新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
2022年12月07日
【短編小説】『いのちの電話と、聞き上手』前編
トゥルルル、ガチャ
「はい、いのちの電話です。どうされましたか?」
『…もう、消えたいんです…。』
--
私の名前は、瀬名 璃々羽(せな りりは)。
社会人3年目の26歳。
時刻は23時過ぎ、
真っ暗な会社の休憩室で1人、電話を掛けている。
通話先は、そう、「いのちの電話」。
私は大学時代に、うつ病になった。
数ヶ月、寝たきりになり、何もできなくなった。
両親には内緒のまま1年間、休学。
精神科へ通院し、何とか動けるようになり卒業、就職できた。
いま勤めている会社は幸いにもホワイト企業。
無理な残業もパワハラもない。
入社して3年目、私は職場に大きな不満なく、
それなりに充実した毎日を送っているつもりだった。
なのに、なぜこんなことになったのか。
2時間ほど前、私は会社のビルの屋上にいた。
『ここから飛び降りたら、楽になれるよね…。』
8階建てのビルだ。
実行すれば本懐を遂げられる可能性は高い。
身辺整理もあらかた終わり、遺書も書いている。
私がいなくなっても後腐れはない。
あるとすれば、オフィス街の真ん中で大騒ぎになるくらいだ。
それくらいは許してほしい。
『…私の、意気地なし…。』
履いていたヒールをきれいにそろえても、
私はフェンスに手をかけた先へ進めない。
何が私を現世に引き止めるのか。
私には飛び降りる勇気が出ない。
私はしばらく夜風に吹かれた後、
あれこれ言い訳を探しながら屋上を後にする。
--
『いけない、スマホの解約を忘れてた…。』
真っ暗な会社の休憩室に戻った私は、ふと思い出す。
もうすぐ逝くんだ。解約なんてどうでもいい。
なのに、なぜか妙に気になる。
人によって、この世でやり残したことが違うなら、
私はスマホの解約だ。
大切な人に一目会う
思い出の場所へ行く
のような、感動を誘うことでないあたり、何とも私らしい。
「消えたい」「楽になりたい」
私は休憩室のソファーへ寝転がり、
スマホの検索ワードにそう打ち込む。
すると、検索リストの1番上に「いのちの電話」が出てくる。
休憩室も廊下も静まり返っている。
社内に残っている人は、もういないだろう。
飛び降りる勇気が出なかった私。
何か別の方法を探さなきゃ…。縄?練炭はどうかな?
いのちの電話の人なら知ってるかな…?
私はちぐはぐな考えを整理できないまま、
表示された電話番号に掛けてみる。
--
トゥルルル、ガチャ
「はい、いのちの電話です。どうされましたか?」
電話に出てくれた相談員さんは60代の男性。
会社を定年退職した後、
ボランティアでこの仕事をして8年目だそうだ。
『…もう、消えたいんです…。』
「…よかったら話してくれませんか?」
その後、私は何を話したのか、よく覚えていない。
つらい
消えたい
楽になりたい
生きていくのに疲れた
そんなことを支離滅裂に口走った気がする。
「つらかったですね。私も過去にね…。」
私がよくわからない言葉を吐き出した後、
相談員さんは自分の身の上話を始めた。
過去に何度も、私と同じ気持ちになったこと。
そのたびに思いとどまったこと。
支えてくれた人がいたこと。
20分の通話時間のうち、私が話したのは最初の数分。
あとはほとんど相談員さんが話し、私は聞き役になって終わった。
私は話したかったのか…?話したかったはずだ。
なのに、なぜこんなことになるのか。
それは、私の育ち方が物語っている。
⇒後編へ続く
⇒この小説のPV
2022年12月02日
【オリジナル歌詞】『虚(から)のコイビト』
「アナタ、かわいいじゃない?」 軽い言葉で堕としたけど
アナタだけに伝えるわ アタシ 人格交代制(コウタイセイ)なの
時には狗(イヌ) 時には女豹(ヒョウ) 時には夜の蝶を呼び出すの
”本当のアタシ”は どこにもいない
さぁ ”コイビト”をしましょう アナタの知らない人格(アタシ)と
アナタが好きよ ウソなんてないわ だからアタシの全人格(すべて)受け入れて
ニセモノなんかじゃないわ そんなに怯えないで
アナタが望む 恋人(アタシ)と踊りたいでしょ? 「イマ 代ワルワ 待ッテテ」
アナタと2人歩く アタシはどう見えてるかしら?
恋人? 不正解よ 隣には誰もいない
狗(イヌ)も 女豹(ヒョウ)も 夜の蝶も 重ねた肌のぬくもりも
空虚で満たされた ”本当のアタシ”よ
さぁ ”イイコト”をしましょう アナタのために造った人格(アタシ)と
アナタが好きな人格(アタシ)はいつの日か 消えてしまうのよ だからせめて
ニセモノなんかじゃないと 証明してみせてよ
アタシがアナタのすべてだってことを 「震エル手ハ 離サナイ」
アナタが逢いたい人格(アタシ)なら 消してやったのよ 煩かったから
これで邪魔者は いなくなったわ
だから ”夢の続き”を見ましょう アナタのよく知る人格(アタシ)と
アタシはアナタのすべてなんでしょう? 「今サラ逃ゲラレルト思ワナイデ!」
怯えるカオもかわいい アナタにお願いがあるの
空虚で満たされた ”本当のアタシ”を 見つけ出してほしいの…!
ーーーーーーーーーー
⇒この歌詞は、オリジナル小説
『いま、人格代わるね。』
の主題歌として書いてみました。
アナタだけに伝えるわ アタシ 人格交代制(コウタイセイ)なの
時には狗(イヌ) 時には女豹(ヒョウ) 時には夜の蝶を呼び出すの
”本当のアタシ”は どこにもいない
さぁ ”コイビト”をしましょう アナタの知らない人格(アタシ)と
アナタが好きよ ウソなんてないわ だからアタシの全人格(すべて)受け入れて
ニセモノなんかじゃないわ そんなに怯えないで
アナタが望む 恋人(アタシ)と踊りたいでしょ? 「イマ 代ワルワ 待ッテテ」
アナタと2人歩く アタシはどう見えてるかしら?
恋人? 不正解よ 隣には誰もいない
狗(イヌ)も 女豹(ヒョウ)も 夜の蝶も 重ねた肌のぬくもりも
空虚で満たされた ”本当のアタシ”よ
さぁ ”イイコト”をしましょう アナタのために造った人格(アタシ)と
アナタが好きな人格(アタシ)はいつの日か 消えてしまうのよ だからせめて
ニセモノなんかじゃないと 証明してみせてよ
アタシがアナタのすべてだってことを 「震エル手ハ 離サナイ」
アナタが逢いたい人格(アタシ)なら 消してやったのよ 煩かったから
これで邪魔者は いなくなったわ
だから ”夢の続き”を見ましょう アナタのよく知る人格(アタシ)と
アタシはアナタのすべてなんでしょう? 「今サラ逃ゲラレルト思ワナイデ!」
怯えるカオもかわいい アナタにお願いがあるの
空虚で満たされた ”本当のアタシ”を 見つけ出してほしいの…!
ーーーーーーーーーー
⇒この歌詞は、オリジナル小説
『いま、人格代わるね。』
の主題歌として書いてみました。
2022年11月30日
【オリジナル歌詞】『キセカエ人形』
どこまで支配すれば気が済むの?
あたしは あなたの着せ替え人形じゃないのよ!
あなたの檻(オリ)の中
あたしは自分を消された
あなた好みの服 あなた好みの髪
そこに”あたし”はいない
趣味も友達も すべてあなた次第
「すべてはあなたのためなのよ」
悪気もなく あなたはそう言うの
うるさい…うるさい…うるさい!少し黙ってよ!!
どこまで支配すれば気が済むの?
「アタシはアナタ」じゃない 「アタシはアタシ」なの!
あなたが愛でているのは あたしじゃない
あなたが見ているのは いつだって物言わぬ「着せ替え人形(ドール)」
あたしの腕の中
あなたはあたしの”モノ”よ
あたし好みの服 あたし好みの髪
そこに”あなた”はいらない
あたしが望んで 叶わなかったことは
あなたがすべて叶えるのよ
反抗的なその眼が 気に入らないわ
従って当然でしょう? 「アタシはアナタ」よ!
あたしの言うことを聞けばシアワセよ?
あなたはどうして それがわからないの?
あなたはおとなしく「着せ替え人形(ドール)」でいて
あたしの思い通りにならないと 「あたしが不安」なの…!
『あたしの言うことを聞けばシアワセよ?』
『「アタシはアナタ」よ? 愛しいあたしの「着せ替え人形(ドール)」』
『すべてはあなたのためなのよ?』
うるさい…うるさい…うるさい!少し黙ってよ!!
どこまで支配すれば気が済むの?
「アタシはアナタ」じゃない 「アタシはアタシ」なの!
あなたが愛でているのは あたしじゃない
あなたが見ているのは いつだって物言わぬ「着せ替え人形(ドール)」
ーーーーーーーーーー
⇒過去作品
『ハイイロノソラ』
『願い』
『秋風の手紙』
⇒参考書籍
あたしは あなたの着せ替え人形じゃないのよ!
あなたの檻(オリ)の中
あたしは自分を消された
あなた好みの服 あなた好みの髪
そこに”あたし”はいない
趣味も友達も すべてあなた次第
「すべてはあなたのためなのよ」
悪気もなく あなたはそう言うの
うるさい…うるさい…うるさい!少し黙ってよ!!
どこまで支配すれば気が済むの?
「アタシはアナタ」じゃない 「アタシはアタシ」なの!
あなたが愛でているのは あたしじゃない
あなたが見ているのは いつだって物言わぬ「着せ替え人形(ドール)」
あたしの腕の中
あなたはあたしの”モノ”よ
あたし好みの服 あたし好みの髪
そこに”あなた”はいらない
あたしが望んで 叶わなかったことは
あなたがすべて叶えるのよ
反抗的なその眼が 気に入らないわ
従って当然でしょう? 「アタシはアナタ」よ!
あたしの言うことを聞けばシアワセよ?
あなたはどうして それがわからないの?
あなたはおとなしく「着せ替え人形(ドール)」でいて
あたしの思い通りにならないと 「あたしが不安」なの…!
『あたしの言うことを聞けばシアワセよ?』
『「アタシはアナタ」よ? 愛しいあたしの「着せ替え人形(ドール)」』
『すべてはあなたのためなのよ?』
うるさい…うるさい…うるさい!少し黙ってよ!!
どこまで支配すれば気が済むの?
「アタシはアナタ」じゃない 「アタシはアタシ」なの!
あなたが愛でているのは あたしじゃない
あなたが見ているのは いつだって物言わぬ「着せ替え人形(ドール)」
ーーーーーーーーーー
⇒過去作品
『ハイイロノソラ』
『願い』
『秋風の手紙』
⇒参考書籍
リンク
リンク
2022年11月29日
【オリジナル歌詞】『ハイイロノソラ』
「誰もあたしに興味なんてないんでしょ?!」
いてもいなくても 誰も困らない
それでも願ってしまう
あたしは許されたい ”生きていてもいい”と…
「どうして あたしを生かしたの?」
灰色の虚空(ソラ) 見上げるたびに問う
義務感 償い 責任
おカネ 虚栄心 セケンテイ
もうどうでもいいわ…! 友達は
ただ1人”虚しさ”だけなの!
