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2017年09月29日

女性名詞硬変化――チェコ語文法総ざらえ(九月廿六日) 



 副題がまた変わったような気もするが細かいことは気にしてはいけない。男性名詞については一通り復習し終わったので、しかもこれまで勘違いしていたことにも気づけたし、次は女性名詞の番である。その中でも今回は母音「a」で終わる硬変化を取り上げる。女性名詞であれっと思うかもしれないのは、活動体はないということである。男性では厳しく分別しなければならなかった生きているものと、いないものの区別は女性名詞にはない。
 この硬変化の女性名詞も日本でチェコ語を勉強すると最初に出てくるものなので、覚えてしまって間違いにくいのだが、そのせいで「a」で終わる名詞はすべて女性名詞の硬変化だと思い込むという間違いをしてしまうこともある。いやしてしまったのだけど、特に人の名字は、本来が女性名詞になる言葉であっても、男性を指す場合には男性名詞になる。女性の名字は原則として「オバー」をつけるというのを忘れてはいけないのである。

 とまれ、この女性名詞の硬変化、特に単数の変化は日本人には覚えやすい。日本人の中でも国語文法が得意だった人には、順番と数はちょっと違うけれども、動詞の五段活用みたいなものだといえば、その覚えやすさがわかってもらえるだろうか。動詞の五段活用は、未然形から命令形まで行ってもう一度未然形に戻って二つ目の形を使うと、語尾が「あ・い・う・う・え・え・お」 になる。それに対して、チェコ語の女性名詞硬変化の単数の語尾は、一格から「あ・い・え・う・お・え・おう」となる。これも一般に例として使われる「žena(=女性)」の格変化を掲げておく。

1格 žen-a
2格 žen-y
3格 žen-ě
4格 žen-u
5格 žen-o
6格 žen-ě
7格 žen-ou


 注意が必要なのは二格で、硬変化の語尾「い」は「i」ではなく、「y」で書かれるのである。チェコ語では「i」と「y」はどちらも母音で、原則として発音は同じである。「i」は軟子音に接続し、「y」は硬子音につけるため、「i」を軟らかい「い」、「y」を硬い「い」と呼んで区別している。また、「t」「d」「n」の後にはどちらも使えるが、どちらを使うかで発音、母音の発音ではなく子音の発音が微妙に変わってくる。日本人には発音し分けるのも大変だし、聞き分けるのはさらに大変だけどさ。

 それから3格と6格で子音が変わってしまうのも忘れてはいけない。「žena」の場合には、「ženě」なので、換わっていないようにも見えるが、「ně」の子音は「n」ではなく、「ň」である。「t」「d」「n」のように、「e」にハーチェクをつければいいものを除くと、子音が変わってしまうのは「ka→ce」「ha→ze」「ga→ze」「cha→še」ぐらいである。「p」「b」のように後に「ě」が付けられるものもハーチェクをつけると覚えておくといい。それに対して「s」「z」のように子音にハーチェクがついて「ě」が付けられないものは、そのまま「e」を使う。
 仮に3格、6格で子音を変えるのを忘れてしまっても、あまり気にすることはない。間違えてしまって指摘された場合に言い訳をしたかったら、「スロバキア語と交じっちゃった」と言っておけばいいのだ。スロバキア語というのは、全体的にチェコ語よりも発音がやわらかいくせに、ところどころ硬い発音が出てくるからたちが悪い。普段「ネ」ではなく、「ニェ」もしくは「ニエ」と言っている口から、「マトケ」(matkaの3格)とか、「フ・プラヘ(=プラハで)」なんて硬い語尾が聞こえてくると、チェコ語になれた耳が落ち着かないのである。

 この音、特に格変化の語尾の硬い、軟らかいというのが感覚的にわかるようになったら、チェコ語に対する感覚が鋭くなってきたと喜んでいいのだと思う。そのためにスロバキア語を勉強する必要はないけれども、たまに聞いてチェコ語の発音と比べるのも悪くない。その意味でもスロバキア人の意外と多いオロモウツはチェコ語の勉強にいいのである。

 とこれで終わりそうになってしまったが、複数の変化も忘れてはいけない。

1格 žen-y
2格 žen-
3格 žen-ám
4格 žen-y
5格 žen-y
6格 žen-ách
7格 žen-ami


 複数では、1、4、5格が同じ形になるものが多いが、女性名詞の硬変化も同様である。注意が必要なのは、2格で語尾の母音が消えることである。一般に名詞が子音で終わるのは男性名詞の単数1格だが、女性名詞と中性名詞にも、複数2格が子音で終わるものがあるのだ。そして、語尾の母音を取り去った後、末尾が二つの連続する子音となる場合には、二つの子音の間に「e」が出現する。
 例えば、女学生を意味する「studentka」は、語尾の「a」を取ると「studentk」となるが、「e」を追加して、複数二格は「studentek」となるのである。子音が三つ連続する「mzda」の場合には、一つ目と二つ目の間に出現して「mezd」となる。これも最初は覚えるのが大変だけど、そのうちに感覚的にどの言葉の複数2格に「e」が必要になるかがわかるようになる。時間は、もちろんかかるけどね。それはもう、嫌になるほど。

 7格で「mi」が出てくるのは形容詞の複数7格などと共通で、複数七格の特徴となるから(そうならないものも多いけど)覚えておいたほうがいい。プラハ方言、いや普通の話し言葉かな? では、ここが「ženama」と「ma」になってしまうが、自分では使わないことにしている。こういうくだけた表現を外国人である自分が使うのがいいことだとは思えないのだ。我がチェコ語を築いてくれた師匠にも申し訳ないし、受け狙いで使うなら、今ではあまり使われなくなった古い表現の方がずっと気が利いている。
2017年9月28日18時。




チェコ語のしくみ新版 [ 金指久美子 ]






2017年09月27日

牛の話(九月廿四日)



 日本語では一つの言葉でまとめて表すのに、チェコ語では、全く違ういくつかの言葉が必要になることがある。例えば、ワニや蜂は、チェコ語に対応する言葉がなく、アリゲーターやクロコダイル、ミツバチやスズメバチなど個別の種類を表す言葉を使わなければならないのである。他に例を挙げろと言われても困るのだけど、特に蜂に関しては、日本語ではわかっていても、あえてミツバチと言わないことが多いので最初は苦労させられた。
 普通の動物でもオスとメスと子供をそれぞれ別の言葉をで表すのだが、猫のように「コツォウル」「コチカ」「コチェ」など共通する要素があればまだしも、同じ動物のことを指しているとは思えないものも多い。鶏を表す「コホウト」「スレピツェ」「クジェ」なんて、肉にしてしまえば全部「クジェ」の肉だというものだと思っていたら、「コホウト」「スレピツェ」を使う料理があったりするから困りものである。
 そんな困りものの中でも、困るのが牛(馬も困るけど話の都合上取り上げない)である。牛肉という場合には「ホビェジー」と言っておけばいいから、いや子牛の「テレツィー」もあるけど、そんなに大変ではない。生きている牛の場合に、「ビーク」「クラーバ」「ブール」「テレ」「スコット」「ヤロベツ」などあって、「テレ」が子牛という以外、はっきりとは区別は覚えていない。「クラーバ」は女性の悪口に使うから、牝牛かな。

