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2022年10月21日

融合体(巣くうもの E)



……8月に物凄いことがあったんで、纏めました。
以下、フェイク込みなんで津図妻が怪しいところもありますが、どうぞ。

最初の井戸の話のときに書いた大学時代の仲間内のの男子C、こいつから連絡があった。
Bが最近、時間が出来たのか懐かしくなったのか知らんが、昔の友人にちょこちょこ連絡しててCも電話で話したそうで。

……んで。
Bと話して昔の井戸の一件を思い出して、職場でネタにして喋ったそうです。
そしたら職場の女の子に帯出され、その子の知人の男(20代後半、俺らと同年代)に会ったと。そいつの用件をあらためると

「ヤバイものに憑かれている知人が居る、坊さんも神主も霊能者もダメだった、そのBさんの力を借りたい。連絡を取って欲しい、詳しく教えて欲しい」

Cは井戸の一件しか知らない、つまりBの「ソレ」に守られた記憶しかないので、気軽に受けあい、ついでに他にも良く知ってる奴が居ると俺とAを推薦したそうです。
俺とAは話し合って、二人つれだってCとその男(Hとします)に会った。
指輪の件、白い着物の件、B宅の件を一通り説明し、Bについているものは当人に他の人間にも制御できず、また悪長や呪いの類は「跳ね返す」だけで祓ってkyれない、周囲に被害が出るだけからやめておけと告げた。
どうやらHも「みえるひと」らしく、AがBの(幼少時with白い着物)の写真を見せたら即座にハッキリと表情が固まった。

「…………凄いね、これ。この子マジ生きてるの? 今も? こっちのナニ、山神様とか?
 こんなんに狙われて大丈夫なワケ?これなら、本気でいけるかも」

Hは本気になったようで、他の「みえるひと」も意見を聞いてみたかったようで、さらにざっと説明をしていた・
みえない俺には良く判らん感覚的な言葉が多く

「硬さは?こう、ばきんていきそうな」
「そうじゃないし、寒いとかスレてる(ずれてる?)
「寒さは?こう、バキンていそうな」
「そうじゃないし、そこにあるのに何で?みたいな変な感じはある?」
「それもないです。するんとして。浸食もなしにできないし

こんな感じの意味不明なやり取りの末に、Hは

「……俺も全く見当がつかない」

と首を捻っていました。
その後はもう一度、「本当に止めた方がいい」と俺とAから念押しにしてお開きにしました。

……数日後の土曜日に、Aから電話が来ました。
BからCへと会うから来ないか、と言って来たそうです。
『出る』家があるこちおから、良かったらAと俺にも声をかけて来いとCに言われてAに電話をよこしたと。
たまげて家を出、Aと合流してBに指摘された待ち合わせ場所に行くと、そこにはHが車で待っていました。
Hはニヤニヤしながら

「悪いね。BとCは後から来るから、乗ってくれよ」

といい、車中で説明をしました。
……こいつ、Cに頼んでBに連絡をとって約束したそうです。

「知り合いの家が“出る”から来ない?って言ったら、2つ返事だった。いいご主人だね、『昔の友達と肝試し?いいよ、羽を伸ばして来い』って子供の面倒を見てくれてるって。あんまり時間ないから急がないと」

Hの目的地は、高級住宅街の塀に囲まれたでかい豪邸でしたが、車が止まった時には俺の横のAは硬直して真っ青でした。

「悪いね。大丈夫だよ。俺ら部外者だし、出入りしても手ェ出さなければね」

Hに促されてしぶしぶ降りたAは、その豪邸を見上げて、引きつった顔でHをみました。

「……本気で?」
「まあね。……ここんちの奥さんが、俺の母親の幼馴染。息子が完全にイカれちゃってんだよ」
「何いってんの?その人が助かったって、周り中に散って広がるだけじゃ」
「俺も考えたし。……出られないところに押し込めてやりあってもらえばいいだろ?勝敗つくまで、徹底的にさ」

