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2022年10月26日

廃屋とカセットテープ



廃屋とカセットテープとは洒落怖の一つである。


【内容】



以前友人から聞いた話だ。
仮にタカオとする。その友人は、テレビで傷害事件の類が報道されるたびに画面を凝視し、容疑者などの名前を確認する奇癖があった。
僕とお酒を飲みに行っても、呑み屋のテレビから流れるニュースを気にするので、

「何か、逮捕されるような恐れのある友達でもいるのかい」

と酒の席でからかったら

「信じなくても別にいいんだけどね」

と言い置いて、小学6年生の時の体験の話をしてくれた。





タカオが田舎の小学生の頃、巷ではCDがカセット・テープに取って代わりつつあった。
しかし大して裕福ではなく、流行にも疎かった小6のタカオは、父親から譲ってもらった古い型のカセット用ヘッドフォン・ステレオで十二分に満足していた。
右肩から背中を通って左腰へ繋がるタイプの、ポシェットのようなリュックにそれを仕込んで外へ遊びに行くのが常だった。
当時ちょうど自転車を買ってもらい、音楽を聴きながら漕ぎまわすのが好きだったらしい。
ただしこれは危険だからと後にこっぴどく怒られてからは控えていたが。

ある日、タカオの同級生のヨウスケが、自分も自転車を買ってもらったことをタカオに告げた。

「タカオ、お前も自転車持ってんだろ?二人でどこか遠出しようぜ」

タカオのほうも大賛成で、例のリュックを背負って、日曜日の昼に二人で自転車を漕ぎ出した。

「ヨウスケ、どこまで行く?」
「今まで行ったことの無い道がいいな!」

二人は普段めったに行かない田舎道を選び、一心不乱にペダルを漕いだ。
どこをどう走ったのか解らないまま、夕方に差し掛かる頃、ついに二人は峠に入り、山道へと入りこんでしまった。
探検好きの年頃である。
獣道のかたわらに自転車を停めて、道なき道へと踏み込んでいった。
近所の林の中に二人で作ったような秘密基地をここにも……と目論んだのだが、そんな時間の余裕があるわけも無く、すぐにすっかり日が暮れて、山中の暗闇に包まれてしまった。

「まいったなあ」

タカオがぼやくと額に雫が当たった。
雨だ。
夕立ほど激しくは無いが、小雨でもない。
二人は転ばない程度の早足で帰り道を探した。
しかし日が暮れた獣道など、藪と変わりがない。
二人は、共に読んでいた科学雑誌の付録についていたペンライトを持ってきていたので、それを灯して歩く。
しかし自転車を停めた場所は見当も付かなくなり、二人はなんとなく降る坂を捜し、山から下りようとしていた。
が、下っては上り、上がれば下って、もう方向感覚も麻痺している。
タカオの呼吸に涙声が混じり始めた。

「ヨウスケ……どこだろう、ここ……」
「わかんねえから、迷ってんだろオ」

ヨウスケの息も荒い。
歩き続けていると、途中、ぼろぼろになったピンク色のテープが張ってあった。
人工物を見つけて少しほっとした二人だったが、随分前に張られたもののようで、テープの先を見てみると途中でちぎれて地面に落ちている。
余計にもの悲しくなって、タカオたちは先へ急いだ。
雨が。嫌がおうにも二人の疲労を倍加させる。

「あいて!」

いきなり、木立の間でヨウスケが声を上げた。
見ると、今度は木立の間に細い縄が渡してあった。
ヨウスケはそれが顔を当てたらしい。
これは途中でちぎれておらず、暗闇の中、二人のわずかな視界の外まで続いている。
タカオはなんとなく嫌な予感がしていた。
さっきのテープといい、まるで立ち入り禁止の有刺鉄線を思い起こす。
ただであえ真っ暗な山の中で、不安は膨らみきっているのだ。
しかし、ヨウスケの大声がタカオの思案を断ち切った。

「タカオ、見ろあれ!」

タカオの指差す先には、山中を切り開くようにしてぼんやりといくつかの民家が見えた。
一も二も無く、二人は民家へ突進した。
しかし程なく気付く。
その家々はどれも無人だった。
とうの昔に打ち捨てられた集落のようだ。

「気味悪いなあ……」

つぶやきながら、タカオはそのうち一軒の家の引き戸を引いた。
開く。

「開くよヨウスケ。入れるよ」

中を見ると、土間だの荒れきった畳だの、かなりの年代物であることが見て取れた。
埃もひどく、せきが出る。
それでもとりあえず雨宿りにと、二人は畳へ上がって、シャツを脱いで土間へ絞った。
パタパタと水滴が落ち、少し埃が舞う。
ペンライトで家の中を照らした。
二階建ての、古い木造住宅である。それなりに広いようだ。
窓の外に、家へ外付けされたハシゴが見えた。
屋外から直接二階に出入りできる造りらしい。


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