「寝不足だと頭が働かないが、ぐっすりと眠った後は頭がスッキリする」 これは当たり前のように誰もが感じていることだが、これには睡眠による脳の浄化作用が関係しているようだ。
□大食漢の脳 体の全エネルギーの1/4は脳が消費
見る、聞く、触る、このような五感とも呼ばれるような感覚はすべて、目や耳、皮膚などの感覚器官を通して脳が感じているものである。また、運動を行う際も、脳から出た指令が筋肉に作用することで、思い通りの手足の動きを実現することができている。
脳は、私たちの身体を支配する非常に精密なコントローラーである。この脳が消費するエネルギーは、なんと全エネルギー消費量の約1/4を占めるとされる。
脳がよどみなく働く上で大切なのは、必要とされる膨大なエネルギーの供給、そして、細胞の働きによる老廃物の排出である。
□脳と身体 老廃物排出経路の違い
一般的に身体の各部位の老廃物は、リンパ組織を介して排出される。リンパ管は血管とともに身体の至る所に通っており、細胞からの老廃物を集めて血管の中に排出する役割を担っているのである。
ところが、脳にはこのリンパ管が存在しない。つまり、脳における老廃物の排出は、他の器官とは全く違う仕組みを持つということだ。
脳内において、このリンパ管と同じ役割を果たしているのが脳脊髄液(CSF)である。脳脊髄液は脳の周りを満たしており、リンパ管と同様に脳細胞から出た老廃物を血管へと排出する。
□睡眠が脳を浄化する
この脳脊髄液による老廃物の排出こそが、睡眠による脳の回復と大きく関連しているという。
Jeffrey J. Ilif氏らロチェスター大学医療センターの研究チームによると、この老廃物の排出が睡眠時に特に活発に行われているということである。私たちは、睡眠をとることで昼間に活動した脳を浄化しているのである。
□認知症と脳の老廃物の深い関係性
また、睡眠時に排出されるこの老廃物の中には、アミロイドβというたんぱく質が含まれている。そして、このアミロイドβの排出速度は睡眠時の方が、圧倒的に速いことが明らかとなっている。
アミロイドβとは脳の中で常に作られているたんぱく質であり、アルツハイマー型認知症患者の脳細胞間にはこのアミロイドβが多量に蓄積していることが知られている。このことはアルツハイマー型認知症の予防や治療にも新たな可能性を与えてくれる可能性があるとして、医学界では注目が集まっている。
睡眠とアミロイドβ、認知症との関連については未解明の事実も多く、まだ少し時間がかかりそうだ。しかし、厚労省の調べでは9年後の2025年には、認知症の高齢者が700万人、65歳以上人口の実に5人に1人が患うと予測している。早い段階での解明を期待したい。