2人が言い合っている間にドアが開き、中から中年のおばさんが出てきて、俺らを招き入れました。
……どうぞ、と通された部屋に居る男を見て、思わず硬直しました。
壁向いて立った横顔は白目むいて天井見上げて、唇の端が少しだけ上ってニヤついているみたいで、どっか壊れたような形相でブツブツブツブツ何かつぶやき続けてて、上手く言えないけど、その目つきが本気で恐い。
実はコレがウチに出る悪霊です、って言われたら信じたと思う。
俺もドン引きしたけど、Aはもう真っ青でした。

「……もとはどこに?」

Aが聞くと、Hは少し疲れたような余裕のない顔で笑って

「そこが一番まずいんだよね。……解んないんだよ、気がついたら拾っちゃってて」

後で二人に聞いたら、そこんちの息子(Iとします)についていたのは、何だか複数の人魂が怨霊をツナギにして融合したようなものだそうでした。
様子から言って、長いこと生き物でなくモノに憑いていたと解る状態で、本体と言うか依り代と言うか、それがIに憑く前に居たものがあるはず。
それが除霊するときに手がかりと言うか土台になるらしいです。
なのに、どこで取り憑かれたのか解からないために除霊の手がかりがなく、霊能者に無理だと言われたそうでした。
Hの答えを聞いたAは、さらに怯えたような顔をしていました。

「……この人、大丈夫なの?何かヤちゃったとかないの?」
「……あー。寸前まで行ったことはある、かな。今はとりあえず、ちょい前に来てくれた人が体にヨケ(?)つけて抑えてるから」

そんな感じの怖い会話の途中で、外から車の音がしました。
CがBを乗せて来たのですが、案の定と言うか怖いことにと言うか、Bは車中で既に熟睡していました。
HがCからBを引き取り、抱えて奥の部屋へ連れ込み、床に寝かせて毛布をかけました。
後かIをそこんちの奥さんが連れてきて、熟睡中のBと虚ろな目のIを残して、俺らは部屋を出ました。
……考えてみりゃ、眠っている既婚女性とおかしな男を1つの部屋に入れたりしてとんでもない話です。
何故かその時は、Hの全く躊躇いのないテキパキした態度とBは何があっても無事、と言う考えが当然のこととして頭の中にあったため、唯々諾々と従っていました。
ドアを閉めると、Hがドアに背をつけて廊下に胡坐をかいて座りました。
Aが俺にしがみつき、奥さんが早足で廊下を戻って引っ込んで少しして、部屋の中から、凄まじい破壊音が響き渡りました。
壁か柱がぶっ壊されるんじゃないかってくらいの轟音に混ざって、ガシャン、パリンとガラスか茶碗が割れるような音。
俺はギョッとしましたし、Hは揺れるドアに背中を押し付けて座り込んだまま動きませんでした。
Cも、何かHから聞かされていたのか、落ち着かない様子ながら、あまり慌てた様子もなく。

どれだけ時間が経ったのか、誰も動かずに待ち続けて、ようやく中の音が小さくまばらになってきたとき、直ぐ内側から誰かがゆすっているようにドアががたがたっと揺れ、鋭い、あせりまくった切迫した男の声が聞こえました。

「おい、助けてくれ!!お願いだ、助けて!開けてくれ、早く!早く!!ここを開けてくれえええっ!!」

Aが顔をあげてHに向き直り

「ねえ、もういいんじゃない?開けて出してあげようよ」

ここで俺もはっとして

「おい、さっきの人(I)、正気に返ったんじゃないか?」

と言葉を添えましたが、Hはぎっと俺たちを睨みつけて「まだ」と言いました。
それからさらに時間が過ぎ、中から全く音がしなくなって、やっとHは立ち上がりドアを開けました。
……中は、HがBを寝かせIを入れて出たときと全く変わりありませんでした。
壊れたものも動かされたものもなく、ただBが部屋の真ん中で大の字になって寝てるだけ。
あの破壊音を立てたと推測できるものの痕跡1つなく。
そして部屋の隅にうずくまって震えていたIに、Hが駆け寄りました。

