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2022年10月31日

廃屋とカセットテープ 4



「……ママァ、トモエちゃ……から、おこってるよオ……」

テープは止まっている。
タカオは、そう覚えていないが、恐らく悲鳴を上げたという。
逃げる。
ここはだめだ。
振り返ると、子供部屋の隅の本棚の陰に人がいた。
背中を向けてうずくまっているが、ヨウスケだ。
物陰になって気付かなかった。どうやらペンライトも持っていない。

「ヨウスケ、何で返事しなかったんだよ。ここ出よう!」
「痒い……痒い……」

そういってヨウスケはモゾモゾと動いている。
タカオはいらだち、

「早く立てよ」

そういってヨウスケの肩をつかみ、自分のほうへ向かせた。
ヨウスケは自分の顔をかきむしっていた。
顔面の皮膚が破れ、そこらじゅうに血が滲んでいる。
それでもヨウスケはカサカサと顔をかき続ける。

「何やってんだ、やめろよ!」
「痒いんだよ……痒いから……」

トッ……トッ……

その時後ろに気配を感じた。
タカオが振り向くと、質素というよりは粗末なぼろけた服を着た、自分たちと同じ年頃の少女が部屋の中央に立っていた。

「わアアアア!」

今度ははっきりと、タカオは悲鳴を上げた。
少女は顔を伏せており、表情は見えない。しかし、あまりにも異質すぎる。
イヤフォンから、また音が漏れていた。
誰かが何かを喋っている。
タカオは震える声で、

「お前か……? これしゃべってんの、お前か」

少女は答えない。
タカオはイヤフォンを耳に当てた。

「……あた……じゃないよ、そ……子は……トモエ……」

声が今までよりも遠い。

「……お……ってる……らア……二階は駄……だよオ……」

『アアア』

いきなり別の声が割り込んできた。
同じタイミングで、目の前の少女が顔を上げる。
その顔は、真っ赤な掻き傷でズタズタだった。
かさぶたを更にかきむしったようにえぐれと盛り上がりが重なり合い、傷という傷が血にまみれている。
それでも明確に顔面に浮かんでいる怒りの表情に、目が合ったタカオは我を失った。

「うわっ、うわあっ!」

悲鳴を上げ乍らタカオは、ヨウスケを引きずるようにして逃げ出した。
つい駆け込んだ先は、パイプ・ベッドの部屋だった。
いけない、と引き返そうとして、足がすくんで止まった。
ベッドに誰かが座っている。

「……ごめんなさい……」

理由は分からないが、タカオはその誰かに涙声で謝った。
さっきの少女とは違う、どうやらもっと大人らしい誰か。女性のようである。
それが、どうやらこちらも怒っているようなのだ。
目元は暗くて見えないが、顔の向きからタカオと目が合っているのが分かる。
怖い。
タカオは金縛りのようになっていた。

ト…ト…ト…

背後からの足音が迫り、タカオは我に返った。
またもヨウスケを引きずり、ハシゴを目指す。
少女がどの辺にいるのか知りたかったが、振り向く気などとても起きなかった。
しかし、近い。
とても。

ト、ト、ト

「うあああん、うああああっ……」

だらしない声を上げながらタカオは必死でヨウスケの体を引いた。
もう少女が手の届く位置まで来たのではないかと思われた時、ようやくハシゴに着いた。
ヨウスケを先に穴に押し込む。
ハシゴは斜めにかかっていたので、その上を転がるようにして、ヨウスケは垂直よりはやや傾斜をつけて一階の廊下に落下した。
大きな音が立ったが、この際、多少の怪我など気遣っていられない。

「うう、うううーっ」

泣きながら急いでタカオも穴に入る。
焦っていたせいで頭から降りてしまった。
危険だとは思ったが、足を先に下ろす余裕などない。
穴に完全に体が入る直前、

ガリッ!

足首の辺りに痛みが走った。

「ひいっ!」

恐怖で体が跳ね、その衝撃でハシゴが穴の縁から外れた。
そのままハシゴごと落下し、ヨウスケのときよりも大きな音を立てて、タカオの体が廊下に打ち付けられてしまった。
背中を打ってしまい、呼吸が上手く出来ない。

「ヒッ、ヒッ、ヒイッ……」

走らなければ。
追い付かれる。
なのに、体が動かない。
しかし、足音が迫ってくる気配は無かった。
見たくは無かったが、天井の穴を見る。
幸い、ペンライトはヨウスケを引きずる時も握りっぱなしだったので、それで照らした。
暗い入り口の奥には闇が広がるばかりだった。
この家の構造では、家の内外のハシゴさえ外してしまえば誰も下に下りてくることは出来ない。
自分が見たモノはそれに倣うのだろうか。
とにかく、タカオは怪我はしなかったらしいことを確かめて、ぐったりしたヨウスケを引きずって家を出ようとした。
先程投げ捨てた薬の空き箱が足に当たったので、端のほうへ蹴った。
外へ出ると、雨はまだ降り続いている。
タカオは今の家から一番遠い家を見つけ、中には入らずに疵の付いた縁側へヨウスケを寝かせた。
そこまですると、猛烈な疲労と眠気を感じた。
だめだ、今寝たら、あのおっかないのがまた来たらどうする……。
しかしまぶたが落ちるのを止められない。
あの音がしたら逃げるんだ。
トッ……トッ……トッ……
というあの足音。
意識がもやに包まれてきた。
トッ……トッ……トッ……
が聞こえたらいけない。
トッ……トッ……トッ……
いけない……。
トッ……トッ………………
…………………………………………


廃屋とカセットテープ 5へ

2022年10月28日

廃屋とカセットテープ 3



気味の悪さは恐怖に変わった。
イヤフォンを耳からはずし

「ヨウスケ」

二階へ呼びかける。

「ヨウスケ、出ようよ。俺、ここの家嫌だよ」

しかし返事は返ってこない。
二階の奥まで入り込んでしまっているのだろう。
止むを得ずタカオはハシゴを上り、二階へ着いた。
その時に気付いたのだが、このハシゴは二階へは収納できない造りのようだ。
ハシゴを上へ引き上げようとすると穴の口の所で引っかかり、二階へ持ち込めないようになっている。
タカオは意外に広い二階を、ヨウスケの名前を呼びながら見て回った。
入り口の狭さと不便さから、物置のような場所を想像していたのだが、まるで違う。
なんとなく、一階よりも建材が新しい。建て増ししたのかもしれない。
古い家には珍しく、簡素な風呂や、申し訳程度ながら炊事場、手洗い(便は外の便壺へ落ちる仕組みと見られた)まであり、二階だけでもある程度生活が出来る造りだ。
居室は三部屋ほどあるようだった。
そのうちの一つはただの狭い和室で、襖も外されていたから、ペンライトで照らせばヨウスケが居ないのはすぐに分かった。
もう一つの部屋の戸を開けて照らすと、そこは異質な空間だった。
六畳ほどだろうか、板の間の中央にこの家には不釣り合いなパイプ・ベッドが置いてある。
床にはそこかしこに黒っぽい染みがあり、ベッドの布団も薄暗い様々な色の染みがついていた。
カビだろうか。
しかし、近づいて確かめる気にはなれない。ただでさえこの部屋は、他よりもひときわ空気が重い気がする……。
この部屋には収納も無く、ヨウスケはやはり見当たらない。
最後の部屋は外に向かって大きく枠を取られた窓……というよりガラス戸があった。
その向こうで時折、垂れ込めた雲に稲光が見える。
ここはどうやら子供の居室だったらしく、おもちゃや古いマンガ本、勉強机に教材が少し残っていた。
それらから見ると、赤いランドセルこそ見当たらなかったものの、住んでいたのはどうも女の子らしい。
さっきのテープに声を吹き込んだ子だろうか。
思い出して、少し身震いした。
視界は相変わらず悪く、物の多い子の部屋では隅々まで様子を把握できない。

「ヨウスケ、どこに居るんだよ。隠れてんのか?」

返事は無い。
代わりにカサカサと、ネズミとも家鳴りとも木揺れともつかない音が小さく返ってきて、家の中の静寂がより強調された。
一階からは、使い物になりそうな家財道具の殆どが持ち去られていたというのに、二階には生活用品が残されている。
壁には部屋の住人だったらしい女の子が描いた思わしき絵も飾られていた。
画用紙に、友人らしい少女と手をつないで遊ぶ姿が描かれている。
なぜか二人とも同じ服を着ていたが、子供の描く絵などそんなものだろう。
そういえば、先程の炊事場(台所と呼ぶには粗末過ぎた)にはいくらかの食器もあったな、上下まるで別の家だな……と思いながら、ガラス戸へ近づく。
確か方角的に考えると、最初に見た外付けのハシゴは、このガラス戸の下に付けられているはずだ。
少々広いからと言って、これだけ読んで出て来ないということは、もうヨウスケはここにいないのではないか。
この部屋に取り付けられたハシゴを伝って、二階から外に出たんだろう。
タカオはそう決め付けつつあった。
ガラス戸を開けると、ベランダ上の小さな張り出しがある。
やはりここが、第二の玄関なのだ。

「おいヨウスケ、降りてんのかア?」

しかし

「なんで……?」

思わず声が出た。
張り出しの下で、朽ちたハシゴが中程から折れ曲がって古屋の壁に寄りかかっていた。
先程下で見たときには分からなかった。
これでは使い物にならない。
確信していたことをあまりにも直接的に裏切られて、タカオは思い切り動揺した。
じゃあヨウスケはどこだ。
心細さが倍増し、孤島にただ一人残されたような気持ちになる。

