2022年08月05日
【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』2
⇒ 『魔王の娘は解放された』1からの続き
ー目次ー
【PART2 魔物ハンターとの交戦・後編】
【PART3 交易都市・西の街】
【PART4 魔物退治の真相・前編】
賊リーダー
「はぁ…はぁ…。」
「このガキ…強えじゃねぇか。」
勇者
「うぅ…。」
賊リーダー
「こんなガキがどうして…?」
「その剣の紋章は…。」
「そうかお前、例の勇者か。どうりで…。」
「おいお前ら、のびてねぇで起きろ。ひとまず撤退だ。」
賊C
「は、はいリーダー!」
勇者
「何とか…追い払った…。」 ガクッ
魔族少女
「あ、あの…!」
「助けてくれてありがとうございました!」
勇者
「よかった…無事で…。」
魔族少女
「あの…あなたはニンゲンですよね?!」
「どうして私を助けたんですか?」
「4人を相手に…そんなに傷ついてまで…。」
勇者
「人間も魔族も関係ないよ。」
「命が危ない者がいたら助けたいんだ。」
魔族少女
「え…!!!」
魔族少女
「あなたは魔族を敵視しないんですか?」
「ニンゲンは魔族を売買の対象くらいにしか見ないのに。」
勇者
「人間にも悪いやつはいるよ。」
「それに、魔族にも優しい者がいると思うから。」
魔族少女
「そう、ですか…。」
魔族少女は治癒魔法を唱えた!
パァァ
勇者の傷が回復した!
魔族少女
「あいにく魔力が残ってなくて…。」
「全快はできませんでしたが、少しは楽になるはずです。」
「あと、少しですが薬草です。持っていってください。」
勇者
「ありがとう、助かったよ。」
「きみだってケガしてるのに。」
魔族少女
「私は大丈夫です。まだ動けますから。」
「あなたは命の恩人です。」
「もしまた会えたらぜひお礼をさせてください。」
勇者
「きみも人間に捕まらないよう気をつけてね。」
魔族少女
「はい、気をつけます。それではまた。」
勇者
「うん。またね。」
側近
「魔王さま!」
「王都西部方面の偵察部隊から緊急連絡です!」
魔王
「なに?! 聞かせてくれ!」
偵察部隊
「報告します!」
「西の街付近にて、調査隊員が4名の魔物ハンターに襲われました!」
魔王
「なんだと?!」
「西の街方面にいる隊員は…あの娘か!」
「どうなった?! 奴らに捕まったのか?!」
偵察部隊
「それが…。」
「捕まる寸前で勇者が現れ、ハンターどもを撃退しました!」
魔王
「そ…そうか。ひとまず助かったのだな。」
偵察部隊
「はい。」
「その後、彼女は勇者と接触しましたが、危害を加える様子はありませんでした。」
魔王
「…わかった。遠方からの伝令に感謝する。」
偵察部隊
「もったいなきお言葉。」
魔王
「今日はゆっくり休んでくれ。」
「その後、あの娘に帰還の伝達を頼む。」
偵察部隊
「かしこまりました。では失礼します。」
魔王
「ふぅ…。」
側近
「魔王さま…心中お察しします。」
魔王
「ああ…。ともかく無事でなによりだ。」
「にしても、まさか勇者に助けられるとはな。」
「4人を退けるとは、やはり相当な実力者か。」
側近
「はい。4人の剣をほぼすべて受け止め、相手に致命傷を与えず撤退させたそうです。」
「しかもその姿は屈強な男ではなく、小柄な少女だったそうです。」
魔王
「小柄な少女か…。」
「ニンゲン同士とはいえ殺生をせず、魔族をも守るとは興味深い。」
「勇者がここへたどり着いた折には、ぜひとも話をしてみたいな。」
側近
「魔王さま。今日はお休みになられてはいかがですか?」
「心労はお身体に障ります。」
魔王
「そうするか。」
「側近よ、お前もあまり無理をするでないぞ。」
側近
「私は彼女の帰還の準備が終わり次第、休ませていただきます。」
魔王
「…勤勉すぎるのも考えものだな。」
「ともかく、同胞が無事でよかった。」
勇者
「着いた、西の街。賑わってるなぁ。」
「王都の隣なのに、街並みはぜんぜんちがう。」
「お店にも見慣れないものがたくさん並んでる。」
「ここは国境に近いし、交通の要所だから、いろんな国の文化が入ってくるんだなぁ。」
