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2022年07月22日
不思議な場所から帰れなかったかもしれない 4
なんとなくピーちゃんがピーピー鳴きながら俺の所に歩みよってきたので、俺はコンビニで買ったパンを半分あげた。
そしたら、ピーちゃんがこれまた物凄い速度でパンを食べ始めたんだ。
何に例えられるかなー。ほら、トムとジェリーっていうアニメあったでしょ?
あのジェリーが3口で巨大なチーズを食べ尽くす。そんな感じ。
食べ終わるとピーちゃんは、のそのそチャーハンカレーの中に戻っていってしまった。
「最近、ずっとそこを巣にしちゃってんだよなー。毎日作ってんだけどねー。」
と、野中オッチャンがぶっきらぼうに言うが、俺はすかさず
「ピーちゃん熱くないんですかね?www」
って突っ込むと
「夏場は暑いだろうね。」
とまあ、素っ頓狂な返事が帰ってきた。
そんなやり取りをしているウチに、1番ホームの方から電車の音が聞こえてきた。
向こう側へ行く列車だろう。
慌てて俺は1番ホームに行くと、列車が停車していた。
ここで俺はふっと頭によぎった事が
ひょっとしたら、進めばちゃんと目的の駅に行くんじゃね?
今考えたら本当にバカだった。
俺はまた折りたたみ自転車を持って、電車の中へ入った。
やっぱり中には一席だけ空いていて、俺はまたドカッと折りたたみ自転車を通路に置いて、その席に座った。
まもなく列車のドアがプシューと閉まって、列車が動き出した。
相変わらず、他の皆は無言のままで、真っ直ぐ前を向いて座っている。
微動だにせず、手を膝の上に置いて。
電車が動いて5分程でまた列車が漆黒のトンネルの中に入って、俺はしばらく揺られてた。
それから10分ぐらいして、ふっと今何時なんだろう?と携帯電話を見たんだ。
そしたら、携帯電話には9時35分って書いてあった。
おいおい。ここでは時間の進み方が違うのかよww
もーあかん、ゼッタイ終わったら怒られるフヒヒッサーセンww
そんな事をのんきに思いながら、ふと携帯の画面の隅に目をやると
あ!!アンテナ立ってる!二本も!
さすがはAU、やるなあ!と喜び勇んでいたんだが、ふと違和感を覚えた。
携帯のアンテナの色が緑色になってた。
でも、緑のアンテナバーも2本立ってた。
何がともあれ、俺は急いでT社に電話を掛けようとした。
なんだか発信音がいつもの音とは違っていた。
あのいちも聞いているプーーーーっていう音じゃなくて、よくアメリカ映画なんかの電話のシーンで出て来るあの独特の発信音。
まあ、いいやと思って、そのまま電話帳からT社の電話番号を探しだして掛けた。
そしたら、しばらくプップップッと音がして音声アナウンスが。
「‥‥お客様の電話番号は、圏外です。」
へ?固定電話に掛けているのに圏外?
しかもなんだこの素っ気ないアナウンスは。
その瞬間、俺の頭に思い出してはいけないキーワードが思い起こされてしまった。
それは…それは…
きさらぎ駅。
不思議な場所から帰れなかったかもしれない 5へ
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2022年07月21日
不思議な場所から帰れなかったかもしれない 3
持ってきた自転車に乗ったら3分くらいでトンネルには到達するだろうが、まったく先の見えない闇。
これは…行ったら多分帰れない。
俺の本能がそう言ってた。
仕方ないので、駅の方向へ戻った。
そして、ふと駅の入口に小さな表札があるのに気づいた。
そこには確かに「軍事工場跡」と書かれていた。
ひょっとすると、軍事工場跡駅でこのまま戻りの電車を待って、それに乗れば戻れるんじゃね?
その時、初めてそれに気付いた。
そう思った俺は、チャーハン屋のオッチャンの所まで戻って、次の電車は何時だと聞いたんだ。
そしたらオッチャンはぶっきらぼうに
「まだ来ねえよ。」
そん時にオッチャンの顔を見たんだが、俺、この人知ってる。
サラリーマン時代に一緒に働いていた野中さん(仮名)だ。
「あ‥あれ?野中さんですよね?」
そう訊ねると、オッチャンは
「野中?あー。俺の叔父は野中っていう名前だったな。随分前に死んでしまったけどな。」
じゃあ、親戚なのかよ。と思ったが、もう死んでしまったというのはどういう意味なのか。
そんな事よりもここからどうやってT社に行くんだよ。
俺はフラフラと1番ホームに向かいながら、そんな事で頭が一杯になった。
戻って、それから車ぶっ飛ばしても着くのは夜10時か?
そんな時間帯に会社開いてねえ…。明日行くってのもバツが悪い。
あっ!
今のウチに携帯で会長に言い訳電話しておけばいいんじゃね?
俺天才!とか思いながら携帯を出したが‥。
当然の事ながら圏外。あああああああ。オワタ
そうこうしているウチに4番ホームに帰り方向に進む電車が来た。
電車。という表現は違うかもしれない。
列車の戦闘にはピンク色の大きなトラックだった。そのトラックに、6両ぐらい列車が牽引されてた。
そのトラックが4番ホームに停車した瞬間に、俺の横からヒュッとすごい勢いで人は走って行った。
チャーハン屋の野中オッチャンだった。
手にチャーハンの乗った皿を持って、人とは思えないスピードでトラックの運転席へ走って行く。
そして、皿を渡して何かを受け取ると、普通に歩いて1番ホームに戻って来た。
あまりにも呆気に取られて、しばらく動けなかったが、
あっ!しまった!!あれに乗らなきゃ!!!!
