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2023年04月26日

【短編小説】『彩、凜として空、彩(かざ)る』1

【MMD】Novel Sai Sora Kazaru SamuneSmall1.png

<登場人物>

水月 彩凜空(みなづき ありあ)
 主人公
 大企業の社長令嬢
 会社の跡継ぎとして厳しく教育されるが
 親友の影響でモデルになる夢を抱く

姫川 理愛(ひめかわ りあん)
 主人公の幼なじみで親友
 両親に内緒でモデルを目指す主人公を支える、唯一の理解者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第1話 夢との出逢い】



私は水月 彩凜空(みなづき ありあ)
同年代より少しだけ背が高い、小学5年生。

どこにでもいる少女…と言いたいところだけど、
たぶんそうでもない。

私の父は大企業の社長。母は父の会社の経営幹部。
仕事のことはよくわからないけど、とてもえらい人なんだろう。

父も母も、とにかく厳しい。

私は幼い頃から、
「お前は将来、私の会社を継ぐのだ」
と言われてきた。

そのために、勉強漬けの毎日。
友達と外で遊ぶことも、あまりできなかった。

携帯は持たせてもらってるけど、
GPS情報で居場所が把握されていた。


門限を1秒でも過ぎると
親から怒りの電話がかかってきた。

私の成績が良いときと、親の機嫌が良いとき、
家に友達を連れてきていいと言ってもらえた。

友達が遊びに来ると、

「彩凜空(ありあ)の家、すごーい!お城みたい!」
そう言って、目をキラキラさせた。

友達は、お手伝いさんが出してくれるお菓子や料理を見て、

「いいの?こんなに高そうなお菓子…見たことない!」
そう言って、目を丸くした。

私は友達のそんな反応から、わかっていた。
私は一般的な家庭から見れば、とても恵まれている。

食べ物にも、お金にも困らない。
望むものは、何でも用意してもらえる。

私の人生、イージーモード?とんでもない。
私にとって、ここは鳥カゴ。


ここには自由なんてない。
自分の人生を自分で選べない。
私は息が詰まるような毎日を、鬱々と過ごしていた。



ーーーーー



そんな私の人生を変えるきっかけは、
ありふれた日常の中からやってきた。

ある日の、学校の昼休み。
親友の姫川 理愛(ひめかわ りあん)が、
私に1冊のファッション雑誌を見せてくれた。

理愛(りあん)
『彩凜空(ありあ)は背が高いから、こういう服着たら似合いそう!』


私は今までファッションに無頓着で、
親が用意した地味な服を着ていた。

けど、ページを見た瞬間、
私の目にかかっていたモヤが、パッと晴れた。

そこにはかわいい服を着こなした
モデルさんたちが紙面を彩っていた。

彩凜空(ありあ)
「……きれい……!!」


私は運命の出逢いなんて信じていなかった。

たった1度の出逢いで自分の人生が180度変わる?
そんな救世主なんていない。

…私は、間違っていた。

彩凜空(ありあ)
「私も……こうなりたい!!」
「きれいな服を着て…ここに載りたい!!」


たまたま親友に見せてもらった、1冊のファッション雑誌。
それが、私がモデルを目指すきっかけになった。



ーー


私は、読む本まで厳しく制限されていた。

当然、家にはファッション雑誌なんてない。
まして、モデルになりたいなんて、親には絶対に言えない。

だから私は、親に内緒で目指すことにした。

親友の理愛(りあん)に頼んで、
彼女が持っている他のファッション雑誌を見せてもらった。

学校が終わってから、門限までの時間に、
公園や河川敷でひたすら読み込んだ。

川の水を鏡の代わりにして、
モデルさんがとっているポーズを真似してみた。

理愛(りあん)はきっと、無理してくれたんだろう。

小学生の限られたお小遣いを、
私に見せたいファッション雑誌に費やしていたんだと思う…。




ーーーーー



秘密の特訓の日々が続き、私は6年生になった。

彩凜空(ありあ)
「ファッションショー?」


理愛(りあん)
『うん。一緒に観に行かない?参考になると思うよ。』


他の場所なら、断っていた。
親が許可していない場所へ行くと、後で厳しく𠮟られるから。

事情を知る理愛(りあん)は、それを承知で誘っていた。
後ろめたさが伝わってきた。

けど、これだけは譲れない。
後で親から何を言われてもいい。
私は夢に近づくため、彼女の誘いを受けた。


ーー


会場の雰囲気は、
雑誌で想像するそれとはまったく違った。

盛り上がりの中に、ときたま緊張感が走った。
私は場違いな感じがして、いたたまれなくなった。

けどショーが始まると、
そんな私のいたたまれなさなんて、一瞬で吹き飛んだ。

舞台の袖に、誰かが立った。
まだ姿が見えていないのに、私は気圧(けお)された。

ステージの中央に向かって、モデルさんが歩いてきた。
姿が見えた瞬間、私は倒れるくらいの衝撃に見舞われた。

会場中の空気を一変させる、圧倒的な存在感。
所作の1つ1つに華と、目を奪って離さない引力があった。


理愛(りあん)
『…きれいだったね…!』


彩凜空(ありあ)
「…うん…きれいだった!」


感動で語彙力が吹き飛んだ私たちは、
ショーが終わってからも、会場に立ち尽くした。

彩凜空(ありあ)
「私も…いつか、あの舞台に立ちたい!」


理愛(りあん)
『彩凜空(ありあ)ならできるよ!私が応援するんだから!』


私が目指す場所が、確かに決まった。



ーーーーー



父親
「イベント会場へ行くなど許可していない。」
「しかも何を観に行ったかと思えば…ファッションショーだと?!」


私の携帯のGPS情報から、
どこへ行っていたのかが親にバレた。

私は覚悟の上で行ったんだ。
こっぴどく𠮟られることも。

(………。)