「ひとまず宿を探して、酒場で情報収集しよう。」
勇者
「これは南の国のフルーツ、こっちは東の国の料理。」
「すごいなぁ。本当に世界中の料理がある。」
「いただきます!」 モグモグ
「おいしい!初めての食感!」
マスター
「喜んでもらえて何よりです。」
「それにしても魔王の情報がほしいなんて、今日び珍しいですね。」
勇者
「お客さんから何か聞いていませんか?」
マスター
「うーん…最近は魔族の勢力が衰えてますからね。」
「旅人が街の外で魔物と戦ったって話がちらほらあるくらいで。」
「あ、そういえば…。」
勇者
「何か気になることが?」
マスター
「この街の町長がぼやいてましたね。」
「街の倉庫が荒らされ、食料が盗まれて困ってるって。」
勇者
「食料が…。犯人の手がかりは見つかったんですか?」」
マスター
「ええ。どうも犯人は街の外からやってきてるみたいです。」
「もしかしたら魔物の仕業なんじゃないかって。」
勇者
「魔物…。ケガ人は出てるんですか?」
マスター
「人の被害はないそうです。」
「それと不思議なことに、金品には手をつけられないそうですよ。」
勇者
「確かに、金品が盗まれないのは不思議ですね…。」
マスター
「町長の家は大通りの突き当りにあります。」
「話を聞きに行ってみてはいかがですか?」
勇者
「ありがとうございます、マスターさん。」
「今日は遅いので明日、町長さんを訪ねてみます。」
町長
「ようこそ西の街へ。」
勇者
「初めまして。」
「突然の訪問なのに、会っていただきありがとうございます。」
町長
「いえいえ。今日はどんなご用件でしょう?」
勇者
「酒場のマスターから街の倉庫が荒らされる話を聞いたんです。」
「それで、私にできることならお手伝いしたいんです。」
町長
「それはありがたい。」
「しかし、見ず知らずの旅の方に頼んでよいものか…。」
勇者
「よかったら、お話だけでも聞かせていただけませんか?」
町長
「わかりました。」
「あなたは強そうですし、誠実なお方と見込んでお話します。」
「単刀直入に言います、街の倉庫を荒らす魔物を倒してください。」
勇者
「やはり魔物の仕業でしょうか。」
町長
「はい。」
「荒らされた倉庫には爪でひっかいたような傷跡があります。」
「人間のものではない足跡も残ってますし、まず間違いないでしょう。」
勇者
「マスターのお話では金品の被害はないそうですが、本当ですか?」
町長
「はい、人間が犯人なら間違いなく金品の被害が出るでしょう。」
「それがないということは、やはり魔物の仕業と考えるのが自然です。」
勇者
「わかりました!」
「ケガ人が出ないうちに調べてみます!」
町長
「どうかよろしくお願いします。」
「倉庫を荒らす者たちは街の北にある洞窟の方へ逃げていくそうです。」
「洞窟は途中の森を抜けてすぐです。」
勇者
「ではさっそく向かってみます!」
勇者
「大きな森だけど、道は整ってる。それも割と新しい。」
「最近、交易で使われるようになったのかな。」
「そういえば、王都の北にも大きな森があったっけ。」
「あそこはもっと未開の地って感じだったなぁ。」
勇者
「ん…?道に何か落ちてる。これは確か…。」
「あの街の倉庫に備蓄されてた作物と同じ。」
「よし、これをたどっていけば何か手がかりがあるかもしれない。」
勇者
「ここか…。落ちてる作物の切れ端も多いし、人間のものじゃない足跡もある。」
「魔物が襲ってくるかもしれない、気をつけて進もう。」
勇者
「奥の広間から気配がする…。」
「いつでも剣を抜けるよう、慎重に…。」
ザッ!
魔族少年
「わぁぁぁ!」
勇者
「…魔物の…子ども?!」
魔族少年
「ニンゲンが来た!」
「お母さん助けて!」 ダダダッ
魔族母
「ニンゲンですって?!」
「ついにここまで…! 坊や、こっちへ!」
勇者
「え…? え…?!」
魔族少年
「お母さん怖いよ…うぅ…。」 ブルブル
魔族母
「私はどこへ売っていただいても構いません!」
「だからお願いです!」
「どうか…どうかこの子だけは見逃してください!」
勇者
「待って! 落ち着いて!」
「危害を加えるつもりはないよ! ほら!」
勇者は剣を手放した!
