2022年08月03日
【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1
ー目次ー
【プロローグ】
【PART1 勇者の旅立ち】
【PART2 魔物ハンターとの交戦・前編】
勇者
「わたし、『ゆうしゃ』なんだって。」
「お父さま、お母さまがそう言ってた。」
「ゆうしゃはつよくなって、わるい『まおう』をやっつけるんだって。」
「まちのそとにいる『わるいまもの』も。」
「そして、せかいを『へいわ』にするんだって。」
「お父さまは毎日、わたしに『けんじゅつ』をおしえるの。」
「そのとき、お父さまはすごくこわいかおをしてる。」
「だけど、うまく『けんじゅつ』ができたら、ほめてくれるの。」
「お母さまは毎日、わたしに『まほう』をおしえるの。」
「そのとき、お母さまはよく『せけんさまにはずかしい』って言ってる。」
「だけど、うまく『まほう』ができたら、笑ってくれるの。」
「わたし、お父さまとお母さまのために『ゆうしゃ』になる。」
「そしたらきっと、お父さまがほめてくれる。」
「きっと、お母さまが笑ってくれる。」
「だから、お願い…こわいかおしないで…おうちへ入れて…。」
「お父さま…お母さま…。」
ーーーーー
この世界では、人間と魔族の復讐合戦が続いていた。
力を得た方が侵略し、支配し、虐げた。
ときには人間が力を持ち、魔族を支配した。
虐げられた魔族は恨みを募らせ、再び力を得るや人間に復讐した。
もはや何千年続いたかもわからない、復讐の連鎖。
「もう争いはまっぴらだ」
互いにそんな思いがありながら、
脈々と受け継がれた憎悪だけが生き続けていた。
歩み寄りと嫌悪感の綱引きには、終幕など見えなかった。
違いへの怯えから共存を選べぬまま、引くに引けない傷つけ合いは続く。
勇者の父
「勇者よ、お前も16歳になった。」
「今こそ魔王討伐の旅に出るのだ。」
勇者
「は、はいお父さま。」
勇者の父
「私はこの日のためにお前を鍛えてきた。」
「剣術も魔法も、勇者として恥ずかしくない実力を付けさせた。」
勇者の母
「お父さんはあなたが世界を救ってくれると信じていたから、
心を鬼にしてあなたに厳しくしてきたの。」
勇者
「はいお母さま、お父さまのお気持ちは心得ています。」
勇者の父
「よく言った! 勇者を鍛えた父として誇らしいぞ!」
「では行って来い! 魔王を倒すまで、逃げ帰ることは許さんからな!」
勇者の母
「勇者を育てた母なんて鼻が高いねぇ。」
「これでまた、おとなりの奥さんに自慢できるわ。」
勇者
「(お父さま…お母さま…。)」
国王
「よくぞ来た、勇者よ!」
「話は聞いておるぞ。勇者の血を引くあの家で鍛えられたとな。」
勇者
「はい、魔王討伐の任を仰せつかり光栄です。」
国王
「先の魔族との大戦の話は知っているだろう。」
勇者
「はい、お父さまから聞いております。」
国王
「うむ、お主も知っての通り確かに我々が勝利した。」
「だが魔物の脅威がなくなったわけではない。」
「魔物に襲撃される街や村も後を絶たない。」
「そなたなら必ず魔王を打ち倒し、世界に真の平和をもたらしてくれると信じておる。」
兵士長
「(…王様…勇者様…。)」
勇者
「はい、魔王を討ち倒し、世界を平和にしてみせます。」
国王
「うむ、何とも頼もしい。」
「まずは西の街へ向かい、情報を集めるのがよかろう。」
「では行ってこい、勇者よ!」
勇者
「…。」
兵士長
「(…王様は何をお考えなのだろうか?)」
「(勇者の一族とはいえ、少女1人で魔王討伐に向かわせるとは。)」
「(仲間の1人でも用意してあげればいいのに。)」
「(あぁ…勇者様…どうかご武運を…。)」
魔王
「ついに勇者が旅立ったか。」
「先代勇者を輩出した王国だな。」
側近
「はい。あの国には伝説の勇者直系の一族が住んでいます。」
「先代魔王さまもあの一族の勇者に討たれています。」
魔王
「目的はもちろん私の討伐だろう。」
「先の大戦で父上が討たれて以来、魔族は劣勢だ。」
「勇者に追い打ちをかけさせ、我らを一気に叩こうという腹だな。」
側近
「おそらくは。」
「各地の魔族もニンゲンの脅威に怯えています。」
「最近では魔族を捕らえて見世物にする輩までいると聞きます。」
魔王
「おのれニンゲンどもめ。同胞にひどい仕打ちを。」
側近
「各地に調査部隊を派遣していますが、我々は数で圧倒的に不利です。」
「尻尾はつかめておりません。」
魔王
「そやつらといい、新たな勇者といい、厄介だな。」
「勇者の力は早めに見極めておきたい。」
「側近よ、引き続き勇者の動向を調べてくれ。」
側近
「お任せください、魔王さま。」
勇者
「まずは西の街、か。」
「とりあえず魔物に気をつけながら目指そう。」
「…いい天気だなぁ。魔物の脅威なんてウソみたいだ…。」
「そういえば私、実際に魔物と戦ったことないなぁ。」
「剣術はお父さまや、王国の兵士さんが稽古をつけてくれた。」
「魔法はお母さまと、宮廷魔術師さんが教えてくれた。」
「お父さまもお母さまも、魔族は敵だと言ってたけど、本当だろうか。」
「それに、私にできるだろうか…。」
「世界を救うためとはいえ、命を奪うなんて…。」
???
