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2018年04月25日
自転車漫画2(四月廿二日)
『アオバ自転車店』の最新の数冊を読んで思ったのは、変わっていないようで変わっているというものだった。舞台となる自転車店もその一家も昔と変わっていないし、自転車を通じて人生の悩みを一つ少なくするというストーリーも健在だった。でも、いつの間にか常連のように登場するメンバーが増えていて、10年前に自転車旅行に出たまま帰ってきていないという設定のお祖父さんが戻って店にいるようになっていた。
長期連載だから連載が続くにつれて10年前がさす年がずれていって、登場する自転車などの面で違和感が出るようになっていたのだろうか。連載が開始された90年代の終わりは、マウンテンバイクがブームで、自転車通勤なんてものが、話題になり始めたころだったから、ロードレーサー系は流行らないものとして扱われていたような気がするのだけど、最近の巻を読むと逆にロードブームのようにも見える。思い出してみると、90年代の終わり何人かの知り合いが、電車での通勤をやめて自転車通勤に切り替えていた。その足として選んだのは、みんなスピード重視のロードレーサーではなく、マウンテンバイク、しかもサスつきだったし。
個人的には、マウンテンバイクのフレームの形状も、太すぎるタイヤも、サスペンションなんてものもあまり好きではなかったので、マウンテンバイクで通勤というのにはあまり心惹かれなかった。周囲にロードレーサーで通勤している人がいたら、思わず手を出していたかもしれないけどさ。当時は安全上の問題とか、保険がどうとかで企業の側も、自転車通勤を積極的に支援するなんてこともなく知人も苦労していたのだが、最近は企業の側も自転車通勤を推進しているみたいで、隔世の感を感じる。
隔世の感といえば、『だからバイク大好き』なんて本を出すところまでいっていたバイクフリークのSF作家高千穂遙が、いつの間にか自転車人間になっていたことである。90年代の終わりにはもう自転車に手を出していたのかなあ。何年か前に発見した「日々是好日」という日記的ブログを読んでいると、ねたはもうほぼ100パーセント自転車だった。最近は猫も増えているのかな。
話を戻そう。お店の常連で定期的に登場する人たちの人間関係も変わっていた。折りたたみ自転車をきっかけに付き合い始めた二人は、いつの間にか結婚していたし、坂を登るための手段として購入したロードレーサーで自転車に目覚めた高校生の男の子は、競輪選手を目指して弟子入りしていた。うーん。個人的にはこのモリオくん、自転車のロードレースを目指すんじゃないかと期待していたのだけど、坂登りに執着する高校生でロードレースとなると、『シャカリキ!』と重なるのを嫌がったのかなあ。
実はこの『シャカリキ!』が、初めて読んだ自転車漫画である。自転車通勤を始めた知人が、すでに連載が終わっていたこの作品を発見して、貸してくれたのである。この作品を読んで自転車通勤を始めたということはないと思うけど、自転車に興味を持つきっかけにはなっていたようだ。あのころは一般の雑誌でマウンテンバイクの特集なんかをやっていて、それを見てあれがいいこれがいいなんてことをわめいていた。でも、最終的に確かフランスのブランドの自転車を選んだのは、『シャカリキ!』の主要登場人物がフランス製のロードレーサーに乗っていたからじゃなかったか。
『シャカリキ!』は、秋田書店のチャンピオンコミックスだったかな。雑誌「少年チャンピオン」は、大手の「ジャンプ」や「サンデー」、「マガジン」辺りでは取り上げられないような日本的にはマイナーな世界を舞台にした作品も掲載していたからこれもそのうちの一つだったのかもしれない。構成的にも、ものすごくよくできた作品で、面白く読んだのを覚えている。ただ最後の山場となったツール・ド沖縄のレース展開が、序盤から中盤まではともかく、終盤の主人公とライバルの一騎打ちになってからの展開が、二人のライバル関係を作品の終わりに昇華させるにはああいう展開に持っていくのが一番だったのだろうというのはわかった上で、ちょっと無理がありすぎるだろうと思わずにはいられなかった。
これ以上思い出そうとすると、再読したくなりそうだからやめておいたほうがよさそうだ。多分hontoあたりで探せば、電子書籍か紙の愛蔵版かで出てくるだろうけど、昔何度も読んだものを新刊と同じ値段を出してまで読みたいとは思えない。レンタにあれば100円か200円かで読むことは可能だけど、時間が経てばまた読み返したくなるのは当然だから手は出しにくい。一番いいのは読みたいという欲求を押さえ込んでしまうことなのだ。
インターネットの発達のおかげで以前とは比べ物にならないくらい楽になったとは言え、日本語の本がいつでも好きなときに買える書店がない。日本語の古い本を探したり廉価に買えたりする古本屋が存在しない。日本語の本や漫画、雑誌を借りられる図書館がない。という三つの点において、活字中毒者にとって海外で生活するのは辛いのである。お金が湯水のように仕えるのであれば、何も気にせず次から次に買うだけだろうけど、日本にいたときのように毎月何万円も本につぎ込むわけにもいかないし、送料やら手数料やらの関係で、つぎ込んだだけの価値のある本が手に入るわけでもないし。
ということで『アオバ自転車店』を数冊読んだだけで我慢して、『シャカリキ!』は諦めることにする。
2018年4月22日23時。