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2022年12月31日

【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』7 -最終話-

【MMD】Novel Hotaru SamuneSmall1.png

PART6からの続き

ーーーーーーーーーー
<登場人物>
華丘 純白(はなおか ましろ)
 主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。

松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
 純白(ましろ)の大学の同級生。地元出身。
 女子バスケ部ではあまり目立たない。
 主人公の初恋相手から恋人になる。

吉永 悠平(よしなが ゆうへい)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 明るく気さくで、頼れるキャプテン気質。
 男子バスケ部では1年生から活躍。

一条 天音(いちじょう あまね)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 気が強く、面度見がいい。女子バスケ部のまとめ役。
ーーーーーーーーーー

9. ヒトリ、一の坂川へ
10. たとえ、”初恋補正”だとしても

9.ヒトリ、一の坂川へ

僕は大学を卒業後、全国に支社がある企業へ就職。
近隣の県へ配属され働いていた。

3ヶ月後、社会人1年目の夏を迎えた僕に
「バスケ部OB戦」の案内が届いた。

現役生とOBの試合、その後は交流という体での飲み会だ。

当日、僕が大学の体育館へ着くと、
そこには今年卒業した4年生、全員の姿があった。
ただ1人、玲美愛(れみあ)の姿を除いて。

彼女はバスケ部を辞めているから、
ここにいないのは当然だ。

それでも僕は、
「一目だけでも会えたら」という期待を捨てられなかった。


--


試合後、飲み会で、天音(あまね)が話してくれた。

玲美愛(れみあ)は地元の教員採用試験に合格し、
県内の学校で教師をしているそうだ。

 もし僕が県内に就職していたら、
 また会って謝るチャンスがあっただろうか。

そんなことを考えずにはいられなかった。
だが、

「玲美愛(れみあ)はもう、僕と会いたくないかもしれない。」
そう思うと怖くなった。

 (だから僕は彼女と離れた場所へ就職した。)
 (これで…よかったんだ。)

僕は言い訳を並べ、自分の心を欺くことしかできなかった。





翌日の朝。

当初は1泊で帰るつもりだったが、
急遽、もう1日だけ滞在することにした。

「一の坂川、また行ってみようかな…。」

あの夜、玲美愛(れみあ)と2人でホタルを見た場所。
今度は、1人で行くことにした。

今年も、夏祭りでにぎわう公園。
薄暮から、徐々に群青色に染まってきた。

もう少しで来るはずだ。川辺の宝石たちが。
僕は一の坂川にかかる、小さな橋のたもとへ歩き出した。



「…おかえりなさい…。」

あぁ…あの日もそうだった。
せっかくのホタル、にじんで、よく見えなかったっけ…。




僕はあの日、玲美愛(れみあ)がそうしたように、
手のひらを夜空へかざした。

すると、1匹のホタルが手のひらへ降りてきた。

(『ホラ、きれいでしょ?』)

エメラルドグリーンを包んだ玲美愛(れみあ)が、
ささやいた気がした。


手のひらのホタルはそっと、夜空へ飛び立った。

僕の頬から一粒、思い出の雫(しずく)がこぼれ落ちた。

10.たとえ、”初恋補正”だとしても

バスケ部OB戦から5年後。

27歳になった僕は、
新卒で入った会社を1年で辞め、地元へ戻っていた。

仕事の余暇は、社会人チームでバスケを続けた。
僕は自由な環境で花開く選手だったらしい。
大学時代とは別人のように上達した。

あれ以来、彼女はいない。

もてないのは事実。
好きなことで忙しいから、というのは言い訳。

僕は5年経っても、
玲美愛(れみあ)のことが忘れられなかった。


たとえ「初恋補正」でも、未練がましくても、
今でも玲美愛(れみあ)のことが好きだった。



--


それでも人生は続く。
いつまでも過去ばかり見ているわけにはいかない。

だから、玲美愛(れみあ)のことは
美しい思い出にして、何度も前を向こうとした。

だけど、僕にはできなかった。

手のひらにホタルをのせて、ほほえむ彼女の姿が、
目に焼きついて離れないんだ。

(『来年も、2人でホタルを見に来ようね。』)

いつの日か、その約束を果たせるかもしれない。
そんな希望を捨てられないんだ。


たとえ彼女がもう、僕のことを覚えていないとしても。


--


僕はあのとき犯した過ちを、
玲美愛(れみあ)を傷つけてしまった後悔を、
一生、背負って生きていくんだろう。

それでも僕は、
玲美愛(れみあ)と出会えた奇跡という宝物を手にできた。

 「もし地元でいじめられなかったら」
 「人間関係のリセットを試みなかったら」
 「バスケを辞めていたら」

つらい出来事も含めた、当時のすべての分岐点が、
彼女へ導いてくれたんだ。




2人の人生が交わることは、もうないかもしれない。

それでも僕は、大好きなこの言葉を胸に、
残りの人生を歩んでいこうと誓った。
「ほんとうに出会った者に別れはこない」

谷川 俊太郎『あなたはそこに』 より


二度と会えない、最愛の人の幸せを願う。



ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
【短編小説】『彩、凜として空、彩(かざ)る』全5話

【短編小説】『反出生の青き幸』全4話


⇒この小説のPV

2022年12月30日

【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』6

【MMD】Novel Hotaru SamuneSmall1.png

PART5からの続き

ーーーーーーーーーー
<登場人物>
華丘 純白(はなおか ましろ)
 主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。

松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
 純白(ましろ)の大学の同級生。地元出身。
 女子バスケ部ではあまり目立たない。
 主人公の初恋相手から恋人になる。

吉永 悠平(よしなが ゆうへい)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 明るく気さくで、頼れるキャプテン気質。
 男子バスケ部では1年生から活躍。

一条 天音(いちじょう あまね)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 気が強く、面度見がいい。女子バスケ部のまとめ役。
ーーーーーーーーーー

