2022年12月30日
【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』6
⇒PART5からの続き
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<登場人物>
・華丘 純白(はなおか ましろ)
主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。
・松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
純白(ましろ)の大学の同級生。地元出身。
女子バスケ部ではあまり目立たない。
主人公の初恋相手から恋人になる。
・吉永 悠平(よしなが ゆうへい)
純白(ましろ)の大学の同級生。
明るく気さくで、頼れるキャプテン気質。
男子バスケ部では1年生から活躍。
・一条 天音(いちじょう あまね)
純白(ましろ)の大学の同級生。
気が強く、面度見がいい。女子バスケ部のまとめ役。
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8. 別れ・後悔・罪悪感
8.別れ・後悔・罪悪感
4年生に進級して間もなく、
玲美愛(れみあ)はバスケ部を辞めた。
教員採用試験の勉強に打ち込むためと言っていた。
だが、この期に及んでも、
僕は本当の理由を読み取れなかった。
(私は女バスにとって、足手まといなのかな…。)
彼女が4年間、抱え続けた思い。
すれ違いが深まる僕と、
同じ体育館に居続けることへの葛藤。
そんなものが入り混じった、複雑な心境だったのだ。
--
玲美愛(れみあ)がいない体育館で走るのは、初めてだった。
毎日、練習で倒れていたとき。
大学祭で初めて話したとき。
女バスの家飲みに呼ばれたとき。
戦力外通告を受けたとき。
僕はずっと、
玲美愛(れみあ)のあたたかい眼差しに守られていたんだ。
僕はようやく、自分のあやまちと、心の穴に気づいた。
一緒に昼食を食べる日は、すっかり減っていた。
僕は償いのため、何とか会う機会を作ろうとした。
だが、心の距離をまた近づけるには、あまりに遅かった。
--
4年生の秋を迎えた。
僕はすでに、玲美愛(れみあ)を誘うことすら、気が引けていた。
そんなある日、玲美愛(れみあ)から連絡があった。
『…純白(ましろ)君、話があるの。』
『部活終わりに、駐輪場へ来てくれない…?』
「…うん、わかった。」
僕は覚悟した。
あぁ…終わるの、かな…。
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日が落ちる速さに、秋の深まりを感じる頃、
僕と玲美愛(れみあ)は大学の自転車置き場にいた。
練習後、玲美愛(れみあ)の門限を気にしながら談笑した、
思い出の場所だ。
『私…もう純白(ましろ)君と付き合いたくない…!』
玲美愛(れみあ)は震えながら、その言葉を絞り出した。
「…わかった…別れよう…。」
『…!!…そっか…!(止めて…くれないんだ…。)』
『今まで、本当にありがとう。楽しかったよ…。』
「こちらこそ、ありがとう。僕も楽しかった…。」
短い言葉を交わし、僕らは駐輪場を後にした。
2人の3年間のピリオドが打たれた。
信じられないくらい、あっけなく。
–
玲美愛(れみあ)と別れてまもなく、
僕はとてつもない後悔と罪悪感に襲われた。
3年生のとき、自分の過ちに気づいたはず。
なのに、
「なぜあのとき、玲美愛(れみあ)の言葉の裏を読もうとしなかったのか?」
僕は、別れのシーンを思い出すたび、
当時の自分を殴りたくなった。
明確に”この1件が原因で破局”というものはなかった。
自分の心の弱さや未熟さから、目を逸らし続けた結果。
小さなすれ違いや、たった一言のコミュニケーション不足。
積み重なった綻びが、すべてを破ってしまったのだ。
玲美愛(れみあ)との別れは、人生最大の後悔。
それに気づいたとき、すべては後の祭りだった。
–
「せめて卒業式の日、最後に会って、謝りたい。」
僕は卒業式後、会場を探したが、彼女は見つからなかった。
まもなくバスケ部の同期と写真を撮り合ったが、
当然そこに玲美愛(れみあ)の姿はなかった。
その後で探すこともできたはずだ。
だが、僕はそれを放棄し、家路についた。
僕は怖かった。
どんな顔をして会えばいいのか。
どんな謝罪をすればいいのか。
僕は卑怯な自分を呪いながら、思い出の地を後にした。
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⇒PART7 -最終話-へ続く
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