 そうなのである。チェコ語では牛を表す言葉が、悪口として使われることが多いのである。「テレ」もちょっと頭の回転が悪いというか、もたもたしているような人に対する悪口(それほど悪意が強いというものでもなさそうだけど)になるが、何と言っても一番よく使われるのは、「ブール」である。もう悪口だとも、本来の形が「ブール」だとも意識されていないのではないかと思われるぐらい、特に若い世代によって濫用されている。
 二人称単数の人称代名詞と組み合わせた「ティ・ボレ」は、本来恐らく「馬鹿野郎」的な使い方をされていたはずだが、今では驚いたときに口からこぼれる言葉になってしまっている。失敗したりまずい状況に追い込まれたりしたら、キリスト教的な「イェジシュ・マリア」を使うけど、どちらかというといい意味で驚かされたときに「ティ・ボレ」を使っているように見える。自分では「イェジシュ・マリア」は使うけれども、「ティ・ボレ」は使えないので断言はできないのだけど。

 以前、まだチェコ鉄道が使っている電車の車両がおんぼろばかりでペンドリーノなんて影も形もなかったころに、ウィーンに出かけたことがある。ブジェツラフでチェコ鉄道のボロボロの薄汚れた車両が使われた急行を降り、オーストリア鉄道の普通列車に乗り換えようとしてみたら、もうチェコ側とは雲泥の差の新しい車両が使われた二階建ての電車だった。当時チェコにも二階建ての車両自体はあった。あったけれどもいつ車両の外側を掃除したのだろうと言いたくなるぐらい汚れに汚れていて、二階の部分に座っても窓から外の景色が見えるような代物ではなかった。
 そんなオーストリアの電車に驚いて、日本のものと比べたら驚くほどでもなかったのだが、チェコの鉄道に慣れ始めていためにはヨーロッパにもこんな電車があるのだと驚きだったので、うちのにこんなきれいな電車をチェコ語でなんていえばいいのか尋ねたところ、帰ってきた答えが「ティ・ボレ・ブラク」であった。うーん、それでいいのか。驚きの電車、驚くべき電車なんて意味なんだろうけど、今の若者言葉で言うと「やべえ」電車なんてことになるのかな。やっぱ自分じゃ使えんな。

 そして、「ティ」がなくなった「ボレ」だけでも使われるのだけど、こちらはもうほとんど会話の際の間投詞化していて意味などそこにはない。若い人や、年配の人でも工場で働いてるおっちゃんとかあんまり品がよくない言葉を使う人たちが自分たち同士で話すときに濫用していて、聞こえてきた話が全く理解できないことがある。だって、ひどいときには単語一つ使うごとに「ボレ」が入るんだよ、「ボレ」しか聴き取れなくなってしまう。

 驚いたのは、というか、この普段は使われているけれども、それについて話題になることはあまりない「ボレ」が、一躍時の言葉になったのは、十年近く前だっただろうか。サッカーの一部リーグのネット中継がきっかけだった。当時はチェコテレビとサッカー協会の共同プロジェクトで、テレビで中継される試合も含めて、全試合ネット上で無料で視聴できるようになっていた。
 確かテレビで放送されたスラビアの試合だったと思うのだが、チェコテレビのアナウンサーは、正確さではアイスホッケーのザールバに負けるけれども、表現の豊かさでは余人の追随を許さないヤロミール・ボサーク師匠で、解説者がおじいさんという感じのターボルスキーだった。この二人がハーフタイムの休憩時間に話している様子が音声だけネット中継で流れたのだ。

 その二人の会話の中に、特にボサーク師匠の発言に「ボレ」がひんぱんに登場して、チェコ中を驚かせたのである。正確には覚えていないけれども、「グド・ボレ・ナヒスタル・ボレ・タコボウ・スムロウブ・ボレ? カレル・ボレ・ヤロリーム・ボレ」とか何とか。文の意味はわからなくてよろしい。大事なのは「ボレ・ボレ」言っていることである。
 普段は中継の初めに「ズドラビーム・バーム・フシェム・ファニンカーム・ア・ファノウシュクーム・フォドバレ(サッカーファンの皆さんに挨拶申し上げます)」なんて言葉を使っているボサーク師匠が「ボレ」を使っているのだから自分も使うべきかと一瞬考えてしまったぐらいである。頭の中で、ボサーク師匠の「ボレ」を使った文を自分が行っているのを想像して、あまりの似合わなさに使えなかったのは、今にして思えば幸いだった。

 さて、チェコ語を勉強していて、若い男の子同士の会話が聴いても理解できないと思っている人は、「ボレ」を抜いてつなげてみると理解できるようになるかもしれない。それはともかく、チェコ語の会話に最もひんぱんに登場する動物は、牛、牛の中でも「ブール」の5格である「ボレ」だということは、統計など取らなくても確実だと断言できる。本来の意味は失われているけど。
 「ティ・ボレ」も、ただの「ボレ」も、チェコ人動詞の会話を理解するためには、知っていた方がいい言葉ではあるけれども、自分では使わないほうがいい言葉でもある。受けを取る必要がある時に使う手もなくはないけど、リスクの方が大きいかなあ。それならまだ、「クリストバ・ノホ」と言った方がいいような気がする。相手によっては「ティ・ボレ」と返されそうだけど。
 自転車操業はまだまだ続きそうである。
2017年9月26日23時。


 



2017年09月18日

如何に名詞の性を誤認せしか、或は男性名詞活動体落穂拾い2(九月十五日)



 前回も触れたhttps://studentmag.topzine.cz/11-slov-ktera-spousta-lidi-sklonuje-spatne-nechybujete-v-nich-i-vy/で、ゼウスの格変化の次に、間違えやすいものとして取り上げられているのが、「génius(=天才)」である。人間を指し子音で終わっているので、男性名詞の活動体である。これも多少特殊なので紹介しておいた方がよかろう。

1格 géni-us     géni-ové
2格 géni-a     géni-ů
3格 géni-ovi    géni-ům
4格 géni-a     géni-e
5格 géni-e     géni-ové
6格 géni-ovi    géni-ích
7格 géni-em     géni-i

 「-us」で終わる名詞は、それを取っ払ってから格変化の語尾を付けるのである。語尾は硬変化と何変化を混ぜ合わせたような変なものになっているが、これは「i」と「y」を連続させられないチェコ語の規則によるもので、硬変化で「y」の語尾が出るところだけ軟変化の語尾を取るのである。具体的には複数の4格と7格である。単数は硬変化で、複数は軟変化と考えてもいいか。(4格の語尾は「e」だった。9月28日修正)

