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2017年11月19日
中性名詞4外来語――チェコ語文法総ざらえ(十一月十六日)
ということで「drama」などの「-ma」で終わる中性名詞である。ちなみにこの言葉、読みは「ドラマ」でいいけれども、日本語のドラマとは指すものの範囲が多少ずれる。最初にこの言葉を見たときに、日本語のドラマと同じ感覚でテレビドラマを指すのに使ったら何それという顔をされてしまった。日本風の連続ドラマは、チェコ語では「televizní seriál」と言うのである。単発のドラマは、「televizní film」かな。
チェコ語のドラマは、日本語で「感動のドラマ」とかいうのと同じような使い方をする。だから、映画やドラマのジャンルみたいな形でドラマという言葉が使われることもある。よく聞くのはスポーツの試合で、劇的な結末を迎えたときなんかに、「最後にドラマが待っていた」なんて表現だろうか。一昨年のラグビーのワールドカップで日本が南アフリカに勝った試合は、チェコ語でも感動と驚愕のドラマだったのである。
この「drama」型の中性名詞を使う上での一番の問題は、単数一格が「a」で終わるものは女性名詞だという、チェコ語の勉強を始めてすぐに習う名詞の性の見分け方のルールである。そこから逸脱するものとしては、男性名詞の活動体の職業を表す名詞がすでに登場しているから、ルールが絶対のものでないことはわかっていても、「a」で終わって人を表さない名詞だということで、女性名詞だと思い込んでしまう。中性だということは重々わかっていても、中性名詞の中でも特殊な格変化をするということはわかっていても、実際に使うときには女性名詞のように変化させてしまうのである。
自分の復習も兼ねて単数の変化を挙げておくと
1格dram-a
2格dram-atu
3格dram-atu
4格dram-a
5格dram-a
6格dram-atu
7格dram-atem
1格、4格、5格以外は、追加された「t」の後ろに男性名詞不活動体硬変化と同じ語尾を付ければいい。というか、7格の「-em」さえ覚えておけば、後は困ったときの「u」で問題ないから、覚えやすと言えば覚えやすい。問題は繰り返すけれども女性名詞だと思ってしまうことである。
この「drama」型の中性名詞としては、「téma(テーマ)」「panorama(パノラマ)」「dilema(ジレンマ)」「aroma(アロマ)」「trauma(トラウマ)」など日本語にも、ほぼ同じ音で取り入れられているものが多いから、そんなのだけ覚えておけばいいかな。実際にチェコ語を使う生活をしていても、自分で使いそうなものとしては「ドラマ」と「テーマ」ぐらいしかないわけだし。
そんな話はおいておいて、使うかどうかもわからない複数は以下の通り。
1格dram-ata
2格dram-at
3格dram-atům
4格dram-ata
5格dram-ata
6格dram-atech
7格dram-aty
こちらは、「t」が出てくることを除けば、中性名詞の硬変化「město」と同じ変化になる。全体的には覚えやすいし、正確に使えるとうれしい言葉ではあるのだけど……。
外来語ではないと思われる「kuře」と比べると複数は完全に一致するけれども、単数は軟変化的な「kuře」と硬変化的な「drama」で結構ずれている。なにがしかの関係はあるのだろうけど、思い浮かぶものとしてはラテン語で動物の子供を表す言葉の格変化に「t」が出てくるのかなというぐらいである。
もう一つ中性名詞には外来語の変化のタイプが存在するのだった。男性名詞の「-us」で終わるものを取り上げたときにもちょっと言及したけれども、「-um」で終わる名詞である。そうか「-us」で終わるものは男性、「-um」で終わるものは中性と区別できるのかもしれない。
例としては「muzeum(博物館)」を使う。この言葉、日本語のカタカナ語風に「ミュージアム」と読んではいけない。そのままローマ字読みして「ムゼウム」と読むのである。同じように日本の人が読みに注意しなければいけない言葉としては、「centrum(中心)」がある。「セントラム」と読んじゃう人がいるんだけど、「ツェントルム」である。
このタイプの名詞の単数の変化は「-um」を取って、必要なところには硬変化「město」型の語尾を付けてやればいいから簡単である。もちろん正確に使えるかどうかはまた別の話であるけれども。
1格muze-um
2格muze-a
3格muze-u
4格muze-um
5格muze-um
6格muze-u
7格muze-em
7格の「muzeem」と母音の「e」が重なる辺りチェコ語としてどうなのという気がしなくもないし、自分で使うのに何となく落ち着かない。それはともかく、これで複数も硬変化と同じだったら幸せなのだけれども、残念ながらそうは問屋が卸さない。1格、4格、5格、つまり1格と同じ形をとらない格では、軟変化「moře」型の語尾が必要になるのである。
1格muze-a
2格muze-í
3格muze-ím
4格muze-a
5格muze-a
6格muze-ích
7格muze-i
やはり、チェコ語では母音「e」と「y」や「u」の連続は好まれないのかなあ。ないわけではないと思うんだけど。でも単数の7格で「muzeem」という無茶をしたのだから、複数でも「muzeů」とか「muzeech」なんてやってもいいんじゃないかと言いたくもなる。ちなみに同じ「-um」で終わる名詞でも、その前が硬子音の場合には、複数でも語尾が硬変化と同じになる。例えば「datum(日付)」の複数は2格「dat」、3格「datům」、6格「datech」、7格「daty」である。
だから、言っても詮無きことながら、「muzeum」もそれでいいじゃないかと言いたくなる。「-um」が落ちるところまではラテン語の影響でも、語尾の母音をどうするかはチェコ語に於いて解決されたはずなんだし。複数3格が「muzeům」なると、単数1格と複数3格の違いが母音の長短だけという楽しいことになるのだけどなあ。
ここまで書いて、外来語では女性名詞にも厄介なのがあることを思い出してしまった。チェコ語は名詞の格変化だけでも、一度踏み入れたら抜け出せない泥沼のようなところがあるのである。次はその泥沼の中に入ってみよう。
2017年11月16日23時
2017年11月17日
中性名詞3――チェコ語文法総ざらえ(十一月十四日)
