2022年12月29日
【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』5
⇒PART4からの続き
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<登場人物>
・華丘 純白(はなおか ましろ)
主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。
・松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
純白(ましろ)の大学の同級生。地元出身。
女子バスケ部ではあまり目立たない。
主人公の初恋相手から恋人になる。
・吉永 悠平(よしなが ゆうへい)
純白(ましろ)の大学の同級生。
明るく気さくで、頼れるキャプテン気質。
男子バスケ部では1年生から活躍。
・一条 天音(いちじょう あまね)
純白(ましろ)の大学の同級生。
気が強く、面度見がいい。女子バスケ部のまとめ役。
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7. 挫折・不安・すれ違い
7.挫折・不安・すれ違い
玲美愛(れみあ)との幸せな時間は流れ、
僕らは大学3年生になった。
バスケ部は代替わりし、
男バスでは悠平(ゆうへい)が、
女バスでは天音(あまね)がキャプテンになった。
僕は3年生になっても、ユニフォームが遠かった。
「4年間、ベンチ入りすらできないんだろうか…?」
心に少しずつ募っていく絶望感に、気づかないフリをした。
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『純白(ましろ)君、どうしたの?最近、暗いカオしてるよ?』
ある日の練習後、
玲美愛(れみあ)は僕を気遣って、声をかけてくれた。
僕はギクリとした。
「そ、そう?何でもないよ。今日はちょっと疲れただけ。」
『大丈夫?男バス、最近の練習は特にハードだよね。無理しないでね。』
「うん。あ、ありがと…。」
僕はこのとき、どうして気づかなかったんだろう。
玲美愛(れみあ)の表情も、同じように曇っていたことに…。
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一方、学部ではゼミに所属し、
僕には初めてバスケ部以外の友達ができた。
マイナーな学科、マイナーな研究室のゼミ生は8名。
少人数で和気あいあいとできる研究室は、
僕にとって居心地が良かった。
春が終わる頃、
玲美愛(れみあ)は教育実習、僕は博物館実習に追われていた。
お昼は一緒に食べていたが、
2人で遊びに行くことは減っていた。
「忙しくなったから仕方ない…仕方ない…。」
僕はそうやって、自分の心から目を逸らし続けた。
忙しいという文字通り、「心を亡くしていた」のに…。
(今年も一の坂川へ、ホタルを見に行こう)
僕はついに、それを口にできなかった。
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勉学に部活に忙しい中、3回目の初夏を迎えた。
ある日の練習後、
キャプテンの悠平(ゆうへい)が僕に頭を下げてきた。
「純白(ましろ)、本当にすまない…後輩を世話してやってくれないか?」
それは今季のリーグ戦や、
秋のインカレ予選を前にしての”戦力外通告”。
悠平(ゆうへい)は、唇を嚙みしめながら、言葉を続けた。
「ごめん…純白(ましろ)には、ユニフォームをあげられない…。」
「望むなら今まで通り、プレーヤーとして練習してほしい。」
「マネージャーに転向するなら、オレにできることは何でもする。」
…いつか、こんな日が来るとわかっていた。
つらい決断を伝える悠平(ゆうへい)の痛みを感じた。
「大学では、もう試合に出られる可能性がない」
ずっと目を逸らしてきた絶望感が、一気に降りかかってきた。
みじめさ、無力感、挫折。
僕はそのすべてにまみれながら、
4年間、プレーヤーとして走り続ける道を選んだ。
帰り道に響く清流の音が、やけに大きく感じた。
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ゼミでの勉強が進むにつれて、
僕には進路選択という決断がのしかかった。
「地元へ帰るか、ここに残るか」
僕は何のために遠くまで来たんだ?
地元へ戻ったら、またあの日々の繰り返しじゃないか?
何より、地元へ帰ったら、玲美愛(れみあ)と離れ離れになる。
遠距離恋愛でやって行けるのか?
僕には、ここに残って働く覚悟があるのか?
地元を離れて進学した者には、待ち受けて当然の壁。
なのに僕の心は、この壁を乗り越えられるほど成熟していなかった。
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僕は不安に支配され、まちがえ始めた。
玲美愛(れみあ)と一緒にいても、上の空なことが増えた。
僕がバスケ部で戦力外通告を受けたことも、
卒業後の進路に迷っていたことも、玲美愛(れみあ)は知っていた。
一緒に過ごす時間が減ってからも、
玲美愛(れみあ)は必死に、僕を元気づけてくれようとした。
なのに僕は…。
あろうことか、彼女の気遣いを鬱陶しく感じてしまったのだ。
たまに一緒に出かけても、僕は心から楽しめなかった。
2人の関係は、次第に気まずくなった。
「玲美愛(れみあ)はこんなに自分を想ってくれているのに…。」
僕は自己嫌悪に陥るばかりで、
玲美愛(れみあ)の大きな挫折に気づけなかった。
『私も、女バスのみんなよりヘタで、足手まといだからさ…。』
1年生のときに、彼女が言った言葉。
今、戦力外という現実を突きつけられていたのだ。
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「純白(ましろ)、あんたが玲美愛(れみあ)を支えてやりなよ。」
女バスの現キャプテン・天音(あまね)が僕に声をかけた。
「…うん…。」
「あんたのことは悠平(ゆうへい)に聞いてる。」
「つらいと思うけど、玲美愛(れみあ)の気持ちにも目を向けるんだよ。」
同期のみんなも、僕にたくさんの優しさをくれた。
なのに僕は、自分のつらさに支配され、何ひとつ受け取れなかった。
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⇒PART6へ続く
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