殴られるなら その方がマシ
罵られるなら その方がマシ
憎しみさえ向けらない ただ無関心
あたしという存在の否定
笑顔も涙も 忘れてしまった
表情なんて 仮面を付け換えるだけよ
「ほめられたい」「かまってほしい」
「𠮟られたい」「甘えたい」
そんな願い とうに捨てたわ
”虚しさ”を抱いて生きるのよ…!
「誰もあたしに興味なんてないんでしょ?」
それが精一杯の 孤児(あたし)の悲鳴
お願いだから気づいてよ あたしの存在に…
無関心だけはやめてよ…!
殴られても 罵られても
傷つくことくらい わかっているわ…!
でも それさえも憧れの1つなのよ…あたし…
「誰もあたしに興味なんてないんでしょ?」
虚しい孤児(オンナ)の 精一杯の悲鳴
お願いだから許してよ あたしの存在を…!
生きていてもいいことを…!!
ーーーーー
⇒過去作品
『A』
『蛍』
『きみらしく』
『セピア色の約束』
いてもいなくても 誰も困らない
それでも願ってしまう
あたしは許されたい ”生きていてもいい”と…
「どうして あたしを生かしたの?」
灰色の虚空(ソラ) 見上げるたびに問う
義務感 償い 責任
おカネ 虚栄心 セケンテイ
もうどうでもいいわ…! 友達は
ただ1人”虚しさ”だけなの!
殴られるなら その方がマシ
罵られるなら その方がマシ
憎しみさえ向けらない ただ無関心
あたしという存在の否定
笑顔も涙も 忘れてしまった
表情なんて 仮面を付け換えるだけよ
「ほめられたい」「かまってほしい」
「𠮟られたい」「甘えたい」
そんな願い とうに捨てたわ
”虚しさ”を抱いて生きるのよ…!
「誰もあたしに興味なんてないんでしょ?」
それが精一杯の 孤児(あたし)の悲鳴
お願いだから気づいてよ あたしの存在に…
無関心だけはやめてよ…!
殴られても 罵られても
傷つくことくらい わかっているわ…!
でも それさえも憧れの1つなのよ…あたし…
「誰もあたしに興味なんてないんでしょ?」
虚しい孤児(オンナ)の 精一杯の悲鳴
お願いだから許してよ あたしの存在を…!
生きていてもいいことを…!!
ーーーーー
⇒過去作品
『A』
『蛍』
『きみらしく』
『セピア色の約束』
2022年11月26日
【短編小説】『白の国は極東に』2 -最終話-
⇒【前編】からの続き
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<数十年前・旧二ホン領>
ボンッ!!!!!
「キャー!!!」
「助けてください!刃物を持って暴れる人が!」
--
『わ、わかった!今までのことは謝る!』
『いつまで引きこもってくれても構わん。』
『だからこれ以上、殴らないでくれ!家を荒らさないでくれ!』
--
「痛えな!どこ見て歩いてんだお前!」
『お前が歩きスマホで前見てなかっただけだろ!』
「あぁ?!避けないお前が悪いんだろうが!」
「ゲームの邪魔すんな!」
『なんで前見て歩いてないヤツをこっちが避けなきゃいけないんだよ!』
--
ある日、
二ホンのいたるところで”我慢カウンター”の爆発音が響きました。
するとどうでしょう。
昨日までおとなしく、礼儀正しかった二ホン人たちが、一斉に暴れ出しました。
ガシャーン!
『バイオテロリストって言ったヤツはどこだ?!』
「おいお前!マスクしろ!カンセンするだろ!」
『うるせぇな!』
『みんなと同じでなくなることが、そんなに怖いのかよ!!!』
『この国は狂ってる…!』
『”ヨウセイ”?!”カンセン”?』
『カンセンしてるのはお前らだろ!』
『”みんなやってるから病”に!!!!』
『みんな苦しんでるんだからお前も苦しめ?!』
『我慢してみんなに合わせるから苦しいんだろ!』
『いい加減、気づけよ!我慢してないヤツへ嫉妬してる自分に!』
『いい加減、自分で考えて選べよ!』
『自由の不安と、不自由の不満、どっちを受け入れて生きるのかを!!』
「ーー!!!」
……。
ーー
二ホンはとても平和な国でした。
優しい人たちが多く、夜に外を歩けて、水道水が飲める国でした。
ですが、それは本当の優しさではなく、
”みんなやってるから病”の症状だったんです。
一見、我慢して、みんなに合わせることは楽です。
それが幻想であることを、”我慢カウンター”は暴きました。
抑圧された自分。
押し込まれた暴力性。
それが臨界点を超えたあの日、
二ホン人たちは狂ってしまいました。
互いを傷つけ合う者たち。
発狂し、自ら命を絶ってしまう者たち。
跡に残ったのはガレキの山と、優しい二ホン人たちの…。
「我慢で命を落とす人を救いたい」
発明者の願いもむなしく、白い国のいたるところに、
”我慢カウンター”の破片が散らばっていました。
「みんなやってるから」
「常識的に」
「世間体が」
そんな呪いから、最悪の形で解き放たれた二ホン。
どこよりも平和だったはずの国は、
どの列強国に侵略されるでもなく消えていきました…。
ーーーーー
<現在:欧州・とある国>
少年
『ねぇママ。』
母親
「なぁに?」
少年
『最近おとなりに引っ越してきたおじいさん、いつも悲しい顔してるね…。』
『なにかあったのかなぁ?』
母親
「あの人はね、二ホンから逃げてきた人よ。」
「大変な目に遭ってきたから、きっと悲しいの。」
少年
『二ホンって、地球儀の白い国だよね?』
『よかった!みんなしんじゃってなかったんだ!』
母親
「ええ。土地は荒れちゃったけど、脱出できた人もいたの。」
少年
『よかった!』
『ねぇママ、おじいさんを元気づけてあげようよ!』
母親
「ええ。」
ーー
老人
[ありがとうね。おかげで元気をもらったよ。]
少年
『どういたしまして!』
『ねぇおじいさん、二ホンはどうして”みんなやってるから病”になっちゃったの?』
母親
「こ、こら!何を聞いてるの!」
「ごめんなさい!イヤなことを思い出させてしまって!」
老人
[いやいや、構わないよ。]
[そうだね、どうしてだろう…。]
[たぶんみんな、神さまより”世間さま”を怖がってたんだろうね。]
少年
『セケンサマ?神さまじゃないの?』
老人
[そうだね。自分の想像で作り出した他人の目、他人の評価だよ。]
少年
『他人の目、他人の評価が、神さまより怖いの?』
老人
[そうだね…。]
[きみは独りぼっちは怖いかい?]
少年
『うん。怖い。』
老人
[みんなと違ったら、一人ぼっちになるけど我慢しなくていい。]
[みんなと同じにしたら、一人ぼっちにならないけど我慢しなくちゃいけない。]
[きみはどっちがいい?]
少年
『どっちも怖いけど…みんなと違う方がいい!』
『僕は僕だもん!みんなと同じなはずないよ!あッ……!!』
老人
[気づいたかい。]
[きっと二ホン人はね、一人ぼっちが怖かったんだよ。]
少年
『みんなと一緒にいれば、独りぼっちじゃないの?』
老人
[みんなと一緒にいるというだけで、心は独りぼっちだよ。]
[その一緒はみんな我慢して”作られた”ものだからね。]
[我慢してばかりなのに、本当は誰ともつながってなかったんだ…。]
少年
『だから、二ホンの人たちは壊れちゃったんだね…。』
老人
[もちろん、みんなに合わせることも大切だよ。]
[だけどね、それは自分を抑えることにもなる。]
[そのことに自分でも気づけなくなったとき、”みんなやってるから病”にかかるんだよ。]
少年
『…僕は僕のまま生きるよ!』
『おじいさん、話してくれてありがと!』
母親
「本当にありがとうございます。」
「おつらい出来事だったでしょう?」
老人
[なんの。お役に立てて嬉しいよ。]
[どうか、息子さんとご自身を大切に生きてくださいね。]
母親
「ッ…!はい!」
少年
『おじいさん、またね!』
老人
[うん、またね。]
[……さて。残り少ない命の…使い道が決まったな。]
ーーーーー
その後、二ホンの生き残りの老人は世界各地を回り、
自身の体験を語りました。
今はない”二ホン”という国で起きた惨劇
”みんなやってるから病”の恐ろしさ
”我慢カウンター”の発明者の願い
彼のおかげで、何千、何万人もの命が救われました。
彼はその功績が認められ、
世界中から講演会に招かれるようになりました。
彼は病床に伏し、命が尽きるその日まで、
本の執筆をやめませんでした。
彼の遺作となった「白の国・二ホン」は、
後に世界中でベストセラーになりました。
その最大の功労者は、
生前の彼と親しかった、欧州のとある青年だそうな。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『どんな家路で見る月も』1話完結
【短編小説】『恋の麻酔と結婚教』全4話
⇒参考書籍
リンク
リンク
リンク
2022年11月25日
【短編小説】『白の国は極東に』1
<欧州・とある国>
母親
「あらあら、買ってからずっと見てるのね。」
少年
『うん。地球儀ほしかったんだ!ありがとママ!』
『世界にはこんなにたくさんの国があるんだね!』
クル、クル、クル、
少年
『ここが僕らの住んでる国。』
『ここがロシア、インド、中国…。』
『すごいなぁ。こんなに広い国がある。』
クル、クル、クル、
少年
『あれ?』
母親
「どうしたの?」
少年
『インドの左上と、ヒマラヤのあたりが白くなってるよ。』
『他の国は赤や青なのに。この白い場所にはどんな国があるの?』
母親
「白いところはね、どこの国か決まってない場所なの。」
「いろんな国が”自分の領土だ”って言ってるのよ。」
少年
『そっかぁ。どこの国か決まってない場所は白いんだね。』
母親
「そうよ。」
クル、クル、クル、
少年
『あれ?』
母親
「どうしたの?」
少年
『中国の東にある島も白く塗られてるよ。』
『けっこう大きい島が4つあるけど、ここにも国がないの?』
母親
「そこはね…昔は”二ホン”という国があったけど、滅びてしまったの。」
少年
『えぇ?!国がなくなっちゃったの?』
『どうして?近くの国から攻められちゃったの?』
母親
「攻められてなんかないわ。」
「”二ホン”の人たち同士でケンカしちゃって…中から滅びてしまったの。」
少年
『どうしてどうして?!”二ホン”の人たちってそんなに怖いの?』
『悪いことして、神さまから天罰が落ちちゃったの?』
母親
「そんなことないわ。」
「とっても優しい人たちばかりだったそうよ。」
少年
『優しい人たち?』
母親
「ええ。ものを盗んだり、誰かを傷つけたりする人も少ない。」
「夜に外を歩けるし、水道のお水は飲めたそうよ。」
少年
『いいなぁー。』
『そんなに優しい人たちが、どうしてケンカなんかしたの?』
母親
「学者さんたちがいろいろ考えてるんだけど、”二ホン”の人たちに
”みんなやってるから病”
が広まりすぎたから、ですって…。」
少年
『”みんなやってるから病”…?』
母親
「ええ。みんながやってることに自分も合わせずにはいられない病よ。」
「学校では、みんな同じお勉強をしてる?」
少年
『同じのもあるけど、ほとんどみんな違うお勉強をしてる。』
『だって、みんな好きなことも得意なことも違うもん。』
母親
「お友達と意見が違ったら、どうする?」
少年
『僕はこう考えるけど、きみはどう?って聞く。』
『みんな、考え方が違うから。』
母親
「じゃあ、もし言いたいことを言わなかったら?」
少年
『”我慢カウンター”が溜まっちゃう。』
母親
「そうよね。”我慢カウンター”を溜めると身体によくないものね。」
少年
『うん。僕、あの”カチッ”て音が好きじゃないんだ。』
『でも、あんなに大きな音だから自分が我慢したってわかるんだよね!』
母親
「そうね。”我慢カウンター”を発明した人はすごいわね。」
少年
『ねぇママ。』
母親
「なぁに?」
少年
『二ホンには”我慢カウンター”がなかったの?』
『みんな同じになるわけないのに。』
