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2022年05月27日

危険な好奇心23


俺は視線を部屋の入口に向けた。

『ガラガラガラ。』

台車は扉の前に止まったようだ。そして、扉が開いた。
そこには上下紺色の作業着を着たオバさんが居た。
俺は『何だよ!脅かすなよ!ゴミ回収のオバさんじゃねーか。』
と、少し胸を撫でおろした。
そのオバさんは患者個人個人のごみ箱のゴミを回収しだし、最後に淳のベットに近づいてきた。
淳が小声で『みてくれよ!』
俺はそのオバさんの顔をチラッと見た。

『・・・・!』

俺は息を呑んだ。
似ている…いや、『中年女』なのか?
俺は目が点になり、しばらく、その人を眺めていると、そのオバさんはこちらを向き、ペコリと頭を下げて部屋を出て行った。
淳が『どう?!やっぱ違うか?!俺ってビビりすぎ?』と聞いてきた。
俺は『全然ちげーよ!ただの掃除のオバちゃんぢゃん!』と答えた。
いや、しかし似ていた。他人の奏楽になのか。。。?

『…んぢゃそろそろ帰るわ!あんま変な事考えてねーで、さっさと退院しろよ!』

と俺が言うと、淳は

『そだな。。あの女が病院にいるわけねーよな。お前が違うって言うの聞いて安心したよ。また来てくれよ!暇だし!』

と元気よく言った。
俺は個室を出ると、早足に階段を駆け降りた。頭の中からさっきの『オバさん』の顔が離れない。
『中年女』の顔は鮮明に覚えている。しかし、中年女の一番の特徴といえば『イッちゃってる感』だ。さっきのオバさんは穏やかな表情だった。
もし、さっきの『オバさん』=『中年女』なら、俺の顔を見た瞬間にでも奇声をあげ、遅い掛かって来てもおかしくはない。
そうだ。やっぱり他人の空似なんだ。
と考えつつ、なぜか病院にいるのが怖く、早々に家路についた。
家に帰ってからも『中年女』=『清掃おばさん』の考えは払拭しきれなかった。
やはり気になる・・・
その日は眠りに落ちるまでその事ばかり考えていた。

次の日、『清掃おばさん』の事が気になり、俺はバイトを早めに切り上げ病院に行くことにした。
俺のバイト先からチャリで30分。病院に着いたときには20時を回っていて面会時間も過ぎていた。
もう、『清掃おばさん』もかえっている事は明白だったが、臨時入口から病院に入り、とりあえず淳の病室に向かった。
こっそり淳の病室に入ると淳のベットはカーテンを閉めきってあった。

『寝たのか?』

と思い、そーっとカーテンを開けて隙間から中を覗いた。

『うわっ!』

淳が慌てて飛び起き、『ビックリさせんなよ!』と言いながら、何かを枕の下に隠した。
淳はエロ本を熟読していたようだ。
俺は敢えてエロ本の事は触れずに

『暇だろーと思って来てやったんだよ!』

と淳の肩を叩いた。
淳は少し気まずそうに

『おう!この時間帯は暇なんだよ!ロビーでも行って茶でもしようか?』

と言った。
俺は車椅子をベットの横に持って来て、淳の両脇を抱え、淳を車椅子に乗せてやった。
淳が

『ロビー一階だからナースに見つからんよーに行かんとな!』

と小声で言った。


危険な好奇心24へ

2022年05月26日

危険な好奇心22


それから五年。。。
俺・慎・淳はそれぞれ違う高校に進んでいた。
俺達はすっかり会うことも無くなり、それぞれ別の人生を歩んでいた。
もちろん『中年女』事件は忘れることが出来ずにいたが『恐怖心』はかなり薄れていた。