そう思った時には遅かった。
もうトラックはエンジンを吹かして行ってしまった。
乗りそこねたが、どうやら帰る列車が4番ホームから出る事だけは分かった。
後は待っているだけだが、またどうせしばらく来ないと思ったので、チャーハン屋のオッチャンの所へ戻った。
野中オッチャンは相変わらず鍋を振るっていた。
ふとチャーハン屋の受け渡し口を見ると、そこにはチャーハンカレーが置いてあった。
チャーハンカレーというか、チャーハンにカレーのルーがそのまま掛かっている食い物が。
しかも、その中には紫色のウズラぐらいの大きさのふっさふさの鳥が座っていた。
「それは新製品のサンプルだよ」
野中のオッチャンは鍋を振るいながらそう言っていたが、俺はその鳥が気になってしょうがなかった。
何処までが新製品なんだよ。とツッコミそうになってたら
「ああ、ピーちゃんはペットだよ。」
と先に野中オッチャンに先に言われてしまった。
不思議な場所から帰れなかったかもしれない 4へ
2022年07月20日
不思議な場所から帰れなかったかもしれない 2
え?と思った。普通ならここは、「ご乗車ありがとうございます。まもなく、〇〇駅、〇〇駅に到着致します。電車を降りる際は〜」とか言うもんだ。
それが「もうすぐ駅に到着します。」
それだけ言うと、アナウンスはもう何も喋らなかった。
その一瞬。ヒュン。とトンネル内に駅らしきものが一瞬だけ見えて通過してしまった。
「停車しないのかよ!」と俺は内心突っ込んでいたんだが、ふっと自分の座席の横を向くと、そこには牡丹があって、「次の駅で止まります」と小さな標識があるのに気づいた。
ワンマン電車なのかよ!今更かよ!と思ったが、俺は今何処にいるのかさっぱり検討もつかなかった。
こんなに速いスピードで走ってるんだから、もう近くまで来たのかもしれない。そう思っていると、またアナウンスが。
「次はー。軍事工場跡ー。軍事工場跡です。」
は????
軍事上場跡!?!?
俺は即座に混乱して、一体自分は何処にいるんだ?
ひょっとすると、乗る電車間違えた!?
俺はそう思って、席を立って急いでそのボタンを押したんだ。
そうすると、電車はみるみる間に速度を落とし、トンネルを抜けて一つの駅で停車した。
そこは俺が今まで来たことも見たこともない駅で、無人改札駅のようだった。
何よりもビビった事が、外が薄暗かった。
俺はビックリして、一体何時なのかを知ろうとした。
駅の構造としてはじょーむは4つあったと思う。ただ、普通だとよ、ホームとホームは何らかの接続口があるもんだ。大抵は歩道橋でホーム同士は接続されているようなもんだが、そういう接続口は一切無かった。
つまり、別のホームに行く時には、一旦線路に降りなければならないというような駅だった。
一番奥のホームの後ろは山になってた。
当然、時計なんてものは見当たらず、それどころかホームには柱すらなかった。
なので、一応そんな標識は無かったが、便乗上、俺が降りた無人改札口に一番近いホームを1番ホーム、一番奥を4番ホームとしよう。
改札口と言っても、ホームから道へ出る為のコンクリートの階段が一つ付いてるだけで、その下には民家があった。
昔風の木造の民家で、二階建てで民家というより、木造アパートという感じだった。
余談だが、1番ホームからその家の庭を覗けたw
庭には屋根だけ無いバスルームがあって、丸見えじゃんwwwとか思ってた。
タイルは青で、ピッカピカに掃除されてたから、多分今でも使われてるんじゃないかな?
てか、今考えれば、携帯電話を見れば良かったんだが、そん時にはテンパリ過ぎて考え付かなかった。
んでまあ、1番ホームから階段を降りたアパートの1階は実はお店で、大きな看板で「チャーハン屋」と書いてあった。
木で出来た看板で、大きな筆でチャーハン屋と書いてあったのをよく覚えている。
店の大きさは小さく、厨房しかないスペースを1人の男が何か作ってた。
チャーハン屋って書いてあるから多分チャーハンだとは思うが。
どうやっらお店というより、窓越しに料理を渡すような屋台に近いようなお店で、俺はテンパリながら
「す‥!すみません!今何時ですか!!」
って聞くと、男は鍋振りながら「5時34分!」って答えた。
その瞬間、俺の頭によぎったのは、真っ赤に激怒したT社の会長の顔だった。
あーーー!!どうしてこうなった!
ぜってーーー叱られる!5時過ぎとか就業時間じゃねえか!!!
オマエのすぐ向かいますってのは7時間後の事を言うのか!とかぜってーー怒られる!
