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2023年03月31日

マネキンの生首と暮らしていた話 3



集合場所には既に涼子さんとバカ太郎の友達が着いていた。
バカ太郎の友達はボクシングやってるからボクサーとします。
ボクサーは私やバカ太郎の友達の中でも一番しっかりしていて頼りになるゲイ。
一回ひったくり捕まえたことがあるらしい。しかもヒゲイケメンである。短所は思い浮かばない。
私は二人の顔を見てすごく安心した。この二人がいれば大丈夫、と思えたけど、ボクサーはドスのきいたド低音で

「バカ太郎…………てめえ…………」

と会うなり静かにバカ太郎の胸ぐらを掴んだ。
バカ太郎、震えていた。

ボ「何で心霊スポットなんかにコイツ(私)連れてった」
バ「はわわわわわわわわ」

バカ太郎は小動物みたいになっていた。一応話は伝わってるんだなと思った私は涼子さんに気になっていることを聞いた。
何で私をお祓いに連れていきたいのか。
こんなにタイミングがいいなんておかしいと思った。


涼子さんが言うにはこうだ。
涼子さんはブリジットを捨てた後、私のことを友達何人かに相談したらしい。
私が不気味なマネキンの生首を可愛がってて、話しかけている。妙に生首に惹かれているようだと。
最初は精神的なものかと疑っていた(マジか)涼子さんだったが、友達の中に「心霊的な何かじゃないか」とアドバイスしてきた子がいたらしく、しかもそれが説得力のあるものだったらしく、涼子さんはじゃあお祓いに連れていったほうがいいのか、という結論にたどり着いたらしい。
そしてもう既に今日お祓いの約束は取りつけてあるらしく、涼子さんの手際のよさに驚いた。


そこで私はブリジットが帰ってきたのを思い出した。
今まで気にしてなかったブリジット帰還事件が、心霊現象の後だからか少し不気味に思えて、何故か私は正気?に戻り始めていた。マネキンを愛でるのはおかしいかもと。

私「涼子さん、落ち着いて聞いてね」
涼「うん?」
私「ブリジット、戻ってきたの」

涼子さんが息をのむのが分かった。


一方でバカ太郎とボクサーの話も終わったようで、半泣きになったバカ太郎を連れてボクサーが私達の話に入ってきた。
私はブリジットのことも二人に説明した。
バカ太郎はさらにビビっていたが、涼子さんとボクサーは「ブリジットもお祓いに持っていこう」と意見をまとめ、その後ボクサーの車で私の家に寄り、お祓いに行こうと言う話になった。
ちなみに全員ズル休み。
バカ太郎だけはバカ正直に「お祓いに行くことになって……」と上司に電話したらしく、ボクサーに「律儀にそんな説明しなくていい」とか言われていた。


私の家につくなり3人はブリジットに引いていた。
涼子さんは「本当に戻ってきてる……」と真っ青だったし、普段ビビらないボクサーもブリジット見るなり「ウッ」とか言ってた。バカ太郎はブリジット見れないみたいでずっと下見てた。


私はブリジット抱えてバカ太郎の車に乗った。
ボクサーが運転。バカ太郎が助手席、私と涼子さんが後部座席。
皆でお祓いに向かう。
ビビる私とバカ太郎に対してボクサーは「幽霊来ても俺が倒してやるから安心してろ」とか言ってた。
腕力なんかで幽霊どないすんねんという感じだったが、ボクサーが言うと説得力があった。
涼子さんは私の手をずっと握ってくれていて、なんか二人に申し訳なくなった。


お祓いの場所は車で30分くらいで、走っている間は四人もいるせいか安心してたんだけど、あと5分くらいのところで、また異変が起きた。
トンネルの時と同じように車内の空気が変わった。
四人全員黙ってしまった。
ボクサーが「おいこれ……」と何か言おうとし、私はバカ太郎と目を合わせた矢先に、

バァン!!!

昨日と同じ、天井を叩く音がした。
生きた心地がしなかった。


昨日と同じくらいの大きな音でバァン!!!バァン!!!と何回も天井から聞こえた。
涼子さんは「大丈夫!大丈夫だから!!」と私を抱き締めてくれたし、ボクサーも車を走らせ続けてくれたけど、さらに変化が起こった。
天井を叩く音が止まった。
そのかわり、ギッ……ギッ……という音。先程の音が手の平で思い切り叩く音だとすれば、今度は静かに踏みつけるような音がした。
ボクサーが「落ち着け。絶対助かる」とか言ってたけどバカ太郎は泣いてた。
私も動けないままだったけど、だんだん足音は静かになっていった。


足音はしなくなった。
涼子さんとボクサーが「昨日もこんな感じだったか」と聞いてきたので、しどろもどろに踏みつけるような音はしなかった、何かがおかしいということを説明した。
バカ太郎は震える声で「ごめん全部俺のせいだごめん無理無理無理ヒイィ」とか言ってたけど、そうこうしているうちに目的地についた。
普通の、ちょい大きめの一軒家だった。
神社とかじゃないの?とポカーンとしている私をよそに涼子さんはダッシュでピンポン押しにいってた。


中から出てきたのはおじさんとおじいさんの間みたいな年齢の男の人だった。
すごく優しそうだけどホッとすることとか出来なかった。
四人で今あったこと、昨日あったこと、ブリジットのことをまくし立てるように話した。
冷静になれなかった。
おじさんはそれでも「フンフン」と優しく話を聞いてくれて、家の中に私達を案内してくれた。
家の中は二階が仕事用というか、つまりお祓い用になってるとのことだった。


私は何年か前までカウンセリングに通ってたけど、家の中はそういう場所と似たような造りだった。
全体的に柔らかい色あいで家具とか揃えてあるというか、人が安心出来るように作られてる感じがした。
懐かしい気持ちになってその時になってちょっと落ち着いた。
バカ太郎が「俺のせいなんです」とシクシク泣きながらおじさんに話しかけてて、おじさんは「キミのせいじゃないよ」とバカ太郎に話しかけていた。
(バカ太郎はバカですが素直に自分の否を認めることができる奴です)
私はこの時のおじさんは適当にバカ太郎を慰めてるだけとか思ってたけど、おじさんから気になる言葉が飛び出した。

「本題はキミのやったことじゃないよ」

どういうこと?

全員で「???」と思ってると、おじさんは私のほうを向いた。

「あのね、キミなんだよ」

私の目を見ておじさんは言った。
白状しよう。死ぬほどビビった。


マネキンの生首と暮らしていた話 4へ

2023年03月30日

マネキンの生首と暮らしていた話 2



え!?なんで!?私はパニックになって靴入れや周囲を探した。
でもどこにもブリジットはいない。しばらく家の中を落ち着きもなくウロウロした後に気づいた。
涼子さんだ。
涼子さんがブリジット持ってっちゃったんだ。
だから見送りはいいって言ったんだ。持ち出すのを見つからないように。


私は涼子さんに慌てて電話した。
涼子さんはちょっと間があったけど電話に出てくれて、静かに「何」とだけ言った。

私「ブリジットどうしたの」
涼「何?ブリジットがどうかしたの?」
私「ブリジット持ってったの涼子さんでしょ!?」

涼子さんは始めは「ブリジットいなくなったの?「ちゃんと探した?」とかしらばっくれていたが、私がヒステリックにブリジットどうしたの!?何で持ってっちゃったの!?とまくし立てたら諦めたように呟いた。

涼「お前ね、今ちょっと変だよ。様子がおかしい。玄関でマネキン見た時血の気がひいたよ。だからね、今朝マネキン持ってって捨ててきた。あのね、お前いつもと違うよ。明らかにおかしい。私の話を落ち着いて聞いて。私がお前を絶対元に戻してやる」

強い口調だったけど涼子さんは私を諭すようにゆっくり喋った。


私はなんとなく冷静になっていった。
パニックになっていたがブリジットが遠のいたせいか、確かにマネキン置くのは変かなあ、しかも生首だしなあ、と急に人が変わったように思い始めた。
その後はいつも通りに過ごした。ブリジット探したりしなかったな。逆に何で私はあの時マネキンに惹かれていたんだろう?と疑問に思った。
けれどもそれも覆る。


ある日、夜だったかな。家の中にいたんだけど、外から人の喧嘩する声?か何か、大声が聞こえた。私はいつも閉めていたカーテンを開けてなんとなく外を見ようとした。
カーテンを開けた瞬間目に入ったのはブリジットだった。
ブリジットがベランダにいた。


何か、よく人形を捨てたら戻ってくるみたいな話あるじゃん。あれで戻ってくるなら玄関かなあみたいなイメージあったんだけどブリジットは何故かベランダにいた。
私は嬉しかった。ブリジットが帰ってきてくれた!そればかり考えてた。
不思議に思ったり何じゃこりゃとか思ってもしていいのにまったく気にしなかった。


