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2022年06月24日

邪霊の巣窟 8



「あのお兄ちゃん、どうして体が真っ黒でお目々がないの?」

と娘が言い出したのです。
そしてMを再び見てみると全身がどす黒いオーラのように包まれていました。目もないのではなく、真っ黒な目だったのです。
そして此処にいるだけで気を失いそうになるぐらいの憎悪、怨念、殺意などの波動が溢れ出ていました。

魔物。

兄が言った事を思い出しました。まさに魔物でした。どうやったら人間だったものがこんな風になれるのか…。自分は家族を守る使命感と目の前の存在に対する恐怖心に震えあがりました。
自分たちとMはしばらく睨み合ったままでした。
おそらくMは自分たちに襲い掛かろうにもご神体が邪魔して入る事は出来ないのだろうと思いました。

自分は二人の盾になるように前に出て、AはEをしっかりと抱きしめていました。そして朝になればMの力も弱まり、駆け付ける退魔士たちに今度こそ浄化される…。

Mはそれを解っているかの様に自分たちとご神体を凄い形相で睨みつけていました。そして何かを口走り、真っ黒な目で自分とA、Eを交互に睨みながら消えていきました…。

朝日が昇っていたのです。自分は終わった…と安堵しました。Aは泣いていました。Eは…寝ていました。
しばらくして兄たちが駆け付けて来て改めて浄化を行う事になりました。
相手が相手なだけにかなり手こずっていたみたいですが無事浄化が終わったと告げられました。

そして自分たちはご神体の部屋に呼ばれて今回の事、そして前回の事件の発端と真相を語られる事になりました。

まずMですがあそこまで魔物化してしまうと浄化や除霊は不可能との事で消し去るしかなかったと言われました。魂の消滅。
それは前世から続いている魂をなかった事にされあの世にいく事はおろか、生まれ変わる事も出来ない、本当の死。
これ程怖ろしい事はないと思いました。
そして前回の事件でMは変死だと聞かされていましたが真相は自殺だったそうです。

クラスメイトの怪我もMの仕業だったと言われました。あの悪霊たちをあの時操っていたのがMだった事も初めから自分をAを標的に計画された肝試しだったらしいという事も告げられました。

Mを浄化した時に全て解ったと兄は言っていました。
Mは自分に些細な事から恨み(この時はまだ小さなものだったらしいです)始めたという事でした。

それからは何かと自分とMを比べて殆ど逆恨みに等しい恨みになっていき‥腹いせに自分の彼女(A)を取ってやろうと思い、言い寄った事があると言う事でした。

これについてはAからも聞かされた事があります。
しかしAは全く振り返らず、次第にMはAに本気になっていったらしいのです。
でもAが全く振り向かない為、段々と憎しみに変わりやはり恨みの矛先を自分に向けたという事でした。

そんな時にあの神社の事件に自分が関わっている事を知ったMは(おそらく大人たちが騙っているのを偶然聞いたのだろうと言っていました)あの神社へ行き、あの大木に「Tを呪い殺せ」と叫びながら藁人形に釘を打ち込んでいたと言うのです。

神社の悪霊たちはMを取り込もうとしたけどあまりの怨念の凄まじさに逆に利用される形になってしまったと…。
そしてMは自分自身が悪霊になって俺を取り殺し、Aを自分の元に引きずり込もうと最悪の決断をしたのだそうです。

他のメンバーはただの生贄程度にしか考えていなかったそうです。最初はAも他の人もろとも殺そうと考えましたがお守りや兄の友人に邪魔されて急遽自分を偽の電話で呼び出す事にしたそうです。

あ、重要な事を言っていませんでした。肝試しが始まった時はMはすでに死んでいたそうです。
大木に打ち付けてある自分に見立てた藁人形を睨みつけている様に首を吊っていたとの事でした。(だからあの時自分だけが見えない方がいいと言われたのでしょう)


邪霊の巣窟 9へ

2022年06月23日

邪霊の巣窟 7


それからもうこのままにしてはおけないと退魔士の人たちが大掛かりな浄化を行うことになりました。
本来はまだ変質しているとはいえ神がいる状態なので少しづつ行い、神を徐々に元の姿に戻していくのが最善だったらしいのですが事は急を要する為にたむを得ず行うことになったそうなんです。

数日後‥その浄化の儀式が始まりました。
自分はTVなどで除霊儀式などを見たことありますが、全く規模が違いました。
自分とAも当事者なため参列することになりました。
自分はこの光景を一生忘れることはないと思いました‥。

この事件ですが死者がでたにも関わらず新聞沙汰などにはなりませんでした。
どうやら退魔士関係の人たちや町の人たちが根回ししていたようでした。
じぶんは真実を知ることでの感染を防ぐ為だと思っていましたが別の理由もあったのです‥。
その理由も先ほどの自分のことと同様にこの数年後に判明することになりました‥。
今回の事件の真相も…。

あの後自分は高校に進学して高校を卒業するとそのまま就職して町を出ました。Aも高校卒業後は大学に進学して自分と同じく町をでました。
自分たちは同棲という形で一緒に暮らしてAの大学卒業後に結婚しました。
それからさらに月日が経って自分たちに娘が出来てその子が五歳になった時に実家で法事がある為に帰省する事になったのです。
実家に帰る途中。自分たちはあの神社の前を通りました。鳥居や神社自体もあたらしくなっており、昔と全く違う様子でした。
あの事件…一人の死者がでてしまった事件…。あの時自分らがMの死を確認しなければならなかった理由…。それは。