『みんな同じにしてたら、”我慢カウンター”が爆発しちゃうよ?』
母親
「二ホンからは”我慢カウンター”の破片がたくさん見つかってるわ。」
「だから二ホンの人たちも持ってはいたの。」
少年
『じゃあ、きっとみんなの”我慢カウンター”、爆発しちゃったんだね…。』
『だけどさ、あの”カチッ”て音、すごく大きいよね。』
母親
「そうね…。」
少年
『溜まったらすぐわかるはずなのに…。』
『どうして二ホンの人たちには、あの音が聴こえなかったの?』
母親
「”みんなやってるから病”にかかるとね…。」
「”我慢カウンター”の音が聴こえなくなっちゃうの…。」
少年
『そんなことしたら、しんじゃうよ!』
『どうしてそこまでして、みんなと同じにするの?!』
母親
「みんなと同じにしないと、仲間外れにされたり悪口を言われるの。」
少年
『みんなやってることをしなかったときも?』
母親
「ええ。みんなと違うことするとね、二ホンの人は”ケイサツ”になるのよ。」
少年
『警察に?二ホンではすぐ警察になれるの?』
『友達のパパに聞いたら、むずかしい試験に受かったって言ってたよ?』
『警察って強そうで、みんなを守ってくれる人じゃないの?』
母親
「本当はそうよね。二ホンにも警察はいたのよ。」
「だけど二ホンには”ケイサツ”もいたんですって…。」
「みんなと違うことをした人を許さないケイサツがね…。」
少年
『警察と…”ケイサツ”…?!』
ーーーーー
<数十年前・旧二ホン領>
--(とある学校)--
教師
「お前は何度言ったらわかるんだ!髪染めは校則で禁止だ!」
「みんなと同じ黒髪にして来い!」
生徒
『先生、わたしのお母さんは欧州の人です。』
『わたし、地毛が茶髪なんです。』
教師
「関係あるか!この学校にいる限り、みんなと同じにしろ!」
「生徒指導室へ来い!」
生徒
『どうして…こんなのおかしいよ…!!』
『だけど仕方ないよね…。みんな我慢してるんだから。』
カチッ
カチッ
ーー
--(旧・△△県)--
『車の窓ガラスが割られてる!』
「どうして…いたずらにしては度が過ぎてない?!」
『ええ…。ん?車の後ろに貼り紙が。』
病気をまき散らしに来るな
よそ者が△△県に入ってくるな
みんなと同じように移動を自粛しろ
『そんな…。』
「わたしたち△△県民だよ?!」
「ナンバープレートが他県というだけで?!」
『…仕方ないか…。みんな我慢してるから。』
カチッ
カチッ
ーー
--(とある街・繫華街)--
「おい、あんたどうしてマスクしてないんだ?!」
「恐怖のウイルスが蔓延してるんだぞ!」
『え…?』
「みんなと同じようにさっさとマスクをしろ!」
「バイオテロリストめ!」
『どうして見知らぬ人に怒鳴られなきゃいけないの…?!』
『…だけど…仕方ないか…。』
『みんな我慢して、マスクしてるんだから。』
カチッ
カチッ
ーー
--(とある民家)--
母親
「アンタ、いつまで引きこもってるつもり?」
息子
『…。』
母親
「アンタこのままじゃ、授業についていけなくなるよ?」
「いい大学に入って、いい会社に入れなくなるじゃないの。」
「みんな学校行ってるのに、アンタだけ取り残されてるよ。」
息子
『…学校がつらいんだ…。』
父親
「学校がつらい?そんなものは甘えだ!ぜいたくを言うな!」
「世間にはお前より苦労してるヤツもいる!」
「そいつらだって、頑張って勉強してるんだぞ!」
「どうしてお前だけ、みんなと同じようにまっとうに生きられないんだ?!」
息子
『…(ギリッ…)!』
カチッ
カチッ
カチッ
ーー
「カチッ」?
何の音でしょう?二ホンのいたるところで響きます。
とても大きな音です。
なのに誰ひとり、この音に気づきません。
聴こえていないのでしょうか?
この音はいったい、どういうときに鳴るんでしょう?
どうやら、
「我慢」
「みんなと同じ」
「みんなやってるから」
に反応しているようです。
そして、言われた人だけでなく、言った人からも聴こえます。
謎の音がする、この装置。
今や、地球に生きるほぼすべての人間が持っています。
「自分を押し殺すことは寿命を縮める」
「長期間の我慢はうつ病のリスクを高める」
それが研究でわかったとき、この装置の発明者は願いました。
『我慢で命を落とす人を救いたい。』
欧州の、とある親子も話していましたね。
そう、”我慢カウンター”です。
二ホン中で鳴り響く音は、
二ホン人が持つ”我慢カウンター”が溜まっていく音です。
ものすごい早さで溜まっていきます。
もちろん当時の二ホン人も、
ほぼ全員”我慢カウンター”を持っています。
なのに、どれだけ「カチッ」という音がしても、
所持者は気づきません。
”我慢カウンター”は機械です。
使いすぎると少しずつ、熱が溜まっていきます。
所持者はそれすら気づきません。
機械の熱はおろか、自分の心の焦げつきにさえも。
そして、ある日とうとう…。
⇒【後編】へ続く
2022年11月15日
【バスケ心理分析】セルフィッシュな選手の自己顕示欲を満たしても、感謝はされない。
ー目次ー
現代バスケで重宝される「3&D選手」。
ざっくりした特徴は以下だろう。
・ディフェンス力がある
・3ポイントシュートが打てる
・複数のポジションをこなせる
・オフボールの動きが上手い
・数字に残らない泥臭い仕事をこなせる
一方、「3&D選手」のチームメイトとして相性が悪いのは、
・シュート打ちたがりな選手
・セルフィッシュな選手
・ボールを独占する選手
おそらく、こういう選手と相性の良い選手はあまりいない。
それでも、割を食う選手の筆頭は、
「オフボールの動きを得意とする選手」だろう。
そして3&D選手、ユーティリティプレーヤーは、
複数のポジションをこなせるがゆえに、
エゴの強い選手に譲ってしまいがちではないか。
残念ながら、
シュートを打ちたがりな選手へいくらボールを供給しようと、
1on1しかしない選手にオフェンス機会を譲ろうと、
あなたが感謝されることはないだろう。
いい人≒都合の良い人
何でも引き受けてくれる人≒便利屋
であるのと同じ。
あなたがどれだけ
セルフィッシュな選手の自己顕示欲を満たしても、
あなたは「便利な球拾い」になってしまうだろう。
ユーティリティプレーヤーが
器用な選手になった経緯はさまざまだ。
本人の研究
指導を受けたコーチの影響
多くのポジションを経験してきた、など。
加えて、その人の
”気づかいができる気質”も関係しているのではないか。
・まわりへの配慮ができる
・繊細で細かいところに気づける
・そのとき不足している役割やポジションを埋める
そういうことができるから、
自然と器用な選手になったんだろう。
もちろん、勝敗がある以上、
「ボールをよこせ、オレが決める」という気持ちも大切。
ただそれ以上にチームで勝ちたい。
そのためにできることを探す意識が強いんだろう。
ユーティリティプレーヤーは一見、
チームに1人はほしい選手。
だがセルフィッシュな選手と混ざったとき、
その気質が仇になる。
世の中に、これだけ
「”いい人”をやめよう」
「自己肯定感を上げよう」
という本が出ているのはなぜだろう。
それは、”いい人から搾取する者”が一定数いるから。
残酷だが、
いい人≒都合の良い人
何でも引き受けてくれる人≒便利屋
として利用されがちだ。
進んで便利屋になりたい人は少数だろう。
それでも搾取される側になってしまうのは根底に、
「役に立たない自分には価値がない」
という思い込みがあるからではないか。
エゴが強い選手は、自分のエゴを満たしたい。
個人のスタッツさえ稼げれば、
チームの勝敗は二の次という人もいる。
そういう人は搾取する人になる。
誰から?いい人、便利な人から。
そして、バスケにおいて”便利な人”とは
ユーティリティプレーヤーであり、
何でもできる気づかい気質な選手。
ユーティリティプレーヤーは
多くのスキルを身につけ、汚れ仕事もいとわない。
それは「チームの役に立ちたい」思いが強いから。
裏返せば、
「何でも屋になるくらい役に立たなければ自分には価値がない」
という思い込みにもつながる。
今風に言えば、
「自己肯定感が低い」傾向があるかもしれない。
やっかいなのは、
セルフィッシュな選手の自己顕示欲を満たすことでも、
「役に立ちたい」が叶えられてしまうこと。
たとえ口には出さなくても、彼らの
「お前は走って守って、オレにボールを供給するだけでいい」
というメッセージを読み取ってしまったとき。
搾取したい
無力感を消したい
という互いのニーズがぴったり合ってしまう。
ボールに触れなくても、
チームの力になる方法はたくさんある。
ディフェンス、スクリーンアウト、走る、
数字に残らないサポートプレーでチームを助けられる。
それはそれでとても充実感がある。
チームに貢献できた実感もある。
ただ、
どれだけアンセルフィッシュな選手でも、
コートに立っている以上、みんなボールがほしいのだ。
ボールに絡んで活躍したいのだ。
「チームが勝てればそれでいいです」
この言葉にウソはない。
だがその勝利の中に、
セルフィッシュな選手からの搾取があるなら、
あなた自身が苦しいままだ。
強気に「オレが決める」ができなくてもいい。
いきなり1人で攻めまくらなくてもいい。
いま、あなたが苦しいなら、せめて便利屋をやめよう。
あなたがセルフィッシュな選手の
自己顕示欲を満たす手助けをしても、感謝などされない。
その結果、足りないポジションが出て、
試合に勝てなくなるかもしれない。
そのときにどうするかはチーム事情による。
それでも、
どうかあなたが楽しくプレーできる選択をしてほしい。
あなたはもう十分、
チームに貢献しているし、必要とされている。
あなたという存在自体が、すでに価値があるんだから。
⇒【バスケ心理分析】ディフェンスをサボる理由は、強い承認欲求と自己否定ではないか。
⇒【バスケ心理分析】個人プレーばかりする選手は、自己愛が強く自分に自信がない。
- 3&D選手と相性が悪い”シュート打ちたがり選手”
- ユーティリティプレーヤーの”気づかい”気質
- 役に立ちたい選手は利用される
- ニーズの合致、”エゴを満たしたい:無力感を消したい”
- 便利屋を辞め、楽しくプレーできる選択を
1.3&D選手と相性が悪い”シュート打ちたがり選手”
現代バスケで重宝される「3&D選手」。
ざっくりした特徴は以下だろう。
・ディフェンス力がある
・3ポイントシュートが打てる
・複数のポジションをこなせる
・オフボールの動きが上手い
・数字に残らない泥臭い仕事をこなせる
一方、「3&D選手」のチームメイトとして相性が悪いのは、
・シュート打ちたがりな選手
・セルフィッシュな選手
・ボールを独占する選手
おそらく、こういう選手と相性の良い選手はあまりいない。
それでも、割を食う選手の筆頭は、
「オフボールの動きを得意とする選手」だろう。
そして3&D選手、ユーティリティプレーヤーは、
複数のポジションをこなせるがゆえに、
エゴの強い選手に譲ってしまいがちではないか。
残念ながら、
シュートを打ちたがりな選手へいくらボールを供給しようと、
1on1しかしない選手にオフェンス機会を譲ろうと、
あなたが感謝されることはないだろう。
いい人≒都合の良い人
何でも引き受けてくれる人≒便利屋
であるのと同じ。
あなたがどれだけ
セルフィッシュな選手の自己顕示欲を満たしても、
あなたは「便利な球拾い」になってしまうだろう。
2.ユーティリティプレーヤーの”気づかい”気質
ユーティリティプレーヤーが
器用な選手になった経緯はさまざまだ。
本人の研究
指導を受けたコーチの影響
多くのポジションを経験してきた、など。
加えて、その人の
”気づかいができる気質”も関係しているのではないか。
