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2017年02月05日
チェコ語を学ぶということは(二月二日)
以前も軽く書いたことがあるが、チェコ語を勉強することで、母語である日本語について深く考えさせられることになった。日本語とチェコ語で違っている部分を理解することが、チェコ語の能力を向上させようと考えたときに不可欠だったのである。
一番最初に意識したのは、チェコ語の先生(チェコ人)に、日本語では、チェコ語と違って、「しませんか?」と聞かれたら、「はい、しません」か「いいえ、します」と答えるんですよねと言われたときのことだ。このときは、チェコ語と同じように「はい、します」「いいえ、しません」と答えると答えたのだが、どうして先生が、日本語とチェコ語で比定疑問文への答え方が違うと思っていたのかが不思議だった。
チェコに来てから、チェコ語を使う中で、変な間違いを繰り返すことによって、日本語でチェコ語と違う答え方をする場合が二つあることに気づいた。一つは、「気にならない?」と聞かれたときで、「うん、気にならない」と答えてしまう。もう一つは、同じ部屋で仕事をしている同僚が不在のときに、人が尋ねてきた場合である。部屋の中に入ってきて、「あの人いないの?」と質問されたら、見ればわかるというか、いないのはわかった上での、ある意味確認のための質問だから、「うん、いない」と答えてしまう。
電話で聞かれた場合には、どうだろう。職場や家庭の共用の電話なら、「あの人いませんか」と聞かれたら、「はい、いますよ」と答えるような気がする。「はい、いません」と答えるのは、やむを得ず、他人の携帯に出たときぐらいだろうか。日本では、自分のも他人のも携帯を使ったことがないので、実際にやってみないと何とも言えないのだけど、チェコ語でやり取りするときに、間違いをやらかす状況と、やらかさない状況を考えると、大きく違ってはいないはずだ。母語というのは、普段は無意識に使っているだけに、いざ頭で考えようとすると難しく感じてしまう。
チェコ語は、英語とは違って、ややこしい時制がないので、日本人には使いやすいのだが、それでも日本語とチェコ語とで使用する時制が違う場面がいくつかある。一番最初に気づいて、一番理解しやすかったのは、日本語では、「まだしていない」という場面で、チェコ語では「まだしていなかった」と言わなければならないことである。
これは、日本語では「していない」という状態が現時点からも継続するととらえるのに対して、チェコ語では現時点で一度時間を切ってしまって、現時点までは「していなかった」ととらえるという違いなのだろう。日本語で「していなかった」という形を使うのは、過去の一時点を指定してその時点では「していなかった」けれども、すでに現時点ではしてしまったという場合、もしくは今してしまうまでは、「していなかった」という場合である。つまり日本語で、「していなかった」というのは、すでにしてしまったことの裏返しなのである。
これについて、日本語の時間は継続し、チェコ語の時間は断絶すると、カッコつけて言ってみたことがあるのだけど、自分でもこれで理解できるのか不安になってしまった。言語学者や哲学者のふりは無理だな。
時制に関して、難しいと言われる完了態と不完了態の区別には、それほど苦労した記憶はない。苦労はしたけど、英語の難解極まる意味不明な時制に比べればはるかに楽なものである(英語を使っていたのは昔のことであまり覚えていないのだが、時制に苦しんだ記憶だけはいつまでたっても消えない)。「やる」とこれからのことを言いたいときには、完了態を使って、今「やっている」の場合には、不完了態を使うという区別で大体乗り切ることができる。
問題は、これからのことを指す時に完了態を使うのか、不完了態を使った未来形という日本人にとってはないほうが幸せな形を使うかなのだが、これも動作の完成を意識するときだけ完了態を使うようにすることで、何とかしている。ただ、日本語で、今から「手紙を書く」なんて言う場合に、手紙を書き上げることを意識しているのか、書くこと自体を意識しているのか、自分でも区別がつかないことが多いので、間違って使っていることも多いはずである。そこはほら、多少の間違いは、外国人なんだから目をつぶってねというのが、楽しくチェコ語を使うコツである。
あれ、これで終わっちゃっていいのかな? チェコ語を学ぶということは、日本語を学ぶということでもあるという結論にしたかったのだけど……。文章を書くってのはやっぱり難しいねえ。
2月3日21時。
2016年10月03日
略語、略称2?(九月卅日)
昨日の続きである。昨日はいくつかの単語の頭文字を並べて略語というか略号と言うかを作るのを取り上げたが、今回は言葉となっているものを見てみよう。昨日出てきた秘密警察StBで働いていた人は、エステーバーク(estébák)と呼ばれていた。最初はStBとestébákの関係がよくわからなかったけれども。
この手の二語以上で構成される言葉を合わせて一つの言葉にして使うというのに最初に気づいたのは、鉄道の駅でのことだった。恐らくは「早い汽車」という意味のリフリー・ブラク(rychlý vlak)から造られた急行列車を表すリフーク(rychlík)という言葉がそれである。これはすでに正しいチェコ語としても認められているようで、駅の構内アナウンスでも普通に使われている。
日本で急行に対して普通列車のことを鈍行というから、チェコ語でも遅いという意味のpomalýから、ポマリークなんて言うのではないかと考えたのだが、実際はそうではなくてオソバーク(osobák)だった。チェコでは普通列車のことを、個人的なという意味の形容詞をつけてオソブニー・ブラク(osobní vlak)と言うのだ。オソバークはまだ正しいチェコ語としては認められていないようで、駅のアナウンスは、必ずオソブニー・ブラクを使っている。
いつだったか、チェコテレビのスポーツ中継で、陸上競技を見ていたら、オソバークという言葉が出てきた。陸上競技で、普通列車の話が出てくるなんてありえないので、いや会場までの移動の話だったら、普通は使わないだろうけど、ありえなくはないのか。とまれ、何のことだろうと考えていたら個人的記録、つまりその選手が出した最高の記録のことだった。オソブニー・レコルト(osobní rekord)がオソバークになったわけだ。
今度は、ハンドボールを見ていたときに、守備側が相手の攻撃の中心選手にマンツーマンのマークをつけたのを、オソブニー・オブラナ(osobní obrana)と言っているのを聞いて、これももしかして、オソバークかなと思ったのだが、残念ながらそうではなく、オソプカ(osobka)が正しかった。ワードの校正機能で赤の波線が引かれているから、オソバーク以上に認められていない俗語になるのかもしれないが、オソブニー・オブラナは女性形だから、それから作られる略称も女性名詞になるべきなのだと納得したのだった。
それで、いろいろこの手の略語というか新語というかを集めて、元が男性だったら男性名詞になり、女性だったら女性名詞になるというルールが適用できることを確認してみることにした。
