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2019年02月07日
エベン(二月五日)
コメンスキー研究者のS先生のブログを覗いたら、こんな記事があった。ちょっと前の記事で、実はこれを読んだときにすぐ書こうと思ったのだけど、なんだかんだで後回しにしてしまったのである。
この記事のどこに目を止めたのかというと、コメンスキーの本の即売サイン会が行われたというのも気になるし、日本の教会でチェコの現代音楽のコンサートが行われたというのも隔世の感を抱かせて感慨深いのだけど、最も興味を引いたのは現代音楽の作曲家の名前である。ペトル・エベン。この人の名前を直接知っているというわけでも、音楽を聞いたことがあるというわけでもないのだが、なぜか気になる。
音楽関係で、名字がエベン? あれだ。ということで思いついたのが、マレク・エベンの名前である。現在ではチェコテレビがBBCのフォーマットを購入して毎年のように秋口から年末にかけて放送している「スター・ダンス」という番組などの司会者として知られているが、もともとは、子役としてテレビや映画に出演していて、俳優として活躍していた。あれこれ多彩な人で、文学などの教養にもあふれており、スビェラークと並んで、俳優という存在が国を代表する知性となりることを体現する人物だと言ってもいい。
そのエベンは昔から音楽活動もしていて、作詞や作曲も手掛けたことがあるはずである。二人の兄弟と組んだ「エベン兄弟」というグループでコンサート活動を行うこともある。ジャンルとしてはジャズっぽいのからロック、フォークっぽいのまで結構幅広いのかな。そこで考えた。もしかしたら、マレク・エベンの兄弟のうちの一人が、ペトル・エベンという名前なんじゃないかと。ジャズなら現代音楽から遠くないと言えなくもない。
それで、調べてみたところ、兄の方はクリシュトフ・エベンで理学博士号を持つ気象学者が本業の人物だった。弟はダビット・エベンでこちらも博士号を持つ音楽史の教授で、俳優が本業のマレク・エベンと三人で、いわば副業として音楽活動を行っていたということのようなのだが、その彼らの音楽の才能の源泉が、ペトル・エベンだったのだ。つまり、ペトルは、エベン三兄弟の父親だったのである。知らんかった。
ペトル・エベンについては、S先生のブログを見てもらうことにして、ここで取り上げるべきは、やはり、マレク・エベンであろう。俳優としてのマレク・エベンのもっとも有名な役は、子役時代の「Kamarádi(友達)」というテレビドラマのバーレチェク役である。60年代の終わりから70年代の初めにかけて放送されたこのドラマは、その後も繰り返し再放送されたらしく、うちのもしばしばマレク・エベンのことをバーレチェクと呼ぶことがある。
最近は再放送されることがないのか、される時間が合わないのかで、ちゃんと見たことはないのだけど、ちょっと太めの、ちょっとのんびりした男の子を演じてい他と記憶する。役名からしてバーレチェク(Váleček)、つまり円柱を意味するバーレツ(válec)の指小形からできた言葉だし、丸っこいというイメージの子供の役で、マレク・エベンはそんな子供だったのだろう(って、今確認したらそこまで丸くないなあ。記憶違いかなあ)。
一方、司会者としては、チェコでもっとも高く評価されていて、「スター・ダンス」以外にもチェコテレビで外国の映画、演劇関係者を招いて英語でインタビューする番組を続けているし、毎年カルロビ・バリで夏に行われる国際映画祭の最終日の表彰式の司会役も長年にわたって続けている。その司会ぶりは達人の域にあり、知的に過ぎる冗談がすぐに理解されずに、笑いが起こるまでに時間がかかることもあるけれども、チェコで美しいチェコ語を崩さずに話し続ける品位のある司会者となるとこの人以外に選択肢はほとんど存在していない。
以前聞いたマレク・エベンに関する冗談(実話かどうかは知らない)は、モラビアの怪優ボレク・ポリーフカに対して、「ポレーフカさん」と呼びかけたというものだった。名前を呼び間違えたのの何がおかしいのか最初はわからなかったのだが、説明されて、人名であっても口語形である「ポリーフカ」は使わず、正しいチェコ語の「ポレーフカ(スープ)」を使うのがエベンだというのが笑いのツボらしい。やっぱ、チェコ人の冗談はよくわからんや。
とまれ、奥さんが足を悪くして車いす使用者だということもあって、チャリティー活動にも熱心で、スビェラークの主催する財団のチャリティーイベントの司会も務めていたかな。そんなこともあって、この人なら、熱心なゼマン主義者たちや、バビシュ支持者たちの反発を買うこともなさそうだから、政党色のない、政治性のない大統領として、次の大統領候補になりうるんじゃないかとこっそり期待している。モラビア出身じゃないのがちょっと残念だけど、クラウス大統領の息子とか、去年の選挙で完全に反ゼマンの色がついてしまった候補者たちよりは、国民を一つにまとめる大統領になれるのではないかと思う。
2019年2月6日22時30分。
今じゃあこんなものまで手に入るんだねえ。
タグ:テレビ