「ねえ…T‥あの時さ‥私たちがここで襲われている時…あの悪霊の中に…Mがいたよね?それを見たからあの時確認に行ったんでしょ?」

Aは思い出した様に言いました。

「うん‥‥」

そう答えると二人とも黙ってしまいました。

「ママ‥おトイレ行きたい。」

娘のEがそう言い出し自分たちは実家へ急ぎました。実家に帰って少しくつろいでいると

「E、お外で遊んでくるー」

と娘が言ってきたので

「車に気をつけてなーあんまり遠くに行くんじゃないぞー」

と声をかけました。
そしたら中々娘が帰ってこないので心配して探しに行こうとしたら半ベソかきながら帰ってきました。

「どこに行ってたんだ。心配したんだぞ」

と言うと娘の口から信じ難い言葉が出てきたんです。

「あのね。変なお兄ちゃんがこっちにおいでって言ってきたの。E行かないって言ったらお手々引っ張られたの…。それでね後ろから違う人に引っ張られてお寺(あの神社の事)に入れられて出られなくなったの」

自分は驚愕しました。まさか…と。隣にいたAも顔が真っ青になっていました。

「それで?どうなったの?何にも見なかった?体はなんともないの?」

Aが慌てて確認すると

「うん…なにも見てないよ‥。少し待ってたらドアが開いたから帰ってきたの…パパ、ママごめんなさい。」

泣き出したEをAが抱き締めて必死でなだめました。
自分はすぐに兄に連絡をとりました。
兄はあの後にそのまま本山に戻り修行をしたいと申し出たのです。
兄に色々思う所があったらしく。両親や退魔士の方たちの了承を得て本山に行きました。
兄は直ぐ電話にでました。

「おぉ、Tか。久しぶりだなー。俺も明後日くらいに戻る……お前…なんでそんな状況になってるんだ?なんだそれは!!お前何があった!!」

兄は何か気づいたみたいで自分が状況を説明すると

「いますぐ町から逃げろ!!いや…手遅れか‥いいか?いますぐ両親やあの神社の管理人に言ってあの神社に立て籠もるんだ‥。絶対に出るなよ!!俺らもすぐにいくから」
「は?冗談だろ?なんであの神社に…どういう事だよ!!」

自分はサッパリ状況が掴めず困惑していると

「お前らを狙ってる奴な‥マジで洒落にならん!怨霊とか邪霊とかそんなレベルじゃない‥まさに魔物だよ!!信じられん‥どうやったらそんな風になれるんだ‥。いいか。すぐに神社に行くんだ!!」

と言って電話が切れました。自分は困惑しながらも皆に事情を説明し、また大騒ぎになりつつも神社に立て籠もりました。そしてご神体のある部屋で朝を待つ事にしたのです。深夜遅くなり‥そろそろ眠気がきた時‥。

「おい!!俺だ!!来てやったぞ!!開けてくれ!!」

と兄の声が正面の入口から聞こえてきました。
しかし自分たちは兄のはずがないと思い

「入りたいのならそっちの方から入ればいいだろう」

と言いました。
自分とAはそいつが誰か解っていました。

「M…Mなんだろう?解ってるんだよ‥どうしてなんだ?どうして俺たちを…」

と言った瞬間に入り口が開きそこには当時のままのMがいました。

「あ…Eを連れて行こうとしたお兄ちゃん」

Eが言いました。
やっぱり…。自分はそう思いました。そしておそらくはEを後ろから引っ張って神社に入れたのはこの神社に祀られている神様なんだと思いました。
清浄に戻った神様はあの事件の被害者である自分たちの娘を守ってくれたのだと感じました。この神社に入ってご神体のそばにいてそんな気がしていたのです。


邪霊の巣窟 8へ

2022年06月22日

邪霊の巣窟 6



「いやあああ!!なんで?どうして?私たちが何をしたっていうの?許してよぉおお!!助けてー!!お母さん!お母さん!」

Aは泣き叫んでいました。自分も叫んで助けを呼びましたが誰も気づきません‥それどころか街灯や民家の明かりなどが一切無いことに気づきました。
悪霊が自分らを引きずり始めました‥。
自分はあの時の様に

「あぁ‥俺‥これで死んでしまうんだろうなぁ‥」

と考えていました。Aは気を失ったのおかもう叫んでいませんでした。
自分らが鳥居の中に引きずりこまれ始めた時。バチーーーーン!!と大きな音がしました。
その音に我に返り周りを見ると悪霊たちの姿は無く街灯や民家の明かりも見えていました。Aも突然のことに呆然としていました。

「え?助かったの?」

と自分らは顔を見合わせていました。
すると腕につけていたお守りが二人とも壊れているのに気づきました。
まさかこれが身代わりに?と考えていると向こうから大人たちがやって来ました。
その中には退魔士の人たちやなんと兄も板のです。

自分は事情や状況を話しました。
きついお叱りを受けましたが皆優しく迎えてくれました。
垢に残ってる人たちを連れ戻すために退魔士と大人たちが行くことになりました。
それとなんと兄も同行するらしいとわかりました。

「俺も無関係じゃないしな、俺をきちんと浄化するにはもう一度入らないといけないらしい」

と言っていました。
そして‥自分も動向を希望しました。
当然のように大反対されましたが自分の責任でもあるし‥そして何よりも絶対に自分で確かめなければいけないことがあるからでした。
自分も一歩も譲らず頼み込んでいると、絶対に単独で行動しない事、皆から離れないことを条件に了承してくれました。
Aをみるとどうして自分が行こうとしているのか。確かめたいことがなんなのか解っているようでした。
自分は恐怖心を振り払いながら皆について再び神社の中に入っていきました。

道中、兄に兄の友達のことを話すと兄は涙を流しながら

「うん‥そうか‥あのな‥あいつら‥ついこのあいだ‥息を引き取ったんだ‥俺のとこにもきたよ‥そっか‥お前を守りに行ってくれてたんだな‥ありがとう‥ありがとう‥」

兄は泣きながらあの子達にお礼を言っていました。自分も泣きながらお礼を言いました‥。

そしてしばらく歩いていると兄に変化がでたんです。
いきなり倒れこんで苦しそうに顔をゆがませていました。
よく見ると兄に悪霊が圧し掛かっていました。
すぐに退魔士の人が除霊を施したのですが中々払えませんでした。
数人掛かりでやっと払うことが出来ました。

