2022年12月31日
【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』7 -最終話-
⇒PART6からの続き
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<登場人物>
・華丘 純白(はなおか ましろ)
主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。
・松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
純白(ましろ)の大学の同級生。地元出身。
女子バスケ部ではあまり目立たない。
主人公の初恋相手から恋人になる。
・吉永 悠平(よしなが ゆうへい)
純白(ましろ)の大学の同級生。
明るく気さくで、頼れるキャプテン気質。
男子バスケ部では1年生から活躍。
・一条 天音(いちじょう あまね)
純白(ましろ)の大学の同級生。
気が強く、面度見がいい。女子バスケ部のまとめ役。
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9. ヒトリ、一の坂川へ
10. たとえ、”初恋補正”だとしても
9.ヒトリ、一の坂川へ
僕は大学を卒業後、全国に支社がある企業へ就職。
近隣の県へ配属され働いていた。
3ヶ月後、社会人1年目の夏を迎えた僕に
「バスケ部OB戦」の案内が届いた。
現役生とOBの試合、その後は交流という体での飲み会だ。
当日、僕が大学の体育館へ着くと、
そこには今年卒業した4年生、全員の姿があった。
ただ1人、玲美愛(れみあ)の姿を除いて。
彼女はバスケ部を辞めているから、
ここにいないのは当然だ。
それでも僕は、
「一目だけでも会えたら」という期待を捨てられなかった。
--
試合後、飲み会で、天音(あまね)が話してくれた。
玲美愛(れみあ)は地元の教員採用試験に合格し、
県内の学校で教師をしているそうだ。
もし僕が県内に就職していたら、
また会って謝るチャンスがあっただろうか。
そんなことを考えずにはいられなかった。
だが、
「玲美愛(れみあ)はもう、僕と会いたくないかもしれない。」
そう思うと怖くなった。
(だから僕は彼女と離れた場所へ就職した。)
(これで…よかったんだ。)
僕は言い訳を並べ、自分の心を欺くことしかできなかった。
–
翌日の朝。
当初は1泊で帰るつもりだったが、
急遽、もう1日だけ滞在することにした。
「一の坂川、また行ってみようかな…。」
あの夜、玲美愛(れみあ)と2人でホタルを見た場所。
今度は、1人で行くことにした。
今年も、夏祭りでにぎわう公園。
薄暮から、徐々に群青色に染まってきた。
もう少しで来るはずだ。川辺の宝石たちが。
僕は一の坂川にかかる、小さな橋のたもとへ歩き出した。
「…おかえりなさい…。」
あぁ…あの日もそうだった。
せっかくのホタル、にじんで、よく見えなかったっけ…。
僕はあの日、玲美愛(れみあ)がそうしたように、
手のひらを夜空へかざした。
すると、1匹のホタルが手のひらへ降りてきた。
(『ホラ、きれいでしょ?』)
エメラルドグリーンを包んだ玲美愛(れみあ)が、
ささやいた気がした。
手のひらのホタルはそっと、夜空へ飛び立った。
僕の頬から一粒、思い出の雫(しずく)がこぼれ落ちた。
10.たとえ、”初恋補正”だとしても
バスケ部OB戦から5年後。
27歳になった僕は、
新卒で入った会社を1年で辞め、地元へ戻っていた。
仕事の余暇は、社会人チームでバスケを続けた。
僕は自由な環境で花開く選手だったらしい。
大学時代とは別人のように上達した。
あれ以来、彼女はいない。
もてないのは事実。
好きなことで忙しいから、というのは言い訳。
僕は5年経っても、
玲美愛(れみあ)のことが忘れられなかった。
たとえ「初恋補正」でも、未練がましくても、
今でも玲美愛(れみあ)のことが好きだった。
--
それでも人生は続く。
いつまでも過去ばかり見ているわけにはいかない。
だから、玲美愛(れみあ)のことは
美しい思い出にして、何度も前を向こうとした。
だけど、僕にはできなかった。
手のひらにホタルをのせて、ほほえむ彼女の姿が、
目に焼きついて離れないんだ。
(『来年も、2人でホタルを見に来ようね。』)
いつの日か、その約束を果たせるかもしれない。
そんな希望を捨てられないんだ。
たとえ彼女がもう、僕のことを覚えていないとしても。
--
僕はあのとき犯した過ちを、
玲美愛(れみあ)を傷つけてしまった後悔を、
一生、背負って生きていくんだろう。
それでも僕は、
玲美愛(れみあ)と出会えた奇跡という宝物を手にできた。
「もし地元でいじめられなかったら」
「人間関係のリセットを試みなかったら」
「バスケを辞めていたら」
つらい出来事も含めた、当時のすべての分岐点が、
彼女へ導いてくれたんだ。
2人の人生が交わることは、もうないかもしれない。
それでも僕は、大好きなこの言葉を胸に、
残りの人生を歩んでいこうと誓った。
「ほんとうに出会った者に別れはこない」
谷川 俊太郎『あなたはそこに』 より
二度と会えない、最愛の人の幸せを願う。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『彩、凜として空、彩(かざ)る』全5話
【短編小説】『反出生の青き幸』全4話
⇒この小説のPV
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