おんな高一の冬休み、懐かしい奴『淳』から電話が掛かってきた。

『おう!久しぶり』

そんな挨拶も程ほどに、淳は

『実は単車で事故ってさぁ‥足と腰骨折って入院してんだ』
俺『え?!だっせーな!どこの病院よ?寂しいから見舞いに来いってか?』
淳『まぁ、それもあるんだけどさ。。。お前、【中年女】の事って覚えてる?事件の事じゃなくてさぁ。。顔、覚えてる?』
俺『、、、何で?何だよ急に!』
淳『。。。毎晩、面会が終わってから。。。変なババァが俺の事を覗きに来るんだよ。。ニヤつきながら。。』

淳の発した言葉を聞いたとたん『中年女』の顔を鮮明に思い出した。
始めて出会ったあの夜の『歯を食いしばった顔』
下校時で見た『狂ったような叫び声』
あれから忘れる努力をしていたが決して忘れることの出来ない『トラウマ』だった。
俺は淳に

『何言ってんだよ?!もう忘れろ!ほんっとオメーって気が小せぇーな?!』

と答えた。
自分自身にも言い聞かせるように。。
淳は『そーだよな。。。いや、こーゆーとこって妙に気が小さくなるもんだよ!』
俺は『そーゆーとこ、変わってねーな!』

と余裕を見せた。俺自身もあの日のまま成長していないが。
そして、入院している病院を聞き

『近いうちにエロ本持って見舞いに行くよ!』

と言い電話を切った。
電話を切った瞬間、何故か胸騒ぎがした。

『中年女』

淳の言葉が妙に気に掛かり出した。
電話を切った後、しばらく考えた。
まさか、今更『中年女』が現れるはずが無い。。。
それにあいつは捕まったはず。。。いや、釈放されたのか??
というか、今思えば俺達三人は『中年女』に何をしたわけでも無い。
ただ『中年女』の呪いの儀式を見てしまっただけなのに、こちらの払った代償はあまりにも大きい。
偶然、夜の山で出会い、いきなり襲われた。俺達は何一つ『中年女』から奪っていない。それどころか、傷付けてもいない。
『中年女』は俺達からハッピーとタッチを奪い、秘密基地を壊し、何より俺達三人に『恐怖』を植え付けた。
『中年女』がいくら執念深いといっても、さすがにもう俺達に関わってくるとは思えない。
こんなことを思うのも何だが、怨むなら『写真の少女』にベクトルが向くはず。
俺は強引に『俺自身』を納得させた。

2日後、俺はバイトを休み、本屋でエロ本を3冊買ってから淳の入院している病院に向かった。
久しぶりに淳に会うと『ドキドキ感』と淳が電話で言っていた事に対する『ドキドキ感』で、複雑な心境だった。病院に着いたのは昼過ぎだった。
淳の病室は三階。俺は淳のネームプレートを探し出した。
303号室・六人部屋に淳の名前があった。
一番奥、窓側に向かって左手に淳の姿が見えた。

『よう!淳、久しぶり』
『おう!まぢひさしぶりやなぁ!』

思ったよりも全然元気な淳を見て少し安心した。
約束のエロ本を渡すと淳は新しい玩具を与えられた子供の如く喜んだ。そして他愛も無い話を色々した。
淳といると小学校の頃に戻ったようでとても楽しかった。無邪気に笑えた。
あっという間に時間は経ち、面会終了時間が近づいて来た。

俺『んぢゃ、もうそろそろ帰…』
『実はさぁ、電話でも言ったんだけど』と淳が真顔で何かを言いかけた。

何かを‥いや、『中年女の事だろ?』と俺は言った。すると淳は

『気のせいだとはおもうんだけど…いつもこの時間に来るオバさんがいてささぁ、、何か、こう。。。引っ掛かるつーか。。』

俺は『だから、気のせいだって!ビクビクすんなよ!』と強気な発言をした。
すると淳は少しカチンと来たのか

『だから、勘違いかもしんねーつってんぢゃん!ビビりで悪かったな!』

空気が重くなった。
俺は空気を読み、淳に謝ろうとした。そのとき

『ガラガラガラ‥』

廊下に台車のタイヤ音が響いた。
淳が『来た…』とつぶやく。


危険な好奇心23へ

2022年05月25日

危険な好奇心21


警官『自宅前でパトロールしてると玄関に人影が見えまして、あの女なんですけど、、しゃがみ込んでライターで火を点けていたんですよ。玄関先に古新聞置いてますよね?』
母『いえ、置いてないですけど・・・?』
警官『じゃあこれも【あの女】が用意したんですかねー?』