そんで話は飛んで、またある日のこと。
私にはゲイの友達がいる。バカな奴だから名前をバカ太郎にする(ひどい話だけど分かりやすいからね)。
あとコイツは酔っぱらうと「俺は童貞をドブに捨てた」とうわ言みたいに繰り返すが誰もその詳細は知らない。
そのバカ太郎から電話がきた。

バ「明日の夜ドライブいこうぜ〜」

何でいきなりドライブ?と思ったが、バカ太郎はたまにあそんだりすると「まだ帰りたくねえ!もっと遊ぼう」とか言うさみしがりやだったので、唐突に友達に会いたくなったのかな、とか、ドライブは嫌いじゃなかったこともあって、私はバカ太郎とドライブに行くことにした。
何故か集合は夕食後だった。この時点で怪しむべきだったのかもしれない。


次の日、バカ太郎は上機嫌に車を走らせた。何故か山に向かう車。

私「どこ行くん?」
バ「へっへっへ」

バカ太郎は怪しげな笑顔を浮かべていた。この時点で何か言うべきだったんだけど、私はま〜たバカなこと考えてるなあとか考えながら放っといてしまっていた。
段々と走っている車が少なくなってくる。
私たちは薄暗いトンネルの前にたどり着いた。

私「なにここ」
バ「ここは心霊スポットです!」

バカ太郎、ハイテンション。
私はあんまり心霊スポット自体は好きじゃない。怖いし。
でもバカ太郎はやる気満々だった。「トンネルの中で三回クラクション鳴らすと!幽霊が!!」とか喋っていた。それ違う心霊スポットだよね?とか思ったけどバカだからなあと思って放っといた。
しかもコイツは「もしもの時のために」と塩を買ってきたと言ったが、取り出したのは砂糖だった。バカ。

私「止めようぜ。普通に怖い」
バ「おめ〜ここまで来て帰るんかい」

しばらく言い合いしてた覚えがあるが、結局中に入ることになった。


車はトンネルの中に進んでいった。
中はものすごく静かで、だんだんバカ太郎の口数も少なくなってくる。世話ない。
そんでトンネルの真ん中あたりでバカ太郎は車を止めた。

バ「いかん。めっちゃ怖くなってきた」
私「お前めっちゃ頭悪いぞ」
バ「帰りたい」

バカ太郎と私はクラクションを鳴らすなんてことは出来なくて、でも何となく「いやいやめっちゃ真っ暗じゃん」「これは何の事件もなくても心霊スポットになるわ」とかくだらない話をしていた。
そんで「やっぱ帰ろうよ」と話がまとまった途端、車の上に気配を感じた。


なんか、空気?が変わると言うか、重くなるというか、そんな感じ。
バカ太郎も感じたみたいで、私達はゆっくり目を合わせたけど、何も喋れなかった。
そんで、1分くらい経ったあたりで私が「車出せ」とか喋ろうとしたタイミングだったかな。

バァン!!!

と、車の天井を誰かが叩いた。

「うわあああああ!!!」

私達二人は揃って間抜けな悲鳴を上げた。
私は狂ったように「車!車出せ!!」と叫んだけど、バカ太郎は震えるばかりで動けないみたいだった。

私「バカ太郎!ヤバイから!出るぞ!!」

後部座席からバカ太郎の肩をガタガタ揺さぶると、奴はなんとか車を走らせ始めた。
でもまた

バァン!!!

と車の天井が叩かれた。
よく分からないが、「何か」は追いかけて来ているようだった。


私達はビビリ倒し、私は天井を見れないまま俯いて運転席にしがみついてたし、バカ太郎は「ごめんなさい!ごめんなさい!!」とか叫んでいた。
それでも何とかトンネルから脱出出来た。
私達はその後もパニックで、あのトンネルから離れた後もガタガタ震えていた。
二人だけになるのが怖くて、とにかく人のいるところに行こう!となり、24時間やってるスーパーのベンチに座ってから、やっとマトモに話し始めた。

バ「さっきのは何だよ」
私「私が分かるわけないだろ」

みたいな話を何回か繰り返して、当たり前だけど結局結論は出ず、でも何となく落ち着きは取り戻し始めた。

私「……お祓いに行こう」
バ「どこでお祓い出来るの」
私「調べよ」

私達はその後お祓いについて調べ始めた。バカ太郎は友達に何かラインしているようで、私はネットで市内の神社とか調べてた。
気がついたら朝になっていた。
朝になるってだけで救われる気持ちになるもんだね。外が明るくなってるの見ただけで泣きそうになったよ。


そんで、6時くらいかな。私のラインに涼子さんから連絡があった。
「話がしたい」ということだったので、私から電話した。

私「どうしたの?涼子さん」
涼「あのね、急な話なんだけど、今日仕事休める?(この日は月曜だった)」
私「何で?どうしたの」
涼「連れて行きたい所があって」

涼子さんの声は真剣だった。
でも今の私達には「お祓い」という考えしかなく、涼子さんの誘いを断ったが、「お願いだから」「本当に。なるべく早いもうがいいから」と向こうも引き下がらないので、トンネルであったことを細かく説明し、お祓いにいきたいということを伝えた。何しろ私たちはビビリ倒していた。
しかし、涼子さんの口からは意外な言葉が飛び出した。

「大丈夫。私が連れていきたいのもお祓いだから」


結論、私とバカ太郎は仕事をズル休みし、お祓いに行くことになった。
私は涼子さんが何故私をお祓いに連れていきたいのかが気になったが、「急ぐから理由は後で」と言われて、何も解らないまま涼子さんとの待ち合わせ場所にバカ太郎と向かうことになった。
そんで、バカ太郎も友達と連絡が取れたみたいで、合計4人で集まることになった。


マネキンの生首と暮らしていた話 3へ

2023年03月29日

マネキンの生首と暮らしていた話



ある日私は美術館に一人で出かけていたんだ。その美術館の近くというのが人通りは多いんだけどホームレス環境の人達も多くて、道のすみっこに段ボールハウスみたいなのがちょいちょいあった。
私はぼんやりその気色を見ながら美術館から帰る道を歩いていたんだけど、あるものが目にはいった。
とある段ボールハウスのそばにマネキン?の頭部が飾ってあった。
分かる人少ないかもしれないけど、ブリジット・バルドーみたいな髪の長い綺麗な顔で、なんとなく惹かれて近づいていったんだけど、そのマネキンの数歩あたり近くに寄った時かな。
私はこの顔めっちゃ好きだ。持って帰ろう!!と思い立った。何故唐突に思ったのか分からないけど、今考えればあの時からおかしかったみたいだった。


段ボールハウスに「すみません、誰かいませんか」と話しかけると、のそのそとおじいさんが出てきた。

私「突然すみません、私どうしてもこのマネキンが欲しいんですけど、一目惚れなんですけど、大切なものだったりしますか?」
おじいさん「あ??」

おじいさんは意味が分からないようだったけど、私は好きな海外の昔の女優に似ている、と言ったらまあ納得したみたいで「そんなんでよかったらあげるよ」と言ってくれた。
おじいさんによると、おじいさんなりの防犯というか、イタズラ防止らしかった。
ホームレス環境の人達に暴力をふるって楽しむ人達がいるらしい。ひどい話だね。マネキンがあるとなんとなく不気味だから人が近づいてこないらしい。
おじいさんはその後も「違う地区でハウスに放火された人がいて……」とか話してたけど、私は早くマネキンを持って帰りたかったから「そうですかそうですか」とか適当に話を切り上げて歩き始めた。
マネキンの生首小脇に抱えてバスに乗ったら、バス混んでたのに誰も隣に座ってこなかったよ。


帰るなり私はマネキンをカワイイもの棚(私の家には可愛いグッズを飾る用の棚がある)に飾ってみた。
その時はそれで「いいわあ〜」って満足したんだけど、日々が経つにつれてなんとなく「おはよう」「今日はね〜こんなことが……」とか話しかけるようになって、そのうち「いってきます」「ただいま」を言いたいな〜と思って玄関の靴入れの上に飾るようになった。
家に帰ってきたら一番にブリジット(名前もつけた)に挨拶するようになった。
これが2ヶ月くらいかな、続いていたんだけど、ある日のこと。
私とブリジットの生活にヒビが入ることになる。


私には涼子さん(仮名)という恋人がいた。
すごく気のつよい人で、ガンガン自分の意見を言ってくる。気の強い女性が好きな私はメロメロな状態だった。
その涼子さんが家に遊びにくることになって私はルンルンしていた。
……ブリジットを隠さないまま。

私「涼子さん、いらっしゃい〜」

涼子さんが遊びにきた時、私は上機嫌だったし、涼子さんもまあまあ機嫌がよさそうだった。普段あんま笑わない人だから嬉しかったなあ。
でも玄関のブリジットを見たとたん涼子さんは顔色を変えた。

涼「……何これ」
私「ブリジットと言います」

おかしくなっていた私は、りょうこさんもブリジットを気に入ってくれるとばかり思っていたので呑気に紹介したけど、涼子さんは「何これ」「気持ち悪い、何で、何でこんなことしてんの」と慌て始めた。