その後‥クラスメイトは神社のご神体(と思われるもの)の前で見つかりました‥中は血の海でした。自分はたまらず嘔吐してしまいました。

すぐに救急車が呼ばれ運ばれていきました‥幸い重傷ではあるものの命に別状はないとの事で少し安心をしました。
しかし霊が肉体に直接傷をつける事ができるのかと疑問に思いました。
そして‥神社の裏の大木でMが遺体で見つかりました。
自分は見るなと言われておりませんが自分が確認したかったのはこれの事だったんだと改めて認識しました。
理由は後ほどに語ることにします。


邪霊の巣窟 7へ

2022年06月21日

邪霊の巣窟 5



入口の鳥居にたどり着いたもののその不気味な雰囲気はそのままで入るのに躊躇してしまいましたが意を決して入りました。
恐怖に震えながら進んでいるとあの悪霊たちが姿を見せないので不思議に思いました。神社の境内は静かなものでした。
いや‥静かすぎたんです。
何か起こっているなら皆の叫びなり悲鳴なり聞こえてくるはずです。
さらに進むと誰かが座り込んでいるのが見えました。
よく見るとAでした‥。
自分はすにに駆け寄って

「A!!大丈夫?何があったの?皆は?」

とAの肩を抱きながらききました。

「あ‥T‥。う‥うう‥」

とAは泣き出してしまいました。

「一体何があったの?怪我とかはない?皆はどこにいったの?」
「わかんないよ‥しばらく歩いていたら皆急に無口になって先に行っちゃって‥追いかけようとしたら転んじゃって‥いくら叫んでも答えてくれなくて‥そしたらへんな子供が出て来てここまで引っ張られて…」

自分はそれを聞いてまずいと思いました‥。あの時と酷似してる‥とあの電話の事もその時気づきました。
とにかくAを連れてここから出よう‥そう思って振り返ると‥。
子供が2〜3人こちらを見つめていました‥。
しまった!!と思いAを立たせて逃げようとして気づきました。
その子供たちは表情があの時の子供と違うんです。怒った顔でこっちをみていました
‥。

「あの子たちだよ‥私をここまで引っ張ってきたの…」

Aが涙声で言いました。

「帰れ」
「ここから早く出ていけ」

その子供たちが自分らに向けてそういいました。
どうして?と自分が子供たちを見ていると‥。
知ってる‥俺はこの子たちを知ってる‥。

そう感じた瞬間、その子たちが誰かわかりました。あの時巻き込まれた兄の友達でした‥。

「あぁ‥そっか‥そうなんだ‥君たちがAをここまで連れてきてくれたんだね?今、悪霊から守ってくれてるんだね?」

自分は泣いていました。
そしてAに

「あの子たちは大丈夫だから‥今のうちにでよう…大人たちも後でくるからそれから皆をさがそう」

と言って落ち着かせました。
Aは素直に頷き歩き初めました‥。
ところがいきなり周りの空気が変わったのです。
Aもそれに気づき足を止めました。
そして周りを見ると‥悪霊たちが自分たちを取り囲む様に立っていました。

「ひっ!!」「きゃああああ!!」

ほぼ同時に悲鳴を上げその場にへたり込んでしまいました‥。
あの子達が抑えてくれていたのが限界がきてしまったのでしょうか?自分たちはお互いを抱き合い恐怖に震えるしかありませんでした‥。

しかし‥悪霊はこちらに近づいてこようとはしませんでした‥。
自分はすぐにお守りがあるからだと気づきました。Aをみるとちゃんと腕にお守りをしていました。
お守りが二つあるから効果も高いのでしょうか?それ以上は近寄ってこれないみたいでした。

「A‥走るよ‥お守りがあるから何とかなるかもしれない‥いい?止まったり振り返らないように走るよ」

とAに言いました。Aも頷き手を固く繋ぎました。自分はその辺の棒切れを掴んで無駄な事とは思いながらもそれを振り回しながら走りました‥。悪霊たちが追ってきているのを背中越しに感じながらも走りました。
そして鳥居が見えてきて

「鳥居を潜れば大丈夫だから!!もうすぐで逃げられるよ!!」

とAに声をかけながら走り続け、ついに鳥居を抜けました…。
逃げ延びた安堵感でいっぱいになり二人してその場に坐り込みました。
しかし顔を上げるとなんと悪霊たちがすぐ傍まで来ていました。かなりの数がいたと思います。
あの時は4〜5体くたいだったのに‥。
浄化が少しづつ行われて数は減っているはずなのに‥。
しかもどうして神社からでてこられるんだ?お守りを持っているのになんでそこまで近寄れるんだ?さっきまで大丈夫だったのに…。

恐怖に震えながらそんな考えがうかびあがってきました。そして悪霊たちが自分らにさらに近寄って来たのです。


邪霊の巣窟 6へ

2022年06月20日

邪霊の巣窟 4


肝試し当日の夜、自分は少し後悔していました。

皆を無理にでも止めるべきだったかもしれない‥Aが行っているのに自分は怖いからという理由で行かないなんて最低ではないのか?‥と。
自室で悩んでいると下の階から電話が鳴り始めました。両親が中々電話を取らないので自分が電話に出ると‥。

「あ!!T?Aが‥Aが‥大変なんだよ!!とにかくすぐにきて!!」

電話はRからでした。

「大変って・何が起きたの?Aはどんな状態なの?」
「とにかく助けて!!今神社なの!1早く来て!早く!!」

自分は最悪の事態になったと思いました‥。
自分が臆病なせいでAが大変なことになったと激しく公開しました。
もう恐怖心よりAのことが心配でたまらなくなり、神社に行く決意をしました。
しかし自分一人で行ってもどうも出来ないかもしれない…。
自分は少し悩みましたが両親に相談することにしました。

初めからこうすれば良かったのですが。言えばMとかに大人にいいつけた卑怯者と罵られ皆に‥Aに嫌われる。そんな自分勝手で自己保身的な考えで言えずにいました…。
自分は自己嫌悪な気持ちでいっぱいでした…。
本当は兄に相談したかったのですが兄はあの事件の後も霊現象に襲われていました。
どうやらあの事件の影響は兄のほうが深刻だったらしく、退魔士関係の本山(どう表現したらよいのか解らない為、とりあえずこう呼ぶことにします)で浄化されることになり今はいないのです。