と指差した。
そこには新聞の束があった。確かにうちがちっている新聞社の物では無かった。
警察が『ん?』
と何かに気付き、新聞紙の束の中から何かを取り出した。
【木の板】
それには《〇〇〇焼死祈願》と俺のフルネームが彫られていた。
俺は全身に鳥肌が立った。やはり俺の名前を調べ上げていたんだ。
もし警察がパトロールしてなかったら‥と、少し気が遠くなった。
母は泣きだし、俺を抱き締めて頭を撫で回してきった。
警察はしばらく黙っていたが

『実は、あの女、、、少し精神的に病んでまして。。。〇〇町にすんでいるんですけど、結構苦情、、、まぁ、同情の声というのもあるんですがねぇ…』

と、中年女の事を語りだした。

警官『あの女、二年前に王痛事故で主人と息子を亡くしまして。。。それ以来、情緒不安定と精神分裂症というか。。まぁ近所との揉め事なども出てきだしましてね。山で発見された【少女の写真】であの女の特定は出来ていたんですよ。二年前の交通事故…あの少女が道路に飛び出したのをハンドルをきって壁に衝突して主人と息子が亡くなったんですよ。。。飛び出した少女は無傷で助かったんですが…以来、あの少女の家にも散々嫌がらせをしているんですよ。ただ事故が事故なだけに少女の家からは被害届はでていないんですが。。。あの少女を相当怨んでいるんでしょうね。。。』

と。
俺はその話を聞き、同情などは一切出来なかった。
むしろ【中年女】の執念深さがヒシヒシ、と伝わってきた。
何よりも警官も認める『情緒不安定・精神分裂症』
これでは、すぐ釈放になるのではないか?
その後、又『中年女』の存在に怯え生きていかなければならないのか?
警察の話を聞き、『安堵感』よりも『絶望感』が心に広がった。


危険な好奇心22へ

2022年05月24日

危険な好奇心20


壁に付いた蛙の染み、及びその死体の写真を取り、1時間程で警官達は帰って行った。
しばらくして父親が帰宅した。まだ5時前だった。昨日の今日だから心配になったのだろう。
夕食の準備をしている母も、夕刊を読んでいる父も無言だったが、どことなくソワソワしているのが解った。
もちろん俺自身にも次いつに『中年女』が来るのか不安で仕方なかった。
その日の晩飯は家族皆が無口で、只、テレビの音だけが部屋に響いていた。
そして夜11時過ぎ、皆で床に就いた。用心の為、一階の居間は電気を点けっぱなしにしておくことになった。
その夜も家族そろって同じ部屋で寝た。もちろんなかなか寝付けなかった。

どれぐらい時間が過ぎただろう。。。
突然玄関先で

『オラァー!!』

とドスの効いた男の声とともに

『ア゛ー!ア゛ー!』

と聞き覚えのある奇声『中年女』の叫び声が聞こえた。
俺達家族は皆飛び起き、父が慌てて玄関先に向かった。
俺は母にギュッと抱き締められ、二人して寝室にいた。

『カチャカチャ‥ガラガラガラガラ!』

父が玄関の鍵を開け、戸を開ける音がした。
戸を開ける音と共に、再び

『ア゛―!!チキショー!ア゛ァー!!ア゛ァァァァ!』

と再び『中年女』の叫びが聞こえて来た。

『大人しくしろ!』『オラ!暴れるな!』

と、男の声もした。
この時、俺は『警官だ!警官に捕まったんだ!』と事態を把握した。中年女は奇声を上げ続けていた。
俺はガタガタ震え、母の腕から抜けられなかったが、父親が戻って来て、

