいることだろう。
しかしラットは、人間のように論理的に物事を考えたり言葉を話すことはできないものの、同じほ乳類であることから、脳や神経の仕組みは似通っている。そのため、生物学的観点からヒトの行動を分析する際の実験動物としてよく使用されているのだ。
実際、今回の結果がラットだけに見られるものかどうかは、今のところ定かではない。しかし、抱える自信や不安の程度に個体差があり、コミュニティー内で社会的地位を構築するという特性は、ラットとヒトとで共通するものだ。そのラットで結果が出たということは、この先ヒトを対象とした研究を進めるうえでの第一歩として十分に意味がある。
今後さらに研究が進み、ヒトにも同様の効果が得られることが分かれば、極度の不安症のせいで社会活動が困難になっている人に対する新薬が開発される可能性もあるだろう。研究チームは、側座核のミトコンドリアの活動と不安症やうつ病などを含む「気分障害」との関係性を、引き続き調査していくとのことだ。