最初に思い浮かんだのがナークラデャーク(náklaďák)で、これはトラックなどの荷物を運搬するための車を指す言葉である。正しくは、ナークラドニー・アウト(nákladní auto)だから、中性の言葉である。いや、アウトではなく、ナークラドニー・ブース(vůz)という言葉からできたものだと思えば、ブースは男性だからそれでいいのだ。
スポーツなんかの代表チームも、レプレゼンタツェ(reprezentace)という表現もあるが、ナーロデャーク(nároďák)と言われることも多い。チェコ語でチームを表す名詞には、ムシュストボ(mužstvo)とドルシュストボ(družstvo)の二種類あってどちらも中性名詞なのだが、ムシュストボは男性だけのチームにしか使えないので女子チームにはドルシュストボを使うとか、ややこしい区別がある。だから最近は外来語の男性名詞ティームを使うことが増えている。以前は英語の表記のままteamと書かれていたらしいが、最近はチェコ語化した表記でtýmと書かれることが多い。つまり、ナーロデャークは、ナーロドニー・チーム(národní tým)の略なのだ。
自動車免許のジディチスキー・プルーカス(řidičský průkaz)がジディチャーク(řidičák)になるのも、デパートのようなお店オプホドニー・ドゥーム(obchodní dům)がオプホデャーク(obchoďák)になるのも、小学校と中学校に当たるザークラドニー・シュコラ(základní škola)が、ザークラトカ(základka)になるのも、略される前と後で名詞の性が一致しているという点では変わらない。
小学校で女の先生のことをパニー・ウチテルカ(paní učitelka)からパンチェルカ(pančelka)と呼んでいたというのも忘れてはいけなかった。実際には呼びかけの形で「パンチェルコ」と言っていたらしいけど。(この部分10月4日追記)
しかし、同じプルーカスつながりで、チェコ人なら必ず持っている身分証明書を表すオプチャンスキー・プルーカス(občanský průkaz)は、男性形なのに、略語にするとオプチャンカ(občanka)と女性名詞になることに気づいてしまった。どうして、オプチャークとか、オプチャニャークにならなかったのかとは、覚えやすくなるように、こういうのにルールを求めてしまう外国人のチェコ語学習者の性である。
他にもあれこれ思い出してみると、略称は中性名詞になりにくいのか、バスターミナルを表すアウトブソベー・ナードラジー(autobusové nádraží)がアウトブサーク(autobusák)、プラハのバーツラフ広場(Václavské náměstí)が、バーツラバーク(Václavák)、旧市街広場(Staroměstské náměstí)がスタロマーク(Staromák)といずれも略称が男性名詞になってしまう。
この手の略称というものは、普通の授業なんかでは取り上げられることは少ないのだけど、ある程度チェコ語ができるようになって、チェコ語でしゃべっていると、チェコ人たちは、自分たちが普段使っている言葉だから知っているだろうと、普通に使い始めるのだ。もとになる表現に使われている形容詞は想像できるので、何に関係があるかぐらいはわかるのだが、具体的に何をさすかとなると説明してもらわなければわからない。上にも書いたような名詞の性が一致するなんてルールでもあれば、想定もしやすくなるのだけど、言葉の変化に際して、外国人が勉強しやすいようになんてことを考えてくれるわけはないからなあ。くやしいので、何か新しい略語を作って広めてチェコ語にしてやる。
10月2日17時。
2016年10月02日
略語、略号(九月廿九日)
チェコ語でも日本語と同じように、いや、他の多くの言葉と同じように略語、もしくは略号が使われる。これも他の言葉と同じように、いくつかの言葉からできている表現を、それぞれの言葉の最初の一文字をとって一つの言葉、略号にしてしまうことが多い。
日本放送協会がNHKになるように、チェコテレビは、チェスカー・テレビゼ(česká televize)のそれぞれの最初の文字を取ってČT、これで「チェー・テー」と読む。チェコ鉄道は、チェスケー・ドラーヒ(české dráhy)だから、ČDで「チェー・デー」、チェコ共和国は、チェスカー・レプブリカ(Česká republika)で、ČRと書かれる、読むときには「チェー・エル」ではなく、これで「チェスカー・レプブリカ」と読むことが多いようだ。日本の消費税のような税金はDPHで「デー・ペー・ハー」、これはダニュ・ス・プシダネー・ホドノティ(daň z přidané hodnoty)の略語である。
オロモウツやプラハなんかの比較的大きな町に生活していると、MHDというものをよく使うことになる。これは市営の公共交通機関のことで、市が運営しているバスやトラム、地下鉄などをまとめて呼ぶ言葉である。チェコ語では、ムニェスツカー・フロマドナー・ドプラバ(Městská hromadná doprava)である。
共産主義時代の古い映画なんかを見ていると警察の車のドアにVBと書かれているのに気づく。当時のチェコに一般的に警察、チェコ語でポリツィエ(policie)と呼ばれるものは存在せず、ベジェイナー・ベスペチノスト(Veřejná bezpečnost)と呼ばれる組織が、警察の仕事を管轄していたのだ。ちなみに、秘密警察は、StBで、「エス・テー・ベー」と読むが、これはスタートニー・ベスペチノスト(Státní bezpečnost)の略で、SBにはしたくなかったのか、最初の言葉から二文字とっている。さらにこの略号から、エステーバーク、つまり秘密警察の警官なんて意味の言葉まで作られているから、チェコ語の造語力と言うのもなかなかのものである。
この手のチェコ独特の言葉はがんばって覚えればいいだけだが、日本語での英語を基にした略語とチェコ語の略語が異なっている場合は少々厄介である。最初にMOVというのを見たときには、中央官庁の何とか省の略号かと思ったのだが、Mはミニステルストボ(ministerstvo=省)の最初の文字だし、実際は日本ではIOCと呼ばれることの多い国際オリンピック委員会のことだった。チェコ語で、正しくはメジナーロドニー・オリンピイスキー・ビーボル(mezinárodní olympijský výbor)となる。それがわかってしまえば、ČOVがチェコオリンピック委員会のことだというのはわかるのだけど、最初は何のことやらさっぱりだった。
スポーツ関係で続ければ、世界選手権がMS、ワールドカップがSPになるのも最初は不思議だった。日本でMSといえばマイクロソフト社が思い浮かぶし、SPは今となっては懐かしいレコードを思い浮かべてしまう。日本でチャンピオンスリーグからCLと略されるものが、チェコ語ではLM(リガ・ミストルー Liga mistrů)になるのも不思議だった。ELはチェコでもELだけど、昔はPVP(Pohár vítězů pohárů)なんてのもあったなあ。