 あれ、「-us」で終わる名詞は原則として中性名詞じゃなかったっけ。「génius」が男性名詞ってことは、他の「-us」で終わる名詞も男性という可能性もあるのかなと不安になって、辞書で確認してみたら……。共産主義は男性名詞だった。「komunismus」などの「ismus」で終わる名詞は、「us」を取って、男性名詞硬変化の語尾をつけるのである。

1格 komunism-us
2格 komunism-u
3格 komunism-u
4格 komunism-us
5格 komunism-e
6格 komunism-u
7格 komunism -em

 何とか主義ってのにもゼウスと同じで複数形はないだろうけれども、同じように「-us」を取ってから格変化する名詞に「glóbus(=地球儀)」がある。こちらは複数の可能性はあるわけだけど、外国人が地球儀について話す機会がそうそうあるとも思えない。むしろありそうなのは地球儀ではなくスーパーマーケットのグローブスである。
 その「グローブスに行く」と言う場合に、地球儀と同じ格変化であれば、「Jdu do Globu」となるはずなのだが、実際には「Jdu do Globusu」と言われることが多いようだ。これは「o」が長母音か短母音化という微妙なものであるとはいえ、つづりが違っていて別単語だと認識されているからかもしれない。地球儀とスーパーは別物という論理なら、アルベルトの人名とスーパーが別物扱いにならない理由がわからない。

 では、どうして自分がこの手の「-us」で終わる名詞を中性だと勘違いしていたのかを考えると、これはもう外来語で数も多くないために、チェコ語の教科書でも最後のほうで扱われているからだと言うしかない。最初のほうで勉強した名詞については、勉強の際にも繰り返して書いて覚えたし、使う機会も多いので、勘違いしていてもすぐにそれに気づいて直せる。しかし、最後のほうで付け足しのようにして勉強したことは、繰り返しの回数が足りていないし、普段使う機械もほとんどないため、間違いを訂正する機会が少ないのである。
 教科書で「-um」で終わる中性名詞と一緒に説明されていたのも勘違いの原因である。同じ外来語で、1格の語尾をとった上で各変化させるという点でも共通しているところから、一まとめに説明がなされるのだろう。そのことの是非を云々する気はないのだが、「muzeum(=博物館)」の印象が強すぎて、「-us」で終わる名詞まで中性だと思い込んでしまったのである。

 思い返せば、ずっと昔の話になるが、何かで人前で日本について話をさせられたときに、共産主義の二格を「komunismu」ではなく、中性風に「komunisuma」とやって、間違えていると言われたんだったか、方言と同じ形だと言われたんだったかしたことがある。今回間違いに気づくまではすっかり忘れていたけれども、あのときも、共産主義を初めとする何とか主義は男性名詞だと改めて覚えこもうとしたはずである。それでもまた中性だと思い込んでしまったのだから、最初の思い込みというものは簡単には消えないものである。

 これで、今度こそ男性名詞の各変化について、書くべきことはすべて書いたはずである。またなんか変なのが出てきて追加で書くことになるかもしれないけど、昨日今日の記事に書いたことも含めて、例外中の例外ということになるから、間違えたとしても、いや、覚えられなかったとしても特に気にすることはない。この手の外来語の格変化は、チェコ人の中にも怪しい人が結構いるものだし、完璧に覚えられたら凄いぐらいの気持ちでいればいい。外国人が日本語で「き」と「けり」を使い分けられるぐらい凄いという喩えを思いついたのだけど、こんな喩えじゃあ却ってわかりにくいよなあ。
9月17日16時。






2017年09月17日

如何に名詞の性を誤認せしか、或は男性名詞活動体落穂拾い1(九月十四日)



 飲み屋の名前に使われる「U+2格」について書くために『チェコ語の隙間』をぱらぱらとめくっていたら、ついつい関係ない文章まで読みふけってしまって、肝心の記事を書くのが進まなくなってしまった。黒田師の文章には、読み始めると止まらなくなるという魔力がこもっている。翻って我が文章を顧みるに、道はまだまだ、果てしなく遠い。
 ポーランド語にあるという男性名詞人間形が、チェコ語の男性名詞活動体とどう違うのかも気になったけれども、「ひなどりと伯爵」という文章に、それがあったかと思わず声を挙げそうになってしまった。ここまで男性名詞活動体についてあれこれ書いてこれ以上書くことはないと思い込んでいたのだが、伯爵が残っていたことに気づかされたのである。伯爵だけじゃなくて侯爵もだけどさ。

 チェコ語で爵位を持つ人を表す言葉は、公爵が「vévoda」、シュバルツェンベルク氏を呼ぶのに使われる侯爵が「kníže」、伯爵が「hrabě」、男爵が「baron」で、子爵は知らん。すべて男性名詞活動体で、公爵と男爵については、問題ないはずである。しかし、侯爵と伯爵については、「e」で終わるからと言って、「soudce」と同じ格変化にはならないのである。
 この二つの名詞は、中性名詞の「kuře」と同じような変化をする。それが「ひなどりと伯爵」という文章に書かれていることである。「kuře」は、鶏のヒヨコと成鳥の中間ぐらいの、ブロイラーでつぶして肉にするようなレベルの成長度合いのものをさす。ちなみにヒヨコには指小形の「kuřátko」を使うことが多い。
 ここで中性名詞の格変化表を紹介しても意味がないので、「hrabě」の格変化を紹介すると、以下のようになる。

1格 hrab-ě
2格 hrab-ěte
3格 hrab-ěti
4格 hrab-ěte
5格 hrab-ě
6格 hrab-ěti
7格 hrab-ětem

 厄介なことにどこからかTが出てきてそれに語尾を付けることになるのである。男性名詞の活動体でありながら3格と6格の語尾に「-ovi」が出てこないのは注意が必要である。中性名詞の「kuře」との違いは4格で、中性名詞は必ず1格と同じになるが、男性名詞の活動体なので2格と同じ形をとる。
 さらに厄介なのは、単数では男性名詞活動体であるが、複数になると中性名詞扱いとなり、格変化だけでなく前につく形容詞なども中性名詞につくときの形にしなければならないことである。単数と複数で姓が変わるものとしては、単数では中性で「kuře」と同じ変化をする「dítě(=子供)」が複数では女性名詞になることを知っている人もいるだろうが、伯爵は男性から中性に変わるのである。
 幸いなのは伯爵型の男性名詞活動体がほとんど存在しないことである。いや、固有名詞を除けば伯爵と侯爵の二つしかないはずだし、こんな時代錯誤な言葉は滅多に使うものではないので、覚えていなくても仕方がないのだと、失念していたことを自己弁護しておく。