・まわりへの配慮ができる
・繊細で細かいところに気づける
・そのとき不足している役割やポジションを埋める
そういうことができるから、
自然と器用な選手になったんだろう。
もちろん、勝敗がある以上、
「ボールをよこせ、オレが決める」という気持ちも大切。
ただそれ以上にチームで勝ちたい。
そのためにできることを探す意識が強いんだろう。
3.役に立ちたい選手は利用される
ユーティリティプレーヤーは一見、
チームに1人はほしい選手。
だがセルフィッシュな選手と混ざったとき、
その気質が仇になる。
世の中に、これだけ
「”いい人”をやめよう」
「自己肯定感を上げよう」
という本が出ているのはなぜだろう。
それは、”いい人から搾取する者”が一定数いるから。
残酷だが、
いい人≒都合の良い人
何でも引き受けてくれる人≒便利屋
として利用されがちだ。
進んで便利屋になりたい人は少数だろう。
それでも搾取される側になってしまうのは根底に、
「役に立たない自分には価値がない」
という思い込みがあるからではないか。
4.ニーズの合致、”エゴを満たしたい:無力感を消したい”
エゴが強い選手は、自分のエゴを満たしたい。
個人のスタッツさえ稼げれば、
チームの勝敗は二の次という人もいる。
そういう人は搾取する人になる。
誰から?いい人、便利な人から。
そして、バスケにおいて”便利な人”とは
ユーティリティプレーヤーであり、
何でもできる気づかい気質な選手。
ユーティリティプレーヤーは
多くのスキルを身につけ、汚れ仕事もいとわない。
それは「チームの役に立ちたい」思いが強いから。
裏返せば、
「何でも屋になるくらい役に立たなければ自分には価値がない」
という思い込みにもつながる。
今風に言えば、
「自己肯定感が低い」傾向があるかもしれない。
やっかいなのは、
セルフィッシュな選手の自己顕示欲を満たすことでも、
「役に立ちたい」が叶えられてしまうこと。
たとえ口には出さなくても、彼らの
「お前は走って守って、オレにボールを供給するだけでいい」
というメッセージを読み取ってしまったとき。
搾取したい
無力感を消したい
という互いのニーズがぴったり合ってしまう。
5.便利屋を辞め、楽しくプレーできる選択を
ボールに触れなくても、
チームの力になる方法はたくさんある。
ディフェンス、スクリーンアウト、走る、
数字に残らないサポートプレーでチームを助けられる。
それはそれでとても充実感がある。
チームに貢献できた実感もある。
ただ、
どれだけアンセルフィッシュな選手でも、
コートに立っている以上、みんなボールがほしいのだ。
ボールに絡んで活躍したいのだ。
「チームが勝てればそれでいいです」
この言葉にウソはない。
だがその勝利の中に、
セルフィッシュな選手からの搾取があるなら、
あなた自身が苦しいままだ。
強気に「オレが決める」ができなくてもいい。
いきなり1人で攻めまくらなくてもいい。
いま、あなたが苦しいなら、せめて便利屋をやめよう。
あなたがセルフィッシュな選手の
自己顕示欲を満たす手助けをしても、感謝などされない。
その結果、足りないポジションが出て、
試合に勝てなくなるかもしれない。
そのときにどうするかはチーム事情による。
それでも、
どうかあなたが楽しくプレーできる選択をしてほしい。
あなたはもう十分、
チームに貢献しているし、必要とされている。
あなたという存在自体が、すでに価値があるんだから。
⇒【バスケ心理分析】ディフェンスをサボる理由は、強い承認欲求と自己否定ではないか。
⇒【バスケ心理分析】個人プレーばかりする選手は、自己愛が強く自分に自信がない。
リンク
リンク
2022年11月12日
【短編小説】『涙まじりの煙』
− とある農村 −
少女
『ねぇ、ママ、おなかすいた。』
母
「おなかすいたよね、待っててね。」
少女
『わぁ!パンとリンゴ!』
『ママありがと!』
『ねぇ、ママのぶんは?』
母
「ママはお腹がすかないの、お食べ。」
少女
『そんなのウソだもん!』
『はいママ、はんぶんこ!』
母
「ありがと…あなたは本当に優しい子ね。」
少女
『えへへ。』
--
少女
『ねぇママ。』
母
「なぁに?」
少女
『村のみんなどうして、いつもおなかすいてるの?』
『おともだちのみんなも、となりのおうちのママも。』
母
「それはね、食べ物がないからよ。」
少女
『どうしてたべものがないの?』
『毎日、みんなであんなにたくさん作ってるのに。』
『あっちの畑にも、こっちの木にも、たべものたくさんあるのに。』
母
「あれはね、街のみんなのために作ってるのよ。」
少女
『まちのみんな?』
母
「そうよ。街にはたくさん人がいるでしょう?」
少女
『うん。』
母
「その人たちが食べるために作ってるのよ。」
少女
『そっか!やっぱり村のみんなはやさしいんだね!』
母
「そうよ…みんな、優しいの…。」
少女
『でもわたし、見ちゃったの。』
母
「何を見たの?」
少女
『村のみんながときどき、泣きながらたべものを燃やしてるところ。』
母
「…う……。」
少女
『どうして、せっかくつくったたべものを燃やしちゃうの?』
『あんなにあったら、みんなおなかいっぱいになれるよ?』
少女
『ねぇママ、どうして?!』
母
「…それはね……。」
-----
− 街・市場 −
少女
『わぁ!人がいっぱいいる。』
『ねぇママ、まちってすごいね!』
母
「そうね。すごいわね。」
少女
『みてみて!あっち!』
母
「なぁに?」
少女
『リンゴがあんなにたくさん!』
「おやまみたいにつんである!』
母
「ほんとね。お山みたいね。」
少女
『あっちにも、おやさいがあんなに!』
『ねぇママ、村のみんながつくったおやさいもあるかな?』
母
「きっとあるわ。」
少女
『まちのみんなにたべてもらえたらいいね!』
母
「えぇ…食べてもらえたらいいわね…。」
まいどあり!!
母
「はい。お昼ごはんよ。」
少女
『わぁ!おいしそうなリンゴ!』
『ママありがと!はい、はんぶんこ!』
母
「ありがとう…。あなたは本当に優しい子ね。」
少女
『えへへ。』
--
少女
『ねぇママ。』
母
「どうしたの?」
少女
『さっき、いちばのおじさんに渡してたものはなぁに?』
母
「あれはコインよ。」
少女
『コイン?』
母
「えぇ。コインと食べ物と交換するのよ。」
少女
『じゃあ、たくさんコインをわたしたら、たくさんたべものをもらえるの?』
母
「そうよ。」
少女
『そっか。コインはどうすればもらえるの?』
母
「たべものを作って、市場の人たちに持っていくのよ。」
少女
『そっか。だから村のみんなはたべものをつくってるんだね!』
母
「えぇ、そうよ…。」
少女
『じゃあ、たくさんたべものをつくったら、たくさんコインもらえるの?』
母
「それがね…。」
「たくさん作ったら、あんまりコインもらえなくなるの…。」
少女
『どうしてどうして?!おかしいよ!』
『村のみんな、あんなにいっしょうけんめい、たべものつくってるのに!』
母
「それはね…。」
カツン、カツン
少女
『ねぇママ、あのひとはだれ?』
母
「あの人はね、この街でいちばんコインを持ってる人よ。」
少女
『このまちでいちばん?!』
『じゃあ、たべものいっぱいもらえるの?』
母
「そうよ。」
ジャラジャラジャラ
少女
『わぁ…コインがいっぱい。』
『おやまみたいなリンゴ、ぜんぶ持ってっちゃった。』
『となりのおみせのおやさいも…ぜんぶ。』
母
「そうね…すごいわね…。」
ポイッ
少女
『ねぇママ。』
母
「なぁに?」
少女
『いま、あのひとリンゴすてたよ。』
『あ!おやさいもすててる!』
ダダッ
少女
『このリンゴ、ちょっとちいさいけど、たべられるのになぁ。』
『このおやさいだって、いろがちょっとちがうだけなのに。』
『どうして、すてちゃったんだろう?』
ボソボソ
少女
『ん?いちばのおじさんが、なにかいってる。』
やれやれ…。
毎回、あの人の買い占めはありがたいが、
こう値段が安くちゃなぁ…。
まったくだ。豊作なのはいいが、
たくさん出回られると値段が下がって仕方ねぇ。
また村の連中に吹っかけるか。
”たくさん穫れても、ちょっとしか入荷すんじゃねぇぞ”って。
あぁ。
なんとか量を減らして、値段をツリ上げねぇとな。
母
「……。」ポロッ
少女
『たくさんとれても、ちょっとしか…?』
『”にゅうか”ってなんだろう?』
『”ねだんをつりあげる”ってなぁに?』
『ねぇママ、どうして泣いてるの?』
-----
− 農村 −
母
「はい、手当て終わり。これで痛くない?」
少女
『うん、痛くない。ママありがと。』
『けんかしてごめんなさい…。』
母
「もういいのよ。おともだちには謝った?」
少女
『うん、ごめんなさいっていった。』
母
「そう。えらいわね。」
「1個のおもちゃを取り合ったんでしょう?」
少女
『うん。1こだけだから、つい。』
母
「そうね。」
「じゃあ、もし2個あったら、けんかしなかった?」
少女
『しなかった!』
『2こあったら、ふたりともあそべるもん!』
『1こだから”きちょう”だし、うらやましいなぁっておもった!』
母
「そうよね。”貴重”なものは、みんな欲しくなるわね。」
ザッ、ザッ
少女
『ねぇママ。』
母
「なぁに?」
少女
『あのひとたち、いちばにいたおじさんだよね?』
母
「そうね。お店の人たちね。」
少女
『村になにか”ようじ”があるのかな。』
『なんだか、こわいかおしてるね。』
母
「えぇ…。」
少女
『となりの畑のママ、あたまさげてる。』
『なにか、こわいこといわれてるのかな…?』
母
「……。」
少女
『あ、おじさんたち、いっちゃった。』
『リンゴの木のママにも、おこってる…。』
『どうして?なにもわるいことしてないよ?』
『どうして村のみんながおこられるの?』
母
「村のみんなはね、あの人たちに食べ物を渡して、コインをもらうの。」
少女
『コインって、たべものをもらえるコイン?』
母
「そうよ。」
「コインをもらえなくなるから、あの人たちの言うことを聞くの。」
少女
『たべものもらえなくなるの?』
『それって………あ!!』
ゴォォォォォォ
少女
『となりのママ、たべものを燃やしてる!』
『せっかくつくったのに!』
少女
『ねぇママ!どうして、せっかくつくったたべものを燃やしちゃうの?!』
『あんなにあったら、みんなおなかいっぱいになれるよ?!』
『どうしてあんなに泣いてるの?!』
母
「それはね……。」
「おもちゃのことでけんかしたのは覚えてる?」
少女
『うん。ごめんなさいしたよ。』
母
「1個だけだったから、けんかになったでしょ?」
少女
『うん。』
母
「そうね。少ないから、取り合いになるの。」
「リンゴも、お野菜も同じね。」
「少なかったら、自分のお店に並べるために取り合うの。」
「”貴重”なものはたくさんコインをくれて、引き取ってくれるのよ。」
少女
『じゃあ、たくさんたべものあったら?』
母
「たくさんあったら、いつでもお店に並べられるのよ。」
「おもちゃが2個あったら、いつでも遊べるでしょう?」
少女
『うん。”きちょう”じゃなくなるもん。』
母
「それと同じなの。」
「たくさんもらえるものには、コインも少ししかもらえないのよ。」
少女
『じゃあ、村のみんながたべものを燃やしてたのは…。』
母
「おもちゃを1個にして、コインをたくさんもらうためよ。」
「たべものをもらうための、食べられないコインをね……。」
-----
『村のみんながわざと作物を燃やしていたのは、
たくさんあると売り値が下がるから』
当時のわたしには、そんなこと理解できませんでした。
ただ、幼いなりに、漠然とした怒りを覚えました。
どうして
こんなに食べ物があるのに
村のみんながお腹をすかせているの?