国際連合、略して国連は、日本では、ごろがよくないのであまり使われないだろうがUNと略されることが多いのかな。しかしチェコ語ではOSN(オルガニザツェ・スポイェニーフ・ナーロドゥー Organizace spojených národů)になる。一方で、ユネスコやユニセフは、ウネスコ、ウニツェフと微妙に発音は変わるけれども、日本語と同じ略称をチェコ語でも使う。
そこで考えた。それぞれのアルファベットを読むものは、チェコ語化して略号を作るけれども、略号を普通の単語のように続けて読んでしまうものについては、英語、もしくは当該の機関で使用している略号を使うのではないだろうかと。NATOも、チェコ語のセベロアトランティツカー・アリアンツェ(Severoatlantická aliance)から、SAとかSAAにしてもよさそうだけど、NATOを使うし。
でも、USAは、ウサではなく、アルファベットを別々に「ユー・エス・エー」と読むから、チェコ語を優先して、スポイェネー・スターティ・アメリツケー(Spojené státy americké)からSSAになってもよさそうだけど、そんなことはなくチェコ語でもUSAだった。問題は、日本語と同じで「ユー・エス・エー」と読むのか、チェコ語風に「ウー・エス・アー」と読むかなんだけど、個人的にはチェコ語で話すときには意地でも後者を使うようにしている。
チェコのこういうチェコ語から略語を作る主義を見ると、日本語でもわざわざ英語から略語や略号を作らなくてもいいのにと思ってしまうのだが、よく考えたら、NHKが日本放送協会をローマ字書きして頭文字をつなげたようなやり方も正直気に入らないからなあ。だからといって、ひらがなで「にほき」なんてのも話にならないし、やはりここは、漢字で「日放協」として、必要に応じてローマ字表記するのがいいのかもしれない。いや、でも何か「日教組」っぽくて嫌だなあ。
ということで、定着してしまってどうしようもないもの以外は、日本語ではこんな略号、略称はできるだけ使わないことにしよう。
10月1日16時。
2016年09月25日
世界選手権とワールドカップ(九月廿二日)
現在アメリカとカナダで、アイスホッケーのワールドカップとかいう大会が開催されている。出場チームは、アメリカ、カナダの北米二か国の代表に、チェコ、スウェーデン、フィンランド、ロシアのヨーロッパ四か国代表、この四か国以外のヨーロッパ選手を集めたヨーロッパチーム、カナダ、アメリカの二十三歳以下の選手を集めた北米チームの八か国が出場している。この大会をワールドカップと呼ぶのは、これまでのチェコ語の言葉の使い方からは、納得がいかない。
毎年行われるアイスホッケーの世界選手権は確か五月に開催されていたはずだし、チェコ語の世界選手権とワールドカップについて、特に調べるまでもなくわかる範囲で、まとめておこうと思う。チェコ語では、ワールドカップは、světový pohár、世界選手権はmistrovství světaである。
では、アイスホッケーと同じように、世界選手権、ワールドカップの両方が開催されているスポーツはというと、思い浮かぶのは個人競技が多い。しかも冬期のスポーツが多いような気がする。アルペンスキーも、ノルディックスキーも、バイアスロンも、自転車のシクロクロスも、みんな個人競技で、冬のスポーツである。
そして、ワールドカップは、シーズン中に世界各地で行なわれるいくつもの大会でのすべてのレースの順位をポイントに換算して、その合計で総合優勝者をはじめ順位を決めるもので、世界選手権は一年に一度決められた場所で開催され、それぞれのレースの優勝者はいても、全てを合計した総合優勝は存在しない。またワールドカップは、所属チームのユニフォームで出場する競技もあるが、世界選手権は国単位の参加で、ワールドカップには出場していない国の選手が出ることもある。
では、夏の個人競技はというと、自転車のマウンテンバイクは、シクロクロスと同様に両方開催されている。ロードレースは世界選手権はあるけれども、ワールドカップはない。その代わりワールドツアーとかいう選ばれた18のチームで構成されるシリーズがあって、ポイントを争っている。
陸上競技も、世界選手権はあるが、ワールドカップはない。各レースの順位をポイント化して合計で順位を争うという意味では、ダイヤモンドリーグが、ワールドカップに近い。ただ、出場選手が少なくポイントを獲得できる選手も少ない点が大きく違う。
団体競技では、国単位のリーグ戦が盛んで、代表の活動をシーズンを通して継続することは難しい。また、個人競技と違って一日で一つの大会を終わらせるなんてこともできない。だから大会ごとのポイントを積み上げて、シーズンの総合成績を出すワールドカップ的なものを開催するのは不可能に近いのだろう。ハンドボールも、サッカーも、ラグビーも、チェコ語では世界選手権しか開催されないのである。
ここであれっと思った人、その疑念は正しい。日本語ではワールドカップと称されるサッカーやラグビーの大会は、チェコ語では世界選手権mistrovství světaなのである。どうして、日本語とチェコ語の呼称にずれが生じているのかについて、検討する余力はないが、スキーなどの個人競技における両者の区別から言えば、世界選手権のほうが適当な名称であるように思われる。日本語で勝手にワールドカップにしたとも思えないから、英語でもワールドカップなのだろうけど。
ちなみにアイスホッケーには、ワールドカップに近いシリーズが存在していて、ユーロ・ホッケー・トゥールの名のもとに、毎年いくつかの大会の成績を合計して総合優勝国を決定している。ただし、参加国が、ロシア、スウェーデン、フィンランドと、我らがチェコのヨーロッパの四か国でしかないことと、大会の順位にポイントを付けるのではなく、それぞれの試合で獲得した勝ち点をそのまま合計して順位を出すところが、典型的なワールドカップとは異なっている。
今回アメリカとカナダで開催されているワールドカップは、以前はカナダカップという名称で、開催されたこともあるというから、大会のフォーマットからワールドカップという名称を選んだのではなく、名称が使われていなかったから使うことにしたとかいうことのような気もする。つまり、英語での名称の選択にルールがないのが問題なのか。
ここまで書いて、自動車やバイクのレースはどうだったろうかと思いついて調べてみたら、チームはあるけれども個人的には個人スポーツで、シーズン中に多くの大会が行われ、個々のレースの順位をポイント化して集計し総合順位をつけるものでありながら、世界選手権になっていた。
ということは、サッカーやラグビーのワールドカップは、英語での名称よりも大会のフォーマットを考えて、世界選手権と訳されたけれども、モータースポーツだけは、大会のフォーマットよりも英語での名称を優先して世界選手権にしたのか。こういう思いがけないところでの用語のずれに、基準がありそうでなさそうな微妙なところが、チェコ語を使うときの難点の一つになる。ただ、チェコ語を使うときには、団体スポーツには国対抗のワールドカップsvětový pohárはないぐらいのことは言えるのかな。
9月23日15時30分。
カテゴリーは悩んだけれどもチェコ語にしておく。9月24日追記。
2016年08月16日