 ただし、伯爵もそうだが、中性名詞の「kuře」型の変化をする言葉が、特に動物の子供をさすものが多いのだけど、姓として使われていることがある。もちろん男性を指すのでその場合には、「kuře」ではなく、伯爵と同じように格変化させなければならない。女性の名字について言えば、男性の「Dítě」さんが女性の「Dítětová」さんになり、「Hrabě」さんが「Hrabětová」さんになるというように、名字の女性形を作る際にもTが出てくるのである。これについては例外もあるらしいけれども。
 こんなの覚えたくないという人は、この手の名字の人とは知り合いにならないか、名字を拒否して名前で呼び続けるしかない。

 こんなことを考えていたら、男性名詞活動体にはさらにとんでもないものがあるのを思い出した。それはギリシャ神話に出てくる神様ゼウスの格変化である。男神なので男性名詞活動体なのは問題ないのだが、1格から2格以降の変化が全く想像もできないのである。2格以降は普通の男性名詞活動体と同じだからそれはいいのだけど、ゼウスが格変化したものだとは思えない。複数が存在しないのをこれほど喜びたくなる名詞は他にはあるまい。

1格 Zeus
2格 Di-a
3格 Di-ovi
4格 Di-a
5格 Di-e
6格 Di-ovi
7格 Di-em

いかがだろうか。母音に格変化の語尾の母音が直結しているあたりも気持ち悪いと感じる人がいるかもしれない。それは多分チェコ語の格変化になじんできた証拠である。こんな気持ちの悪い母音の連続は原則として外来語にしか発生しない例外なのだから。
 ゼウスなんて言葉は、チェコ語でギリシャ神話について読んだり話したりしない限りは必要のない言葉である。チェコ人でも知らない人もいるだろうから、嫌がらせに質問してみるのも楽しい。

 このゼウスの格変化を確認するために使ったのが
https://studentmag.topzine.cz/11-slov-ktera-spousta-lidi-sklonuje-spatne-nechybujete-v-nich-i-vy/
で、これを見ていて、自分の勘違いに気づくことになるのだが、これについては稿を改めることにする。
9月15日17時。





2017年09月11日

飲み屋の名前――名詞の問題(九月七日)



 我が愛読書のひとつ、黒田龍之助師の著書『チェコ語の隙間』に、「ビアホールとレストランの生格」という文章が収録されている。チェコのビアホールやレストランの店名に、「〜のそば」という意味を表す前置詞「u」に、名詞の生格、つまりは2格をつけた名前が多いという話である。そして、後に来る名詞は、レストランや飲み屋の入っている建物の前面の装飾に使われているものである場合が多い。
 オロモウツにも、ドルニー広場に「U Červeného volka」という名前のレストランがあって、お役さんが来たときに、よく使うのだけど建物の前面には赤い牛の木像(?)が前半身を突き出している。黒田師の伝で行けば「赤牛亭」、もしくは「赤べこ亭」とでもなるだろうか。他にも昔、大学でチェコ語を勉強していた頃にしばしば出かけた「U Huberta」なんて、お店もある。チェコにはよくある名前の付けかたなのだけど、使われる前置詞は「u」だけではない。

 閉鎖される前は毎月一回は通っていたレストランは「V Ráji」で、ホテルは今でもその名前で営業している。これも「天国亭」とか「楽園亭」なんてことになるのだろうか。それにドルニー広場には「Pod Limpou」というレストランがあって、昔広場にザフラートカを出していた頃は、その部分を「Nad Limpou」と称していた。地下にあるお店が「Pod」で、地上にあるのが「Nad」というのはうまいと思ったものだ。名前のもとになっている「Limpa」はチェコ人も知らない言葉で、お店の人によるとビールを醸造するときに使う道具の一つなのだそうだ。
 街の中をレストランや飲み屋の看板を見て歩けば、他にも同じようなつくりの名前のお店を発見することができるだろう。見て回るだけならこれでいいし、日本人と日本語で話す場合にも、「ポド・リンポウに行こう」とか言えばいいから、問題はない。問題はそれをチェコ語で言う場合である。

 チェコ語の前置詞は必ず名詞の前に来る。間に形容詞などが挟まることはあっても名詞節の前につくのは変わらない。だから、前置詞の前に前置詞を使うことはできないのである。この件に関して、日本人でチェコ語を勉強する人が、最初にぶつかるのが、日本語では何の問題もなく言える「百年前まで」という表現であろう。チェコ語では、「前」も「まで」も前置詞で表現するため、文字通りに表現できないのである。「do před stoletím」とかやってしまいたいけど、駄目なのである。
 それで、「20世紀の初めまで」とか、「100年前に」とやって動詞を変えるとかするしかないのだが、自分が言いたいこととは違ってくるような気がして、今ではそんなチェコ語的にややこしいことは言わなくなってしまった。

 レストランの名前も同じで、「Jdeme do V Ráji」なんて言うと、チェコ語としては正しくないと言って怒られてしまう。「V Ráji」で名詞扱いになるのではなく、「V」はあくまで前置詞という扱いになるのである。もちろん、「Jdeme do restaurace V Ráji」と言えば正しい文になるのはわかっている。チェコ語の授業で作文するのだったらこれで不満はない。でも普段しゃべるには、なんともまだるっこしい言い方じゃないか。
 では、チェコ人がどう言うかと言うと、店の名前の前置詞を方向を表すものに変えてしまうのである。即ち「Jdeme do Ráje」となる。同様に「Pod Limpou」も、場所を表す「pod+7格」から、方向を表す「pod+4格」に変えて、「Jdeme pod Limpu」と言う。見てわかるようにお店の名前が変わってしまうのである。「u」の店名だって、「k+3格」に変えることになるだろうし、「ポド・リンポウに行こう」が「ポド・リンプに行こう」ぐらいだったら大した違いじゃないとは言えるけれども、「ブ・ラーイ」が「ド・ラーイェ」じゃ、同じお店の名前だはと思えない。

 そうなると、やはり「jít」ではなく、「být」を使うしかない。「ブ・ラーイに行こう」は、「Budeme V Ráji」で、「ポド・リンポウに行こう」「ウ・フベルタに行こう」は、それぞれ「Budeme Pod Limpou」「Budeme U Huberta」である。それでも、目で見れば前置詞が大文字になっているので店の名前だということがわかるけれども、耳で聞くと店の名前だとわからないこともあって、前置詞が変わるのに比べればましなんだけどねえ、なんだか納得のいかない気持ちになってしまうのである。
 でも、考えてみたら、チェコ語で「行く/来る」よりも、「いる」の未来形を使うことが多いのも、店の名前とは違う形を使わなければいけなくなるのを嫌ったからだとは、考えられないだろうか。そう考えられるのなら、ここに書いた、外国人に対スリ嫌がらせとしか思えないチェコ語のややこしさも少し許せるような気がしてくるのだけど、違うだろうなあ。
9月10日10時。




チェコ語の隙間 東欧のいろんなことばの話 [ 黒田竜之助 ]