兄は出発時に。

「俺はあっちに行くからこれはお前が持ってな。一つより二つの方が効果あると思うから」

とお守りを渡してくれました。

両親に言うと二人は物凄く慌てて

「町の人たちを集めてあの人たちに連絡しよう。お前は絶対に家から出るなよ!!」

と言ってでていきました。
しかし自分もAや皆が心配でたまらなかったので一足先に神社へむかいました。
しかしその時気づけばよかったのです。
自分の電話番号はAから聞いたりクラスメイトだから知ってても不思議じゃありませんが‥。
どうやって神社から電話をかけた?
あの頃はまだ携帯もそこまで普及しておらず、クラスの皆は誰も持っていませんでした。


邪霊の巣窟 5へ

2022年06月17日

邪霊の巣窟 3


自分が中学3年になった時にクラスで何かと目立つ存在のMがこともあろうにあの神社で肝試しをやると言いはじめたのです。
自分と自分彼女(現妻)のAも誘われましたがそれが引き金となり、また兄や町を巻き込む事件が起きてしまいました。

Mがあの神社に肝試しに行くと言い出したのを聞き、自分は震えが止まりませんでした。そしてMが

「おい!!T(自分の事です)。お前も来るんだろ?Aも誘ってるから当然来るよな?まさか逃げないよな?」

と挑発とも思える言葉で誘ってきました。自分は当然断りました。

「いや‥悪いけど行かない‥そっちもあそこへは絶対行かない方がいよ…。悪い事は言わないから止めた方がいい。」

と止める事もしましたがMは全く聞き入れず、逆に自分を臆病者、知ったかぶりをしてカッコつけている、等と罵ってきました。
何度説得してもダメでした。自分もあの時の事を詳しく言えればよかったのですが、町の大人やあの男性からあの事を人に言ってはならない、と固く禁止されていたので言う事ができません。

禁止された理由を言いますと、人と人の繋がり、関係は普通に考えているほど関係なものでなく、もっと深く、複雑な物らしいのです。
例え少ししか会話した事なくても(挨拶程度でも)その人同士はそれで関係を持った事になり繋がってしまうらしいのです(強弱はあるみたいですが)。
例え本人たちの仲が悪くても関係なく繋がってしまうらしいです。
有名な「言霊」もこの事が関係していると言っていました。

だからあの事を他人に話す事はあの事件に関係した自分は当然として、あの邪霊とも繋がる恐れがあり、自分を通して奴らが事件の事を知った人を呼び寄せる可能性があるという物でした。
だから自分は事件の事は言えませんでした。言えば関係ない人まで聞いてしまったり、Mが人に話す恐れがあるからです。

自分はなんとか行くのを止め様としましたが取り付く島も無いといった状態で遂に学年中に

「Tは臆病者」
「彼女だけ行かせて自分は行かない卑怯者」

とか言い回り、自分はイジメとまではいきませんが、少し孤立してしまいました。

なぜMが自分に対してあんな態度を取っていたのか…。
その理由はこの事件の本当に最後…この時からさらに数年後に解る事になりました。

自分はAだけでも思い説得しましたが、

「R(Aの親友)も行くし、約束しちゃったから‥今更断り切れないよ‥」

と言って聞いてくれませんでした。あのMが流した話を聞いて自分に少し不信感を抱いていたみたいでした。
自分はAをほおって行く事はしたくない…でもあそこに二度と行きたくない…。止めようにも真実を話せない。
(Aだけに伝えようにも多少MやRが強引に聞き出す恐れがありましたし)

自分が悩んでいると一つ思い出した事がありました。あの事件の後にあの男性から

「また君たちに危害が及ぶ可能性もあるからこれを持っていなさい。肌身離さずとは言わないけどなるべく近くに置いて置くんだ。これを持っていたら余程の事じゃない限り大丈夫から・・・いいね?」

と数珠に似ているお守りを自分と兄にくれた物があったんです。自分はそれをAに

「自分はやっぱり行けないからこれを持って行って。忘れたり無くしたりしない様にね…。」

と言って渡しました。Aも少し悩んだけど了承して受けとってくれました。
自分は2つ持っているので一つ渡しても大丈夫だろうと思いました。もう一つは兄が持っていた物ですが兄はもう家にいません。
兄が何処に行ったかは後でお話しします。

そしてMが「計画した」肝試しの当日の夜がやってきました。
自分らにとって悪夢の様だった夜が。


邪霊の巣窟 4へ

2022年06月16日

邪霊の巣窟 2


命は助かったけど精神をやられていたそうでその人たちはそのまま町から出て病院へ行き入院したそうです。
自分たちは皆にこれ以上無いくらい叱られました。
母親たちは泣いていました。

その後で聞いたのですがあの神社は元は普通の神社でそれなりの力を持った住職がいたそうです。
しかしなまじ力が強い為、助けを求める霊が次々と集まって来て最初はきちんと対処していた住職もやがて耐えられなくなりそのまま逃げ出したそうです。
本来、住職が居なくなったり取り壊されてしまう神社はちゃんとした儀式などを行い場を清めてから祀っている神を別の場所に移すという事をしなければならないそうですが。

この神社はそのまま放置された為、祀っている神がいるのに祀る住職が居ない、そしてまた助けを求める霊が集まって来ているという事から髪の性質が異常をきたし結果、邪霊の住処となってしまったとの事でした。

男性は町から依頼されて退魔士関係の本山から派遣されて来た人物だそうです。
その人が言うにはこの神社は過去に例が無いくらいに酷い状態だそうで浄化するにはかなりの期間が必要と言っていました。

