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2022年12月27日

【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』3

【MMD】Novel Hotaru SamuneSmall1.png

PART2からの続き

ーーーーーーーーーー
<登場人物>
華丘 純白(はなおか ましろ)
 主人公。いじめを苦に、地元から遠くの大学へ進学。

松崎 玲美愛(まつざき れみあ)
 純白(ましろ)の大学の同級生。地元出身。
 女子バスケ部ではあまり目立たない。
 主人公のことが気になる様子。

吉永 悠平(よしなが ゆうへい)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 明るく気さくで、頼れるキャプテン気質。
 男子バスケ部では1年生から活躍。

一条 天音(いちじょう あまね)
 純白(ましろ)の大学の同級生。
 気が強く、面度見がいい。女子バスケ部のまとめ役。
ーーーーーーーーーー

5.初恋から告白へ

5.初恋から告白へ

僕は女バスとの家飲み以来、
バスケ部の外でも玲美愛(れみあ)と会うようになった。

練習が終わった後は、
玲美愛(れみあ)の門限を気にしながら、駐輪場で談笑した。

練習中も、
「こんな姿でも、玲美愛(れみあ)が見てくれている」
そう思うと、自然と力が湧いてきた。

相変わらずヘタで、ベンチ入りはできない。
が、僕は彼女を心の支えに、みるみる体力をつけていった。
いつしか、チームで1番走れる「体力おばけ」に成長していた。

女バス側のコートに目をやると、
たまに玲美愛(れみあ)と目が合った。

彼女もスキル面で苦労していたが、
僕と目が合うと、少しほほえんでくれた。

僕らはそんな奇妙なアイコンタクトで互いを励まし合った。

--

玲美愛(れみあ)は隣の学部で、
お昼休みはよく学生食堂で一緒に食事するようになった。

彼女は「理科の先生になりたい」という夢を語った。
卒業後は地元の教員採用試験を受けるという。


学業も僕よりずっと優秀だった。
僕は共通科目の授業で、苦手な計算系の課題の
わからないところを教えてもらった。

反対に玲美愛(れみあ)は文章を書くのがやや苦手だったので、
僕がレポートの文章作りに協力することもあった。

今まで女子と接する機会もほぼなく、学部に友人もいない僕は、
灰色のキャンパスライフを予想していた。

そんな予想は見事に覆された。
玲美愛(れみあ)と過ごす日々は本当に幸せだった。

--

1年生の後期になると、玲美愛(れみあ)と僕は、
次第に大学の外へも遊びに行くようになった。

地元出身の彼女の案内で、
市内のいろいろな場所を見て回った。

一緒の時間を過ごすうちに、
僕の玲美愛(れみあ)への気持ちは決まった。







僕が大学生になって、初めての年明けを迎えた。

僕の地元はすごく遠い。
バイトはしていたが、旅費が高額なので里帰りしなかった。

大学は冬休み中。
僕は幸い、1年生の必修単位をすべてクリアした。
もちろん、玲美愛(れみあ)に手伝ってもらったおかげだ。

学業にも部活にも、少し余裕が出てきた僕は、
覚悟を決めて玲美愛(れみあ)にこう伝えた。

「今度の部活オフの日、小倉(こくら)行かない?」
「あと、関門海峡の夜景、見てみたくてさ。」


初めての、”市外”へ遊びに行きたいという提案。

もちろん日帰りだが、
門限の厳しい玲美愛(れみあ)に迷惑をかける罪悪感があった。
断られると思っていたが、

『うん!一緒に行きたい!』
『純白(ましろ)君、小倉は初めてでしょ?私が案内するよ!』


意外にも、玲美愛(れみあ)は即答してくれた。

「え?!あ、あり、ありがと…。」

僕は少し裏返った声でお礼を伝えた。

(彼女は当日までに、親と交渉を重ねてくれたんだろうか…?)