2017年09月10日

地名の迷宮――名詞の問題(九月七日)



 またチェコ語に関することについてコメントを頂いた。忘れていたチェコ語の厄介な部分に触れられていて、読んでいて、そうだねえ、そんな問題もあったねえと懐かしさを感じてしまう。最近は無意識に、正しく、かどうかはわからないが、使っているし、問題を避ける方法も知っているので、完全に忘れていたけれども、まじめにチェコ語を勉強していたころは、納得がいかなくて師匠に駄々をこねるような質問をしていたのだった。
 コメントで指摘されている問題は、男性名詞の活動体が地名やお店の名前となった場合にどのように格変化させるのかということである。女性名詞が男性の姓として使われるようになると、男性名詞として扱われるようになるのだから、活動体の名詞が不活動体であるはずの地名として使われた場合には、不活動体扱いになると考えるのが自然である。しかし、チェコ語はそんなに甘くない。

 古くからある人名に起源をもつ地名の場合には、それほど神経質になる必要はない。大抵の場合には、「ヨゼフ」からできたプラハのヨゼホフ、「ネザミスル」からできたネザミスリツェなど、語尾を付けて人名から派生した地名となっているため、活動体として扱われることはない。お店の名前なんかでも、例えば「シャント」だか「シャンタ」だかからできたオロモウツのショッピングセンターのシャントフカは女性名詞として使われる。まあ、男性名詞活動体が地名だと女性名詞になる「ボレスラフ」なんてのもあるけれども、これは例外である。
 問題になるのは比較的新しい地名で、男性名詞の活動体がそのまま使われているものである。それで思いつく地名が、プラハのスミーホフの一地区であるアンデルぐらいしかない。昔悩まされたのは、地名ではなくスーパーマーケットのチェーンの名前「アルベルト」だった。これももとは人名だというので、活動体扱いされるらしく、同じスーパーでもビラだったら普通に、「Jdu do Billy(ビラに行く)」と言えるのに、アルベルトの場合には違う前置詞を使って、「Jdu k Albertovi」と言わなければならなかったのである。

 師匠に覚えるのが面倒くせえと言うと、スーパーマーケットという単語を前に入れてそれだけ格変化させろと言われた。つまり、「Jdu do supermarketu Albert」と言えば問題ないというのである。ということで格変化に自信がないときには、一般名詞を使ってそれを格変化させて、お店の名前や地名なんかは変化させずに使うようにしている。これは、日本語の地名などの固有名詞を使うときにも適応できるので重宝している。
 「北海道に行きます」なんてのを、チェコ語にするときに、チェコ語に存在しないオの長母音で終わる名詞の格変化なんて考えたくないし、北海道の性もわからないから、北海道の前に、「島」という言葉を入れてしまうのである。そうすれば北海道の格変化なんか考える必要はない。九州、本州、四国なんてのも格変化のさせようはあるのだろうけど、チェコ人ならぬ身にはとっさに思いつかない。ということで、「北海道に行きます」は、チェコ語で、「Jedu na ostrov Hokkaidó」と言えば、格変化なんぞしなくてもいいから、外国人にも優しいのである。

 では、コメントに頂いた「昨日はAndělのショッピングセンターに行きました」について考えてみよう。「Anděl」がショッピングセンターの名前なら、アルベルトなんかと同じなので、「Včera jsem šel k Andělovi」、もしくは「Včera jsem šel do nákupního centra Anděl」としておけばいいのだろうが、「Anděl」にあるショッピングセンターという意味の場合には、もう少し工夫が必要である。
 悩むのが、アンデルの前に使う前置詞を方向を表す「k」にするのがいいのか、場所を表す「u」にするのがいいのかで、どちらでもよさそうな気はするのだけど、不安なので動詞から変えてしまおう。チェコ語では、日本語で「行く/来る」で表すような内容を「いる」で表すことも多い。ならば、「Včera jsem byl v nákupním centru u Anděla」。これが一つ目の解。一般名詞を入れて「Včera jsem byl v nákupním centru v oblasti Anděl」か、「Včera jsem byl v nákupním centru na pražské části Anděl」にする手もあるだろうか。アンデルを形容詞にして「Včera jsem byl v andělském nákupním centru」とやってもいいか。

 ここに書いたチェコ語の文をチェコ人たちが使うとは思えない。だけど、外国人がチェコ語を使うときに大切なのは、意味が通じることであり、チェコ語を勉強する上で大切なのは、文法的に正しいことである。その意味では、これらの文は全部正しい、と言いたいのだけど、確証はない。まあでも即興でこれぐらいのことは言えるようになったのだから、我がチェコ語も進歩したなあと感慨深いものがある。
9月8日17時。



チェコ語表現とことんトレーニング [ 高橋みのり ]







 

2017年09月05日

男性名詞活動体二――チェコ語の総復習(九月二日)



 男性名詞の活動体には、硬変化、軟変化とは別に、女性名詞的な語尾を取るグループが存在する。一つは、外来語ということになるのだろうが、日本語で「〜イスト」と言われるような言葉が、チェコ語では「〜イスタ」になるものである。チェコ語を使っていて、適切なチェコ語の単語が思い浮かばないときに、たまたま日本語で「〜イスト」となる言葉だった場合には、末尾をちょっと変えるだけでチェコ語の言葉が出来上がる。
 例えば観光客という言葉が、チェコ語で思い出せなかったら、日本語で観光客を旅行する人だからということで、ツーリストと置き換えて、語頭の「ツ」をチェコ語らしい発音にして末尾に「A」を足してやれば、「トゥリスタ」というチェコ語の出来上がりである。日本語のコミュニストがチェコ語の「コムニスタ」に対応するように、何とか主義者たちも、外来語での表現を知っていればチェコ語の言葉にできる。

 スポーツ選手も、チェコ語起源の言葉ではなく、外来語のスポーツ名を使っている場合に限り、この「イスタ」で、人を表す名詞を造ることができる。サッカーは、チェコ語でも、他のヨーロッパ諸国と同様、フットボールに関係する形を使う。それが「フォドバル」で、サッカー選手は「フォドバリスタ」となる。テニス選手は「テニスタ」、バスケットの選手は「バスケトバリスタ」である。ただし、ハンドボールはチェコ語起源の「ハーゼナー」を使うので、選手は「ハーゼンカーシュ」である。バスケットもバレーも、日本語の籠球、排球的な言葉は存在するのだが、使用されることはほとんどない。
 ちなみにこの手の男性名詞の女性名詞形は、末尾の「A」をとって「KA」を付けてやれば出来上がりである。「tenista(テニスタ)」が男性なら、女性は「tenstka(テニストカ)」になるのである。子音で終わる人を表す男性名詞の活動体には、「KA」を付ければ女性形が出来上がるものが多いということを、書いておくべきであったか。昨日までは格変化についてあれこれ書きすぎたので忘れていたなあ。例としては、イギリスの女性を示す「Angličanka(アングリチャンカ)」を挙げておこう。