自分たちはお祓いを受けてそのまま帰されました。
もう絶対にあの場所には近づかないと決めました。
あんな思いは沢山だと思いました。



あの事件は始まったばかりだったんです。数年後…あの時とは比べものにならない恐怖を味わう事になりました。


邪霊の巣窟 3へ

2022年06月15日

邪霊の巣窟



邪霊の巣窟とは、寂れた神社に行くと起きた事件であり、長い事解決しなかった怪異譚のひとつである。
洒落怖。


【内容】



この話は数十年にも渡り自分と現妻や実兄、町をも巻き込み、恐怖のどん底に引きずり込んだ実話です。
かなり長い上に自分が書き込みに慣れていない為読みにくい部分もあると思いますがご容赦下さい。
全ての始まりは小学3年生の時でした。

兄と兄の友達3人に誘われてこの町で大人たちから

「絶対に近ずくな」

ときつく言われていた場所に内緒で行く事になりました。
その場所とは今は誰もいない寂れた神社で子供ながらにかなり不気味で嫌な感じがしました。
本当は乗り気ではなかったのですが兄たちに半ば強引に誘われる形で行く事になり仕方なく行くといった感じでした。
結構当日の昼に自分と兄は少し様子見に現地に行きました。すると最近この町に町の役所だが蝶々だかから仕事を頼まれてやって来たらしい20代半ばくらいの男性がその場所にいて、

「君達、ここには何があっても絶対に来ては駄目だよ近づかない方がいい、早く帰るんだ。いいね?」

と言われ追い返されてしまいました。
しかし兄達はその夜に計画を実行してしまいました。


まずその神社は町の高台にあり、さらにそこから伸びる坂を上がった所にあります。その坂には鳥居が幾つも連なっておりかなり不気味でした。最初は皆固まって歩いていたのですが誰かが

「別行動しよう」

と言い出して兄と自分、兄の友達3人に別れて行動する事になりました。
そしてしばらく歩いていると急に周りの空気というか空間自体というか・・・とにかく何かが変わりました。
自分は兄に

「帰りたい」

と言おうとしたら‥

「帰るぞ、今すぐに」

と兄がいきなり言い出し、自分の腕を引っ張って引き返しだしました。
後少しで鳥居という所で兄が立ち止まり、正面を見て震えていました。自分も恐る恐るそこをみると・・・・・・。
子供が数人ほど自分らの進路を遮る様に立っていました。その顔を見ると皆半ば白目を剥いて無表情な顔をしていました。

兄は恐怖に耐え兼ね、叫びながら自分を引っ張って走りだしました。
子供たちを突っ切り、もう出られると思った瞬間・・・兄が悲鳴を上げて倒れたんです。

自分が兄の方を見るとなんと先程の子供たちが兄にしがみついていたんです。
自分は何とか逃げて助けを呼ぼうとしましたが体が動きません。
自分の下半身がやたら重い事に気づき、目を向けると・・・なんと白目を剥いて歯を剥きだしにした老婆が腰にしがみついていたんです。

自分は恐怖というより死を覚悟しました。
死を覚悟して目をつむると自分にしがみついている老婆が。

「おいで‥おいで…こっちにおいで‥」

と頭に直接響くような声で呟いてきました。

自分はそれを聞いた途端死を覚悟していたはずが物凄い恐怖を感じ。思わず目を開いてしまいました。
すると老婆が自分の身体をはい上って来ていて顔が眼の前にありました。
自分は力の限り叫びましたがあんなに大きく叫んだのに近所の人は何故気づかないのかと思っていました。

そして兄の友達はどうしたのだろうと思い兄の方を見ると…。
兄は子供たちに神社の奥へと引きずられて行ってました。
自分は必死で助けを求めて叫びました。
すると背後から聞いた事のある声が聞こえました。

「もう大丈夫だよ」

その声を聞いた途端に身体が軽くなりました。
振り返ると昼間に会ったあの男性でした。
後ろからは大人たちが大勢やって来ていました。
怒ってる声や心配している声も聞こえました。

「助かった?」

と思い、兄を見るとなんとか無事なようでほっとして腰が抜けてしまいました。男性たちが心配そうに声をかけてくれていると兄がまだ奥に何人かいる事を告げると男性の顔色が変わり

「まずい!!早く助け出さないと大変だ!!」

と言って数人の大人たちと走って行きました。
それから兄の友達は神社の中で見つかりました。
変わり果てた姿で…。


邪霊の巣窟 2へ

2022年06月14日

うたて沼


うたて沼とは長手のドライブをした先の城跡付近で到達した場所である。
看板のない二手の道を分かれてみると……。


【内容】



もう10年くらい前、俺がまだ学生だった頃の出来事。
当時友人Aが中古の安い軽を買ったので、よくつるむ仲間内とあちこちドライブに行っていた。
その時に起きた不気味な出来事を書こうと思う。

ある3連休、俺たちは特にすることもなく、当然女っけもあえうわけもなく、意味も無く俺、A、Bで集まってAのアパートでだらだらとしていた。
そしてこれもいつものパターンだったのだが、誰と無くドライブへ行こうと言い出して、目的地もろくに決めず出発する事になった。
適当に高速へ乗ると、なんとなく今まで行った事の無い方面へ向かう事になり、3〜4時間ほど高速を乗りそこから適当に一般道へと降りた。
そこから更に山のほうへと国道を進んでいったのだが、長時間の運転でAが疲れていたこともあり、どこかで一端休憩して運転手を交代しようという事になった。

暫く進むと、車が数台駐車できそうなちょっとした広場のような場所が見付かった。
場所的に冬場チェーンなどを巻いたりするためのスペースだろうか。

とりあえずそこに入り、全員降りて伸びなどをしているとBが「なんかこの上に城跡があるらしいぞ、行ってみようぜ」と言ってきた。

Bが指差した方をみると、ボロボロで長い事放置されていただろう木製の看板があり、そこに『〇〇城後 徒歩30分』と書かれ、腐食して消えかかっていたが、手書きの地図のようなものも一緒に描かれている。
どうも途中に城跡以外に何かあるらしいのだが、消えかかっていて良く判らない。
時間はたしか午後3時前後ぐらい、徒歩30分なら暗くなる前に余裕で戻ってこられるだろう。
俺たちはなんとなくその城跡まで上ってみる事にした。