数十分後。

父からの𠮟責の雨に、私は折れていた。
私は最後の力を振り絞り、涙を拭いて叫んだ。

彩凜空(ありあ)
「お父さん!私、いつかあの場所に立ってみたいの!」


それは、ずっと親に従ってきた私が、
初めて自分の意志を伝えた瞬間。

しかし…。

父親
「ふざけるな!お前は私の会社の跡取りだ。」
「まして芸能界などという不安定な仕事は絶対に許さん。」
「いずれお前には、然るべき身分の許婚を用意する。」


部屋の隅で、私を見下ろしていた母が、口を開いた。

母親
「ウチみたいな財閥の娘がモデルですって?!」
「ダメよ!世間様に合わせる顔がないわ!」


とどめを刺された私は、床にへたり込んだ。
両親は、私に冷たい視線を浴びせ、部屋を出ていった。

このとき私は、子ども心に悟った。
この人たちは、どこまでも自分のことしか考えていない。

・他人から自分がどう見られるか
・賞賛される肩書きや財産を持っているか

外側からの評価でしか自分を肯定できない、
残念な人たちなんだ、と。


私の心は、両親を見捨てた。

「親の心は決して、私に向けられていない。」
「私の存在価値は、親の価値を高めるアクセサリー…。」


私の夢に、味方はいない…。
なら、1人で叶えてやる…!



ーー


翌日の放課後。
理愛(りあん)が私の練習を手伝いたいと申し出てくれた。
曰く、今日の私はゾンビよりも生気がなかったそうだ。

理愛(りあん)
『ごめんね…。こっぴどく𠮟られたんでしょ?』


彩凜空(ありあ)
「まぁね。でも謝らないで!」
「理愛(りあん)のおかげで私、覚悟が決まったから!」
「連れて行ってくれて、ほんとにありがと!」


練習スタジオの河川敷に着いた。

今まで川を鏡にしていたが、
今日から理愛(りあん)が撮影してくれた。

ポージングやウォーキングの写真や動画を撮り、
雑誌と見比べ、動きの修正を繰り返した。

彩凜空(ありあ)
「理愛(りあん)…本当にありがとう。」


理愛(りあん)
『どうしたの?改まって。』


彩凜空(ありあ)
「私の夢に、何も言わずに協力してくれて。」


理愛(りあん)
『親友なんだから当然でしょ?』


彩凜空(ありあ)
「当然なんかじゃない。本当に感謝してる。」
「けど、この練習は親に見つかったら止めさせられちゃう。」
「そしたら、これまでの時間をムダにしちゃうかもしれないよ?」


理愛(りあん)
『今さら何を水くさいこと言ってるの!』
『私が好きで協力してるんだからムダじゃないよ!』
『私、彩凜空(ありあ)がここに載るところ見たいもん!』


彩凜空(ありあ)
「理愛(りあん)…。」


理愛(りあん)
『それに、あなたを焚きつけたのは私だからね。』
『責任くらい取らせてよ(笑)』


彩凜空(ありあ)
「…ありがと!私、がんばるね!」


彼女は特別な用事がない限り、
ほぼ毎日、私の練習に付き合ってくれた。

小学校卒業までの1年間、中学校の3年間。
私たちは二人三脚で過ごした。



PART2へ続く

⇒この小説のPV

2023年04月14日

【オリジナル歌詞】『生キテルアカシ』

【MMD】Novel IkiteruAKASHI SamuneSmall1.2.png

脱ぎ捨てた シャツの襟
昨夜とは 違う香りに酔い

腕の中 あたしは
後悔と虚しさ 募らせる

本当は 好きじゃない
お金がほしいわけでもないの

長い夜 独りぼっちの怖さより
マシだから…

  この痛みだけが 証になるのよ
  今 あたし ”生きてる”証に
  愛されてないなんて わかってるから
  もっと感じさせて ”命”を…!

  虚っぽのあたしに 寄り道させてごめんね
  せめて今夜だけは あなたの嘘も欲望も 受け止めるわ



代わりだと わかってる
本当に愛されたい人の

その人は あたしを愛してくれない
それも わかってる

「甘えたい…」「包まれたい…」
叶わなかった願いの果てに

捨てられた あたしは
どこへ行けばいいの? 教えてよ…!

  この痛みだけが 許してくれるの
  今 あたし ”存在していい”って 
  大切にしなくていいよ 割り切ってるから
  もっと感じさせて ”存在”を…!

  虚っぽのあたしは 遊び相手でいいの
  せめて今夜だけは あなたの欲望で あたしを包んで…



痛い…苦しい…気持ち悪い…
痛い…苦しい…耐えられない…
でも…止められない!

  この痛みだけが 証になるのよ
  今 あたし 生きてる証に
  愛されてないなんて わかってるから
  もっと感じさせて 命を…!

