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2023年03月29日

マネキンの生首と暮らしていた話



ある日私は美術館に一人で出かけていたんだ。その美術館の近くというのが人通りは多いんだけどホームレス環境の人達も多くて、道のすみっこに段ボールハウスみたいなのがちょいちょいあった。
私はぼんやりその気色を見ながら美術館から帰る道を歩いていたんだけど、あるものが目にはいった。
とある段ボールハウスのそばにマネキン?の頭部が飾ってあった。
分かる人少ないかもしれないけど、ブリジット・バルドーみたいな髪の長い綺麗な顔で、なんとなく惹かれて近づいていったんだけど、そのマネキンの数歩あたり近くに寄った時かな。
私はこの顔めっちゃ好きだ。持って帰ろう!!と思い立った。何故唐突に思ったのか分からないけど、今考えればあの時からおかしかったみたいだった。


段ボールハウスに「すみません、誰かいませんか」と話しかけると、のそのそとおじいさんが出てきた。

私「突然すみません、私どうしてもこのマネキンが欲しいんですけど、一目惚れなんですけど、大切なものだったりしますか?」
おじいさん「あ??」

おじいさんは意味が分からないようだったけど、私は好きな海外の昔の女優に似ている、と言ったらまあ納得したみたいで「そんなんでよかったらあげるよ」と言ってくれた。
おじいさんによると、おじいさんなりの防犯というか、イタズラ防止らしかった。
ホームレス環境の人達に暴力をふるって楽しむ人達がいるらしい。ひどい話だね。マネキンがあるとなんとなく不気味だから人が近づいてこないらしい。
おじいさんはその後も「違う地区でハウスに放火された人がいて……」とか話してたけど、私は早くマネキンを持って帰りたかったから「そうですかそうですか」とか適当に話を切り上げて歩き始めた。
マネキンの生首小脇に抱えてバスに乗ったら、バス混んでたのに誰も隣に座ってこなかったよ。


帰るなり私はマネキンをカワイイもの棚(私の家には可愛いグッズを飾る用の棚がある)に飾ってみた。
その時はそれで「いいわあ〜」って満足したんだけど、日々が経つにつれてなんとなく「おはよう」「今日はね〜こんなことが……」とか話しかけるようになって、そのうち「いってきます」「ただいま」を言いたいな〜と思って玄関の靴入れの上に飾るようになった。
家に帰ってきたら一番にブリジット(名前もつけた)に挨拶するようになった。
これが2ヶ月くらいかな、続いていたんだけど、ある日のこと。
私とブリジットの生活にヒビが入ることになる。


私には涼子さん(仮名)という恋人がいた。
すごく気のつよい人で、ガンガン自分の意見を言ってくる。気の強い女性が好きな私はメロメロな状態だった。
その涼子さんが家に遊びにくることになって私はルンルンしていた。
……ブリジットを隠さないまま。

私「涼子さん、いらっしゃい〜」

涼子さんが遊びにきた時、私は上機嫌だったし、涼子さんもまあまあ機嫌がよさそうだった。普段あんま笑わない人だから嬉しかったなあ。
でも玄関のブリジットを見たとたん涼子さんは顔色を変えた。

涼「……何これ」
私「ブリジットと言います」

おかしくなっていた私は、りょうこさんもブリジットを気に入ってくれるとばかり思っていたので呑気に紹介したけど、涼子さんは「何これ」「気持ち悪い、何で、何でこんなことしてんの」と慌て始めた。

涼「お前どうしたの。何でこんなことしてんの?」
私「これは何か、道端で運命的な出会いをして、そんで持って帰ってきたの」
涼「はあ!?」

涼子さんは真っ青になって「美容師じゃないんだから」「これは完全におかしい!!」「不気味だって思わないの!?」
普段冷静な涼子さんも流石に焦ったらしく「何か悩みでもあるの!?私に言えないこと!?」と話が飛躍していった。


私は何故か涼子さんが混乱しているのか理由が全く解らなかった。
一応オカルト好きだから、こういう異様にある物に惹かれる時は信連関係のヤバイやつで……みたいなエピソードも読んだことがあったんだけど、その時は完全に忘れていた。頭は花畑状態だった。
私は、何でそんなこと言うの?こんなに綺麗だし不気味なんて言ったらブリジットが可哀想だよ。とか色々言ったら、涼子さんはしばらく黙って考えごとをしているみたいだった。
そして「そうだね。よく見ると可愛いね。私が間違ってたよ」と静かに言って家の中に入っていった。
後で聞いたら、基本的に涼子さんの言うことを聞く私がそこまで言うのを聞いて明らかにヤバイと思って話を合わせることにしたって。


その後も何か、一回もブリジットを否定せずにご飯食べたりのんびりしたりした。
関係ないけど、完全に話を合わせることにした涼子さんは「何が面白いわけ?」と全否定していた。以前私が見てたハム太郎の映画までも「あれは可愛かった。渡すが間違ってた」と首肯していた。
その日はそれで終わり。涼子さんと一緒に寝て、朝を迎えた。


涼「見送りはいいから」
私「なんで?」
涼「なんでも」

翌朝、涼子さんはそんな感じで玄関まで見送ろうとする私を止めて足早に帰っていった。
冷たいなあ、とか考えながら、そのうち私も出かけようと玄関に行ったんだけど、そしたら気づいた。

ブリジットがいない。


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