20分くらい細い山道を登った頃だろうか、途中で道が二手に分かれていた。
看板でもあれば良いのだが、あいにくそういう気の利いたものはなさそうなので。仕方なくカンで左の方へと進んでみる事にした。
すると、先の方を一人で進んでいたAが上の方から俺たちに

「おい、なんかすげーぞ、早く来てみろ!」

と言ってきた。

俺とBはなんだなんだと早足にAのところまで行ってみると、途中から石の階段が現れ、更にその先には、城跡ではなく恐らく長い事放置されていたであろう廃寺があった。
山門や堀、鐘などは撤去されたのだろうか、そういうものは何も無く、本殿は形をとどめているが、鐘楼やいくつかの建物は完全に崩壊し崩れ落ちている。
本殿へと続く石畳の間からは雑草が生え、砂利が敷き詰められていただろう場所は、一部ほとんど茂みのような状態になっていた。

ただ不思議なんは、山門などは明らかに人の手で撤去された様な痕があったにも関わらず、残りのぶぶんは撤去もされず朽ちていて、かなろ中途半端な状態だった事だ。

時間を確認すると、まだまだ日没までは余裕がありそうだ。
俺たちはなんとなくその廃寺を探索することにした。
が、周囲を歩き回っても特に目に付くようなものはなく、ここから更に続く様な道も見当たらず、Aと「多分さっきの分かれ道を右に行くのが正解なんだろうなー」と話していると、本殿の中を覗き込んでいたBが「うおっ!」と声を挙げた。
Bの方をみると本殿の扉が開いている。
話を聞いてみると、だめもとで開けてみたらすんなり開いてしまったという。
中は板敷で何も無くガランとしている。見た感じけっこうきれいな状態で、中に入っていけそうだ。

中に入ってみると、床はかなりホコリだらけで、恐らくだいぶ長い事人が入っていないのが判る。
なんとなくあちこちを見回していると、床に落ちているのが見えた。
近付いてみると、それはほこりにまみれて黄ばんでしわくちゃになった和紙のようで、そこにはかなり達筆な筆書きで『うたて沼』と書かれていた。

なんだなんだとAとBも酔って来たので、俺は2人に髪を見せながら「うたてって何?」と聞いたのだが、2人とも知らないようだ。
そもそもこの寺には池や沼のような物も見当たらない。
本殿の中にはそれ以外になにもなく、『うたて沼』の意味も解らなかった俺たちは、紙を元にあった場所に戻すと、城跡へ向かうために廃寺を後にした。

元来た道を戻り、さっきの分かれ道を右の方へ進むと、すぐに山の頂上へとたどり着いた。
ここには朽ちた感じの案内板があり、『〇〇城跡 本丸』と書かれていた。
どうやらここが目的地のようだ。
山頂はかなり開けた広場になっており、下のほうに市街地が見えるかなり景観のいい場所だ。
と、なんとなく下の方を見るとさっきの廃寺も見えた。
3人でさっきの廃寺って結構広い敷地なんだろうなーなどと話しをしていると、ある事に気がついた。
寺の庭を回った時に一切見かけなかったはずだが、庭の端の方に直径数mくらい、大きな黒い穴のようなものが見える。
「あんなものあったっけ?」と話をしていると、寺の庭に何か小さな動物が出て来ていた。
そしてその動物が庭の中を走り出した瞬間、その穴のようなものが動いて、まるで動物が穴の中に消えてしまったように見えた。
わけが解らない現象を目の当たりにした俺たちは

「…今あの穴動いたよな?なんだあれ…」

と唖然としていると、更にとんでもない事が起きた。
その物体が突然宙に浮くと、かなり高い距離まで上りそのまま移動し始めた。
その時になって、俺たちはあれが穴などでは無く、真っ黒で平面の、なんだかよく解らない物体である事に気がついた。


その平面上の物体は結構な高さを浮いて、俺たちが来た道の上を山頂へと向かって進みだした。
その時、恐らく移動する物体にびっくりしたのだろう。
木の間から大きな鳥が飛び出し、宙を浮く平面上の物体とぶつかった。
が、鳥はそのまま落ちる事も物体を通り抜ける事も無く消えてしまった…

何だか解らないが、とにかくあれはなにかヤバそうなものだ。
そしてそのヤバそうなものは、明らかに俺たちの方へと向かってやってきている。
その事だけは理解できた。

とりあえずここからすぐに退散した方が良さそうだ。
3人でそう話して気がついた。
あの物体は俺たちが登ってきた道沿いにやってきている、ということは来た道を戻れば確実に鉢合わせしてしまうという事だ。

とりあえず逃げようと言ったは良いがどうして良いのか解らない。
すると、Bが「ここ通れそうだぞ」と茂みの方を指差した。
そこへ行ってみると、近くまで行かないと解らないであろうくらい細い獣道のようなものが下へと続いている。
ただし、この道がどこへ続いているのか全く解らないうえに、俺たちが登ってきた道とは完全に反対方向だ。
当たり前の事だが、逃げれるには逃げれるが車からは遠ざかる事になる。
その事はAもBも解っていたのだろう。
この獣道を下るかどうか躊躇していると、突然耳に違和感を感じた。
感覚としては、車で山を登って気圧差で耳がおかしくなる感じが一番近いだろう。
AもBも同じ違和感を感じたらしく戸惑っている。
その時俺はふと下のほうを見た。
すると、例の物体はもうすぐそこ、恐らく二の丸であろう平地の部分までやってきていた。

もう迷っているような余裕も無い。
俺は2人にもあれが凄くそこまで来ている事を伝えると、おもいきって獣道のある茂みを下る事にした。
2人もそれに続き、殆ど茂みを掻き分けるように道を下っていくと、後ろの方からAが「ヤバイ、もうすぐそこまで来てる!急げ!」と言ってきた。
俺が後ろを振り返ると、例の黒い物体がもうあと10mくらいのところまで近付いてきている。