今回は、中性名詞のうち「e」で終わるものの復習である。一般的に中性名詞の軟変化というと、このグループを指すことになるのかな。例として取り上げられることが多いのは「moře(海)」であるが、この海が中性というのに関しては、以前日本語のできるチェコ人に、日本語だと「母なる海」と言うから、女性ではなく中性名詞だというのは、理解しにくいかもしれませんねなんて説明をしてもらったことがある。理解しにくいのは、海が中性だということではなくて、名詞に性があるという事実そのものだったのだけどさ。初学の頃だったから仕方がなかったんだよ。こんな感想持つのも。もう少し勉強が進んでからなら、この話を上手いと思えたんだろうけどさ。今となっては、海が中性であることを疑うこともできないところまでチェコ語にどっぷりとつかってしまっている。
ということで、「moře」の格変化である。
1格moř-e
2格moř-e
3格moř-i
4格moř-e
5格moř-e
6格moř-i
7格moř-em
これもまた、軟変化の男性名詞と女性名詞が混ざった感じの格変化である。中性名詞の特徴として1格、4格、5格が同じになるということ、中性名詞の7格は男性名詞と同じになることがわかっていれば、あとは2格、3格、6格だけである。一般に名詞の単数変化では、困ったときはUという合言葉が使えるのだが、これは硬変化の名詞向けのものなので、硬変化と軟変化の区別が付けられるようになったら、軟変化の場合には、困ったときは「i」なのである。「e」でもいいけど、1格と同じになることがあることを考えると、各変化させようとしていることをアピールできる「i」のほうがいい。
複数は以下の通り。
1格moř-e
2格moř-í
3格moř-ím
4格moř-e
5格moř-e
6格moř-ích
7格moř-i
7格以外は「e」で終わる女性名詞の軟変化と同じ。同時に2格と3格の長母音が「í」になっているのを除けば男性名詞の軟変化と同じだともいえるので、何とも微妙なことである。数が少ないから覚えるのは最後にまわしてもいいと思うんだけどね。
中性名詞の「e」で終わるものには、もう一つ男性名詞の活動体の伯爵と侯爵を説明したときに出てきた「kuře」型の名詞が存在する。これは、動物の子供を示す名詞が含まれるグループで、人間の子供「dítě」も、このグループである。ただし、「dítě」は複数では女性名詞になるという困ったやつである。本来男性名詞の伯爵や侯爵も複数では中性扱いになるんだったなあ。なんでこんなややこしいことになるんだと言ったら、師匠には例外中の例外で数が少ないんだから我慢しろと言われたんだったか。
とりあえず単数の変化を示すと、
1格kuř-e
2格kuř-ete
3格kuř-eti
4格kuř-e
5格kuř-e
6格kuř-eti
7格kuř-etem
見ての通り、1格と形が異なる2格、3格、6格、7格で「t」が現れるが、その後ろに来る語尾は、「moře」型の名詞と全く同じである。これならいっそのこと、1格から「t」を出してくれればいいのになんてことを考えてしまう。この手の子供を表す中性名詞として覚えておいた方がいいのは、「kotě(子猫)」「štěně(子犬)」「děvče(女の子)」、子供ではないけど「prase(ブタ)」ぐらいだろうか。後は出てきたときで十分である。強制収容所を生き延びたユダヤ系の作家アルノシュト・ルスティクが「Němci jsou prasata」と語っていたのを思い出す。
複数は、
1格kuř-ata
2格kuř-at
3格kuř-atům
4格kuř-ata
5格kuř-ata
6格kuř-atech
7格kuř-aty
注意が必要なのは、「t」の前の母音が「a」に変わっていることである。語尾は2格が女性、3格、6格、7格が男性名詞の硬変化と同じである。4格、5格が1格と同じになるのは中性名詞の特徴でこの名詞も例外ではない。
中性名詞はこれでお仕舞と言いたいところだけど、この前コメントで指摘してもらったラテン語起源の「drama」というのがあるのだった。短くなるかもしれないけど、これについても一文物することにする。
2017年11月14日22時。
2017年11月15日
中性名詞2――チェコ語文法総ざらえ(十一月十二日)
この変化は、軟変化と呼んでもいいのだろうけれども、そう呼びたくないので、とりあえず今回は番号で処理する。長母音の「í」で終わる中性名詞である。チェコ語ではイ段の母音は、「i」と「y」で書き表され、どちらも使える場合もあるが、前に来る子音によってはどちらかしか使えない。この名詞も「í」で終わるということは、前に来るのは軟子音か中立子音ということになるので、軟変化でもいいのだけど、そう呼ぶと、後述するこの名詞特有の問題が見えづらくなるのである。
とまれ、我々チェコ語学習者は、名詞の格変化を覚えようとして苦労する初学の頃、「nádrží(駅)」「náměstí(広場)」などの名詞にぶつかって、幸せな気分に浸ったものだ。チェコ語にもこんなに格変化が簡単な名詞が存在するのだと。少なくともこの中性名詞だけは格変化を間違えずに使えそうだと思ってしまうわけである。何せ、1格から6格まで同じ形で、7格も末尾に「m」をつけるだけでいいのである。
念のためにまず単数の格変化表をあげておく。
1格nádrž-í
2格nádrž-í
3格nádrž-í
4格nádrž-í
5格nádrž-í
6格nádrž-í
7格nádrž-ím
自分が使う分には確かに楽なのだ。動詞によって区別しなければならない前置詞「na」の後に来る格も、この名詞なら4格も6格も同じだし。しかし、そのうちに、気づくことになるのだ。見ただけ、聞いただけで何格なのかがわからないのは結構不安なものだということに。この名詞が格変化しないことへの不安を感じられるようになったということは、チェコ語に十分毒されているということだから、チェコ語を勉強する上では喜ぶべきことである。ただ、日本語は助詞を使うので問題ないのだけど、英語で話そうとするときまで、格変化させたくなるのは少々問題である。
複数はもう少し難しくて以下のようになる。
1格nádrž-í
2格nádrž-í
3格nádrž-ím
4格nádrž-í
5格nádrž-í
6格nádrž-ích
7格nádrž-ími
それでも、3格、6格、7格を除けば、単数1格と同じだから、この手の名詞は単数と複数の区別でも苦労することになる。救いはこのタイプの名詞には、「vítězství(勝利)「přátelství(友情)」などの、「-ství」で終わる概念語、動詞の受身形から作られる名詞など、複数形では使いにくい、別な言い方をすると、チェコ語で複数として認識しえるのかどうかわからない名詞が多いことで、とりあえず、「utkání(試合)」などの数えられることが確実なもの以外は単数で使うようにするしかない。あれ、救いにはなっていないかな。
厄介なのは、軟変化の形容詞の複数の変化とほとんど同じでありながら、2格で形容詞の複数2格の特徴である「ch」が出てこないことで、ここでよく間違えてしまう。ということで複数で使うのは避けたい名詞だということになる。