ますますテンパッて、俺はその駅を飛び出して道路に急いだ。
もちろん今いる場所を確認する為だ。
そしたら、道路は1車線同士の2車線の大きな山道で、今まで来た方向を見ると、先にはトンネルがあって、トンネルの中は漆黒の闇。
普通山道のトンネルってライト付いてるもんなんだが、まったくの闇。
オマケに道路の向こうは大きな川と来たもんだ。
俺は一体何処に着いてしまったんだと本気でパニクった。
不思議な場所から帰れなかったかもしれない 3へ
2022年07月19日
不思議な場所から帰れなかったかもしれない
不思議な場所から帰れなかったかもしれないとは、別世界に迷い込んだと思われる人物の書き込みである。
個人的な感想としては、安易にきさらぎ駅を出すな。
【内容】
もうかれこれ3ヶ月ぐらい経って落ち着いたら書く。
すまん、文才が無いので、ちゃんと伝えられるか不安だが、なるべく分かりやすく書くように努力する。
スペック 32歳
職業 IT系自営業
その日は俺は朝っぱからずっと自室に篭って書類を作ってた。
どうしてもお客さんに提出しなければならない書類があって、それを仕上げるのに四苦八苦していた。
そして、10時頃だったと思う。
俺の携帯電話が鳴ったんだが、それは別のお客さん(仮にT社とする)からのクレームの電話だった。
どうも俺が先日その日のお客さんのPCのローカルIPを変えた関係で、プリンターが動かねえよ。
というクレームだった。
しかもバツの悪い事に、そのPCはお客さんの会長のPCで、会長は案の定激怒していた。
俺は
「すみません、今ちょっと手が離せないので、コレが終わったらすぐに向かいます!」
と会長に謝りながら電話を切った。
なんだかんだと書類が書き終わり、俺は車に急いで飛び乗ったのだが、なんだかずっと集中していたせいか車を運転してお客さんの所まで行く自信が無かった。
お客さんの所までは35qくらい。普通に行けば車で1時間20分ぐらいで到着する場所。
ああ、もういいや。電車で行こう。
そう思って、俺は自宅の折りたたみ自転車を車に放り込み、そのまま車をすぐ近くのT駅まで走らせて、無料駐車場に車を停めて、駅のコンビニでパンを買って、そのまま自転車を引っ張って販売駅で切符を買った。
改札口で、自転車って電車に乗せてもらえんのかなー?と思いながら、自転車を折りたたんで抱えて改札口へ言ったら、駅員のオッチャンは苦笑いしながら通してくれた。
この時点で変だったのかもしれん。
後から人から聞いた話では、普通別料金が必要なはず。って言われた。
だが、その時は苦笑いしながらも駅員さんは普通に通してくれた。
俺はT社の方向に向かう電車のホームに突っ立って電車を待っていたんだが、電車は割とすぐに来た。
10分ぐらいだったと思う。
言っておくが、田舎ではいきなり電車を乗ろうと思って駅のホームに突っ立って、10分で電車が来るとかミラクルだからな。
50分待ちとか普通にあるもんだ。
で、俺は電車に乗ったのだが、運良く座席が一つだけ開いていた。
ラッキー!とか思いながら俺は自転車を前にデン。と置いて、俺は席に座った。
だが、そこで俺は奇妙な事に気がついた。
電車ってのは、個人が各々好き勝手な事をしているもんだ。
大抵の人間は携帯をいじってる。本を読んでる。音楽を聴いてる。寝てる。
そんな様子は微塵もなく、ただ、みんな真っ直ぐに前を向いて手に膝を置いて、まるでマネキンのような恰好で座ってた。
誰も何も話さない。ただ、みんな行儀よく真っ直ぐ向いてた。
そこでプシューとドアが閉じた。
電車は走り出したが、それも何か違ってた。物凄いスピードで走ってた。
これは新幹線かよ!って思うようなスピードで。
外の景色もよく判断できない位の速度で電車は突っ走り、しばらくしていたら、急にトンネルの中に入った。
トンネルの中は本当に真っ暗で、外の様子が全く何も見えない中を電車が走ってた。
そしたら車内アナウンスが鳴った。
「もうすぐ駅に到着します」
不思議な場所から帰れなかったかもしれない 2へ
2022年07月18日
リンフォン 3
木曜の夜。俺が風呂を上がると、携帯が鳴った。彼女だ。
「ユウくん、さっき電話した?」
「いいや。どうした?」
「5分ほど前から、30秒間隔くらいで着信くるの。通話押しても、何か街の雑踏のザワザワみたいな、大勢の話し声みたいなのが聞こえて、すぐ切れるの。着信みたら、普通(番号表示される)か(非通知)か(公衆)とか出るよね?でもその着信みたら(彼方(かなた))って出るの。こんなの登録もしてないのに。気持ち悪くて」
「そうか…そっち行ったほうがいいか?」
「いや、今日は電源切って寝る」
「そっか、ま、何かの混線じゃない?あぁ、所でリンフォンはどうなった?魚は」
「あぁ、あれもうすぐ出来るよ、終わったらユウくんにも貸してあげようか」
「うん、楽しみにしてるよ」
金曜日。奇妙な電話の事も気になった俺は、彼女に電話して、家に行く事になった。
