上條游雅は、どこにでもいるような、ありふれた高校生
だがひとつだけ違う点があった。それは隣に可愛い幼馴染が住んでいる事
そんな幼馴染の東雲穂多留は、游雅への好意も隠さず、今朝も彼を起こしにきて、甲斐甲斐しく朝食を作ってくれる
いつまでも続くと思われた友達以上恋人未満のようなふたりの関係は、突然現れた車窓眞那彌によって、三角関係へと発展する
ヤンデレに定評がある作者の、ヤンデレギャルゲー…
と見せかけて、実のところ
表現的作品創作である時点である程度の表現だが、本作は作者の主義思想体験談(かどうかは不明だが)、表現したい技法、センスを全てぶつけた…という一作
逆にヤンデレは意外にも(?)余り関係なかったので、ヤンデレに期待すると裏切られるかも。
そもそもメインヒロインがヤンデレじゃないしね(病んではいるが)
テーマのひとつがまさか、
障害、いじめだとは、全く予想外だった
ストーリーがこんな方向に行くとは
メインテーマではないので専門知識などはそこまで掘り下げられないが、障害を持った人間の苦悩のストーリーは、よく描けていると思う
ストーリーはA,B,Cそれぞれのパートに分かれているが、
全てのパートで表現技法が違う拘りには驚きだ
Bパートにいたっては作画までも違う
まるで別のゲームのような新鮮さがある
Aパートも美麗な絵で非常に多くの立ち絵差分が存在するのだが(登下校時にはスクバを肩にかけてたり、芸が細かい)、Bパートでは
アニメーターにでもなるの?とでも言わんばかりの膨大な作画枚数と、Aパートとは同じ作品とは思えないほどのギャップのある作画には驚かされた
それでいてAパートの作画シーンにつなげてくる演出は、見事だった
これ、本当に巧い
BパートでAパートのスチルが初めて出た時はまだ些細な驚きだったが、2回目は演出の巧さ込みで、本当に驚いた
そして何より、巧妙な伏線が凄い
「テキストアドベンチャー」「ノベル」である以上、小説を模しているので、伏線は殆どの場合「テキスト」に張られているのだが、
本作の伏線の多くは、「ゲーム」なので、グラフィックや音に張られているこれが他作品とは違って面白い
最近では、「死月妖花〜四月八日〜」もグラフィックに伏線があったが、これも他のゲームより一枚上手だ
そもそも巧妙な伏線、理想的な伏線とは、「これが伏線だ」と露骨に匂わせるよりも、「伏線とは気づかないが僅かに引っ掛かる」「何か一瞬違和感を覚えたが、記憶の片隅に残す程度」…という伏線の事だ
巧妙な詐欺と同じだね!このゲームはAパートで私が感じた些細な引っ掛かりに全て意味があったので、ちゃんと考えられたストーリー、設定だと感心した
特に、主人公が何故か1つ上の先輩を「お姉さん」と呼ぶことがずっと引っ掛かっていた
逆に、テキストでの伏線は、かなり露骨に張っている。主人公がいかにも怪しい場面で、いかにもな疑問を口にする
世界観の核心に、「最初から」触れているのもユニークだ
そしてそれが、全てゲーム的技法、演出に落とし込まれているので、感心し切りだ。
SF要素もあり、「Doki Doki Literature Club!」「君と彼女と彼女の恋。」(とは絵も似ている)などが好きな人なら、かなりハマるんじゃないだろうか
ただ、
想像もつかない展開と結末とのアピールは、盛り過ぎだと思った
正直なところ展開は、読めてしまった
読めたというより、過去に同じ設定、ストーリーの創作があったので、類似点から同じ話と察してしまったなので多分、Bパートまでの流れは、多くのプレイヤーが予想通りじゃないかな
だがそれを差し引きしても、クオリティの高さに驚いた部分のほうが大きい。
絵も綺麗だし、主題歌なども自作と、かなりの力作なので、気になる人はプレイしてみては
ネタバレ感想
Aパートのエンディングスタッフロールで、お姉さん以外全部「上條游雅」…