8. 別れ・後悔・罪悪感

8.別れ・後悔・罪悪感

4年生に進級して間もなく、
玲美愛(れみあ)はバスケ部を辞めた。


教員採用試験の勉強に打ち込むためと言っていた。

だが、この期に及んでも、
僕は本当の理由を読み取れなかった。

(私は女バスにとって、足手まといなのかな…。)
彼女が4年間、抱え続けた思い。

すれ違いが深まる僕と、
同じ体育館に居続けることへの葛藤。

そんなものが入り混じった、複雑な心境だったのだ。


--


玲美愛(れみあ)がいない体育館で走るのは、初めてだった。

毎日、練習で倒れていたとき。
大学祭で初めて話したとき。
女バスの家飲みに呼ばれたとき。
戦力外通告を受けたとき。

僕はずっと、
玲美愛(れみあ)のあたたかい眼差しに守られていたんだ。

僕はようやく、自分のあやまちと、心の穴に気づいた。

一緒に昼食を食べる日は、すっかり減っていた。
僕は償いのため、何とか会う機会を作ろうとした。

だが、心の距離をまた近づけるには、あまりに遅かった。


--


4年生の秋を迎えた。
僕はすでに、玲美愛(れみあ)を誘うことすら、気が引けていた。

そんなある日、玲美愛(れみあ)から連絡があった。

『…純白(ましろ)君、話があるの。』
『部活終わりに、駐輪場へ来てくれない…?』


「…うん、わかった。」

僕は覚悟した。
あぁ…終わるの、かな…。


--


日が落ちる速さに、秋の深まりを感じる頃、
僕と玲美愛(れみあ)は大学の自転車置き場にいた。

練習後、玲美愛(れみあ)の門限を気にしながら談笑した、
思い出の場所だ。

『私…もう純白(ましろ)君と付き合いたくない…!』

玲美愛(れみあ)は震えながら、その言葉を絞り出した。

「…わかった…別れよう…。」

『…!!…そっか…!(止めて…くれないんだ…。)
『今まで、本当にありがとう。楽しかったよ…。』


「こちらこそ、ありがとう。僕も楽しかった…。」

短い言葉を交わし、僕らは駐輪場を後にした。

2人の3年間のピリオドが打たれた。
信じられないくらい、あっけなく。






玲美愛(れみあ)と別れてまもなく、
僕はとてつもない後悔と罪悪感に襲われた。

3年生のとき、自分の過ちに気づいたはず。
なのに、

「なぜあのとき、玲美愛(れみあ)の言葉の裏を読もうとしなかったのか?」

僕は、別れのシーンを思い出すたび、
当時の自分を殴りたくなった。

明確に”この1件が原因で破局”というものはなかった。

自分の心の弱さや未熟さから、目を逸らし続けた結果。
小さなすれ違いや、たった一言のコミュニケーション不足。


積み重なった綻びが、すべてを破ってしまったのだ。


玲美愛(れみあ)との別れは、人生最大の後悔。
それに気づいたとき、すべては後の祭りだった。





「せめて卒業式の日、最後に会って、謝りたい。」

僕は卒業式後、会場を探したが、彼女は見つからなかった。

まもなくバスケ部の同期と写真を撮り合ったが、
当然そこに玲美愛(れみあ)の姿はなかった。

その後で探すこともできたはずだ。
だが、僕はそれを放棄し、家路についた。

僕は怖かった。
どんな顔をして会えばいいのか。
どんな謝罪をすればいいのか。


僕は卑怯な自分を呪いながら、思い出の地を後にした。


ーーーーーーーーーー


PART7 -最終話-へ続く


⇒この小説のPV

2022年12月29日

【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』5

【MMD】Novel Hotaru SamuneSmall1.png

PART4からの続き

ーーーーーーーーーー
<登場人物>
華丘 純白(はなおか ましろ)
 主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。

松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
 純白(ましろ)の大学の同級生。地元出身。
 女子バスケ部ではあまり目立たない。
 主人公の初恋相手から恋人になる。

吉永 悠平(よしなが ゆうへい)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 明るく気さくで、頼れるキャプテン気質。
 男子バスケ部では1年生から活躍。

一条 天音(いちじょう あまね)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 気が強く、面度見がいい。女子バスケ部のまとめ役。
ーーーーーーーーーー

7. 挫折・不安・すれ違い

7.挫折・不安・すれ違い

玲美愛(れみあ)との幸せな時間は流れ、
僕らは大学3年生になった。

バスケ部は代替わりし、
男バスでは悠平(ゆうへい)が、
女バスでは天音(あまね)がキャプテンになった。

僕は3年生になっても、ユニフォームが遠かった。

「4年間、ベンチ入りすらできないんだろうか…?」

心に少しずつ募っていく絶望感に、気づかないフリをした。

--

『純白(ましろ)君、どうしたの?最近、暗いカオしてるよ?』

ある日の練習後、
玲美愛(れみあ)は僕を気遣って、声をかけてくれた。

僕はギクリとした。

「そ、そう?何でもないよ。今日はちょっと疲れただけ。」

『大丈夫?男バス、最近の練習は特にハードだよね。無理しないでね。』

「うん。あ、ありがと…。」

僕はこのとき、どうして気づかなかったんだろう。
玲美愛(れみあ)の表情も、同じように曇っていたことに…。



--


一方、学部ではゼミに所属し、
僕には初めてバスケ部以外の友達ができた。

マイナーな学科、マイナーな研究室のゼミ生は8名。
少人数で和気あいあいとできる研究室は、
僕にとって居心地が良かった。

春が終わる頃、
玲美愛(れみあ)は教育実習、僕は博物館実習に追われていた。

お昼は一緒に食べていたが、
2人で遊びに行くことは減っていた。

「忙しくなったから仕方ない…仕方ない…。」

僕はそうやって、自分の心から目を逸らし続けた。
忙しいという文字通り、「心を亡くしていた」のに…。

(今年も一の坂川へ、ホタルを見に行こう)

僕はついに、それを口にできなかった。


--


勉学に部活に忙しい中、3回目の初夏を迎えた。

ある日の練習後、
キャプテンの悠平(ゆうへい)が僕に頭を下げてきた。

「純白(ましろ)、本当にすまない…後輩を世話してやってくれないか?」

それは今季のリーグ戦や、
秋のインカレ予選を前にしての”戦力外通告”

悠平(ゆうへい)は、唇を嚙みしめながら、言葉を続けた。

「ごめん…純白(ましろ)には、ユニフォームをあげられない…。」
「望むなら今まで通り、プレーヤーとして練習してほしい。」
「マネージャーに転向するなら、オレにできることは何でもする。」




…いつか、こんな日が来るとわかっていた。
つらい決断を伝える悠平(ゆうへい)の痛みを感じた。

「大学では、もう試合に出られる可能性がない」
ずっと目を逸らしてきた絶望感が、一気に降りかかってきた。

みじめさ、無力感、挫折。

僕はそのすべてにまみれながら、
4年間、プレーヤーとして走り続ける道を選んだ。

帰り道に響く清流の音が、やけに大きく感じた。


--


ゼミでの勉強が進むにつれて、
僕には進路選択という決断がのしかかった。

「地元へ帰るか、ここに残るか」

 僕は何のために遠くまで来たんだ?
 地元へ戻ったら、またあの日々の繰り返しじゃないか?

 何より、地元へ帰ったら、玲美愛(れみあ)と離れ離れになる。

 遠距離恋愛でやって行けるのか?
 僕には、ここに残って働く覚悟があるのか?