『犯人が捕まったんだ。お前が山で見た人かどうかを確認したいそうだが。。。大丈夫か?』

と、尋ねてきた。
もちろん大丈夫ではなかったが、これで本当に全てが終わる。終わらせることが出来る!と自分に言い聞かせ

『。。。うん。。』

と返事をし、階段をゆっくりと降り、玄関先に向かった。
玄関先から

『オマエーっ!チクショー!オマエまで私を苦しめるのかー!』

と凄い叫び声が聞こえ、足がすくんだが、父が俺の肩を抱き、二人の警官に取り押さえられていた『中年女』の前に俺は立った。
俺は最初、恐怖の余り、自分の足元しか見れなかったが、父に肩を軽く叩かれ、ゆっくりと視線を中年女に送った。
両肩を二人の警官に固められ、地面に顎を擦りつけながら『中年女』は俺を睨んでいた。
相当暴れたらしく、噛みは乱れ、目は血走り、野犬の様によだれを垂らしていた。

『オマエー!オマエー!どこまで私を苦しめるー!』

訳のわからない事を中年女は叫び、ジタバタしていた。
それを取り押さえていた警官が

『間違いない?山にいたのはコイツだね?』

と聞いてきた。
俺は中年女の迫力に押され、声を出すことが出来ず、無言で頷いた。
警官はすぐに手錠を嵌め

『貴様!放火未遂現行犯だ!』

と言った。
手錠をはめられた後もずっと奇声を発し暴れていたが、警官が二人掛かりでパトカーに連行した。そして一人だけ警官がこちらに戻って来て

『事情を説明します。』

と話し出した。


危険な好奇心21へ

2022年05月23日

危険な好奇心19


母親は何故か『中年女』の事を口にしてこなかった。俺への気配り?だと思い、俺も何も言わなかった。
昼飯を食べ、ふたたび自室に籠っていると、『ドスっ』と家の外壁に鈍い音が響いた。
俺はとっさに『慎だ!』と思った。あいつは俺を呼び出す時、玄関の呼鈴を鳴らさず、窓に小石を投げてくる事がしばしばあったからだ。俺は窓から外を眺めた。
家の前の路地のある電柱に慎がいるはず!と思ったが、慎の姿は無かった。
どこかに隠れているのかと思い、見える範囲で捜したが何処にもいない。
その時、俺の部屋の下にあたる庭先から『キャ!』と母親の声がした。
びっくりして窓を開け、身を乗り出し、下を見た。
そこには母親が地面を見つめながら口元に手を当てがい、何かを見て驚いていた。
俺は何が起こっているのか解らず

『どーしたの!』

と聞いた。
母は俺の声にギクッと反応し、こちらを見上げ、驚いた表情で無言のまま家の外壁を指さした。
俺は善からぬ感じを察したが、母の指差す方向を見た。
そこには何やらドロっとした紫色した液体とゼリー状の物が付いていた。先程の『どすっ』の音の正体だろう。
視線を母親の足元に落とし、その何かを捜した。
そこには内臓が飛び出した大きな牛蛙の死体が落ちていた。
母はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
俺はすぐに『中年女』が頭に浮かんだ。すぐに目で『中年女』の姿を捜したが、何処にも姿は見えなかった。
母はふと思い出したように居間に駆け込み、警察に電話をした。
母は青い顔をしていた。恐らくこの時始めて『中年女』の異常性を知ったのだろう。

そうだ、あの女は異常なんだ。
きっと今も蛙を投げ込んできた後、俺や母の驚く姿を見てニヤついているはず。。
きっと近くから俺を見ているはず。。。
鳥肌が立った。
『警察早く来てくれ!』心の中で叫んだ。
もうこの家は『家』ではない。『中年女』からすれば『鳥籠』のように俺達の動きが丸見えなんだ。常に見られているんだと感じ出した。