 とまれ、こんな日本語の言葉から、外来語だとはいえ、ある程度規則的にチェコ語の言葉が作り出せるというのは、この男性名詞の活動体の「A」で終わる名詞ぐらいではないだろうか。こういうのを適当に使ってみて、それがチェコ語に存在していたときの喜びってのは、欧米のラテン語起源の言葉の多い言葉を母語としている連中には、多分わかるまい。
 それから、この変化をする名詞としては、人の名字を挙げておかねばならない。交響詩「我が祖国」で有名なスメタナの名字は、もちろんスメタナは男性なので男性名詞である。他にも白樺を意味するブジーザさんや、コマドリのチェルベンカさんなんかが、女性名詞がもとになって出来上がった男性の名字、つまり男性名詞ということになる。

 もう一つの「E」で終わる男性名詞の活動体はそれほど例が多くない。思いつくのは、格変化の例として取り上げる「soudce(裁判官)」や「poradce(助言者)」など、いくつかしか思い浮かばない。すべて末尾が「ce」で終わるような気がするので、気を付けなければいけないのは、「ec」で終わる名詞と混同しないことである。辞書を引くために格変化した形から1格に戻そうとして混乱することが今でもままあるのである。

 では実際に格変化を見てみよう。

単数変化
    předseda    soudce
1格 předsed-a    soudc-e
2格 předsed-y    soudc-e
3格 předsed-ovi   soudc-i/soudc-ovi
4格 předsed-u    soudc-e
5格 předsed-o    soudc-e
6格 předsed-ovi   soudc-i/soudc-ovi
7格 předsed-ou   soudc-em

 「A」で終わる名詞の場合には、3格と6格が「-ovi」となることを覚えてしまえば、他は「A」で終わる女性名詞と全く同じである。女性名詞の場合にはこの3格と6格で子音交代を起こして、音が変わるものが多いことを考えるとこちらの方が覚えやすい。このブログではまだ女性名詞の格変化については触れていないが、一般に最初に勉強するのが、「A」で終わる女性名詞、もしくは女性名詞の硬変化であることを考えると、「A」で終わる男性名詞というのは、掘り出し物的に覚えるのが簡単な格変化なのである。ただし、3格と6格でも女性名詞の形を使ってしまわないように注意する必要はある。だから、男性名詞の活動体の3格と6格は、一貫して「-ovi」を使ったほうがいいのだ。

 一方「E」で終わる男性名詞のほうは、「E」で終わる女性名詞との共通点はそれほど多くない。こちらも3格と6格が活動体の特徴である「-ovi」になることを押さえて、7格が子音で終わる男性名詞と同じく「-em」になることを覚えてしまえば、残りの格はすべて1格と同じだから、覚えるの自体はそれほど大変ではない。問題は同じく「E」で終わる女性名詞、中性名詞と混同してしまうことである。この辺は、もう完璧にできるようになるのはあきらめて、できたら俺すげえぐらいの気持ちでいるのが精神衛生上もいい。どうせ数はそんなに多くないわけだから、2格、4格、5格は使わないようにするのも手である。


複数変化
1格 předsed-ové   soudc-ové/soudc-i
2格 předsed-ů    soudc-ů
3格 předsed-ům   soudc-ům
4格 předsed-y    soudc-e
5格 předsed-ové   soudc-ové/soudc-i
6格 předsed-ech   soudc-ích
7格 předsed-y     soudc-i

 「A」で終わる名詞も「E」で終わる名詞も、複数の変化は男性名詞活動体の硬変化の複数変化と、子音交代が起こる場合も含めて全く同じなので、取り立てて覚えることはない。ただ、上で取り上げた「ista」で終わる名詞の場合には、1格が「isté」となるので、これだけは絶対に覚えておかなければならない。それ以外の1格は「-ovi」を使っておけばいい。
 「A」で終わる名詞は、単数は女性名詞に近い変化をするけれども、複数では男性名詞と全く同じである。そこの切り替えだけ意識すれば、複数に関しては間違えることはないはずである。もちろん男性名詞活動体の複数変化を覚えていることが前提だけどさ。

 他にも「Černý」などの名字をはじめとして、形容詞型の名詞で男性を示すものが、男性名詞活動体ということになるが、その変化については、形容詞の格変化と同じなので、そのときに合わせて触れることにする。サッカーのポボルスキーとかロシツキーとか、陸上のジェレズニーとか、日本で知られているチェコ人の中にも、形容詞を名字としている人が結構いるのであるって、このブログにしばしば登場するコメンスキーにしてからが、形容詞が名字になっているのであった。
9月4日18時。





2017年09月04日

男性名詞活動体一――チェコ語の復習(九月一日)



 副題が安定しないのはいつものことである。本来ならこの日行なわれたサッカーのワールドカップの予選のドイツとの試合について喋喋したいところだけど、月曜日の試合とまとめて一本にすることにした。善戦はしたけど負けたというのは、次の北アイルランドとの試合いかんで評価が変わるし。ということで、今回は男性名詞の活動体である。
 男性名詞を不活動体と活動体に分けるというのが、チェコ語だけの特徴なのかスラブ語全体に共通する特徴なのかは、他のスラブ語を勉強したことのない人間にはわからないし、わざわざ知りたいとも思えないのだが、スロバキア語にはあるのではないかと思う。スロバキア語で話すのを聞いていて男性名詞の格変化で変だと思ったことはないから。

 さて、活動体も不活動体同様に子音で終わるものは硬変化と軟変化に分類される。それに加えて、女性名詞の格変化の影響が見られる特別な母音で終わる名詞がある。まずは子音で終わる名詞から。例として使うのは、これも恒例の「pán(男)」「muž(男)」である。

単数の変化
    pán          muž
1格 pán          muž
2格 pán-a         muž-e
3格 pán-ovi/pán-u   muž-ovi/muž-i
4格 pán-a         muž-e
5格 pan-e         muž-i
6格 pán-ovi/pán-u   muž-ovi/muž-i
7格 pán-em        muž-em

 活動体の格変化で大切なのは、不活動体の4格は1格と同じだが、活動体の4格は2格と同じだという点である。そして、2格は、軟変化では不活動体の変化と同じで、硬変化では不活動体の中の例外的な名詞と同じで「-a」になる。4格は1格以上によく使われる形なので、これを間違えないことがチェコ語がよくできるように見せるためのコツの一つである。
 3格なんか結構いい加減でいいのだけど、活動体の場合は覚えやすい。「-ovi」なんていう長い語尾が現れるのは男性名詞の活動体だけである。そして、6格が3格と同じであることを覚えておけば、あとは、3格と6格の短語尾形も含めて不活動体と同じである。