さらに厄介なのは、形容詞の軟変化型の人を表す名詞が存在することで、「rozhodčí(審判)」「průvodčí(車掌)」など、仕事をしている人が男性か女性かで格変化が変わるのである。特に女性の場合には、単数では1格から7格まで形が変わらないし、複数になると形容詞の軟変化は男性、女性、中性の区別がなくなるので、中性名詞と混同してしまいがちである。
救いはこの手の形容詞の軟変化型の名詞そのものは数が多くないことなのだけど、動詞からこの手の名詞が作れてしまう。名詞としてだけでなく形容詞的に名詞の前でも使えるこの手法、使えるようになると、使う分には重宝する。他の国の人は知らないけど、日本人なら絶対に使いたくなるはずである。
チェコ語では、動詞の三人称複数の形に「-cí」を付けることで、その動作をしているという意味の形容詞(連体修飾節と言ったほうがいいかも)、もしくはその動作をしている人という意味の名詞を作れるのである。例えば、「jít」の三人称複数の形「jdou」から、作られる「jdoucí」を使うと、普通は「člověk, který jde kolem」となるものが、「kolem jdoucí člověk」と日本語の語順と同じようにできてしまう。普通のチェコ語の語順にして後ろからかけることもできるし、この語法が使えるようになると表現の幅が広がる。さらに「kolem jdoucí」だけでも「近くを歩いていく人」という意味で使えるのである。
自分で使う分には、どういう品詞で、どういう意味で使うのかをしっかり意識して使えば、それほど大きな問題にはならないのだけど、相手に使われたときにとっさに判断するのが難しい。まあ、この辺は本来の中性名詞の話から完全に逸脱しているので、動詞の話になったときに改めて説明することにしよう。
とにかく「-í」で終わる中性名詞というのは、最初のうちは簡単そうに見えるけれども、勉強を続けていくうちに、混乱のネタが増えていって厄介になっていくものなのである。この手の名詞が嫌だなあと思えるようになったら、チェコ語学習者として一人前と言ってもいいのかもしれない。
2017年11月13日14時。
2017年11月14日
中性名詞硬変化――チェコ語文法総ざらえ(十一月十一日)
チェコ語の例外的な格変化の仕方について、コメントをいただいた。言語学の知識のある方なのかな、チェコ語は外来語の場合にもともと言語における格変化を尊重する傾向があるということである。あの手の厄介者たちがラテン語からの外来語であることは重々承知していたけれども、ラテン語における格変化がチェコ語の格変化に反映しているというのは、考えたことがなかった。ということはラテン語の知識があった方が、ラテン語起源の言葉の各変化を覚えるのにいいのか。うーん、出没母音の「e」のときの古代スラブ語と同じで、チェコ語の中の例外的な現象を理解するために新たな言葉を勉強するのは、本末転倒なきがしてしまうんだよなあ。
こういう情報を手にすると、言語学の人だったら、ラテン語起源の言葉が、スロバキア語とかスラブ系の言葉だけじゃなくて、ドイツ語なんかの別の言葉ではどんな扱いを受けているのだろうかなんてことを考えて、あれこれ調べるのかもしれないが、こちとら外国語はチェコ語ひとつでおなか一杯の人間である。自分では調べる気になれない。だからと言って知りたくないと言うわけではないので、情報をお持ちの方に教えてもらえるとありがたい。
自分で調べようかなと思うのは(思うだけだろうけど)、外来語である「drama」の格変化で語幹を拡張する「t」が現れてくるのと、外来語だとは思われない「kuře」型の名詞の格変化に「t」が現れるのに関係があるのだろうかということである。「drama」も「kuře」も中性名詞で、中性名詞については、まだ復習をしていないので、久しぶりにチェコ語の文法について真面目に書くことにする。
チェコ語の勉強を始めて最初に出てくる中性名詞は、「o」で終わるものである。「město(町)」「místo(場所)」のどちらかに最初に出会うはずである。いや「nádraží(駅)」という可能性もあるか。とまれ、中性名詞の第一回は「o」で終わる名詞である。
単数の変化は以下の通り。
1格 měst-o
2格 měst-a
3格měst-u
4格měst-o
5格měst-o
6格měst-u/-ě
7格měst-em
中性名詞はどれも1、4、5格が同じ形をとる。そして、中性名詞の硬変化で、2格が「-a」で7格が「-em」となるのは、男性名詞活動体硬変化と同じである。これらの覚えやすいところを覚えてしまえば、あとは困ったときの「u」で何とかなる。6格は「 -e」「-ě」になることもあるけれども、「-ko」で終わるものなど「-u」しか取れない名詞もかなりあるのである。1、4、5格を除けば男性名詞活動体の硬変化と同じだと言ってもいい。
複数はちょっと違う。
1格 měst-a
2格 měst-
3格měst-ům
4格měst-a
5格měst-a
6格měst-ech
7格měst-y
複数1格が、ということは4格と5格も、単数の2格と同じだというのは、女性名詞の硬変化と共通する。2格で語尾が消えるのも女性名詞的で、「město」は「st」で発音しにくくはないのでそのままだが、二つ以上の子音で終わる場合に、例の出没母音の「e」が出てくるものがあることを忘れてはいけない。例えば「divadlo」の複数2格が「divadel」になるが如きである。この辺は名詞から形容詞を作るのにもかかわってくることがあるので、しっかり覚えておいたほうがいい。「divadlo」から作られる形容詞は、発音上の問題もあるのだろうけど、「divadelní」になるのである。
その一方で、3格、6格、7格は男性名詞と共通の語尾になる。6格で語尾の前に来る子音によっては子音交代が起こって、語尾が「-ích」になるのも、男性名詞の硬変化と共通する。こういうのに気づくと名詞の文法上の性の中性とは、男性と女性の間であることの謂いだったのかと納得してしまいそうになる。問題はそれがわかったからと言って覚えるのが楽になるというわけではないところにある。
中性名詞というのは、数が少ないこともあって、ついつい男性名詞、女性名詞を優先してしまい、覚えるのを後回しにしてしまうところがある。だから、この一番基本的な中性名詞である「o」で終わる硬変化だけは、正確に使いたいのだけど、現実というものはままならぬものなのである。
2017年11月12日14時。
改めてチェコ語で、外来語のもともとの言語での格変化を尊重するというのが意外だった理由を考えると、綴りや語末が変わってチェコ語化してしまった外来語がたくさんあるからである。日本語でもチームと発音が変わってしまった英語の「team」は、綴りがチェコ語化して「tým」になっているし、タクシーは男性名詞が子音で終わるという原則に合わせるために、「k」をつけて「taxík」、日本語から入った盆栽や侍は、母音の「i」が「j」に変わって、それぞれ「bonsaj」「samuraj」になってしまっているのである。ただし、「bonsai」と「bonsaj」の発音の違いは聞き取れない。11月13日追記。