しばらくしてパトカーがやってきた。昨日とは違う警官二人だった。
警官一人は外壁や投げ込んで来たであろう道路を何やら調べ、もう一人は俺と母に

『何か見なかったか?』
『その時の状況は?』

などなど、漠然とした不安を煽るような事を言って来た。

『たしか、昨日もいやがらせを受けてるんですよね?おそらく犯人はすぐにでも同じ事をしてくる可能性が高いです。』

と。
俺はたまらず

『あの呪いの女なんです!コートを着てる40歳ぐらいの女なんです!早く捕まえてください!』

と半泣きになって懇願した。すると警察官は

『さっきね、山を見てきたんだよ。。。犬の死体も板に彫られたお友達の名前も、あと女の子の写真もあったよ。今からそれを調べて必ず犯人捕まえるから!』

と言い、俺の肩をポンと叩くと、母の元へ行き、何やら話していた。
『主人に連絡を‥』みたいなことを言われていたようだ。


危険な好奇心20へ

2022年05月20日

危険な好奇心18


俺は部屋の電気を消したまま玄関に走り、母の顔を見た瞬間、安堵感からか、泣き出した。
母親はキョトンとしていたが、俺はしばらく泣き続けた後、

『ごめんなさい』

と冒頭に謝罪をし、『あの夜』の出来事から『さっき』の出来事まで説明した。
説明の途中、父親も帰宅し、父には母が説明した。
その後、父が無言で和室の窓硝子を見に行った。
窓硝子は鋭利な何かで凄い傷が付けられていた。
『鋭利な何か』が『五寸釘』だと直感でわかった。
両親は俺を叱らず、母親は俺を抱きしめてくれ、父は警察に電話をかけていた。

10分程してから警察が来た。
警察には父が事情を説明していた。
俺はしばらくの間、母親と居間にいたが、少ししてから警察が居間に来て『あの夜』の事を聞いてきた。
ハッピーとタッチの事、木に釘で刺された少女の写真の事、淳の名前が秘密基地に彫られていたこと…
その後、放課後に出会った事など、『中年女』に関わる全ての事を話した。そして『さっき』の出来事も。。。
鑑識らしき人も来ていて、俺が話している間に窓の指紋を採取していた。
俺が話した内容で警察がもっとも詳しく聞いてきたことが『少女の写真』の事だった。
『その少女』の容姿や面識の有無等聞かされたが、それについては『わからない。』と答えるしかなかった。
そして裏山の地図を書かされ、翌日、警察が調べに行くと言う事になり、自宅周辺の夜間パトロール強化を約束して警察官は帰っていった。
結局、指紋は出なかった。

しばらくして、慎・淳の親から電話がかかってきた。親同士で何やら話していたが『中年女』に関する話、というより、学校にどのように説明するかを話していたようだ。
その夜、俺は何年かぶりに両親と共に寝た。
恥ずかしさなど微塵も無く、純粋に『中年女』が怖く、なかなか寝付け無かった。

次の日の朝、母親に起こされた時にはすでに午前8時を回っていた。
『遅刻する!』と慌てると母が『今日は家で寝てなさい。』と言う。どうやら既に学校に事情を話したらしい。
父はすでに出社していたが、母はパートを休んでいた。
『おそらく、慎も淳も今日は学校を休んでいるだろう…』と思ったが、あえて電話はしなかった。
慎は恐らく、厳格な両親に怒られて、淳の両親は『不登校』になった淳の真実を知り、ショックを受けているだろうと思うと電話するのが怖かったから。
俺は自室に戻り、『中年女』が早く警察に捕まることだけを願っていた。
一時も早く追い詰められる『恐怖』から解放されたかった。


危険な好奇心19へ

2022年05月19日

危険な好奇心17



誰かが窓の外から、窓に顔を付け、双眼鏡を覗くように両手の目を周辺に付け、室内を覗いている。
家の中は電気をつけていない為、外の方が明るく、こちらからはその姿が丸見えだった。
窓に『中年女』がヤモリの如く張り付いている。
俺は腰が抜けそうになった。