涼「お前どうしたの。何でこんなことしてんの?」
私「これは何か、道端で運命的な出会いをして、そんで持って帰ってきたの」
涼「はあ!?」

涼子さんは真っ青になって「美容師じゃないんだから」「これは完全におかしい!!」「不気味だって思わないの!?」
普段冷静な涼子さんも流石に焦ったらしく「何か悩みでもあるの!?私に言えないこと!?」と話が飛躍していった。


私は何故か涼子さんが混乱しているのか理由が全く解らなかった。
一応オカルト好きだから、こういう異様にある物に惹かれる時は信連関係のヤバイやつで……みたいなエピソードも読んだことがあったんだけど、その時は完全に忘れていた。頭は花畑状態だった。
私は、何でそんなこと言うの?こんなに綺麗だし不気味なんて言ったらブリジットが可哀想だよ。とか色々言ったら、涼子さんはしばらく黙って考えごとをしているみたいだった。
そして「そうだね。よく見ると可愛いね。私が間違ってたよ」と静かに言って家の中に入っていった。
後で聞いたら、基本的に涼子さんの言うことを聞く私がそこまで言うのを聞いて明らかにヤバイと思って話を合わせることにしたって。


その後も何か、一回もブリジットを否定せずにご飯食べたりのんびりしたりした。
関係ないけど、完全に話を合わせることにした涼子さんは「何が面白いわけ?」と全否定していた。以前私が見てたハム太郎の映画までも「あれは可愛かった。渡すが間違ってた」と首肯していた。
その日はそれで終わり。涼子さんと一緒に寝て、朝を迎えた。


涼「見送りはいいから」
私「なんで?」
涼「なんでも」

翌朝、涼子さんはそんな感じで玄関まで見送ろうとする私を止めて足早に帰っていった。
冷たいなあ、とか考えながら、そのうち私も出かけようと玄関に行ったんだけど、そしたら気づいた。

ブリジットがいない。


マネキンの生首と暮らしていた話 2へ

2023年03月27日

ありがとう 2



次の日、Aは学校に来ました。
思いのほか顔色も良く、沈んだ感じもないので、

「あ〜こいつやっぱり仕返しでウソついてたんだなぁ〜」

と俺は思いました。Aは俺の姿を見つけると、笑いながら駆け寄ってきました。

「よう!」
「よう、じゃねーよお前。やっぱり昨日の話はデタラメだったんだな?」

そう俺が笑いながら言うと、Aは真剣な表情になり、こう言いました。

「いや、あれはウソじゃない。でも、俺はアイツにもう苦しめられなくてすむ。やっと解放されたよ」
「ハイハイ、もういいって。お前も大した役者だよな。でも、解放されたって何だよ?」

と俺が聞くと、Aがニヤリと笑いながらこう言いました。

「次はパパの所へ行く。そうあの女が言ってたから。んじゃ、気をつけろよな」

そう言いながら、Aは教室に入っていきました。
「一本とられた」。俺はそう思いました。
Aの話だと、俺の想像が造り上げたバケモノが、Aの所へ現れ、次に創造主である俺の所へ現れる、と言う事なんでしょう。

「Aもなかなか、味な仕返しの仕方するじゃないか」

と、俺は感心してしまいました。
実際、俺は少しゾッとしてしまったのですから。
しかし、恐怖はこれだけでは終わらなかったのです。


その日は飲み会があったので、俺が帰宅したのは深夜2時過ぎでした。
早く寝たかったので、速攻でベッドに倒れ込みました。
その時、ふと昼間のAが言った言葉を思い出してしまいました。

「次はパパの所に行くから」

いくら冗談だとはいえ気味が悪くなり、早く眠りにつこうと必死になりました。
どうやら酒も入ってた事もあって、いつの間にか俺は寝ていた様です。
ふと喉の乾きで目が覚めると、時刻は午前5時半過ぎでした。
当時は真冬だったので、明け方とはいえ外はまだ真っ暗です。
冷蔵庫のウーロン茶でも飲もうかと、ベッドから腰を上げた時、窓の外から奇妙な音が聞こえてきたのです。

「アッーアッアッアッアッーッ」

皆さんは、「明け方のハトの鳴き声」を聞いたことがあるでしょうか?
一定の間隔で「クックルークックルー」みたいな感じで鳴いてますよね?
俺もハトの鳴き声は何度も聞いたことがあり、「あぁ〜ハトかな〜」と別に気にせずにいたんです。
そして、キッチンでウーロン茶を飲み、再びベッドに入り眠ろうとしました。
すると、またあの音が聞こえてくるのです。
「アッーアッアッアッアッーッ」と。一定の間隔で。
しかも、心なしかさっきより音が大きくなった様な感じがしました。
うるさくて眠れないので、窓を開けてちょっとだけ大きな音でもたてて、ハトを追い払おうと思いました。
窓を開けると、すぐ目の前に小さな公園があります。
言い遅れましたが、当時の俺はの家は新築コーポの1階でした。
不思議な事に、窓を開けるとハトの声は止まりました。

「人の気配を感じて逃げたのかな〜」

と思い、窓を閉めようとすると、公園の入り口の所に人影が見えたのです。


まぁ明け方ですから、ジーさんバーさんが散歩でもしているのかなとその時は思いました。
そして窓を閉めようとすると、またあの音が聞こえてきたのです。


「アッーアッアッアッアッーッ」


一定の間隔で。何度も何度も。
「うるせぇなぁ」と俺は思い、「ワッ!!」と大声を出しました。
すると、またピタリと止まったのです。
今度こそビックリしてハトは逃げただろうと思いました。
その時、俺の視界の中で何かが動いたのです。
あの人影でした。何か動きが奇妙なんです。
まるで「ケンケン」でもするみたいに、ヒョコヒョコ歩いているんですよ。
左にグラグラ、右にグラグラみたいな感じで、重心が定まっていない様な動きでした。
俺は「何だ?酔っぱらいかなぁ〜」と思い、目が合ったりしたらイヤだったので、すぐ窓を閉めました。
そして、窓から背を向けた直後

「アッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッ!!!」

と窓のすぐ外であの音が聞こえたのです。女の笑い声の様に聞こえました。
流石に怖くなり、焦ったのですが、「明け方だった」というのが俺を強気にさせたんだと思います。
あれが深夜とかだったら、ベッドでブルブル震えてるだけだったでしょう。
思いきって「ガラッ」と窓を強く開けました。
誰もいませんでした。
念のため、「おい!誰かいるのか!?うるせーぞ!!」と叫び、再び窓を閉めました。
そして、ベッドに戻ろうとした時、俺は凍り付きました。ベッドに誰かいるのです。
真っ白なワンピースを着て、こちらに背を向けて座っている女が。


幻覚だ、と思いました。昼間、Aが仕返しに俺に怖い話をしたので、その思いが生み出した幻覚だと。

「電気をつけたら消えるだろう」

とふと何の根拠もなく思った俺は、部屋の電気をつけました。
消えないのです。
蛍光灯に照らされた女は、ソバージュのかかった長髪の黒髪で、肩を震わせながらこちらに背を向けて、ベッドの上に座っていました。

「部屋を出ないとヤバい」

と思った俺は、玄関に向かおうとしたのですが、情けないことに腰が抜けたのか、足に力が入りません。
女の肩は、震え続けています。
やがて、「ヒャッ、ヒャッ」とまるで「しゃっくり」の様な声を女は出し始めました。
俺は大声で叫ぼうとしたのですが、まったく声が出ませんでした。
ちゃんと呼吸が出来ていたのかさえ思い出せません。
やがて「しゃっくり」の様な声は「アッアッアッアッアッアッ!!」とあの狂った笑い声に変わっていきました。
女が、ゆっくりとこちらに振り向こうとしています。
上体を不自然な形に曲げながら。「見たら死ぬ」。
直感でそう思ったのですが、瞼が閉じないのです。
「多分、俺の想像した通りの顔があるのだろう」と、不思議にも俺は冷静に考えていました。
恐怖なんてもう通り越していたと思います。女の顔が、完全に俺の方を向きました。
血走った白目。不自然なまでに大きく開いた口。
アゴは、人間の状態でいうなら完全に外れている様子でした。
「あぁ、だからこいつあんな変な笑い声しか出せないのか」と、自分でも意外なくらい冷静に感じました。
もう「殺される」と思ってましたから。
女は、肩を震わせながら「アッアッアッアッアッアッ!!」と狂った笑い声を上げつつ、俺の方に近づいて来ます。体を左右にヒョコヒョコ揺らしながら。
そして、もうお互いの顔がくっつくすれすれの所まで近づいた女は、外れたアゴからヒューヒュー吐息を漏らしながら、ハッキリとこう言ったのです。

「わたしを作ってくれてありがとう」


ここからは後日談ですが、あれ以来あの女は俺の前に現れてないですし、霊障みたいな事も起こってません。
Aに話そうとしても、いつも話を濁らせるというか反らされるみたいな感じで、もう話したくない様子でした。
Aも本当にあの女を見たのか、それとも作り話なのか、または俺の所にだけ現れたのか、今となっては分かりません。
Aとは今でも友達です。

