歳は60代程。男性でピンク色の服を着た風変りなお客でした。突然店を訪ねてきては、買取について聞いてきました。
「あるミュージシャンのファンクラブに入っていないと買えないDVDが30本ほどある。」
「ケースは破損しているものがある。新品も混ざっている。」
「相場では30万はするものだ。買い取れるか。」と、いう内容。
査定を希望しているようでしたが、実際の品物が無いので正確な査定はできません。さらにたとえオークションなどで高額で取引きされているものでも、同じ金額では買い取ることが出来ません。
そこで私は、「実際に見てみないと査定はできない」という趣旨。それから、「30万円の相場でも、その金額では買い取りは出来ないと思いますよ。」と、伝えました。
そこでお客のスイッチが入ってしまったようです。
「はぁ?何でその金額で買えないの?」と威圧的になりました。
「例え未開封でも、初期不良なども考慮しなければいけませんからねぇ。」という内容をやんわり答えました。
内心は、そんな事はどうでもよく、威圧的な口調で会話をしてくるので、防御的に買取をしてはいけないと悟ったからです。
商品も持ってきていないのに強く言われ、断る事で頭がいっぱいでした。どうやって諦めてくれるか考えながら、実際にあった話をしました。
「今まで新品のDVDをたくさん扱って来ましたが、初期不良で返品された事が何度もあります。新品でも保管状況により、読めなくなる事があるんです」と、普通のお客様にはなかなか言わないけれども、正しい情報を伝えました。
そこでそのお客はブチ切れ、二段階に到達したのです。大声でどなり始め、私の胃の中で液体が「プシャー」と梨汁のごとく噴出している感覚が伝いました。
なんとかなだめようと、10分程やんわりと話していましたが、終わりなく暴言を吐き続けられたため、手が震え体調が悪くなってきたのを感じました。
なんとか言葉の暴力に終止符を打つべく「退店ください。退店いただかなければ警察を呼びますよ。」と、怒りの第三段階へ突入するであろう滅びの呪文を唱えてしまいました。
案の定、お客は第三形態へ進化しました。「俺は出て行かないぞ」「呼びたかったら呼べ」と開き直りながらさらに暴言を吐き続けました。
仕方ないと思い、警察へ電話を入れました。なんとそれと同時に、そのお客も同じように警察に電話をし始めたのです。
私は「店に来たお客が暴言を吐き続けていて、退店してもらえない」と、伝えたのですが、相手はと言うと「助けてください!店の人に襲われています。」
私「!?」
電話の先の警察の人「相手はナイフなど危険な物を持っていますか?」
お客「はい。持っています。今、手にキラッと光るものが見えました。」
私「!!!!?」
お客「たた、助けてください!!場所は〇〇です。殺されるーーーっ。早く来てくださいっっ」ガチャ
私「あのう。わたし何も持っていないですよね。何を演技してるんですか。おかしいですよね。」と問い詰めたところ衝撃的な返答が返ってきた。
「俺はお前に店を出ろと言われて精神的に追い詰められた。死ぬかもしれない。お前は俺を殺そうとした。だから正当防衛でウソをついた」と言ったのだ。
「サイコパス」という言葉があります。今まで私の周りにこの言葉がしっくり当てはまる人はいませんでしたが、ここで出会ってしまいました。この人に何を言ってもムダなのと、変に言い返すともっと大変な事になると悟りました。
心の中で「警察の人早く来て、早く来て」と念じながら、なるべくお客が落ち着くよう、「何もしないですから、落ち着いて下さい」とだけ、連呼し続けていました。
そうこうする事、約10分程して突然そのお客は「俺がいない方がいいんだろ」と言って店を出て行きました。その直後、待ちかねていた警官が二人お店に入って来たのです。
「こちらですか?」と言われたので、「あの人です」と、先ほど出て行ったお客が店から50mほど先の交差点にいたのが見えたので指さしました。そして一人の警察官が追いかけて行きました。
もう一人の警察官に、先ほどまであった出来事を詳細に伝えていると、先ほど客を追いかけていた警察官が戻って来て一言、「見失いました」
私「ええぇぇぇ・・」うなだれてしまいました。
話はここで終わりません。逃げたということは、何か仕返しに来るかもしれないと思いました。警官の方にも「お店は閉めておいた方がいいかもしれませんね」と助言されました。
防犯カメラを入口の方へ向け、その日は閉店する事にしました。そうすると、案の定、それから数時間後に扉をガタガタとする姿が防犯カメラに写っていました。先ほどの人物です。
その様子を見てしまったので、怖くて次の日も午前中だけ店を閉める事にしていました。そうすると、またやって来ては扉をドンドンとするのです。そうこうして体調を崩していたのもあり、一週間店を閉める事になってしまいました。
毎日のようにやってきては扉をガンガンするのです。「もう耐えれない」今度来たら警察に電話しよう。と思い待っていると、やっと諦めてもらえたらしく来なくなりました。
ずっと閉めたままにしても営業できないので、決死の思いで店を開けることにしたのです。そうして一週間ほどしたある日。やって来たのです。問題の人物が。
心臓が止まりそうになりながら、「何の用事でしょう」と尋ねると「カバンを忘れていないか」と言われたのです。当然そんなものはありません。「無いです」と即答するとすぐに店を出て行きました。
それからその人物は店に来る事はありませんでしたが、体調が改善するまで1ヶ月近くかかりました。
店舗で経営をしていると、2、3年に一度はこのような人が訪れます。
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