「おい、I。俺、わかるか」
「あ……H?H!!」

目が焦点を結ぶとIは取り乱した様子で、しかし初対面の時より遥かにまともな様子でHに掴みかかりました。

「H、化け物がいたんだ!本当だ、俺に化け物が、襲い掛かってきて俺を殺して」
「……ほいほい」

幾らか安心した様子でHがポンポンとIの肩を叩いて宥めた。
その時、俺の横に居たAがふらりと傾いたのが視界に映った。
慌てて受け止めた俺に、Hが

「あ、ごめん。リビングに連れてったげて。ココは辛いでしょ」

と言った。Cと一緒にAを運んで廊下を戻りながら、やっと気がついた。
さっきHと喋っていたIの声。
破壊音が止む前に部屋の中から聞こえた声とは、全然違う声でした。
……その後、Aが目を覚まして動けるようになり、眠り込んでるBをA宅へ移したうえでB夫を呼び、AがBを引き渡しました。
変に疑われると嫌なので、俺もHもCも、男は全員席を外しました。
B夫は怪しむ様子もなく爆睡している妻を引き取っていきました。

「あ、またですか?すみません。ひょっとしたら知ってるかもしれませんけど、睡眠障害とか言うんですかね。突然パタンと寝ちゃって目がさめないことがあって。これの母親から、小さい頃はよくあったって聞きましたけど、結婚してからは年に一回もないし、病院で検査しても異常ないし、本人覚えてないけどガスだの何だの危ないものは必ず寝る前に止めてるし、子供と居る間は起きないし、倒れるとかじゃないから問題ないんで俺は気にしてないです。面倒をかけてすみません。連絡ありがとうございました」

A曰く。
「……ガスとか火とか絶対に大丈夫だと思う。Bが止めなくても、必ずアレが何とかするから。赤ちゃんと居るとないってのは意外。Bが子供ができてから、危ない場所に行ったり、危ないもの買ったりしなくなってきたのかな」

H曰く。
「さすがに赤んぼ放置して熟睡は、Bさんの潜在意識が拒むんじゃね?アレ、Bさんの意識とカンペキ無関係って訳じゃないと思うよ。無意識の部分とかに食い込んでないと、寝かすのはないと思うし。Bさんでなきゃいけない理由があるんだろーねー。赤んぼ預けるとか家族が一緒とかでないとフルで戦えないなんて不便な状況、ただの間借りならシャバ替えしてるよ」

あのとき部屋の中から聞こえた声についても、「みえるひと」な2人に聞いてみた。
こちらは2人とも完全一致。

『融合した人魂のウチの一体が、消滅の危機に瀕して自我を取り戻した』

だそーです。
あの部屋、事前にHが、使える伝もコネも知識も全部使って。頼めるだけの人に頼んで、何重にも霊的に閉鎖してたんだとか。
で。
その檻の中で、Bについているアレと、Iについているモノとかが、互いに在るだけで互いを削りある至近距離におかれることになり、形容し難い激烈なバトルが繰り広げられたそうです。
結果は、またしても、Bのアレの勝ちでした。
……助けてくれ、開けてくれ、と叫んでいたのは、逃げ場のない檻の中で、Bのアレと戦いながら2度目の死の恐怖を、味わってた誰かの霊だったと。

衝撃でした。
生身でない、声帯を持たないとは信じられないほど、声はリアルでした。
そしてAが倒れたのは、霊的に比喩的に「血染めの惨殺現場」を見たためでした。
その霊たちがどうなったのか、と言う質問に2人とも答えてくれなかったし俺も考えたくありません。Bのアレはお祓いだの除霊だのしてくれる存在ではないと既に知っているので。

話は概ねこれで終わりです。
Bは次の日の朝に目を覚まし、鼻歌と共に朝食と夫の弁当を作ったそうです。
Iは精神科へ通院しているそうですが、以前と違って会話ができて治療効果がきちんと出ることにI母は大変喜んでいたそうでした。
ついでにCは、Hから何を聞かされたか知りませんが、もうあまりBとは連絡を取りたくないようなことを言っていました。
最後に、その「融合した複数の人霊」これが一番、この話の嫌なところですが、「恐らく半世紀以上は前、だけど100年は経っていない」で「全員、両手の爪が剥がされてた」そうでした。
それ以上は、AもHも説明してくれませんでしたし、俺も聞きたくないと思っています。
どこでどんな目にあった誰だとしても、判れば気分が悪くなるだけでしょうから。
以上です。
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