これは【動物の本能】なのだろうか?
肉食獣を見つけた草食動物のように、俺はとっさにしゃがみ込んだ。全身が無意識に震えていた。
『中年女』からこちらは見えているのか?
『中年女』はしばらく室内を覗き、そのままの体勢で、ゆっくりと窓の中心にまで移動して来た。
そして『キュルキュルキュル』と嫌な音が窓からしてきた。
『中年女』の右手が窓を擦っている。左手は依然、目元にあり、室内を覗きながら。。。

『キュルキュルキュル』

嫌な音は続く、俺の恐怖心はピークに達した。
何かわからないが、『中年女』の奇行に恐怖して、その恐怖のあまり、声を出す事すら出来なかった。
すると『中年女』はとっさに後ろを振り返り、凄い勢いで走り去って行った。
俺は何が起きたかわからず、身動きも出来ずに、ただ窓を見ていた。
すると、窓の向こうの道路に赤い光がチカチカしているのが見えた。

「警察が来たんだ!」

俺は状況が飲み込めた。
偶然通りかかったパトカーに気付き、『中年女』は逃げて行ったんだと。
しばらく俺はしゃがみ込んだまま震えていた。

『プルルルルル!』

その時、電話が突然鳴った。もう心臓が止まりかけた。
ディスプレイを見ると慎の自宅からの電話だった。俺は慌てて電話に出た。

慎『どう?』
俺『なんか部屋覗いとったけど、どっか行った。。。』
慎『そっか、親帰って来たんか?』
俺『いや、たまたまパトカーが通って、それにビビって中年女は逃げたんやと思う。』
慎『そーなんや!良かった。お前んちの近くに不審者がいるって通報しといてん。でも、あいつに家バレたんやったら、そろそろ親にも相談しなあかんかもな。。』
俺『…』
慎『俺も今日、親に言うから。。お前も言えよ!もうヤバいよ!』
俺『‥うん‥』

そして電話を切った。
その30分後、母親がパートから帰って来た。


危険な好奇心18へ

2022年05月18日

危険な好奇心16


俺は息を止め、動きを止め、気配を消した。
いや、むしろ身動きが出来なかった。まるで金縛り状態…『蛇に睨まれた蛙』とはこのような状態の事を言うのだろうか。
曇り硝子越しに見える『中年女』の影をただ見つめるしか出来なかった。

しばらく『中年女』はじっと玄関越しに立っていた。微動すらせず。
ここに『俺』がいることがわかっているのだろうか?‥。

その時、硝子越しに『中年女』の左腕がゆっくりと動き出した。
そして、ゆっくりと扉の取手部分に伸びていき、『キシッ!』と扉が軋んだ。
俺の鼓動は生まれて始めてといっていいほどスピードを上げた。
『中年女』は扉が施錠されている事を確認するとゆっくりと左腕を戻し、再びその場にとどまっていた。
俺は依然、硬直状態。。
すると『中年女』は玄関扉に更に近づき、その場にしゃがみ込んだ。そしれ硝子に左耳をピッタリと付けた。
室内の様子を窺っている!
鮮明に目の前の曇り硝子に『中年女』の耳が映った。
もう俺は緊張のあまり吐きそうだった。鼓動はピークに達し、心臓が破裂しそうになった。
『中年女』に鼓動音がばれる!と思う程だった。

『中年女』は二、三分間、扉に耳を当てがうと再び立ち上がり、こちら側を向いたまま、ゆっくりと、一歩ずつ後ろにさがって行った。
少しずつ硝子に映る『中年女』の影が薄れ、やがて消えた。

『行ったのか…?』

俺は全く安堵出来なかった。何故なら
『中年女』は去ったのか?
俺がここ(玄関)にいることを知っていたのか?
まだ家の周りをうろついているのか?
もし、『中年女』に俺がこの家に入る姿を見られていて、『俺の存在』を確信した上で、さっきの行動を取っていたのだとしたら、間違いなく『中年女』は家の周囲にいるだろう。。

