2022年06月14日
うたて沼
うたて沼とは長手のドライブをした先の城跡付近で到達した場所である。
看板のない二手の道を分かれてみると……。
【内容】
もう10年くらい前、俺がまだ学生だった頃の出来事。
当時友人Aが中古の安い軽を買ったので、よくつるむ仲間内とあちこちドライブに行っていた。
その時に起きた不気味な出来事を書こうと思う。
ある3連休、俺たちは特にすることもなく、当然女っけもあえうわけもなく、意味も無く俺、A、Bで集まってAのアパートでだらだらとしていた。
そしてこれもいつものパターンだったのだが、誰と無くドライブへ行こうと言い出して、目的地もろくに決めず出発する事になった。
適当に高速へ乗ると、なんとなく今まで行った事の無い方面へ向かう事になり、3〜4時間ほど高速を乗りそこから適当に一般道へと降りた。
そこから更に山のほうへと国道を進んでいったのだが、長時間の運転でAが疲れていたこともあり、どこかで一端休憩して運転手を交代しようという事になった。
暫く進むと、車が数台駐車できそうなちょっとした広場のような場所が見付かった。
場所的に冬場チェーンなどを巻いたりするためのスペースだろうか。
とりあえずそこに入り、全員降りて伸びなどをしているとBが「なんかこの上に城跡があるらしいぞ、行ってみようぜ」と言ってきた。
Bが指差した方をみると、ボロボロで長い事放置されていただろう木製の看板があり、そこに『〇〇城後 徒歩30分』と書かれ、腐食して消えかかっていたが、手書きの地図のようなものも一緒に描かれている。
どうも途中に城跡以外に何かあるらしいのだが、消えかかっていて良く判らない。
時間はたしか午後3時前後ぐらい、徒歩30分なら暗くなる前に余裕で戻ってこられるだろう。
俺たちはなんとなくその城跡まで上ってみる事にした。
20分くらい細い山道を登った頃だろうか、途中で道が二手に分かれていた。
看板でもあれば良いのだが、あいにくそういう気の利いたものはなさそうなので。仕方なくカンで左の方へと進んでみる事にした。
すると、先の方を一人で進んでいたAが上の方から俺たちに
「おい、なんかすげーぞ、早く来てみろ!」
と言ってきた。
俺とBはなんだなんだと早足にAのところまで行ってみると、途中から石の階段が現れ、更にその先には、城跡ではなく恐らく長い事放置されていたであろう廃寺があった。
山門や堀、鐘などは撤去されたのだろうか、そういうものは何も無く、本殿は形をとどめているが、鐘楼やいくつかの建物は完全に崩壊し崩れ落ちている。
本殿へと続く石畳の間からは雑草が生え、砂利が敷き詰められていただろう場所は、一部ほとんど茂みのような状態になっていた。
ただ不思議なんは、山門などは明らかに人の手で撤去された様な痕があったにも関わらず、残りのぶぶんは撤去もされず朽ちていて、かなろ中途半端な状態だった事だ。
時間を確認すると、まだまだ日没までは余裕がありそうだ。
俺たちはなんとなくその廃寺を探索することにした。
が、周囲を歩き回っても特に目に付くようなものはなく、ここから更に続く様な道も見当たらず、Aと「多分さっきの分かれ道を右に行くのが正解なんだろうなー」と話していると、本殿の中を覗き込んでいたBが「うおっ!」と声を挙げた。
Bの方をみると本殿の扉が開いている。
話を聞いてみると、だめもとで開けてみたらすんなり開いてしまったという。
中は板敷で何も無くガランとしている。見た感じけっこうきれいな状態で、中に入っていけそうだ。
中に入ってみると、床はかなりホコリだらけで、恐らくだいぶ長い事人が入っていないのが判る。
なんとなくあちこちを見回していると、床に落ちているのが見えた。
近付いてみると、それはほこりにまみれて黄ばんでしわくちゃになった和紙のようで、そこにはかなり達筆な筆書きで『うたて沼』と書かれていた。
なんだなんだとAとBも酔って来たので、俺は2人に髪を見せながら「うたてって何?」と聞いたのだが、2人とも知らないようだ。
そもそもこの寺には池や沼のような物も見当たらない。
本殿の中にはそれ以外になにもなく、『うたて沼』の意味も解らなかった俺たちは、紙を元にあった場所に戻すと、城跡へ向かうために廃寺を後にした。
元来た道を戻り、さっきの分かれ道を右の方へ進むと、すぐに山の頂上へとたどり着いた。
