音楽は今や聴いて楽しむだけのものではない。ストレスを和らげるために音楽が治療に使われたり、ワインにモーツアルトの曲を聴かせて熟成し、おいしくするために使われたりもしている。
しかし、なんとオーストラリアのロックバンドAC/DCの代表曲「Thunderstruck」を抗がん剤の性能向上に使うという斬新な試みがされた。ロックミュージックの振動を使うことで、副作用が少なくがん細胞を狙い打ちできる抗がん剤にすることができるという最新の研究が発表された。
□ロックの振動が、「がん細胞だけ狙い撃ち」の抗がん剤を作る!?
南オーストラリア大学の研究者ニコ・フェルカー教授らは、ロックミュージックの振動を利用した薬剤のコーティングに成功した。。
一般的に化学療法の抗がん剤は、がんに効果がある強い薬を使うと、がん以外の正常な組織にも影響して副作用が出てしまうことが多かった。この副作用を減らすために考えられたのが、正常な組織には届かずがん細胞にのみ薬を届けることができる「ドラッグデリバリーシステム」だ。
これはナノテクノロジーの技術を使って、患部のみを狙い打ちすることで、薬の効果を向上させることができるというものだ。
□「抗がん剤の副作用との戦い」に勝てるかもしれない
研究に使った抗がん剤のカンプトテシンも強い抗がん活性を示すが、溶けにくいことや有害な副作用の点で問題があった。
普通は表面にプラズマを照射してコーティングするが、微粒子の片側しかコーティングできないという問題点があった。
そこで、フェルカー教授らはロックを大音量のスピーカーで鳴らしてみるアイデアを思いついた。大音量のロックの振動で、微粒子を揺らしてみたのだ。混沌(こんとん)とした音波がうまく働き、微粒子の表面を均等にコーティングすることができた。
これにより、薬が体内で効くまでの時間を延ばすことができるようになり、がん細胞に届いてから薬が効くようにできるため副作用がなくなる可能性を高められたのだ。
□選曲はタイトルが気に入ったから
実験にロックを使ったのは、体感できるほどの物理的な振動と混沌(こんとん)とした旋律がポイントのようだ。
選曲を、オーストラリアのロックバンドAC/DCの代表曲「Thunderstruck」(「雷に打たれた」という意味)にしたのは、製薬の工程でプラズマを使うし、雷とプラズマガスの関係が好きだったからだという。
今回は可視化しやすいという理由で、化学治療の抗がん剤でだけ実験をした。しかし、抗がん剤に限らず抗炎症薬や抗生物質など、他のタイプの薬にも使うことができるかもしれない。これはあくまでもモデルケースにすぎないとフェルカー教授は述べている。
ひょっとしたら製薬工場に入ると、毎日ロックが大音量で流れているという日もやって来るかもしれない。
□ロック音楽の新しい可能性
今まで食品や治療への音楽利用はクラシックが主流だった。クラシックとは対極のイメージのロックミュージックを使った今回の斬新な研究により、音楽利用の可能性の幅が一層広がっていきそうだ。
ロック音楽は、心に効くだけではなく、薬を有効化させて体にも効く。次はいったいどんなところで使われるのか、ロック好きには、楽しみが増えてきた。