ありがとう



俺がまだ学生時代の話です。友達のAは、凄く怖がりなヤツでした。
夜に仲間で集まって遊ぶときなどは、よく怖い話をしてAをからかって遊んだものです。
で、ある日、学校も休みで暇だったので、Aの家に遊びにいこうかと思い、昼過ぎぐらいにAの家に遊びにいったのです。
2人ともレゲー好きで、ファミコンやスーパーファミコンなどに熱中して

「これ懐かしいなぁ〜」

とか言いつつ盛り上がってました。
んで、ふと気づくともう午後7時過ぎてたんですよ。
とりあえず飯でも食うかぁ〜って事になって、弁当屋に飯を買いにいき、またAの家に戻ってきて、TV見ながら晩飯食ってました。
丁度その時、TVで心霊特集みたいなのやってたんですよ。
怖がりのAは「チャンネル変えようやぁ〜」とか言っていたのですが、Aの怖がってる反応が面白く、また俺もオカルト番組好きだったので、無理矢理チャンネルそのままで見てました。
番組も終わりかけていた頃、ふと俺は、あるイタズラを思いつきました。
ベラなイタズラですが「あっ!!お前の後ろに霊が見えるぞ!!」ってな感じで怖がらせようと思ったのです。
今思い返せば、その他愛ないイタズラが恐怖の始まりだったのです。


俺は、頃合いを見計らって、Aの左肩の上の一点を凝視し始めたのです。
もちろん、いかにも「そこになにかいる!!」とAに思わせる為の芝居です。
やがて、Aはそれに気付きました。
不思議そうな顔をして「何?何見てんの?」と聞いてきましたが、俺はそれに答えず無言で、ただAの左肩の一点を見つめます。
小刻みに震えてみたり、驚愕の表情を浮かべたりしながら。
我ながら、かなりの演技力だったと思います。
それを見て、Aもかなり不安になったらしく、後ろを振り向こうとしました。
その時、「振り向くな!!」と俺は叫びました。
Aはかなりビビッて俺の顔を見ています。
もちろん、俺は心の中では「しめしめ」と思ってましたけど。

「いいか、何があっても絶対振り向くなよ。前の左肩の上に、白目むいて大口開けて、狂ったように笑ってる女がいるんだよ」

と、俺が言ったあと、Aは暫く固まってました。
しかし、いくら怖がりだからといっても、それを鵜呑みに信じるはずもなく、「…お前なぁ、また俺を怖がらせようとしてんだろ…」と、疑いの目を向けてきたのです。
俺はヤバいと思い、

「馬鹿野郎!マジなんだよマジ!とにかくここから出るぞ!!」

と焦って芝居を続けましたが、Aは完全に俺を疑っています。
その時です。

「ははははははははははははは!!!!!!」

と絶妙のタイミングで、女の狂ったような笑い声が聞こえたのです。
俺も想像してなかった出来事にビビリましたが、何の事はない、つけっぱなしにしていたTVの、例の心霊特集の再現BTRの声だったのです。
しかし、Aは気が動転しているのか、俺の顔を見ながら震えています。
「これはイケる!!」と思った俺は、「逃げるぞ!!」と叫び、玄関に走りました。
Aも必死の表情でそれに続きます。
Aの家を飛び出して、100mくらう走ったでしょうか。
俺は突然止まり「あはははははは!!」と笑い出しました。
もうタネあかしをしようかなと思って。
(しかし、思い返してみると、俺も相当イヤなヤツですね…)
Aは、きょとんとした表情です。

「ゴメン、全部ウソ!!さっきの女の声もTVの声!!」

そう言うと、流石にAも理解したらしく、怒りの表情で俺を睨んできます。
そして、Aの俺に対する小言が30分くらい続きました。
そりゃ、怒って当然だと思います。
結局、Aを完全になだめるのに1時間くらいかかりました。
「Aに昼飯を1週間おごる」という条件で…。
んで、それから3日くらいたった(もちろん昼飯は毎日おごりました)学校での昼休みの時、Aが真剣な表情で俺に聞いてきたのです。

「なぁ、この前の件、ホントに冗談だったんだよな?」

俺は、こいつホントに怖がりなんだなぁと呆れつつも、

「当たり前じゃん。全部俺の芝居だって。アレか?まさか本物の幽霊でも見たのか?」

と、からかいつつ聞くとAは

「ヤッパそうだよな。…イヤ、いいんだ。気にせんでくれ」

と沈んだ表情で言いました。俺はちょっとやりすぎたかなと罪悪感を感じていました。


その次の日からです。Aが学校にこなくなりました。
丁度インフルエンザが流行ってた時期だったので、風邪でも引いたのかなと思い、その時は別に気にしませんでした。
しかし、それからさらに3日たってもAは学校に来ませんでした。
携帯にも出ません。流石に心配になり明日の学校帰りにでもAの家に行こう、と思いました。
その日の晩の事です。俺の携帯に着信が来ました。Aからです。

「おう、どうした?風邪でも引いたのか?お陰でこっちは昼飯おごらずにすんだけどなーハハハ」

と冗談交じりに言ったのですが、Aは無言です。ちょっと心配になり

「具合でも悪いんか?どーした?」

と聞くと、かすれるような声でAが言いました。

「…なぁ。この前の事、ホントに冗談だったよな?俺を怖がらせる為のウソだったんだよな?」

俺は、まだそんな事気にしてんのかこいつと思い、

「だから、全部ウソだって!この前も聞いたけど、本物の幽霊でも見たのかよ!?」

と聞くと、Aは暫く無言になり、こう呟きました。

「見た」

それを聞いて、俺も一瞬ビビッったんですが、もしかしたらAは、この前驚かされた仕返しを俺にしようと、ウソを言ってるんじゃないかとも思ったのです。

「またまた。今度は俺を怖がらせようとしてんだろ?それか、神経過敏になりすぎて幻覚でもみたんじゃねーの?それか悪夢とか?」
「…俺も最初はそう思ったよ。だけど、あれから毎晩出るんだよ。最初は、夢の中だった。白目むいて、アゴがはずれんばかりの大口開けながら狂ったように笑う女が。…最初は夢見るだけだった。けど、ここ2〜3日、いつも深夜に目が覚めるんだよ。で、何か気配を感じて横を見ると、その女が隣に寝てんだよ…アッアッ!!アッアッ!!って狂ったように笑いながら!!もしかしたら、それも夢の一部かもしんないけど…お前、ホントに何も見てないんだよな!?俺もう、耐えられねーよ…」


俺は暫くの間、何も言葉が出ませんでした。
半分は、俺に仕返しする為にウソを言ってるのだと思い、半分はあまりにも真剣にAが話しているので、本当の事ではないのかと…でも、あの女は俺が想像で作りだしたモノなので、実在するわけがないのです。

「…とりあえず、明日学校出て来いよ」

そう言って、俺は電話を切りました。


ありがとう 2へ

2023年03月24日

憑かれた彼女 2



その日は朝から彼女は、「しんどいから行きたくない」とか、トイレにこもって出てこなかったりした。
それでも無理やりトイレをこじ開けて何とか服を着させて強引にタクシーに乗せた。
タクシーの中でも彼女はガタガタ震えたり、「帰りたい!」って大声で喚いたりした。
タクシーの運ちゃんも、その異様な光景にかなりびびってる感じだった。
そして神社の前でタクシーから降りて中に入ろうとすると、彼女は一歩も動かなくなった。
俺と彼女の母親で両手を引いても凄い力でビクともしなかった。
俺が彼女を無理やり抱きかかえて連れて行こうとすると、彼女は野太い男の声で「離せっ!触んなっ!離せーっ!」って叫んで凄い暴れ方をした。
顔もこの世の者とは思えないぐらい凄い形相だった。
その日は日曜日だった事もあり、かなり沢山の人が周りに居たが俺はなりふり構わず彼女を抱きかかえ神社の中に入っていった。
彼女はしばらく暴れて俺を殴ったり引っ掻いたりしたけど、境内に近づくにつれ段々ぐったりしていった。


その時一つ不思議な事があったんだけど、俺が彼女を抱えて神社に入って行くとき、俺の耳に凄い怨霊でお経(祈祷)みたいなのが聞こえ出した。
それとともに彼女も段々大人しくなっていった。
神社の本堂に上がり中に居た神主さんは、俺が抱えている彼女を見るなり全てを察したように「大変だったでしょう」と優しく微笑んでくれた。
そして俺は座布団の上に彼女を寝かせ、今までの事のいきさつや、さっき聞こえたお経の事を神主さんに話した。
すると神主さんは