ここには朽ちた感じの案内板があり、『〇〇城跡 本丸』と書かれていた。
どうやらここが目的地のようだ。
山頂はかなり開けた広場になっており、下のほうに市街地が見えるかなり景観のいい場所だ。
と、なんとなく下の方を見るとさっきの廃寺も見えた。
3人でさっきの廃寺って結構広い敷地なんだろうなーなどと話しをしていると、ある事に気がついた。
寺の庭を回った時に一切見かけなかったはずだが、庭の端の方に直径数mくらい、大きな黒い穴のようなものが見える。
「あんなものあったっけ?」と話をしていると、寺の庭に何か小さな動物が出て来ていた。
そしてその動物が庭の中を走り出した瞬間、その穴のようなものが動いて、まるで動物が穴の中に消えてしまったように見えた。
わけが解らない現象を目の当たりにした俺たちは
「…今あの穴動いたよな?なんだあれ…」
と唖然としていると、更にとんでもない事が起きた。
その物体が突然宙に浮くと、かなり高い距離まで上りそのまま移動し始めた。
その時になって、俺たちはあれが穴などでは無く、真っ黒で平面の、なんだかよく解らない物体である事に気がついた。
その平面上の物体は結構な高さを浮いて、俺たちが来た道の上を山頂へと向かって進みだした。
その時、恐らく移動する物体にびっくりしたのだろう。
木の間から大きな鳥が飛び出し、宙を浮く平面上の物体とぶつかった。
が、鳥はそのまま落ちる事も物体を通り抜ける事も無く消えてしまった…
何だか解らないが、とにかくあれはなにかヤバそうなものだ。
そしてそのヤバそうなものは、明らかに俺たちの方へと向かってやってきている。
その事だけは理解できた。
とりあえずここからすぐに退散した方が良さそうだ。
3人でそう話して気がついた。
あの物体は俺たちが登ってきた道沿いにやってきている、ということは来た道を戻れば確実に鉢合わせしてしまうという事だ。
とりあえず逃げようと言ったは良いがどうして良いのか解らない。
すると、Bが「ここ通れそうだぞ」と茂みの方を指差した。
そこへ行ってみると、近くまで行かないと解らないであろうくらい細い獣道のようなものが下へと続いている。
ただし、この道がどこへ続いているのか全く解らないうえに、俺たちが登ってきた道とは完全に反対方向だ。
当たり前の事だが、逃げれるには逃げれるが車からは遠ざかる事になる。
その事はAもBも解っていたのだろう。
この獣道を下るかどうか躊躇していると、突然耳に違和感を感じた。
感覚としては、車で山を登って気圧差で耳がおかしくなる感じが一番近いだろう。
AもBも同じ違和感を感じたらしく戸惑っている。
その時俺はふと下のほうを見た。
すると、例の物体はもうすぐそこ、恐らく二の丸であろう平地の部分までやってきていた。
もう迷っているような余裕も無い。
俺は2人にもあれが凄くそこまで来ている事を伝えると、おもいきって獣道のある茂みを下る事にした。
2人もそれに続き、殆ど茂みを掻き分けるように道を下っていくと、後ろの方からAが「ヤバイ、もうすぐそこまで来てる!急げ!」と言ってきた。
俺が後ろを振り返ると、例の黒い物体がもうあと10mくらいのところまで近付いてきている。
俺たち3人は最早草や木の枝をかき分けることすらやめ、がむしゃらに獣道を駆け下りた。
どれくらい走っただろうか、暫くすると木の間から舗装された道路が見えてきた。
俺たちは泥だらけになりながらも必死で殆ど転がるように道を下り、なんとか舗装された所までたどり着くことが出来た。
その時、突然金属質の耳鳴りのような音が聞こえ、次いで後ろから「バチンッ!」と何かが弾けるような音が聞こえてきた。
びっくりして後ろを振り向くと、そこには例の黒い物体はなく、爆竹か何かを破裂させたような、そんな感じの煙が漂っているだけで、俺たちは呆然としてしまった。
その後、民家も無いような山道を散々迷い、殆ど真っ暗になる頃にやっと最初に車を停めたところまで戻る事が出来た。
結局その後もあれが何だったのかはわからない。
そもそもあんな体験をしてまた同じ場所へ戻る勇気などなかったし、そんな事をしても俺たちに何の得も無かったからだ。
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