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2022年10月25日

模倣(巣くうもの G)



また時間ができて、少し前にあった話をまとめたんで、気晴らしに投下。

去年の秋の話です。
H、コンパクトの件で懲りたのかと思ったら、懲りてない。
相変わらず『みえる』のを利用してちょいちょい稼いでるようで、その奴の『小遣い稼ぎ』に関わる話。
いつもHはいらんことする、と奴の絡む話は常に不愉快(でも他に“みえるひと”の知人がいないため縁切り困難)のAが、文句より興味で根掘り葉掘り聞いてた、怖いよりは珍しい(らしい)事例です。

コンパクトの件を投稿してから、何ヶ月かしたころ。
Hから連絡がきえ、飲みに行くことになった。
んで呼び出された先が、変な場所だった。
少し距離のある市で、街外れに森っぽい林があって、その中。
おいおい、と思いつつ指示された通り砂利を敷いた道に入ったら、何か寂れた石碑みたいなもんが奥にあった。
石碑の横で待ってたHに「おいこら」と言うと、奴は「大丈夫、大丈夫。居るけど、しょぼい奴だから♪」とかほざいて、カッカッカと笑った。

「そーか。んじゃ、とっとと出て飲みに行こうぜ」

と俺が言ったとこで、Hの携帯が鳴って奴が出た。

「はーい♪J(俺。以降、俺の略称はJとします)来たよ。あ、ここ」

Hが携帯を切り、砂利道を歩いてきたBに手を上げた。

「やっほ♪Jくーん」

手を上げ返しながら歩いてくるBの姿。手にはコンビニ袋。

「お疲れー。Bさん、コンビニ行くとき迷わなかった?」
「少しだけ。横道間違えちゃったみたいでした、ここ戻るときも」

答えたBが、コンビニ袋の中身――雑誌とかお茶ペットとかガムとか、何か細々したものを、下げてたバッグに詰め替え始める。
その隙に俺がHを見ると、小声でコソコソ説明してくれた。

「頼まれごとで、話の段階じゃよくみえなくてさあ。最悪のケース想定してBさん呼んどいた。勇み足だったけどねー」

そう言や、会う日時と場所を指定したのはHだっら。
何も知らない既婚女性のBを一対一で呼び出せる仲じゃないから、俺を口実に使いやがったらしい(Cは居やがったんだろう。怨霊塊憑男Iの件以来、Bの話はしたくないっぽい様子だったから)。
呆れた俺に構わず、Hは続けました。

「JとBさん、仲悪くはないんだよね?今日は一緒に飲みでオッケー?一軒目でBさん帰して次行ってもいーよ。一軒目、俺おごるよ」
「や、B一緒で全然構わないでしょ。3人でいいんじゃね?」

で、そのまま飲む店の相談をしてたら、またHの携帯が鳴った。
携帯を見たHは、俺とBに向かって言った。

「悪い。ちょい待ってて。少しかかるかもしんないけど」

Bは

「J君といるし、大丈夫〜。お喋りしてます〜」

と能天気に答え、Hは俺だけにこそっと

「この辺、Bさんいたら寄っても来れない連中ばかりだからさあ。全く心配しないでいーよ♪」

と言い、夕日の射し始めた木立の間に消えてった。
そいでBとダラダラ学生時代のこととか喋ってたら、ものの数分で

「おい、J(俺)!!」

ってHの声がした。
何か妙にあせった声だった。

「……?おう。何だ、早いじゃん」
「あー。ちょい、こっちきて!」

ややあって、道じゃなくて林の中から現れたHは、頭に蜘蛛の巣を引っ掛けて肩に葉っぱつけて、変に青ざめていた。

「…………?H、何かあったのか」

俺が尋ね、Bも「Hさん〜?」と不思議そうに聞いたが、Hは答えもせずに凄まじい勢いで近づいてきた。
そして俺の腕をがっしり掴んで、結構な力で引っ張りつつ「来いよ」と言った。
何か変だ、と思って、俺は何となく腕を引く力に抵抗して、引っ張り合うようになったところへBが割って入るように近寄って「Hさん、何したんですか?」と言った。
そしたら、ぶったまげたことに、凄い勢いで向き直ったHがばっと俺を放したかと思うと、Bの胸倉を掴んで、ぶん殴った。
バキッと、グーで、女の顔面を。
悲鳴を上げて倒れるB。
俺は仰天して、動くことも出来ずにただHの形相を見ていた。
さらにBを引き起こして2発目を入れようとするHを、やっと動いた俺が引き止めて手を放させた。
Bは、よろけながら立ち上がり、止める間もなく、