俺はゆっくりと、細心の注意を払いながら靴を脱ぎ、居間に移動した。
一切、部屋の明かりは点けない。明かりを燈せば『俺の存在』を知られることになりかねない。
俺は居間に入ると真っすぐに電話の受話器を持ち、手探りで暗記している慎の家に電話をかけた。
3コールで慎本人が出た。

『慎か?!やばい!来た!中年女が来た!バレた!バレたんだ!』

俺は小声で焦りながら慎に伝えた。

『え?どーした?何があった?』

と慎

『家に中年女が来た!早く何とかして!』

俺は慎にすがった。

慎『落ち着け!家に誰もいないのか?』
俺『いない!早く助けて』
慎『といあず、戸締り確認しろ!中年女は今どこにいる?』
俺『わからない!でも家の前までさっきいたんだ』
慎『パニクるな!とりあえず戸締り確認だ!いいな!』
俺『わかった!戸締り見てくるから早く来てくれ!』

俺は電話を切ると、戸締りを確認しにまずは便所に向かった。
もちろん家の電気は一切つけず、五感を研ぎ澄まし、暗い室内を壁づたいに便所に向かった。
まずは便所の窓をそっと音を立てず閉めた。次は隣の風呂。
風呂の扉もゆっくり閉め、鍵をかけた。
そして風呂を出て縁側の窓を確認に向かった。廊下を壁づたいに歩き縁側のある和室に入った。縁側の窓を見て違和感を覚えた。
いや、いつもと変わらず窓は閉まってレースのカーテンをしてあるのだが、左端。。。

人影が映っている。


危険な好奇心17へ

2022年05月17日

危険な好奇心15


『そーだよな‥慎の言う通り、中年女はもう俺達の事なんて忘れてるよな‥』と。
まるで自己暗示のように言い聞かせた。
足取りも軽く、石を蹴りながら家に向かった。
空を見上げると雲も無く、無数の星がキラキラ輝き、とても清々しい夜空だった。
今まで『中年女』の事でウジウジ悩んでいたのが馬鹿らしく思えた。
自宅に近づき、その日は見たいアニメがあるのに気付き、俺は小走りで家に向かった。

『タッタッタッタッ』

夜の町内に俺の足音が響く。

『タッタッタッタッ』

静かな夜だった。

『タッタッタッタッ』

ん?

『タッタッタッタッ』

俺の足音以外に違う足音が聞こえる。後ろを振り向いた。
暗くて見えないが誰もいない。気のせいか。
ナンダカンダ言って俺は小心者だなと思いながら再び走った。

『タッタッタッタッ』『タッタッタッタッ』

‥ん?誰かいる。
俺はもう一度立ち止まり、目を凝らして後ろを眺めた。
…やはり誰もいない…
確かに俺の足音にマジって後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえたのだが?!
俺も淳のように自分でも気付かないうちに精神的に『中年女』に追い詰められているのか?ビビり過ぎているのか?
しばらく立ち止まり、ずーっと後ろを眺めた。
ドックンドックン鼓動を打っていた心臓が、一瞬止まりかけた。
15メートル程後方、民家の玄関先に停めてある原付きバイクの陰に誰かがしゃがんでいる。
いや、隠れている。
月明かりでハッキリ目視できないが一つだけハッキリと見えたものがある。

『コートを着ている!』

しばらく俺は固まった。
隠れてる奴は俺に見付かっていないと思っているようだが、シルエットがハッキリ見える!俺は一瞬混乱した。

『中年女だ!中年女だ!中年女だ!中年女!中年女!』

腰が抜けそうになったが、本能だろうか、次の瞬間

『逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ逃げなきゃ!』

ともう一人の俺が、俺に命令する。
俺は思いッキリ走った!運動会の時よりも必死に走った。もう風を切る音以外に聞こえない程、無呼吸で走った。
無我夢中で家に向かって走った。家まであと10メートル。