「キャー!!」
勇者
「悲鳴?!」
「誰かが魔物に襲われているのか?!」
「声は…あの岩山の向こうだ。」
「待ってて、いま助ける!」
ダダダッ
勇者
「あれは…女の子が追われてる。」
「追いかけてるのは…人間か?!」
「どうして人間が? とにかく向かおう。」
ザッ
魔族少女
「ひッ…! ニンゲン?!」
勇者
「こっち! そこの岩陰に隠れて!」
魔族少女
「は、はい! ありがとうございます!」
賊リーダー
「よう、姉ちゃん。」
「ここいらで女の子を1人見かけなかったかい?」
勇者
「知らないな。」
賊リーダー
「そいつは残念だ。」
「それじゃあ、お前の後ろに隠れてるそいつは俺の見間違いか?」
勇者
「(くッ…! 隠し切れないか…!)」
「どうしてこの子を追いかける?」
賊リーダー
「捕まえて売るんだよ。」
「人型の魔物は特に高値で売れるからな。」
勇者
「魔物を捕まえ…そういえばあの子…。」
「(王国で聞いたことがある。魔物を狩る人間の組織があるらしいと。)」
勇者
「お前らが噂に聞く魔物ハンターか?」
賊リーダー
「フン、だったらどうする?」
勇者
「この子がお前らに何をした?!」
「そんなことをしてお前らは心が痛まないのか?!」
賊リーダー
「あぁ?! ごちゃごちゃうるせぇな! 商売の邪魔すんじゃねぇ!」
勇者
「なんて非道な…! そんなことはさせない!」
賊A
「こっちは4人だぞ! お前1人で俺らに勝てると思ってんのか?!」
賊B
「リーダー! やっちまおうぜ!」
ギィン! ギィン! ザシュッ!
賊C
「くっ…リーダー!このガキ強えです!」
「攻撃が当たらねぇ!」
勇者
「はぁ!」 ズバッ!
賊B
「うわぁ!」 ドサッ
賊リーダー
「確かに強いな。」
「4人相手にうまく受け流すじゃねぇか。」
「だが、殺気がまるで感じられねぇなぁ。」
「そんな峰打ちじゃ俺には勝てねぇぜ!」
勇者
「はぁ…はぁ…。(気づかれたか…。)」
「(敵は弱ってるけど、さすがにジリ貧だ…。)」
「(仕方ない、魔法で一気にカタをつける!)」
「(殺さないよう、威力を加減して、敵全体に!)」
勇者
「出でよ炎!」 ゴォォォ!