2017年11月13日
鳩と雀 チェコの慣用句2(十一月十日)
一回で終わってしまうのは申し訳ないので、よく使われる慣用句の紹介も、折を見て続けていくことにする。「働かざるもの食うべからず」に次いでよく聞くのが、本日取り上げる「Lepší vrabec v hrsti než holub na střeše」である。
例によって個々の言葉の説明から始めると、「Lepší」は、「いい」という意味の形容詞「dobrý」の比較級。一般にチェコ語の形容詞の比較級は、末尾の「ý」を「-ejší」に換えることによって、場合によっては子音交代も起こして、作られる。しかし「dobrý」などの重要な形容詞の中には、不規則な変化をするものが結構多いのである。
ちなみに最上級は比較級の前に「nej」をつけて作るのだが、「dobrý」から作られる「nejlepší」は、90年代末の日本では、チェコ語を勉強していない人でもこの「nejlepší」という言葉を聞けたはずである。キリンビールがテレビのコマーシャルに「nejlepší pivo」とかいう表現を使っていたらしいのだ。当時テレビを持っていなかったので自分では見ていないのだけど、チェコ語の先生が教えてくれた情報である。まあ、どのビールか知らないけれどもキリンのビールを「nejlepší pivo」なんていうのはなあ。そんなこと、英語でならともかく、ピルスナー・ウルクエルを生んだ国の言葉、チェコ語で言っちゃあいけねえ。
次の「vrabec」は、雀である。日本の雀とチェコの雀が完全に一致するのかどうかまではわからないか、日本の雀と同様に小さな鳥を「vrabec」と言う。「hrsti」は女性名詞「hrst」の単数6格、意味は手なのだが、握った形の手を表す。前置詞の「v」とあわせると、「握った手の中の」ということになり、この部分全体では、「手の中に握った雀」と訳しておこうか。
「než」は、形容詞の比較級とともに使う言葉で、日本語の「より」をあてておけばよかろう。「holub」は鳩。「na」は場所を表す前置詞で6格をとる。「střeše」は、屋根を意味する女性名詞の「střecha」の単数6格である。この部分は「屋根の上の鳩より」となるわけだ。
ということで全体を直訳すると「屋根の上の鳩より手の中に握った雀のほうがいい」ということになる。手に入るかどうかわからない屋根の上の鳩よりも、確実に手に入る、もしくはすでに手に入った雀のほうがいいということなのだろうが、もう一つ大切なのは、鳩と雀を比べると鳩の方が価値が大きいという点である。
日本人からすると、鳩の方が大きいからぐらいの理由だろうと思ってしまうのだけど、実はチェコでは鳩は食べるのである。いや実際に食べたり食用として売られているのを見たことがあるわけではないから、食べていたらしいというのが正しいか。日本でもよく知られているチェコ映画の一つ「スイート・スイート・ビレッジ」(この邦題はあれだけれども、映画としてはノバー・ブルナの映画よりははるかに見ごたえがある)で、主人公のオティークが、仕事で失敗したお詫びに同僚というか上司というか、自分を助手として使ってくれているトラックの運転手のところに、自宅で飼っていた鳩の首をひねって殺して持っていくシーンを覚えている方もいるのではなかろうか。
あの映画で鳩の料理が登場したかどうかは覚えていないが、師匠の話では昔、農村ではウサギやニワトリ、ブタなんかと同様に鳩を食用に飼っていたということだった。師匠本人は食べたことはないと言っていたけど、師匠の旦那は食べたことがあるって言ってたのかな。とまれ大小だけでなく、食用になるならないでも鳩の方が価値が大きいのである。
ではどんな使い方をするかというと、それがしばしば耳にする理由でもあるのだけど、クイズ番組の最後で使われるのである。チェコテレビで以前放送されていた「タクシーク」でも、現在放送中の「いづこなるや、我が祖国」でも、番組の最後にそれまでに獲得した賞金が倍になる問題が用意されている。回答者はその問題に挑むかどうか自分で決められるのだが、挑戦しないですでに獲得した賞金をもらうことを選ぶときに、この言葉がいいわけのように使われる。
確実に手に入る賞金の方が、二倍になる可能性はあっても同時にすべてを失うかもしれない賞金よりもいいということなのだろう。鳩を捕まえるためには、手に握った雀を放さなければならないわけだから、こちらもすべてを失う可能性があるのだし。クイズ番組では、この言葉を使って挑戦を断った後に、参考までに問題を教えてもらったら、答えがわかっていたなんて事もままあって、つねに「Lepší vrabec v hrsti než holub na střeše」ではないところが、ことわざのことわざたるところなのだろう。
では、日本語にこんな状況で使える言葉があるだろうかと考えてうなってしまった。確実性を重視するという意味では「急がば回れ」という言葉があるけれどもかなり意味がずれる。クイズ番組での使い方のように、リスクを犯さないことを重視すれば、「安全第一」という言葉が思い浮かぶが、これはことわざとか慣用句と呼べるものではない。
あれこれ検討して一番近いと思ったのが「明日の百より今日の五十」で、五十と百で倍になっているからクイズ番組の最後の問題にも対応している。ただ、クイズ番組のほうは、明日まで待たなくてもその場で結果が出るから、微妙にそぐわないところもある。まあ、ことわざや慣用句の類ってのは、損なもんだと言ってしまえばその通りなのだけどさ。
クイズ番組では、賞金がもらえなくてもマイナスになるわけじゃないんだからという感じで、最後の問題に挑戦する人もいる。そんなときには、「Lepší holub na střeše než vrabec v hrsti」と言ってもよさそうな気がするのだけど、こちらはまだ聞いたことがない。
2017年11月11日15時。
2017年11月08日
チェコテレビも見よう(十一月五日)
チェスキー・ロズフラスの話をしたときに、本当はチェコテレビが見られるようになっているのもうらやましいということも書こうと思っていたのだった。チェコテレビは、同じように受信料で運営されている日本のNHKのような、せこいことはしないので、ネット上に公開されている番組の視聴には、リアルタイムでの視聴も含めて何の制限もかけていない。例外はオリンピックやサッカーのチャンピオンズリーグなどの銭ゲバ組織が運営しているイベントでチェコテレビが権利金の高さに、ネット上での放映権を買えなかった番組ぐらいである。それも買えることもあるから常にみられないというわけでもないし。