リンフォンはほぼ魚の形をしており、あとは背びれや尾びれを付け足すと、完成という風に見えた。
「昼にまた変な電話があったって?」
「うん。昼休みにパン食べてたら携帯がなって、今度は普通に(非通知)だったんで出たの。それで通話押してみると、(出して)って大勢の男女の声が聞こえて、それで切れた」
「やっぱ混線かイタズラかなぁ?明日ド〇モ一緒に行ってみる??」
「そうだね、そうしようか」
その後、リンフォンってほんと凄い玩具だよな、って話をしながら魚を完成させるために色々いじくってたが、なかなか尾びれと背びれの出し方が分からない。
やっぱり最後の最後だから難しくしてんのかなぁ、とか言い合いながら、四苦八苦していた。
やがて眠くなってきたので、次の日が土曜だし、着替え持ってきた俺は彼女の家に泊まる事にした。
嫌な夢を見た。暗い谷底から、大勢の裸の男女が這い登ってくる。
俺は必死に崖を登って逃げる。後少し、後少しで頂上だ。助かる。
頂上に手をかけたその時、女に足を捕まれた。
「連 れ て っ て よ ぉ ! ! 」
汗だくで目覚めた。まだ午前5時過ぎだった。再び眠れそうになかった俺は、ボーっとしながら、彼女が起きだすまで布団に寝転がっていた。
土曜日。携帯ショップに行ったが大した原因は分からずじまいだった。
そして、話の流れで気分転換に「占いでもしてもらおうか」って事になった。
市内でも「当たる」と有名な「猫おばさん」と呼ばれる占いのおばさんがいる。
自宅に何匹も猫を飼っており、占いも自宅でするのだ。所が予約がいるらしく、電話すると、運よく翌日の日曜にアポが取れた。その日は適当に買い物などして、外泊した。
日曜日。昼過ぎに猫おばさんの家についた。チャイムを押す。
「はい」
「予約した〇〇ですが」
「開いてます、どうぞ」
玄関を開けると、廊下に猫がいた。俺たちを見ると、ギャッと威嚇をし、奥へ逃げていった。廊下を進むと、洋間に猫おばさんがいた。文字通り猫に囲まれている。
俺たちが入った瞬間、一斉に「ギャーォ!」と親の敵でも見たような声で威嚇し、散り散りに逃げていった。流石に感じが悪い。彼女と困ったように顔を見合わせていると、
「すみませんが、帰って下さい」
と猫おばさんがいった。ちょっとムッとした俺は、どういう事か聞くと
「私が猫をたくさん飼ってるのはね、そういうモノに敏感に反応してるからです。猫たちがね、占って良い人と悪い人を選り分けてくれてるんですよ。こんな反応をしたのは初めてです」
俺は何故か閃くものがあって、彼女への妙な電話、俺の見た悪夢をおばさんに話した。
すると、「彼女さんの後ろに、動物のオブジェの様な物が見えます。今すぐ捨てなさい」と渋々おばさんは答えた。
それがどうしたのか、と聞くと
「お願いですから帰って下さい、それ以上は言いたくもないし見たくもありません」
とそっぽを向いた。
彼女も顔が蒼白になってきている。俺が執拗に食い下がり、
「あれは何なんですか?呪われているとか、良くアンティークにありがちなヤツですか?」
おばさんが答えるまで、何度も何度も聞き続けた。するとおばさんは立ち上がり、
「あれは凝縮された極小サイズの地獄です!!地獄の門です、捨てなさい!!帰りなさい!!」
「あのお金は…」
「い り ま せ ん ! !」
この時の絶叫したおばさんの顔が、何より怖かった。
その日彼女の家に帰った俺たちはすぐさまリンフォンと黄ばんだ説明書を新聞紙に包み、ガムテープでぐるぐる巻きにして、ゴミ置き場に投げ捨てた。やがてゴミは回収され、それ以降これといった怪異は起きていない。
数週間後、彼女の家に行った時、アナグラム好きでもある彼女が、紙とペンを持ち、こういい始めた。
「あの、リンフォンってRINFONEの綴りだよね。偶然というか、こじ付けかもしれないけど、これを並び替えるとINFERNO(地獄)とも読めるんだけど…」
「…ハハハ、まさか偶然偶然」
「魚、完成してたら一体どうなってたんだろうね」
「ハハハ…」
俺は乾いた(笑)しか出来なかった。あれがゴミ処理場で処分されてること、そして2つ目がないことを、俺は無意識に祈っていた。
2022年07月15日
リンフォン 2
月曜日。仕事が終わって家に帰り着いたら、彼女から電話があった。
「ユウくん。あれ凄いよ、リンフォン。ほんとパズルって感じで、動物の形になっていくの。仕事中もそればっかり頭にあって、手につかない感じで。マジで下手なTVゲームより面白い」
と一方的に興奮しながら彼女は喋っていた。電話を切った後、写メールが来た。
リンフォンを握っている彼女の両手が写り、リンフォンから突き出ている、熊の頭部のような物と、足が2本見えた。俺は、良く出来ているなぁと感心し、その様な感想をメールで送り、やがてその日は寝た。
次の日、仕事の帰り道を車で移動していると、彼女からメールが。