ギャグで全て同じ名前なのはよくあるが(シバターとか)、これは本当に全部同じ人だもんな。スタッフロールを逆手にとった、面白い演出だよ
Bパートは打って変わって実写風の気持ち悪い人物が出てきたり、障害と言うワードが頻繁に登場し、生々しいストーリーになっていく
キャラクターの顔も、鬼気迫るものがある
ゆうくんがお姉さんとの出会いとメダルゲームによって再生していくも、それもまた虚構で、あんなに熱中していたゲームはあっさり卒業
お姉さんは自殺してしまうんだけど、この落差の激しい展開の連続には、いい感じに振り回されてしまった
特にお姉さんが突然冷たくなるところは、怖いね
仲良かった女子が急激に冷たくなる…リアルすぎるよ
実体験かな?でもお姉さんはすぐに謝罪したし、高校生とは思えないくらい、よく出来た人間なんだよ。本当に理想のお姉さんだよこれは
だからこそ、後々追い詰められて母親を殺し、自殺したことの悲しさも倍増したね
やはり最大の見せ場は、そんなお姉さんが穂多留の姿で現れるシーンだろうな。タイトル画面でも並べられる、表裏一体のようなふたり…
「似ているな」とは思っていたが、描き分けが微妙なのかな程度に思っていたので、やられた
わざわざ夏服を着ていたお姉さんが、このタイミングで髪を切ってニーハイにしたのは、母親を殺す際に出来た汚れや怪我を隠す為かね
Cパートの動画、処理が重かった(笑)
穂多留がもうひとりの游雅というのは、…まあベタかな
「きみの正体は、僕だ。きみは、僕だ。忍野扇は――阿良々木暦だ。」…「物語シリーズ」を思い出した
主人公の別人格が異性となって現れるのは、他でも何度か見たしね
でも自己との対話である、わたし(ゆうくん)が勢いよく捲し立ててくるシーンは、インパクトがあった
死の世界に引きこもるとか、死の世界で更に自殺するような鬱ゲーではなく(これだと「END ROLL」になっちゃうからね)、希望と再生が残る物語で本当に良かった
でも、ゆうくんが告白し、そして決別したお姉さんは、本当は誰だったんだろうね…?
お姉さんはもう死んでるし、切った筈の髪の毛も、長いままだ。
ゆうくんが走って向かったのが死後の世界でもない限り、お姉さんもまた、ゆうくんにとって都合のいい妄想ということになってしまうのかも
そう考えると幾ら自己肯定とはいえ、なかなかブラックだが、それだと空しすぎるので、最後だけは未練を残して自殺したお姉さんが帰ってきてくれたと思いたい
(白か…)
公式HPトップ絵とかのお姉さん、ほとんど死神だもんな気づかない振りをして髪を切った時の仕返しをするのと、告白を聞いて優しく微笑んでいるのが(かなり好きな演出)、最後まで、お茶目で優しいお姉さんという感じだった
帰結は結局恋愛ものなんだけど、お姉さんの最後の台詞が「好きだよ」とか、「愛してる」とか、そういったベタな恋愛の台詞ではなく、「もうゆうくんのお姉さんは、お終い…」という、ふたりの関係性とこのゲームの終わり(別れ)を告げるものなのが、やや特異だ
EDテーマは曲も歌詞もこのゲームの為だけのもので、ぴたりと嵌っている(中毒性があって、何度も聴いてしまう)
そして、現実に戻るの一択
仮想現実などではない、「人生は続く」…
主人公もプレイヤーも、現実に戻る為、ゲームはシャットダウン…
この演出も良かった
「DDLC」のように、データが消えるような事はないけどね
評価A+
85点
相当な力作でした。
キャラ立てされたヤンデレという、現実にはまあいないであろう題材をモチーフにしているサークルが、このようなゲームを作るというのは、自虐ではないにせよ、考えさせられるものがありますね
いや、だからこそ、このような良作が作れたのでしょう。凄い創作力というべきところ
そういえば穂多留の中の人、ボイスコでは珍しくツイッターアカウントがないんでしょうか…
私はボイスコ殆ど知らないんですが…
真逆の声質なのに、実はお姉さん(太田彩華)と同じ人がやってる…だとすごいけど、まあそれはないか