2022年11月26日
【短編小説】『白の国は極東に』2 -最終話-
⇒【前編】からの続き
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<数十年前・旧二ホン領>
ボンッ!!!!!
「キャー!!!」
「助けてください!刃物を持って暴れる人が!」
--
『わ、わかった!今までのことは謝る!』
『いつまで引きこもってくれても構わん。』
『だからこれ以上、殴らないでくれ!家を荒らさないでくれ!』
--
「痛えな!どこ見て歩いてんだお前!」
『お前が歩きスマホで前見てなかっただけだろ!』
「あぁ?!避けないお前が悪いんだろうが!」
「ゲームの邪魔すんな!」
『なんで前見て歩いてないヤツをこっちが避けなきゃいけないんだよ!』
--
ある日、
二ホンのいたるところで”我慢カウンター”の爆発音が響きました。
するとどうでしょう。
昨日までおとなしく、礼儀正しかった二ホン人たちが、一斉に暴れ出しました。
ガシャーン!
『バイオテロリストって言ったヤツはどこだ?!』
「おいお前!マスクしろ!カンセンするだろ!」
『うるせぇな!』
『みんなと同じでなくなることが、そんなに怖いのかよ!!!』
『この国は狂ってる…!』
『”ヨウセイ”?!”カンセン”?』
『カンセンしてるのはお前らだろ!』
『”みんなやってるから病”に!!!!』
『みんな苦しんでるんだからお前も苦しめ?!』
『我慢してみんなに合わせるから苦しいんだろ!』
『いい加減、気づけよ!我慢してないヤツへ嫉妬してる自分に!』
『いい加減、自分で考えて選べよ!』
『自由の不安と、不自由の不満、どっちを受け入れて生きるのかを!!』
「ーー!!!」
……。
ーー
二ホンはとても平和な国でした。
優しい人たちが多く、夜に外を歩けて、水道水が飲める国でした。
ですが、それは本当の優しさではなく、
”みんなやってるから病”の症状だったんです。
一見、我慢して、みんなに合わせることは楽です。
それが幻想であることを、”我慢カウンター”は暴きました。
抑圧された自分。
押し込まれた暴力性。
それが臨界点を超えたあの日、
二ホン人たちは狂ってしまいました。
互いを傷つけ合う者たち。
発狂し、自ら命を絶ってしまう者たち。
跡に残ったのはガレキの山と、優しい二ホン人たちの…。
「我慢で命を落とす人を救いたい」
発明者の願いもむなしく、白い国のいたるところに、
”我慢カウンター”の破片が散らばっていました。
「みんなやってるから」
「常識的に」
「世間体が」
そんな呪いから、最悪の形で解き放たれた二ホン。
どこよりも平和だったはずの国は、
どの列強国に侵略されるでもなく消えていきました…。
ーーーーー
<現在:欧州・とある国>
少年
『ねぇママ。』
母親
「なぁに?」
少年
『最近おとなりに引っ越してきたおじいさん、いつも悲しい顔してるね…。』
『なにかあったのかなぁ?』
母親
「あの人はね、二ホンから逃げてきた人よ。」
「大変な目に遭ってきたから、きっと悲しいの。」
少年
『二ホンって、地球儀の白い国だよね?』
『よかった!みんなしんじゃってなかったんだ!』
母親
「ええ。土地は荒れちゃったけど、脱出できた人もいたの。」
少年
『よかった!』
『ねぇママ、おじいさんを元気づけてあげようよ!』
母親
「ええ。」
ーー
老人
[ありがとうね。おかげで元気をもらったよ。]
少年
『どういたしまして!』
『ねぇおじいさん、二ホンはどうして”みんなやってるから病”になっちゃったの?』
母親
「こ、こら!何を聞いてるの!」
「ごめんなさい!イヤなことを思い出させてしまって!」
老人
[いやいや、構わないよ。]
[そうだね、どうしてだろう…。]
[たぶんみんな、神さまより”世間さま”を怖がってたんだろうね。]
少年
『セケンサマ?神さまじゃないの?』
老人
[そうだね。自分の想像で作り出した他人の目、他人の評価だよ。]
少年
『他人の目、他人の評価が、神さまより怖いの?』
老人
[そうだね…。]
[きみは独りぼっちは怖いかい?]
少年
『うん。怖い。』
老人
[みんなと違ったら、一人ぼっちになるけど我慢しなくていい。]
[みんなと同じにしたら、一人ぼっちにならないけど我慢しなくちゃいけない。]
[きみはどっちがいい?]
少年
『どっちも怖いけど…みんなと違う方がいい!』
『僕は僕だもん!みんなと同じなはずないよ!あッ……!!』
老人
[気づいたかい。]
[きっと二ホン人はね、一人ぼっちが怖かったんだよ。]
少年
『みんなと一緒にいれば、独りぼっちじゃないの?』
老人
[みんなと一緒にいるというだけで、心は独りぼっちだよ。]
[その一緒はみんな我慢して”作られた”ものだからね。]
[我慢してばかりなのに、本当は誰ともつながってなかったんだ…。]
少年
『だから、二ホンの人たちは壊れちゃったんだね…。』
老人
[もちろん、みんなに合わせることも大切だよ。]
[だけどね、それは自分を抑えることにもなる。]
[そのことに自分でも気づけなくなったとき、”みんなやってるから病”にかかるんだよ。]
少年
『…僕は僕のまま生きるよ!』
『おじいさん、話してくれてありがと!』
母親
「本当にありがとうございます。」
「おつらい出来事だったでしょう?」
老人
[なんの。お役に立てて嬉しいよ。]
[どうか、息子さんとご自身を大切に生きてくださいね。]
母親
「ッ…!はい!」
少年
『おじいさん、またね!』
老人
[うん、またね。]
[……さて。残り少ない命の…使い道が決まったな。]
ーーーーー
その後、二ホンの生き残りの老人は世界各地を回り、
自身の体験を語りました。
今はない”二ホン”という国で起きた惨劇
”みんなやってるから病”の恐ろしさ
”我慢カウンター”の発明者の願い
彼のおかげで、何千、何万人もの命が救われました。
彼はその功績が認められ、
世界中から講演会に招かれるようになりました。
彼は病床に伏し、命が尽きるその日まで、
本の執筆をやめませんでした。
彼の遺作となった「白の国・二ホン」は、
後に世界中でベストセラーになりました。
その最大の功労者は、
生前の彼と親しかった、欧州のとある青年だそうな。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『どんな家路で見る月も』1話完結
【短編小説】『恋の麻酔と結婚教』全4話
⇒参考書籍
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