「それは、あなたの守護霊が凄く強力な力であなたを守っているからですよ」

と言ってくれた。
それから「普通の方ならとっくに二人とも憑り殺されてますよ」とも言った。
そしてすぐに彼女への祈祷が始まった。
祈祷の最中も彼女はぐったりしたままで、暴れたり叫んだりすることもなかった。
それでも顔つきは穏やかで、何だかすやすや寝ているみたいだった。
一時間ぐらいに亘り祈祷は続いた。
祈祷が終わると神主さんは、俺と彼女の母親を別の部屋に連れて行き、二人に話し出した。
彼女に憑いているひろしは、相当に念が強く今日、明日には良くならない事や、ひろしが現れなくなった後も喧嘩が絶えなかったのも全てひろしが原因だった事など。
そして神主さんは、こう言った。
「あなた達は一緒に居ないほうがいい。そうしないと、いずれはあなたもやられてしまいますよ」って。
でも俺は彼女の母親の手前「それはできません!」って言いました。
でも彼女の母親は優しくそれでもキッパリと俺にいいました。
「あんたたちしばらく離れて暮らしなさい。〇〇はあたしがちゃんとするから」って。
俺は正直そのとき少しほっとしたのを覚えてる。
そしてその日は彼女は母親の元に帰り、俺は友達に頼んでその日のうちに荷物をまとめて彼女のマンションを後にしました。


それから何ヶ月は、俺の勤め先に彼女から一日に何十回も電話があったり、店の前で待ち伏せされたりしました。
彼女の母親にも何度か相談したりしてたけど彼女の母親が言うには、その頃の彼女は半分ノイローゼみたいな状態だったそうです。
そのうち電話も無くなり、俺も店を変わったので、その後彼女がどうなったのかは解らないけど、人づてに聞いたところによると何処かの病院に入院したそうです。
あれから十年以上が経ち、今となっては何処でどうしてるかは全くわかりませんが、後にも先にもあんな体験は無いだろうと思います。

2023年03月23日

憑かれた恋人



十年以上前の話なんだけど、そのころはバブルの絶頂期で俺は神戸のとあるカラオケバブで働いていた。
で、そのころ同棲していた彼女の話なんだけど、彼女お俺と同じ水商売だったんだけど、ま、時間のすれ違いや、女関係の事とかで喧嘩もよくしたけどそれなりに楽しく暮らしてた。
付き合いだしてひと月経ったある日、俺が家に帰るといつもは先に寝ているはずの彼女が泣いている。
俺が「どうした?」って聞いても何も言わないでただ泣いてるだけ。
俺も疲れてたし、その日はそのまま寝たんだけど、次の日も家に帰ると泣いてる。
でも問い詰めても何も言わない。
そんな事が何日か続いて俺もいい加減頭にきて殴り倒す勢いで問い詰めると、彼女がようやく喋りだした。
「ひろしが死んだ…」って。
「ひろし」ってのは彼女の元彼で俺と付き合う為に別れたので名前だけは知っていた。
俺が「どうして?」って聞くと、ひろしは彼女に未練があったらしく、まだ彼女にしつこく電話していたらしい。
彼女も最初は俺に怒られると断っていたが、そのうち俺との喧嘩の事なんかを相談していたらしい。
で、ひろしが「そんなに辛い思いするなら俺が今から迎えに行ってやる!」って言って、その途中でバイクで事故って、死んでしまったと。


それから何日か彼女も泣いていたけど、そのうちだんだんと元の生活に戻りつつあった。
でも、ひと月経ったある日、それは突然起こった。
夜一緒のベッドで寝れると、夜中に突然彼女が凄い勢いで飛び起きた。
俺もびっくりして飛び起きて、彼女に「どうした?」って聞いても、何も言わず虚ろな目をしたまま。
寝ぼけているのか?と思ってもどうも様子がおかしい。
そんな事が何日か続いたある夜、俺がしつこく「どうした?大丈夫か?」と問いかけると、彼女が虚ろな目をしたまま「ヒヒヒッ」って笑った。
でもその声はどう考えても彼女の声じゃなかった。
男のような低いくぐもった声だった。
俺はそのとき思った。
「これは、彼女じゃないと!」
そのとき俺の頭にうかんだのは、「ひろし」だった。
俺が恐る恐る「ひろしか?」って聞くと彼女は俺を見てニヤッと不気味な笑顔を見せるだけ。
俺がしつこく「お前ひろしやろ?」って聞くと彼女は、男の声で「そうや」って言ってまたニヤリと笑った。
でもそのとき確かに俺は怖かったけど、彼女を何とかしないとと思い意外な程、冷静だった。
それからひろしは、ほとんど毎日やって来るようになった。


それから俺は「ひろし」と少しずつ会話するようになっていった。
虚ろな目をしたまま何も話さない日もあったけど、俺がしつこく話しかけるとなんらかの反応はあった。
話す声は相変わらず男の声だった。
ある夜俺が、彼女(ひろし)に「お前何がしたいんや」って聞いたら彼女(ひろし)は話し出した。

「俺はこいつのことが好きやから、一緒に連れて行こうって思ってんねん。だからお前は邪魔すんな!」

俺はヤバイって思って、必死で彼女(ひろし)を説得しようとした。
それでもひろしは、あの手この手で彼女を連れて逝こうとした。
ある日俺が仕事から帰るとあの所が台所のテーブルで無心で何かボリボリ食べていた。
何を食べているのか?と思って見てみると、それは彼女が医者から貰ってた睡眠薬だったり、また別の日仕事から帰ってくるとベランダの手すりの上に立っていたりと。
でもなぜかいつもギリギリのところで俺が助けてた。
(あとから神社の神主さんに聞いたら、それは俺の守護霊がとてつもなく協力だったらしい)
だから今度はひろしは邪魔な俺を殺そうとしてきた。
さっきまで普通に喋ってた彼女がふらっとトイレにでも行ったのかと思えば、突然包丁を持って襲ってきたり。
その時できた傷が(刺し傷なので病院に行けずに、ほったからしにしていたがだんだん人の目みたいになってきたり)色んな事がありました。あまりに多すぎて省略しますが。
そしてある夜俺はひろしに、どうすれば諦めてくれるのか必死に聞いてみた。


ひろしとの会話の中で俺は、色んな事を聞いてみた。
「お前は何処にいるんや」とか。
ひろしは「空と地上の間の真っ暗で何も無い所に居る」って言ってた。
あと「悪いけどタバコくれるか?」って言ってて慣れた手つきでたばこを吸ったり(ちなみに彼女は煙草を吸わなかった。後から彼女に聞くと、タバコの吸い方とか仕草もひろしと全く同じだったそうです。しかもその当時俺は、ショートホープ吸っていたので、いつも正気に戻ると凄くあたまがクラクラしていたそうです)。
そんなことが3ヶ月程続いたある日突然ひろしが、「俺もそろそろ諦めて行くわ」って言いました。
「そのかわりお願いがあるねん。俺が彼女と一緒に買ったソファーあれは捨ててくれへんか」って。
俺は「わかったからちゃんと捨てるから、お前もちゃんと成仏してくれ」って言った。
そのころには、怖いというより少し友達みたいな感覚だった。
相変わらず俺や彼女を殺そうとしてはいたけど。
で、俺は次の日彼女と神戸港にソファーを捨てに行った。
それでひろしも成仏したのか、その日から出てくることもなくなった。
俺も彼女もだいぶ、まいっていたけどまた徐々に元の生活に戻っていった。
でも、本当は終りじゃなかった。
翌年にひろしは戻ってきた。その一年は更に凄い一年だったけどね。


それから、半年程経った翌年の春にひろしは突然戻ってきた。
そのころ俺と彼女はつまらないことで、ほとんど毎日大喧嘩していた。
付き合いだした頃には、まだそれなりに易しいとこもあった彼女だけどその頃の彼女は、喧嘩するとすぐ包丁持ち出したり、「あんた殺してあたしも死んだる!」みたいな感じで、凄く気性が荒くなっていた。
ま、俺にも悪いところは沢山あったんだけど。
それでもおれは彼女の事が好きだったんで(本当は、新しい家探したりするのが面倒だったってのもあるけど)仲良くしようと思って彼女の4月の誕生日に指輪買ってたりした。
そんな誕生日の前の夜にそれは始まった。
夜俺がふと、目覚めると隣で彼女が上半身起こした状態でぶつぶつ何か喋っている。
「どうした?」って聞いても、虚ろな目でぶつぶつ喋ってる。
俺が声を荒げて「おいっ!どうした?」って聞くと彼女は「ヒヒヒッ」って不気味に笑った。
その声は、まぎれも無くひろしの声だった。
俺が「ひろしか?」って聞くと彼女はまた「ヒヒッ」って不気味に笑った。
「お前ひろしやろ?」って俺が聞くと、彼女は「そうや」って男の声でニヤリと笑った。

「お前、成仏したんちゃうんか?何で帰って来てんねん?」

って俺が聞くとひろしは「明日こいつの誕生日やろ、だから会いに来たんや。それに俺やっぱりこいつの事諦められへんから連れて逝くわ」って。
そしてまた悪夢の様な日々が始まった。前にも増して強烈に。