「なんなんだよゥ……」

足がすくみ、冷や汗が吹き出た。
雷の合間の静けさの中で、外したイヤフォンから音が漏れていた。
もう聞く気などならない。止めよう。
リュックに収めてあるステレオの本体を取り出し、カセットを抜こうとした。
取り出しボタンを押す間際に気付く。
まだ停止していないはずなのにテープが回っていない。
電源ランプも消えている。
電池は充分なはずだ。
見ると、ステレオのプラスチックの合わせ目から水が染み出している。
リュックから染みた水で壊れたらしい。
………………。
いつから壊れていた?
震える手でコードをつまみ、イヤフォンをそっと耳に当てた。


廃屋とカセットテープ 4へ

2022年10月27日

廃屋とカセットテープ 2



とりあえず、山中で迷子という目下の危機を逃れ、安堵する。
そうなればこの年頃の少年たち、やることは決まってくる。

「タカオ、探検しようぜ」

手分けをしてあちこちを覗いた。
部屋はそれなりの広さのものがいくつかあり、大人の寝室から子供部屋と思われる室まであった。
どうも家の中には家財道具といえるものが極端に少なく、引越し後のような空ろさである。
玄関の鍵すらかけていないのだから、値打ちのあるものは全て持ってどこかへ移ってしまったのだろう。
風呂は朽ち放題、乾ききった手洗いは汲み取り式の、古色蒼然たる古家だった。

「なんだこれ、水が出ないじゃんか」

ヨウスケが言うので見てみると、台所の蛇口が握りを外されており、水が出せなかった。
まあ、とうに止まっているだろうが。
トッ……トッ……とトイレから雨粒の落ちる音がする。
電灯も点かないので、視覚に関しては、闇に慣れてきた目と、ペンライトだけが頼りである。
廊下を歩いていたタカオのつま先に、ポツリと何かが当たった。
拾い上げてみると、タバコの箱よりも一回り小さいくらいの、深緑色の紙箱だった。
表面に、ロゴマークらしき丸い模様と共に品名らしき語が書かれている。

『□神□薬』

神と薬は画数の多い旧字、□の部分はぼろぼろにかすれてしまって読めなかった。
手に取った時点でひどく軽いことは分かっていたが、一応開けてみる。
やはり、中は空だ。
神と来たら、神経か何かの薬が入っていたのだろうか。
飲み薬というよりは、膏薬か何かのチューブが入っていたような様子だった。
大して面白みも感じず、箱を放り捨てて廊下に目を戻すと、カセット・テープがひとつ、これも落ちていた。
古ぼけたカセットにどんな歌が吹き込まれているのか、興味がわいた。
ラベルには手書きの文字があったが、汚れている上に、タカオよりもはるかに下手な字で書かれていて、読めない。
トッ……トッ……とまた雨粒の音がした。
タカオはずぶぬれのリュックからヘッドフォン・ステレオを取り出すと、シャツで水をぬぐい、カセットをはめ、再生ボタンを押した。
シャアシャアと空音が鳴り、曲の前奏が始まるのを待つ。
しかし聞こえてきたのは歌ではなく、人の声だった。
テープと言えば楽曲が入っているとばかり思いこんでいたタカオは、面食らった。
どうも、幼い女の子と、その母親の会話らしきものが録られている。

「……ねえママア、何……てるのオ……この……たち……」
「……」

女の子の声は傷みながらもなんとか聞き取れるが、母親の声は答えてはいるものの殆どかすれて聞こえない。
少女のほうは、おそらく以下のような言葉だったらしい。

「……ねエ、あたしたち、どいしょうかア……」
「……」
「……いやよオ……あたしおりこうじゃないものオ……」
「……」
「……ハシゴ、はずしてあるんだからア……」
「……………………」

ハシゴ?
さっき窓から見えた外のハシゴのことかと思ったが、目の前に、廊下に寝そべるように置かれた室内ハシゴが見えた。これの話だろうか。
その真上の天井に正方形の穴が開いている。
大きくはないが、あの穴へハシゴをかければ、人ひとりなら抜けられるだろう。
他に階段らしきものは見つからないので、これで上下階を行き来する構造のようだ。

トッ……トッ……

またも同じ音を聞く。
タカオは、この時初めて悟った。
音は、屋根伝いではなく、今の自分の真上からする。
これは雨音ではない。
反射的にヨウスケを捜した。
ヨウスケはタカオから見える居間で壊れた水屋を懸命にあさっている。
当然、一回で。
ということは。

トッ……トッ…………

これが自然音でないとしたら、もしかしたら今、上に誰かがいる。
タカオはイヤフォンをつけたまま、居間へ寄った。

「ねえヨウスケ、上に誰かいるよ」
「ええ?……本当かよ?」

調子付いていたヨウスケはハシゴと天井の穴を見て、面白いおもちゃを見つけたような顔になって、

「俺、上るよ、ここ」

と言うや否や、ハシゴを持って天井の穴へ引っ掛けた。

「やめときなよ。泥棒だったら危ないじゃんか」
「こんなとこにどんな泥棒が来るんだよ。タカオも来いよ」

そう言い残してスルスルとヨウスケは二階へ上る。

「俺、行かないよ」

タカオのほうは、好奇心よりも薄気味悪さが勝っていた。
やることがなくなったので、再びテープに耳をすます。

「……どうしよオ……」
「……」

母子がやり取りになっていないので、相変わらず内容はさっぱり分からない。

「……この人は、いかな……の……なア……」
「……」
「……そりゃア、そのほうがい……けどオ……」
「……」

……?
なんとなく母子の会話に違和感を感じた。
しかしその正体を見つける前に、窓の外で稲妻が走った。
少しだけ遅れて

ゴロッ、ゴロ……

と思い音が古い家を震わせる。
黒ずんだ材木のヒビ一つ一つにまで空気の振動が伝わり、そしてすぎに通り過ぎた。
しかし雷が去っても、タカオの体は震えていた。
今のはなんだ。
雷が鳴った時……。
同じように雷音が聞こえた。

イヤフォンの中から。

そして違和感の正体にも思いが至る。
『この人』って、誰だ。
目の前の人物を指差して言うような声音だった。
誰のことを言ってる?
どこへ?二階へ?
まさか……『この人』って……


廃屋とカセットテープ 3へ

2022年10月26日

廃屋とカセットテープ



廃屋とカセットテープとは洒落怖の一つである。


【内容】



以前友人から聞いた話だ。
仮にタカオとする。その友人は、テレビで傷害事件の類が報道されるたびに画面を凝視し、容疑者などの名前を確認する奇癖があった。
僕とお酒を飲みに行っても、呑み屋のテレビから流れるニュースを気にするので、

「何か、逮捕されるような恐れのある友達でもいるのかい」

と酒の席でからかったら

「信じなくても別にいいんだけどね」

と言い置いて、小学6年生の時の体験の話をしてくれた。





タカオが田舎の小学生の頃、巷ではCDがカセット・テープに取って代わりつつあった。
しかし大して裕福ではなく、流行にも疎かった小6のタカオは、父親から譲ってもらった古い型のカセット用ヘッドフォン・ステレオで十二分に満足していた。
右肩から背中を通って左腰へ繋がるタイプの、ポシェットのようなリュックにそれを仕込んで外へ遊びに行くのが常だった。
当時ちょうど自転車を買ってもらい、音楽を聴きながら漕ぎまわすのが好きだったらしい。
ただしこれは危険だからと後にこっぴどく怒られてからは控えていたが。

ある日、タカオの同級生のヨウスケが、自分も自転車を買ってもらったことをタカオに告げた。

「タカオ、お前も自転車持ってんだろ?二人でどこか遠出しようぜ」

タカオのほうも大賛成で、例のリュックを背負って、日曜日の昼に二人で自転車を漕ぎ出した。

「ヨウスケ、どこまで行く?」
「今まで行ったことの無い道がいいな!」

二人は普段めったに行かない田舎道を選び、一心不乱にペダルを漕いだ。
どこをどう走ったのか解らないまま、夕方に差し掛かる頃、ついに二人は峠に入り、山道へと入りこんでしまった。
探検好きの年頃である。
獣道のかたわらに自転車を停めて、道なき道へと踏み込んでいった。
近所の林の中に二人で作ったような秘密基地をここにも……と目論んだのだが、そんな時間の余裕があるわけも無く、すぐにすっかり日が暮れて、山中の暗闇に包まれてしまった。

「まいったなあ」

タカオがぼやくと額に雫が当たった。
雨だ。
夕立ほど激しくは無いが、小雨でもない。
二人は転ばない程度の早足で帰り道を探した。
しかし日が暮れた獣道など、藪と変わりがない。
二人は、共に読んでいた科学雑誌の付録についていたペンライトを持ってきていたので、それを灯して歩く。
しかし自転車を停めた場所は見当も付かなくなり、二人はなんとなく降る坂を捜し、山から下りようとしていた。
が、下っては上り、上がれば下って、もう方向感覚も麻痺している。
タカオの呼吸に涙声が混じり始めた。

「ヨウスケ……どこだろう、ここ……」
「わかんねえから、迷ってんだろオ」

ヨウスケの息も荒い。
歩き続けていると、途中、ぼろぼろになったピンク色のテープが張ってあった。
人工物を見つけて少しほっとした二人だったが、随分前に張られたもののようで、テープの先を見てみると途中でちぎれて地面に落ちている。
余計にもの悲しくなって、タカオたちは先へ急いだ。
雨が。嫌がおうにも二人の疲労を倍加させる。

「あいて!」

いきなり、木立の間でヨウスケが声を上げた。
見ると、今度は木立の間に細い縄が渡してあった。
ヨウスケはそれが顔を当てたらしい。
これは途中でちぎれておらず、暗闇の中、二人のわずかな視界の外まで続いている。
タカオはなんとなく嫌な予感がしていた。
さっきのテープといい、まるで立ち入り禁止の有刺鉄線を思い起こす。
ただであえ真っ暗な山の中で、不安は膨らみきっているのだ。
しかし、ヨウスケの大声がタカオの思案を断ち切った。