どうして
食べられないコインをもらうために食べ物を燃やすの?
その背後にそびえ立っていたのは、
「資本主義」という牙城でした。
燃やされた作物
市場で捨てられたリンゴ
それがあれば生きられた命も、
しのげた飢えもあったはずです。
なのに「富・至上主義教」は何の感情もなく、
彼らの悲鳴を飲み込んでしまいました。
世界を席巻する、資本主義という新興宗教。
その暴走が続く限り、
今日もどこかの村から、
涙まじりの煙が立ちのぼるのでしょう…。
−−− END −−−
⇒小説投稿サイト「ノベルアップ+」にも掲載中
『涙まじりの煙』全2話
⇒他作品
【短編小説】『シアワセの薄い板』前編
【短編小説】『いま、人格代わるね。』前編
【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1
⇒参考書籍
少女
『ねぇ、ママ、おなかすいた。』
母
「おなかすいたよね、待っててね。」
少女
『わぁ!パンとリンゴ!』
『ママありがと!』
『ねぇ、ママのぶんは?』
母
「ママはお腹がすかないの、お食べ。」
少女
『そんなのウソだもん!』
『はいママ、はんぶんこ!』
母
「ありがと…あなたは本当に優しい子ね。」
少女
『えへへ。』
--
少女
『ねぇママ。』
母
「なぁに?」
少女
『村のみんなどうして、いつもおなかすいてるの?』
『おともだちのみんなも、となりのおうちのママも。』
母
「それはね、食べ物がないからよ。」
少女
『どうしてたべものがないの?』
『毎日、みんなであんなにたくさん作ってるのに。』
『あっちの畑にも、こっちの木にも、たべものたくさんあるのに。』
母
「あれはね、街のみんなのために作ってるのよ。」
少女
『まちのみんな?』
母
「そうよ。街にはたくさん人がいるでしょう?」
少女
『うん。』
母
「その人たちが食べるために作ってるのよ。」
少女
『そっか!やっぱり村のみんなはやさしいんだね!』
母
「そうよ…みんな、優しいの…。」
少女
『でもわたし、見ちゃったの。』
母
「何を見たの?」
少女
『村のみんながときどき、泣きながらたべものを燃やしてるところ。』
母
「…う……。」
少女
『どうして、せっかくつくったたべものを燃やしちゃうの?』
『あんなにあったら、みんなおなかいっぱいになれるよ?』
少女
『ねぇママ、どうして?!』
母
「…それはね……。」
-----
− 街・市場 −
少女
『わぁ!人がいっぱいいる。』
『ねぇママ、まちってすごいね!』
母
「そうね。すごいわね。」
少女
『みてみて!あっち!』
母
「なぁに?」
少女
『リンゴがあんなにたくさん!』
「おやまみたいにつんである!』
母
「ほんとね。お山みたいね。」
少女
『あっちにも、おやさいがあんなに!』
『ねぇママ、村のみんながつくったおやさいもあるかな?』
母
「きっとあるわ。」
少女
『まちのみんなにたべてもらえたらいいね!』
母
「えぇ…食べてもらえたらいいわね…。」
まいどあり!!
母
「はい。お昼ごはんよ。」
少女
『わぁ!おいしそうなリンゴ!』
『ママありがと!はい、はんぶんこ!』
母
「ありがとう…。あなたは本当に優しい子ね。」
少女
『えへへ。』
--
少女
『ねぇママ。』
母
「どうしたの?」
少女
『さっき、いちばのおじさんに渡してたものはなぁに?』
母
「あれはコインよ。」
少女
『コイン?』
母
「えぇ。コインと食べ物と交換するのよ。」
少女
『じゃあ、たくさんコインをわたしたら、たくさんたべものをもらえるの?』
母
「そうよ。」
少女
『そっか。コインはどうすればもらえるの?』
母
「たべものを作って、市場の人たちに持っていくのよ。」
少女
『そっか。だから村のみんなはたべものをつくってるんだね!』
母
「えぇ、そうよ…。」
少女
『じゃあ、たくさんたべものをつくったら、たくさんコインもらえるの?』
母
「それがね…。」
「たくさん作ったら、あんまりコインもらえなくなるの…。」
少女
『どうしてどうして?!おかしいよ!』
『村のみんな、あんなにいっしょうけんめい、たべものつくってるのに!』
母
「それはね…。」
カツン、カツン
少女
『ねぇママ、あのひとはだれ?』
母
「あの人はね、この街でいちばんコインを持ってる人よ。」
少女
『このまちでいちばん?!』
『じゃあ、たべものいっぱいもらえるの?』
母
「そうよ。」
ジャラジャラジャラ
少女
『わぁ…コインがいっぱい。』
『おやまみたいなリンゴ、ぜんぶ持ってっちゃった。』
『となりのおみせのおやさいも…ぜんぶ。』
母
「そうね…すごいわね…。」
ポイッ
少女
『ねぇママ。』
母
「なぁに?」
少女
『いま、あのひとリンゴすてたよ。』
『あ!おやさいもすててる!』
ダダッ
少女
『このリンゴ、ちょっとちいさいけど、たべられるのになぁ。』
『このおやさいだって、いろがちょっとちがうだけなのに。』
『どうして、すてちゃったんだろう?』
ボソボソ
少女
『ん?いちばのおじさんが、なにかいってる。』
やれやれ…。
毎回、あの人の買い占めはありがたいが、
こう値段が安くちゃなぁ…。
まったくだ。豊作なのはいいが、
たくさん出回られると値段が下がって仕方ねぇ。
また村の連中に吹っかけるか。
”たくさん穫れても、ちょっとしか入荷すんじゃねぇぞ”って。
あぁ。
なんとか量を減らして、値段をツリ上げねぇとな。
母
「……。」ポロッ
少女
『たくさんとれても、ちょっとしか…?』
『”にゅうか”ってなんだろう?』
『”ねだんをつりあげる”ってなぁに?』
『ねぇママ、どうして泣いてるの?』
-----
− 農村 −
母
「はい、手当て終わり。これで痛くない?」
少女
『うん、痛くない。ママありがと。』
『けんかしてごめんなさい…。』
母
「もういいのよ。おともだちには謝った?」
少女
『うん、ごめんなさいっていった。』
母
「そう。えらいわね。」
「1個のおもちゃを取り合ったんでしょう?」
少女
『うん。1こだけだから、つい。』
母
「そうね。」
「じゃあ、もし2個あったら、けんかしなかった?」
少女
『しなかった!』
『2こあったら、ふたりともあそべるもん!』
『1こだから”きちょう”だし、うらやましいなぁっておもった!』
母
「そうよね。”貴重”なものは、みんな欲しくなるわね。」
ザッ、ザッ
少女
『ねぇママ。』
母
「なぁに?」
少女
『あのひとたち、いちばにいたおじさんだよね?』
母
「そうね。お店の人たちね。」
少女
『村になにか”ようじ”があるのかな。』
『なんだか、こわいかおしてるね。』
母
「えぇ…。」
少女
『となりの畑のママ、あたまさげてる。』
『なにか、こわいこといわれてるのかな…?』
母
「……。」
少女
『あ、おじさんたち、いっちゃった。』
『リンゴの木のママにも、おこってる…。』
『どうして?なにもわるいことしてないよ?』
『どうして村のみんながおこられるの?』
母
「村のみんなはね、あの人たちに食べ物を渡して、コインをもらうの。」
少女
『コインって、たべものをもらえるコイン?』
母
「そうよ。」
「コインをもらえなくなるから、あの人たちの言うことを聞くの。」
少女
『たべものもらえなくなるの?』
『それって………あ!!』
ゴォォォォォォ
少女
『となりのママ、たべものを燃やしてる!』
『せっかくつくったのに!』
少女
『ねぇママ!どうして、せっかくつくったたべものを燃やしちゃうの?!』
『あんなにあったら、みんなおなかいっぱいになれるよ?!』
『どうしてあんなに泣いてるの?!』
母
「それはね……。」
「おもちゃのことでけんかしたのは覚えてる?」
少女
『うん。ごめんなさいしたよ。』
母
「1個だけだったから、けんかになったでしょ?」
少女
『うん。』
母
「そうね。少ないから、取り合いになるの。」
「リンゴも、お野菜も同じね。」
「少なかったら、自分のお店に並べるために取り合うの。」
「”貴重”なものはたくさんコインをくれて、引き取ってくれるのよ。」
少女
『じゃあ、たくさんたべものあったら?』
母
「たくさんあったら、いつでもお店に並べられるのよ。」
「おもちゃが2個あったら、いつでも遊べるでしょう?」
少女
『うん。”きちょう”じゃなくなるもん。』
母
「それと同じなの。」
「たくさんもらえるものには、コインも少ししかもらえないのよ。」
少女
『じゃあ、村のみんながたべものを燃やしてたのは…。』
母
「おもちゃを1個にして、コインをたくさんもらうためよ。」
「たべものをもらうための、食べられないコインをね……。」
-----
『村のみんながわざと作物を燃やしていたのは、
たくさんあると売り値が下がるから』
当時のわたしには、そんなこと理解できませんでした。
ただ、幼いなりに、漠然とした怒りを覚えました。
どうして
こんなに食べ物があるのに
村のみんながお腹をすかせているの?