それからの彼女は、大分やばかった。
風呂場で泣きながら手首切ってたり、飯なんかはほとんど口にしないようになっていた。
ある夜俺が苦しくて目覚めると凄い形相で(でも泣きながら)俺の首を絞めてきたり。
俺も精神的に相当参ってきたんで、彼女の母親に事のいきさつを話した。
それまでもわりと、俺たちの事を気に掛けてくれた彼女の母親は親身に相談に乗ってくれた。
そして「一度神社にお祓いに行きなさい」って言われて近所の割と有名な大き目の神社を勧めてくれた。
そして日曜日に3人でタクシーに乗り神社に行く事になった。


憑かれた彼女 2へ

2023年03月22日

カン、カン 2



現在、私の実家のアパートには母と妹が住んでおり、2つ上の姉は実家からだいぶ離れた場所で就職し、私は隣県の大学に通いつつ一人暮らしをしています。
父は単身赴任で、8年前と変わらず全国を転々としています。
去年の冬、久しぶりに実家から連絡があり、母から『家に戻ってきなさい』と声を掛けられました。
私はとにかく家に帰るのが嫌で、せっかくの休日をあのおぞましい場所で過ごしてたまるものかと思い、母の誘いを毎年頑なに断っていました。
しかし、今年は滅多に戻ることのない姉と父が帰ってくることもあり、母の怒声にも押され、卒業を間近に控えつつも、しぶしぶ帰省することにしました。
恐ろしい目にあった家に再び戻ることにも抵抗は十分あったんですが、実はそれよりも怖いことがありました。
母には申し訳ないことなのですが、母と対面するのが何よりも怖かったのです。
かつて母と電話越しで会話をした時、母が明らかにおかしな様子だったのを今でも覚えています。
母の声なのに、母じゃないモノと会話をしていたあの瞬間、居間でも忘れられません。
…とはいえ、全ては過去のこと。
アレを見た後でも、私の身の回りでは特におかしな事はなく、幸運なことに、家族の中で病気をしたりケガをしたりする人もいませんでした。
姉も妹も元気そうにしてるし、母も父もここ8年で変わったことはないようです。
もはやあの『家族がお終い』という呪いの言葉だけではなく、白い着物姿の女を見たことさえも夢だったのではないか、と思い始めていたところでした。
耳にこびりついているあのイヤな音だって、いつかきっと忘れるに違いありません。
絶対に大丈夫!!と自分に強く言い聞かせ、私は実家に向かいました。
帰省を避けていた本当の理由を母に悟られないよう、せめて実家にいる間は明るく振る舞おうと心に決めていました。


家に帰った私はほっとしました。
父も母も、妹も姉も元気そうで、久しぶりに帰省した私を見て、「卒業は大丈夫なのか」「彼氏はできたか」などと、お約束のお節介を焼くのでした。
あれほど気にしていた母も変わった様子はなく、ホテルの清掃業のパートで日々忙しいとの事でした。
しかし、姉に話しかけることだけは気まずく、躊躇われました。
その理由は、8年前のあの出来事があってから、姉は私のことを今日まで徹底的に無視し続けたからです。
幼い時、あの真っ暗な居間で、私が大声で叫んだことが絶交のきっかけに違いなく、私に対する姉の冷たさは尋常なものではありませんでした。
そんな姉が実家で発した言葉に私は耳を疑いました。

「あんたのこと、ずっと無視してごめん」

まさか、かれこれ8年も無視されていた姉から、謝罪の言葉があるとは思わなかった。

「私こそごめんなさい。でも、突然どうしたの?もしかして、何かあった?」

驚きのあまり、聞かない方がよい事まで聴いてしまったような気がしました。
姉はどこかぎこちない表情を浮かべましたが、昔使っていた姉と私の共同部屋に私を招いて話をしてくれました。

「あたしのうちでね、あの音が聞こえた」

『あの音』という言葉を聞いただけで、私は何かひんやりとしたものが背筋を伝うのを感じました。
姉はそんな私の様子を見てから話を続けました。

「あの日、仕事から帰ってきたのが夜9時頃。で、部屋でテレビ観てたんだけど、風呂場のほうでカン、カンって。ちっちゃい頃、あんたと一緒にその音を聞いたことがあったから、すぐに分かったよ。これはやばいって。近くに同僚が住んでたから、ソッコーで家を出て、その友達のところに行ったの。その友達んちで話をしてたら、また風呂場のほうからカン、カンって。おかしな鉄の音だった。友達も私もパニックになって、部屋を出て警察を呼んだ。結局風呂場には何も無かったし、一応部屋も調べてもらったけど何もなかった」

姉の話は、8年前の忌まわしい記憶を完全に蘇らせました。あの時の出来事は今でも忘れられません。
真っ暗な居間。テーブルに座る女。カン、カンという金属音。振り向く女。おぞましい顔。
何の前触れもなく聞こえるあの音は、自分をしばらく極度の金属音恐怖症にさせるほどおぞましいものでした。
音楽が流れる場所では、カウベルや鈴のような音が鳴らないかヒヤヒヤし、台所のフライパンや鍋の発する金属音に耳を塞いで怯え、遠方に向かうときは、踏み切りのある道路を避けぬば移動もままならない…。
ただ姉の話には、8年前といくつか違う点がありました。
白い着物姿の女を見ていなければ、声も聞いていない。聞こえたのは、カン、カンという不気味な音だけ。
しかも、場所は風呂場。私は居間のテーブルの上にアレが正座している姿は知っているが、風呂場なんて…。
本当にアレだったんだろうか…そう姉に問い掛けようとした時、突然姉はぼろぼろと涙をこぼし始め、泣き出した。
私はうろたえながらも、「まだアレだって決まった訳じゃ…」と姉をなだめようとしました。
すると姉は泣き顔のまま私の顔を睨み、「あんた、お母さんのこと、美香(妹の名前)から聞いていないの?」と、凄みのある声で迫ってきました。
お母さんのこと?妹から?話の方向が見えず当惑しました。
今さっきだって、母の作ったおいしいビーフシチューをいただいたばっかりだった。
母の様子に何もおかしいことなんてなかったし、妹も普段通りだったように見えた。
焦りを隠せない私に向かって、姉は涙を拭いながらこう言いました。

「時々、夜中に家をこっそり出ていくんだって。詳しいことは美香に聞いて」

ただならぬ姉の話を聞いて、私はすぐに妹に部屋に行き問い質しました。

「お母さんが夜に外に出てるって、どういう事?」
「ああ、おねえに聞いたんだね。本当なんだよ。何なら一緒に見る?」

その夜、私は妹の部屋に入れてもらい、妹のベッドの隣に布団を敷き、ぼんやりと天井を眺めながら時間が経つのを待ちました。
妹の話では、母が家を出る時間は大体決まっていて、1時過ぎに家を出て、10分程度で帰ってくるとの事でした。
最初、母の外出に気付いた妹は、気分転換がてらに外にタバコでも吸いに行っているものと思ったらしく、特に気に留めずそのまま寝ていたらしい。
しかし、雪が降るほどに寒くなってからも母の外出は続いた。
そのことを母に聞くと、「何のこと?」という反応。
とぼけている様子もなく、自分が深夜に外出していること自体、全く自覚がなさそうだというのだ。
不審に思った妹は、母の跡をこっそりつけたのでした。

「そろそろだよ」

妹が言うと、私は耳を澄ませた。すると間もなく、ドア一枚隔てた廊下側で何やら人の気配がした。
ガサ、ガサと玄関の辺りで物音が聞こえた。おそらくブーツを履いているのだろうと思った。
そして、キイという音とともに、コッコッコッという足音。間違いなく今、外に出た。
私と妹は顔を見合わせ、なるべく音を立てないようにドアを静かに開け、忍び足で玄関に行った。
鍵は掛かってなかった。妹は注意深くドアノブを握り、そっとドアを開いた。
真っ暗な路地。街灯と月明かりだけが頼りだった。
母はどこに行ったんだと妹に聞くと、驚いたことにすぐ近くにいるという。
嫌な予感がじわじわとしていた。
家から100mほど進んだところ、路地を照らす街灯の下に母はいた。
母は電柱の周りをぐるぐる回っていた。
散歩のようにゆったりと歩くようなペースではなく、かなり速いはや歩き。
あるいは駆け足のようなものすごいスピードで、ぐるぐるぐるぐる回っていた。
昼間に見せてくれたような、7朗らかで優しげな表情は今やどこにもなく、遠目に見ても、般若のような鬼の形相にしか見えなかった。
あまりの恐ろしさに呆然としていると、妹は「もう帰ろう」と促すと同時に、「たぶん、あと10分くらい続くからあれ」と付け加えた。
ものすごく怖かった。母の異常な姿を目の当たりにして、私はようやく事の重大さに気付き始めた。