「マジで面白い。昨日徹夜でリンフォンいじってたら、とうとう熊が出来た。見にきてよ」
と言う風な内容だった。俺は苦笑しながらも、車の進路を彼女の家へと向けた。
「なぁ、徹夜したって言ってたけど、仕事は行ったの?」
着くなり俺がそう聞くと
「行った行った。でも、おかげでコーヒー飲み過ぎて気持ち悪くなったけど」
と彼女が答えた。テーブルの上には、4つ足で少し首を上げた、熊の形になったリンフォンがあった。
「おぉっ、マジ凄くないこれ?仕組みどうやって出来てんだろ」
「凄いでしょう?ほんとハマるこれ。次はこの熊から鷹になるはずなんだよね。早速やろうかなと思って」
「おいおい、流石に今日は徹夜とかするなよ。明日でいいじゃん」
「それもそうだね」
と彼女は言い、簡単な手料理を2人で食べて、1回SEXして(←書く必要あるのか?寒かったらスマソ)その日は帰った。ちなみに、言い忘れたが、リンフォンは大体ソフトボールぐらいの大きさだ。
水曜日。通勤帰りに、今度は俺からメールした。
「ちゃんと寝たか?その他もろもろ、あ〜だこ〜だ…」
すると
「昨日はちゃんと寝たよ!いまから帰って続きが楽しみ」
と返事が返ってきた。
そして夜の11時くらいだったか。俺がPS2に夢中になってると、写メールが来た。
「鷹が出来たよ〜!ほんとリアル。これ造った人マジ天才じゃない?」
写メールを開くと、翼を広げた鷹の形をしたリンフォンが映してあった。
素人の俺から見ても精巧な造りだ。今にも羽ばたきそうな鷹がそこにいた。
もちろん、玩具だしある程度は凸凹しているのだが。それでも良く出来ていた。
「スゲー、後は魚のみじゃん。でも夢中になりすぎずにゆっくり造れよな〜」と返信し、やがて眠った。
リンフォン3へ
2022年07月14日
リンフォン
リンフォンとは、アンティーク巡りをした際にであった物品である。
個人的に最後の言葉遊びが更なる創作臭を募らせているような気がしなくもない。
【内容】
先日、アンティーク好きな彼女とドライブがてら、骨董店やリサイクルショップを回る事になった。
俺もレゲーとか古着など好きで、掘り出し物のファミコンソフトや古着などを集めていた。買うものは違えども、そのような物が売ってる店は同じなので楽しく店を巡っていた。お互い掘り出し物も数点買うことができ、テンション上がったまま車を走らせていると、一軒のボロッちい店が目に付いた。
「うほっ!意外とこんな寂れた店に、オバケのQ太郎ゴールドバージョンが眠ったりするんだよな」
浮かれる俺を冷めた目で見る彼女と共に、俺は店に入った。
コンビニ程度の広さの、チンケな店だった。主に古本が多く、家具や古着の類はあまり置いていない様だった。ファミコンソフトなど、「究極ハリキリスタジアム」が嫌がらせのように1本だけ埃を被って棚に置いてあるだけだった。もう出ようか、と言いかけた時、
「あっ」
と彼女が驚愕の声を上げた。俺が駆け寄ると、ぬいぐるみや置物などが詰め込まれた、バスケットケースの前で彼女が立っていた。
「何か掘り出し物あった?」
「これ、凄い」
そう言うと彼女は、バスケットケースの1番底に押し込まれるようにあった、正20面体の置物を、ぬいぐるみや他の置物を掻き分けて手に取った。
今思えば、なぜバスケットケースの1番底にあって外からは見えないはずの物が、彼女に見えたのか、不思議な出来事はここから既に始まっていたのかもしれない。
「何これ?プレミアもん?」
「いや、見たことないけど…この置物買おうかな」
まあ、確かに何とも言えない落ち着いた色合いのこの置物、オブジェクトとしては悪くないかもしれない。俺は、安かったら買っちゃえば、と言った。
レジにその正20面体を持って行く。しょぼくれたジイさんが古本を読みながら座っていた。
「すみません、これいくらですか?」
その時、俺は見逃さなかった。ジイさんが古本から目線を上げ、正20面体を見た時の表情を。
驚愕、としか表現出来ないような表情を一瞬顔に浮かべ、すぐさま普通のジイさんの表情になった。
「あっ、あぁ…これね…えっと、いくらだったかな。ちょ、ちょっと待っててくれる?」
そう言うとジイさんは、奥の部屋(おそらく自宅兼)に入っていった。奥さんらしき老女と何か言い争ってるのが断片的に聞こえた。やがて、ジイさんが1枚の黄ばんだ紙切れを持ってきた。
「それはね、いわゆる玩具の1つでね、リンフォンって名前で。この説明書に詳しい事が書いてあるんだけど」
ジイさんがそう言って、黄ばんだ汚らしい紙を広げた。随分と古いものらしい。
紙には例の正20面体の絵に「RINFOUNE(リンフォン)」と書かれており、それが「熊」→「鷹」→「魚」に変形する経緯が絵で描かれていた。
わけのわからない言語も添えてあった。ジイさんが言うのにはラテン語と英語で書かれているらしい。
「この様に、この置物が色んな動物に変形出来るはずだよ。まず、リンフォンを両手で包み込み、おにぎりを握るように撫で回してごらん」