俺たち3人は最早草や木の枝をかき分けることすらやめ、がむしゃらに獣道を駆け下りた。
どれくらい走っただろうか、暫くすると木の間から舗装された道路が見えてきた。
俺たちは泥だらけになりながらも必死で殆ど転がるように道を下り、なんとか舗装された所までたどり着くことが出来た。

その時、突然金属質の耳鳴りのような音が聞こえ、次いで後ろから「バチンッ!」と何かが弾けるような音が聞こえてきた。
びっくりして後ろを振り向くと、そこには例の黒い物体はなく、爆竹か何かを破裂させたような、そんな感じの煙が漂っているだけで、俺たちは呆然としてしまった。

その後、民家も無いような山道を散々迷い、殆ど真っ暗になる頃にやっと最初に車を停めたところまで戻る事が出来た。

結局その後もあれが何だったのかはわからない。
そもそもあんな体験をしてまた同じ場所へ戻る勇気などなかったし、そんな事をしても俺たちに何の得も無かったからだ。

2022年06月13日

姦姦蛇螺 5


A「は、はい?」
伯父「おめぇら、まさかあれを動かしたんじゃねえだろうな!?」

身を乗り出し、今にも掴み掛かってきそうな勢いで怒鳴られた。すると葵がそれを制止し、蚊の泣くようなか細い声で話しだした。

葵「箱の中央…小さな棒のようなものが、ある形を表すように置かれていたはずです。それに触れましたか?触れた事によって、少しでも形を変えてしまいましたか?」
オレ「はぁあの、動かしてしまいました。形もずれちゃってたと思います」
葵「形を変えてしまったのはどなたか、覚えてらっしゃいますか?さわったかどうかではありません。形を変えたかどうかです」

オレとAは顔を見合わせ、Bだと告げた。
すると、おっさんは身を引いてため息をつき、Bのお母さんに言った。

伯父「お母さん、残念ですがね、息子さんはもうどうにもならんでしょう。わしは詳しくは聞いてなかったが、あの症状なら他の原因も考えられる。まさかあれを動かしてたとは思えなかったんでね」
B母「そんな…」

それ以上の言葉もあったんだろうが、Bのお母さんは言葉を飲み込んだような感じで、しばらく俯いていた。
口には出せなかったが、オレ達も同じ気持ちだった。
Bはもうどうにもならんってどういう意味だ?一体何の話をしてんだ?
そう問いたくても、声に出来なかった。
オレ達三人の様子を見て、おっさんはため息混じりに話しだした。ここでようやく、オレ達が見たものに関する話がされた。


俗称は『生離蛇螺』/『生離唾螺』
古くは『姦姦蛇螺』/『姦姦唾螺』

なりじゃら、なりだら、かんかんじゃら、かんかんだらなど、知ってる人の年代や家柄によって、呼び方はいろいろあるらしい。
もはや神話や伝説に近い話。
人を食らう大蛇に悩まされていたある村の村人達は、神の子として様々な力を代々受け継いでいた、ある巫女の家に退治を依頼した。
依頼を受けたその家は、特に力の強かった一人の巫女を大蛇討伐に向かわせる。
村人達が陰から見守る中、巫女は大蛇を退治すべく懸命に立ち向かった。しかし、わずかな隙をつかれ、大蛇に下半身を食われてしまった。
それでも巫女は村人達を守ろうと様々な術を使い、必死で立ち向かった。
ところが、下半身を失っては勝ち目がないと決め込んだ村人達はあろう事か、巫女を生贄にする代わりに村の安全を保障してほしいと、大蛇に持ちかけた。
強い力を持つ巫女を疎ましく思っていた大蛇はそれを承諾。食べやすいようにと村人達に腕を切り落とされ、達磨状態の巫女を食らった。
そうして村人達は一時の平穏を得た。


後になって、巫女の家の者が思案した計画だった事が明かされる。この時の巫女の家族は六人。
異変はすぐに起きた。
大蛇がある日から姿を見せなくなり、襲うものがいなくなったはずの村で、次々と人が死んでいった。
村の中で、山の中で、森の中で。
死んだ者達はみな、右腕・左腕のどちらかが無くなっていた。
十八人が死亡。(巫女の家族六人を含む)
生き残ったのは四人だけだった。
おっさんと葵が交互に説明した。

伯父「これがいつからどこで伝わったのかはわからんが、あの箱は一定の同期で場所を移されて供養されてきた。その時々によって管理者は違う。箱に家紋みたいなのがあったろ?ありゃ今まで供養の場所を提供してきた家々だ。うちみたいな家柄のもんでもそれを審査する集まりがあってな、そこで決められてる。まれに自ら志願してくるバカもいるがな。管理者以外にゃかんかんだらに関する話は一切知らされていない。付近の住民には、いわくがあるって事と、万が一の時の相談先だけは管理者から伝えられる。伝える際には相談役、つまりわしらみたいな家柄のもんは立ち会うから、それだけでいわくの意味をりかいするわけだ。今の相談役はうちじゃねえが、至急って事で、昨日うちに連絡がまわってきた」

どうやら、一昨日Bのお母さんが電話していたのは別のところらしく、話を聞いた先方は、Bを連れてこの家を尋ね、話し合った結果、こっちに任せたらしい。
Bのお母さんは、オレ達があそこに行っていた間にすでにそこに電話してて、ある程度詳細を聞かされたようだ。


葵「基本的に、山もしくは森に移されます。御覧になられたと思いますが、六本の木と六本の縄は村人達を、六本の棒は巫女の家族を、四隅に置かれた壺は、生き残られた四人を表しています。そして、六本の棒が成している形こそが、巫女を表しているのです。なぜこのような形式がとられるようになったのか。箱自体に関しましても、いつからあのようなものだったのか。私の家を含め、今現在では伝わっている以上の詳細を知る者はいないでしょう」

