2022年12月25日
【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』1
<登場人物>
・華丘 純白(はなおか ましろ)
主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。
・松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
純白(ましろ)の大学の同級生、地元出身。
女子バスケ部ではあまり目立たない。
主人公のことが気になる様子。
- 入学式
- バスケ部での日々
- 大学祭での出逢い
1.入学式
僕の名前は華丘 純白(はなおか ましろ)。
この春、地元から遠く離れた大学へ入学した19歳。
これといった特技も、優れた容姿もない。
大勢でわいわいするのも苦手な”陰キャ”である。
「4月なのに、こんなにあたたかいのは初めてだ。」
僕の地元は、4月になっても雪景色だ。
だから、この時期に散りかけの桜が舞う光景は新鮮だった。
「ここで人生をリセットする。」
僕は春の陽気に包まれながら、
そんな決意を胸にキャンパスを歩いた。
–
先の通り、クラスで目立たない存在だった僕は、
小学生のときにバスケットボールに出会った。
あまりに楽しくて、
通っていた小学校から離れた地域の
バスケットボール少年団に入った。
だが、僕の気弱で争いが苦手な性格は、
体育会系の世界ではすぐに悪目立ちした。
1人だけ違う地域から通う「よそ者」という立場も手伝い、
僕はいじめの標的になってしまった。
それでもバスケが好きだったので、
小学校を卒業するまでチームには在籍した。
が、僕は結局、チームで1番ヘタなままだった。
当然、レギュラーになれるはずもなく、
6年生になっても客席で後輩と応援していた。
--
中学、高校では、僕はスクールカーストの最下層にいた。
純白(ましろ)という中性的な名前と見た目。
明るくも、社交的でもなく、部活の成績も下。
そういう”やり返さない空気”を持つ者には、強く言いやすい。
クラスメイトやバスケ部員からのいじめは続いた。
そんな毎日だったので、
僕は部活の帰り道を泣きながら歩くのが日課だった。
どうしてバスケ部を辞めたり、不登校にならなかったのか。
今でも不思議だ。
--
「もう、知ってるヤツらと関わるのはイヤだ。人生をリセットする。」
高校2年の秋、進路選択を見据えた僕はそう決意した。
そのために僕は、あえて地元ではなく、
ものすごく遠い大学名を志望校の欄に書いた。
担任や進路指導から、
何度も「書きまちがいか?」と聞かれたが、僕は本気だった。
親の説得には、
「どうしても行きたい学科がある」という建前で臨んだ。
マイナーな学科なのは本当で、
本気で勉強したい気持ちにウソはなかった。
--
「妹弟の学費も要るから、国公立なら許してやる。」
親はそう言って了承してくれた。が、
「本当は地元から逃げたかった」
などという本音を言えるはずもなかった。
僕は狂ったように勉強し、ギリギリで合格に滑り込んだ。
大学のある県へ引っ越した日は、
全身が洗われるような解放感に満たされた。
2.バスケ部での日々
入学式が終わると、
キャンパスでは各サークルの勧誘活動が始まった。
賑やかなメインストリートの両隣から、
各サークルの先輩たちが新入生に声をかけた。
美人やイケメンの先輩たちの笑顔に、
新入生たちは目移りしていた。
--
だが、僕は脇目も振らず
「体育会バスケットボール部」の門を叩いた。
小学校、中学校、高校とチーム1ヘタだったのに、
サークルではなく「部」?あまりに無謀だった。
だが、その無謀な選択は、
「遠方で人間関係をリセットする」という僕の覚悟だ。
男子バスケットボール部の新入部員は、
1年生男子15名、女子10名。
入部のためのセレクションがなかったのが幸いし、
僕はその15名の1人になれた。
–
次の日から、さっそく厳しい練習が始まった。
僕は案の定、ついて行くのがやっとだった。
慣れない気候も手伝い、毎日のようにバテた。
僕はフロアに響くバッシュの音と、ボールの弾む音を聴きながら、
体育館の隅で横たわることしかできなかった。
--
運動部ではいつものことだが、
数ヶ月もすれば、残る新入部員はたいてい半分以下だ。
案の定、僕が大学で初めての夏を迎える頃、
残った1年生は男子5名、女子5名だった。
なぜ、僕がその5名に残ったのか?
わからないが、
ここでリタイアしなかったことが、
僕の人生を大きく左右することになった。
3.大学祭での出逢い
この大学では、毎年7月末に夏の大学祭が催された。
他大学の学生はもちろん、県内外から多くの人が訪れる、
地元の一大イベントだ。
体育会系の部活は、そこで屋台を出すのがしきたりだった。
屋台の運営は1年生の仕事で、上級生はフリー。
部活というタテ社会では、至極当然だ。
--
12時の開場に備え、早朝から準備が始まった。
今年、生き残った1年生は
先輩曰く「例年より少ない」ため、忙しさは2割増だ。
当然、僕も準備に追われていた。
その中で、僕は女子バスケ部の1年生、
松崎 玲美愛(まつざき れみあ)と初めて話した。
--
玲美愛(れみあ)は地元出身で、
大学には実家から通っていた。
厳しい練習を生き残った女子5名の1人だが、
お世辞にも活躍しているとは言えなかった。
女子バスケ部(通称「女バス」)とは
同じ体育館で練習していたので、
顔くらいは見知っていたが、僕は特に接点がなかった。
当時の僕も、
「あの子、苦労してそうだな…。」
反対側のコートで練習する女バスを見て、
自分を棚上げしながら思う程度だった。
–
にもかかわらず、
『華丘(はなおか)君、その作業1人で大変でしょ?私も手伝わせて。』
玲美愛(れみあ)は僕に、気さくに話しかけてくれた。
なぜ自分だったのか。
僕は1年生の中で1番ヘタで、体力もなかった。
レギュラー陣や、1年生から活躍するメンバーを差し置いて、
魅力的に映るはずもなかったのだ。
--
「ありがとう。同級生だし呼び捨てでいいよ。」
僕はなぜか、気さくに返事ができた。
『わかった、じゃあ純白(ましろ)君って呼ぶね。』
「あはは、君(くん)って付けてんじゃん。」
『いいじゃない、付けたって。』
お店が忙しかったのもあっただろう。
それでも、僕らは不思議なくらい、すぐに打ち解けた。
僕は自分と同じように、
練習についていけず苦労する玲美愛(れみあ)に
親近感を持っていたのかもしれない。
--
僕らバスケ部の屋台は大人気になり、
忙しさはどんどん増した。
その中で、僕らは自然とペアで動いていた。
一緒に焼きそばを作ったり、
客足が落ち着いたら一緒に食材調達に行ったりした。
同期生たちも忙しく働いていたが、
まるで「ヒナ鳥を見守る親鳥」のような眼差しで僕らを見ていた。
--
大学祭は大盛況のうちにフィナーレを迎えた。
屋台を切り盛りした僕ら1年生は、仰向けに倒れた。
「疲れたけど、こんなに心地よい疲れは初めて。」
『ほんとだね。たくさん売れたし、楽しかったね!』
玲美愛(れみあ)と僕との、たわいない会話が弾んだ。
少しだけ、互いの息づかいが近づいた。
今日、初めて話したのに、なぜだろう。
玲美愛(れみあ)の隣は、とっても安心できたんだ。
ーーーーーーーーーー
⇒PART2へ続く
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