どうして
食べられないコインをもらうために食べ物を燃やすの?
その背後にそびえ立っていたのは、
「資本主義」という牙城でした。
『怒りの葡萄』の第25章には、
数十万人が飢える一方で、大量のじゃがいもが川に捨てられ、
たくさんのオレンジに石油がまかれる話が描かれている。(中略)
人間はこの地球から作物を収穫する能力があるのに、
飢えた人たちにそれを食べさせるシステムをつくれていないと、
(作者の)スタインベックは嘆いた。
『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』 より
燃やされた作物
市場で捨てられたリンゴ
それがあれば生きられた命も、
しのげた飢えもあったはずです。
なのに「富・至上主義教」は何の感情もなく、
彼らの悲鳴を飲み込んでしまいました。
世界を席巻する、資本主義という新興宗教。
その暴走が続く限り、
今日もどこかの村から、
涙まじりの煙が立ちのぼるのでしょう…。
−−− END −−−
⇒小説投稿サイト「ノベルアップ+」にも掲載中
『涙まじりの煙』全2話
⇒他作品
【短編小説】『シアワセの薄い板』前編
【短編小説】『いま、人格代わるね。』前編
【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1
⇒参考書籍
リンク
2022年11月09日
【創作する心理】誰も見ない作品を創り続けるのは、自分自身でありたいから。
ー目次ー
オリジナルの絵、動画、小説など、創作する人がぶつかる壁。
それは
『作りたいものと売れるもの、どちらを作ればいいか?』
この葛藤への答えは、その人が創作する目的や、
承認欲求の満たし方によって分岐するだろう。
たとえば、
「自分が作りたいものより、とにかく売れるものを作る」
「作りたいものを、売れる(見てもらえる)形で作る」
「時代背景や、時の権力者が求めるものを作る」
ここで、自分を表現したい欲求と、
「売れない」「見てもらえない」という
現実のつらさがぶつかり合う。
そうして悩んだ末、
どこかで折り合いをつけていくんだろう。
ところが、僕を含め、
そこで妥協できない不器用な者がいる。
たとえ現実的でないとわかっていても、
「”100%自分が作りたいもの”が認められたい」
という欲求を捨て切れないのだ。
誰にも見てもらえない
反応がない
売れない
そんな苦しみを受け入れてまで、
なぜ「100%自分が作りたいものが認められたい」のだろうか?
たとえば、制作会社の商売として関わっている場合。
売れなければ、その事業は失敗だろう。
そうではなく、個人が好きで創作している場合。
自分が納得できる作品を作れたなら、
自己満足でいいんじゃないか?
事実だろう。
そう割り切れるなら最強だ。
”いいね”も、嬉しい反応も、どこかへ公開する必要もない。
が、人間の承認欲求は、自己満足よりずっと強い。
大勢が閲覧できる場所へ作品を公開する以上、
「他人に認められたい」のだ。
作りたいものを作れた、十分満足できている。
自信作だと思えている。だとしても…。
僕らは作品を自分以外の誰にも見てもらえなければ
「つらい」と感じてしまう生き物だ。
「創作が好きなの?承認欲求を満たすために創作してるの?」
「認められるために創作するなんて、動機が不純では?」
という声もあるかもしれない。
承認欲求を満たすため、不純な動機、いいじゃないか。
純粋だろうと不純だろうと、
事実、人間はそういう脳の作りになっている。
どれだけ神聖な動機を並べようが、承認欲求には抗えない。
自己満足と割り切れない。承認欲求を断ち切れもしない。
なのに今日も創作する。
僕らは不完全で、やっかいな生き物なのだ。
「自分が作りたいもの」の需要は自分だけだ。
人から必要とされない以上、
「伸びない」「見てもらえない」苦しみは不可避。
「ならば認められやすいように作ればいいじゃないか?」
「意地を張らず、多少の妥協は仕方ないのでは?」
ごもっともだ。
世の中のニーズに応えるものを作れば、
アクセス解析を見るたび落ち込まずに済む。
あるいは二次創作。
有名なキャラクターなどをお借りすれば、
少なくとも「閲覧数:0」を回避できる確率は上がる。
にもかかわらず、僕らは
自分で作ったキャラクターやストーリーにこだわる。
もちろん僕らも、過去に見てきた作品の影響を受けている。
それでも、
あくまで「”自分で”作ったもの」に固執するのは、
自分自身でありたいからだ。
作品には、作者の内に秘めたものが映し出される。
悲しみ、寂しさ、怒り、願望、孤独。
作品は、自分の分身。
もちろん読みやすさ、伝わりやすさは追求する。
それでも、
「ここはこう変えた方が人気が出る」
「作者の内面の吐露で終わっている」
などの理由で、
100%作りたいものから妥協してしまったら。
その瞬間、自分自身であることを否定したことになる。
そして、作者本人が妥協を許してしまったら、
”自分自身が自分を否定した”ことになってしまう。
その痛みを受け入れるか、
誰にも作品が見られない苦しみを選ぶか。
葛藤してでも、頑固な僕らは自分の存在を肯定したいのだ。
「作品からの妥協は、自分自身であることの否定」
というのは極端かもしれない。
だが、僕らはそれくらいの勢いで
”自分自身でありたい”と願っている。
なぜそこまで?それは過去に、
自分自身であることを強く否定された経験がある
からだろう。
たとえば、
「男のくせに泣くな」
「親に口答えするな」
など、自分の素直な感情を表すことを否定された経験。
「親やまわりの人たちが自分に無関心だった」
「話を聞いてもらえなかった」
など、自分の存在自体を否定された経験。
他人から見れば些細なこと。
本人も覚えていないようなこと。
それでも、心の奥底に深い傷がついてしまったんだ。
創作が好きな人は、大なり小なり
「自分を表現したい」という気持ちを
抑えて生き延びてきたんだろう。
強く抑えれば抑えるほど、反動も強くなる。
『自分が感じたことをそのまま表現させてほしい!』
『「ありのままの自分」を認めてほしい!』
僕らの作品は、そんな悲鳴が形を変えたもの。
だからこそ「売れるような変更」を受け入れられないのだ。
幼いころに閉じ込められた
”自分の内なる声”を聞いてほしいから。
創作で妥協できない僕らは、無限ループにはまっている。
誰も求めていない作品を作る
⇒誰にも見てもらえないと苦しむ
⇒それでも「自分自身であること」へこだわる
⇒「100%自分で作った作品が認められたい」を諦めきれない
という、無限ループ。
閲覧者ゼロの作品を作り続けるのは苦しい。
これは個人的なことだ、困る人はいない。
そう思うとき、後ろ向きな自分がささやく。
「苦しいなら、やめれば?」
承認欲求の満たし方なんて、いくらでもある。
それに、作品の結末は作者の自由だ。
その世界を続けるも、滅ぼすも、”作者=創造神”である自分次第。
誰も困らないんだから、好きにすればいい。
だが苦しさに負けて、描きかけの絵を、
書きかけの物語を投げ出してしまったら、
自分が生み出したキャラクターたちはどう思うだろうか?
悩んで決めた、キャラクターたちの性格や人間関係。
何度も書き直して、ひねり出した世界観。
確かに、現実世界では自分以外、誰も見ていない。
だが架空の世界であれ、
キャラクターたちは躍動しているじゃないか。
作者の心を救ってくれたじゃないか。
なのに、
作者自身が彼らに無関心になってしまったら、
いったい誰が彼らを愛してあげられるだろう。
過去に自分が味わった悲しみ、孤独、寂しさを、
キャラクターたちにも体験させるわけにはいかない。
作品は自分の分身なら、
作品で躍動するキャラクターたちだって自分の分身だ。
いくら「自己満足で十分」といっても、
人間は「他者の承認がほしい仕様」になっている。
売れるように、見られるように妥協できなければ、
「閲覧者:0」の苦しみはずっとついて回る。
それでも、僕らは「閲覧者:0」の作品を作り続ける。
なぜなら、自分という閲覧者がいるからだ。
生み出したキャラクターへの愛着。
物語を完結させなければという責任感。
そして、
『誰も見ていなくても、最後には自分が見ている。』
『自分だけは作品を見捨てない。』
その気持ちが燃える限り、
僕らが創作をやめることはないだろう。
なにしろ、自分の作品は、
初めて、”自分自身であること”を許してくれた場所だから。
⇒【過度の一般化】”世間様”とは誰なのか。
⇒「男のくせに泣くな」とは誰が決めたのか。
- 創作者の葛藤”作りたいもの VS 売れるもの”
- ”創作は自己満足でいい”と割り切れるのか?
- 売れるための妥協は”自分自身であることの否定”
- 創作の原点は”自分自身であることを否定された経験”
- 作者が作品を見捨てたら、生み出したキャラたちが悲しむ
- 最後まで”自分という閲覧者”がいる
1.創作者の葛藤”作りたいもの VS 売れるもの”
オリジナルの絵、動画、小説など、創作する人がぶつかる壁。
それは
『作りたいものと売れるもの、どちらを作ればいいか?』
この葛藤への答えは、その人が創作する目的や、
承認欲求の満たし方によって分岐するだろう。
たとえば、
「自分が作りたいものより、とにかく売れるものを作る」
「作りたいものを、売れる(見てもらえる)形で作る」
「時代背景や、時の権力者が求めるものを作る」
ここで、自分を表現したい欲求と、
「売れない」「見てもらえない」という
現実のつらさがぶつかり合う。
そうして悩んだ末、
どこかで折り合いをつけていくんだろう。
ところが、僕を含め、
そこで妥協できない不器用な者がいる。
たとえ現実的でないとわかっていても、
「”100%自分が作りたいもの”が認められたい」
という欲求を捨て切れないのだ。
誰にも見てもらえない
反応がない
売れない
そんな苦しみを受け入れてまで、
なぜ「100%自分が作りたいものが認められたい」のだろうか?
2.”創作は自己満足でいい”と割り切れるのか?
たとえば、制作会社の商売として関わっている場合。
売れなければ、その事業は失敗だろう。
そうではなく、個人が好きで創作している場合。
自分が納得できる作品を作れたなら、
自己満足でいいんじゃないか?