 例外は、硬変化の5格で不活動体のときにはKだけ指摘したが、Kだけではなく、H、Chで終わる名詞も「-e」ではなく、「-u」となる。チェコ語は活用語尾の「へ」も嫌うのである。プラハの連中は語尾の「ヒ」もだらしなく「へ」と発音しやがるけどさ。それから、Rで終わるものも、「re」ではなく、「ře」となる。不活動体でも同じことが起こるような気もするけれども、不活動体の名詞を呼びかけの形である5格で使うという状況は想像しにくいので、むりして覚えることもない。
 3格と6格の長語尾と短語尾の使い分けに関しては、一応、一単語のときには長語尾形を使って、名前、名字のように二つ以上の単語が並ぶ場合には、最後の単語だけ長語尾形にしてそれ以外は短語尾形を使うと習ったけれども、その通りにならない例も多いのであまり気にせずに、長語尾形を使っておけばいい。短語尾形は覚えにくいというか、他の格、他のタイプの格変化と混同しやすいけれども、長語尾形は間違えようがないのだから。


複数の格変化
1格 pán-i/pán-ové   muž-i/muž-ové
2格 pán-ů        muž-ů
3格 pán-ům       muž-ům
4格 pán-y         muž-i
5格 pán-i/pán-ové   muž-i/muž-ové
6格 pán-ech       muž-ích
7格 pán-y         muž-i

 複数で気をつけなければいけないのは、1格と5格である。それ以外は、不活動体の変化と同じなので、改めて覚える必要はない。ありがたいことに1格と5格は同じ形をとるので、一つ覚えればいいだけだと言いたいのだけど、そう簡単にはいかない。
 硬変化の例としてあげた「pán」の場合は、「pánové」を使うことが多いような気もするけれども、男性用のトイレに表示されているのは「páni」であるから、どちらも使うと考えてよさそうだ。軟変化の「muž」のほうは「muži」を使うことが圧倒的に多い。問題は、もう一つ「-é」という語尾を取るものもあることだ。
 要は男性名詞の活動体の複数1格と5格に関しては、どの活用語尾を取るのかがんばって覚える必要があるということなのである。特に短語尾形の「-i」をとる場合には、前に来る子音が変化する場合があるので注意しなければならない。まあ、R→Ř、K→C、H→Z、Ch→Š、あたりを覚えておけば問題ないか。

 大切なのは、チェコ人、日本人などの民族名を表す言葉の複数1格を覚えておくことである。チェコ人の単数は「Čech」だが複数は「Češi」になる。軟変化の日本人は単数では「Japonec」で複数では「Japonci」になる。どちらも「-ové」「-é」の語尾を取らないことは覚えておかなければならない。
 それに対して、「an」で終わる民族名の場合には、複数1格の語尾は「-é」となる。例えばイギリス人は「Angličan」が「Angličané」と変化するのである。語尾「-ové」を取りやすいのは、一音節、二音節からなる短い民族名(チェコ人は除く)である。複数の形だけ上げると、「Finové(フィンランド人)」「Norové(ノルウェー人)」「Italové(イタリア人)」などが典型的な例となる。日本人と同じように「ec」で終わる名詞の場合には、「e」が落ちて語尾に「i」がつく。「Němci(ドイツ人)」「Slovinci(スロベニア人)」をヨーロッパ内の例としてあげておく。
 それから、「el」で終わる活動体の名詞の複数1格の語末が「elé」となるのも覚えておいたほうがいい。民族名であれば「Španělé(スペイン人)」、それ以外でも「učitelé(先生)」なんてものがある。

 これだけで十分にたくさんだという気持ちはよくわかるけれども、そんなことを言っていてはチェコ語を身につけるのは難しくなる。ということで、次回は、男性名詞の活動体の残りである。それで、男性名詞については、ほぼ問題なくなるはずである。
9月3日24時。







2017年09月03日

男性名詞不活動体――チェコ語のまとめ(八月卅一日)



 他のスラブ語でも同じなのかもしれないが、チェコ語は男性名詞だけ、活動体と不活動体に分類される。読んで字のごとく、活動するものとしないものの分類である。だから、人を表す言葉、動物を表す言葉が活動体になる。植物は生きているけれども原則として動かないので、不活動体扱いとなっている。
 基本的には現代日本語で存在を表すときに、動詞の「ある」を取るものが不活動体で、「いる」をとるものが活動体になると思っておけばほぼ間違いない。ただし、本来不活動体であるも名詞が、話しての心情によっては活動体的に格変化することもある。外来語だけれども、スポーツで使われる「ゴール(gól)」は当然不活動体である。それなのに、ときどき四格(助詞の「を」と同じように使うことが多い)が活動体と同じ語尾を取って「góla」になることがある。正しい形としては認められていないから、日本語のら抜き言葉と同じようなものだと考えておこう。
 もう一つ、特に勉強し始めの頃に気をつけなければいけないのが、生き物でも人間でも女性名詞や中性名詞は、活動体にはならないということである。つい生きているものなら何でも活動体(男性名詞という意識は伴わない)だと考えて間違えることが多かった。特に、動物の子供を表す名詞は、原則として中性名詞になるので注意が必要である。

 さて、男性名詞の不活動体だが、語末の子音によって、硬変化と軟変化の二つに分けられる。いや、文末の子音で完全に分類できるというわけではないから、格変化に二つの種類があるというほうが正しい。硬変化というのは、硬子音で終わる名詞の格変化で、軟変化は軟子音で終わる名詞の格変化である。問題は、硬子音でも軟子音でもない子音が存在することで、その子音で終わる名詞の場合には、どちらの変化になるのかを覚えなければならない。

 その分類を挙げておくと以下のようになる。名詞の分類だけでなくイ段の音の表記の際に、「I」を使うか、「Y」を使うかにも関連するので覚えておいたほうがいいかもしれない。

  硬子音  K G H Ch R D T N
  軟子音  C Č J Š Ž Ř Ď Ť Ň
  中立子音 B F L M P S V Z

 一見してわかるのは、ハーチェクがついている子音はすべて軟子音だということである。「J」が日本語のヤ行の音を示すことを考えると、「C」以外は日本語の拗音の子音に近い音が軟子音だと思えばいい。ハーチェクのついた軟子音と対応するハーチェクのない子音は、「R・D・T・N」の四つが硬子音となり、「S・Z」の二つが中立子音となる。これだけ覚えておけば、中立子音で終わる男性名詞も硬変化となることが多いから、名詞の格変化の識別には十分である。

 では、具体的に格変化にどのような違いがあるのかを見てみよう。硬変化の例としては「hrad(城)」軟変化の例としては「stroj(機械)」が使われることが多いので、ここでもそれに習っておく。


 単数の各変化
    hrad        stroj
1格 hrad        stroj
2格 hradu       stroje
3格 hradu       stroji
4格 hrad        stroj
5格 hrade       stroji
6格 hradě/hradu  stroji
7格 hradem      strojem