いんちきチェコ語講座(八月十三日) いやらしいEの問題
師匠の話では、古代スラブ語に端を発するというから、チェコ語だけでなく他のスラブ系の言葉でも問題になるのかもしれないが、格変化の際に語幹のEが消えたり、現れたりするというのも、チェコ語を使うときの悩みの種のひとつになる。Eの前後に有声子音、無声子音があると、発音まで変化してしまうし、最初の頃はやめてくれと思ったものだ。いや、今でも時々思うけど。
まずは、消えるEから始めよう。Eが消えるのは、名詞の単数一格がE+子音で終わっている場合である。ただし、この形で終わっている名詞のすべてでEが脱落するわけではないのが、困り者なのである。何かのルールがあるのかないのか、よくわからない。自分なりのルールで使ってうまく行くこともあれば、うまく行かないこともある。
間違えたら失礼になる人名だが、女性の名前は原則としてaで終り、苗字はováで終わるので、問題になるのは男性の名前及び名字である。典型的なチェコの名前でE+子音で終わるものを考えると、Karel、Pavel、Marcel、Danielあたりが思い浮かぶ。このうち前者二つは格変化をすると語幹からEが消えて、二格はKarla、Pavlaになるが、後者二つはEが残ってMarcela、Danielaになる。男の名前の二格は女性の名前じゃないか。ということは、女性の名前と関連付けて覚えれば、人名についてはEが落ちる落ちないの区別ができそうだ。Radekは、Radka、つまり「ラトカ」と発音が変わるし、ヨゼフに対応するのは、ヨゼファもヨスファもないので気をつける必要はあるけど。
最初に例に挙げたのがelで終わる名前ばかりになったので、これで続けると、名字でelで終わるものとしてすぐに思い浮かぶのが、ハベル大統領のHavelである。これは二格でHavlaになる。プラハの飛行場は、バーツラフ・ハベル空港に改称されたが、チェコ語では後から二格でかけるので、letiště Václava Havlaになるのである。
地名だとどうだろう。オロモウツの近くのリトベルは、二格にするとLitovleになる。ということはelで終わるものは、Eが落ちることが多いのかというと、そうも言い切れない。動詞から派生した名詞で人を表すものの中には、telで終わるものがかなりある。これらは、učitel(先生)、ředitel(社長)などEが落ちない。他のtelで終わる名詞に枠を広げていくと、kostel(教会)、hotel(ホテル)、postel(ベッド)など、Eが落ちないものが次々出てきた。だからtelで終わる名詞は、Eは脱落しないというのを、個人的にはルールにして使っているのだけど、例外を発見してしまった。pytel(袋)とkotel(ボイラー)は二格でpytle(袋)とkotleになるのだった。人を表すtelの場合にはEは落ちないというルールにしておこう。
現時点で、確実だと思われるルールを一つ。日本人はチェコ語でJaponecだが、このecで終わる民族を表す言葉は、Eが落ちると断言しておく。Japonecが二格でJaponceになり、Němec(ドイツ人)はNemce、Slovinec(スロベニア人)はSlovinceになる。世界中の民族名について確認したわけではないが、これまでのところecで終わる民族名でEが落ちないものは見たことがない。
他のecで終わる名詞は、kupec(商人)とkopec(丘)は、落ちてkupce(商人)とkopceになる。また、jezdec(バイクを運転する人)とchodec(歩く人)は、それぞれjezdceとchodceで、「イェストツェ」「ホトツェ」とEが落ちるせいで、無声化して読むことになる。ここからecで終わる名詞の場合には、Eが落ちると断言したいのだけど、pecの場合には、Eが落ちないのである。それでも、民族名だけでなく人を表すecで終わる名詞の場合には、落ちるとは言えそうだ。
では、子音+e+子音という三文字でできている名詞の場合にはEが落ちないという仮説を立ててみよう。let(飛行)、led(氷)は、どちらもEが落ちないので行けるかと思ったら、この二つと一格の読み方がほとんど同じで、カタカナで書くと「レット」になるretの二格はrtuになるのだった。それ以前に二格がpsaになるpes(犬)を忘れてはいけなかった。うーん、だめ。
つらつらと例を挙げつつ書いてきて、ちょっと絶望的な気分になる。部分的に適用できるルールは発見できても、日本語の「は」と「が」の使い分けと同じで、100パーセント割り切れそうな、それに基づいて使えば間違いが起こらないというルールはなさそうだ。以前、師匠に質問したときには、いい質問だと言って、嬉々としてあれこれ図まで描いてまで説明してくれた。古代スラブ語の母音と子音の並び方にはいくつかのパターンがあって、その中のこのパターンのときには落ちて、このパターンのときには落ちないという説明だったのだが、さっぱりわからなかった。こんなEがあるかないかを間違えたくないというだけの理由で古代スラブ語なんかに手は出せない。いや、古代スラブ語を勉強するぐらいだったら、間違ってもいいやと思いながら師匠の説明を聞いている振りをしていた。
Eの前後に来る子音を元に厳密に分類したり、名詞の種類や音節の数で分類したりしたら、もしかしたらルールが見えてくるのかもしれない。でも、チェコ語の教科書にさえ、覚えるべきルールとして書かれていないと言うことは、師匠の古代スラブ語を基にしたのと同じぐらい実用的ではない説明になるのだろう。
最後に簡単にEが出てくる場合に触れておく。これはAで終わる女性名詞か、Oで終わる中性名詞の複数二格で起こる問題である。この二つの種類の名詞の複数二格は、語末の母音がなくなる。単数の一格の末尾の母音を取り去ったときに、語末に複数の子音が残ることがある。例えばdivadlo(劇場)は、末尾のoを取ってしまうと、divadlになるが、dlは言いにくいのか、Eを入れて、複数二格はdivadelになるのである。
注意したほうがいいものとしては、studentka(学生)とkamarádka(友達)を例に挙げておこう。この二つの言葉、単数一格では、どちらも「ストゥデントカ」「カマラートカ」と語末を無声子音で読む。しかし、複数二格にするとstudentek、kamarádekとなって、片方は無声、もう一方は有声になってしまう。Eを入れることができるようになってからも、単数一格が「カマラートカ」と無声だから、つづりのことを考えないで複数二格を「カマラーテク」と言ってしまったことが何度もある。
日本人の場合、男性の単数一格はJaponecで、女性はJaponkaである。女性の複数二格はJaponkではなく、 Japonekになる。そうなるとJaponecの間違いじゃないかと誤解してしまいかねないのである。いや、誤解したことがある。
言葉というものが、変化していくものであることを考えると、この手の発音と表記のずれというものは、発音しやすい方向に向かっているはずだ。日本の音便なんかも同じである。だから、Eを落とすか落とさないか、入れるか入れないか、悩んだ場合には両方発音してみて、発音しやすいバージョンを選ぶというのもいいだろう。試行錯誤しているうちにチェコ人の感じる発音のしやすさというものを理解できるようになるかもしれない。
