2022年10月19日
印(巣くうもの C)
AがB宅を訪問した時のことを、もう1つ話してくれた。
そっちは上手くまとめ切れなかったのもあり、時間がかかってしまった。
こっちも後味悪い話なんで、俺としては誰かにブチまけてスッキリしたい。
すまないが、お付き合い願います。
Aが友人Fと共にB宅を訪問した際、踏み切りではねられた子供の話が出たことは先に書いた通り。
その原因は知らぬが花で、Bは切なそうにため息をついたそうです。
「辛いよね、小さな子供の不幸って。親御さんは死ぬほど辛いだろうね。私だって、この子が大人にもならない内に先にいっちゃったりしたら、どうなるか解らない」
だよね、とFと頷き合ったBは、ふと思い出したように、
「小学生の頃に同級生に不幸があって、その子のお母さん半狂乱でさ。お葬式に行ったんだけど、近寄ったら凄い眼で睨まれて、お前が死ねばよかった、何でうちの子がって怒鳴られて怖かった。でも、今なら少し解る気がするなあ」
しんみり言ったBは、その時の思い出話をしてくれたそうです。
Bの10年以上前の思い出話+俺はAからの又聞き+少しフェイクで解りづらいけど、その話は以下の通り。
Bの父親は昔、何年かに一度は移動して引越す仕事をしていたそうです。
で、小学生の3年だか4年だかの頃に田舎に住んでた時期があって、ベッドタウン化が始まったところ、みたいな町で、小学校には転校してきたヨソ者と、地元の住人の療法が通ってたそうです。
あるとき、Bは同級生の女の子に、自宅へ招かれたと。
その家は地元の旧家で、他にもヨソ者・地元問わずに何人かの子が呼ばれてて、単独で来た子もいれば親と来た子もいて、BはB母に送られて行ったそうです。
大きな立派な家で、地元の小さなローカルな行事の時期だとかで、同級生の兄弟も友達を呼んでて、そこんちの親戚とかも来てて、ちょっとしたお祭り状態だったとか。
酒や菓子や料理が出て、子供達は遊んで、大人は話をして、日が暮れかけた頃にそこんちの父親が一同を集めたそうです。
で、お開きの前にすることがあるから、お姫さま?だか巫女さん?だかの役をやってくれる子供を募る、と言うようなことを言ったらしい。
衣装も道具もあるので、ぜひ新しく越した(ヨソ者)の子の誰かに頼みたい。
これから仲良くしたいから、と。
綺麗なヒラヒラした白い服を見て、Bは「ハイハイ!」と真っ先に手を上げ、「じゃあ君に」となったそうです。
そこの人に白い服を着せてもらい、お化粧してもらって白い布を被り、おみこしみたいなものの上に乗せてもらって大はしゃぎした記憶があると。
B母も「あら〜!可愛いわよ、B」と喜んで写真を撮ったりしていたとか。
そこんちの父親、つまり当主の説明では、おみこしに乗って近所の社に行き、担いできた人たちがおみこしを置いて、一度離れる。
そしたらお姫様はおみこしを降りて神社の中に入って、お供え物とお酒を置いてくればいい、社の中にいれば迎えに行く、と。
おみこしにBを乗せて何人かの男性が担ぎ、一行は山道を登っていったそうです。
「はしゃぎ過ぎたもんだからさ、行く途中で静かになったら凄い眠くなってね。うとうとして、気づいたら誰もいなかったから、慌てて神社の中に入ったんだけど、もう本気でメチャメチャ眠かったもんだから、とにかく適当にお供え物とお酒置いて、そこでダウンしちゃった。後でお母さんに聞いたら、おみこしで担いでた人が迎えに来たら熟睡してて、回収して負ぶって戻ってくれたんだって。『迷惑かけて!!!』ってお母さん怒ってた。おまけに、家に帰ってから今度は体調崩して寝込んじゃってさー。3日くらい熱が引かなくて、『騒ぎまくった上にあんなとこで寝るからよ!』ってお母さんに叱られまくったよ」
Bが寝込んでいる間、祭りの夜にいた地元の大人たちが、頻繁に見舞いに来ていたそうです。
特にその旧家の同級生母はちょいちょい来てくれ、身体の調子はどうか、変な夢を見て魘されたりしないか、と色々とBに尋ねたそうです。
「お見舞いにって、お姫様の衣装、もって来てくれたの。私が気に入ったみたいだから、部屋に飾っておいたらいいよって。他にも、そこの神社のお守りとか、お祭りのときのお供え物とかくれてさ。迷惑かけたのに怒ってなくて、優しかったんだよ、そのおばさん。だけどね」
Bがようやく熱が下がり、回復して学校へ行ってみると。
その、招いてくれた旧家の子が、B回復の前日に亡くなっていたそうです。
B母とBが連れたって葬儀に行ったら、Bたちを見た同級生母が凄まじい勢いで喚き始めたと。
『何であんたが生きてるんだ』『どうしてうちの子が連れていかれるんだ』