魔族母
「ほ…本当…ですか…?!」
「剣を…捨てるなんて…。」
勇者
「あなたたちは武器を持ってない。」
「それに、直感だけど人を襲うようには見えない。」
魔族母
「そんな…。」
勇者
「よかったら事情を聞かせてくれないかな。」
魔族少年
「お母さん…このおねえちゃん、いいニンゲン?」
魔族母
「…わからない…。」
「お願いします、この子には手を出さないでくださいね。」
勇者
「さっき『売ってもらって構わない』と言ってたのは、どういうこと?」
魔族母
「ニンゲンは私たち魔族を捕らえて、見世物として売るんです。」
「ここへ来る途中に森を通ったでしょう?」
勇者
「うん。人の手が入ったのは最近みたいだった。」
魔族母
「もともと私たちはその森に住んでいました。」
「だけどある日、突然ニンゲンたちが襲ってきて…。」
勇者
「未開だった森に突然…人間が?」
魔族母
「ほとんどの仲間がニンゲンたちに連れ去られました…。」
「口々に『高く売れる』と言って…。」
「ニンゲンと似た姿の魔物は特に高値が付くとか…。」
勇者
勇者
「魔物の売買組織…こんなところにまで…。」
「もしかして、あの森の道が新しいのは、人型の魔物が住んでいることがわかったから?」
魔族母
「おそらく…。」
「私たちは何とかこの洞窟まで逃げてきましたが、食べ物がなくて…。」
勇者
「それで深夜に街の倉庫から食糧を…?」
魔族母
「はい…。」
「ご迷惑をおかけしたことは謝ります!」
「ですが生き延びるには、こうするしかなかったんです…。」
勇者
「住処の森を追われて…。」
魔族母
「私は退治されても、売られても構いません!」
「お願いです! この子だけは助けてください…!」
魔族少年
「おねえちゃんお願い!」
「お母さんを連れて行かないで!」
勇者
「そんな…。」
「私は悪い魔王を倒すために旅立ったはずなのに…。」
「これじゃあ、悪い魔王は人間の方じゃないか。」
「私は一体、何のために…?」
魔族少年
「うぅ…。」 ガクガク
魔族母
「…。」 ポロポロ
勇者
(お父さまも、お母さまも言ってた。)
(『魔族は敵だ、悪い奴らだ、勇者であるお前が倒すのだ』って。)
(でも………。)
(私が見た現実は…!)
⇒ 『魔王の娘は解放された』3へ続く
⇒動画版はこちら
【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1
ー目次ー
【PART2 魔物ハンターとの交戦・後編】
【PART3 交易都市・西の街】
【PART4 魔物退治の真相・前編】
【PART2 魔物ハンターとの交戦・後編】
<フィールド>
賊リーダー
「はぁ…はぁ…。」
「このガキ…強えじゃねぇか。」
勇者
「うぅ…。」
賊リーダー
「こんなガキがどうして…?」
「その剣の紋章は…。」
「そうかお前、例の勇者か。どうりで…。」
「おいお前ら、のびてねぇで起きろ。ひとまず撤退だ。」
賊C
「は、はいリーダー!」
勇者
「何とか…追い払った…。」 ガクッ
魔族少女
「あ、あの…!」
「助けてくれてありがとうございました!」
勇者
「よかった…無事で…。」
魔族少女
「あの…あなたはニンゲンですよね?!」
「どうして私を助けたんですか?」
「4人を相手に…そんなに傷ついてまで…。」
勇者
「人間も魔族も関係ないよ。」
「命が危ない者がいたら助けたいんだ。」
魔族少女
「え…!!!」
魔族少女
「あなたは魔族を敵視しないんですか?」
「ニンゲンは魔族を売買の対象くらいにしか見ないのに。」
勇者
「人間にも悪いやつはいるよ。」
「それに、魔族にも優しい者がいると思うから。」
魔族少女
「そう、ですか…。」
魔族少女は治癒魔法を唱えた!
パァァ
勇者の傷が回復した!