8月15日21時。
いやあ、迷走した。迷走して迷走して、抹消してしまおうかとさえ思ったのだが、やはり恥をさらして今後の糧にする。読む人にはいい迷惑だろうけど。8月15日追記。
2016年08月15日
いんちきチェコ語講座(八月十二日) 有声子音と無声子音のややこしい関係(三)
残ったのは以下の三つの組み合わせである。
Ch / F / ×
H / V / Ř
この中で一番厄介なのは、発音のときと同じで、HとChの組み合わせである。原則はこれまで見てきた他の有声、無声の組み合わせと同じはずなのだが、原則通りに行かないものがかなりある。
Chが無声子音として、前に来る有声子音を無性化するのは原則から外れる例はないと思う。obchod(店)は「オプホット」だし、předcházet(先立つ)は「プシェットハーゼット」で、rozchod(離婚)は「ロスホット」と読む(促音は表記しなくてもいいかも)。bもdもzも、後にあるchのせいで無声化しているのである。
問題はHである。チェコの別れの挨拶は、「ナスフレダノウ」だと言うのはチェコ語を勉強したことのない人の中にも、知っている人も多いだろう。チェコ語で書くと、na shledanou。前置詞のna の後に来るshは、無声+有声の組み合わせで、後にlがあるから、全体を有声で読まなければならないはずである。しかし、省略形の「ナスフレ」も含めて、有声音で発音するチェコ人は見たことがない。
だからと言って、この組合せが絶対に無声化するかと言うと、そんなこともなく、shora(上から)は、「ズホラ」と発音される。でもね、一文字違いのテニスの40-40のときに使われるshodaは「スホダ」なのか「スホダ」なのか、注意して聞いてもよくわからない。shrnout(要約する)は、「ズフルノウト」と有声で発音されているが、shánět(手に入れる)は「スハーニェット」で無声化するような気がする。だからHの前に無声音がある場合には、大半はSだと思うが、念のために発音の確認をしたほうがいい。
ただしHの問題はこれで終わりではない。本来ならば絶対に有声音になるはずの、有声+Hでも、無声で発音されているのではないかと疑ってしまう例があるのだ。ラグビーの反則で、日本ではノッコン、スローフォワードと呼ばれるものが、チェコ語では両方まとめてpředhozになるのだが、テレビのアナウンサーや、解説者の話を聞いていると、どうも「プシェットホス」と言っているように聞こえる。原則に従えば、「プシェッドホス」と読まれるはずなのだが。
こういうややこしさも、チェコ語の発音の中で一番厄介なのがHとChだと言う所以である。これに比べたら、発音が多少難しいだけのŘも、似た音を区別して発音する必要のあるRとLも、可愛いものである。HとChに関しては、完全にできなくても当然、ある程度できれば万々歳ぐらいの気持ちで取り組むのがよさそうだ。
次はFとVである。この二つのうち、チェコ語ではなぜかFが使われる単語は少なく、F+有声の組み合わせも、有声+Fの組み合わせも、聞いたことがない。無理やり捜せば出てくるのかもしれないが、そんな滅多に使わない言葉の発音を覚えてもしかたがない。有声子音と一緒に出てきたときに考えればいいだけの話である。
それに対して有声子音のVのほうは、Fの分もあるんじゃないかと言いたくなるぐらいたくさん出てくる。V+無声、無声+Vのうち、前者は原則通り、つまり後に来る無声子音の影響を受けて全体を無声で読む。včera(昨日)は「フチェラ」で、všechno(すべて)は「フシェフノ」になる。子音が三つ並んだ場合でも、例えば、vzpomenout(思い出す)のvzpは最後のpの影響で全体が無声化して「フスポメノウト」と発音される。
しかし、無声+Vは、原則どおりには行かない。Vは有声で発音するが、前の無声子音を有声化することはないのである。だからtvůj(お前の)は原則に従えば「ドブーイ」となるはずだが、tは無声音のままで「トブーイ」と発音しなければならない。ただし、ポーランド語ではVは前に来る無声子音の影響を受けて無声化するらしく、ポーランドとの国境地帯、シレジア地方のチェコ人たちの方言では、この言葉は「トフーイ」と発音される。初めて聞いたときには豆腐と関係があるのかなどと頓珍漢なことが頭に思い浮かんだ。女性形の「トフォイェ」とか、二格の「トフェーホ」とか、発音するのがつらいような気もするんだけど。
最後のŘは、無声子音が後にある場合だけでなく、前にある場合でも、無声化するという特徴を持つ。だからBřeclavは「ブジェツラフ」で、Přerovは「プシェロフ」になるのである。
さて、Ř+無声という組合せがあっただろうかとしばし考えて、職業を表す名詞の女性形がいくつもあることに気づいた。lékař(医者)やkuchař(調理師)などのようにŘで終わる男性の職業を表す言葉は多い。それにkaをつけると女性形になるのだけど、kの影響で、「レーカシュカ」「クハシュカ」と無声で発音されることになる。複数二格はEが入って、「レーカジェク」「クハジェク」と有声に戻るのだけど。
Řは発音自体は大変だけど、対応する無声子音を表すアルファベットがないおかげで、発音が無声になっても、耳で聞いてつづりを間違う心配はない。いや、あるのだった。日本人はŘをジャ行、シャ行の音で聞き取ってしまうために、Ž、Šと混同してしまうことがある。男はチェコ語でmužだから職業の男性形がž終わっても不思議はないと思うんだけど……。
この有声、無声の問題は、それぞれの子音の発音を覚えるだけではなく、格変化にも気を配らないとならないので、特に勉強し始めのころは大変である。そのうちに発音とつづりが頭の中で一致して、格変化にもある程度は対応できるようになるのだけど、対応できるようになったつもりでも、間違えることはなくならないのである。はあ。
8月13日23時。
2016年08月14日
いんちきチェコ語講座(八月十一日) 有声子音と無声子音のややこしい関係(二)
念のために、有声子音と無声子音の対応表もどきを改めて掲げておく。
K S Š T Ť P C Č / Ch / F / ×
G Z Ž D Ď B × × / H / V / Ř
無声子音と有声子音が連続する場合、原則として後の子音の属性が優先される。つまり、無声+有声の場合には、全体が有声になり、有声+無声の場合には、全体が無声子音の連続として発音されるのである。気を付けなければならないのは、無声+有声が語末にある場合には、語末の有声子音が無声化するルールに基づいて、全体が無声化することである。ただし、この原則が完全に適用できるのは、最初の/までの八組の対応である。
ややこしいので、細かく例を挙げよう。KとGの場合には、チェコ語の疑問詞の中にkdで始まるものが多いのに気付いている人も多いだろう。kdo(誰)、kdy(いつ)、kde(どこ)、いずれも後にくるDのせいで有声化して「グド」「グディ」「グデ」と読むのである。同じKで始まる疑問詞でも母音が間に入った kudy(どこを通って)は、「クディ」と読む。ちなみにスロバキア語ではこの連濁をきらったのかDの代わりにTが使われていて誰は「クト」になる。Gの後に無声子音が来る例は思いつかない。