地元を離れて進学した者には、待ち受けて当然の壁。
なのに僕の心は、この壁を乗り越えられるほど成熟していなかった。



--


僕は不安に支配され、まちがえ始めた。
玲美愛(れみあ)と一緒にいても、上の空なことが増えた。

僕がバスケ部で戦力外通告を受けたことも、
卒業後の進路に迷っていたことも、玲美愛(れみあ)は知っていた。

一緒に過ごす時間が減ってからも、
玲美愛(れみあ)は必死に、僕を元気づけてくれようとした。

なのに僕は…。
あろうことか、彼女の気遣いを鬱陶しく感じてしまったのだ。



たまに一緒に出かけても、僕は心から楽しめなかった。
2人の関係は、次第に気まずくなった。

「玲美愛(れみあ)はこんなに自分を想ってくれているのに…。」

僕は自己嫌悪に陥るばかりで、
玲美愛(れみあ)の大きな挫折に気づけなかった。

 『私も、女バスのみんなよりヘタで、足手まといだからさ…。』

1年生のときに、彼女が言った言葉。
今、戦力外という現実を突きつけられていたのだ。


--


「純白(ましろ)、あんたが玲美愛(れみあ)を支えてやりなよ。」

女バスの現キャプテン・天音(あまね)が僕に声をかけた。

「…うん…。」

「あんたのことは悠平(ゆうへい)に聞いてる。」
「つらいと思うけど、玲美愛(れみあ)の気持ちにも目を向けるんだよ。」


同期のみんなも、僕にたくさんの優しさをくれた。
なのに僕は、自分のつらさに支配され、何ひとつ受け取れなかった。


ーーーーーーーーーー


PART6へ続く


⇒この小説のPV

2022年12月28日

【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』4

【MMD】Novel Hotaru SamuneSmall1.png

PART3からの続き

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<登場人物>
華丘 純白(はなおか ましろ)
 主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。

松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
 純白(ましろ)の大学の同級生。地元出身。
 女子バスケ部ではあまり目立たない。
 主人公の初恋相手から恋人になる。

吉永 悠平(よしなが ゆうへい)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 明るく気さくで、頼れるキャプテン気質。
 男子バスケ部では1年生から活躍。

一条 天音(いちじょう あまね)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 気が強く、面度見がいい。女子バスケ部のまとめ役。
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6. 一の坂川とホタル

6.一の坂川とホタル

地元から離れて2回目の春を迎えた。
去年と違うのは、僕の隣に玲美愛(れみあ)がいてくれること。

恋人同士にはなったが、
2人の関係はあまり変わっていなかった。

互いにバスケ部のきつい練習に精を出し、
学生食堂で一緒にお昼を食べ、授業のレポートを手伝った。

部活が休みの日は、
市内のショッピングモールや公園へ遊びに行った。


--


そんな充実感でいっぱいの春が過ぎ、初夏を迎えた。

『今年はね…どうしても純白(ましろ)君に見せたい景色があるんだ。』

珍しく平日に部活が休みの日、
玲美愛(れみあ)は僕にこう言った。

『暗くなったら…一の坂川(いちのさかがわ)に行きましょ?』

「うん、行きたい。えっと…門限は大丈夫?」

夏は日が長い。
彼女の門限19時を過ぎても、まだ明るさが残るのだ。

『大丈夫!今日はね、門限ちょっと遅くしてもらったの。』
『どうしても…暗くなってから見せたいから!』

「そっか…親に無理言ってくれたんだね、ありがと。」

『無理なんてしてないよ。私が純白(ましろ)君と一緒に行きたいの。』

--

僕らは街外れにある大学から、市内の中心へ移動した。
一の坂川へ着く頃、ちょうど薄暗くなり始めた。

公園は夏祭りで賑わい、屋台が並んでいた。
手をつないで歩きながら、僕は玲美愛(れみあ)に言った。

「わかった!見せたいものって、花火でしょ?」

『外れー!』

「違うの?何だろ…わかんないや。」

『ふふっ、あと少ししたら来てくれるよ。』

「来てくれるって?」

たわいないやり取りに夢中になるうちに、
あたりはすっかり暗くなっていた。

そして、


--


『来たみたい。川のほとりに行こ!』

玲美愛(れみあ)は待ちわびた様子で、僕の手を引いた。

『着いたよ!見て見て!』

「わぁ…!ホタルがこんなに…!」

そこは、一の坂川にかかる、小さな橋のたもと。

群青色のキャンバスいっぱいに飛び回るのは、
エメラルドグリーンの宝石たち。


僕は美しさのあまり、言葉を失った。
こみ上げる感動の涙を抑えられず、目元を濡らした。

--

『お祭りにはさ、毎年、家族で来てるの。』
『だけど今年はね、純白(ましろ)君と一緒に見たかったんだ、ホタル。』

「…ホタルか…花火だったら、みんな逃げちゃうね。」

『あはは、そうでしょ?びっくりした?』

玲美愛(れみあ)は茶目っ気たっぷりに笑った。
つないでいた手を少しだけ、強く握りながら。

「…びっくりした…。せっかくのホタル、にじんで、よく見えないや。」

僕は静かに、目元をぬぐった。


--


僕らは橋のたもとから、川のほとりへ降りてみた。
草や木の枝に留まるホタルの姿がよく見えた。

「ホタルって、近づいても逃げないんだね。」

『うん。だからね、こんなこともできるんだよ。』

そう言った玲美愛(れみあ)は、手のひらを夜空へかざした。
すると、1匹のホタルが、彼女の小さな手のひらへ降りてきた。

『ホラ、きれいでしょ?』

淡いエメラルドグリーンの光を優しく包む彼女は、
まるで妖精のようだった。


--

『純白(ましろ)君の地元には、ホタルいないの?』

「どうかなぁ。山の方に行けばいると思うけど、寒い地域だからね。」
「街中にこんなにホタルが来る景色、初めて見た。」

『そっか。今日、連れて来てほんとに良かった!』

「うん。感動した。ありがとね。」
「玲美愛(れみあ)と2人で見れて幸せだよ。」

僕がそう言うと、
玲美愛(れみあ)はいつかの夜景の日のように、頬を赤らめた。

『私、ホタルは見慣れてるけど…。』
『純白(ましろ)君と一緒に見たホタルが、今までで1番きれいだよ!』


その後、2人は言葉をなくし、
川辺の宝石たちに包まれ、立っていた。



『来年も、2人でホタルを見に来ようね。』



それが、二度と果たされない約束になることを、
僕は知るよしもなかった。



ーーーーーーーーーー


PART5へ続く


⇒この小説のPV

2022年12月27日

【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』3

【MMD】Novel Hotaru SamuneSmall1.png

PART2からの続き

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<登場人物>
華丘 純白(はなおか ましろ)
 主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。

