2017年01月16日
もっとシェアして! 胃がんはピロリ菌の除菌で防げる一種の感染症
国立がん研究センターの「2015年のがん統計予測」によると、胃がんは大腸がん、肺がんに続き3番目に罹患(りかん)数が多く、約13万人である。
その胃がんの原因の大部分を占めるのが、「ヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)」による感染であることをご存知だろうか?
ピロリ菌が陽性の場合、除菌すれば胃がんの多くは未然に防ぐことができる。しかし、このピロリ菌と胃がんとの関連性が発見されてから10年以上たった今でも、日本ではいまだに年間約5万人もの方が胃がんで命を落としている。
□ピロリ菌とはどんな菌なのか
強い酸性の胃酸が分泌される胃の中でも生き続けられる「ピロリ菌」は、胃の粘膜に住み着いているらせん状の菌だ。
胃内の尿素をアルカリ性のアンモニアに変える特殊な酵素を出し、周りの胃酸をアンモニアで中和しながら胃の粘膜上を住処にしている。ピロリ菌が分泌するさまざまな毒素や分解酵素は胃粘膜を傷つけて、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍を引き起こし、胃がんとの因果関係も明らかにされている。
□胃カメラを使わない検査方法も
ピロリ菌の検査には内視鏡検査と、血液・呼気・糞便から感染の有無を確認する検査がある。内視鏡検査は胃カメラを使い、すでに病気がないか胃の中の状態を直接観察し、同時に胃粘膜の一部を採取して検査する。
胃カメラを使わない方法では、診断薬を服用してから呼気を集めて診断する検査の精度が最も高い。
□7〜8割のケースが抗生物質で完全除菌!
ピロリ菌の除去治療を行う際は、2種類の抗生物質と、胃酸の分泌を抑える薬を1週間服用する。効果には個人差があるが、1回で菌を完全に除去できるのは平均70〜80%。2回目の投薬では約98%まで上昇し、3回目で投薬に抵抗を持つピロリ菌をも除菌する。
ピロリ菌の感染者は年々減ってはいるものの、50代以上の7〜8割がピロリ菌に感染していると言われている。しかし、ピロリ菌は1度完全に除菌すると再感染は非常にまれであるという。
これまでピロリ菌の除菌治療は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの病気のみに健康保険が適用されていたが、2013年から「慢性胃炎」によるピロリ菌除去も健康保険の対象に加わった。それらのことからも、50代以上の方は1度は検査することが望ましいとされている。
□予防医学がいかに大切か
医療従事者の間では当たり前になっている「ピロリ菌が胃がんの原因になる」というこの事実が、不思議なことに世間ではあまり認知されていない。
自らに菌を感染させるなどの実験をへて、ピロリ菌が胃潰瘍の原因になることを最初に立証したのが、オーストラリア人病理学者のバリー・マーシャル氏とロビン・ウォレン氏だ。2人は、この功績により2005年にノーベル賞を受賞した。
しかし、それから10年以上たつ今でもピロリ菌の存在を知る人は少なく、日本においては胃がんによる死亡者は年間約5万人。そして、日本人の胃潰瘍の罹患率は世界でトップだという。
胃がん発症率はピロリ菌の除菌で3分の1に抑えることができる。胃がんになる前にピロリ菌の検査・治療をしていれば、どれぐらいの人が命を落とさずに済んだのだろうか。がん治療にかかる費用、胃がんの死亡率や胃潰瘍の罹患率の高さを考えると、予防医学の大切さが浮き彫りになる。
内視鏡検査と聞くとつい敬遠したくなる人は多いことだろう。しかし、後々胃がんや胃潰瘍になる可能性が低くないことを考えれば、そうとも言っていられない。また、内視鏡を使わない検査もある。
少しでもがんに苦しむ人を減らせるよう、家族や友人をはじめ、たくさんの人たちとぜひこの知識をシェアしてほしい。