『あなたも、あなた達家族もお終いね』

今頃になって、あの女のおぞましい言葉が頭の中で繰り返されました。


妹よりも一足早く家に帰ってきた私は、居間の電気をつけようと壁を探りました。
大体この辺にスイッチがあったのに…そう思いながら手探りしていると、指先に角ばったプラスチックの感触が伝わった。
それとほぼ同時に、真っ暗な空間でカン、カンという音が響き渡った。
あっ、と思った時にはすでに遅く、私は壁のスイッチを押してしまっていました。
白い光で照らし出される居間。強い光に目が慣れず、私は反射的に目を細めた。
テーブルの上には白い着物の女が座っていた。
こちら側に背を向けているので顔までは分からなかった。
現実感がまるでなく、冷静な思考が出来ませんでした。
テーブルの上に女が正座しているだけでも異常なのに、点灯したばかりの室内灯も明順応しきれていない私の目には、居間の空間全体が奇妙なものに映りました。
嫌な汗をどっと吹き出ているのを、体に張り付く衣服で感じました。
何分、いや何秒かそうしていたか分かりませんが、私の指が再びパチンとスイッチを押すと、居間は真っ暗な闇に呑まれ、何も見えなくなりました。
そしてちょうどその時、玄関からガチャリとドアの開く音が…妹か。
しかし私の視線は、再び闇に包まれた今のほうに釘付けで、テーブルの上にはまだあの女がいるような気がしていました。
その一方で、玄関ではガサ、ガサという靴を脱ぐような音に続いて、木造の床に体重が掛かるときに鳴るギッ、ギッという独特の軋みの音が。
私は廊下のほうを振り向くことが出来ませんでした。
妹に決まっているはずなのに、そっちのほうを見れない。
いや、何となく分かっていた。
気配というか、勘というか、あやふやなものだったけど、後ろから近づいているのはおそらく妹ではなかった。
形容し難いほどおぞましい感覚が、ギッ、ギッという軋み音とともに強くなっていく気がした。
そして、真っ暗な居間の真ん中、テーブルが置いてある辺りで、カン、カンという金属音が鳴った。
意識が遠のく寸前、私のすぐ後ろにいた人物の手にガッと肩を掴まれたのを確かに感じた。


因みに、その翌日、私は姉の部屋で寝ていたそうです(姉が起こしてくれました)。
姉も妹も、あの真っ暗な居間で私の肩を掴んだということは一切ないと断言しており、しかも、妹が帰ってきた時は、母はまだ帰宅していなかったそうです。
靴だけでなく母の寝室を確認したから絶対に確かだ、との事でした。
妹曰く、母の異常な行動は今でも続いているようです。

「精神科にも相談したし、うちでお祓いだってしてもらった。通報されたこともあるからね」

後で聞いた話だが、妹はすでに姉から詳しい話を聞かされており、父には内緒で色々やっていたらしい。
だがいずれも徒労に終わった。
母の異常な行動を見れば、効果がないのは一目瞭然だった。
そして、私にはもう分っていた。あの女のせいだ。
姉の家で鳴った音だって、あの夜の母の恐ろしい姿だって、全部あの女が原因なんだ。
そう思うと怒りが込み上げてくる。
でも、怒り以上に、あの女が恐ろしくてたまらない。
なるべく早いうちに父に打ち明け、アパートを引き払うことを検討しています。

2023年03月21日

カン、カン



幼い頃に体験した、とても恐ろしい出来事について話します。
その当時私は小学生で、妹、姉、母親と一緒に、どこにでもあるような小さいアパートに住んでいました。
夜になったら、いつも畳の部屋で、家族揃って枕を並べて寝ていました。
ある夜、母親が体調を崩し、母親に頼まれて私が消灯をすることになったのです。
洗面台と居間の電気を消し、テレビ等も消して、それから畳の部屋に行き、母に家中の電気を全て消した事を伝えてから、自分も布団に潜りました。
横では既に妹が寝ています。
普段よりもずっと早い就寝だったので、その時私はなかなか眠れず、しばらくの間ぼーっと天井を眺めていました。
すると突然。静まり返った部屋で、「カン、カン」という変な音が響いたのです。
私は布団からガバッと起き、暗い部屋を見回しました。しかし、そこには何もない。
カン、カン。
少しして、さっきと同じ音がまた聞こえました。どうやら居間の方から鳴ったようです。
隣にいた姉が、「今の聞こえた?」と訊いてきました。空耳などではなかったようです。
もう一度部屋の中を見渡してみましたが、妹と母が寝ているだけで部屋には何もありません。


おかしい…確かに金属のような音で、それもかなり近くで聞こえた。
姉もさっきの音が気になったらしく、「居間を見てみる」と言いました。
私も姉も一緒に寝室から出て、真っ暗な居間の中に入りました。
そしてキッチンの近くから、そっと居間を見ました。
そこで私達は見てしまったのです。
居間の中央にあるテーブル。いつも私達が食事を取ったり団欒したりするところ。
そのテーブルの上に、人が座っているのです。
こちらに背を向けているので顔までは判りません。
でも、腰の辺りまで伸びている長い髪の毛、ほっそりとした体格、身につけている白い浴衣のような着物から、女であるということは判りました。
私はぞっとして姉の方を見ました。姉は私の視線には少しも気付かず、その女に見入っていました。
その女は真っ暗な居間の中で、背筋をまっすぐに伸ばしたままテーブルの上で正座をしているようで、ぴくりとも動きません。
私は恐ろしさのあまり足をガクガク震わせていました。
声を出してはいけない、もし出せば恐ろしい事になる。
その女はこちらには全く振り向く気配もなく、ただ正座をしながら私達にその白い背中を向けているだけだった。
私はとうとう耐え切れず、「わぁーーーーーーっ!!」と大声で何か叫びながら寝室に飛び込んだ。
母を叩き起こし、「居間に人がいる!」と泣き喚いた。

「どうしたの、こんな夜中に」

そう言う母を引っ張って居間に連れていった。
居間の明かりを点けると、姉がテーブルの側に立っていた。
さっきの女はどこにも居ません。テーブルの上もきちんと片付けられていて何もありません。
しかし、そこにいた姉の目は虚ろでした。今でもはっきりと、その時の姉の表情を覚えています。
私と違って彼女は何かに怯えている様子は微塵もなく、テーブルの上だけをじっと見ていたのです。


母が姉に何かあったのか尋ねてみたところ、「あそこに女の人がいた」とだけ言いました。
母は不思議そうな顔をしてテーブルを見ていましたが、「早く寝なさい」と言って、3人で寝室に戻りました。
私は布団の中で考えました。アレを見て叫び、寝室に行って母を起こして、居間に連れてきたちょっとの間、姉は居間でずっとアレを見ていたんだろうか?
姉の様子は普通じゃなかった。何か恐ろしいものを見たのでは?そう思っていました。
そして次の日、姉に尋ねてみたのです。

「お姉ちゃん、昨日のことなんだけど…」

そう訊いても姉は何も答えません。下を向いて沈黙するばかり。
私はしつこく質問しました。
すると姉は、小さな声でぼそっとつぶやきました。

「あんたが大きな声を出したから…」

それ以来、姉は私に対して冷たくなりました。
話し掛ければいつも明るく反応してくれていたのに、無視される事が多くなりました。
そして、あの時の事を再び口にすることはありませんでした。
あの時、私の発した大声で、あの女はたぶん、姉の方を振り向いたのです。
姉は女と目が合ってしまったんだ。きっと、想像できない程怖ろしいものを見てしまったのだ。
そう確信していましたが、時が経つにつれ、次第にそのことも忘れていきました。


中学校に上がって受験生になった私は、毎日決まって自分の部屋で勉強するようになりました。
姉は県外の高校に進学し、寮で生活して、家に帰ってくることは滅多にありませんでした。
ある夜、遅くまで机に向かっていると、扉の方からノックとは違う何かの音が聞こえました。
カン、カン。
かなり微かな音です。金属っぽい音。
それが何なのか思い出した私は、全身にどっと冷や汗が吹き出ました。
これはアレだ。小さい頃に母が風邪をひいて、私が代わって消灯をした時の…。
カン、カン。
また鳴りました。扉の向こうから、さっきと全く同じ金属音。
私はいよいよ怖くなり、妹の部屋の壁を叩いて「ちょっと、起きて!」と叫びました。
しかし、妹はもう寝てしまっているのか、何の反応もありません。母は最近ずっと早寝をしている。
とすれば、家の中でこの音に気付いているのは私だけ…。
独りだけ取り残されたような気分になりました。
そしてもう1度あの音が。
カン、カン。
私はついに、その音がどこで鳴っているのか分かってしまいました。
そっと部屋の扉を開けました。真っ暗な短い廊下の向こう側にある居間。
そこはカーテンから漏れる青白い外の光でぼんやりと照らし出されていた。


キッチンの側から居間を覗くと、テーブルの上にあの女がいました。
幼い頃、姉と共に見た記憶が急速に蘇ってきました。
あの時と同じ姿で、女は白い着物を着て、すらっとした背筋をピンと立て、テーブルの上できちんと正座し、その後姿だけを私に見せていました。
カン、カン。
今度ははっきりとその女から聞こえました。
その時、私は声を出してしましました。
何と言ったかは覚えていませんが、またも声を出してしまったのです。
すると女は私を振り返りました。
女の顔と向き合った瞬間、私はもう気がおかしくなりそうでした。
その女の両目には、ちょうど目の中にぴったり収まる大きさの鉄釘が刺さっていた。
よく見ると、両手には鈍器のようなものが握られている。
そして口だけで笑いながらこう言った。