「タカオ、見ろあれ!」

タカオの指差す先には、山中を切り開くようにしてぼんやりといくつかの民家が見えた。
一も二も無く、二人は民家へ突進した。
しかし程なく気付く。
その家々はどれも無人だった。
とうの昔に打ち捨てられた集落のようだ。

「気味悪いなあ……」

つぶやきながら、タカオはそのうち一軒の家の引き戸を引いた。
開く。

「開くよヨウスケ。入れるよ」

中を見ると、土間だの荒れきった畳だの、かなりの年代物であることが見て取れた。
埃もひどく、せきが出る。
それでもとりあえず雨宿りにと、二人は畳へ上がって、シャツを脱いで土間へ絞った。
パタパタと水滴が落ち、少し埃が舞う。
ペンライトで家の中を照らした。
二階建ての、古い木造住宅である。それなりに広いようだ。
窓の外に、家へ外付けされたハシゴが見えた。
屋外から直接二階に出入りできる造りらしい。


廃屋とカセットテープ 2へ

2022年10月25日

模倣(巣くうもの G)



また時間ができて、少し前にあった話をまとめたんで、気晴らしに投下。

去年の秋の話です。
H、コンパクトの件で懲りたのかと思ったら、懲りてない。
相変わらず『みえる』のを利用してちょいちょい稼いでるようで、その奴の『小遣い稼ぎ』に関わる話。
いつもHはいらんことする、と奴の絡む話は常に不愉快(でも他に“みえるひと”の知人がいないため縁切り困難)のAが、文句より興味で根掘り葉掘り聞いてた、怖いよりは珍しい(らしい)事例です。

コンパクトの件を投稿してから、何ヶ月かしたころ。
Hから連絡がきえ、飲みに行くことになった。
んで呼び出された先が、変な場所だった。
少し距離のある市で、街外れに森っぽい林があって、その中。
おいおい、と思いつつ指示された通り砂利を敷いた道に入ったら、何か寂れた石碑みたいなもんが奥にあった。
石碑の横で待ってたHに「おいこら」と言うと、奴は「大丈夫、大丈夫。居るけど、しょぼい奴だから♪」とかほざいて、カッカッカと笑った。

「そーか。んじゃ、とっとと出て飲みに行こうぜ」

と俺が言ったとこで、Hの携帯が鳴って奴が出た。

「はーい♪J(俺。以降、俺の略称はJとします)来たよ。あ、ここ」

Hが携帯を切り、砂利道を歩いてきたBに手を上げた。

「やっほ♪Jくーん」

手を上げ返しながら歩いてくるBの姿。手にはコンビニ袋。

「お疲れー。Bさん、コンビニ行くとき迷わなかった?」
「少しだけ。横道間違えちゃったみたいでした、ここ戻るときも」

答えたBが、コンビニ袋の中身――雑誌とかお茶ペットとかガムとか、何か細々したものを、下げてたバッグに詰め替え始める。
その隙に俺がHを見ると、小声でコソコソ説明してくれた。

「頼まれごとで、話の段階じゃよくみえなくてさあ。最悪のケース想定してBさん呼んどいた。勇み足だったけどねー」

そう言や、会う日時と場所を指定したのはHだっら。
何も知らない既婚女性のBを一対一で呼び出せる仲じゃないから、俺を口実に使いやがったらしい(Cは居やがったんだろう。怨霊塊憑男Iの件以来、Bの話はしたくないっぽい様子だったから)。
呆れた俺に構わず、Hは続けました。

「JとBさん、仲悪くはないんだよね?今日は一緒に飲みでオッケー?一軒目でBさん帰して次行ってもいーよ。一軒目、俺おごるよ」
「や、B一緒で全然構わないでしょ。3人でいいんじゃね?」

で、そのまま飲む店の相談をしてたら、またHの携帯が鳴った。
携帯を見たHは、俺とBに向かって言った。

「悪い。ちょい待ってて。少しかかるかもしんないけど」

Bは

「J君といるし、大丈夫〜。お喋りしてます〜」

と能天気に答え、Hは俺だけにこそっと

「この辺、Bさんいたら寄っても来れない連中ばかりだからさあ。全く心配しないでいーよ♪」

と言い、夕日の射し始めた木立の間に消えてった。
そいでBとダラダラ学生時代のこととか喋ってたら、ものの数分で

「おい、J(俺)!!」

ってHの声がした。
何か妙にあせった声だった。

「……?おう。何だ、早いじゃん」
「あー。ちょい、こっちきて!」

ややあって、道じゃなくて林の中から現れたHは、頭に蜘蛛の巣を引っ掛けて肩に葉っぱつけて、変に青ざめていた。

「…………?H、何かあったのか」

俺が尋ね、Bも「Hさん〜?」と不思議そうに聞いたが、Hは答えもせずに凄まじい勢いで近づいてきた。
そして俺の腕をがっしり掴んで、結構な力で引っ張りつつ「来いよ」と言った。
何か変だ、と思って、俺は何となく腕を引く力に抵抗して、引っ張り合うようになったところへBが割って入るように近寄って「Hさん、何したんですか?」と言った。
そしたら、ぶったまげたことに、凄い勢いで向き直ったHがばっと俺を放したかと思うと、Bの胸倉を掴んで、ぶん殴った。
バキッと、グーで、女の顔面を。
悲鳴を上げて倒れるB。
俺は仰天して、動くことも出来ずにただHの形相を見ていた。
さらにBを引き起こして2発目を入れようとするHを、やっと動いた俺が引き止めて手を放させた。
Bは、よろけながら立ち上がり、止める間もなく、

「キャ―――――!助けて―――――――――!」

みたいに叫びながら、林の中に走りこんで逃げだした。
慌てて追おうとした俺の肩を掴んだHを見て、表情に正直びびった。
これマジでHか?と思った俺の耳に、Aの声が刺さった。

『J君?Hさん?大丈夫――――――――――――?』
「あ――――大丈夫!今、撃退したから!」

Hが張り詰めたような大声を返す。

「……ほい、J」

やっと少し表情の和らいだHは、携帯を俺の耳に突きつけた。

『J君?もう居ない?Bのニセモノ』
「……え?」

思わず聞き返した俺に、Aはざらっと説明してくれた。
……さっきまで俺と居て、Hを待ちながら俺と大学時代の話とかしてて、Hに殴られて走って逃げたBは、Bじゃない、と。
完全に思考の停止した俺をHが引っ張って、林から普通の道路に出てしばらく歩いて、コンビニを見つけて近づいた。
もう薄暗くなった駐車場にBが居て、携帯をいじってました。

「あ、J君!Hさん!」

元気よく声を上げたBの顔には、殴られた痕など全くなく。

「待ち合わせ場所に戻ろうとして道に迷って、コンビニ戻ちゃってー。メール出しても返事ないから、電波悪いのかなって焦ったんですよ」
「……うん、電波悪かったしJ来たし、動いちゃった。メールは来てないなあ」

辛うじて笑ってみせたHと、まだ思考停止した俺の携帯が、一緒に鳴った。

『Bです。すみません!コンビニには着いたんだけど、そこ戻る道が解らなくなっちゃいました。コンビニで待ってるので、J君着いたらコンビニ来てくれませんか?』

着信したメールを読んでやっと頭が動き始め、混乱の渦に巻き込まれた俺をよそにHとBはまた飲みの店を相談していた。
決めるとさっさと電話して予約した2人に引きずられ、とりあえず飲んで喋り、一段落したら早めに店を出て

『主婦だしお子さん居るから、そろそろお開きで』

とHがBを言いくるめて解散し、俺は半ば混乱したまま帰宅しました。
数日後、Hと連絡を取りAを交えて3人で会って、やっと俺は事情説明を受けることができました。

『分身というか、自分の姿を見る人が出る場所。祟り等がないか調べてくれ』

との依頼を受け、見た人と直接会ったHが、敵の気配や強さが何故か読めないことに心配になり保険にBを呼ぶことを考え、口実に俺との飲みをセッティングしたのは、前述の通りです。
とりあえず気配を探りに1人で現地入りしたHは、相手の気配が予想以上にしょぼくて貧相なことに拍子抜けしたそうです。
確かに霊的なものは居る、だけど年代物の割りに本当にしょぼい。
相談者に会って読めなかったのは、しょぼすぎて気配が弱かったからだ、と納得したほどで。
分身とかを“みせる”以上のことができそうには全く思えないから気にする必要なし。それが当初のHの結論でした。

「いやね、本っ当に貧相だったのよ。来て損したと思うくらい」

と。
との依頼を受け、見た人と直接会ったHが、敵の気配や強さが何故か読めないことで、Bが待ち合わせ場所の石碑に来て、二人でJ(俺)を待ったが、最悪の事態を想定して(ヤバいモノが居たら、うまいことBのアレを使ってB当人には気づかせずに片付けよう、と算段していたらしい。Hのこういうところが、Aの神経に障るようですが…………)、待ち合わせ時間をずらしてあったので、暇すぎて間が持たない。
Bがガムが欲しいと言ったので、コンビニへの道を教えていかせた。
1人残って、漂えども姿はない貧相な気配をお遊び程度に探ってるうち、俺到着。
つづいてB帰還。

「その時はね、本当に変だとは思わなかったんだよ。アレもいたし」

HもAも、みえるひとは皆、人をみるときには外見だけじゃなく自然に気配や憑いてるモノもみるのだそうです。
Bは全く普通に間違いなくBの気配を持っていて、“アレ”も居た。
何も疑う要素はなかった。
ただ一つ違和感があったのは、ちゃんとみえる“アレ”の気配が変に弱いというか薄いこと。
気配の質は同じだから、Bの中に引っ込むと気配が弱まるのか、と解釈してスルーしていたのだが、仕事電話で石碑を離れてからもやはり気になる。
何だろう、あの、みえるのに弱いってか、薄いってかペラいってか、と考え続けてふっと頭に浮かんだ言葉。