『××に行くのはあんたのはずだ、印はどうした』
などなど正気でない調子で喚かれ、B母が例の白い衣装を返そうとすると同級生母はさらに激昂して、うそだ、こんなのはうそだと喚きまくり、BとB母は焼香できずに帰ったそうです。
「あの時は怖くて泣いちゃったけど、後でお母さんが言ったんだよね。『自分の子供が自分より先に死んだりしたら、誰だってあ悲しくておかしくなるのよ。Bに何かあったらお母さんだってそうなっちゃうよ。Bが悪いんじゃないから気にしないでね』って。今は本当にそうなんだろうなって思う」
……で、Aが俺にしてくれた補足説明(含むAの推測)。
「……Bの好きな怪談て、車とかエレベーターばっかりだからかな。何で気がつかないの?って正直思うけど。……白い着物に白い被り者って、お姫様でも巫女さんでもなくて、花嫁さんなんじゃないの?」
言われて初めてゲッとなった俺も、相当鈍いと思います。
『輿』に乗って、神様の居る『社』に運ばれて、お酒とお供えと一緒に1人で残される『白い着物に白い被り物』の娘っていったら、それはつまり。
「……専用の乗り物が実際にあるくらいの古いきちんとしたお祭りなら、普通、大事な役を新参者の子供なんかに頼まないよね。同い年のそこの家の子がいるのに。……その頃はBのアレも小さかったのかもしれないね。熱出して寝込んじゃったってことは」
B一家は、しばらくして、また転勤のために町を出たそうです。
それまで例の同級生の家には徹底的に避けられ、またそこの家は(Bいわく「不運なことに」)事故だか病気だかが相次いで、上の子(死んだ子の兄弟)が入院したりしてたために忙しそうで声をかけられず、霊の白い衣装は返却できずじまいで、今もBが持ってるそうです。
Bは、子供をなくした母親は辛いんだ、哀しんだ、ということを感じて衝撃を受け、今も片付けや引越しなどの何かの折にその衣装を見るたびに切なくなるそうです。
「お見舞いで私がこの衣装もらちゃってなかったら、あの子は助かったかなって思ったりして。何だか捨てられなくて、ずっと持ってる」
……もっともAの意見では、その古びた白い着物は
「マーキング、だと思った。何となく、ぱっと見たとき」
だ、そうでした。
どっしりした絹地で、子供が着れば長く裾を引きずるだろうサイズのその着物には、全体に、細かい精微な何かの文字のような文様のようなものがミッシリ織り込まれていたそうです。
そして、ほんのかすかに残るきしめた香のような香りと共に、妙に「生ぐさい」(とAは表現していました)気配と言うか、あっちの世界のもののにおいがした、と。
Aの言では、同級生家は、Bが生還した上に中々「連れて行かれない」ので、駄目押しに花嫁の印の婚礼衣裳をB家に持ち込んだのではないか、と(完全に推測だけど、と言っていました)。
けれど社の主は、何か(多分、Bのアレ)に阻まれて結局はBを連れて行けず、そして社の主が暴れた結末がそれだったのではないか……と。
……もしそうだとしたら、と考えて、非常に不快な気分になりました。
Bたち新参者の子を家へ誘った同級生家の子達は、どこまで知っていたのか。
そしてまた、思惑が外れて自分の子が連れて行かれてしまった母親が、どんな気分だったのか。
とにかく後味の悪い話だと思います。
「私も持ってるよ、見る?とBが見せてくれた写真は何枚かあり、AはBに頼んで一枚借りてきたそうで、ご丁寧に俺に見せてくれましたorz
……白い着物の幼いBに、巻きつくような何本かの黒い線が写ってる写真を。
「ピンボケの木の枝が映り込んじゃって、心霊写真みたいでしょ」
とBは言ったそうですが、木の枝よりは黒いでかい手がBを掴んでるように見えました。
ついでに、Bの姿の輪郭の外まわりがグレーっぽくぼんたりして見えるのは、「白い着物を着てるから」(B談)と言うよりは、あの井戸のミニハウスの一件で見たモノの掴み所のない姿に似ているような……。
……B母は、数年前、友人にさそわれて、ちょっとしたおふざけで、霊能者にその写真を見せたことがあるそうです。霊能者は
「この少女は強い強い山の霊に魅入られています。気の毒ですが。次の誕生日を迎えることはないでしょう」
と言い切ったとか。
「今は大学生ですよーって言うのが気の毒で、はあそーですかって帰ってきちゃった」
とB母から聞いて、2人は吹き出しちゃった、とBは言ってたそうです。
憶測ばかりのハッキリしない話でなんだか、以上です。
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