番組が放映された後も視聴できるようになっていることも多く、さすがに無期限ではないと思うけれども、チェコテレビ作成の番組の場合には、特設のページが設けられてアーカイブされていることもある。最初の放送からしばらくして再放送をするころには、見られなくなっていることが多いかもしれない。再放送の後はまた見られるようになるはずである。
世の中には楽観的な人がいて、テレビでニュース番組を見るのは外国語の勉強にものすごく役に立つという人がいるけれども、そんなのはただの勘違いである。何の工夫もなくテレビでニュースを見るぐらいならラジオのニュースを何度も何度も繰り返し聞いたほうがましである、移動しながらでも聞くことができるのだし。それなら耳だけは鍛えることができるだろう。
チェコでテレビを見ているのならテレテキストの機能で字幕を表示させることができるから、耳で聞きながら目で読むことは可能である。ただ省略される言葉もあるし、ネット上の放送でこの機能が使えるかどうかはわからない。チェコのニュースは日本のニュースみたいに、字幕の洪水にはならないので、字幕を見ながら耳で聞くというのはむずかしい。日本語での発言と字幕を比べるというのは、ニュースに登場する政治家たちの日本語の発音がまともに聞き取れず、発言と字幕がずれていることもあるので、ほぼ不可能である。
テレビの視聴を勉強に役立てようと思ったら、すでに知っていることについての番組のほうがいい。日本語で見てよく知っている番組をチェコ語で見るとかさ。どうしてもニュースを使いたかったら、隣に解説者としてのチェコ人が必要になる。意外と役に立つのがスポーツ番組である。目の前の画面で起こっていることにコメントが加えられるので、チェコ語ではこんな状況では、こんなことを言うのかと確認することができる。これもルールなどをよく知っているスポーツであるのが望ましいことは言うまでもない。サッカー、ハンドボールは問題なかったけど、アイスホッケーは最初は見ても何を言っているのかわかんなかったしさ。
ところで、チェコテレビではDときいう子供向けのチャンネルを午後8時まで放送している。数年前に放送が始まったときには日本の教育テレビのように、小学生、中学生向けの学習用の番組が放送されるのではないかと期待した。例えば子供向けのチェコ語の番組や歴史の番組なんかで、無駄に専門用語を使わない説明が聞けるのではないかと期待したのである。しかし、チェコの子供向けのチャンネルの実態は、ほぼすべて子供向けのドラマやアニメで占められていて期待外れもいいところだった。チェコテレビの会長は自画自賛しているし、ヨーロッパの子供向けのチャンネルの中では最も成功を収めているのだそうだ。まあ、所詮ヨーロッパなんてそんなものなのさ。
では、チェコテレビで、チェコ語についての番組を放送しないかというと、そんなことはなく、かつて定期的に「チェコ語について(O češtině)」という番組が放送されていた。子供向けではなく大人を対象にした番組で、「プラハ城(Pražský hrad)」のどの文字を大文字で書くのかとかいう、大人でも間違えることの多いチェコ語の問題について解説してくれる。番組の特設ページはこちら。
司会は本業が何なのかよくわからないテレビ業界の人アレシュ・ツィブルカで、国立チェコ語研究所の専門家が出てきて、問題のあるチェコ語について理由も含めてわかりやすく解説してくれる。このチェコ語研究所が正しいチェコ語を決めて、何年かに一度、チェコ語の正字法を改定しているらしいのだが、その姿勢には大いに不満がある。やっていることは、現状の追認が多いのである。だから、去年までは一般には使うけれども、誤用だとされていたものが、突然正しい表現になってしまう。それなら、正しいチェコ語など決めずに日本語のように、ある程度の規範はあっても細部は個々の裁量に任せる形のほうがましのような気がする。
それはともかく、視聴者からの質問をもとにした番組の質問コーナーは、チェコ語を勉強する外国人にも役に立つし、母語話者のチェコ人でさえあやふやな部分があるんだから、外国人が多少間違えても許容範囲のはずだと、チェコ語を使う勇気を与えてくれる。もちろん説明を聞いても納得できないものもあるけれども、それは外国語なのだから仕方ないし、すでに知っていることがあっても、その説明を改めてチェコ語で聞くのは、それはそれで有用である。
この番組の素晴らしいところはもう一つあって、それは業界のチェコ語を紹介してくれているところである。日本語でも例えば出版業界の言葉や、テレビ業界の言葉は、自分たちが支配すメディアで安易に使う連中が多いせいで、意外と一般にも広まっているが、それ以外の業界の専門用語、場合によっては社内語というものは、外にいる人間は普通は知らないものである。
それはチェコ語も同様で、以前日系企業で通訳をしたときに、「トカゲ(jsštěrka)」と言われて何のことかわからなかったことがある。正しい言葉で言い直してもらって、あれかなと思いついたのがフォークリフトだったのだけど、その通りだった。他にもプレスの機械の一部を、確か「羊(beran)」と呼んでいたなんて例もある。見ただけで全部覚えるのは無理にしても、一度そう言う言葉が存在することを知っておくのは通訳をするときにも役に立つ。
ということで、チャンネルを変えていてこの番組に突き当たったときには、二人組の男女が業界用語丸出しで演じる寸劇の部分は極力見るようにしていた。何となくわかるのもあればさっぱりわからんというのもあるのは、日本語の専門用語の場合と同様だった。よかったのは、SF関係なんて、業界用語として取り上げていいの? と言いたくなるようなものもあったことで、今ではほとんど覚えていないけれども、この番組を見たことも我がチェコ語に寄与しているのである。
ちなみに、チェコ語でSFは、アルファベット読みして「エス・エフ」と言っても伝わらなくはないけど、通を気取りたかったら「スツィ・フィ」と言わなければならない。わかるよね、サイエンス・フィクションのそれぞれの言葉の最初の音節だけを取り出して、しかもチェコ語読みして出来上がったのがこの言葉なのである。「sci-fi」と書いて、「スツィ・フィ」と読む。これがチェコのSFである。
2017年11月6日24時。
チェコテレビのアドレスはこちら。上の「i-vysílání」から、テレビ番組の視聴ができる。
http://www.ceskatelevize.cz/
2017年11月04日
今チェコ語を勉強している人がうらやましい(十一月一日)
自分が日本でチェコ語を勉強していた廿年ほど前と比べて、今チェコ語を勉強している人をうらやましいと思うことがあるとすれば、それはインターネットの普及とデータ送信量の圧倒的な拡大である。90年代の後半は、日本におけるインターネット普及の黎明期で、ネットの利点を紹介し導入を推進するような雑誌や書籍は山のように出されていたけれども、実際に導入している企業や個人はそれほど多くなかったはずである。