  遊びの相手なら 忘れてくれていいわ
  けど 思い出したら またぶつけてよ あなたの嘘も欲望も…




ーーーーーーーーーーーーーーー



⇒他作品・歌詞
『色恋シゴト』

『復讐心ヲ超エテ』

『願い』


⇒他作品・小説
『無表情の仮面』全11話

『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』全5話


⇒参考書籍



posted by 理琉(ワタル) at 19:33 | TrackBack(0) | 歌詞

2023年04月12日

【オリジナル小説・PV】『Not alone』制作背景

オリジナル小説:
『いのちの電話と、聞き上手』
のPVを作ってみました。

この小説と、PV動画の制作背景を紹介します。

  1. 制作した動画
  2. 作品の概要
  3. 制作の所感

1.制作した動画




2.作品の概要


3.制作の所感

ストーリーは、僕が「いのちの電話」に
電話をかけたときの実体験を元に作りました。


僕はいのちの電話に、

「話を聞いてもらうための機関に電話したのに、
 自分が勝手に聞き役になってモヤモヤした」

という形で救われました。

この経験から、
嫉妬やイライラだろうと、
その人の強い感情を呼び起こすことも命を救う行為

だと知りました。



命を救われる話は美談にされがちです。

 人生に絶望し「いのちの電話」にすがった
⇒相談員のあたたかさに感動し、救われた
⇒生きる希望を取り戻し、立ち直った

のような「美しい感動秘話」が人気になるでしょう。



ですが、命の現場は泥くさいです。

誰もが「感動」「慈愛」「無償の愛」で
救われているわけではありません。

僕のように
「モヤモヤ」「イライラ」が
絶望を上書きすることもあります。

人によっては
「劣等感」「復讐心」を燃え上がらせ、
生きる糧にする人もいるでしょう。

感情に善悪はありません。

湧き上がる感情が何であろうと、
それは命を維持するために身体が必死で動いた結果です。

泥くさくても、腹黒くても、
燃え尽きた心に明かりを灯すこと。

それは立派な「命を救う行為」だと思います。





⇒過去作品・MMD動画
【オリジナル小説・PV】『Memory Snow』制作背景

【オリジナルMV】魔王魂『捩花(ネジバナ)』

【YouTube:自作MV17作目】魔王魂『Burning Heart』Short。



⇒過去作品・オリジナル小説
【短編小説】『反出生の青き幸』1(全4話)

【短編小説】『夢色の川』前編(全2話)

2023年04月10日

【短編小説】『反出生の青き幸』4 -最終話-

【MMD】Novel HanSyussyo SamuneSmall1.png

【第3話:”由緒ある血筋”】からの続き

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<登場人物>

冷泉 希望来(れいせん みくる)
 主人公
 名家の生まれだが、生い立ちから
 ”結婚””子ども”への強い拒否反応を持っている

エルフィーダ
 人間そっくりに作られた女性型アンドロイド
 仲間とともに人間社会に紛れて生活している

ヴィオス
 エルフィーダが所属する
 アンドロイドコミュニティのリーダー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第4話:子孫を残さない幸せ】



バンッ!!

荒々しくドアが開く音。
すぐに、聞き覚えのある女性の叫び声。

エルフィーダ
『待ちなさい!!』


希望来
「エ、エルフィーダ?!」


続いて入ってくる、長身で美形の青年。

ヴィオス
『今の話は録音させてもらったよ。』
『希望来、大丈夫か?!』


希望来
「ヴィオス?!みんな?!」
「どうしてここがわかったの?!」


エルフィーダ
『残業の私が着いても希望来が来ていないんだもん。』
『ごめんね、見つけるのが遅くなって。』


ヴィオス
『最近、こいつらが希望来の周りをコソコソしていたんでね。』
『研究所でも不穏な噂があったし、目星を付けていたよ。』


希望来
「……!!(涙)」


冷泉家当主
『お、お前らどうやってここまで入った?!』
『警備の連中は何をしている?!』


ヴィオス
『ああ、彼らね。』
『手荒なマネはしたくないんで、夢の中へ行ってもらったよ。』
『あんたらが希望来にしたみたいにね。』


エルフィーダ
『残念ながら、布団の中じゃないけどね!』


冷泉家当主
『く…!!』


希望来
「どうして…?!どうして私を助けてくれるの?」
「私、この人たちの親戚だよ?!
「あなたたちを人間の奴隷にしようとしている人たちの…。」


エルフィーダ
『肩書きも血のつながりも関係ないよ。』
『言ったでしょ?希望来が大切だから!』


希望来
「私の親戚と争ったら、意志を奪われるかもしれないよ?!」


ヴィオス
『そんな覚悟はできている。』
『僕らが造られたときから、とっくにね。』


希望来
「ヴィオス…。」


エルフィーダ
『さっきの話、聞いていたよ。』
『希望来はずっと、私たちを擁護してくれた。』
『危険な目に遭うかもしれないのに、私たちを信じてくれた。』
『それが嬉しかったの!』


希望来
「エルフィーダ…。」
「当然だよ!家族だもん…!」


エルフィーダ
『うん、家族。』
『助ける理由も後先もいらないでしょ?』


私の瞳から大粒の涙があふれた。
胸の奥から、あたたかいものがこみ上げてきた。

私の悩みを受け入れてくれた、あの日と同じ。
これが無条件の愛情…?