賊A
「攻撃魔法だと!?」
賊B
「うわぁぁ!」
勇者
「よし…これでかなり弱ったはず。」
賊リーダー
「なーんてな!」
勇者
「なに?! 効いてない?!」
賊リーダー
「俺らに魔法は効かねぇぜ!」
「そんな手加減した魔法ならなおさらなァ!」
勇者
「なぜだ…?! 防壁魔法?」
「いや、そんな素振りも、詠唱もなかった。」
賊リーダー
「お前ら! 一気にやっちまえ!」
賊A
「オォォォォ!!」
勇者
「くッ…仕方ない、全部受けきってやる!」
「はぁぁぁぁ!」
⇒ 『魔王の娘は解放された』2へ続く
⇒動画版はこちら
【プロローグ】
【PART1 勇者の旅立ち】
【PART2 魔物ハンターとの交戦・前編】
【プロローグ】
勇者
「わたし、『ゆうしゃ』なんだって。」
「お父さま、お母さまがそう言ってた。」
「ゆうしゃはつよくなって、わるい『まおう』をやっつけるんだって。」
「まちのそとにいる『わるいまもの』も。」
「そして、せかいを『へいわ』にするんだって。」
「お父さまは毎日、わたしに『けんじゅつ』をおしえるの。」
「そのとき、お父さまはすごくこわいかおをしてる。」
「だけど、うまく『けんじゅつ』ができたら、ほめてくれるの。」
「お母さまは毎日、わたしに『まほう』をおしえるの。」
「そのとき、お母さまはよく『せけんさまにはずかしい』って言ってる。」
「だけど、うまく『まほう』ができたら、笑ってくれるの。」
「わたし、お父さまとお母さまのために『ゆうしゃ』になる。」
「そしたらきっと、お父さまがほめてくれる。」
「きっと、お母さまが笑ってくれる。」
「だから、お願い…こわいかおしないで…おうちへ入れて…。」
「お父さま…お母さま…。」
ーーーーー
この世界では、人間と魔族の復讐合戦が続いていた。
力を得た方が侵略し、支配し、虐げた。
ときには人間が力を持ち、魔族を支配した。
虐げられた魔族は恨みを募らせ、再び力を得るや人間に復讐した。
もはや何千年続いたかもわからない、復讐の連鎖。
「もう争いはまっぴらだ」
互いにそんな思いがありながら、
脈々と受け継がれた憎悪だけが生き続けていた。
歩み寄りと嫌悪感の綱引きには、終幕など見えなかった。
違いへの怯えから共存を選べぬまま、引くに引けない傷つけ合いは続く。
【PART1 勇者の旅立ち】
<某国王都・勇者の家>
勇者の父
「勇者よ、お前も16歳になった。」
「今こそ魔王討伐の旅に出るのだ。」
勇者
「は、はいお父さま。」
勇者の父
「私はこの日のためにお前を鍛えてきた。」
「剣術も魔法も、勇者として恥ずかしくない実力を付けさせた。」
勇者の母
「お父さんはあなたが世界を救ってくれると信じていたから、
心を鬼にしてあなたに厳しくしてきたの。」
勇者
「はいお母さま、お父さまのお気持ちは心得ています。」
勇者の父
「よく言った! 勇者を鍛えた父として誇らしいぞ!」
「では行って来い! 魔王を倒すまで、逃げ帰ることは許さんからな!」
勇者の母
「勇者を育てた母なんて鼻が高いねぇ。」
「これでまた、おとなりの奥さんに自慢できるわ。」
勇者
「(お父さま…お母さま…。)」
<王城・謁見の間>
国王
「よくぞ来た、勇者よ!」
「話は聞いておるぞ。勇者の血を引くあの家で鍛えられたとな。」
勇者
「はい、魔王討伐の任を仰せつかり光栄です。」
国王
「先の魔族との大戦の話は知っているだろう。」
勇者
「はい、お父さまから聞いております。」
国王
「うむ、お主も知っての通り確かに我々が勝利した。」
「だが魔物の脅威がなくなったわけではない。」
「魔物に襲撃される街や村も後を絶たない。」
「そなたなら必ず魔王を打ち倒し、世界に真の平和をもたらしてくれると信じておる。」
兵士長
「(…王様…勇者様…。)」
勇者
「はい、魔王を討ち倒し、世界を平和にしてみせます。」
国王
「うむ、何とも頼もしい。」
「まずは西の街へ向かい、情報を集めるのがよかろう。」
「では行ってこい、勇者よ!」
勇者
「…。」
兵士長
「(…王様は何をお考えなのだろうか?)」
「(勇者の一族とはいえ、少女1人で魔王討伐に向かわせるとは。)」
「(仲間の1人でも用意してあげればいいのに。)」
「(あぁ…勇者様…どうかご武運を…。)」
<魔王城>
魔王
「ついに勇者が旅立ったか。」
「先代勇者を輩出した王国だな。」
側近
「はい。あの国には伝説の勇者直系の一族が住んでいます。」
「先代魔王さまもあの一族の勇者に討たれています。」
魔王
「目的はもちろん私の討伐だろう。」
「先の大戦で父上が討たれて以来、魔族は劣勢だ。」
「勇者に追い打ちをかけさせ、我らを一気に叩こうという腹だな。」
側近
「おそらくは。」
「各地の魔族もニンゲンの脅威に怯えています。」
「最近では魔族を捕らえて見世物にする輩までいると聞きます。」
魔王
「おのれニンゲンどもめ。同胞にひどい仕打ちを。」
側近
「各地に調査部隊を派遣していますが、我々は数で圧倒的に不利です。」
「尻尾はつかめておりません。」
魔王
「そやつらといい、新たな勇者といい、厄介だな。」
「勇者の力は早めに見極めておきたい。」
「側近よ、引き続き勇者の動向を調べてくれ。」
側近
「お任せください、魔王さま。」
【PART2 魔物ハンターとの交戦・前編】
<フィールド>
勇者
「まずは西の街、か。」
「とりあえず魔物に気をつけながら目指そう。」
「…いい天気だなぁ。魔物の脅威なんてウソみたいだ…。」
「そういえば私、実際に魔物と戦ったことないなぁ。」
「剣術はお父さまや、王国の兵士さんが稽古をつけてくれた。」
「魔法はお母さまと、宮廷魔術師さんが教えてくれた。」
「お父さまもお母さまも、魔族は敵だと言ってたけど、本当だろうか。」
「それに、私にできるだろうか…。」
「世界を救うためとはいえ、命を奪うなんて…。」
???