松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
 純白(ましろ)の大学の同級生。地元出身。
 女子バスケ部ではあまり目立たない。
 主人公のことが気になる様子。

吉永 悠平(よしなが ゆうへい)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 明るく気さくで、頼れるキャプテン気質。
 男子バスケ部では1年生から活躍。

一条 天音(いちじょう あまね)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 気が強く、面度見がいい。女子バスケ部のまとめ役。
ーーーーーーーーーー

5.初恋から告白へ

5.初恋から告白へ

僕は女バスとの家飲み以来、
バスケ部の外でも玲美愛(れみあ)と会うようになった。

練習が終わった後は、
玲美愛(れみあ)の門限を気にしながら、駐輪場で談笑した。

練習中も、
「こんな姿でも、玲美愛(れみあ)が見てくれている」
そう思うと、自然と力が湧いてきた。

相変わらずヘタで、ベンチ入りはできない。
が、僕は彼女を心の支えに、みるみる体力をつけていった。
いつしか、チームで1番走れる「体力おばけ」に成長していた。

女バス側のコートに目をやると、
たまに玲美愛(れみあ)と目が合った。

彼女もスキル面で苦労していたが、
僕と目が合うと、少しほほえんでくれた。

僕らはそんな奇妙なアイコンタクトで互いを励まし合った。

--

玲美愛(れみあ)は隣の学部で、
お昼休みはよく学生食堂で一緒に食事するようになった。

彼女は「理科の先生になりたい」という夢を語った。
卒業後は地元の教員採用試験を受けるという。


学業も僕よりずっと優秀だった。
僕は共通科目の授業で、苦手な計算系の課題の
わからないところを教えてもらった。

反対に玲美愛(れみあ)は文章を書くのがやや苦手だったので、
僕がレポートの文章作りに協力することもあった。

今まで女子と接する機会もほぼなく、学部に友人もいない僕は、
灰色のキャンパスライフを予想していた。

そんな予想は見事に覆された。
玲美愛(れみあ)と過ごす日々は本当に幸せだった。

--

1年生の後期になると、玲美愛(れみあ)と僕は、
次第に大学の外へも遊びに行くようになった。

地元出身の彼女の案内で、
市内のいろいろな場所を見て回った。

一緒の時間を過ごすうちに、
僕の玲美愛(れみあ)への気持ちは決まった。







僕が大学生になって、初めての年明けを迎えた。

僕の地元はすごく遠い。
バイトはしていたが、旅費が高額なので里帰りしなかった。

大学は冬休み中。
僕は幸い、1年生の必修単位をすべてクリアした。
もちろん、玲美愛(れみあ)に手伝ってもらったおかげだ。

学業にも部活にも、少し余裕が出てきた僕は、
覚悟を決めて玲美愛(れみあ)にこう伝えた。

「今度の部活オフの日、小倉(こくら)行かない?」
「あと、関門海峡の夜景、見てみたくてさ。」


初めての、”市外”へ遊びに行きたいという提案。

もちろん日帰りだが、
門限の厳しい玲美愛(れみあ)に迷惑をかける罪悪感があった。
断られると思っていたが、

『うん!一緒に行きたい!』
『純白(ましろ)君、小倉は初めてでしょ?私が案内するよ!』


意外にも、玲美愛(れみあ)は即答してくれた。

「え?!あ、あり、ありがと…。」

僕は少し裏返った声でお礼を伝えた。

(彼女は当日までに、親と交渉を重ねてくれたんだろうか…?)

僕はそれを玲美愛(れみあ)に尋ねることができなかった。

もしそうなら、そんなハードルを超えてまで、
僕と一緒に過ごしてくれるんだ。


そう思うと、僕は今まで以上に玲美愛(れみあ)に惹かれた。



ローカル線を乗り継いだ先は、初めての九州。

僕らは小倉駅を降り、
きらびやかなファッションビルを見て回った。

玲美愛(れみあ)は家族と何度も来ていて、
お気に入りの店や観光スポットを案内してくれた。

2人で食事したり、ショッピングしたり、
ゲームセンターでぬいぐるみが取れないと悔しがったりした。

それは傍から見れば、どこにでもいるカップルのデートだった。
が、僕は「まだカップルではない」ことが、もどかしかった。

(今日、その関係を進めるために一歩、踏み出す)

なぜ、僕の頭には、「フラれる恐怖」がなかったんだろう。



--



1月の西日が降りてきた。

僕らはローカル線に乗り、小倉から下関(しものせき)へ移動。
ロープウェイで火の山公園の展望台へ登った。

冷たくて、やわらかい空気が僕らを出迎えた。
僕の地元の、刺すような冷気とは違った。

その空気の先には、関門海峡の宝石が待っていた。
僕はあまりの美しさに息を吞んだ。

『わぁ…きれいだね。』

玲美愛(れみあ)は何度か見ている景色だが、
その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「…うん…きれいだね。」

僕はありきたりな言葉しか思いつかなかった。
玲美愛(れみあ)と2人で、この夜景を見られただけで、充分幸せだ。

だが、



--



「今日は本当にありがとう。すごく楽しかったよ。」

僕は夜景に見とれる玲美愛(れみあ)へ伝えた。

『私も楽しかったよ、ありがと。』

心臓の鼓動が、限界突破しそうだ。

「それでさ、この場所で…。」
「どうしても、玲美愛(れみあ)に伝えたいことがあるんだ。」

『…えッ…?』

玲美愛(れみあ)は驚きの表情を見せ、頬が一気に赤らんだ。
目を丸くしながらも、何かを待っていたように、こちらを向いた。

--

「半年間、玲美愛(れみあ)と過ごしてきて、本当に楽しかった。」
「もっと、玲美愛(れみあ)の笑顔が見たいと思った。」
「きつい練習も乗り越えられた。」

「僕…玲美愛(れみあ)のことが好きです!」
「僕と付き合ってください!!」


気の利いた言葉、乙女心を掴むロマンティックな言葉。
僕にはそんなもの、思いつかなかった。

ただ、好きだと伝えたかった。



--



人生初の告白をした僕は、我に返った。

「ごめんなさい」が返ってくるのではないか?
その恐怖に襲われ、彼女から視線を逸らし、うつむいた。

(…ダメ…かな…。やっぱり、こんな自分じゃ…。)
僕の頭は一瞬で自己否定に支配された。



『…純白(ましろ)君…。』



少し震える彼女の言葉で、僕は顔を上げた。
そこには、真っ赤な頬にいっぱいの涙を溜めた玲美愛(れみあ)がいた。

『嬉しい…!ありがとう…!』
『私もずっと、純白(ましろ)君が好きでした…!』
『私でよければ、お付き合いしてください。』


「…あ、ありがとう!これからも…よろしくお願いします!」

『こちらこそ!これからもよろしくね!純白(ましろ)君。』

--

1月の冷たい風の中、
僕らはどちらからともなく抱きしめ合った。

その瞬間、僕の心は、
これまで感じたことのないあたたかさで満たされていった。


それは、人肌のぬくもりをほとんど知らずに育った僕が、
初めて抱いた感情だった。

 (夜景をバックに告白なんて、我ながら格好つけすぎだ。)
 (失敗したら、帰り道はどう過ごすつもりだったんだよ。)