彼女は言われるがままに、リンフォンを両手で包み、握る様に撫で回した。
すると、「カチッ」と言う音がして、正20面体の面の1部が隆起したのだ。
「わっ、すご〜い」
「その出っ張った物を回して見たり、もっと上に引き上げたりしてごらん」
ジイさんに言われるとおりに彼女がすると、今度は別の1面が陥没した。
「すご〜い!パズルみたいなもんですね!ユウ(←俺の敬称)もやってみたら」
この仕組みを言葉で説明するのは物凄く難しいのだが、「トランスフォーマー」と言う玩具をご存知だろうか?カセットテープがロボットに変形したり、拳銃やトラックがロボットに…と言う昔流行った玩具だ。このリンフォンも、正20面体のどこかを押したり回したりすると、熊や鷹、魚などの色々な動物に変形すると、想像してもらいたい。
もはや、彼女はリンフォンに興味津々だった。俺でさえ凄い玩具だと思った。
「あの…それでおいくらなんでしょうか?」彼女がおいそれと聞くと、
「それねぇ、結構古いものなんだよね…でも、私らも置いてある事すら忘れてた物だし…よし、特別に1万でどうだろう?ネットなんかに出したら好きな人は数十万で買うと思うんだけど」
そこは値切り上手の彼女の事だ。結局は6500円にまけてもらい、ホクホク顔で店を出た。
次の日は月曜日だったので、一緒にレストランで晩飯を食べ終わったら、お互いすぐ帰宅した。
リンフォン 2へ
2022年07月13日
地下の井戸 3
Kさんが、袋の口をきつく縛るのを確認すると、Sさんは更に数回、袋を蹴った。
「これくらいかな。殺しちゃまずいからな」
Sさんはそう言って、俺を見た。
「お前、こいつの顔を見たか」
「いえ…突然だったんで、何が何だか」
そう答えるのに精いっぱいだった。
その時に、本当はどこかで見たような気がしたけど、思い出せなかった。
SさんとKさんは、再び動けなくなった「袋」を担ぎ上げた。
それまでと違うのは、真ん中に俺が入ったこと。
もう中身を知ってしまったので、一蓮托生だ。
それから、その13号坑道ってやつを延々と歩いた。
今までの広い通路とはうって変わって、幅が3mも無いくらいの、狭い通路だった。
右手は常に壁なんだけど、左手は時々、下に下りる階段があった。
幅1mちょいくらいの階段で、ほんの数段下りたところに、扉がついてた。
何度目か分かんないけど、Sさんがある扉の前で
「止まれ」
って言った。
そこまた「帝国陸軍」「帝国陸軍第126号井戸」って書いてあった。
(128だったかも。偶数だった記憶があるけど忘れた)
それで、Sさんに言われるまま中に入った。
中は結構広い部屋だった。小中学校の教室くらいはあったかな。
その真ん中に、確かに井戸があった。でも蓋が閉まってるの。重そうな鉄の蓋。
端っこに鎖がついてて、それが天井の滑車につながってた。
滑車からぶら下がっている、もうひとつの鎖を引いて回すと、蓋についた鎖が徐々に巻き取られて、蓋が開いていく仕掛けになってた。
オレは言われるままに、どんどん鎖を引っ張って蓋を開けていった。
完全に蓋が開いたとこで、二人が「袋」を抱え上げた。
もう分かったよ。この地底深く、誰も来ない井戸に投げ込んでしまえば、二度と出てこないもんね。
でもひとつだけ分からない事があった。なんで「生きたまま」投げ込む必要があるの?
二人は袋を井戸に落とした。ドボーン!水の中に落ちる音がするはずだった。
でも聞こえてきたのは、バシャッて音。この井戸、水が枯れてるんじゃないの?って音。
SさんとKさんも顔を見合わせていた。
Sさんが俺の持っているマグライトを見て、顎でしゃくって首を傾げて「井戸を覗け」ってジェスチャーをした。
マグライトで照らしてみたけど、最初はぼんやりとしか底まで光が届かなかった。
レンズを少し回して焦点を絞ると、小さいけど底まで光が届いた。
光の輪の中には、「袋」の一部が照らし出されてる。
やはり枯れてるみたいで、水はほとんど無い。
そこに手が現れた。真っ白い手。さらにつるっぱげで、真っ白な後頭部。
あれ、さっきの「袋」の人、つるっぱげじゃ無かったよな。
ワケが分かんなくて呆然と考えていたら、また頭が現れた。
え?2人?ますます頭が混乱して、ただ眺めてたら、その頭がすっと上を向いた。
目が無い。
空洞とかじゃなくて、鼻の穴みたいな小さな穴がついてるだけ。
理解不能な出来事に、俺たちは全員固まってた。
しかも2人だけじゃ無さそうだ。奴らの周囲でも、何かがうごめいている気配がする。
何だあれ?人間なのか?なぜ井戸の中にいる?何をしている?
その時、急に扉が開いて、人が入ってきた。
俺は驚いてライトを落として、立ち上がってた。SさんもKさんも。
入ってきたのはNさんだった。Nさんは俺たちを見て、怪訝そうな顔をした。
「S、もう済んだのか」
Sさんは少しの間呆然としていたけど、すぐに答えた。
「済みました」
Nさんは俺たちの様子を見て、俺たちが井戸の中身を見た事を悟ったみたいだった。