『ハリボテみたいな気配なんだ』

いや、引っ込むと外側が抜け殻っぽく残るのかも、と考えても違和感が打ち消せない。
形だけ残して中身が引っ込むとか、何か凄く不自然だ。
そういう偽装とかハッタリとか一番無縁な、生の力がむき出しでいるような存在が、Bのアレなのに。
どんどん不審が増してきたので電話を中断して引き返し、こそっとBの写メを撮って、Aに送って聞いてみたそうです。
すぐにAから返信があり『Bのアレじゃない。絶対違う』と断言。
アレは引っ込むと形が見えなくなる。その時も気配は残り香みたいにBを包んでいる。弱くなんかならない、と。
その返事を受け取ったHは、瞬時に結論に到達したそうです。
アレが偽物で背負ってるBが本物ってのは、絶対に、ない。
有り得ない。どんなにそっくりでも、Bごと偽物なんだ、と。
……その辺の理屈は、正直俺の理解できない点もありましたが、とにかく“偽物のアレを背負った普段通りのB”は、みえるひとの始点では有り得ないようです。
なお、Hを焦らせAにも驚きだと言われた事実。
それは、石碑に居たモノが気配や憑き物を模写したことでした。
2人の言では、他人の声や姿を真似るモノはワリといる。
そして人間の姿で模した程度のものは、本人の気配とか憑依している霊とかを写さないので、幻覚でも化けてても、みえるひとには疑問の余地なく解るのだそうです。
なのに今回のモノは、本人の気配やオーラ(的なもの)どころか、背後の霊の気配まで含めてコピーしようとしたわけです。
これは本当に、みるのも聞くのも2人とも初のケースだそうな。

「Bさんのアレも特殊レアものだし、さすがにコピりきれなかったんだろーけど。それでも、あの精度だよ?ふつーの人なら、守護霊まで完全にコピーできる可能性が高いよ」
「Hさんが騙されたくらいだもんね…何だろ?ソレ、弱いってのもフリじゃなかったんですか?」

Aの質問にHが身振り手振り交えて説明した限りでは、Aの見解も

「それは確かに。取るに足らないレベルですよね」

とのことだった。

そのしょぼい貧相な気配がBを模して何をしたのかも、謎です。
あの時Hは俺が狙われたのかと慌てたそうですが、冷静に返ってみると、生身の人間1人をどうこうできる程の力はなかったようだと。
そして今となっては、調査できない状態だったりする……と言うのは、あの日、Hに全力でぶん殴られたモノに何があったのか、あれ以降、その貧相な気配の持主は居なくなってしまったからです。
後日、石碑を訪れたH(with俺とA)は「居なくなっちゃった」と苦笑しながら言いました。
Aも同意でしたし、その頼まれ事は、どうやらこれで解決ってことになるらしい。
パニックでフルスロットル状態のHに殴られて、消えたか逃げたかしたんじゃないか、とはAの言です。
また、Hの突然の暴行に仰天した以外は特に体感がなかったと思った俺だが、後で思い出すと、ひとつだけ確かに変なことがあった。
石碑の横でB(だと思っていた何か)とひとしきり喋った記憶があるのに、何を放したか全く思い出せないんだ。
『大学の頃の話をした』と言うような曖昧な記憶だけ残ってて、何年生の時のこと、とかどこのイベントの話、とかが全く解らない。
飲み屋で本物のBが喋ってたことは、俺が上の空君だったにも関わらず、しっかり覚えているのに。
HとAに話すと、さらに難しい顔で

「ってことは、幻覚系じゃないよな」
「変身で、Hさん騙すほどそっくり?うーん……」

と、二人して首を傾げていました。
長いわりに結局オチなしですが、以上です。

2022年10月24日

呪いのコンパクト(巣くうもの F)


“巣くうものシリーズ”で纏めさせてもらったので、説明は省略。
仕事が多忙で2ちゃんから遠ざかってたが、時間ができたんで投下。
今年初めのことだから、もう結構前のことです。
前回書いた怨霊のカタマリ憑き男Iの件で知り合った、俺の人生2人目の「おそらく本当にみえるひと」Hがらみの事件だ。

BがAに連絡して、会おうと言ったそうで。
思えば、学生時代からAはBを(というかBについているモノを)避け気味だったが、BはAを気に入っていたようだった。
去年から何だかんだでAがBと関わってるから、このまま友達付き合いを復活した(現在進行形)んじゃないかと思う。
Aは断る理由もなく、先の件で引け目があったのでOKしたものの、Bと2人きりはどうしても気が進まず、俺を呼び出した次第だ。
引け目とは、怨霊塊憑男Iの家に熟睡中のBが連れ込まれた段階で反対しなかったことだそうだ。
A曰く、前回は本当にとんでもなかったらしい。

「井戸の時は逃げたら済んだけど、あの時はHさんが道を塞いでいたから……ドアが揺れ始めてからずっと、止めなきゃいけなかったんじゃないかって思って、もしBのアレが負けたらBはどうなるの?って凄く怖かった」

と。

当日、Bと待ち合わせ場所で会った時、すでにAが微妙な顔してた。
ファミレスに入ると、Bが「コレ見て♪」と鞄から何か出した。
コンパクト?ってのか?丸い平たい質感で、凄く古っぽい感じ。
横のAは、また表情が固まってる。

「アンティークなんだよー。この前ほら、肝試しなのに到着前に私が寝ちゃったでしょ?Aと俺君が旦那に連絡してくれて」

Bは、あの後Cの呼び出しで“肝試しスポットを教えてくれた人”としてHに会ったそうだった。

「Hさん、おかしな場所に行かせたせいで倒れちゃったんじゃないかって謝ってくれてね、お詫びにコレくれたの♪結構よくて気に入ってるんだけど、安いものじゃないみたいなんだよね。お返しにお菓子でも送ろうかなと思ってさー」

適当に喋ってBを帰した後、Aが速攻でHに連絡して、数日後に会った。
現れたHは、俺らがBに会ったと聞いた段階で何やら察してたようだった。
Aが「何考えてんですか!」と怒鳴ると、Hはフフンと鼻で笑って言った。

「いいアイディアだと思わない?散らばらないよ、あれ」

……呪いの部屋と同じように呪いのグッズも現実に存在することを、改めて知らされました。
いや、指輪の一件で既に判っていたように思うが、古物やリサイクル品に稀にでもその類のものがあると思うとやはり怖い。
件のコンパクト、確かにモノは良いがHは一銭も払っていないそうです。
むしろ金をやるから黙って引き取ってくれと泣かれた代物だと。
前回の話の怨霊塊憑き男IのためにHが情報収集してる間、Hが「みえるひと」だという情報も、広く垂れ流しだったようで、お祓いしてくれと妙なものを持ち込んでくる奴は割と居たと。
Hは、何も憑いてない場合はそう教えてやり、たまに出てくるホンモノについては小遣い稼ぎのネタにしていたと言っていました。
金目の物で自力で片付くものは引き取り(そして片付けて売り)、奉納で済むものは処理方法を助言したりして、ポツポツ稼いでいたのだそうな。

「もちろん命は惜しいから、手に負えないのはムリだっつって断ったよ。あの鏡はね、間違えた。鏡から離れないんだから最悪本体ごとおっぽり出せば済むわけで、リスクも小さいと思ったんだけどね。甘かったねー。だからBさんに頼んじゃった」

Hは、からからと笑って言った。
Hに聞いたところでは、そのコンパクト?は持ち主の不在を許さないのだとか。
捨てようとすると邪魔が入って、どうしても捨てられなかったそうです。
憑いてるモノはHの手に余るから長く持ってたくないし、かと言って他人に譲るのも良心が痛むので、持て余してた一品だと。

「本体から他所にいけない奴だし、Bさんのアレと勝負できるレベルだから問題なし。Bさん。寝なかったっしょ?」

Bが例のコンパクトをしばらく愛用してくれたら擦り切れて消え去ってくれるだろう、と言うのがHの言い分でした。
で、実はここまでが前フリです。
再度俺にAから連絡が来たのが、確か5月下旬。
……B、コンパクトを手放してしまったと。
Hにも連絡したら、あのひょうひょうとしたHがあわくったそうです。
俺も巻き込まれで付き合い、3人で次の所有者を訪ねました。
AがBに聞いたところだと、友人(学生時代のではない、俺達とは面識なし)に見せたら、凄く良い品だと言われ羨ましがられ、ちょっとだけ貸して欲しいと言うから貸したら帰してくれない、と。

「携帯に連絡してもメールしても返事がないの」

と言った時のAの表情を五階したようで「貰い物なのに申し訳ない」とBは凹んでいたそうです。
……Aが苦労してBから聞きだし名前その他の情報を頼りに俺達がB友人宅を探し当てた時、B友人は離婚前提の別居だとかで、家には居ませんでした。
ご主人だけいて、俺達の目的が奥さんに貸したコンパクトだと言うと、出てきて暗い顔で言葉少なくモノを渡してくれました。
そのとき、両足首に包帯を巻いていた彼の右袖口からちらりと、手首より少しだけ上辺りに何か見えました。
モノを引き取りB友人宅を辞して、俺はAとHに確認しました。
…見間違いじゃなかったです。ヒトの歯型だった、と2人とも言いました。
その後の2人の会話は、以下の通り。