頭の片隅からそんな声がしたが、
今となっては考える必要すらないことだ。

「初恋は実らない」
いつか読んだマンガで、そんな鉄則が出てきたことを思い出した。

(なんだ…初恋…実ったじゃないか。)

--

どれくらいの時間が経っただろう。
すっかり身体が冷えた僕らは、展望台の中へ避難した。

互いの片方の手には、あたたかい缶コーヒー。
もう片方の手は、ぎゅっと握りしめられていた。


帰りの電車内では、僕らは疲れて眠った。
玲美愛(れみあ)は僕の肩に寄りかかり、静かに寝息を立てていた。

僕は眠ったふりをしながら、
降車駅に着くまで、この幸せを嚙みしめた。


ーーーーーーーーーー


PART4へ続く


⇒この小説のPV

2022年12月26日

【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』2

【MMD】Novel Hotaru SamuneSmall1.png

PART1からの続き

ーーーーーーーーーー
<登場人物>
華丘 純白(はなおか ましろ)
 主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。

松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
 純白(ましろ)の大学の同級生。地元出身。
 女子バスケ部ではあまり目立たない。
 主人公のことが気になる様子。

吉永 悠平(よしなが ゆうへい)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 明るく気さくで、頼れるキャプテン気質。
 男子バスケ部では1年生から活躍。

一条 天音(いちじょう あまね)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 気が強く、面度見がいい。女子バスケ部のまとめ役。
ーーーーーーーーーー

4.家飲みでの接近

4.家飲みでの接近

大学祭が終わり、僕は厳しい練習の日々に戻っていた。
あれ以来、女バスとの接点はない。

ついでに言うと、僕は同じ学部に友達がいなかった。

僕が所属する学部は女子が9割。
高校まで女子とまともに話してこなかったので、
同じ授業を受けても交流は生まれなかった。

数少ない男子はゆるくまとまったようだが、
僕はその中に入るほど、お近づきになれなかった。

--

そんなある日の夜。

練習を終え、アパートで燃え尽きていた僕に、
同期の吉永 悠平(よしなが ゆうへい)から連絡が入った。

彼は同じ1年生ながら、
すでに控えのポイントカードとして活躍していた。
性格は明るく気さくで、頼れるキャプテン気質だ。

「いま女バスの1年生で家飲みしてる。
 天音(あまね)の家だから、純白(ましろ)も行け。」


一条 天音(いちじょう あまね)
女バスの1年生で1番上手い、まとめ役のような存在だった。

性格は気が強く、面度見がいい。
とはいえ、どうしてほとんど接点のない僕に声をかけたのか。

「なんで僕を?もっと場を盛り上げられるヤツを呼んだらいいのに。」

僕は半ば自虐的な口調で聞き返した。
が、なんだかんだで悠平(ゆうへい)に押し切られ、
僕は教えてもらった住所へ向かった。

「悠平(ゆうへい)もいるの?」

「いや、オレはちょっとね…。」

悠平(ゆうへい)が何かを濁した気がしたが、
僕はひとまずスルーした。

--

夜道を歩きながら、
僕はふと、中学生のときに受けた”ウソ告白”を思い出した。


「クラスの杉山さんが
 純白(ましろ)のこと好きだってよ。校舎裏で待ってるってさ。」

僕はクラスメイトにそう言われ、
向かった先でからかわれたことがあった。

「騙されてやんの!杉山さんがお前なんか好きなわけねーじゃん!」

…疑いの傷は、心の奥深くに刻まれるものだ。
僕は今回も、そのパターンを覚悟した。

「誰彼がお前のこと好きなんだって。」
その言葉が出たら、どう言い返してやろうか。
そればかり考えていた。

--

天音(あまね)の家に着いた僕は、
おそるおそるインターフォンを鳴らした。

「いらっしゃい、上がって。」

少し出来上がった天音(あまね)が出迎えてくれた。
僕は警戒心を解かず、家に入った。

すると、本当に女バス5人で家飲みをしていた。
そこには玲美愛(れみあ)もいた。

ひとまず騙されてはいない、そのことに安堵した。
その後は何のことはない、よくある大学生の家飲みを楽しんだ。

--

しばらくすると、
女バスの面々が「酒や食材が切れた」と口にした。

「ねぇ、純白(ましろ)君、玲美愛(れみあ)と食材買ってきてよ。」
天音(あまね)はなぜか、僕と玲美愛(れみあ)を指名した。

(なんだ、買い出し係で呼んだのか…。)

僕はそんな思いを隠して言った。
「いいよ。僕1人で行くからゆっくりしてて。」

すると、

「まーまーいいから!お前らで行って来いって!」
すっかり出来上がった女バスの面々は、
僕の背中をバシバシ叩いた。

(な、何が「いいから」なんだよ…。)