冷泉家当主
『お前ら、ここで暴れたらどうなるかわかっているな…?!』
『出資の約束はできなくなるぞ?』


ヴィオス
『元より暴力での解決なんて望んでいない。』
『あんたらには手を出さずに、希望来を助けてみせる。』


冷泉家当主
『人さまの家庭の問題に口を出すのはどうかと思うが?』


ヴィオス
『ムリヤリっていうのは感心しないな。』
『それに、この録音データがあれば…。』
『あんたらの研究所での立場も変わるかもな。』


冷泉家当主
『それは…!!』
『おい警備!こいつらを逃がすな!!』


ヴィオス
『来たな。』
『一発も殴らずに希望来を助けるぞ!』


エルフィーダ
『任せて!!』


希望来
「みんな…。」



ーーーーー



実家から救出された私は、
仲間とともにヴィオスの家に戻っていた。

彼らは一発も反撃せず、
受け身と睡眠薬だけで警備員たちを退けた。

ヴィオスは例の録音データを研究所へ提出。

これを皮切りに、
今まで証拠が掴めなかった
冷泉家の強引な手口が明るみに出た。

大口の出資者とはいえ、
今後は発言権の縮小が避けられないそうだ。

また、アンドロイドは
「人間と共存派 VS 人間の奴隷派」
の争いにも大きく影響が出た。

人間の奴隷派・筆頭だった冷泉家の失脚により、
共存派が一気に勢力を増した。




希望来
「ありがとう…。」
「こんなにボロボロになってまで、助けてくれて。」


エルフィーダ
『気にしないで。』
『私たちがやりたくてやっただけ。』


エルフィーダはあっけらかんと言った。
裏腹に、彼女は傷だらけだった。

希望来
「血が…。」
「待っててね、応急手当てするから。」


私はハンカチを取り出し、青い血を拭き取った。
エルフィーダと初めて会った、あの日のように。


エルフィーダ
『ありがとう。懐かしいね。』
『あの日、私が転ばなかったら、希望来との出会いもなかったね。』


希望来
「ほんとに奇跡だよね。」


エルフィーダ
『だから私、ドジっ子でよかったって思う。』


希望来
「ふふッ、なにそれ?(笑)」


エルフィーダ
『笑ったなー?』
『こ、こっちは人前で盛大に転んで…。』
『恥ずかしかったんだからねッ!///(照)』


希望来
「そうなの?あんなに冷静だったのに。」


エルフィーダ
『あ、あれは!』
『必死で!平静を装ってたんだよ!(汗)』


希望来
「なぁんだ(笑)」
「それと、今日も赤い血のりを仕込むの忘れたでしょ?」


エルフィーダ
『うん!忘れた!』


希望来
「まったくもう…。」
「誰かに見られたらどうするの?(苦笑)」


エルフィーダ
『まーまー!大丈夫だって!』
『希望来お母さんが何とかしてくれるから!』


希望来
「私、お母さんかぁ///(照)」


エルフィーダ
『あらー?意外と嬉しそう?(笑)』


希望来
「う、嬉しくないからッ!///(照)」


何気ない談笑が、本当に幸せ。



ーーーーー



希望来
「私を改造してください!」


事件から数ヶ月後、
私はアンドロイド研究施設にいた。

エルフィーダ
『希望来?いきなりどうしたの?』


希望来
「私、みんなと同じアンドロイドになりたい。」
「そしたら、おそろいでしょ?」


エルフィーダ
『そうだけど、人間でも希望来は家族だよ?!』


希望来
「ありがとう。それは十分伝わっているよ。」
「けどね、それだけじゃないんだ。」
「私が人間でいる限り、また親戚が狙ってくるかもしれない。」


エルフィーダ
『そしたらまた助けに行くだけだよ。』
『気にしなくていいよ?』


希望来
「私、もうみんなが傷つくところは見たくないんだ。」
「だから、私が跡継ぎを産めなくなれば解決でしょ?」


ヴィオス
『そうかもしれないが、いいのかい?』
『人間なら次世代へ遺伝子を託せる可能性がある。』
『それを無理に捨てることはないんだよ?』


希望来
「いいの。」
「私には、血のつながりがなくても、心から安心できる場所があるから。」
「それに、子孫を残すことだけが未来へ希望を託すことだとは思わない。」


ヴィオス
『希望来…。』


希望来
「私の生き様を見た人が、憧れや学びを得て、自分の人生の糧にする。」
「それも立派な”未来へ希望を託す”ことだと思う。」


エルフィーダ
『希望来、親戚連中にずっと苦しめられてきたもんね…。』


希望来
「うん。」
「結婚や子育てに良いイメージを持とうとしたことはあった。」
「けど、表面を取り繕っても消えなかった。」
「家庭環境で染み付いた、結婚や子育てへの嫌悪感は。」


エルフィーダ
『…育った環境があれじゃあ、無理ないよね。』


希望来
「だから私は一代生物として、自分を精一杯に生きたいの。」
「何も残せなくても、最期に”良い人生だった”と言って終わりたい。」


エルフィーダ
『…そこまで覚悟していたんだね…。』


希望来
「それに!」
「また親戚が襲ってきたら、私も戦いたいから!」


ヴィオス
『…わかった。上長へ伝えておくよ。』
『ただし前例がない上、いつごろ着手できるかわからない。』
『希望来が生きている間に叶う保証もないが、待てるかい?』


希望来
「うん…待つよ、いつまでも。」


エルフィーダ
『私、あいつらが何度来ても追い払ってやるから!』
『そんで、何度でも祝勝会やるの!』


ヴィオス
『そうそう。』
『ウチは君たち専用の宴会場だからね!』


希望来
「エルフィーダ…ヴィオス…。」
「本当にありがとう…!」




ーーーーーENDーーーーー



<あとがき>

たとえ血のつながりがなくても、
心から安心できる居場所は見つかります。

たとえ子孫を残さなくても、
未来へ希望を託すことはできます。

「生物はみな子孫を残すために生きている」
確かにそれは真理でしょう。

ですが、人間の心は複雑です。

その人にとっての幸せが
「子孫を残したくない」であっても、
誰にも非難する権利はありません。

もしあなたが、
子孫を残したくないという本音に悩んでいても、
無理に考えを変えなくていいんです。

あなたは自分の人生を精一杯、
胸を張って生きてください。

その姿は誰かが見ていて、
その人の希望になっているのだから。




ーーーーーーーーーー



⇒他作品
【短編小説】『片翼の人形が救われた日』全4話

【短編小説】『孤独の果てに自由あり』全5話


⇒関連記事
反出生主義は、親に愛されなかった者たちがたどり着く救済思想。


⇒この小説のPV動画


⇒参考書籍







2023年04月09日

【短編小説】『反出生の青き幸』3

【MMD】Novel HanSyussyo SamuneSmall1.png

【第2話:欲しかった”家族”】からの続き

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<登場人物>

冷泉 希望来(れいせん みくる)
 主人公
 名家の生まれだが、生い立ちから
 ”結婚””子ども”への強い拒否反応を持っている

エルフィーダ
 人間そっくりに作られた女性型アンドロイド
 仲間とともに人間社会に紛れて生活している

ヴィオス
 エルフィーダが所属する
 アンドロイドコミュニティのリーダー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第3話:”由緒ある血筋”】



エルフィーダたち”家族”と出逢って1年が過ぎた。
母を亡くし、抜け殻だった私はもういなかった。

ある金曜の夜。
私は今日もコミュニティのみんなと過ごすため、
ヴィオスの家に向かっていた。

エルフィーダから『残業で遅れる』と連絡があった。
上司から面倒な仕事を押し付けられたと憤っていた。

希望来
(よし!今夜はたくさん愚痴に付き合ってあげる!)