「見たのか、中を」
俺たちはうなずきもせず言葉も発しなかったが、否定しないことが肯定となった。
「さっさと蓋閉めろ」
言われて俺は、慌てて鎖のところに行って、さっきとは反対側の鎖を引いて回した。
少しずつ蓋が閉まっていく。
「余計な事を考えるんじゃねえ。忘れろ」
そう言われた。
確かにそうなんだけど、ぐるぐる考えた。
「殺しちゃまずい」って、Sさんは言ってた。
Sさん自身も、なぜ殺しちゃだめなのか知らなかったんだと思う。
生きたまま落とした理由は?生きたまま…あの化け物のような奴らがいるところへ。
考えたくなかった。
俺たちは来た道を戻り、車で道に出た。
今度はSさんとKさんは、Nさんのベンツに乗っていった。
そしてそれが、3人を見た最後になった。
俺は思い出していた。あのとき「袋」に入っていた男の顔を。
最近出所してきた、会長の3男だった。
出来の悪い男というウワサだった。ケチな仕事で下手を踏み、服役していたらしい。
俺は2、3回しか顔を合わせた事が無かったが、大した事無さそうなのに、威張り散らしてヤな感じだったのを覚えてる。
だからといって、会長の息子を殺すのはアウトだよ。死体を隠したっていずれバレる。
それでも出来るだけバレないように、俺を使って運んだんだろうけど。
あの出来事から2週間くらいして、Nさんが居なくなった。
「お前も姿をくらませ」って、Sさんから電話があった。
バレたんだ。会長の息子を殺ったのを。
組から距離を置いていたのが幸いして、俺は逃げ延びる事ができた。
SさんやKさんがどうなったのかは知らない。
あれから数年、俺は人の多い土地を転々としている。
これはあるネットカフェで書いた。
もうすぐネットカフェも、身分証を見せないと書き込めなくなるらしい。これが最後のチャンスだ。
組の人たちがこれを知れば、どこから書いたのか、すぐに突き止めると思う。
だから俺は、この街には二度と帰ってこない。
誰かあの井戸を突き詰めて欲しい。なぜあの井戸に、暴力団なんかが鍵持って入れるのか。
そうしたら俺の追っ手は、皆捕まるかもしれない。
俺は逃げ延びたい。これからも逃げ続けるつもりだ。
2022年07月12日
地下の井戸 2
SさんとKさんが、二人で担ぎ上げているビニール袋。
映画とかでよく見る、死体袋とかいう黒いやつ。もう中身は、絶対に人間としか思えない。
とんでもない事に巻き込まれたって思って、腰が痛くなった。多分腰抜ける寸前だったんだろう。
何で組の人じゃなくて俺なの?ってその時は思ったけど、その理由も後になれば分かったんだけど。
で、Sさんが
「ポケットに鍵があるから、それ使って、金網の扉の鍵開けろ」
って言うから、言う通りにした。
金網開けて5〜6メートルで、また扉にぶつかる。
扉というより、鉄柵って感じかな。だって開ける為の把手とか無いし、第一鍵穴すら見当たらない。
どうすんだろうな〜と思ったら、またSさんが別のポケットを指定。
今度は大小ひとつずつの鍵。コンクリの壁にステンレスの小さい蓋が付いてて、それを小さい方の鍵で開ける。
中に円柱形の鍵穴があって、それは大きい方の鍵。
それを回すと、ガチャって音がして、柵が少し動いた。
右から左に柵が開いた。壁の中まで食い込んでて、その中でロックされてる。
鍵を壊して侵入は、出来ない構造らしい。
更に先はもう真っ暗。マグライトをつけて先に進んだけど、すぐに鉄扉に当たった。
「無断立入現金防衛施設庁」って書いてあった。
これは不思議だった。だってここ、道路公団の施設だよね?
ていうか、こんなとこ入って平気なのかな、って思った。
まあこの人たちのやる事だから、抜かりはないと思うんだけど、監視カメラとかあるんじゃないのって、不安になった。
まあ中に進んだら、もっと不思議なもんが、待ってたんだけどね。
鉄の扉も、さっきの鉄柵と同じ要領で開いて、俺たちは中に入った。
SさんもKさんもうっすら汗かき始めてて、随分重たそうだったけど、運ぶの手伝えとは言わなかった。
中に入るとすぐ階段で、ひたすら下に下りて行った。結構下りた。
時々二人が止まって、肩に担ぎ上げた「荷物」を担ぎ直してた。
階段を下りると、ものすごく広い通路が左右に伸びてた。多分幅10mくらいあったと思う。
下りたところで、ひと休みした。
通路はところどころ電灯がついてて、すごく薄暗いけど、一応ライトは無しで歩けた。
俺たちは反対側に渡って(って言いたくなるくらい広い)、左手に向かって進んだ。
時々休みながら、どれくらい進んだかな。
通路自体は分岐はしていない。ひたすら真っ直ぐで、左右の壁に時々鉄の扉がついている。
ある扉の前でSさんが止まって言った。
「これじゃねえか。これだろ」
そこには「帝国陸軍第十三号坑道」って書いてあった。字体は古かったけど。
信じられる?今の日本にあるのは陸上自衛隊でしょ。何十年も前のトンネルなのか、これは?