僕は酔っ払いの勢いに押され、釈然としないまま外に出た。
玲美愛(れみあ)は少しうつむき、頬を赤らめていた。
…酔いのせいには、見えなかった。

--

街外れにあるキャンパスのまわりは田んぼだらけだ。
夜になると清流の音が響き、夏はホタルが舞った。

僕と玲美愛(れみあ)は
近くのスーパーまでのあぜ道を並んで歩いた。

天音(あまね)の家が見えなくなった頃に、
玲美愛(れみあ)が口を開いた。

『…き、今日は来てくれてありがとう。』
『ごめんね、お使いさせちゃって…。』


「そんな、いいよ。特に予定もなかったし、楽しいよ。」

おかげで、これから4年間、
一緒にやっていく女バスのメンバーのことを知れた。

何より、僕は大学祭のとき以来、
玲美愛(れみあ)と話す機会に恵まれて嬉しかった。

--

『あのね…今日、純白(ましろ)君に来てもらったのはね…。』
玲美愛(れみあ)は手をもじもじさせながら言った。

「食材の買い出し係じゃないの?」

『ち、ちがうよ!』
『この日、女バスで家飲みしようってなったとき、私がみんなに頼んだの…。』
『純白(ましろ)君を呼んでほしいって。』


「え…?」

僕は予想もしなかった言葉に、変な声が出た。

『私の家、門限が厳しくてさ。』
『本当は家飲みとか、あんまり参加できないんだ…。』

確かに玲美愛(れみあ)はいつも、
練習が終わると急いで帰宅していた。
居残り練習できない事情があるのは察していた。

「そうだったんだ…。」

『でもね!今回は…親に無理を言って参加したの。』
『その…どうしても純白(ましろ)君と話したかったから!』


「僕と…?!」

『うん。お祭りで初めて話したとき、楽しかったからさ。』
『また…お話したいなって思ってたんだ。』
『…ご、ごめんね!いきなりこんなこと…!』

「い、いや、大丈夫だよ、嬉しいよ。」
「その…びっくりしてさ。」

『そうだよね、びっくりするよね…。』
『みんなにも無理を言っちゃったと思ってる。』

『だけどみんな、ニヤニヤしながら「任せろ!」って。』
『どうしてかな…嬉しそうに協力してくれたの。』

…どうやら女バスの面々も、
僕らが楽しそうだったと気づいていたようだ。

ようやく、あのときの
「ヒナ鳥を見守る親鳥」の眼差しの意味を理解できた。


--

玲美愛(れみあ)は頬を赤らめながら、話を続けた。

『本当はお祭りの前から、純白(ましろ)君のこと見てたんだ。』
『れ、練習中ずっと…。』


「練習中ずっと?!」
「僕なんか毎日ヘバってるし…。」
「みんなよりヘタで、いいとこなんてなかったよ。」


玲美愛(れみあ)が楽しいと思ってくれたのは嬉しかった。
ただそれ以上に、僕は自分が情けなく感じた。

『そんなことないよ!』
『私には、それでも必死で走る純白(ましろ)君が眩しく見えたの!』

『私も、女バスのみんなよりヘタで、足手まといだからさ…。』
『大学でもバスケ続けたけど、もう辞めようかなって何度も思った。』

『だけど、毎日倒れても立ち上がる純白(ましろ)君を見て、
 私も頑張ろうって思えたんだよ!』


僕は玲美愛(れみあ)の言葉に、胸が熱くなった。
僕のかっこ悪い姿を、そんなに好意的に見てくれていたなんて。

--

その後、僕らは買い出しを終え、天音(あまね)の家へ歩き出した。
並んだ2人の距離は、さっきよりも少しだけ近づいていた。

…もう少しで、互いの手が触れそうなくらいに。


ーーーーーーーーーー



PART3へ続く


⇒この小説のPV

2022年12月25日

【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』1

【MMD】Novel Hotaru SamuneSmall1.png

<登場人物>
華丘 純白(はなおか ましろ)
 主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。

松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
 純白(ましろ)の大学の同級生、地元出身。
 女子バスケ部ではあまり目立たない。
 主人公のことが気になる様子。