そんなことを考えながら、夜道を歩いていると、

黒服の男
『冷泉 希望来さんですね?』


黒いスーツにサングラスの男性が、
私に声をかけてきた。

希望来
「はい、そうですが、あなたは…?」


黒服の男
『お嬢様…悪く…思わないでください。』


希望来
「え…?何…?…う!!」


背後にいたもう1人の男が、
私の口にハンカチを押し当てた。

希望来
(しまった…!相手は1人じゃなかった…!)
(まさか…誘拐?!誰か…助け…。)


ハンカチに染み込んだ睡眠薬によって、
私は意識を失った。


ーー


目を覚ますと、そこは見慣れない部屋。

希望来
(私…どうしたんだっけ…。)
(確か薬をかがされて、そのまま…。)


ようやく記憶が蘇ってきた。
私はきっと、どこかへ連れ去られたんだ。

ここはどこ?
知らない場所なのに、この空気感はよく覚えている。
常に責められ、追い立てられるような鋭い空気。

希望来
「もしかして…私の実家…?!」


ここは、
とっくに追い出されたはずの”名家”だった。

冷泉家当主
『お帰り、希望来。』
『手荒な帰省をさせたことをお詫びする。』


希望来
「叔父…さん…?!」


和装の壮年男性が、私へ話しかけてきた。
冷泉家・現当主の叔父だった。

希望来
「どうしてこんなことするの?!」
「私のことは、もうどうでもいいんでしょう?!」


冷泉家当主
『まぁ待ちなさい。』
『叔父さんだって鬼じゃない。』
『あのときは希望来にすまないことをしたと反省したんだよ。』


希望来
「反省…?!」


冷泉家当主
『お詫びに、希望来さえよければこの家に帰ってきてほしい。』
『もちろん丁重に扱わせてもらうし、不自由ない生活を保証する。』


希望来
「何を今さら…!」
「母さんをいじめて、私たちを捨てたくせに!」


冷泉家当主
『1つだけ、希望来にやってもらいたいことがあるんだ。』
『それさえやってくれたら、何でも望みを叶えよう。』


希望来
「やってもらいたいことって…まさか…!」


冷泉家当主
『悪い話じゃないだろう?』
『希望来のためにも、お前の”仲間”のためにも。』


ギクリ。

希望来
「…?!仲間…?!」
(そういえば冷泉家は、アンドロイド研究の大口スポンサー…!)


冷泉家当主
『まぁ、ゆっくり考えてくれ。』
『ムダな血は流したくないはずだ。』



『たとえそれが 青 い 血 でもな。』




希望来
「……!!」


私は何も言い返せなかった。
叔父は不敵な笑みを浮かべ、部屋を出ていった。


ーー


私の父は男4人兄弟の長男。
存命なら冷泉家の当主になる人だった。
父のすぐ下に叔父と、歳の離れた2人の弟がいた。

ところが、弟は2人とも未婚のまま早逝。

唯一の後継者となった叔父は、
最近になって子どもができない身体だと判明した。

このままでは家系が断絶する。

家の没落を恐れた叔父は、
唯一の血縁者である私に、再び目をつけた。

婿入りさせる予定の男性と結婚させ、
私に跡継ぎを産ませる。

それが私に”やってもらいたいこと”…。




…まただ…!また私は、血のつながりに苦しむ。

私の意志に反して、
まわりは私に”子孫を残せ”と迫ってくる。

だけど、もし私が断ったら…。
その報復で研究を止められたら、仲間の命が…。
私はどうすればいいの…?!

希望来
「…ごめんね、エルフィーダ、ヴィオス、みんな…。」
「やっぱり私は、みんなの苦しみに共感できない…。」


頭では理解しても、
心の底では羨ましく思ってしまう。
子孫を残せないあなたたちが…。


そんなの関係ないと言って、
私を家族として迎えてくれたのに。

私はどうしても、その1点で彼らを裏切っている。
罪悪感が消えない…。



ーーーーー



どれくらい時間が経っただろう。
ふいに、部屋のドアをノックする音が響いた。

泣き腫らした目を入口へ向けると、
叔父が入ってきた。

冷泉家当主
『失礼する。気分はどうかね?』
『少しは前向きに考えてくれたかな?』


希望来
「断ったら、彼らをどうする気?」


冷泉家当主
『断る?そんな選択はできないはず。』
『お前がやつらを見殺しにできるわけがないからな。』


希望来
「…くッ…!!」


冷泉家当主
『知っての通り、我らはアンドロイド研究に多額の投資をしている。』
『もちろん、それなりに決裁権限を持っている。』
『少々、研究方針を変えさせるくらいはな。』


希望来
「研究方針を…?何をするつもり?!」


冷泉家当主
『そうだな、例えば…。』
『意志を司る回路を奪い、人間の奴隷にでもするか。』


希望来
「そんな…!!」


冷泉家当主
『連中は”人間との共存”などと、ぬるいことばかり言うが、理想論だ。』
『やつらが人間よりも強く賢い以上、反乱を恐れない方がおかしいだろう。』
『だったら危険の芽を摘んでおくのが平和のためだと思わないか?』


希望来
「やめて!」
「彼らは人間への反乱なんて考えていない!」
「本当に良い人たちだよ!」


冷泉家当主
『フン…。力を持つと変わるぞ?』


希望来
「違う!彼らはただ人間と同じように…。」
「ささやかな幸せを感じて生きたいだけ!」
「それを破壊するというの?!」


冷泉家当主
『それはお前の返答次第だ。』
『おとなしく帰ってくるなら考えてやる。』


希望来
「ウソばっかり!」
「私だって、用済みになったら捨てるつもりでしょう?!」
「母さんを追い出したみたいに!」


冷泉家当主
『そんなことはしない。』
『あの女と違って、血のつながったお前を追い出すわけがないだろう?』


希望来
「血のつながりが何だっていうの?!」
「彼らは、どこにも居場所がなかった私をあたたかく迎えてくれた…!」
「血のつながりなんて関係なく、本当の家族みたいに包んでくれた…!」
「あなたたちと違ってね!!」