魔族少女
「あいにく魔力が残ってなくて…。」
「全快はできませんでしたが、少しは楽になるはずです。」
「あと、少しですが薬草です。持っていってください。」
勇者
「ありがとう、助かったよ。」
「きみだってケガしてるのに。」
魔族少女
「私は大丈夫です。まだ動けますから。」
「あなたは命の恩人です。」
「もしまた会えたらぜひお礼をさせてください。」
勇者
「きみも人間に捕まらないよう気をつけてね。」
魔族少女
「はい、気をつけます。それではまた。」
勇者
「うん。またね。」
<魔王城>
側近
「魔王さま!」
「王都西部方面の偵察部隊から緊急連絡です!」
魔王
「なに?! 聞かせてくれ!」
偵察部隊
「報告します!」
「西の街付近にて、調査隊員が4名の魔物ハンターに襲われました!」
魔王
「なんだと?!」
「西の街方面にいる隊員は…あの娘か!」
「どうなった?! 奴らに捕まったのか?!」
偵察部隊
「それが…。」
「捕まる寸前で勇者が現れ、ハンターどもを撃退しました!」
魔王
「そ…そうか。ひとまず助かったのだな。」
偵察部隊
「はい。」
「その後、彼女は勇者と接触しましたが、危害を加える様子はありませんでした。」
魔王
「…わかった。遠方からの伝令に感謝する。」
偵察部隊
「もったいなきお言葉。」
魔王
「今日はゆっくり休んでくれ。」
「その後、あの娘に帰還の伝達を頼む。」
偵察部隊
「かしこまりました。では失礼します。」
魔王
「ふぅ…。」
側近
「魔王さま…心中お察しします。」
魔王
「ああ…。ともかく無事でなによりだ。」
「にしても、まさか勇者に助けられるとはな。」
「4人を退けるとは、やはり相当な実力者か。」
側近
「はい。4人の剣をほぼすべて受け止め、相手に致命傷を与えず撤退させたそうです。」
「しかもその姿は屈強な男ではなく、小柄な少女だったそうです。」
魔王
「小柄な少女か…。」
「ニンゲン同士とはいえ殺生をせず、魔族をも守るとは興味深い。」
「勇者がここへたどり着いた折には、ぜひとも話をしてみたいな。」
側近
「魔王さま。今日はお休みになられてはいかがですか?」
「心労はお身体に障ります。」
魔王
「そうするか。」
「側近よ、お前もあまり無理をするでないぞ。」
側近
「私は彼女の帰還の準備が終わり次第、休ませていただきます。」
魔王
「…勤勉すぎるのも考えものだな。」
「ともかく、同胞が無事でよかった。」
【PART3 交易都市・西の街】
<西の街>
勇者
「着いた、西の街。賑わってるなぁ。」
「王都の隣なのに、街並みはぜんぜんちがう。」
「お店にも見慣れないものがたくさん並んでる。」
「ここは国境に近いし、交通の要所だから、いろんな国の文化が入ってくるんだなぁ。」
「ひとまず宿を探して、酒場で情報収集しよう。」
<西の街・酒場>
勇者
「これは南の国のフルーツ、こっちは東の国の料理。」
「すごいなぁ。本当に世界中の料理がある。」
「いただきます!」 モグモグ
「おいしい!初めての食感!」
マスター
「喜んでもらえて何よりです。」
「それにしても魔王の情報がほしいなんて、今日び珍しいですね。」
勇者
「お客さんから何か聞いていませんか?」
マスター
「うーん…最近は魔族の勢力が衰えてますからね。」
「旅人が街の外で魔物と戦ったって話がちらほらあるくらいで。」
「あ、そういえば…。」
勇者
「何か気になることが?」
マスター
「この街の町長がぼやいてましたね。」
「街の倉庫が荒らされ、食料が盗まれて困ってるって。」
勇者
「食料が…。犯人の手がかりは見つかったんですか?」」
マスター
「ええ。どうも犯人は街の外からやってきてるみたいです。」
「もしかしたら魔物の仕業なんじゃないかって。」
勇者
「魔物…。ケガ人は出てるんですか?」
マスター
「人の被害はないそうです。」
「それと不思議なことに、金品には手をつけられないそうですよ。」
勇者
「確かに、金品が盗まれないのは不思議ですね…。」
マスター
「町長の家は大通りの突き当りにあります。」
「話を聞きに行ってみてはいかがですか?」
勇者
「ありがとうございます、マスターさん。」
「今日は遅いので明日、町長さんを訪ねてみます。」
<翌朝、町長の家>
町長
「ようこそ西の街へ。」
勇者
「初めまして。」
「突然の訪問なのに、会っていただきありがとうございます。」
町長
「いえいえ。今日はどんなご用件でしょう?」
勇者
「酒場のマスターから街の倉庫が荒らされる話を聞いたんです。」
「それで、私にできることならお手伝いしたいんです。」
町長
「それはありがたい。」
「しかし、見ず知らずの旅の方に頼んでよいものか…。」
勇者
「よかったら、お話だけでも聞かせていただけませんか?」
町長
「わかりました。」