「キャ―――――!助けて―――――――――!」

みたいに叫びながら、林の中に走りこんで逃げだした。
慌てて追おうとした俺の肩を掴んだHを見て、表情に正直びびった。
これマジでHか?と思った俺の耳に、Aの声が刺さった。

『J君?Hさん?大丈夫――――――――――――?』
「あ――――大丈夫!今、撃退したから!」

Hが張り詰めたような大声を返す。

「……ほい、J」

やっと少し表情の和らいだHは、携帯を俺の耳に突きつけた。

『J君?もう居ない?Bのニセモノ』
「……え?」

思わず聞き返した俺に、Aはざらっと説明してくれた。
……さっきまで俺と居て、Hを待ちながら俺と大学時代の話とかしてて、Hに殴られて走って逃げたBは、Bじゃない、と。
完全に思考の停止した俺をHが引っ張って、林から普通の道路に出てしばらく歩いて、コンビニを見つけて近づいた。
もう薄暗くなった駐車場にBが居て、携帯をいじってました。

「あ、J君!Hさん!」

元気よく声を上げたBの顔には、殴られた痕など全くなく。

「待ち合わせ場所に戻ろうとして道に迷って、コンビニ戻ちゃってー。メール出しても返事ないから、電波悪いのかなって焦ったんですよ」
「……うん、電波悪かったしJ来たし、動いちゃった。メールは来てないなあ」

辛うじて笑ってみせたHと、まだ思考停止した俺の携帯が、一緒に鳴った。

『Bです。すみません!コンビニには着いたんだけど、そこ戻る道が解らなくなっちゃいました。コンビニで待ってるので、J君着いたらコンビニ来てくれませんか?』

着信したメールを読んでやっと頭が動き始め、混乱の渦に巻き込まれた俺をよそにHとBはまた飲みの店を相談していた。
決めるとさっさと電話して予約した2人に引きずられ、とりあえず飲んで喋り、一段落したら早めに店を出て

『主婦だしお子さん居るから、そろそろお開きで』

とHがBを言いくるめて解散し、俺は半ば混乱したまま帰宅しました。
数日後、Hと連絡を取りAを交えて3人で会って、やっと俺は事情説明を受けることができました。

『分身というか、自分の姿を見る人が出る場所。祟り等がないか調べてくれ』

との依頼を受け、見た人と直接会ったHが、敵の気配や強さが何故か読めないことに心配になり保険にBを呼ぶことを考え、口実に俺との飲みをセッティングしたのは、前述の通りです。
とりあえず気配を探りに1人で現地入りしたHは、相手の気配が予想以上にしょぼくて貧相なことに拍子抜けしたそうです。
確かに霊的なものは居る、だけど年代物の割りに本当にしょぼい。
相談者に会って読めなかったのは、しょぼすぎて気配が弱かったからだ、と納得したほどで。
分身とかを“みせる”以上のことができそうには全く思えないから気にする必要なし。それが当初のHの結論でした。

「いやね、本っ当に貧相だったのよ。来て損したと思うくらい」

と。
との依頼を受け、見た人と直接会ったHが、敵の気配や強さが何故か読めないことで、Bが待ち合わせ場所の石碑に来て、二人でJ(俺)を待ったが、最悪の事態を想定して(ヤバいモノが居たら、うまいことBのアレを使ってB当人には気づかせずに片付けよう、と算段していたらしい。Hのこういうところが、Aの神経に障るようですが…………)、待ち合わせ時間をずらしてあったので、暇すぎて間が持たない。
Bがガムが欲しいと言ったので、コンビニへの道を教えていかせた。
1人残って、漂えども姿はない貧相な気配をお遊び程度に探ってるうち、俺到着。
つづいてB帰還。