Sが有声子音のせいで有声化するものとしては、sběrač(集めるもの)がある。考えてみたら、「スビェ」なんて発音はしにくいから、発音がしやすいように「ズビェ」になったのかもしれない。反対にZが無声になるのは、zpátky(元に)を上げておけば問題なかろう。これも「ズパ」は言いにくいなからあ。
ちなみに、日本語ができるチェコ人が、日本語の「ですが」を発音するときに、「す」の母音Uを省略してしまい、さらにチェコ語の発音ルールを適用して、「でずが」と言うことがある。ローマ字で書くと、desugaがdesgaになって、gのせいでsが「ズ」と読まれてしまうのだ。かなり上手な人でも、気を抜くとやってしまうらしいので、日本語のできる知り合いがいたら確認してみよう。外国語の発音が難しいのは日本人にとってだけではないことがわかって、チェコ語の勉強が少し楽になるかもしれない。
Šの後に有声子音がくる言葉は思い浮かばないが、Žの無声化としては、プラハから作られた形容詞pražskýがある。žは後に来るsとkが無声子音であるために無声化して、「プラシュスキー」と読まれるのである。
Tはもう、fotbal(サッカー)を上げるしかない。これ、「フォトバル」と読んではいけない。tの後にbがあるので、「フォドバル」と読むのが正しい。svatba(結婚)のtba部分も同じで「スバドバ」である。Dの後に無声子音が来る例は、dcera(娘)があるのだけど、最初のDを発音しているのかどうか、日本人の耳には聞き取れない。それから形容詞のnadšený(熱狂的な)の場合には、dšeで「トシェ」ではなく「ッチェ」と発音しているようでもある。こういう文章を書いていると自分の耳の悪さが恨めしくなるなあ。
Ť +有声、Ď+無声の組み合わせは、あるかもしれないけど思い浮かばない。まあ原則はハーチェクなしと同じである。
Pが有声化するのは、見たことも聞いたこともないが、Bが後に来る無声子音で無声化するのは、結構よくあって、「オプサフ」と読むobsah(内容)を挙げておけば十分だろう。それから格変化した場合の例も思いついた。obec(村などの自治体)は、一格では「オベツ」と有声で読まれるが、格変化をしてobceとなると、無声化して「オプツェ」と読まれることになる。Bが後に来る無声子音のせいで無声化するのは、ハプスブルクもそうだから、ドイツ語にも見られる特徴なのかもしれない。あれ、でも、チェコ語で書いたらHabsburkだ。ということは、bsbという子音の連続が有声子音で終わっているから、規則に従えば、「ハブズブルク」と読むはずだぞ。外来語だから気にしなくてもいいの、か、な。
Cが有声化する例はないと書きかけて、leckdoを思い出した。ただこの言葉、lecが接頭辞として強く意識されるせいか、「レズグド」ではなく、「レツグド」と読む人もいるようである。lecと言えば、昔、Lecjaksという名字をどう読むのかで悩んだなあ。これはlecを分けて読む感じで「レツヤクス」だったかな。cjaで「チャ」と読んでよさそうな気もするのだけど。
Čが有声化するのは、昔なかなか覚えられなかった言葉léčba(治療)がある。「レージュバ」と言えなくて、「レーチュバ」と言っていたんだよなあ。ビール通の友人に指摘されるまでは。
ハプスブルクやプラシュスキーの例からもわかる通り、有声、無声がまじりあって三つ以上連続する場合も原則は、同じである。一番後にある子音、別な言い方をすると、母音か有声でも無声でもない子音の前にある子音が有声か無声かで、全体の読み方が決まるのである。
簡単にまとめておくと、有声子音が、無声化するほうが子音単独の場合なども含めて多いので、覚えやすいはずだ。無声子音が有声化するのは、後に有声子音が来たときだけなので、そんな単語が出てきたときには、つづり、意味と合わせて発音も意識して覚えることが大切なのだろう。最近流行りのぺちゃくちゃ喋れればいいや的な語学学習では、チェコ語は身につけられないのである。
例外的な発音のルールのあるHとCh、FとV、Řについては、有声と無声が一緒に出てくる例としては挙げなかった。次回はこの五つの子音の発音のルールについて説明をして、今回の発音シリーズの終わりにする。
8月11日23時。
2016年08月13日
いんちきチェコ語講座(八月十日) 有声子音と無声子音のややこしい関係(一)
カ行、サ行などが無声音で、ガ行、ザ行などが有声音だと言われると、それなら日本語にもあるので、あまり問題がないような気がする。ただ日本語にはない問題として、有声子音が無声で発音されたり、無声子音が有声で発音されたりすることがある。無声が有声化すること自体は、日本語にも連濁という現象があるので、それほど大きな抵抗はないのだけど、連濁が起こる規準と位置が違う。
例によってチェコ人たちは、明白なルールがあるというのだが、例外も多い。下に無声子音と、有声子音の対応表みたいなものを作ってみた。×は発音は存在するが対応するアルファベットがないことを示す。末尾の三つの組み合わせは、それぞれ例外的な使い方をするので/で分けておく。
K S Š T Ť P C Č / Ch / F / ×
G Z Ž D Ď B × × / H / V / Ř
まず、これらの子音の後に、母音が来る場合と、この表にない子音、たとえばM、Nなどが来る場合には、それぞれの子音をそのまま発音すればいい。だからzáda(背中)は「ザーダ」になるし、 zmrzlina(アイスクリーム)は「ズムルズリナ」になる。
それから、語末に来た場合には、無声子音は無声のままだが、有声子音は無声子音で発音する。これに関しては例外はない。だから、hradは「フラッド」ではなく、Chebも「ヘブ」ではないのだ。この問題は日本語でも語末に濁音が来る場合に、末尾の母音が発音されなくなって、濁音なのか清音なのかわからなくなることがあるのを思い出せは、他の言葉でも起こりうるということは理解できるだろう。バッグとバック、ベッドとベット、間違えてしまったことのある人は多いはずだ。
ただし、この二つのルールに関しては、これだけで終わりではない。チェコ語の名詞には各変化がある。つまり母音が付いたり落ちたりするのだ。だから、各変化をして母音が付くと、語末の子音が再び有声化して、例えば二格なら、「フラドゥ(hradu)」、「ヘブ(Chebu)」になってしまう。このことは、チェコ語の学習には単語のつづりを覚えることが欠かせないことを示している。耳で聞いただけでは、有声子音で書くのか無声子音で書くのか理解できないのだから。
この語末の無声化を覚えると、チェコ語に入った外来語の中で、日本語ではグで終わるものが、すべてクで終わるのが理解できると思う。ミーティングはミーティンク、トレーニングはトレーニンクになってしまうのである。おそらく、チェコ語に入ってきた当初は、Gで表記されていたはずだが、現在では表記も発音にあわせてKになっているのではないだろうか。二格以降も、派生語を作るときもKのまま格変化させるはずである。
