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2016年08月15日

いんちきチェコ語講座(八月十二日) 有声子音と無声子音のややこしい関係(三)



 残ったのは以下の三つの組み合わせである。
 Ch /  F /  ×
 H  /  V /  Ř

 この中で一番厄介なのは、発音のときと同じで、HとChの組み合わせである。原則はこれまで見てきた他の有声、無声の組み合わせと同じはずなのだが、原則通りに行かないものがかなりある。
 Chが無声子音として、前に来る有声子音を無性化するのは原則から外れる例はないと思う。obchod(店)は「オプホット」だし、předcházet(先立つ)は「プシェットハーゼット」で、rozchod(離婚)は「ロスホット」と読む(促音は表記しなくてもいいかも)。bもdもzも、後にあるchのせいで無声化しているのである。

 問題はHである。チェコの別れの挨拶は、「ナスフレダノウ」だと言うのはチェコ語を勉強したことのない人の中にも、知っている人も多いだろう。チェコ語で書くと、na shledanou。前置詞のna の後に来るshは、無声+有声の組み合わせで、後にlがあるから、全体を有声で読まなければならないはずである。しかし、省略形の「ナスフレ」も含めて、有声音で発音するチェコ人は見たことがない。
 だからと言って、この組合せが絶対に無声化するかと言うと、そんなこともなく、shora(上から)は、「ズホラ」と発音される。でもね、一文字違いのテニスの40-40のときに使われるshodaは「スホダ」なのか「スホダ」なのか、注意して聞いてもよくわからない。shrnout(要約する)は、「ズフルノウト」と有声で発音されているが、shánět(手に入れる)は「スハーニェット」で無声化するような気がする。だからHの前に無声音がある場合には、大半はSだと思うが、念のために発音の確認をしたほうがいい。

 ただしHの問題はこれで終わりではない。本来ならば絶対に有声音になるはずの、有声+Hでも、無声で発音されているのではないかと疑ってしまう例があるのだ。ラグビーの反則で、日本ではノッコン、スローフォワードと呼ばれるものが、チェコ語では両方まとめてpředhozになるのだが、テレビのアナウンサーや、解説者の話を聞いていると、どうも「プシェットホス」と言っているように聞こえる。原則に従えば、「プシェッドホス」と読まれるはずなのだが。
 こういうややこしさも、チェコ語の発音の中で一番厄介なのがHとChだと言う所以である。これに比べたら、発音が多少難しいだけのŘも、似た音を区別して発音する必要のあるRとLも、可愛いものである。HとChに関しては、完全にできなくても当然、ある程度できれば万々歳ぐらいの気持ちで取り組むのがよさそうだ。

 次はFとVである。この二つのうち、チェコ語ではなぜかFが使われる単語は少なく、F+有声の組み合わせも、有声+Fの組み合わせも、聞いたことがない。無理やり捜せば出てくるのかもしれないが、そんな滅多に使わない言葉の発音を覚えてもしかたがない。有声子音と一緒に出てきたときに考えればいいだけの話である。
 それに対して有声子音のVのほうは、Fの分もあるんじゃないかと言いたくなるぐらいたくさん出てくる。V+無声、無声+Vのうち、前者は原則通り、つまり後に来る無声子音の影響を受けて全体を無声で読む。včera(昨日)は「フチェラ」で、všechno(すべて)は「フシェフノ」になる。子音が三つ並んだ場合でも、例えば、vzpomenout(思い出す)のvzpは最後のpの影響で全体が無声化して「フスポメノウト」と発音される。
 しかし、無声+Vは、原則どおりには行かない。Vは有声で発音するが、前の無声子音を有声化することはないのである。だからtvůj(お前の)は原則に従えば「ドブーイ」となるはずだが、tは無声音のままで「トブーイ」と発音しなければならない。ただし、ポーランド語ではVは前に来る無声子音の影響を受けて無声化するらしく、ポーランドとの国境地帯、シレジア地方のチェコ人たちの方言では、この言葉は「トフーイ」と発音される。初めて聞いたときには豆腐と関係があるのかなどと頓珍漢なことが頭に思い浮かんだ。女性形の「トフォイェ」とか、二格の「トフェーホ」とか、発音するのがつらいような気もするんだけど。

 最後のŘは、無声子音が後にある場合だけでなく、前にある場合でも、無声化するという特徴を持つ。だからBřeclavは「ブジェツラフ」で、Přerovは「プシェロフ」になるのである。
 さて、Ř+無声という組合せがあっただろうかとしばし考えて、職業を表す名詞の女性形がいくつもあることに気づいた。lékař(医者)やkuchař(調理師)などのようにŘで終わる男性の職業を表す言葉は多い。それにkaをつけると女性形になるのだけど、kの影響で、「レーカシュカ」「クハシュカ」と無声で発音されることになる。複数二格はEが入って、「レーカジェク」「クハジェク」と有声に戻るのだけど。
 Řは発音自体は大変だけど、対応する無声子音を表すアルファベットがないおかげで、発音が無声になっても、耳で聞いてつづりを間違う心配はない。いや、あるのだった。日本人はŘをジャ行、シャ行の音で聞き取ってしまうために、Ž、Šと混同してしまうことがある。男はチェコ語でmužだから職業の男性形がž終わっても不思議はないと思うんだけど……。

 この有声、無声の問題は、それぞれの子音の発音を覚えるだけではなく、格変化にも気を配らないとならないので、特に勉強し始めのころは大変である。そのうちに発音とつづりが頭の中で一致して、格変化にもある程度は対応できるようになるのだけど、対応できるようになったつもりでも、間違えることはなくならないのである。はあ。
8月13日23時。


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