「奥さんの歯型だよね、アレ」
「だろうね。……やっちゃったねえ」

さすがのHが、真っ青に青ざめていました。

「Hさんのせいだよ」
「うん、俺のせい。……呪いのコンパクトだよって言っといたから、Bさん離さないと思ってた」
「勝手なこと言わないで下さい。大体、高価なものなら泥棒にあうことだって考えられるでしょ。何でそんないい加減なことするんですか」

Aが物凄く刺々しい口調で言ってHが黙り込み、気まずい気分で俺らはHと別れました。
例のコンパクトは、Hが持ち帰りました。
もっともA曰く、もうコンパクトには何もないそうでした。
Bが愛用していた数ヵ月で削り取られ擦り減り続けたモノの、最後っ屁と言うか断末魔と言うか、そういうものをB友人は受けてしまったのだと思う、と。
その後、俺が6月にHと飲んだとき(Iの件以降、何となく付き合いをしている)に聞いたところでは、まっさらになった例のコンパクトを売り払った金に色をつけて、例のB友人である女性に送金したそうです。
送金先は自腹で調べたそうで、いつも能天気に見えるコイツでもあの一件はこたえたんだな、と思いました。

また最後になりますが、そのコンパクトに憑いてたものの正体について。
Bのコンパクト消失以前、AがHを呼び出した際に少し聞きました。
……俺にはよく判らなかった話ですが、Hが“みた”ところでは『4つ足の哺乳類に昆虫の羽がある』生き物がしがみ付いてたとか。
Aには姿は見えなかったが(能力の差か、Bが居たことによる影響かは解らないと)、ぶんぶんと背筋の寒い羽音が絡まりついてたと。
その中では1人だけみえない俺が

「哺乳類に虫の羽って何?異次元の生き物とか?」

と聞いたら、AとHはまるで狙ったようなタイミングでバッと目をしらしたのが印象的でした。
Aは黙ってましたが、Hはハハハとわざとらしく笑い

「……人間が、怨みとか呪いだけで精神のカタチまで捻じ曲げてあんなモノになれるってのが怖いよね。本当に」

と言いました。
正直、俺はグロいものを見る力が無くてよかったです。
曖昧な部分が多いですが、以上です。

2022年10月21日

タスマニアたけし




タスマニアたけしとは、主になんJに出没していた怪奇文章を有する文豪である。独特の口調、意思疎通の難解さ、珍獣レベルの存在感、姉を愛する気持ちなど、様々なモノを持ち合わせている。
あ…このコピペみたことある、と思ったものが意外とタスマニアたけしである可能性が高い。
ちなみにタスたけのニセモノがちょくちょく現るが、どうあがいても本物には敵わない様子。


【内容】



たすたけ語録


高橋みなみの可愛い可愛い泣き顔
2 :風吹けば名無し:2014/01/08(水) 04:29:36.66 ID:PEru6Zs6
こういう模様の木生えてた
うちの庭に



518 :風吹けば名無し[]:2013/12/31(火) 05:11:42.18 ID:1mLOSZ0L
年は23歳で、来年で24歳やで〜
ちな来年24歳



10 :風吹けば名無し@転載禁止[]:2014/07/03(木) 02:20:48.46 ID:Z+vI2N57
犬といえばワイ以前散歩中散歩中の犬に急に突然膝噛みちぎられた事あったで
それで今足が違うらしい



19 風吹けば名無し 2014/01/15(水) 11:06:45.92 ID:k6PdbDFg
でも害虫でも毎日生きる為に必死やし生きる為に必死になれない人間は害虫にもなれない害虫以下の人間やで



剛力彩芽ちゃんが嫌われてる理由が分からない
12:風吹けば名無し[]:2014/01/15(水) 00:58:22.67 ID:k6PdbDFg
正直言って歌は正直下手やけどミュージックステで見た時は歌は下手やったんやけどダンスはうまかったんやけど後日YouTubeで見たときはやっぱりダンスはうまかったけどやっぱり歌は下手やったわ



ラーメン屋がぼったくり価格な理由wwwwwwww
293:風吹けば名無し@転載禁止[]:2014/03/26(水) 13:43:15.49 ID:VdQ9YDRH
ワイ「すみませんが水が汚いのですが交換してくれんか?」
店員「それは水の色やで‥」
ワイ「ファーそんな水の色に気付かんかった事ならあった



144 :風吹けば名無し:2014/02/26(水) 15:41:18.91 ID:PEGys4Dl
小5の時チッチ「お前風呂から姉から下着取ったのお前なんか」
ワイ「ワイ以外に姉の下着とらんやろ‥そんな変態やん」
チッチ「お前以外おらんのじゃ!
決定的にそれ以来姉が態度が冷たくなったで‥



50 風吹けば名無し 2014/01/27(月) 19:16:48.21 ID:UVOxz8h3
猫がおるから旅行できんっていうワイの家庭、ワイの旅行は猫がおらんからできんっていわんのに猫の時はワイだけ旅行に行けないって何で言うンゴ‥
猫が「猫がおるから旅行できへんで」
家族「ワイがおる時はなんでそれ言わんねん‥」普通猫と人比べたらワイが勝つやろ
何か知らんけどどこの家庭がそうやと思っとったけど「猫がおるから...ワイ「?」なのにワイが旅行に行く時「なんで猫がおるんやゴラアアアアアア殺すぞ」くらいに怒られる

書き間違いや‥ワイは猫やで



380 風吹けば名無し 2018/03/28(水) 04:28:12.21 ID:jaq8Ssbmp
アッネはAVでとるか?

386 これVODAPHONで画像画質悪くて(すまんな) 2018/03/28(水) 04:29:04.86 ID:astVal4Dd
逝去したいんか?



382 魔法人グルグル(茸)@転載は禁止 (スプー Sd64-obiL)[] 2016/03/11(金) 01:50:42.22 ID:lHe3htyid
マラソンといえばワイ夜公園芝生の所一周40秒くらいって早い方か?

383 47の素敵な(千葉県)@転載は禁止 (ワッチョイ 0d93-9Cwt)[] 2016/03/11(金) 01:52:10.16 ID:BCiBNzQc0
>>382
公園の大きさが分からないから速いか遅いか分からないよ

384 魔法人グルグル(茸)@転載は禁止 (スプー Sd64-obiL)[] 2016/03/11(金) 01:52:40.80 ID:lHe3htyid
>>383
大体一周40秒くらいやで



36 47の素敵な(茸)@無断転載は禁止 (スフッ Sd28-6WlR [49.104.39.161]) 2016/11/06(日) 00:47:35.09 ID:bDZyX63Cd (2/12)
悪いんやけど質問なんやけどくりーむしちゅーの有田が上田が上田呼ぶとき有田が上田さんって上田にさんって付けて呼んどるのって有田が上田が有田同級生なのに何で有田上田さんって呼んどる理由何や?



272 :風吹けば名無し[]:2018/09/19(水) 02:30:41.65 ID:ndKerICpd
あと聞きたいんやけどよくヒカキン核爆発起こすって動画どれや?



24 :風吹けば名無し[]:2014/01/16(木) 15:17:22.76 ID:7tn9bo2I
何でラーメン二郎的なラーメン屋って行った後食った後数時間後に妙な腹痛が襲ってくるのは何なんや‥
数分前からトイレから書き込みしとるけも単に腹痛やなくて寒気がしてぶっ倒れそうになるで
トッピングのオススメ何なんや



154:これVODAPHONで画像画質悪くて(すまんな) [] 2018/03/28(水) 04:10:31.36 ID:astVal4Dd
あとワイの常識ではトイレ人80人くらい人吸い込んで殺したわ

融合体(巣くうもの E)



……8月に物凄いことがあったんで、纏めました。
以下、フェイク込みなんで津図妻が怪しいところもありますが、どうぞ。

最初の井戸の話のときに書いた大学時代の仲間内のの男子C、こいつから連絡があった。
Bが最近、時間が出来たのか懐かしくなったのか知らんが、昔の友人にちょこちょこ連絡しててCも電話で話したそうで。

……んで。
Bと話して昔の井戸の一件を思い出して、職場でネタにして喋ったそうです。
そしたら職場の女の子に帯出され、その子の知人の男(20代後半、俺らと同年代)に会ったと。そいつの用件をあらためると

「ヤバイものに憑かれている知人が居る、坊さんも神主も霊能者もダメだった、そのBさんの力を借りたい。連絡を取って欲しい、詳しく教えて欲しい」

Cは井戸の一件しか知らない、つまりBの「ソレ」に守られた記憶しかないので、気軽に受けあい、ついでに他にも良く知ってる奴が居ると俺とAを推薦したそうです。
俺とAは話し合って、二人つれだってCとその男(Hとします)に会った。
指輪の件、白い着物の件、B宅の件を一通り説明し、Bについているものは当人に他の人間にも制御できず、また悪長や呪いの類は「跳ね返す」だけで祓ってkyれない、周囲に被害が出るだけからやめておけと告げた。
どうやらHも「みえるひと」らしく、AがBの(幼少時with白い着物)の写真を見せたら即座にハッキリと表情が固まった。

「…………凄いね、これ。この子マジ生きてるの? 今も? こっちのナニ、山神様とか?
 こんなんに狙われて大丈夫なワケ?これなら、本気でいけるかも」

Hは本気になったようで、他の「みえるひと」も意見を聞いてみたかったようで、さらにざっと説明をしていた・
みえない俺には良く判らん感覚的な言葉が多く

「硬さは?こう、ばきんていきそうな」
「そうじゃないし、寒いとかスレてる(ずれてる?)
「寒さは?こう、バキンていそうな」
「そうじゃないし、そこにあるのに何で?みたいな変な感じはある?」
「それもないです。するんとして。浸食もなしにできないし