英語teamは、日本語でもチームと書くか、ティームと書くかで問題になるが、チェコ語では、かつては、外来語であることを意識させるためかteamと書いていたはずである。それが、いつの間にか発音に合わせてtýmと書かれるようになっているし、外来語に対しては発音にあわせた表記を求める圧力がないわけではないようだ。だから、本来のチェコ語の語彙でも、というわけには、格変化もあるから、いかないのだろう。それなら表記に合わせてteamを「テアム」と読むようにしてくれれば、笑えるからよかったのに……。
話を戻そう。この問題で忘れてはいけないのが、女性名詞と中性名詞の複数二格である。格変化というと語末に母音を付け加えたり、語末の母音を変えたりするというイメージが強いが、この二つの場合には、母音が落ちるのである。žena(女性)の複数二格はženであり、 město(町)はměstになる。この二つは、最後の母音の前が有声子音ではないので、問題はないのだが、chyba(間違い)はchybとなり語末は「ブ」ではなく「プ」と発音され、 zádaはzadとなるのである。本当にチェコ語が聞いて理解できるようになるためには、「ヒプ」と聞いて、語末のプがPとは限らず、Bかも知れないことに思い至れるようにならないといけないのだ。
こう書くと死ぬほど大変そうだけど、よく使う単語に関しては、そのうちに慣れてしまうからあんまり問題はない。あんまり使わない単語の場合には、多少勘違いをしてしまったとしても、笑い話で済むし、勘違いできるところまで語彙が増えたことを喜んでもいいぐらいだ。単語知らなきゃ勘違いもできないんだから。
次は子音が連続する場合である。無声子音が連続する場合には、すべて無声で発音するからこれは問題ない。pták(鳥)のptもstudentka(女学生)のstもtkもすべて無声で発音すればいい。有声子音が連続するときのルールは、有声子音が単独の時と同じである。だから後ろに母音のあるdvěře(ドア)のdvと BřeclavのBřは、どちらも有声で読むし、後ろにrがあるzdraví(健康)も「ズドラビー」と読むのである。それに対してzájezdのように語末にある場合には、「ザーイェスト」と無声で読む。格変化に気を付けなければならないのも同じで、女性名詞単数一格のmzda(給料)は、「ムズダ」と読むが、複数二格はmezdとなって(eについてはいづれ)、「メスト」と読むことになる。
滅多にないけれども、有声子音ばかり、無声子音ばかりが三つ連続する場合も、同じルールを適用すればいいだけだ。例としては、有声子音が連続するvzduch(空気)と無声子音が連続するpstruh(マス)を上げておこう。
ここまでは、上に掲げたすべての有声子音、無声子音に適用できるルールである。それで、最後の問題が、有声子音と無声子音が一緒になっている場合なのだが、長くなったので、またまた分割させてもらうことにする。
8月11日15時30分。
2016年08月11日
いんちきチェコ語講座(第?+1回)HとChの発音(八月八日)
チェコ語の発音で一番厄介なのは、チェコ人の誇りŘでも、日本人が英語でも苦しんでいるRとLの問題でもなく、実はHとChの区別である。普通のアルファベットでは区別しきれない子音を表記するために、付加記号ハーチェクを使用するチェコ語において、唯一二つのアルファベットを組み合わせて表記するChの音は、チェコ語の教科書によれば、有声音Hに対応する無声音だという。
有声音、無声音というと、何だかわかりにくいが、日本語の五十音表で、カ行やサ行などの濁点をつけることができる音が無声音で、ガ行やザ行などの濁点がついているものが有声音だと考えれば、大きな間違いではない。ただ問題になるのがハ行で、パ行が無声音、バ行が有声音の組み合わせになり、濁点も半濁点もないハ行は浮いてしまうのである。この有声音と無声音の組み合わせに関する発音の困難さもチェコ語にはあるのだが、それについては稿を改める。
例によって日本語の発音から考えてみよう。日本語のハ行の子音は、実は一つではなく三つある。ハ・ヘ・ホの音と、ヒの音と、フの音を発音するときの舌の位置、息の使い方が違うのはわかるだろう。あとはこの中からチェコ語のHとChに近いものを選んで、意識的に発音する練習をするだけだ。まず、日本語のフの発音は、チェコ語を使うときには忘れてしまおう。HでもChでもないのは、もちろんFの音でもないのだから。とは言え、無意識にやってしまうのだけど。
ハ・ヘ・ホを発音するときの舌の位置を確認すると、下のほうにあって、口の中には大きな空間があるはずだ。これがチェコ語のHの音に近いので、舌をこの位置においたまま、ヒとフと発音する練習をして、できるようになったらハヒフヘホを日本語のヒとフが出てこないように発音する練習をする。Hの子音だけの発音は、チェコ語の特質上、語末で子音Hだけを発音することはないので、単独ではなく、hradなどの別の子音の前に来る単語で練習したほうがいい。hradは日本語で書かれた教科書で最初に勉強する男性名詞不活動体硬変化の例として使われる言葉だし、Rの練習にもなるしちょうどいい。
ヒを発音するときには下の先端は下に下がるが、中間は上に盛り上がって、口の中の空間は、ハと発音するときよりも、狭くなっているだろう。この音が、チェコ語のChに近い。日本語ができるチェコ人の「ヒ」の発音が、ときどき母音が消えてChだけになってしまうこともあるので、ほとんど同じだと言ってもいいのかも知れない。
とまれ、このヒと言うときの舌の位置で、ハヒフヘホという練習をするのだが、注意するのはヒャヒヒュヒェヒョと拗音化しないようにすること。拗音化しても、Hとの違いは出せるので、そんなに気にしなくてもいいような気もする。こちらはHと違って語末などでも使われる音なので、子音だけを単独で練習してもいいけど、子音だけを発音するのは難しいから、形容詞の複数の二格など、活用語尾によく出てくる「ých」で練習するのがいいだろう。息を吐きながら「イー」と長く発音し、舌の先端を上に曲げて息の流れを止めてフと言う練習である。
舌の位置なんか意識して発音できないと言う場合には、Hを発音するときには、口の中の奥のほうで音を作ることを意識して、Chは前のほうで音を作る意識をして発音するといい。この説明だと却ってわかりにくいかもしれないなあ。とまれ、Chを発音するときに、あまりに前で音を作ると日本語のフの音になってしまうので注意が必要である。
以上のようなことを考えながら、発音をし分けているのだが、完全に正しい発音をしているかどうかは、チェコ人のみぞ知るである。そしてRとLの場合と同じく、自分の発音を耳で聞いて、聞き分ける自信はまったくない。普段話すときに問題なく使えている言葉であっても、つづりを覚えていないと、どう書くのかわからず、メールなんかで使うたびに辞書を引くなんてこともある。当然チェコ人の発音を聞いても、区別はできない。
それにHとChは有声音と無声音のペアをなしているので、理論上は、HをChで、ChをHで発音しなければならない場合も出てくる。そもそも、日本語のハの音とヒの音の関係が、カとガ、サとザなんかの関係と同じだと認識すること自体が、不可能に近い。その分、RとLの問題よりも厄介なのだ。