実は初めてインターネットなるものに触れたのは、2000年代に入ってチェコに来てからである。パラツキー大学でのサマースクール期間中に大学のコンピューター室のPCが使えるようになっていたので、日本のヤフーで新聞や雑誌の記事を読ませてもらって、日本語への飢えを癒していた。チェコ語のコンピューターでありながら、インターネット・エクスプローラー上では日本語の表示ができるようになっていたのは、前年からパラツキー大学に留学していた日本人が、PCの管理者にお願いをして必要なソフトだか、設定だかをインストールしてもらっていたおかげだった。日本語の入力はできるのとできないのとあったかな。
メールアドレスを取ったのもチェコに来てからで、せっかくチェコにいるのだからと、チェコ版ヤフーのseznam.czにしたのだけど、日本語入力ができるようになっているPCでも、日本語でメールを送ることができなかった。一見入力はできたのだけど、送信すると文字化けして読めなかったんだったかな。結局ホットメールでアドレスを取り直すことになる。
最初に送ったメールは、日本にあったチェコ関係の商社でいろいろ情報を教えてくれた方へのメールだったので、2000年代初頭には、特に外国との貿易をしている商社ではメールがすでに導入されて活用が始まっていたのだろう。どうしてその人に送ったのかというと、友人知人でメールアドレスを持っている人がいなかったからである。そんな時代だったのだよ。
そして、フリーメールの場合には、容量に制限があってしばしば古いメールを消さなければならなかったし、添付ファイルでデジカメで撮影した写真なんかを送ろうとしたら、まずしなければならないのは写真の大きさを小さくすることだった。写真の多いページは開くまでに時間がかかって大変だったし、音声ファイルや映像ファイルを再生するのには嫌になるくらい時間がかかり、それもしばしば停止して、聞くのも見るのも辛いという代物だった。
それに比べて現在は、ネット上でチェコから日本の新聞記事が読めるだけでなく、ラジオ放送を聴いたり、テレビのニュースの一部を見たりすることができようになっているのである。チェコから日本のものが見られるということは、日本からもチェコのものが見られるということである。昔はチェコのラジオを聞くのでさえ、チェコ語の先生がチェコの友人にエアチェックしてもらったというカセットテープを借りてダビングするしかなかったのである。時代は変わってしまった。
チェコの公共放送のラジオであるチェスキー・ロズフラスのページでは放送中の番組をリアルタイムに聞くこともできるし、放送済みの番組を探して聴くことも、個々のニュースをばらばらに聞くこともできる。物によっては音声ファイルをダウンロードして、オフラインで繰り返し聞くこともできる。以前ある番組でH先生のインタビューが放送されたときには、番組のページから音声ファイルをダウンロードして聞いたのだった。
そうなのだよ。今チェコ語を勉強している人は、かつてあんなに苦労していたチェコ語の音源を入手するのに何の苦労もないのだ。毎日同じテープを聴かなくてもいいのだ。同じテープを毎日聴いていると聞き取れる範囲が、少しずつ増えていって(少なくともそんな気がして)、それはそれで意味があったのだろうけど、初学の頃からいろいろ聞けるというのはうらやましい限りである。ただのラジオではないから、必要なところで止めて聴きなおすこともできる。
恐らく、民放のラジオでも同じようにネット上で聞けるようになっていると思うけれども、チェコ語を勉強しているのなら、原則として正しいチェコ語を使うチェスキー・ロズフラスを聴くのが一番いい。中でもお勧めは右側のチャンネルリストの一番上にあるラディオジュルナールである。ニュースが中心の放送なのだけど、途中で音楽が入ったり、ゲストのインタビューが入ったりすることもあって結構バラエティーに富んでいる。
ニュースはたしか一時間ごとぐらいに繰り返されるので、同じニュースを何度も聞くことで少しずつ理解が進むし、時間と共に微妙に内容が変わっていくこともあるから違いを聞き取れるようになると自分が成長したという感慨に浸ることができる。それから交通情報の「ゼレナー・ブルナ」は、数字の聞き取りの練習にいい。高速道路はもちろんのこと、一般の道路でも番号で示されることが多いし、事故などが起こった地点も、地名とキロメートル表示で伝えられる。地名はともかくキロメートルを聞いても具体的にどこなのかは想像もできないが、数字を聞き取る練習には十分である。
具体的には、「高速道路D1のプラハ方向163.5km地点でブタを積んでいたカミオンが転倒し、逃げ出した百頭ほどのブタが路上を走り回って通行の妨げとなっております」なんてのが聞こえてくるわけである。その際の渋滞の距離的時間的長さにも、迂回路の説明にもkm表示が使われるし、数字にあふれている。
数字の聞き取りの練習にいいと言えば、駅の構内放送もそうなのだけど、こちらは日本からは聞くことができないからなあ。日本でチェコ語耳を鍛えようと思ったら、 ラジオを聞いたりテレビを見たりするしかない。集中して聞くだけでなく他のことをしながら流し聞きするのも、結構役に立つものである。
それにしても、日本からチェコのラジオが聞き放題とはいい時代になったものだ。その分どうしてもチェコに行きたいという願望がスポイルされるのかもしれないけどさ。
2017年11月2日24時。
2017年11月03日
チェコ語の慣用句1(かも)(十月卅一日)
なんだか最近、映画の話と政治の話しかしていないような気がしてきたので、ちょっと違う話を。当然というか何と言うか、チェコ語にもことわざ、慣用句の類は存在する。日本語に同じようなものがあってわかりやすいものもあれば、説明されてもピンと来ないものもある。
一番日本人にわかりやすいのは、「Bez práce nejsou koláče」だろうか。「Bez」は二格をとる前置詞で、「〜なしで」という意味を表す。「práce」は仕事、女性名詞の軟変化「růže」型の単数二格である。「nejsou」は動詞「být」の現在形三人称複数の否定形で、複数になっているのは後に来る名詞「koláče」が複数一格だからである。正確に言うと男性名詞不活動体軟変化の複数一角である。では、なぜ単数の「není koláč」でないのかというと、「práce」と語尾が合わずに韻を踏まないからである。
コラーチは、甘い菓子パンみたいなもので、生地を大きく円く伸ばしてその上に果物から作ったポビドロとよばれるジャムのようなものなどを載せて焼いたり、小さく丸めた生地の中に果物やトバロフというチーズのようなものなどを入れて焼いたりする。店で買うよりも自宅で焼くことが多く、チェコの家庭のキッチンにオーブンが設置されているのは、コラーチを焼くためだといってもいい。もちろん、他にもいろいろ焼くけど。