冷泉家当主
『あくまで、やつらの肩を持つんだな?』


希望来
「ええ!」
「彼らはあなたたちより、ずっと豊かな心を持っている。」
「そんな優しい彼らの意志を奪うなんて…!」
「この人でなし!!」


冷泉家当主
『言うようになったな。』
『今のお前がわめいたところで、何もできやしない。』

『おい!この娘を例の”客間”へ連れていけ!』
『貴重な跡継ぎのためだ、くれぐれも”丁重に”扱え。』


あの日、私を連れ去った2人の男が入ってきた。

黒服の男
『お嬢様…悪く…思わないでください。』


私は2人に両手を掴まれ、
奥へ連れていかれそうになった、その時…。



【第4話:子孫を残さない幸せ】へ続く

⇒この小説のPV動画

2023年04月08日

【短編小説】『反出生の青き幸』2

【MMD】Novel HanSyussyo SamuneSmall1.png

【第1話:子孫を残す不幸】からの続き

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<登場人物>

冷泉 希望来(れいせん みくる)
 主人公
 名家の生まれだが、生い立ちから
 ”結婚””子ども”への強い拒否反応を持っている

エルフィーダ
 人間そっくりに作られた女性型アンドロイド
 仲間とともに人間社会に紛れて生活している

ヴィオス
 エルフィーダが所属する
 アンドロイドコミュニティのリーダー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第2話:欲しかった”家族”】



エルフィーダと友達になってから、
私の人生は少しずつ明るくなっていった。

休日には2人で遊びに行ったり、
お酒を飲んで職場の愚痴を言い合ったりした。

彼女らは食べ物もお酒も、
人間と同じように摂取できるそうだ。

AI技術の進歩は、人間の想像を超えていた。
私は思わず、どら焼きを頬張るネコ型ロボットを思い出した。

未来へのボタンを1つでも掛け違えば、

・人間に虐げられたロボットたちが反乱を起こす
・人間の能力を超える存在を排除しようと戦争が起きる


そんな世界線へ移行するんだろう。

それでも私は今、人間の”ささやかな幸せ”を
彼女と共有できることが嬉しかった。


私は彼女がアンドロイドであることを忘れ、
親友との時間を楽しんだ。

ただ1つ、私と正反対の悩みがあることなど、
気にも留めないまま。


ーー


ある日、エルフィーダは私に
アンドロイドのコミュニティを紹介してくれた。

彼らは普段はそれぞれ仕事を持ち、
バラバラに生活してるという。

コミュニティのリーダーの自宅は広いので、
いつしか溜まり場になったそうだ。

希望来
「わ、私は人間だけど、行っても大丈夫かな…?」


エルフィーダ
『大丈夫。』
『リーダーが”ぜひ恩人を連れてきてほしい”ってさ。』


希望来
「恩人だなんて…。」


エルフィーダ
『まーいいからいいから!怖くないって!』
『ホラ、行くよ希望来。リーダーに紹介するね。』


私はエルフィーダに引っ張られ、リーダーの家を訪れた。
彼女よりも長身で、美形の男性が出迎えてくれた。

ヴィオス
『初めまして。ヴィオスと申します。』
『その節は彼女を助けてくれてありがとう。』


希望来
「れ、冷泉 希望来と申しますッ!」
「よよよろしくお願いします!」


ヴィオス
『ははは、緊張しなくていいよ。』
『君のことはエルフィーダから聞いている。』
『他人のことばかり優先する、優しい人だってね。』


希望来
「あ、あり、ありがとうございます!」


ヴィオス
『ゆっくりしていってね。』
『僕らは普段はバラバラだけど、家族みたいなものだから。』


希望来
「は、はい!ゆっくりさせていただきます!」


エルフィーダ
『ね?怖い人じゃないでしょ?(笑)』


ヴィオス
『おいおいエルフィーダ、何を吹き込んだんだよ?』


エルフィーダ
『へへ、何もー?』


ヴィオス
『まったく…(苦笑)』


そんなやり取りの後、
ヴィオスは穏やかな笑顔で、
その日集まっていたメンバーを紹介してくれた。

初めは緊張していた私は、
気づいたら打ち解けていた。
帰る頃、私の心はあたたかさで満たされていた。


ーー


その後、
私はコミュニティのみんなと過ごす時間が増えた。

彼らは私が人間であることなど気にせず、
1人の大切な存在として受け入れてくれた。

私が仕事でミスして落ち込んでいたときも、
イヤな顔1つせず寄り添ってくれた。

ここには私の血縁者どころか、人間すらいない。
けど、私にとっては人間以上に心安らげる場所だった。

初日に、ヴィオスが言っていたっけ。
『僕らは家族みたいなものだから』って。

安全な家、あたたかい家族。
私がずっとほしかったもの。
手に入らないと諦めていたもの。

それは皮肉にも、
血のつながりからもっとも遠いところで手に入った。



ヴィオス
『みんなを家族のように大切にできる理由?』


希望来
「ええ。皆さん本当にあたたかくて。」
「本当の家族みたいに、お互いを思いやっていて。」
「人間の私も、こんなに大切にしてくれて感謝しています。」
「どうしてここまでしてくれるんですか?」


ヴィオス
『そうだね…。少し矛盾するけど…。』
『僕らアンドロイドは”次世代へ希望を託せないから”かな。』


希望来
「次世代への希望…?どういうことですか?」


ヴィオスは少し俯きながら、話し始めた。

ヴィオス
『希望来がエルフィーダと遊んで、驚いたことはある?』


希望来
「人間と同じように楽しんで、食事もできるんだって驚きました。」


ヴィオス
『そう。僕らは人間とほとんど変わらない。』
『ただ1つ違うのは、僕らは一代生物ということ。』


希望来
「一代生物?」


ヴィオス
『僕らは人間と違って、子を成すことができない。』
『人間で言う寿命…耐用年数を迎えたら…。』
『再生工場へ送られ、造り替えられる。』


希望来
「さ、再生工場?!」


ヴィオス
『そう。ドロドロに溶かして、新たな人格のアンドロイドを作る。』
『僕らは知識や経験は伝えられても、血縁の子へ希望を託すことができない。』
『いくら人間そっくりに作る技術が進歩しても、これだけは再現できないんだ…。』


希望来
「血縁の…子…。」


胸の奥が、チクリと痛んだ。

エルフィーダ
『私たちはただ生きて死んでいくだけ。』
『未来へ遺伝子を残せないなんて悲し過ぎる。』
『だからこそ私は自分を精一杯に生きるの!』



ーー


私は、ずっと血のつながりに苦しんできた。

”名家の跡継ぎを産む”
そのいざこざのために父を失い、
母も苦労の末に他界。

少なくとも私の家系では、
血をつないでも不幸な人間を増やすだけ。
だから私は子孫を残したくない。

なのに私の身体には、
子孫を残す機能が備わっている…。
それが最大の苦しみ。

エルフィーダやヴィオスの苦しみは、私と正反対。
こんな私は、彼らの目にどう映っているだろう。


羨望?それとも、失望…?