事実だろう。
そう割り切れるなら最強だ。
”いいね”も、嬉しい反応も、どこかへ公開する必要もない。
が、人間の承認欲求は、自己満足よりずっと強い。
大勢が閲覧できる場所へ作品を公開する以上、
「他人に認められたい」のだ。
作りたいものを作れた、十分満足できている。
自信作だと思えている。だとしても…。
僕らは作品を自分以外の誰にも見てもらえなければ
「つらい」と感じてしまう生き物だ。
「創作が好きなの?承認欲求を満たすために創作してるの?」
「認められるために創作するなんて、動機が不純では?」
という声もあるかもしれない。
承認欲求を満たすため、不純な動機、いいじゃないか。
純粋だろうと不純だろうと、
事実、人間はそういう脳の作りになっている。
どれだけ神聖な動機を並べようが、承認欲求には抗えない。
自己満足と割り切れない。承認欲求を断ち切れもしない。
なのに今日も創作する。
僕らは不完全で、やっかいな生き物なのだ。
3.売れるための妥協は”自分自身であることの否定”
「自分が作りたいもの」の需要は自分だけだ。
人から必要とされない以上、
「伸びない」「見てもらえない」苦しみは不可避。
「ならば認められやすいように作ればいいじゃないか?」
「意地を張らず、多少の妥協は仕方ないのでは?」
ごもっともだ。
世の中のニーズに応えるものを作れば、
アクセス解析を見るたび落ち込まずに済む。
あるいは二次創作。
有名なキャラクターなどをお借りすれば、
少なくとも「閲覧数:0」を回避できる確率は上がる。
にもかかわらず、僕らは
自分で作ったキャラクターやストーリーにこだわる。
もちろん僕らも、過去に見てきた作品の影響を受けている。
それでも、
あくまで「”自分で”作ったもの」に固執するのは、
自分自身でありたいからだ。
作品には、作者の内に秘めたものが映し出される。
悲しみ、寂しさ、怒り、願望、孤独。
作品は、自分の分身。
もちろん読みやすさ、伝わりやすさは追求する。
それでも、
「ここはこう変えた方が人気が出る」
「作者の内面の吐露で終わっている」
などの理由で、
100%作りたいものから妥協してしまったら。
その瞬間、自分自身であることを否定したことになる。
そして、作者本人が妥協を許してしまったら、
”自分自身が自分を否定した”ことになってしまう。
その痛みを受け入れるか、
誰にも作品が見られない苦しみを選ぶか。
葛藤してでも、頑固な僕らは自分の存在を肯定したいのだ。
4.創作の原点”自分自身であることを否定された経験”
「作品からの妥協は、自分自身であることの否定」
というのは極端かもしれない。
だが、僕らはそれくらいの勢いで
”自分自身でありたい”と願っている。
なぜそこまで?それは過去に、
自分自身であることを強く否定された経験がある
からだろう。
たとえば、
「男のくせに泣くな」
「親に口答えするな」
など、自分の素直な感情を表すことを否定された経験。
「親やまわりの人たちが自分に無関心だった」
「話を聞いてもらえなかった」
など、自分の存在自体を否定された経験。
他人から見れば些細なこと。
本人も覚えていないようなこと。
それでも、心の奥底に深い傷がついてしまったんだ。
創作が好きな人は、大なり小なり
「自分を表現したい」という気持ちを
抑えて生き延びてきたんだろう。
強く抑えれば抑えるほど、反動も強くなる。
『自分が感じたことをそのまま表現させてほしい!』
『「ありのままの自分」を認めてほしい!』
僕らの作品は、そんな悲鳴が形を変えたもの。
だからこそ「売れるような変更」を受け入れられないのだ。
幼いころに閉じ込められた
”自分の内なる声”を聞いてほしいから。
5.作者が作品を見捨てたら、生み出したキャラたちが悲しむ
創作で妥協できない僕らは、無限ループにはまっている。
誰も求めていない作品を作る
⇒誰にも見てもらえないと苦しむ
⇒それでも「自分自身であること」へこだわる
⇒「100%自分で作った作品が認められたい」を諦めきれない
という、無限ループ。
閲覧者ゼロの作品を作り続けるのは苦しい。
これは個人的なことだ、困る人はいない。
そう思うとき、後ろ向きな自分がささやく。
「苦しいなら、やめれば?」
承認欲求の満たし方なんて、いくらでもある。
それに、作品の結末は作者の自由だ。
その世界を続けるも、滅ぼすも、”作者=創造神”である自分次第。
誰も困らないんだから、好きにすればいい。
だが苦しさに負けて、描きかけの絵を、
書きかけの物語を投げ出してしまったら、
自分が生み出したキャラクターたちはどう思うだろうか?
生み出した船が誰を傷付けようとも!!
世界を滅ぼそうとも・・・!!
生みの親だけはそいつを愛さなくちゃならねェ!!!
生み出した者がそいつを否定しちゃあならねェ!!!
造った船に!!!男はドンと胸を張れ!!!
『ONE PIECE 37』 356話 より
悩んで決めた、キャラクターたちの性格や人間関係。
何度も書き直して、ひねり出した世界観。
確かに、現実世界では自分以外、誰も見ていない。
だが架空の世界であれ、
キャラクターたちは躍動しているじゃないか。
作者の心を救ってくれたじゃないか。
なのに、
作者自身が彼らに無関心になってしまったら、
いったい誰が彼らを愛してあげられるだろう。
過去に自分が味わった悲しみ、孤独、寂しさを、
キャラクターたちにも体験させるわけにはいかない。
作品は自分の分身なら、
作品で躍動するキャラクターたちだって自分の分身だ。
リンク
6.最後まで”自分という閲覧者”がいる
いくら「自己満足で十分」といっても、
人間は「他者の承認がほしい仕様」になっている。
売れるように、見られるように妥協できなければ、
「閲覧者:0」の苦しみはずっとついて回る。
それでも、僕らは「閲覧者:0」の作品を作り続ける。
なぜなら、自分という閲覧者がいるからだ。
生み出したキャラクターへの愛着。
物語を完結させなければという責任感。
そして、
『誰も見ていなくても、最後には自分が見ている。』
『自分だけは作品を見捨てない。』
その気持ちが燃える限り、
僕らが創作をやめることはないだろう。
なにしろ、自分の作品は、
初めて、”自分自身であること”を許してくれた場所だから。
⇒【過度の一般化】”世間様”とは誰なのか。
⇒「男のくせに泣くな」とは誰が決めたのか。
リンク
2022年11月03日
【短編小説】『シアワセの薄い板』後編
⇒前編からの続き
ーーーーー
「狩り?」
「いまガチャで忙しい。」
「もう少しでSレアキャラが引けそうなんだ、後にしてくれ。」
「木の実の採集?」
「いまインスタの更新で忙しい。」
「写真加工の邪魔しないで。」
僕が1万年前にタイムスリップして、1年が過ぎた。
どうも最近、集落のみんなが
やる気をなくしてきたのではないか。
それに、どうやら
出会ったころの彼らとは容姿が変わってきた。
たくましく美しい流線型
まっすぐ伸びた背筋
生き生きした目つき
それが、いまはどうだ?
背中は曲がり、首は前に垂れ、目はうつろだ。
彼らは集落のどこへ行くにも、スマホを手にしていた。
うつむいたまま、のろのろと徘徊する姿は、
まるでゾンビの行進のようだ。
ゾンビたちは前が見えていない。
しょっちゅう人とぶつかる。
「どこ見てんだよ!!」
そこかしこで怒鳴り声が響いた。
殴り合いや罵り合いなど、もはや日常風景になっていた。
–
「SNS見たよ。」
「あいつがこんなでかいイノシシを仕留めたなんて。」
「オレは最近、ウサギ1匹すら逃してばかりなのに…。」
「この写真見てよ、隣の集落の娘。」
「きれい…男性人気1位らしいわ。」
「それに比べて私なんか…。」
SNSヘビーユーザーの中から、
他人と比較して落ち込む者が増えてきた。
無気力になり、狩りや採集どころではなくなった。
子どもの世話をするときでさえ、
スマホを手放せない。
子どもが泣いていても、
本人の視線はきらびやかな投稿へ釘付けだ。
半年が経ったころ、
集落から子どもの泣き声がしなくなった。
スマホを覗き込む親のとなりで、
静かな”イイコ”たちの目は虚空を見つめていた。
–
「こんな悪口が書き込んであった。」
「あんなにいい人が、他人をけなす人だったなんて。」
「あそこの水場はもうダメらしいぜ。」
「あの森はもう木の実がないらしい。」
「何?!デマだったのか?!独り占めしやがって!」
『許 せ な い』
悪意ある投稿、誰かを傷つける言葉、
フェイクニュース、デマの流布。
人々は他人を疑い、
他人に怯えるようになっていった。
何もかも信じられず、
集落内では争いが絶えなくなった。
嫉妬は新たな憎しみをかき立てた。
憎しみは新たな惨劇を生み出した。
流れる血と、失われる命は増えるばかりだった。
----
「これは、僕のせいなのか…?!」
僕は彼らの生活が楽になればと思って、
スマホを渡しただけなのに。
スマホで調べれば、
危険な狩りで命を落とさずに済むじゃないか。
スマホでナビしてもらえば、
迷いの森でも安全に木の実が採集できるじゃないか。
こうすれば子育ては上手くいく、
そんな情報はいくらでも手に入るじゃないか。
明日の天気を知ることだって、
他の集落の侵攻を知ることだって、
ヒマをつぶすことだって、
何だってできる。
スマホがあれば、
人間はもっともっと繁栄できるはずだ。
1万年後、僕らはもっとすごい、
シアワセな生き物に進化しているはずだ。
そしたら、
希望の持てない未来も、報われない苦しみも、
くすぶっている自分さえも、消し去ってくれるはずだ!
「なのに……どうして?!」
僕は、自分の丸まった背中を震わせながら叫んだ。
ポケットからは相変わらず、
最新作のスマホがあふれ出てきた。
ニンゲンを”シアワセ”に導くはずの、
「便利の化身」が。
-----
タイムスリップから2年後。
僕のいる集落からは、人の気配がすっかり減った。
空き家が増え、さびれた空気が漂っていた。
僕は飢えに苦しみながら、細々と生き延びてこれた。
なぜなら僕が弱かったからだ。
屈強な者、美貌を備えた者はみな、
嫉妬や劣等感が巻き起こした争いで
次々に命を落としていった。
その手には石ヤリ、弓矢、
もう片方の手には、スマホが握られていた。
集落の外れに貝塚があった。
1年前よりも、ずいぶんと墓標が増えた。
墓標のたもとには花輪と、動物の骨で作った首飾り。
そしてスマホが供えられた。
--
「どうか…生き延びて…。」
これは、集落の最後の生き残りの言葉。
とうとう、この集落のニンゲンは僕1人になった。
ここは病院も警察もない、猛獣だらけの世界。
ケガや疫病どころか、小さな切り傷で昇天できる世界。
「もうダメだ。僕1人で生きていけるわけがない。」
僕は人生の終わりを覚悟した。
『西暦199●年 − 紀元前8000年』
もしも、僕の生没年が本に載るとしたら、
こんなおかしなことになるんだな。
そんなどうでもいいことに思いを巡らせた。
命をあきらめたニンゲンは、意外なほど余裕なのだ。
僕は無人になった集落の片隅に寝転がった。
ゆっくりと目を閉じる。
意識が遠くなっていく。
あぁ…いよいよか。
これまでの人生で、1番の心地よさだ…。
-----
気がつくと僕は、
見慣れた部屋の天井を見つめていた。
何が起きたのか、さっぱりわからない。
SF映画の主人公なら、
「大ピンチから奇跡の生還」が王道だろう。
そんな都合のいい展開?
僕はポケットのスマホを見た。
カレンダーの表示は
『西暦202●年:午前8時』
『日本:●●市 跡地』
理由は何でもいいや。
とにかく、僕は現代に帰ってこれた。
「やっぱり、ベタな夢オチか。」
ほっと胸をなで下ろした僕は、
次の瞬間には目を丸くしていた。
--
「おい、見ろよ。珍しい生き物がいるぜ。」
彼は僕を見て、驚きを口にした。
二足歩行だが触覚を持ち、背中にはハネらしきもの。
身長は低め、凹凸の少ない身体。
宇宙人?だとしたら、
こちらこそ、あなたは”珍しい生き物”だ。
彼の声を聞いて、あと2人、
同じような姿をした者が駆けつけてきた。
「もしかして”ニンゲン”じゃないか?」
「図鑑で見たことある。」
「オレもニュースで見た!」
「最近、新しい化石が見つかって大騒ぎだってよ。」
図鑑?ニンゲンの化石?