  1. 入学式
  2. バスケ部での日々
  3. 大学祭での出逢い

1.入学式

僕の名前は華丘 純白(はなおか ましろ)
この春、地元から遠く離れた大学へ入学した19歳。

これといった特技も、優れた容姿もない。
大勢でわいわいするのも苦手な”陰キャ”である。

「4月なのに、こんなにあたたかいのは初めてだ。」

僕の地元は、4月になっても雪景色だ。
だから、この時期に散りかけの桜が舞う光景は新鮮だった。

「ここで人生をリセットする。」

僕は春の陽気に包まれながら、
そんな決意を胸にキャンパスを歩いた。



先の通り、クラスで目立たない存在だった僕は、
小学生のときにバスケットボールに出会った。

あまりに楽しくて、
通っていた小学校から離れた地域の
バスケットボール少年団に入った。

だが、僕の気弱で争いが苦手な性格は、
体育会系の世界ではすぐに悪目立ちした。


1人だけ違う地域から通う「よそ者」という立場も手伝い、
僕はいじめの標的になってしまった。

それでもバスケが好きだったので、
小学校を卒業するまでチームには在籍した。
が、僕は結局、チームで1番ヘタなままだった。

当然、レギュラーになれるはずもなく、
6年生になっても客席で後輩と応援していた。

--

中学、高校では、僕はスクールカーストの最下層にいた。

純白(ましろ)という中性的な名前と見た目。
明るくも、社交的でもなく、部活の成績も下。

そういう”やり返さない空気”を持つ者には、強く言いやすい。
クラスメイトやバスケ部員からのいじめは続いた。

そんな毎日だったので、
僕は部活の帰り道を泣きながら歩くのが日課だった。

どうしてバスケ部を辞めたり、不登校にならなかったのか。
今でも不思議だ。

--

「もう、知ってるヤツらと関わるのはイヤだ。人生をリセットする。」

高校2年の秋、進路選択を見据えた僕はそう決意した。

そのために僕は、あえて地元ではなく、
ものすごく遠い大学名を志望校の欄に書いた。

担任や進路指導から、
何度も「書きまちがいか?」と聞かれたが、僕は本気だった。

親の説得には、
「どうしても行きたい学科がある」という建前で臨んだ。

マイナーな学科なのは本当で、
本気で勉強したい気持ちにウソはなかった。

--

「妹弟の学費も要るから、国公立なら許してやる。」

親はそう言って了承してくれた。が、

「本当は地元から逃げたかった」
などという本音を言えるはずもなかった。


僕は狂ったように勉強し、ギリギリで合格に滑り込んだ。

大学のある県へ引っ越した日は、
全身が洗われるような解放感に満たされた。

2.バスケ部での日々

入学式が終わると、
キャンパスでは各サークルの勧誘活動が始まった。

賑やかなメインストリートの両隣から、
各サークルの先輩たちが新入生に声をかけた。

美人やイケメンの先輩たちの笑顔に、
新入生たちは目移りしていた。

--

だが、僕は脇目も振らず
「体育会バスケットボール部」の門を叩いた。


小学校、中学校、高校とチーム1ヘタだったのに、
サークルではなく「部」?あまりに無謀だった。

だが、その無謀な選択は、
「遠方で人間関係をリセットする」という僕の覚悟だ。

男子バスケットボール部の新入部員は、
1年生男子15名、女子10名。

入部のためのセレクションがなかったのが幸いし、
僕はその15名の1人になれた。



次の日から、さっそく厳しい練習が始まった。

僕は案の定、ついて行くのがやっとだった。
慣れない気候も手伝い、毎日のようにバテた。


僕はフロアに響くバッシュの音と、ボールの弾む音を聴きながら、
体育館の隅で横たわることしかできなかった。

--

運動部ではいつものことだが、
数ヶ月もすれば、残る新入部員はたいてい半分以下だ。

案の定、僕が大学で初めての夏を迎える頃、
残った1年生は男子5名、女子5名だった。

なぜ、僕がその5名に残ったのか?
わからないが、

ここでリタイアしなかったことが、
僕の人生を大きく左右することになった。

3.大学祭での出逢い

この大学では、毎年7月末に夏の大学祭が催された。

他大学の学生はもちろん、県内外から多くの人が訪れる、
地元の一大イベントだ。

体育会系の部活は、そこで屋台を出すのがしきたりだった。

屋台の運営は1年生の仕事で、上級生はフリー。
部活というタテ社会では、至極当然だ。

--

12時の開場に備え、早朝から準備が始まった。

今年、生き残った1年生は
先輩曰く「例年より少ない」ため、忙しさは2割増だ。

当然、僕も準備に追われていた。

その中で、僕は女子バスケ部の1年生、
松崎 玲美愛(まつざき れみあ)と初めて話した。

--

玲美愛(れみあ)は地元出身で、
大学には実家から通っていた。

厳しい練習を生き残った女子5名の1人だが、
お世辞にも活躍しているとは言えなかった。

女子バスケ部(通称「女バス」)とは
同じ体育館で練習していたので、
顔くらいは見知っていたが、僕は特に接点がなかった。

当時の僕も、
「あの子、苦労してそうだな…。」

反対側のコートで練習する女バスを見て、
自分を棚上げしながら思う程度だった。



にもかかわらず、

『華丘(はなおか)君、その作業1人で大変でしょ?私も手伝わせて。』

玲美愛(れみあ)は僕に、気さくに話しかけてくれた。

なぜ自分だったのか。
僕は1年生の中で1番ヘタで、体力もなかった。

レギュラー陣や、1年生から活躍するメンバーを差し置いて、
魅力的に映るはずもなかったのだ。

--

「ありがとう。同級生だし呼び捨てでいいよ。」

僕はなぜか、気さくに返事ができた。

『わかった、じゃあ純白(ましろ)君って呼ぶね。』

「あはは、君(くん)って付けてんじゃん。」

『いいじゃない、付けたって。』

お店が忙しかったのもあっただろう。
それでも、僕らは不思議なくらい、すぐに打ち解けた。

僕は自分と同じように、
練習についていけず苦労する玲美愛(れみあ)に
親近感を持っていたのかもしれない。

--

僕らバスケ部の屋台は大人気になり、
忙しさはどんどん増した。

その中で、僕らは自然とペアで動いていた。

一緒に焼きそばを作ったり、
客足が落ち着いたら一緒に食材調達に行ったりした。

同期生たちも忙しく働いていたが、
まるで「ヒナ鳥を見守る親鳥」のような眼差しで僕らを見ていた。

--

大学祭は大盛況のうちにフィナーレを迎えた。
屋台を切り盛りした僕ら1年生は、仰向けに倒れた。

「疲れたけど、こんなに心地よい疲れは初めて。」

『ほんとだね。たくさん売れたし、楽しかったね!』

玲美愛(れみあ)と僕との、たわいない会話が弾んだ。
少しだけ、互いの息づかいが近づいた。

今日、初めて話したのに、なぜだろう。
玲美愛(れみあ)の隣は、とっても安心できたんだ。



ーーーーーーーーーー


PART2へ続く


⇒この小説のPV

2022年12月14日

【オリジナル歌詞】『だったら産マナイデヨ』

アタシは何のために アナタのもとに産まれたの?
望まれない娘(コ)ならば そう言えばいいのに

捨てもしない 壊しもしない 「いらない」と告げられもしない
ジョウシキ? セケンテイ? ただナントナク?

  アタシに興味がないなら 最初から産まないで!
  「アンタなんか産むんじゃなかった」と 吐き捨てられた方がまだマシよ
  アタシにだってあるのよ 涙流す心は
  アナタにとって アタシの心なんか 向き合う価値もないの?



「命に意味なんてない」 それくらいわかっているわ
独りぼっちの心が 虚しいだけなの

”母性(アイ)”とか 本能とか ”時代背景(ジダイ)”とか キレイなごまかしはいらない
”若気の至り(マチガイ)”でもいい 本音(ワケ)がほしいの

  内面(アタシ)に興味がないなら 最初から産まないで!
  「オンナとして売り出すためよ」と 切り捨てられた方がまだマシよ
  心(ナカミ)がどうでもいいなら アタシじゃなくてもいいでしょ?
  目障りなら壊せばいいじゃない その勇気もないの?



アタシを産む 誰かを産む どこまでいこうと自己満足
ただの”遺伝子の入れ物(イレモノ)”と 割り切らせてよ…!

  内面(アタシ)に興味がないんでしょ? 早く白状してよ
  セケンサマの同調圧力と 「アナタが不安だったから」って
  「産まれなければよかった」と 心(アタシ)は泣いてるのよ?
  そんなことさえ無関心なアナタは 「イチニンマエのオトナ」よ…!




ーーーーーーーーーー



⇒過去作品
『色恋シゴト』

『虚(から)のコイビト』

『願い』

『嘘と演技』





posted by 理琉(ワタル) at 19:52 | TrackBack(0) | 歌詞

2022年12月09日

【オリジナル歌詞】『色恋シゴト』

男って勝手なのね 恋人(ユメ)を売るアタシだけを見る
アノ娘(コ)を守る素顔は 見ようともしないの

「ごめんね 母(アタシ)を許して」 夜の帳(とばり)に呟いたら
涙を隠して 衣装(ドレス)を纏うの

  勘違いをしないで アナタは夢の中よ
  コールが鳴るまでの”恋人(マボロシ)”に 妙な下心 抱かないでよね
  アタシは夢の中へ アナタを連れてくだけ
  アノ娘(コ)のためなら 痛くなんかないわ 色恋営業(イロコイシゴト)さえ



男って単純よね キレイな恋人(ユメ)に飛びついても
アノ娘(コ)を守る現実(リアル)は 知ろうともしないの

「アナタだけよ」そんな台詞(セリフ)で ”指名(トクベツ)”にしてくれるのなら
母(アタシ)はいつでも 噓をつくわ

  誤解しないで アナタは ただの”客の1人(クライアント)”よ
  衣装(ドレス)越しだけの関係に 枕なんか期待しないでよね
  アタシの素顔なんて 見てほしくなんかないの
  アノ娘(コ)のためなら つらくなんかないわ 偽りのコイビト



夜が明解ける 夢が醒める 衣装(ドレス)を脱いだら 呟くの
「ごめんね 母(アタシ)を許してね」と…

  泣いてないわ 娘(アナタ)が いてくれたらシアワセよ
  だから今日も イイ子で待っててね 少し恋人(ユメ)を売ってくるだけよ
  アノ娘(コ)のため アタシは 倒れるわけにはいかないから
  アナタを何度でも連れて行ってアゲル 偽りのユメの中へ