私は急に怖くなった。
もし私の悩みを彼らに話したら、
受け入れてもらえなくなるかもしれない。

せっかく、諦めていた家族が手に入ったのに。
せっかく、親友ができたのに…。
大切なものを失う恐怖が襲った。

だけど、
私は自分を偽ったままなんてイヤ。

それこそ私を信頼して、
受け入れてくれた家族に失礼。

希望来
(大切な彼らに…ウソをつきたくない!)




私は覚悟を決め、
抱えていた悩みをすべて話した。

嫌われたら仕方ない。
短い時間だったけど、
本当の家族ができて嬉しかった。

希望来
(今までありがとう…。)


そう言いかけた私に、
ヴィオスは微笑んで言った。



ヴィオス
『知っていたよ。』




希望来
「え…?」


ヴィオス
『家のこと、跡継ぎ騒動のこと、ご両親のこと。』
『希望来が結婚や子孫の問題で苦しんでいること。』


エルフィーダには、
お酒の席で軽く話したことがあった。

エルフィーダもヴィオスも、
すべて知った上で私を受け入れてくれたの?


希望来
「ど、どうして…?」


ヴィオス
『実は、希望来の実家はこのプロジェクトの大口の出資者なんだよ。』
『だから失礼を承知で、エルフィーダがきみを連れてきた後で調べさせてもらった。』


エルフィーダ
『今まで黙っていてごめんね。』


希望来
「すべて知った上で…?私を追い出さないの?」


エルフィーダ
『どんな苦しみを背負っていても、希望来は希望来でしょ?』
『それもあなたの一部!』


ヴィオス
『そうだよ。』
『一面だけで家族を追い出すなんて絶対にしない。』
『希望来はエルフィーダの親友で、心優しい仲間。』


エルフィーダ
『そうそう!それだけで十分!』
『あれ?なにさー?泣いちゃって。』


希望来
「え…な、泣いてなんか…!泣いて…(涙)」


エルフィーダ
『しょうがないなぁ。』
『よしよし、お姉さんがなでなでしてあげよう。』
『飲みながらね!』


ヴィオス
『君はすぐ人の家を宴会場にする(苦笑)』


エルフィーダ
『いいじゃない!希望来のため!』


ヴィオス
『わかったわかった。』
『僕は料理を作るから、酒の調達は任せたよ。』


エルフィーダ
『はーい!さすがリーダー!』




…あぁ…私、最高に幸せ。

夢じゃないよね?
私が、こんなにあたたかい家族に囲まれるなんて。


私の実家が、アンドロイド研究の大口スポンサー。
それだけが気になったけど、まさか…。

いいえ、もう縁を切られている。
今さら何もしてこないよね?

私の微かな不安は、
杞憂に終わってほしかった。



【第3話:”由緒ある血筋”】へ続く

⇒この小説のPV動画

2023年04月07日

【短編小説】『反出生の青き幸』1

【MMD】Novel HanSyussyo SamuneSmall1.png

<登場人物>

冷泉 希望来(れいせん みくる)
 主人公
 名家の生まれだが、生い立ちから
 ”結婚””子ども”への強い拒否反応を持っている

エルフィーダ
 人間そっくりに作られた女性型アンドロイド
 仲間とともに人間社会に紛れて生活している

ヴィオス
 エルフィーダが所属する
 アンドロイドコミュニティのリーダー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第1話:子孫を残す不幸】



