癌と共に生きる　手術→放射線治療→化学治療

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飲みこぼしは見慣れている。
身体の左半分が麻痺している父にとって
当たり前ということはない。

何をするにも闘いだ。
衣食住・・・
服を着るにも、物を食べるにも飲むにも、
トイレも寝るのも、全部・・・
全部自分で出来ない。

そして会話も・・・
そんな父が楽しみにしている・・・と思われることの中に
缶コーヒーがある。
父はブラックコーヒーが好きだ。

いつでもどこでもねだってくる。
私はそんな父のわがままは聞く。
たかがコーヒー、されどコーヒー、
父にとってはご褒美のような感覚なのかもしれない。

たまに訪れる私服のひと時。
私は毎日コーヒーを飲むことが出来るが
父にはそれは出来ない。
だから、父は多い時で3缶飲み干す。

次回からボトル缶を持ち込もうかと考えている。
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本題に入るが、
父は飲み物を飲むとき、100％の確率でこぼす。
上手く口から飲めないのだ。
だから、唇からあごを伝い、首筋を伝ってしまう。

タオルなどを用意しておかないと
下着がびちゃびちゃになってしまう。

特にコーヒーの汚れは洗濯物としては
達が悪い部類に入る。
なるべくなら、こぼさせずに飲ませたい。
父としても勿体なく思っていることだろう。

そんなある日、
姉から連絡が入った。
今、お父さんの所へ顔を出してくれているとのこと。

予てから伝えてあったブラックコーヒー大好き情報。
姉は忠実にその要望を受けれてくれていた。
そして姉もやはり、こぼれ落ちる煩わしさを
感じていた。

姉は、ある日ストローを使ってみた。
母が生きていた頃、父は吸う力が無くなった・・・
そう聞いていたこともあり、ストローという考えに
辿り着かなかった。

父はストローを使うと、こぼさずに飲むことが出来た。
この情報はありがたかった。
世の中の発明とは、こういうことなのかもしれない、
そんな訳の分からないことを思った瞬間でもあった。

ストロー・・・新しい発見だ。
少なくとも、私にとっては・・・。
姉には感謝している。

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