このコラーチは、モラビアの女性が出稼ぎに出て行ったウィーンにも伝播し、それがウィーンのドイツ語にも取り入れられて「コラーチェン」という言葉になったという話を聞いたことがある。ドイツ語とチェコ語は相互に影響を与え合っているけれども、特に方言にその痕跡が強く残っているのである。チェコ語の方言に影響を与えたのが、ドイツ語の方言だったりするので話がややこしくなるんだけどさ。ドイツ語も使用範囲が広いから方言も多岐にわたるはずだし。とまれ、チェコ語では方言周圏論は成立しないのである。
話を戻そう。この慣用句直訳すると、「仕事がなければコラーチはない」ということで、すでにお分かりだろうが、日本語の「働かざるもの食うべからず」とほぼ同様の意味である。気になるのは、どうしてコラーチが使われているのかということで、朝食に食べることはあるけど間食として食べることのほうが多いものよりも、主食として食べるものを使った方が説得力があるんじゃないかなどと考えてしまう。「Bez práce nejsou piva」の方が切実だろ。韻を踏んでいないから慣用句になりにくいんだけどさ。
食べ物関係でいい言葉がないのなら、お金を使えばいい。「Bez práce nejsou peníze」だったらどうだろう。でも、直接的過ぎて慣用句とは言えないかもしれない。だから使うときには、いつもなんでコラーチなのだろうと考えながら、「べス・プラーツェ・ネイソウ・コラーチェ」と言うのである。
ところで、話は全然変わってしまうのだが、日本語では、100パーセント以上の確信があるときに、120パーセントと言うことがある。それに対して、チェコ語では106を使う。なぜか「o sto šest」と言うのである。自分では使わないので具体的な使い方が、日本語の120パーセントと同じかどうかはわからないが、もともとは冗談で一部の人たちが使っていたのが、いつの間にか広がってチェコ語として定着したものだという話を知人に教えてもらったことがある。
ということは、「Je mi tma」も冗談から出世するかもしれないねというコメントもついていたのだけど、どうだろう。ということで、この文章を読んでいるかもしれないチェコ語を勉強している皆さん、日本語ができるチェコの方に改めてお願いしておきたいと思う。「暗い」と言いたいときには「Je mi tma」、「暗くありませんか」と質問したいときには、「Není vám tma?」というのを、最初は冗談でいいから使ってもらえないだろうか。
そうすれば、何十年か後には、変なチェコ語を使う日本人を馬鹿にする冗談として広まるかもしれない。そうしたら「o sto šest」に続いて百年後ぐらいには、普通のチェコ語として使われるかもしれない。そして日本のチェコ語研究者が、その表現の起源を求めてオロモウツにやってくるかもしれないというところまで妄想しているのである。
Venku mi začíná být tma, tak jdu domů.
2017年11月1日17時。
2017年10月03日
子音で終わる女性名詞――チェコ語文法総復習(九月卅日)
子音で終わる女性名詞には、軟子音で終わる軟変化に近いものと、硬子音で終わる特殊な変化をするものの二つがある。とはいえあまり硬子音、軟子音にこだわってもしかたがない。中立子音で終わるものもあって、どっちなのかは覚えるしかないのだから。いや、その前にこの子音で終わる女性名詞が存在するということと、どの名詞が例外的に女性名詞になるのかを覚える必要がある。子音で終わるのは男性名詞だという思い込みは、どうしても強くなってしまう。
格変化について、言葉で説明するよりも見てもらった方が早かろう。ということで、例は「píseň(歌)」と「kost(骨)」である。まずは単数から。
1格 pís-eň kost-
2格 pís-ně kost-i
3格 pís-ni kost-i
4格 pís-eň kost-
5格 pís-ni kost-i
6格 pís-ni kost-i
7格 pís-ní kost-í
一見してわかるのは、この二つのタイプの違いは2格しかないということである。「píseň」で「e」が消えているのは、後ろから二番目の「e」は所謂出没母音だから、形が変わったものとはみなされない。ということは、「ň」で終わるものの2格は「e」、「t」で終わるものは「i」と覚えておいてそれ以外の子音の場合には、個別に覚えるしかないということである。2格以外は女性名詞であることがわかっていれば、間違えようがないので楽と言えば楽である。
「píseň」タイプの名詞は、「báseň(詩)」など、「eň」で終わるものが多い。ただ、「větev(枝)」のような例もあるので、出てきた場合には、いや、出てきた言葉で重要そうなものは一つ一つ覚えていくしかない。それから地名でもこのグループに属するものがある。「eň」で終わるもので終わるものとしては、プルゼニュがあるし、それ以外では、われらがオロモウツも女性名詞で、「do Olomouce」となるのである。
「kost」タイプの名詞は、「ost」で終わるものはすべてだと言いたいのだけれども、そんなことはなく、「most(橋)」は小文字で書いて一般名詞として使っても、大文字で書いて地名として使っても男性名詞である。ルールとして一般化できるのは、形容詞を名詞化した「ost」で終わる名詞はすべて女性でこのグループに属するということぐらいである。例えば、「veliký(大きい)」からできた「velikost(大きさ)」なんかである。
他の子音で終わるものとしては、「noc(夜)」「ves(村)」「lež(嘘)」「řeč(話)」などが重要だろうか。こちらも出てきた重要なものは覚えていくしかない。重要と言えば地名の中にもこの変化になるやつがあって、知らないと、何それとか、それって詐欺だろうと言いたくなるので、新旧のボレスラフ、ブジェツラフあたりの末尾が「lav」で終わるものがこのグループに属することは、特徴的だし覚えておいたほうがいい。
まあチェコ中の地名の性、単複の区別を完璧にできる人なんてチェコ人の中にもそんなにいるわけではない。事前に調べるべきテレビやラジオのニュースでも、ボヘミアの連中がモラビアの地名の性や単複を間違えることがままあって、モラビア人の怒りを買っている。それに、方言では性が変わてしまうこともあって、オロモウツを男性名詞にして使う人たちもいるのだ。この辺はもう間違えても、そんな難しいことを外国人に求めるなと言うのが正しい態度であろう。
では複数はどうかと言うと、以下のとおりである。
1格 pís-ňe kost-i
2格 pís-ní kost-í