「あなたは強そうですし、誠実なお方と見込んでお話します。」
「単刀直入に言います、街の倉庫を荒らす魔物を倒してください。」
勇者
「やはり魔物の仕業でしょうか。」
町長
「はい。」
「荒らされた倉庫には爪でひっかいたような傷跡があります。」
「人間のものではない足跡も残ってますし、まず間違いないでしょう。」
勇者
「マスターのお話では金品の被害はないそうですが、本当ですか?」
町長
「はい、人間が犯人なら間違いなく金品の被害が出るでしょう。」
「それがないということは、やはり魔物の仕業と考えるのが自然です。」
勇者
「わかりました!」
「ケガ人が出ないうちに調べてみます!」
町長
「どうかよろしくお願いします。」
「倉庫を荒らす者たちは街の北にある洞窟の方へ逃げていくそうです。」
「洞窟は途中の森を抜けてすぐです。」
勇者
「ではさっそく向かってみます!」
【PART4 魔物退治の真相・前編】
<北の森>
勇者
「大きな森だけど、道は整ってる。それも割と新しい。」
「最近、交易で使われるようになったのかな。」
「そういえば、王都の北にも大きな森があったっけ。」
「あそこはもっと未開の地って感じだったなぁ。」
勇者
「ん…?道に何か落ちてる。これは確か…。」
「あの街の倉庫に備蓄されてた作物と同じ。」
「よし、これをたどっていけば何か手がかりがあるかもしれない。」
<北の洞窟>
勇者
「ここか…。落ちてる作物の切れ端も多いし、人間のものじゃない足跡もある。」
「魔物が襲ってくるかもしれない、気をつけて進もう。」
勇者
「奥の広間から気配がする…。」
「いつでも剣を抜けるよう、慎重に…。」
ザッ!
魔族少年
「わぁぁぁ!」
勇者
「…魔物の…子ども?!」
魔族少年
「ニンゲンが来た!」
「お母さん助けて!」 ダダダッ
魔族母
「ニンゲンですって?!」
「ついにここまで…! 坊や、こっちへ!」
勇者
「え…? え…?!」
魔族少年
「お母さん怖いよ…うぅ…。」 ブルブル
魔族母
「私はどこへ売っていただいても構いません!」
「だからお願いです!」
「どうか…どうかこの子だけは見逃してください!」
勇者
「待って! 落ち着いて!」
「危害を加えるつもりはないよ! ほら!」
勇者は剣を手放した!
魔族母
「ほ…本当…ですか…?!」
「剣を…捨てるなんて…。」
勇者
「あなたたちは武器を持ってない。」
「それに、直感だけど人を襲うようには見えない。」
魔族母
「そんな…。」
勇者
「よかったら事情を聞かせてくれないかな。」
魔族少年
「お母さん…このおねえちゃん、いいニンゲン?」
魔族母
「…わからない…。」
「お願いします、この子には手を出さないでくださいね。」
勇者
「さっき『売ってもらって構わない』と言ってたのは、どういうこと?」
魔族母
「ニンゲンは私たち魔族を捕らえて、見世物として売るんです。」
「ここへ来る途中に森を通ったでしょう?」
勇者
「うん。人の手が入ったのは最近みたいだった。」
魔族母
「もともと私たちはその森に住んでいました。」
「だけどある日、突然ニンゲンたちが襲ってきて…。」
勇者
「未開だった森に突然…人間が?」
魔族母
「ほとんどの仲間がニンゲンたちに連れ去られました…。」
「口々に『高く売れる』と言って…。」
「ニンゲンと似た姿の魔物は特に高値が付くとか…。」
勇者
勇者
「魔物の売買組織…こんなところにまで…。」
「もしかして、あの森の道が新しいのは、人型の魔物が住んでいることがわかったから?」
魔族母
「おそらく…。」
「私たちは何とかこの洞窟まで逃げてきましたが、食べ物がなくて…。」
勇者
「それで深夜に街の倉庫から食糧を…?」
魔族母
「はい…。」
「ご迷惑をおかけしたことは謝ります!」
「ですが生き延びるには、こうするしかなかったんです…。」
勇者
「住処の森を追われて…。」
魔族母
「私は退治されても、売られても構いません!」
「お願いです! この子だけは助けてください…!」
魔族少年
「おねえちゃんお願い!」
「お母さんを連れて行かないで!」
勇者
「そんな…。」
「私は悪い魔王を倒すために旅立ったはずなのに…。」
「これじゃあ、悪い魔王は人間の方じゃないか。」
「私は一体、何のために…?」
魔族少年
「うぅ…。」 ガクガク
魔族母
「…。」 ポロポロ
勇者
(お父さまも、お母さまも言ってた。)
(『魔族は敵だ、悪い奴らだ、勇者であるお前が倒すのだ』って。)
(でも………。)
(私が見た現実は…!)
⇒ 『魔王の娘は解放された』3へ続く
⇒動画版はこちら
【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1
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