「その時はね、本当に変だとは思わなかったんだよ。アレもいたし」

HもAも、みえるひとは皆、人をみるときには外見だけじゃなく自然に気配や憑いてるモノもみるのだそうです。
Bは全く普通に間違いなくBの気配を持っていて、“アレ”も居た。
何も疑う要素はなかった。
ただ一つ違和感があったのは、ちゃんとみえる“アレ”の気配が変に弱いというか薄いこと。
気配の質は同じだから、Bの中に引っ込むと気配が弱まるのか、と解釈してスルーしていたのだが、仕事電話で石碑を離れてからもやはり気になる。
何だろう、あの、みえるのに弱いってか、薄いってかペラいってか、と考え続けてふっと頭に浮かんだ言葉。

『ハリボテみたいな気配なんだ』

いや、引っ込むと外側が抜け殻っぽく残るのかも、と考えても違和感が打ち消せない。
形だけ残して中身が引っ込むとか、何か凄く不自然だ。
そういう偽装とかハッタリとか一番無縁な、生の力がむき出しでいるような存在が、Bのアレなのに。
どんどん不審が増してきたので電話を中断して引き返し、こそっとBの写メを撮って、Aに送って聞いてみたそうです。
すぐにAから返信があり『Bのアレじゃない。絶対違う』と断言。
アレは引っ込むと形が見えなくなる。その時も気配は残り香みたいにBを包んでいる。弱くなんかならない、と。
その返事を受け取ったHは、瞬時に結論に到達したそうです。
アレが偽物で背負ってるBが本物ってのは、絶対に、ない。
有り得ない。どんなにそっくりでも、Bごと偽物なんだ、と。
……その辺の理屈は、正直俺の理解できない点もありましたが、とにかく“偽物のアレを背負った普段通りのB”は、みえるひとの始点では有り得ないようです。
なお、Hを焦らせAにも驚きだと言われた事実。
それは、石碑に居たモノが気配や憑き物を模写したことでした。
2人の言では、他人の声や姿を真似るモノはワリといる。
そして人間の姿で模した程度のものは、本人の気配とか憑依している霊とかを写さないので、幻覚でも化けてても、みえるひとには疑問の余地なく解るのだそうです。
なのに今回のモノは、本人の気配やオーラ(的なもの)どころか、背後の霊の気配まで含めてコピーしようとしたわけです。
これは本当に、みるのも聞くのも2人とも初のケースだそうな。

「Bさんのアレも特殊レアものだし、さすがにコピりきれなかったんだろーけど。それでも、あの精度だよ?ふつーの人なら、守護霊まで完全にコピーできる可能性が高いよ」
「Hさんが騙されたくらいだもんね…何だろ?ソレ、弱いってのもフリじゃなかったんですか?」

Aの質問にHが身振り手振り交えて説明した限りでは、Aの見解も

「それは確かに。取るに足らないレベルですよね」

とのことだった。

そのしょぼい貧相な気配がBを模して何をしたのかも、謎です。
あの時Hは俺が狙われたのかと慌てたそうですが、冷静に返ってみると、生身の人間1人をどうこうできる程の力はなかったようだと。
そして今となっては、調査できない状態だったりする……と言うのは、あの日、Hに全力でぶん殴られたモノに何があったのか、あれ以降、その貧相な気配の持主は居なくなってしまったからです。
後日、石碑を訪れたH(with俺とA)は「居なくなっちゃった」と苦笑しながら言いました。
Aも同意でしたし、その頼まれ事は、どうやらこれで解決ってことになるらしい。
パニックでフルスロットル状態のHに殴られて、消えたか逃げたかしたんじゃないか、とはAの言です。
また、Hの突然の暴行に仰天した以外は特に体感がなかったと思った俺だが、後で思い出すと、ひとつだけ確かに変なことがあった。
石碑の横でB(だと思っていた何か)とひとしきり喋った記憶があるのに、何を放したか全く思い出せないんだ。
『大学の頃の話をした』と言うような曖昧な記憶だけ残ってて、何年生の時のこと、とかどこのイベントの話、とかが全く解らない。
飲み屋で本物のBが喋ってたことは、俺が上の空君だったにも関わらず、しっかり覚えているのに。
HとAに話すと、さらに難しい顔で

「ってことは、幻覚系じゃないよな」
「変身で、Hさん騙すほどそっくり?うーん……」

と、二人して首を傾げていました。
長いわりに結局オチなしですが、以上です。
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