こんな感じの意味不明なやり取りの末に、Hは

「……俺も全く見当がつかない」

と首を捻っていました。
その後はもう一度、「本当に止めた方がいい」と俺とAから念押しにしてお開きにしました。

……数日後の土曜日に、Aから電話が来ました。
BからCへと会うから来ないか、と言って来たそうです。
『出る』家があるこちおから、良かったらAと俺にも声をかけて来いとCに言われてAに電話をよこしたと。
たまげて家を出、Aと合流してBに指摘された待ち合わせ場所に行くと、そこにはHが車で待っていました。
Hはニヤニヤしながら

「悪いね。BとCは後から来るから、乗ってくれよ」

といい、車中で説明をしました。
……こいつ、Cに頼んでBに連絡をとって約束したそうです。

「知り合いの家が“出る”から来ない?って言ったら、2つ返事だった。いいご主人だね、『昔の友達と肝試し?いいよ、羽を伸ばして来い』って子供の面倒を見てくれてるって。あんまり時間ないから急がないと」

Hの目的地は、高級住宅街の塀に囲まれたでかい豪邸でしたが、車が止まった時には俺の横のAは硬直して真っ青でした。

「悪いね。大丈夫だよ。俺ら部外者だし、出入りしても手ェ出さなければね」

Hに促されてしぶしぶ降りたAは、その豪邸を見上げて、引きつった顔でHをみました。

「……本気で?」
「まあね。……ここんちの奥さんが、俺の母親の幼馴染。息子が完全にイカれちゃってんだよ」
「何いってんの?その人が助かったって、周り中に散って広がるだけじゃ」
「俺も考えたし。……出られないところに押し込めてやりあってもらえばいいだろ?勝敗つくまで、徹底的にさ」

2人が言い合っている間にドアが開き、中から中年のおばさんが出てきて、俺らを招き入れました。
……どうぞ、と通された部屋に居る男を見て、思わず硬直しました。
壁向いて立った横顔は白目むいて天井見上げて、唇の端が少しだけ上ってニヤついているみたいで、どっか壊れたような形相でブツブツブツブツ何かつぶやき続けてて、上手く言えないけど、その目つきが本気で恐い。
実はコレがウチに出る悪霊です、って言われたら信じたと思う。
俺もドン引きしたけど、Aはもう真っ青でした。

「……もとはどこに?」

Aが聞くと、Hは少し疲れたような余裕のない顔で笑って

「そこが一番まずいんだよね。……解んないんだよ、気がついたら拾っちゃってて」

後で二人に聞いたら、そこんちの息子(Iとします)についていたのは、何だか複数の人魂が怨霊をツナギにして融合したようなものだそうでした。
様子から言って、長いこと生き物でなくモノに憑いていたと解る状態で、本体と言うか依り代と言うか、それがIに憑く前に居たものがあるはず。
それが除霊するときに手がかりと言うか土台になるらしいです。
なのに、どこで取り憑かれたのか解からないために除霊の手がかりがなく、霊能者に無理だと言われたそうでした。
Hの答えを聞いたAは、さらに怯えたような顔をしていました。

「……この人、大丈夫なの?何かヤちゃったとかないの?」
「……あー。寸前まで行ったことはある、かな。今はとりあえず、ちょい前に来てくれた人が体にヨケ(?)つけて抑えてるから」

そんな感じの怖い会話の途中で、外から車の音がしました。
CがBを乗せて来たのですが、案の定と言うか怖いことにと言うか、Bは車中で既に熟睡していました。
HがCからBを引き取り、抱えて奥の部屋へ連れ込み、床に寝かせて毛布をかけました。
後かIをそこんちの奥さんが連れてきて、熟睡中のBと虚ろな目のIを残して、俺らは部屋を出ました。
……考えてみりゃ、眠っている既婚女性とおかしな男を1つの部屋に入れたりしてとんでもない話です。
何故かその時は、Hの全く躊躇いのないテキパキした態度とBは何があっても無事、と言う考えが当然のこととして頭の中にあったため、唯々諾々と従っていました。
ドアを閉めると、Hがドアに背をつけて廊下に胡坐をかいて座りました。
Aが俺にしがみつき、奥さんが早足で廊下を戻って引っ込んで少しして、部屋の中から、凄まじい破壊音が響き渡りました。
壁か柱がぶっ壊されるんじゃないかってくらいの轟音に混ざって、ガシャン、パリンとガラスか茶碗が割れるような音。
俺はギョッとしましたし、Hは揺れるドアに背中を押し付けて座り込んだまま動きませんでした。
Cも、何かHから聞かされていたのか、落ち着かない様子ながら、あまり慌てた様子もなく。

どれだけ時間が経ったのか、誰も動かずに待ち続けて、ようやく中の音が小さくまばらになってきたとき、直ぐ内側から誰かがゆすっているようにドアががたがたっと揺れ、鋭い、あせりまくった切迫した男の声が聞こえました。

「おい、助けてくれ!!お願いだ、助けて!開けてくれ、早く!早く!!ここを開けてくれえええっ!!」

Aが顔をあげてHに向き直り

「ねえ、もういいんじゃない?開けて出してあげようよ」

ここで俺もはっとして

「おい、さっきの人(I)、正気に返ったんじゃないか?」

と言葉を添えましたが、Hはぎっと俺たちを睨みつけて「まだ」と言いました。
それからさらに時間が過ぎ、中から全く音がしなくなって、やっとHは立ち上がりドアを開けました。
……中は、HがBを寝かせIを入れて出たときと全く変わりありませんでした。
壊れたものも動かされたものもなく、ただBが部屋の真ん中で大の字になって寝てるだけ。
あの破壊音を立てたと推測できるものの痕跡1つなく。
そして部屋の隅にうずくまって震えていたIに、Hが駆け寄りました。

「おい、I。俺、わかるか」
「あ……H?H!!」

目が焦点を結ぶとIは取り乱した様子で、しかし初対面の時より遥かにまともな様子でHに掴みかかりました。

「H、化け物がいたんだ!本当だ、俺に化け物が、襲い掛かってきて俺を殺して」
「……ほいほい」

幾らか安心した様子でHがポンポンとIの肩を叩いて宥めた。
その時、俺の横に居たAがふらりと傾いたのが視界に映った。
慌てて受け止めた俺に、Hが

「あ、ごめん。リビングに連れてったげて。ココは辛いでしょ」

と言った。Cと一緒にAを運んで廊下を戻りながら、やっと気がついた。
さっきHと喋っていたIの声。
破壊音が止む前に部屋の中から聞こえた声とは、全然違う声でした。
……その後、Aが目を覚まして動けるようになり、眠り込んでるBをA宅へ移したうえでB夫を呼び、AがBを引き渡しました。
変に疑われると嫌なので、俺もHもCも、男は全員席を外しました。
B夫は怪しむ様子もなく爆睡している妻を引き取っていきました。

「あ、またですか?すみません。ひょっとしたら知ってるかもしれませんけど、睡眠障害とか言うんですかね。突然パタンと寝ちゃって目がさめないことがあって。これの母親から、小さい頃はよくあったって聞きましたけど、結婚してからは年に一回もないし、病院で検査しても異常ないし、本人覚えてないけどガスだの何だの危ないものは必ず寝る前に止めてるし、子供と居る間は起きないし、倒れるとかじゃないから問題ないんで俺は気にしてないです。面倒をかけてすみません。連絡ありがとうございました」

A曰く。
「……ガスとか火とか絶対に大丈夫だと思う。Bが止めなくても、必ずアレが何とかするから。赤ちゃんと居るとないってのは意外。Bが子供ができてから、危ない場所に行ったり、危ないもの買ったりしなくなってきたのかな」

H曰く。
「さすがに赤んぼ放置して熟睡は、Bさんの潜在意識が拒むんじゃね?アレ、Bさんの意識とカンペキ無関係って訳じゃないと思うよ。無意識の部分とかに食い込んでないと、寝かすのはないと思うし。Bさんでなきゃいけない理由があるんだろーねー。赤んぼ預けるとか家族が一緒とかでないとフルで戦えないなんて不便な状況、ただの間借りならシャバ替えしてるよ」

あのとき部屋の中から聞こえた声についても、「みえるひと」な2人に聞いてみた。
こちらは2人とも完全一致。

『融合した人魂のウチの一体が、消滅の危機に瀕して自我を取り戻した』

だそーです。
あの部屋、事前にHが、使える伝もコネも知識も全部使って。頼めるだけの人に頼んで、何重にも霊的に閉鎖してたんだとか。
で。
その檻の中で、Bについているアレと、Iについているモノとかが、互いに在るだけで互いを削りある至近距離におかれることになり、形容し難い激烈なバトルが繰り広げられたそうです。
結果は、またしても、Bのアレの勝ちでした。
……助けてくれ、開けてくれ、と叫んでいたのは、逃げ場のない檻の中で、Bのアレと戦いながら2度目の死の恐怖を、味わってた誰かの霊だったと。

衝撃でした。
生身でない、声帯を持たないとは信じられないほど、声はリアルでした。
そしてAが倒れたのは、霊的に比喩的に「血染めの惨殺現場」を見たためでした。
その霊たちがどうなったのか、と言う質問に2人とも答えてくれなかったし俺も考えたくありません。Bのアレはお祓いだの除霊だのしてくれる存在ではないと既に知っているので。

話は概ねこれで終わりです。
Bは次の日の朝に目を覚まし、鼻歌と共に朝食と夫の弁当を作ったそうです。
Iは精神科へ通院しているそうですが、以前と違って会話ができて治療効果がきちんと出ることにI母は大変喜んでいたそうでした。
ついでにCは、Hから何を聞かされたか知りませんが、もうあまりBとは連絡を取りたくないようなことを言っていました。
最後に、その「融合した複数の人霊」これが一番、この話の嫌なところですが、「恐らく半世紀以上は前、だけど100年は経っていない」で「全員、両手の爪が剥がされてた」そうでした。
それ以上は、AもHも説明してくれませんでしたし、俺も聞きたくないと思っています。
どこでどんな目にあった誰だとしても、判れば気分が悪くなるだけでしょうから。
以上です。