さらに日本人にとって厄介なのは、カタカナ表記をどうするかという問題である。ハ行に関る音の中でFの音は、まったく同じにはならないがフで、母音が付く場合にはファフィフフェフォで書き表せばいい。HとChの音をどう表記するかが問題である。
個人的には、日本語のカタカナ表記は子音だけを音写するときにはウ段のカタカナで書くという原則があるので、どちらもフで書いて、母音が付いたものもハヒフヘホで書き表すようにしている。ただHの子音をハやホで書く人もいるし、Chをヒで書く人もいる。自己流の表記法でも、カタカナのフは、いくつもの音に対応させることになるので、カタカナ表記からチェコ語の表記に戻すのが大変である。ルビつきの教科書を使っていると、チェコ語の単語をアルファベットではなくカタカナで覚えていることもあるし。カタカナ表記というものは、便利なものではあるのだけど、厄介な部分もあるのだ。
8月10日10時。
RとLより難しい分、書くのも難しかった。8月10日追記。
2016年08月10日
いんちきチェコ語講座(?回目)RとLの発音(八月七日)
金曜日にサマースクールに来ている知人とリーグロフカで、ジェザネー・ピボを飲んでいたら、チェコ語の発音について書くように求められたので、またまたいい加減なことを書き散らしてみる。ジェザネー意外ときれいに分かれていたし。
チェコでも日本人のRとLの発音の問題は知られているようで、サマースクールの発音矯正教室の日本人向けのプログラムでも取り上げられるほどである。ただ、ここで気をつけなければいけないのは、外国語イコール英語の日本では、日本人はRの発音ができないと言われるが、チェコ人にとって日本人のラリルレロはRに聞こえることが多いという事実である。
多いというのは絶対だとは言い切れないからなのだが、日本人のラ行の音の発音は個人差が大きいし、同じ人でも言葉によってばらつきがあって、厳密にいえばチェコ語のRでもLでもない音を発音している。私自身の場合には、RとLの中間で発音するのか、チェコ語で話すときに、あまり意識しないで発音をすると、Rに聞こえる場合もあれば、Lに聞こえる場合もあるようだ。腹が立つのは大体間違ったほうに聞いてくれることなんだけど。
だから、RとLの発音を区別するためには、まず自分の日本語で普通に話すときのラ行の音が、チェコ人にはどちらに聞こえるのか、聞こえやすいのかを確認しておく必要がある。聞こえやすい音のほうはとりあえず日本語風に発音しておいて、もう一つの音を発音するときに、意識して違う発音をすれば、完全に正しくはなくても聞き分けてもらえる発音はできるようになる。チェコ人だってある程度の個人差はあるのだから、これで満足してしまってもいいだろう。
問題は、言葉によって発音のばらつきがある場合で、その場合には両方意識して発音しないといけないので、最初はちょっと大変かもしれない。私自身も多分英語などの勉強でRとLの発音を学んでしまったせいだと思うが、何種類かの発音を無意識に使い分けているようである。ラ行の音の位置によっても違うし、しゃべり方によっても違うような気がする。気がするとか、ようだというのは、自分の発音を自分の耳で聞いても違いがよくわからないからだ。
それで、ラ行の音を発音するときの舌の位置に注目してみた。上の前歯の裏側の先端から付け根にかけての部分に下の先端を当てて発音する場合、もっと上の部分に当てる場合、当てずに口蓋部との隙間を狭くする場合があるかな。そして、舌をゆっくり意識して動かす場合と、息を吹き込むような感じで舌先を勢いよく動かすような場合があるんじゃないかな。音韻学の専門家ではないので、こんな説明でいいのかどうかはわからないが、RとLを意識して発音し分けなければいけないときには、この感覚を基にしている。
Lを発音するときには、舌を前目の位置、前歯の裏側ぐらいに当ててゆっくり引き離しながら発音する。ゆっくり過ぎたり、離さなかったりすると、ワ行の音に近づくようなので注意が必要かな。多分これを突き進めるとポーランド語のLにハーチェクの付いた子音になるんじゃなかろうか。ポーランドの川の名前が「ビスラ」だったり「ビスワ」だったりするのも、昔は「ワレサ」だった人物の名前が「ワウェンサ」になったりするのもLとWの間の音だからなのだろうか。ちなみにチェコの一部の方言でもLの音をワ行に近い音で発音するところがあって、チェコ人でも聞いて理解するのが大変だという話を聞いたことがある。
Rのほうはもう一つの極端、つまり舌の位置を後ろに下げて、もしくは口蓋に当てることなく、息を吹き込むことで舌の先端を動かすことで発音する。どうしても巻き舌っぽくしたいときには、舌を曲げて先端をできるだけ後ろに持っていってから発音するようにしているのだが、正しく巻き舌の音になっているかどうかは、発音している本人にはわからない。
こんな感じで、必要な場合には、そして表記がわかっている場合には発音し分けているのだけど、チェコ人の耳にはどう聞こえているのだろうか。自分では音が違うような気はしても、聞き分ける自信はまったくない。
そうなのだ。RとLの発音の問題は、いや、一般に発音の問題は、自分自身がどう発音するかだけでは終わらないのだ。他人の発音を聞いてRなのか、Lなのか、聞き分けられるようになって初めて、RとLの発音の問題が解決されたと言える。しかし、これはRでもLでもラ行の音で聞き取ってしまい、外来語として受け入れる場合にもラ行のカタカナで済ませてしまう日本語を母語としている我々には、至難の業だろう。特別に耳のいい人なら可能かもしれないけど。
日本ではチェコ語の教科書にもカタカナでルビが振ってあるから、ついついカタカナで日本語のラ行で発音してしまう。最近はRをひらがなで表記して、Lとの区別をするという工夫がなされた教科書もあるようだが、これはどう考えても逆だろう。RとLを比べるとLのほうが軟らかく発音されるのだから、軟らかいひらがなで表記したほうがよさそうだ。ここにも日本人ができないのはRの発音だという思い込みがある。
個人的には、このRとLの聞き分けは諦めた。諦めて、自分の知っている語彙から文脈によって判断することにしている。カタカナで書いたら同じ「フラット」になっても、hrad(城)とhlad(空腹)は、使われる場面がまったく違うので、聞こえてきたのがRかLかなんてあんまり気にしなくてもいい。問題は、知らない言葉が出てきたときと、耳で覚えてつづりを知らない言葉が出てきたときなのだが、その場合には、もう外国人である特権を生かして、質問するだけである。
以上が、我がRとL問題に対する姿勢なのだけど、リクエストには答えられているだろうか。
8月8日12時。
確か黒田龍之助師の著書にRの前に、TとかPをつけて発音の練習をすると、Rの音が発音しやすいということが書いてあった。ただね、私みたいな人間が、そればっかりやっているとね、plzeňがprzeňになって、tlakがtrakになってしまうことがあるのだよ。8月9日追記。
楽天でも購入できるようになっていたので、キャンセルになる可能性はあるとは書いてあったけど、下巻は楽天ブックスのものを載せる。