ただ、最も語られる説としては、生き残った四人が、巫女の家で怨念を鎮めるためのありとあらゆる事柄を調べ、その結果生まれた独自の形式ではないか…という事らしい。
柵に関しては、鈴だけが形式に従ったもので、網とかはこの時の管理者によるものだったらしい。

伯父「うちの者で、かんかんだらを祓ったのは過去に何人かいるがな、その全員が二、三年以内に死んでんだ。ある日突然な。事を起こした当事者も、ほとんど助かっていない。それだけ難しいんだよ」

ここまで話を聞いても、オレ達三人は完全に置いていかれた。きょとんとするしかなかったわ。
だが、事態はまた一変した。

伯父「お母さん、どれだけやばいものかは何となくわかったでしょう。さっきも言いましたが、棒を動かしてさえいなければ何とかなりました。しかし、今回はだめでしょうな」

Bのお母さんは引かなかった。
一片たりともお母さんのせいだとは思えないのに、自分の責任にしてまで頭を下げ、必死で頼み続けてた。
でも泣きながらとかじゃなくて、何か覚悟したような表情だった。

伯父「何とかしてやりたのはわしらも同じです。しかし、棒を動かしたうえであれを見ちまったんなら……お前らも見たんだろう。お前らが見たのは大蛇に食われたっつう巫女だ。下半身も見たろ?それであの形の意味がわかっただろ?」
「…えっ?」

オレとAは言葉の意味がわからなかった。下半身?オレ達が見たのは上半身だけのはずだ。


A「あの、下半身っていうのは…?上半身なら見ましたけど…」

それを聞いておっさんと葵が驚いた。

伯父「おいおい何言ってんだ?お前らあの棒を動かしたんだろ?だったら下半身を見てるはずだ」
葵「あなた方の前に現れた彼女は、下半身がなかったのですか?では、腕は何本でしたか?」
「腕は六本でした。左右三本ずつです。でも、下半身はありませんでした」

オレとAは、互いに認識しながらそう答えた。
すると急におっさんがまた身を乗り出し、オレ達に詰め寄ってきた。

伯父「間違いねえのか?ほんとに下半身を見てねえんだな?」
オレ「は、はい…」

おっさんは再びBのお母さんに顔を向け、ニコッとして言った。

伯父「お母さん、何とかなるかもしれん」

おっさんの言葉に、Bのお母さんもオレ達も、息を呑んで注目した。
二人は言葉の意味を説明してくれた。


葵「巫女の怨念を浴びてしまう行動は、二つあります。やってはならないのは、巫女を表すあの形を変えてしまう事。見てはならないのは、その形が表している巫女の姿です」
伯父「実際には、棒を動かした時点で終わりだ。必然的に巫女の姿を見ちまう事になるからな。だが、どういうわけかお前らは、それを見ていない。動かした本人以外も同じ姿で見えるはずだがら、お前らが見てないならあの子も見てないだろう」
オレ「見てない、っていうのはどういう意味なんですか?オレ達が見たのは…」
葵「巫女本人である事に変わりありません。ですが、かんかんだらではないのです。あなた方の命を奪う意思がなかったのでしょうね」

巫女とかんかんだらは同一の存在であり、別々の存在でもあり…?という事らしい。

伯父「かんかんだらが出てきていないなら、今あの子を襲ってるのは、葵が言うようにお遊び程度のもんだろうな。わしらに任せてもらえば、長期間になるが何とかしてやれるだろう」

緊迫していた空気が初めて和らいだ気がした。
Bが助かるとわかっただけでも充分だったし、この時のBのお母さんの表情は本当に凄かった。
この何日でどれだけBを心配していたか、その不安とかが一気にほぐれたような、そういう笑顔だった。
それを見ておっさんと葵の雰囲気も和らぎ、急に普通の人みたいになった。


伯父「あの子は正式にわしらで引き受けますわ。お母さんには後で説明してもらいます。お前ら二人は、一応葵に祓ってもらってから帰れ。今度は怖いもの知らずもほとほどにしとけよ」

この後日に関して少し話したのち、お母さんは残り、オレ達はお祓いをしてもらってから帰った。
この家の決まりだそうで、Bには会わせてもらえず、どんな事をしたのかわからなかった。
転校扱いだったのか在籍していたのか知らんが、これ依頼一度も見てない。
まぁ死んだとか言うことはなく、すっかり更生して今はちゃんとどこかで生活しているそうだ。
ちなみにBの親父は、一連の騒動に一度たりとも顔を出してこなかった。どいうつもりか知らんが。
オレもAも、わりとすぐ落ち着いた。
理由はいろいろあったが、一番大きかったのはやっぱりBのお母さんの姿だった。
ちょっとした後日談もあって、たぶん一番大変なはずだ。


母親ってのがどんなもんか、考えさせられた気がした。それにこれ以降うちもAんこも、親の方が少しづつ接してくれるようになった。
そういうのもあって、自然とバカはやらなくなったな。
一応他にわかった事としては、特定の日に集まっていた巫女さんは、相談役の家の人。
かんかんだらは、危険だと重々認識されていながら、ある種の神に似た存在にされてる。大蛇が山だか森だかの神だったらしい。それで年に一回、神楽を舞ったり祝詞を奏上したりするんだと。
あと、オレ達が森に入ってから音が聞こえてたのは、かんかんだらは柵の中で放し飼いみたいになっているかららしい。
でも六角形と箱のあれが封印みたいになってるらしく、棒の形や六角形を崩したりしなければ、姿を見せる事はほとんどないようだ。
供養場所は、何らかの法則によって、山や森の中の限定された一部分が指定されるらしく、入念に細かい数字まで出して範囲を決めるらしい。
基本的にその区域から出られないらしいが、柵などで囲んでる場合は、オレ達が見たみたいに外側に張りついてくる事もある。
わかったのはこれぐらい。オレ達の住んでるところからはもう移されたっぽい。
二度と行きたくないから確かめてないけど、一年近く経ってから柵の撤去が始まったから、たぶん今は別の場所にいるんだろうな。
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