2022年10月20日

指輪(巣くうもの D)



実は学生時代の話はもう一つあり、それについて最近わかったことがあって話がまとまったんで、投下させて下さい。
こっちは井戸の一件同様、俺の直接体験が入って来ます。

Bの学生時代の元彼Eの話は前に書いた。
Eは俺らの遊び仲間じゃなかったんで、井戸の一件には絡んでいない。
Bとは卒業直後あたりで就職のことで行き違って別れたと聞いてる。
ひょっとしたら今も、Bを出入りしているものの存在は知らないかもしれない。

学生時代、Eから貰った指輪をBが仲間内で披露してたことがあった。
金銀組み合わせの指輪で、仲間内の女子の言では結構いいものらしかったのだが、Aが凄い微妙な様子だった。
井戸の一件の後だったので、俺は後でこそっと「あの指輪なんかある?」とAに聞きました。

「……うん……まずいかも。でも、どうしよう。俺くん、お祓いできる人とか知らないよね?」

俺はAの他に「みえるひと」の本物は1人も知らなかったので、そう言うと、Aは閉口した様子で。
Aは、自分がみえるひとだが、経験則で危ないものを避けてきただけで、霊能者などの知り合いはいないらしいです。

「……それに、Bも貸してくれないよね……お祓いとかするところにB本人を連れて行ったら、まずBのアレと揉めるかもしれないし……」

かと言って、指輪が霊的に危ないなどといったら、Bのことだからそれこそ面白がって肌身離さず持ち歩くのが、俺にも想像できた。

「……ま、Bはアレがいるから大丈夫なんじゃん?」

と俺は言ったが、Aは複雑な顔で「ん……ていうか……ちょっとね……」と言い、それで会話は終わりました。

次の日、大学内でAが事故って怪我した。
捨ててあった何かのガラスでサックリ切ったとかで大学の保健管理センターへ運ばれたAは、その時一緒に居た同じ科の奴に、自分の荷物は最寄の講義室に置いといてくれ、後で取りに行くから、と言ったらしい。
で、事故の後にそいつと俺が出くわして話した。
財布とか貴重品はさすがに放置じゃまずくないか?と言うことになり、俺が預かっといてやることになった。
講義室へ行くと、誰もいなくてAの鞄がぽんと椅子の上においてあった。
見覚えはあったが、他の奴のだったらまずいし、失礼して中を開けて、何か氏名の解るものを確認しようとした。
そしたら。
財布の入ったポケットの中に、一緒に、小さなビニール袋に入った指輪が見えた。
前日、Bは皆に見せまくってたのとそっくりのが。
え、何で?これBの指輪か?どうしてA7が?と思ったが、単に同じものを買ったのかもしれないし、まあひょっとしたらAが思い切って、無断拝借してお祓いに持ち込むつもりだったのかもしれないとも考え、とにかく財布の中の免許証を確認して、鞄を持って部屋を出ようとしたら、後ろから「にゃー」って声がした。
振り向いたら、窓枠のとこに灰色っぽい猫がいた。
にゃあ、ってもう一度鳴いた猫がひょいっと窓から外へ下りてから少しして、気がついた。
……さっき居なかったよな?猫。それでここ、4階だよな?外の木の枝とかあったっけ?
慌てて鞄を置いて窓に駆け寄って見ると、窓の外には何もない。
木の枝が貼り出してもいないし、建物の外側のどこにも猫はいないし、勿論落ちて死んでたりもしない。
4階位なら飛び降りて逃げられるモンなのか?と思いつつ戻ってAの鞄を手に持って、仰天した。
絶対さっきまでなかった派手な裂き傷が鞄についてた。
駄目押しにもう一度、足元で「にゃー」って声がするに至って、ようやく俺は、Aがしきりに気にしていた例の指輪が俺の持っている鞄の中にあるんだ、という事実に気がついた。

「…………」

ぞく、と背筋が寒くなったところへ、また「にゃー」。さらにガリッて音が続いた。
見下ろすと、俺の靴ヒモが結び目のとこで何箇所か裂けてた。もちろん猫は居ない。
にゃー。にゃー。にゃー。
かなりの至近距離に聞こえるその声は、何だか段々と嫌な感じになってきてた。
冷や汗をかき始めた俺の周りをうろうろしてた鳴き声に、ぼそっと暗い感じの人間の声が重なった。

『……なんか、死んじゃえ。死ねばいいのに』

エコーをかけたような変な声だった。

「……!」

硬直した俺は、咄嗟に大急ぎで携帯電話を出して、速攻で電話をかけた。
プルル、プルル、と呼び出し音が鳴る間も、足元で見えない猫が鳴いてた。
靴や鞄がカリカリ音を立てて、ちらっと見下ろすと床にも何だか、傷が増えてきてるような気がした。
ガリッと衝撃があって足首に痛みが走ったのと同時くらいに、電話がつながった。

『はーい、もしもしー?』
「Bか!?あのさ、俺だけど、えっとAのこと聞いた?」

有難いことに、Bは学内にいた。急いでAの怪我の件を説明し、荷物を預かってくれと頼むと、Bは快諾した。
電話を切った俺は、Aの鞄を持ってダッシュしてBと待ち合わせた場所へ向かった。
エンドレスに足元から聞こえる猫の鳴き声に混ざって、ぼそ、ぼそ、と『死んじゃえ』とか『死ねばいい』とか呟く女の声がし続けた。
建物を出たあたりで、しゅっ、と足の間を通り抜けるような感触がして、足がもつれて思いっきりこけて、止めてあった自転車に突っ込んだ。

「うわー俺君!?大丈夫?」

待ち合わせしてた自販機の所から、大声で言いながらBが駆け寄ってきた。

「俺君、手!それに足も血が出てんじゃん!」

Bが騒ぎながら俺に手を貸してくれ、荷物を持ってくれて、気がついたら猫の声も変な女の声もしなくなってた。
ただ、後で確認したら、やっぱり足の傷は自転車の金具で切ったんじゃなくて爪で引っかかれた傷でした。
Aの怪我もそれほど酷くはなく、A鞄の中にあった指輪は、AがBから借りたものでした。
同じようなものがどうしても欲しいから、お店で見せて「こう言うのが欲しい」と言うのに見本にしたい、と言って借りたそうで。
ただ、俺が鞄をBに預けた話をすると、Aは「……あ、そう」と言ったきりで、猫と女の声についても何も説明してくれなかった。
……今になって俺がこの話を思い出したのは、最近AがB宅を訪問したときの件があったからでした。
Bの部屋の話、白い衣装と神社の一件の話を聞き、

「Bの中にいるものは、Bを守るだけで、悪霊退治をするわけではない。周囲の人がtばっちりを受けても祟られても、Bが無事なら何もしてくれない」

と言うことを知って急に気になったのが、この一件だった。

俺はこの後、Bと指輪の話をしたことがある。
Bはその時、Aから返却されたその指輪をはめた。

「Aが同じようなの欲しがってたけど、見つからなかったんだよね。あれ、Eから親戚の子に選んで買ってきてもらったんだって」

で。
Eに指輪を選んでくれた、その女の子が、Eの在学中に亡くなってるんだ。
Eが葬儀に出たとは言っていたのは、確か、この一件の少し後だった。
当時は、俺が女の声を聞いたときには生きてたわけだから無関係だと思ってた。
あの一件は、Bの手元に指輪が戻ってBには何も起こらなかった事で片付いたつもりでいた。
でも、今考えるとどうしても気になって、先日、改めてAに聞いてみた。
Aは物凄く迷ってたが、やっぱり黙ってるのがしんどかったようで、しつこく城井やら最後には話してくれた。
クロだった。

「……その親戚の子、Eが好きだったんだと思うよ。どこで呪いの方法を見つけたのか知らないけど、実際に猫を殺して本格的に呪いをかけるぐらい、Bが憎かったんじゃないかな」

俺が聞いたのは、やっぱりその子の声らしかった。Eから城井ら指輪を貰う女に足して、死じゃえ、と呟いて猫を殺した時の声なんだろう、と俺は思った。
そしてAが心配していたのは、Bが呪われることじゃなじゃなかった。
Bの中にいるものの性質をかなり正確に把握していたAは、動物を殺そて形を整えて行われた呪いの、「返り」を気にしてたんだった。

「……私も俺君も大怪我じゃなかったでしょ?呪い自体には、人を殺すような力は無かったんだとは思う。だけど」

Bにはアレが居たんだから。
Bをターゲットに真っ直ぐ飛ばされたものを、アレが真っ直ぐ打ち返したに「加速がついちゃった」んだと、思う……。
Aは、それ以外は何も言わなかった・
多分、当時のAは、指輪をどこかの霊能者のところへ持ち込んで、呪いを外してもらおうと考えてたんだと思う。
正直、Aと話してから、少し気持ちの整理がつかなくて、混乱している。
俺がBを呼んでAの鞄を渡さなかったら、Eの親戚の子は死ななかったのだろうか。
BにAの鞄を預けたと言った時とき、Aが取り戻そうとしなかったのは、もう間に合わないと思ったのか、怪我して怖くなったのか、僕には解らない。
いずれにせよ、もう何年も前の話だ。
Bは何も悪くないのだろう。普通に彼氏から貰った指輪を喜んでただけで。
少し大雑把だけどイイ子で、同じものを探すのに貸してと言ったAに快く指輪を貸し出してくれるような奴だったわけで。
でも、俺が悪いんだとも思いたくない。
Aも俺も巻き込まれただけじゃないかって、気持ちが消えない。
同時に、猫を殺して呪いをかけた女の子は確かにゾッとするけど、相手がBでなかったら、死人は出なかった話だったんだと思わずには居られない。
Aが複雑な気持な顔で「何でもできないんだよね」って繰り返す気持ちが初めてまともに解った。
吐き出させてもらってすまない。
以上です。