『!』

一瞬、頭にあることがよぎった。

【このまま家に逃げ込めば間違いなく家がバレる!】

俺はとっさに自宅前を通過し、そのまま住宅街の細い路地を走り続けた。
当てもなく、ただ俺の後方を着いて来ているであろう『中年女』を撒く為に。。。
5分ほど、でたらめな道を走り続けた。
さすがに息がキレて来て歩き出し、後ろを振り向いた。
もう、『中年女』らしき人影も足音も聞こえて来ない。
俺は周囲を警戒しつつ、自宅方面へ歩き始めた。
再び自宅の10メートル程手前に差し掛かり、俺はもう一度首周囲を警戒し、玄関にダッシュした。
両親が共働きで鍵っ子だった俺はすばやく玄関の鍵を開け、中に入り、すばやく施錠した。

『。。。フー。。。』

安堵感で自然とため息が出た。
とりあえず慎に報告しなければと思い、部屋に上がろうと靴を脱ごうとした時、玄関先で物音がした。

『!?』

俺は靴を脱ぐ体制のまま固まり、玄関先を凝視した。
俺の家の玄関は曇りガラスにアルミ冊子がしてある引き戸タイプなのだが、曇りガラスの向こう側に。。。
玄関先に誰かが立っている影が映っていた。
玄関を挟んで1メートル程の距離に『中年女』がいる!


危険な好奇心16へ

2022年05月16日

危険な好奇心14


『このままだったら中年女に住所がバレて…』

俺は恐かった。
すると慎が

『…しばらくあの女に出くわさないように注意して‥』

と言いかけたが俺はすぐに

『もう無理だよ!淳の学年とクラスがバレてる時点ですぐに俺らもバレるに決まってる!』

と少し声を荒げた。

『でも、あの女、、、俺達に何かする気あるのかな』
俺『?』

慎が言いだした。

『だってこの前俺ら学校帰りにあの女に出会ったじゃん。もし何かするつもりならあの時でも良かった訳じゃん』
俺『…』

慎が続けて『それに山…もし俺らのこと許してないなら山に何らかの呪いと彫りとかあってもいーはずじゃん。』
俺『…』

たしかに。山に行った時、確かに新しい『俺達に対する』呪い的な物は無かった。秘密基地は壊されていたが…
新しい『女の子の釘刺し写真』はあったが、俺達‥まして、フルネームが、バレてる淳の『呪いの彫り』はなかった。
俺は内心『そーなのかな?』と反論したかったが、しなかった。
それは、慎の言うとうり実は俺達が思っている程『中年女』は俺達の事を怨んでいない、忘れかけている。と思いたかった。
慎はもう一度

『俺らを本気で怨んでいるなら何かの《アクション》を起こすはずだろ?』

と、まるで俺を安心さすかのように言った。
そして『学校の近くをウロついているのも、俺らを捜してるんぢゃなく《写真の女の子?》を捜している可能性もあるだろ?』

と言葉を続けた。

『そーか…』

俺はその慎の言葉を聞いて少し気持ちが楽になった感じがした。
と言うか慎の言った言葉を自分自身に言い聞かせ、自分自身を無理矢理納得させようとした。
それは【現実逃避】に近いかもしれない。
慎自身もそうだったのかも知れない。もう『中年女』から逃げる術が見つからず、言ったのかも知れない。
しかし、俺は、俺達は

『そーだよな!そのうち俺らのことなんて忘れよる!』
『もう忘れとるって!』
『なんだよチクショー!ビビって損した!』
『ほんま、あの女、泣かしたろか!』

と互い強がって見せた。ある意味やけくそに近かったかもしれない。

しばらくその場で慎と『中年女』の悪口など、談笑していた。辺りは薄暗くなり始め、俺達は帰宅することにした。
慎と別れる道に差し掛かって

『明日の帰り、淳の様子見に行こっか!』『おう!そやな!』

とお互い明るく振る舞って手を振り別れた。
俺の心は少し晴れやかになっていた。


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