「キャー!!」
勇者
「悲鳴?!」
「誰かが魔物に襲われているのか?!」
「声は…あの岩山の向こうだ。」
「待ってて、いま助ける!」
ダダダッ
勇者
「あれは…女の子が追われてる。」
「追いかけてるのは…人間か?!」
「どうして人間が? とにかく向かおう。」
ザッ
魔族少女
「ひッ…! ニンゲン?!」
勇者
「こっち! そこの岩陰に隠れて!」
魔族少女
「は、はい! ありがとうございます!」
賊リーダー
「よう、姉ちゃん。」
「ここいらで女の子を1人見かけなかったかい?」
勇者
「知らないな。」
賊リーダー
「そいつは残念だ。」
「それじゃあ、お前の後ろに隠れてるそいつは俺の見間違いか?」
勇者
「(くッ…! 隠し切れないか…!)」
「どうしてこの子を追いかける?」
賊リーダー
「捕まえて売るんだよ。」
「人型の魔物は特に高値で売れるからな。」
勇者
「魔物を捕まえ…そういえばあの子…。」
「(王国で聞いたことがある。魔物を狩る人間の組織があるらしいと。)」
勇者
「お前らが噂に聞く魔物ハンターか?」
賊リーダー
「フン、だったらどうする?」
勇者
「この子がお前らに何をした?!」
「そんなことをしてお前らは心が痛まないのか?!」
賊リーダー
「あぁ?! ごちゃごちゃうるせぇな! 商売の邪魔すんじゃねぇ!」
勇者
「なんて非道な…! そんなことはさせない!」
賊A
「こっちは4人だぞ! お前1人で俺らに勝てると思ってんのか?!」
賊B
「リーダー! やっちまおうぜ!」
ギィン! ギィン! ザシュッ!
賊C
「くっ…リーダー!このガキ強えです!」
「攻撃が当たらねぇ!」
勇者
「はぁ!」 ズバッ!
賊B
「うわぁ!」 ドサッ
賊リーダー
「確かに強いな。」
「4人相手にうまく受け流すじゃねぇか。」
「だが、殺気がまるで感じられねぇなぁ。」
「そんな峰打ちじゃ俺には勝てねぇぜ!」
勇者
「はぁ…はぁ…。(気づかれたか…。)」
「(敵は弱ってるけど、さすがにジリ貧だ…。)」
「(仕方ない、魔法で一気にカタをつける!)」
「(殺さないよう、威力を加減して、敵全体に!)」
勇者
「出でよ炎!」 ゴォォォ!
賊A
「攻撃魔法だと!?」
賊B
「うわぁぁ!」
勇者
「よし…これでかなり弱ったはず。」
賊リーダー
「なーんてな!」
勇者
「なに?! 効いてない?!」
賊リーダー
「俺らに魔法は効かねぇぜ!」
「そんな手加減した魔法ならなおさらなァ!」
勇者
「なぜだ…?! 防壁魔法?」
「いや、そんな素振りも、詠唱もなかった。」
賊リーダー
「お前ら! 一気にやっちまえ!」
賊A
「オォォォォ!!」
勇者
「くッ…仕方ない、全部受けきってやる!」
「はぁぁぁぁ!」
⇒ 『魔王の娘は解放された』2へ続く
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