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2019年02月10日

バーツラフ・ボルリーチェク2(二月八日)



 ボルリーチェクの作品のうち、代表作の一つである代表作の一つである「スパイW4Cの最期」については、黒田龍之助師が著書『チェコ語の隙間』で取り上げて詳しく書かれているので、そちらを読んでもらったほうがいいだろう。だだ気になることを一つ挙げておけば、犬の名前がパイダになっていること。この名前って「アラベラ」でも使われていた気がするのだけど、チェコでよく使われる犬の名前なのだろうか。現実では一度も聞いたことないのだけど。
 この人の作品は、とにかく設定からして、こんなのでいいのかといいたくなるようなぶっ飛んだものが多い。ストーリーも予想もつかない方向に転がっていくので、集中して見ていてもどうしてこんなことになったのか、理解できないこともある。ただ、コメディなので、しかもとんでもないコメディなので、ここかしこで笑ってしまって、いや、唖然としてしまって、ストーリーなんてささいなものは気にならなくなる。もしかしたら、普通の映画も撮っているのかもしれないけど、繰り返しテレビで放送される映画は、この手の作品ばかりなのである。

 いくつか見たことのある作品を紹介しておこう。最初は白黒の「ジェシーを殺したがるのは誰だ」である。この映画、正直、ストーリーはほとんど覚えていない。台詞が漫画の吹き出しのようなものに書かれて表現される衝撃が大きすぎて……。見たはずなのに、ちゃんと見たはずなのに、明確に覚えているのは、まつげの長い女性の顔のアップの脇に吹き出しが飛び出して、その中に「!」がいくつか並んでいる画面だけである。もう一度見直せば、これはこの映画だったかという場面が多数出てくるはずだけど。
 この作品のストーリーの印象があいまいなものになっているのは、オルドジフ・リプスキーの怪作「殺人は四つで十分よね、あなた」と印象が重なるところがあるからかもしれない。こちらは、場面が進んで決めのシーンになると、突然効果音とともに画面がアメコミ風の絵に変わるというもので、高校の先生が主役だったような気がしないでもない。とまれ、ボルリーチェクとリプスキーの作品にはお互いに影響を与え合っているような関連性を感じてしまう。

 二つ目は、「旦那! 未亡人なんですかい」である。リプスキーの作品も含めて、この手のナンセンスコメディというか、滅茶苦茶コメディというかの中では一番最初に見たし。見た回数も一番多いので、思い入れもあるし、ストーリーの把握も一番進んでいる。ヨーロッパのとある王国で、理想主義にかぶれた王様が軍隊の廃止を決めたところ、軍隊が反発して国王暗殺を謀るというのがメインのストーリー。主人公の占星術師がその暗殺を防ぐんだけど、そこまでの展開がとんでもなく、とても簡潔に説明できるようなものではない。
 腕を切り落とされた貴族の血が青かったり、いとも簡単に人間の脳移植手術ができたり、その際に新たな人体を牛肉で作っていたり、見所というか唖然としどころはたくさんある。でも、この映画で一番の部分を上げるとすれば、イバ・ヤンジュロバーの演技だろう。この人、癖のある、一風変わった女性を演じるのがうまいのだけど、この映画でも、舞台女優の役と、その女優の顔をつけた牛肉から作られた人造人間に人を切り刻むのを楽しむ女性の脳を移植した存在を見事に演じ分けている。神経の通りが悪いとかで、ふとももに安全ピン刺すシーンとかぎょっとしてしまった。

 三つ目は「ほうれん草はどう?」で、こちらは放射線を照射することで生物を拡大、縮小したり、若返りさせたり年をとらせたりする機械が登場する。ただその機械には欠点があって、ほうれん草を食べた後に照射を受けると効果が増大してしまって、何年かの若返りのつもりが赤ん坊になってしまったりする。主人公はこの機械を開発した研究序で下っ端として働いている二人の男で、技術の横流しにも関与していて、最後は勝手に機械を使って小さくなってしまって、犬に食べられてしまうんだったかな。
 不条理コメディーとかナンセンスコメディーとか言いたくなるような作品でありながら、十分以上に娯楽作品でもあるところが、ボルリーチェクのすごいところである。リプスキーの作品もそうだけど、共産主義支配の馬鹿馬鹿しさを馬鹿馬鹿しさで乗り越えようとしたんじゃないかと考えてしまう。世界的に評価の高い「ノバー・ブルナ」の作品よりも、ボルリーチェクやリプスキーの超B級コメディーのほうが、はるかにチェコ的で面白い映画だと評価している。
2019年2月9日23時。






チェコ語の隙間―東欧のいろんなことばの話










タグ:チェコ映画
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