何を言っているのか。
ニンゲンの文明は、いまもこうして…。
「マジかよ?じゃあ生きたニンゲンなんて大発見じゃん!」
「”シーラカンス”ってやつだろ?」
「ニンゲンって、 1 万 年 前 に 絶 滅 し た はずだよなぁ!」
-----
僕は彼らに捕獲され、
研究所のような場所へ送られた。
大ホールのガラスケースには、
見慣れた生き物の模型が飾ってあった。
タイトルカードには
『化石から復元されたニンゲン(想像図)』
丸まった背中、垂れた首。
突き出た腹、うつろな目。
本当に…正確に復元されていた…。
ニンゲンの化石が見つかると、
その近くから決まって出土するものがある。
手のひらサイズの、薄い長方形の板。
中には表面が割れたものや、矢が突き刺さったもの、
血痕のような、くすみがついたものもあるという…。
それは僕がよく知っているものだ。
いつもポケットに入れ、歩くときですら目を離せないもの。
考古学者たちは、
この薄い板の研究に苦戦している。
歴史上に突如として現れた、
その時代の技術では作れないもの。
まるで『オーパーツ』のようだ、と。
『太古の昔、地球上では恐竜が栄華を極めていた。
恐竜が絶滅した後、およそ1万年前まで、
ニンゲンが地球の支配者のように君臨した。
だが、この薄い板が登場すると、
ニンゲンは突如として歴史から姿を消した。
どうやら、
各地でニンゲン同士の争いが多発したようだ。
だが、この時期は気候に恵まれ、
食糧が豊富だったことがわかっている。
彼らの栄養状態は極めて良好、奪い合う必要のない環境…。
この争いの原因は、いまも解明されていない。』
これが、宇宙人のような彼らが習う”地球の歴史”だ。
--
「ニンゲンを滅ぼしたのは、僕なのか?」
「それとも、スマホなのか?」
僕は研究所のオリの中で、自分を責めた。
ポケットにはいつも通り、
シアワセの薄い板が入っていた。
その画面はいつでも、
冷酷に”未来”を映すだけだった。
− 『西暦202●年:午前8時』 −
− 『日本:●●市 ” 跡 地 ”』 −
ーーーーENDーーーー
⇒過去作品
【短編小説】『いま、人格代わるね。』前編
【短編小説】『無菌に狂うディストピア』
【短編小説】『僕は王様さえ奴隷にできる』
⇒参考書籍
ーーーーー
「狩り?」
「いまガチャで忙しい。」
「もう少しでSレアキャラが引けそうなんだ、後にしてくれ。」
「木の実の採集?」
「いまインスタの更新で忙しい。」
「写真加工の邪魔しないで。」
僕が1万年前にタイムスリップして、1年が過ぎた。
どうも最近、集落のみんなが
やる気をなくしてきたのではないか。
それに、どうやら
出会ったころの彼らとは容姿が変わってきた。
たくましく美しい流線型
まっすぐ伸びた背筋
生き生きした目つき
それが、いまはどうだ?
背中は曲がり、首は前に垂れ、目はうつろだ。
彼らは集落のどこへ行くにも、スマホを手にしていた。
うつむいたまま、のろのろと徘徊する姿は、
まるでゾンビの行進のようだ。
ゾンビたちは前が見えていない。
しょっちゅう人とぶつかる。
「どこ見てんだよ!!」
そこかしこで怒鳴り声が響いた。
殴り合いや罵り合いなど、もはや日常風景になっていた。
–
「SNS見たよ。」
「あいつがこんなでかいイノシシを仕留めたなんて。」
「オレは最近、ウサギ1匹すら逃してばかりなのに…。」
「この写真見てよ、隣の集落の娘。」
「きれい…男性人気1位らしいわ。」
「それに比べて私なんか…。」
SNSヘビーユーザーの中から、
他人と比較して落ち込む者が増えてきた。
無気力になり、狩りや採集どころではなくなった。
子どもの世話をするときでさえ、
スマホを手放せない。
子どもが泣いていても、
本人の視線はきらびやかな投稿へ釘付けだ。
半年が経ったころ、
集落から子どもの泣き声がしなくなった。
スマホを覗き込む親のとなりで、
静かな”イイコ”たちの目は虚空を見つめていた。
–
「こんな悪口が書き込んであった。」
「あんなにいい人が、他人をけなす人だったなんて。」
「あそこの水場はもうダメらしいぜ。」
「あの森はもう木の実がないらしい。」
「何?!デマだったのか?!独り占めしやがって!」
『許 せ な い』
悪意ある投稿、誰かを傷つける言葉、
フェイクニュース、デマの流布。
人々は他人を疑い、
他人に怯えるようになっていった。
何もかも信じられず、
集落内では争いが絶えなくなった。
嫉妬は新たな憎しみをかき立てた。
憎しみは新たな惨劇を生み出した。
流れる血と、失われる命は増えるばかりだった。
----
「これは、僕のせいなのか…?!」
僕は彼らの生活が楽になればと思って、
スマホを渡しただけなのに。
スマホで調べれば、
危険な狩りで命を落とさずに済むじゃないか。
スマホでナビしてもらえば、
迷いの森でも安全に木の実が採集できるじゃないか。
こうすれば子育ては上手くいく、
そんな情報はいくらでも手に入るじゃないか。
明日の天気を知ることだって、
他の集落の侵攻を知ることだって、
ヒマをつぶすことだって、
何だってできる。
スマホがあれば、
人間はもっともっと繁栄できるはずだ。
1万年後、僕らはもっとすごい、
シアワセな生き物に進化しているはずだ。
そしたら、
希望の持てない未来も、報われない苦しみも、
くすぶっている自分さえも、消し去ってくれるはずだ!
「なのに……どうして?!」
僕は、自分の丸まった背中を震わせながら叫んだ。
ポケットからは相変わらず、
最新作のスマホがあふれ出てきた。
ニンゲンを”シアワセ”に導くはずの、
「便利の化身」が。
-----
タイムスリップから2年後。
僕のいる集落からは、人の気配がすっかり減った。
空き家が増え、さびれた空気が漂っていた。
僕は飢えに苦しみながら、細々と生き延びてこれた。
なぜなら僕が弱かったからだ。
屈強な者、美貌を備えた者はみな、
嫉妬や劣等感が巻き起こした争いで
次々に命を落としていった。
その手には石ヤリ、弓矢、
もう片方の手には、スマホが握られていた。
集落の外れに貝塚があった。
1年前よりも、ずいぶんと墓標が増えた。
墓標のたもとには花輪と、動物の骨で作った首飾り。
そしてスマホが供えられた。
--
「どうか…生き延びて…。」
これは、集落の最後の生き残りの言葉。
とうとう、この集落のニンゲンは僕1人になった。
ここは病院も警察もない、猛獣だらけの世界。
ケガや疫病どころか、小さな切り傷で昇天できる世界。
「もうダメだ。僕1人で生きていけるわけがない。」
僕は人生の終わりを覚悟した。
『西暦199●年 − 紀元前8000年』
もしも、僕の生没年が本に載るとしたら、
こんなおかしなことになるんだな。
そんなどうでもいいことに思いを巡らせた。
命をあきらめたニンゲンは、意外なほど余裕なのだ。
僕は無人になった集落の片隅に寝転がった。
ゆっくりと目を閉じる。
意識が遠くなっていく。
あぁ…いよいよか。
これまでの人生で、1番の心地よさだ…。
-----
気がつくと僕は、
見慣れた部屋の天井を見つめていた。
何が起きたのか、さっぱりわからない。
SF映画の主人公なら、
「大ピンチから奇跡の生還」が王道だろう。
そんな都合のいい展開?
僕はポケットのスマホを見た。
カレンダーの表示は
『西暦202●年:午前8時』
『日本:●●市 跡地』
理由は何でもいいや。
とにかく、僕は現代に帰ってこれた。
「やっぱり、ベタな夢オチか。」
ほっと胸をなで下ろした僕は、
次の瞬間には目を丸くしていた。
--
「おい、見ろよ。珍しい生き物がいるぜ。」
彼は僕を見て、驚きを口にした。
二足歩行だが触覚を持ち、背中にはハネらしきもの。
身長は低め、凹凸の少ない身体。
宇宙人?だとしたら、
こちらこそ、あなたは”珍しい生き物”だ。
彼の声を聞いて、あと2人、
同じような姿をした者が駆けつけてきた。
「もしかして”ニンゲン”じゃないか?」
「図鑑で見たことある。」
「オレもニュースで見た!」
「最近、新しい化石が見つかって大騒ぎだってよ。」
図鑑?ニンゲンの化石?
何を言っているのか。
ニンゲンの文明は、いまもこうして…。
「マジかよ?じゃあ生きたニンゲンなんて大発見じゃん!」
「”シーラカンス”ってやつだろ?」
「ニンゲンって、 1 万 年 前 に 絶 滅 し た はずだよなぁ!」
-----
僕は彼らに捕獲され、
研究所のような場所へ送られた。
大ホールのガラスケースには、
見慣れた生き物の模型が飾ってあった。
タイトルカードには
『化石から復元されたニンゲン(想像図)』
丸まった背中、垂れた首。
突き出た腹、うつろな目。
本当に…正確に復元されていた…。
ニンゲンの化石が見つかると、
その近くから決まって出土するものがある。
手のひらサイズの、薄い長方形の板。
中には表面が割れたものや、矢が突き刺さったもの、
血痕のような、くすみがついたものもあるという…。
それは僕がよく知っているものだ。
いつもポケットに入れ、歩くときですら目を離せないもの。
考古学者たちは、
この薄い板の研究に苦戦している。
歴史上に突如として現れた、
その時代の技術では作れないもの。
まるで『オーパーツ』のようだ、と。
『太古の昔、地球上では恐竜が栄華を極めていた。
恐竜が絶滅した後、およそ1万年前まで、
ニンゲンが地球の支配者のように君臨した。
だが、この薄い板が登場すると、
ニンゲンは突如として歴史から姿を消した。
どうやら、
各地でニンゲン同士の争いが多発したようだ。
だが、この時期は気候に恵まれ、
食糧が豊富だったことがわかっている。
彼らの栄養状態は極めて良好、奪い合う必要のない環境…。
この争いの原因は、いまも解明されていない。』
これが、宇宙人のような彼らが習う”地球の歴史”だ。
--
「ニンゲンを滅ぼしたのは、僕なのか?」
「それとも、スマホなのか?」
僕は研究所のオリの中で、自分を責めた。
ポケットにはいつも通り、
シアワセの薄い板が入っていた。
その画面はいつでも、
冷酷に”未来”を映すだけだった。
− 『西暦202●年:午前8時』 −
− 『日本:●●市 ” 跡 地 ”』 −
ーーーーENDーーーー
⇒過去作品
【短編小説】『いま、人格代わるね。』前編
【短編小説】『無菌に狂うディストピア』
【短編小説】『僕は王様さえ奴隷にできる』
⇒参考書籍
リンク
リンク