3格 pís-ním kost-em
4格 pís-ně kost-i
5格 pís-ně kost-i
6格 pís-ních kost-ech
7格 pís-němi kost-mi
「píseň」タイプのほうは、「e」で終わる軟変化の名詞と全く同じ格変化である。単数の変化も統一して何変化ということにしておいてくれれば、チェコ語を勉強する外国人にとっては楽だったのだけどねえ。外国人のことを考えて言葉を簡単にするというのは、愚の骨頂もいいところだから、愚痴に過ぎないのだけど、格変化のややこしさに、いや微妙すぎる違いにこんなことを言いたくなることもたまにある。間違えたのはチェコ語が悪いという開きなおりがいつもやりかただけどね。
「kost」タイプのほうは、3格、6格に男性名詞的な要素が顔を出すのがちょっと厄介である。ただ形容詞から作られた、このタイプの格変化をする名詞を複数形で使う機会が、そんなにひんぱんにあるとも思えないのが救いと言えば救いである。でも「zajímavosti(興味深いこと)」「události(ニュース)」なんかは複数でも使うか。
これで、女性名詞の復習は終わりなのだけど、よくもまあこんなにあれこれ覚えたなあと我ながら感心してしまう。いや、まだ名詞に関してでも中性名詞が残っているし、形容詞や動詞の復習もしないといけないんだけどね。このチェコ語の文法に関するシリーズ、チェコ語を勉強していない人には読むの辛いだろうなあと思いつつ、ちょっと間をおいて中性名詞に手を出す予定である。
2017年10月1日23時。
2017年10月02日
女性名詞軟変化――チェコ語文法総復習(九月廿九日)
ちょっと間が空いてしまったが、女性名詞の第二回軟変化である。軟変化の特徴は単数一格が「e」で終わることだが、「e」の前に来る子音は、原則として軟子音である。気をつけない蹴ればならないのは、「e」で終わる名詞の中には、既出の「soudce」のような男性名詞活動体、「moře」のような中性名詞も存在することである。性を間違えても、単体での格変化であれば男性名詞の3格と6格以外は大きな違いはないから、あまり気にすることはない。気にしなければならないのは形容詞が前についた場合で、形容詞は特に単数の変化で性によって大きく形が変わることがあるので、区別がつかないときには形容詞は使わないほうが無難かもしれない。
この女性名詞軟変化の名詞もスロバキア語とチェコ語の違いを反映する。チェコ語では末尾が「e」になる言葉が、スロバキア語では「a」になるのだ。このスロバキア語で「a」で終わる言葉がチェコ語の女性名詞硬変化と同じ格変化をするのかどうかはわからないが、例えばチェコ語の「pivnice」はスロバキア語では「pivnica」になるのである。
スロバキア語ではないけれども。オストラバの誇るフォーク歌手ノハビツァの名字も、普通のチェコ語だったらノハビツェになるはずなのである。モラビアの東のほうの方言はスロバキア語に近づくからなあ。ちなみにノハビツェというのは、ズボンの足が入る部分のことである。これを日本語でなんというのか、それが問題である。
ではいつも通り、女性名詞軟変化の格変化を「růže(薔薇)」を使って例示する。
1格 růž-e
2格 růž-e
3格 růž-i
4格 růž-i
5格 růž-e
6格 růž-i
7格 růž-í
硬変化が日本語の動詞の五段活用なら、こちらは上一段と下一段を合わせたようなものと言いたくなる。「え・え・い・い・え・い・いー」となるので結構語呂がいいし。こういう呪文のような覚えかたは、語尾なしの書くがあると使えないのが、女性名詞の硬変化と軟変化は、単数では必ず母音が出てくるのがありがたい。ただし、女性名詞には、格変化で困ったときは「u」というのがあまり使えないのである。
ここでは、女性名詞の単数7格は長母音になるというのも特徴的な格だけに覚えておくといいだろう。硬変化は「ou」だが、この軟変化も次回取り上げる子音で終わる女性名詞も、「í」となるのである。これに男性名詞と中性名詞は「 em」で終わるものが多いというのを覚えておけば、名詞の単数7格はほぼ問題ない。日本では格変化を名詞の種類ごとにたてに勉強することが多いけれども、たまには横に見るのも役に立つ。
複数のほうは、
1格 růž-e
2格 růž-í
3格 růž-ím
4格 růž-e
5格 růž-e
6格 růž-ích
7格 růž-emi
硬変化と同様、複数の1格、4格、5格は同じ形である。ちょっと注意が必要なのは、単数と複数の一格が同じになる点である。一緒に使用されている動詞や、形容詞などから単数なのか複数なのか理解できるはずだが、とっさだと判断がつかないことも多い。間違ったとしても単数、複数を特に区別しない日本語使用者には、ただでさえ難しいのだから同じ形のものを判別するのは無理だと開き直ろう。
7格が単数1格に「mi」をつけた形になるのも硬変化と同じである。女性名詞の複数7格には「mi」というのも覚えておくべきことである。3格、6格が、それぞれ「m」「ch」で終わるのも、名詞に限らない特徴なので覚えておこう。
単数と複数の問題に話を戻すと、一番大きな問題になるのは地名である。「-ice」で終わる地名は多いのだが、ぱっと見ただけでは単数なのか複数なのかわからない。前に形容詞がついていれば、例えばチェスケー・ブデヨビツェは、前についた形容詞の末尾が、「ケー」であることから、複数扱いになっていることがわかる。単数だったら「チェスカー」になるはずなのである。
個人的な印象から言うと、「-ice」で終わる地名の大半は複数扱いだが、同じ名前の町でも、一方は単数で、もう一方は複数になるという例もあるから泣きたくなる。オロモウツ郊外のホリツェとボヘミア地方にあるホリツェは、片や単数、片や複数なのだという。どっちがどっちなのかは、何度聞いても覚えられないのだけどさ。
そして、この「-ice」で終わる地名が複数扱いの場合には、2格で語尾が消える。つまりパルドルビツェだったら、「do Pardubic」となるのである。「Pojedu do Českých Budějovic」と初めて、前につく形容詞も含めて正しくいえたときには、自分のチェコ語が上達したような気がして嬉しかった。そう言えば、「-ice」で終わる普通の名詞、例えば「ulice」なんかも、複数2格「ulic」となるはずなので、ルールとして一般化してもいいかもしれない。
スロバキア語との違いを考えると、スロバキアのバンスカー・ビストリツァも、チェコの町だったらバンスカー・ビストリツェ、いやビストジツェになっていた可能性もあるのか。そうすると東スロバキアのコシツェは複数扱いなのだろうかなどと考えてしまうが、スロバキア語の文法について云々するような知識はないので、疑問を呈するだけにしておく。
2017年9月30日24時。