SさんもKさんも、汗だくで息も荒くなってたから、扉を入ったところで、また「荷物」を下ろして休憩することにした。
二人とも無言だったから、俺も黙ってた。
しばらくして、Sさんが
「そろそろ行こう」
って言って、袋の片側、多分「足」がある側を持った。そしたら…「袋」が突然暴れた。
Sさんは意表を突かれて手を放してしまい、弾みで反対側の袋の口から、顔が出てきた。
猿ぐつわを蒲された、ちょっと小太りの男。
どっかで見たことがある…
それもあるけど、分かっていながらも、袋からリアルに人が、しかも生きた人が出てきた事にビビッて、俺は固まってしまった。
SさんがKさんに
「おい何で目を覚ました」
「クスリ打てクスリ」
「袋に戻せ」
とか言ってるのが聞こえた。
Kさんは
「クスリは持って無い」
とか、何とか答えた。
その間も「袋」は暴れた。
暴れてたろいうか、体を縛られているらしく、激しく身をよじって、袋から出ようとしていた。
するとSさんが、袋の上から腹のあたりを、踏んづけるように蹴った。
一瞬「袋」の動きが止まったけど
「ウ〜!」
とすごい唸り声を上げながら、また暴れ出した。
Sさんは腹のあたりを、構わず蹴り続けた。それでも「袋」は、暴れ続けた。
やがてKさんも加わって、二人で滅茶苦茶に蹴り始めた。
バキって音が、2、3回立て続けにした。多分肋骨が折れたんだと思う。
「袋」の動きが止まった。その時なぜか男は頭を振って、俺に気が付いた。
それまですごい形相で、暴れていた男が、急に泣きそうな顔で俺を見つめた。
Sさんが
「袋に戻せ」
と言うと、Kさんが男の肩のあたりを足で抑えながら袋を引っ張って、男を中に戻した。
今でもその光景は、スローモーションの映像のまま、俺の記憶に残ってる。
男は袋に戻されるまで、ずっと俺を見てた。一生忘れられない。
地下の井戸 3へ
2022年07月11日
地下の井戸
地下の井戸とは、組で働いていた報告者がとある井戸の存在について書き記したものである。
【内容】
これを書いたら、昔の仲間なら俺がまだ誰だか分かると思う。
ばれたら相当やばい。まだ生きてるって知られたら、また探しにかかるだろう。
でも俺が書かなきゃ、あの井戸の存在は闇に葬られたままだ。だから書こうと思う。
文章作るの下手だし、かなり長くなった。
しかも怪談じゃないから、興味の湧いた人だけ読んで欲しい。
今から数年前の話。俺は東京にある、某組織の若手幹部に使われていた。Nさんって人。
今やそういう組織も、日々の微妙にヤバい仕事はアウトソーシングですよ。
それも組織じゃなく、個人が雇うの。警察が介入してきたら、トカゲの尻尾切りってやつね。
その代わり金まわりは、かなり良かったよ。
俺は都内の、比較的金持ちの日本人や外国人が遊ぶ街で働いていた。
日々のヤバい仕事っていうとすごそうだけど、実際に俺がやってたのは、ワンボックスで花屋に花取りに行って、代金を払う。
その花を俺がキャバクラから、高級クラブまで配達する。
キャバクラ行くと、必ず花置いてあるだろ?あれだよ。
で、花配りながら集金して回る。
もちろん、花屋に渡した代金の、3〜5倍はもらうんだけどね。
3万が10万、5万が25万になったりするわけよ。月に3千万くらいにはなったね。
俺がやるヤバい仕事ってのは、最初はその程度だった。
それでも結構真面目にやってた。
相手も海千山千のが多いからさ。
相手が若造だと思うと、なめてかかって、値切ろうとするバカもいるんだよね。
その度に警察沙汰起こしてたんじゃ、仕事になんないわけだ。起こす奴もいるけど。
でも警察呼ばれたら負けだからね。次から金取られなくなるから、組から睨まれる。タダじゃすまんよ。
そういう時、俺は粘り強く話す。話すけど、肝心なトコは絶対譲らない。
一円も値切らせないし、ひとつの条件もつけさせない。
前置き長くなったけど、まあうまくやってるってんで、Nさんの舎弟のSさん、Kさんなんかに、結構信頼されるようになった。
それで、時々花の配達に使ってるワンボックスで、夜中に呼び出されるようになった。
積んでるのは、多分ドラム缶とか段ボール。
荷物積む時は、俺は運転席から出ない事になってたし、後ろからは目張りされてて見えないから。
それで、ベンツの後ろついていくだけ。
荷物を下ろしたら、少し離れたところに待たされて、またベンツについて帰って、金をもらって終了。
何を運んだなんて知らない。
その代わり、1回の仕事で、花の配達の1ヶ月分のバイト代をもらえた。
ある夜、また呼び出された。
行ってみると、いつもとメンツが違う。いつもはSさんかKさんと、部下の若い人だった。
ところがその日は、幹部のNさんがいて、他にはSさん、Kさんの3人だけ。
3人とも異様に緊張してイラついてて、明らかに普通じゃない雰囲気。
俺が着いても
「エンジン切って待ってろ」
って言ったまま、ボソボソと何か話していた。
「…はこのまま帰せ」
「あいつは大丈夫ですよ。それより…」
途切れ途切れに会話が聞こえてたけど、結局俺は運転していく事になった。何だか厭な予感がしたけどね。
後ろのハッチが開いて、何か積んでるのか分かった。
でも今回は、ドラム缶とか段ボールじゃなかった
置いた時の音がね、いつもと違ってた。重そうなもんではあったけど。
更に変だったのが、SさんKさんが同乗した事。
いつも俺一人でベンツについていくだけなのに。
しかも、いきなり首都高に入った。
あそこにはカメラがあるし、出入口にはNシステムもあるから、こういった仕事の時は、一般道でもNシステムは回避して走るのに。
首都高の環状線はさ、皇居を見下ろしちゃいけないとかでさ、何ヵ所か地下に入るよね。
恥ずかしながら、俺は運転に自信あるけど、道覚えるのは苦手なんだよね。方向音痴だし。
多分環状線を、2周くらいしたと思う。
事が途切れたところで、突然Nさんが乗るベンツが、トンネルの中で、ハザード出した。
それまでSさんもKさんも、ひと言もしゃべらなかったけど、Sさんが
「右の車線に入って止めろ」
って。言われたままに止めたよ。そこって合流地点だった。
で
「中州みたいになってるとこに、バックで車入れろ」
って言うから、その通りにしてライト消した。
両側柱になってて、普通に走ってる車からは、振り返って見たとしても、なかなか見つけられないと思う。
まあ見つけたとしても、かかわり合いにならない方が良いけどね。
Nさんが乗ったベンツは、そのまま走り出した。
SさんとKさんは、二人で荷物を下ろしてたけど、俺にも下りて来いって。
俺はこの時も嫌な予感がした。今まで呼ばれたことなんて無かったし。
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