ーーーーーーーーーー



⇒過去作品
『ハイイロノソラ』

『キセカエ人形』

『A』





posted by 理琉(ワタル) at 19:14 | TrackBack(0) | 歌詞

2022年12月08日

【短編小説】『いのちの電話と、聞き上手』後編

【MMD】Novel Inochi NO Denwa SamuneSmall1.png
前編からの続き


--


『ただいま!お母さん、今日ね、学校でね!』

「璃々羽(りりは)、夕飯の支度、手伝いなさい。」

『…は、はい、お母さん…。』
『ねぇお母さん、今日、学校でね…。』

「いいから、早く準備してキッチンへ来て。」


『…お母さん…。』



『ねぇお父さん、私ね、この前の授業で先生に褒められて…。』

「璃々羽(りりは)、お父さんは忙しいから、話はまた今度な。」

『ご、ごめんなさい…お父さん…。』
『こ、今度聞いてくれる?』

「はいはい、仕事が片づいたらな。」


『…お父さん…。』



私の両親は、私に無関心だった。

学校であったことを聞いてもらいたくても、
ほとんど聞いてもらえなかった。

夫婦仲は悪くなかったと思いたいが、
2人の会話はほとんどなく、家はいつも静まり返っていた。

両親が私に話しかけるのは、
勉強や家事の手伝いなど、何かをさせたいときだけ。

一人っ子で、他に話し相手がいなかったこともあり、
私は「自分の話を聞いてもらうこと」に慣れていない。

私が話すと罪悪感を覚える。
相手の話を、してほしいことを聞かなきゃと、
つい聞き役に回ってしまう。


そうして私は、自分が話したいことを抑圧し、
殻に閉じこもる癖がついてしまった。



私が大学生のときにうつ病になったのは、
きっとその蓄積だった。

友達といても、私は聞き役に回った。
それ自体はイヤじゃないし楽しかった。

それに、女子の人間関係では
「仲間意識と均一への牽制」が生命線。


私は、聞き役というポジションのおかげか、
女子グループ内でのやっかみや排除の対象を免れてきた。


友達も、そんな私を無害な存在と見てくれた。



けど、私は私を出せなかった。
思い返せばそれは「我慢」で、私の心身をじわじわと蝕んでいた。

そんな状態なのに、私は大学の休学を両親に言わなかった。
それは、「両親は私が何を考えているかに興味がないんだ」と諦めていたから。

復学し、ホワイト寄りの企業へ就職できた後も、
私には気持ちの逃げ場がなかった。

「私の味方はどこにもいない」

1度かかると、回復しても再発を繰り返す。
それが、うつ病の恐ろしいところ。

そのたびに募っていく人生への虚しさ。
両親にさえ興味を持たれない自分の無価値感。


それが限界を超えたから、私は逝くと決めたんだ。



なのに、私はなぜ、いのちの電話に掛けたんだろう。

もう、逝く準備は整っていた。
1つだけ忘れていたスマホの解約。
それは私が唯一、この世とつながっていた回線。

理由は、私が屋上のフェンスを超えられなかったことと同じ。
私はまだ、私の人生を諦め切れなかったんだ。

話したかったんだ。吐き出したかったんだ。
不慣れでも、罪悪感を感じても、面倒だと思われても…。


--


相談員さんに悪気はなかったと思う。
本当に私を救いたいと、力を尽くしてくれた。

ほとんどの時間、私が聞き役になったのは、
私がいつもの対人パターンを繰り返しただけ。


電話を切った後、むしろ私が申し訳ない気持ちになる。

なのに…。



私の心にモヤモヤが渦巻く。

話を聞いてもらいたかったと自覚した途端、
「どうして話を聞いてもらえなかったの?」と。

私が勝手に聞き役になっておいて、
勝手にモヤモヤするなんてひどい話だ…。

 「話を聞いてもらいたい、だけど…。」
 「また掛けても私が相談員さんの聞き役になる。」
 「いやいや!私は何を求めているんだろう。」
 「私、いい加減、変わらないと…。」

煮え切らない思いが堂々巡りする。
頭の中を支配していた「消えたい」をかき消すほどに。



--


気づいたら、私は自宅のベッドへ寝転んでいた。
いつものようにシャワーを浴び、いつものように就寝準備を終えて。

『あれ?私、いつ退社したんだろう?』

真っ暗な会社の休憩室を出た記憶は、丸ごと削除されたみたいだ。



私はその後、代わり映えしない日常を過ごしている。

それなりに仕事して、それなりに遊ぶ。
その間、ずっと頭の中にあったのは、あのモヤモヤだ。

「いのちの電話に掛けたのに、話を聞いてもらえなかった…。」

勝手に聞き役になったくせに、理不尽な私。
勝手にモヤモヤする私。それでも、



 結果的に私は、いのちの電話に命を救われていた。



そのことに私が気づくのは、さらに数ヶ月後。


--


あれから2年。
私、瀬名 璃々羽(せな りりは)は今も生きている。


つい聞き役になってしまうのは相変わらず。
だけど、私はあれ以来、屋上のフェンスに手をかけていない。

話を聞いてもらうことには不慣れなまま。
治したいが、これも私の一面なんだろう。



「話を聞いてもらいたかったのに、一方的に話されて勝手にモヤモヤした」

いのちの電話に、こんな形で救われた私は変わり者だろうか。

 涙ながらに感情を吐き出して
 相談員さんに心を動かされて

そんなエピソードなら、感動秘話になったかもしれない。

それでも私は、モヤモヤした感情で立ち直れたところが、
何とも人間くさくて好きだ。



私がいのちの電話に掛けることは、もうないだろう。
それは、どうしようもない状況から脱したからじゃない。

もし掛けても、また勝手に聞き役になって、
モヤモヤして終わるから。

なんて自分本位な私…。

だけど今となっては、
あのときに命のすばらしさを説かれたり、
生へ引き止められたりされなかったことが嬉しい。


「もう逝く」

それが生物の本能に背くことだとしても、
私が苦しんで出した答え。

それを否定せず、尊重してくれた。
そして、私の自分本位な感情に火を灯してくれた。

そこに感動秘話なんていらない。
泥くさくても寄り添い、命を救う行為だと、ようやく気づいた。



だから私、これだけは言える。

『私は、いのちの電話に、命を救ってもらったことがあります。』



ーーー END ーーー



⇒過去作品
『もう1度、負け組の僕を生きたいです』全5話

『雪の妖精 待ち焦がれ』全2話

【短編小説】『迎えを拒む天使たち』全2話


⇒この小説のPV


一般社団法人日本いのちの電話連盟



⇒参考書籍














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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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