2022年10月19日

印(巣くうもの C)



AがB宅を訪問した時のことを、もう1つ話してくれた。
そっちは上手くまとめ切れなかったのもあり、時間がかかってしまった。
こっちも後味悪い話なんで、俺としては誰かにブチまけてスッキリしたい。
すまないが、お付き合い願います。

Aが友人Fと共にB宅を訪問した際、踏み切りではねられた子供の話が出たことは先に書いた通り。
その原因は知らぬが花で、Bは切なそうにため息をついたそうです。

「辛いよね、小さな子供の不幸って。親御さんは死ぬほど辛いだろうね。私だって、この子が大人にもならない内に先にいっちゃったりしたら、どうなるか解らない」

だよね、とFと頷き合ったBは、ふと思い出したように、

「小学生の頃に同級生に不幸があって、その子のお母さん半狂乱でさ。お葬式に行ったんだけど、近寄ったら凄い眼で睨まれて、お前が死ねばよかった、何でうちの子がって怒鳴られて怖かった。でも、今なら少し解る気がするなあ」

しんみり言ったBは、その時の思い出話をしてくれたそうです。
Bの10年以上前の思い出話+俺はAからの又聞き+少しフェイクで解りづらいけど、その話は以下の通り。

Bの父親は昔、何年かに一度は移動して引越す仕事をしていたそうです。
で、小学生の3年だか4年だかの頃に田舎に住んでた時期があって、ベッドタウン化が始まったところ、みたいな町で、小学校には転校してきたヨソ者と、地元の住人の療法が通ってたそうです。
あるとき、Bは同級生の女の子に、自宅へ招かれたと。
その家は地元の旧家で、他にもヨソ者・地元問わずに何人かの子が呼ばれてて、単独で来た子もいれば親と来た子もいて、BはB母に送られて行ったそうです。
大きな立派な家で、地元の小さなローカルな行事の時期だとかで、同級生の兄弟も友達を呼んでて、そこんちの親戚とかも来てて、ちょっとしたお祭り状態だったとか。
酒や菓子や料理が出て、子供達は遊んで、大人は話をして、日が暮れかけた頃にそこんちの父親が一同を集めたそうです。
で、お開きの前にすることがあるから、お姫さま?だか巫女さん?だかの役をやってくれる子供を募る、と言うようなことを言ったらしい。
衣装も道具もあるので、ぜひ新しく越した(ヨソ者)の子の誰かに頼みたい。
これから仲良くしたいから、と。
綺麗なヒラヒラした白い服を見て、Bは「ハイハイ!」と真っ先に手を上げ、「じゃあ君に」となったそうです。
そこの人に白い服を着せてもらい、お化粧してもらって白い布を被り、おみこしみたいなものの上に乗せてもらって大はしゃぎした記憶があると。
B母も「あら〜!可愛いわよ、B」と喜んで写真を撮ったりしていたとか。
そこんちの父親、つまり当主の説明では、おみこしに乗って近所の社に行き、担いできた人たちがおみこしを置いて、一度離れる。
そしたらお姫様はおみこしを降りて神社の中に入って、お供え物とお酒を置いてくればいい、社の中にいれば迎えに行く、と。
おみこしにBを乗せて何人かの男性が担ぎ、一行は山道を登っていったそうです。

「はしゃぎ過ぎたもんだからさ、行く途中で静かになったら凄い眠くなってね。うとうとして、気づいたら誰もいなかったから、慌てて神社の中に入ったんだけど、もう本気でメチャメチャ眠かったもんだから、とにかく適当にお供え物とお酒置いて、そこでダウンしちゃった。後でお母さんに聞いたら、おみこしで担いでた人が迎えに来たら熟睡してて、回収して負ぶって戻ってくれたんだって。『迷惑かけて!!!』ってお母さん怒ってた。おまけに、家に帰ってから今度は体調崩して寝込んじゃってさー。3日くらい熱が引かなくて、『騒ぎまくった上にあんなとこで寝るからよ!』ってお母さんに叱られまくったよ」

Bが寝込んでいる間、祭りの夜にいた地元の大人たちが、頻繁に見舞いに来ていたそうです。
特にその旧家の同級生母はちょいちょい来てくれ、身体の調子はどうか、変な夢を見て魘されたりしないか、と色々とBに尋ねたそうです。

「お見舞いにって、お姫様の衣装、もって来てくれたの。私が気に入ったみたいだから、部屋に飾っておいたらいいよって。他にも、そこの神社のお守りとか、お祭りのときのお供え物とかくれてさ。迷惑かけたのに怒ってなくて、優しかったんだよ、そのおばさん。だけどね」

Bがようやく熱が下がり、回復して学校へ行ってみると。
その、招いてくれた旧家の子が、B回復の前日に亡くなっていたそうです。
B母とBが連れたって葬儀に行ったら、Bたちを見た同級生母が凄まじい勢いで喚き始めたと。

『何であんたが生きてるんだ』『どうしてうちの子が連れていかれるんだ』
『××に行くのはあんたのはずだ、印はどうした』

などなど正気でない調子で喚かれ、B母が例の白い衣装を返そうとすると同級生母はさらに激昂して、うそだ、こんなのはうそだと喚きまくり、BとB母は焼香できずに帰ったそうです。

「あの時は怖くて泣いちゃったけど、後でお母さんが言ったんだよね。『自分の子供が自分より先に死んだりしたら、誰だってあ悲しくておかしくなるのよ。Bに何かあったらお母さんだってそうなっちゃうよ。Bが悪いんじゃないから気にしないでね』って。今は本当にそうなんだろうなって思う」

……で、Aが俺にしてくれた補足説明(含むAの推測)。

「……Bの好きな怪談て、車とかエレベーターばっかりだからかな。何で気がつかないの?って正直思うけど。……白い着物に白い被り者って、お姫様でも巫女さんでもなくて、花嫁さんなんじゃないの?」

言われて初めてゲッとなった俺も、相当鈍いと思います。

『輿』に乗って、神様の居る『社』に運ばれて、お酒とお供えと一緒に1人で残される『白い着物に白い被り物』の娘っていったら、それはつまり。

「……専用の乗り物が実際にあるくらいの古いきちんとしたお祭りなら、普通、大事な役を新参者の子供なんかに頼まないよね。同い年のそこの家の子がいるのに。……その頃はBのアレも小さかったのかもしれないね。熱出して寝込んじゃったってことは」

B一家は、しばらくして、また転勤のために町を出たそうです。
それまで例の同級生の家には徹底的に避けられ、またそこの家は(Bいわく「不運なことに」)事故だか病気だかが相次いで、上の子(死んだ子の兄弟)が入院したりしてたために忙しそうで声をかけられず、霊の白い衣装は返却できずじまいで、今もBが持ってるそうです。
Bは、子供をなくした母親は辛いんだ、哀しんだ、ということを感じて衝撃を受け、今も片付けや引越しなどの何かの折にその衣装を見るたびに切なくなるそうです。

「お見舞いで私がこの衣装もらちゃってなかったら、あの子は助かったかなって思ったりして。何だか捨てられなくて、ずっと持ってる」

……もっともAの意見では、その古びた白い着物は

「マーキング、だと思った。何となく、ぱっと見たとき」

だ、そうでした。
どっしりした絹地で、子供が着れば長く裾を引きずるだろうサイズのその着物には、全体に、細かい精微な何かの文字のような文様のようなものがミッシリ織り込まれていたそうです。
そして、ほんのかすかに残るきしめた香のような香りと共に、妙に「生ぐさい」(とAは表現していました)気配と言うか、あっちの世界のもののにおいがした、と。
Aの言では、同級生家は、Bが生還した上に中々「連れて行かれない」ので、駄目押しに花嫁の印の婚礼衣裳をB家に持ち込んだのではないか、と(完全に推測だけど、と言っていました)。
けれど社の主は、何か(多分、Bのアレ)に阻まれて結局はBを連れて行けず、そして社の主が暴れた結末がそれだったのではないか……と。
……もしそうだとしたら、と考えて、非常に不快な気分になりました。
Bたち新参者の子を家へ誘った同級生家の子達は、どこまで知っていたのか。
そしてまた、思惑が外れて自分の子が連れて行かれてしまった母親が、どんな気分だったのか。
とにかく後味の悪い話だと思います。

「私も持ってるよ、見る?とBが見せてくれた写真は何枚かあり、AはBに頼んで一枚借りてきたそうで、ご丁寧に俺に見せてくれましたorz
……白い着物の幼いBに、巻きつくような何本かの黒い線が写ってる写真を。

「ピンボケの木の枝が映り込んじゃって、心霊写真みたいでしょ」

とBは言ったそうですが、木の枝よりは黒いでかい手がBを掴んでるように見えました。
ついでに、Bの姿の輪郭の外まわりがグレーっぽくぼんたりして見えるのは、「白い着物を着てるから」(B談)と言うよりは、あの井戸のミニハウスの一件で見たモノの掴み所のない姿に似ているような……。
……B母は、数年前、友人にさそわれて、ちょっとしたおふざけで、霊能者にその写真を見せたことがあるそうです。霊能者は

「この少女は強い強い山の霊に魅入られています。気の毒ですが。次の誕生日を迎えることはないでしょう」

と言い切ったとか。

「今は大学生ですよーって言うのが気の毒で、はあそーですかって帰ってきちゃった」

とB母から聞いて、2人は吹き出しちゃった、とBは言ってたそうです。

憶測ばかりのハッキリしない話でなんだか、以上です。
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