僕はそれを玲美愛(れみあ)に尋ねることができなかった。

もしそうなら、そんなハードルを超えてまで、
僕と一緒に過ごしてくれるんだ。


そう思うと、僕は今まで以上に玲美愛(れみあ)に惹かれた。



ローカル線を乗り継いだ先は、初めての九州。

僕らは小倉駅を降り、
きらびやかなファッションビルを見て回った。

玲美愛(れみあ)は家族と何度も来ていて、
お気に入りの店や観光スポットを案内してくれた。

2人で食事したり、ショッピングしたり、
ゲームセンターでぬいぐるみが取れないと悔しがったりした。

それは傍から見れば、どこにでもいるカップルのデートだった。
が、僕は「まだカップルではない」ことが、もどかしかった。

(今日、その関係を進めるために一歩、踏み出す)

なぜ、僕の頭には、「フラれる恐怖」がなかったんだろう。



--



1月の西日が降りてきた。

僕らはローカル線に乗り、小倉から下関(しものせき)へ移動。
ロープウェイで火の山公園の展望台へ登った。

冷たくて、やわらかい空気が僕らを出迎えた。
僕の地元の、刺すような冷気とは違った。

その空気の先には、関門海峡の宝石が待っていた。
僕はあまりの美しさに息を吞んだ。

『わぁ…きれいだね。』

玲美愛(れみあ)は何度か見ている景色だが、
その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「…うん…きれいだね。」

僕はありきたりな言葉しか思いつかなかった。
玲美愛(れみあ)と2人で、この夜景を見られただけで、充分幸せだ。

だが、



--



「今日は本当にありがとう。すごく楽しかったよ。」

僕は夜景に見とれる玲美愛(れみあ)へ伝えた。

『私も楽しかったよ、ありがと。』

心臓の鼓動が、限界突破しそうだ。

「それでさ、この場所で…。」
「どうしても、玲美愛(れみあ)に伝えたいことがあるんだ。」

『…えッ…?』

玲美愛(れみあ)は驚きの表情を見せ、頬が一気に赤らんだ。
目を丸くしながらも、何かを待っていたように、こちらを向いた。

--

「半年間、玲美愛(れみあ)と過ごしてきて、本当に楽しかった。」
「もっと、玲美愛(れみあ)の笑顔が見たいと思った。」
「きつい練習も乗り越えられた。」

「僕…玲美愛(れみあ)のことが好きです!」
「僕と付き合ってください!!」


気の利いた言葉、乙女心を掴むロマンティックな言葉。
僕にはそんなもの、思いつかなかった。

ただ、好きだと伝えたかった。



--



人生初の告白をした僕は、我に返った。

「ごめんなさい」が返ってくるのではないか?
その恐怖に襲われ、彼女から視線を逸らし、うつむいた。

(…ダメ…かな…。やっぱり、こんな自分じゃ…。)
僕の頭は一瞬で自己否定に支配された。



『…純白(ましろ)君…。』



少し震える彼女の言葉で、僕は顔を上げた。
そこには、真っ赤な頬にいっぱいの涙を溜めた玲美愛(れみあ)がいた。

『嬉しい…!ありがとう…!』
『私もずっと、純白(ましろ)君が好きでした…!』
『私でよければ、お付き合いしてください。』


「…あ、ありがとう!これからも…よろしくお願いします!」

『こちらこそ!これからもよろしくね!純白(ましろ)君。』

--

1月の冷たい風の中、
僕らはどちらからともなく抱きしめ合った。

その瞬間、僕の心は、
これまで感じたことのないあたたかさで満たされていった。


それは、人肌のぬくもりをほとんど知らずに育った僕が、
初めて抱いた感情だった。

 (夜景をバックに告白なんて、我ながら格好つけすぎだ。)
 (失敗したら、帰り道はどう過ごすつもりだったんだよ。)

頭の片隅からそんな声がしたが、
今となっては考える必要すらないことだ。

「初恋は実らない」
いつか読んだマンガで、そんな鉄則が出てきたことを思い出した。

(なんだ…初恋…実ったじゃないか。)

--

どれくらいの時間が経っただろう。
すっかり身体が冷えた僕らは、展望台の中へ避難した。

互いの片方の手には、あたたかい缶コーヒー。
もう片方の手は、ぎゅっと握りしめられていた。


帰りの電車内では、僕らは疲れて眠った。
玲美愛(れみあ)は僕の肩に寄りかかり、静かに寝息を立てていた。

僕は眠ったふりをしながら、
降車駅に着くまで、この幸せを嚙みしめた。


ーーーーーーーーーー


PART4へ続く


⇒この小説のPV

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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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