「あなたも…あなた達家族もお終いね。ふふふ」

次の日、気がつくと私は自分の部屋のベッドで寝ていました。
私は少しして昨日なにがあったのか思い出し、母に、居間で寝ていた私を部屋まで運んでくれたのか、と聞いてみましたが、何のことだと言うのです。
妹に聞いても同じで、「どーせ寝ぼけてたんでしょーが」とけらけら笑われた。
しかも、私が部屋の壁を叩いた時は、妹は既に熟睡していたとのことでした。
そんなはずがない。
私は確かに居間でアレを見て、そこで意識を失ったはずです。
誰かが居間で倒れている私を見つけて、ベッドに運んだとしか考えられない。
でも改めて思い出そうとしても、頭がモヤモヤしていました。
ただ、最後のあのおぞましい表情と、ニヤリと笑った口から出た言葉ははっきり覚えていた。
私と、家族がお終いだと。


異変はその日のうちに起こりました。
私が夕方頃、学校から帰ってきて玄関のドアを開けた時です。
いつもなら居間には母がいて、キッチンで夕食を作っているはずであるのに、居間の方は真っ暗でした。
電気が消えています。

「お母さん、どこにいるのー?」

私は玄関からそう言いましたが、家の中はしんと静まりかえって、まるで人の気配がしません。
カギは開いているのに…掛け忘れて買い物にでも行ったのだろうか。
のんきな母なので、たまにこういう事もあるのです。
やれやれと思いながら、靴を脱いで家に上がろうとしたその瞬間、
カン、カン
居間の方で何かの音がしました。
私は全身の血という血が、一気に凍りついたような気がしました。
数年前と、そして昨日と全く同じあの音。
ダメだ。これ以上ここに居てはいけない。恐怖への本能が理性をかき消しました。
ドアを乱暴に開け、無我夢中でアパートの階段を掛け降りました。
一体何があったのだろうか?お母さんは何処にいるの?妹は?
家族の事を考えて、さっきの音を何とかして忘れようとしました。
これ以上アレの事を考えていると、気が狂ってしまいそうだったのです。
すっかり暗くなった路地を走りに走った挙句、私は近くのスーパーに来ていました。
「お母さん、きっと買い物してるよね」と一人で呟き、切れた息を取り戻しながら中に入りました。
時間帯が時間帯なので、店の中に人はあまりいなかった。
私と同じくらいの中学生らしき人もいれば、夕食の材料を調達しに来たと見える主婦っぽい人もいた。
その至って通常の光景を見て、少しだけ気分が落ち着いてきたので、私は先ほど家で起こった事を考えました。
真っ暗な居間、開いていたカギ、そしてあの金属音。家の中には誰もいなかったはず。アレ以外は。
私が玄関先で母を呼んだ時の、あの家の異様な静けさ。あの状態で人なんかいるはずがない…。
でも、もし居たら?私は玄関までしか入っていないのでちゃんと中を見ていない。ただ電気が消えていただけ。
もしかすると母は、どこかの部屋で寝ていて、私の声に気付かなかっただけかもしれない。
何とかして確かめたい。そう思い、私は家に電話を掛けてみることにしたのです。
スーパーの脇にある公衆電話。お金を入れて、震える指で慎重に番号を押していきました。
受話器を持つ手の震えが止まりません。1回、2回、3回…コール音が頭の奥まで響いてきます。

『ガチャ』

誰かが電話を取りました。私は息を呑んだ。耐え難い瞬間。

『もしもし、どなたですか』

その声は母だった。その穏やかな声を聞いて、私は少しほっとしました…。

「もしもしお母さん」
『あら、どうしたの。今日は随分遅いじゃない。何かあったの?』

私の手は再び震え始めました。手だけじゃない。足もガクガク震えだして。立っているのがやっとだった。
あまりにもおかしいです。いくら冷静さを失った私でも、この異常には気付きました。

「なんで…お母さ…」
『え?なんでって何が…ちょっと、大丈夫?本当にどうしたの?』

お母さんが今、こうやって電話に出れるがずはない。私の家には居間にしか電話がないのです。
さっき居間にいたのはお母さんではなく、あのバケモノだったのに。
なのにどうして、この人は平然と電話に出ているのだろう。
それに、今日は随分遅いじゃないと、まるで最初から今までずっと家にいたかのような言い方。
私は電話の向こうで何気なく私と話をしている人物が、得体の知れないもののようにしか思えなかった。
そして、乾ききった口から何とかしぼって出した声がこれだった。

「あなたは、誰なの?
『え?誰って…』

少しの間を置いて返事が聞こえた。

『あなたのお母さんよ。ふふふ』


カン、カン 2へ

2023年03月20日

今神様やってるのよ



うちの母方の実家が熊本県にあるんですけど、ずっと実家に住んでいる母のお姉さんが、先日遊びにきました。
ちょうど『ターミネータ2』がやっていて、皆で見ていたんです。
その中のシーンで、核が落ちた瞬間かなんかの想像シーンで、遊んでいた子供達が焼けちゃうシーンがありましたよね。
あれ見ながら、「瞬間で皮とかもズルっといっちゃうんだね、コエ〜」とか話していたら、おばちゃんがテレビを見ながらさりげなく、とんでもないことを言い出しました。

おばちゃんの長女がこの前双子を生みました。
すごく華奢な娘さんだったんで、すごい難産だったそうです。
2ヶ月前から入院して、もう母体も危ないので、予定よりも早く帝王切開で生んだそうです。
今でこそ母子ともに元気ですが、そのころおばちゃんは初孫と言うこともあって、心配で心配で夜も眠れなかったそうです。
ある日、病院から帰って家にいると、電話がかかって来ました。相手は幼馴染でした。
昔は家も近かったのですが、その人は引っ越していってしまったそうです。
それでもとても仲がよかったので、ずっと連らkは取り合っていました。
ところがここ10年ほど、ぱったり連絡が取れなくなってしまったそうです。
娘さんのことで疲れていたおばさんは、思いがけない懐かしい人からの電話で、本当にうれしかったそうです。
早速、近状などを報告し合おうとすると、その人は想像もしなかったことを言い出しました。

『Kちゃん(おばさんの名前)、私ね、今神様やってるのよ。たくさんの人たちを救ってあげてるの。Kちゃんも困ったことがあったらいつでも電話して。助けられると思うわ』

昔のままの非常に明るく感じのよい声で、彼女はこんなことを言いました。
あまりにも普通に言われたので、おばさんは「ああ、そう…」としか言えなかったそうです。
しかしその夜、自分の娘と生まれてくる赤ちゃんのことを考えると、おばさんも疲れていたのでしょう、そんなとんでもない電話さえ、「ひょっとしたら、これもなにかの縁かもしれない。明日頼んでみよう」と思ったそうです。
何かすがるものができたせいか、おばさんはその夜、久しぶりに眠りに落ちました。

夢の中に娘と、まだ子供の頃のままの幼馴染が出てきました。
娘もなぜか妊娠しておらず、3人で仲良く遊んでいる夢でした。
幼馴染もニコニコしていて、お花畑のような所で、すごく幸せな夢です。
マリのようなもので遊んでいました。
おばさんにマリが飛んできました。おばさんは胸で受け止めました。
するとそのマリの中から皮がずるっとむけるように、大きな溶けかかった幼虫のようなものが出てくるではありませんか。
思わずおばさんは悲鳴を上げました。
誰かに投げようにも、そこは母親。とっさに娘より幼馴染のほうを見ました。
それを見て幼馴染は、ケラケラと狂ったように笑います。
その目は全部黒目で、穴が開いているようです。
幼虫の鳴き声と、幼馴染の幼い子供の笑い声が響くように重なります。

おばさんは飛び起きました。全身汗でびっしょりです。

「その時ね、私思ったのよ。あの幼虫はね、赤ちゃんだって。どうしてか分からない。人間の姿なんてもちろんしてなかったし、鳴き声は獣のようだった。でもね、絶対赤ちゃんだと思ったの。すごく不吉に感じて、その後せっかく連絡してくれた幼馴染に、怖くて連絡できなかったの」

その後、何とか無事に子供は生まれ、そんな電話があったことも忘れていました。
そしてある日、何気なくつけたTVのワイドショーに、その幼馴染の名前と、夢とはかけ離れた年老いた女性の顔が映し出されたそうです。
少し前にありましたよね。
怪しげな新興宗教を信じて、死んでしまった我が子の皮をはいだら生き返ると言われ、その通りにしてしまった若い夫婦。
その夫婦が信じていた神様こそが、おばさんの幼馴染だったそうです。
その幼馴染は何不自由ない家庭環境にいたはずなのに、おばさんの知らない10年の間に何があったのでしょう。
おばさんは怖いというよりも、みていて涙が止まらなかったそうです。
もし彼女に相談していたら…。
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