 大切なのは、男性名詞の不活動体は、硬変化でも軟変化でも1格と4格が同じだということである。それから、不活動体も含めて子音で終わる男性名詞の7格の活用語尾は必ず「-em」になる。この二つは男性名詞の格変化の基本として覚えておかなければならない。後は、硬変化では「-u」、軟変化では「-i」を語尾に取る格が多いことを覚えておけば、使うときの間違いは減る。
 硬変化の6格は二つの形があるわけだが、場所を表す前置詞「v/na」とともに使う場合には「hradě」を使うことが多く、「o(〜について)」とともに使う場合には、「hradu」を使うことが多いのではなかったかな。

 硬変化の例外的なものとして、2格の語尾が、活動体と同じように「-a」となる名詞のグループがある。代表的なものは「kostel(教会)」で、教会に行くときには「do kostela」となるのである。他にもオロモウツの近くだと、プシェロフ、プロスチェヨフの二つがこのタイプの名詞で、2格はそれぞれ「Přerova」「Prostějova」となる。
 また硬変化で、「k」で終わるものに関しては、5格語尾が「ke」ではなく「ku」になる。6格も「ku」だけである。これはチェコ語が格変化の語尾に「ke」が出てくるのを嫌うと覚えておくといい。形容詞の語尾に出てくる長母音の「ké」は問題ないし、前置詞の「k」の後に「k」で始まる名詞が来ると「ke」になるのだから、不思議といえば不思議なのだけど。


 複数
1格 hrady    stroje
2格 Hradů    strojů
3格 hradům   strojům
4格 Hrady    stroje
5格 hrady    stroje
6格 hradech   strojích
7格 hrady  stroji

 一見して複数の方が語尾が共通する格が多いことが理解できるだろう。硬変化でも軟変化でも1格、4格、5格が同じ形になるし、硬変化はさらに7格まで同じになる。その7格は軟子音の後には、「y」が使えないことを考えると、硬変化と軟変化で共通の形だといってもいい。2格と3格の語尾の「-ů」「-ům」は、不活動体だけでなく活動体にも共通なので、確実に覚えておく必要がある。
 例外は硬変化の6格で、「k」で終わる名詞の場合に、「cích」という語尾が出ることである。やはりチェコ語は、語尾に「ke」が出るのを嫌うのである。

 自分でも意外なことに、まともな内容になっている。自分のチェコ語の復習にもいいからしばらく続けよう。
9月2日24時。






2017年09月02日

チェコ語の名詞(八月卅日)



 昨年の一月から積み重ねて600本以上の文章を書き、チェコ語についても、直接間接いろいろな形で触れてきた。ただ、ちょっとマニアックというか、ある程度、いやかなりチェコ語を勉強している人でないと理解できないようになってしまった嫌いがある。ということで、もう少し基本的なチェコ語の文法についての文章を書いてみようかと思う。教科書として書くつもりはないので、それぞれの品詞の特性やら分類やらを一まとめに書くことになる。覚えるときに気を付けたほうがいいことなんかをコメントすれば、チェコ語を勉強している人の役にも立つかもしれない。

 まずは名詞から始めよう。チェコ語もドイツ語などと同様に、名詞に性がある。男性、女性、中性だが、男性、女性の区別のある人を表す名詞、オス、メスの区別がある動物の名前を除けば、この名詞はこんな意味だから男性だとか、女性だとか、言葉の指すものから論理的に性を推測することはできない。本(kniha)が女性名詞なら、同じ体裁の辞書(slovník)や雑誌(časopis)も女性だと思いたくなるけれども、この二つの名詞は男性名詞である。
 チェコ人ならこの性の区別は感覚的にできるのだろうが、外国人でチェコ語の勉強をしている人間には、名詞が出てきたらその性も覚えるしかない。ただ、名詞の単数一格の語末を見れば、ある程度の推測はすることができる。100パーセント確実ではないのだが、男性、女性、中性のそれぞれに特徴的な語尾があるのだ。

 まず、語末が子音で終わる名詞は、上に挙げた男性名詞の雑誌も辞書も子音で終わっているように男性名詞であることが多い。ただし、例外もかなりある。地名でムラダー・ボレスラフ(Boleslav)、ブジェツラフ(Břeclav)のように「ラフ(lav)」で終わるものの中には女性名詞がかなりある。それに対して「オフ(ov)」で終わる地名は男性だと考えてほぼ間違いない。他の子音で言えば、オロモウツ(Olomouc)はcで、プルゼニュ(Plzeň)はňで終わるがどちらも女性名詞である。普通名詞でも夜(noc)、歌(píseň)なんかが子音で終わる女性名詞になる。
 「ウム(um)」「ウス(us)」で終わる名詞の多くは中性になる。博物館(muzeum)とか、日本語で何々主義を意味するイズムのチェコ語版「isumus」は中性なのである。日本語のナショナリズムはチェコ語ではナツィオナリズムスという中性名詞である
※「博物館(muzeum)」は確かに中性名詞であるが、「isumus」で終わる名詞は男性名詞である。間違いに気づいたので訂正しておく。間違えた事情、気づいた事情についてはいずれ書くつもりである。

 形容詞から名詞化した「〜性」という意味を表す名詞はたいていオスト(ost)で終わるのだが、これは絶対に女性名詞である。例えば、軽い(lehký)という形容詞からできる軽さ(lehkost)を挙げておけばいいだろうか。日本でも知られるクンデラの『存在の耐えられない軽さ』に使われている言葉である。形容詞とは関係ないが骨(kost)も女性である。

 母音で終わる場合には、母音によって違う。ア段の音で終わる場合には、女性名詞である確率が非常に高い。もちろんこれにも例外がある。一つは「イスタ(ista)」で終わる人を表す名詞であるが、これは男性名詞になる。日本語の外来語で「〜イスト」となるものは、チェコ語では「〜イスタ」となる。日本語のスペシャリストは、チェコ語ではスペツィアリスタになるのである。フォドバリスタ(サッカー選手)のように日本語に対応するものがない場合もあるけど。
 中性名詞の可能性もある。ただし、ア段の音で終わる中性名詞は非常に少なく、ドラマ(drama)パノラマ(panorama)ぐらいしか思い浮かばない。滅多にない例外的なものだと考えて問題はなかろう。

 イ段、ウ段の音で単数一格が終わる名詞は存在しない。エ段で終わる名詞は、女性の割合が高そうだけれども、男性、中性の可能性もかなり高い。男性になるのは裁判官(soudce)のように人を表す言葉が多い。エ段で終わる中性名詞の例としては、当然海(moře)を挙げておこう。このエ段で終わる名詞の識別が一番大変かもしれない。

 オ段で終わる名詞は、ほぼ100パーセント中性だと考えていい。例外は男性の名字でごくまれオ段で終わるものがあるぐらいである。

 他にも形容詞型の名詞で、長母音で終わるものがあるが、これについては個々の名詞の性について語るところで触れることにする。
9月1日23時。






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