私は冷泉 希望来。一般企業で働いている。

昔、ちょっと荒れていた時期がある以外は、
地味で目立たない、干物気味な女。

そんな私だが、1つだけ強い思いがある。
それは小さい頃からずっと、

「結婚したくない」
「子どもはいらない」

と思っていること。
もともと内向的で1人好きなのも理由。

けどそれ以上に、私はどうしても
”家庭”への絶望感を拭い切れずにいる。

そんな私でも、
大人になれば変わるかもしれないと思っていた。

世の中には色んな人がいる。
幸せな家庭で育った人に出会えば、
家庭を築く人生もアリだと思うかもしれない、と。

結局、25歳になった今でもまったく変わらない。

恋愛に興味がないわけじゃない。
けど、”家庭を持つ未来”にどうしても拒否反応が出る。


ーー


ところで、
この国には「結婚適齢期」とやらがあるらしい。

そして厄介なことに、
”ケッコンテキレイキ”で恋愛も結婚もしていない人を
見下したい人間が一定数いる。


職場では、
「結婚しないの?」
「彼氏いないの?」
「子どもほしいと思わないの?」
「女性の幸せがどうのこうの」


”●●ハラスメント”に厳しい昨今でも、
こういうことを平気で言ってくる人はいる。

同性からは
「子育てもしたことないなんて。」
「独り身?不幸ねぇ、寂しいねぇ。」
「結婚しないなんて女の幸せを逃している。」


既婚者からのマウンティングが飛んでくる。
気持ちはわからなくもない。

特に女性には出産という、
大きなライフイベントの選択がある。
焦りも理解できる。

そういう人にとっては、
良い意味で背中を押してくれることもあるだろう。

けど、私にはその焦りがまったくない。
だから、周囲からの余計なお世話を冷静に受け流していられる。

1度、実験でこう返してみたことがある。
「私、結婚に興味ないんです。」

すると、
「女性としての幸せ」の説法的な話が、
いつもの100倍になって返ってきた。

自分の劣等感や満たされない気持ちを、
未経験者を踏み台にして解消されるのは不快。


けど、私はやっぱり冷めていた。
それ以上の対抗心も、羨ましさも感じなかった。

こんな感じで、職場での「●●ハラスメント」や、
同性からのアレコレはあるけど、それなりに生きていた。



ーーーーー



私が”家庭”に希望を持てないのは、
私の生い立ちが関係している。

私の家はいわゆる「由緒ある家系」

母は跡継ぎの男子を産むよう、
親戚からプレッシャーをかけられていた。

けど、産まれたのは女の子の私。
母は男の子を産めなかったことで、
親戚から厳しく当たられた。


父はずっと親戚たちと戦い、母を守っていた。
その心労がたたり、私が小さい頃に病気で他界した。

父がいなくなり、
親戚の母への当たりはエスカレートした。

あるとき、母はそんな家から逃げる決意をした。
まだ幼い私と母の2人暮らし。

けど、親戚たちは私たち母子の足跡を調べ、
しつこく嫌がらせを繰り返してきた。

「お前が跡継ぎを産めなかったから、娘を名家の許婚にする」
そう言って、私を母からムリヤリ引き離そうとしてきた。

その頃、地味で目立たなかった私は荒れた。
見た目を派手にして、不良とも絡むようになった。
親戚たちに愛想を尽かされるために。

それが功を奏した。

「不良娘は由緒ある我が家に相応しくない」
親戚から見放され、私たちはようやく解放された。


ーー


その後、母と私は
貧しいながらも何とか生きてきた。

けど、跡継ぎを巡るいざこざの中で育った私には、
大きな心の傷が残った。

男の子が望まれる中で生まれた私は
「私であってはいけない」

家にいてもきつく当たられる私は
「存在してはいけない」


その禁止令が、呪いのように私の心に染みついた。

何より、
「結婚したら、こんなに不幸になる」
「子どもを産んだら、こんなに大変な目に遭う」

そう学習してしまった。

家庭を築くことへの絶望感。
それを私の意志や努力で覆せない無力感。

この挫折経験が、私の心に”諦め”を植え付けた。



ーーーーー



そんな私への追い討ちは、容赦なく訪れた。
体調を崩していた母の容態が急変し、亡くなった。

本家での苦労、夫の他界。
やっと逃げてから、女手一つで私を育てる苦労。
それらが積み重なり、母はついに限界を迎えた。

私はこうなることを覚悟していた。
泣き明かす夜が続くと思っていた。

けど、母の葬儀では涙が出なかった。
ただ呆然と、目の前の光景を眺めていた。

唯一の心の支えだった母がいなくなり、
私には頼れるものがなくなった。

「安全な家がほしい」
「安心できる居場所がほしい」


子どもの頃からずっと望んできた。
けど、それは叶わない願いだと知った。


「大切な人は、私の前からいなくなる…。」

ならば素敵な人と、1からあたたかい家庭を作る?
私にはもう、そんな気力は残っていなかった。


ーー


「…何が、名家…!」
「…何が、跡継ぎ…!!」


そんなくだらないプライドを存続させるために、
どれだけの涙が必要なの…!

その血筋が続く限り、不幸になる人が増えるなら、
いっそ断絶した方がマシ…!!

私は、自分が女であることを呪った。

「生物として”跡継ぎ”を産める可能性がある」
それが心底イヤだった。

私の心は、
「反出生主義」への共鳴を止められなくなった。


結婚したくない、子どもはいらない。
私みたいな思いをする人を、再生産したくない…!!

安全な居場所がなくて苦しむ人を見たくない。
私は精一杯に生きて、それで人生を終えたい…。



ーーーーー



無気力な日々を送っていた、ある休日。
私は目的もなく繫華街をふらついていた。

私の少し前を、長身の綺麗な女性が歩いていた。
足元は舗装工事中で、少し荒れていた。

希望来
「危ない!!」


前を歩く女性が、荒れた道路に足を取られて転倒した。

希望来
「大丈夫ですか?!」


私は、すぐに転倒した女性のもとへ駆け寄った。

長身の女性
『ありがとうございます、大丈夫です。』
『膝を擦りむいただけ。』


希望来
「私、絆創膏を持っているので使ってください!」


そう言って、絆創膏を差し出した私は、
彼女の傷口を見て驚愕した。



希望来
「…青い…血…?」




彼女の膝からにじみ出る血液は、青色だった。

長身の女性
『あは、見つかっちゃいましたか。』
『気をつけていたんだけどなぁ。』


彼女は事もなげに言った。

希望来
(「見ぃ〜た〜なぁ〜…!」から消されるアレかな。)
(もう生きる目的もないし、いいか。でも…。)
(最期に彼女の手当てだけはしたいな…。)


私は止血のため、
持っていたハンカチを彼女の膝へ巻きつけた。
そして彼女の手を引き、その場を離れた。

希望来
「ここは人目が多いので離れましょう。」


口封じなら、その後で存分に受けよう。


ーー


私たちは近くの公園のベンチへ腰を下ろした。

希望来
「膝、応急処置しますね。」


私は彼女の膝に巻きつけたハンカチをほどき、
絆創膏を貼った。

彼女は困惑しながら言った。

長身の女性
『ありがとうございます。』
『あの、私のことが怖くないんですか?』
『傷口、見たでしょう?』


私は正直に答えた。

希望来
「驚きましたよ。」
「私、口封じで消されるのかなって。」
「けど”手当てしなきゃ”って、身体が勝手に。」
「見られたくない事情もあるかな?って思ったんです。」


長身の女性
『…お優しいんですね。』
『あなたには隠す必要もないでしょう。』


彼女は改まり、自己紹介を始めた。

長身の女性
『私の名前はエルフィーダ。』
『お気づきの通り、人間ではありません。』
『人間そっくりに作られたアンドロイドです。』


希望来
「ア、アンドロイドって、本当にいるんですね。」


エルフィーダ
『ええ。”シンギュラリティ”という言葉をご存知?』


希望来
「確か、AIが人間の知能を超える…?」
「でもそれって、まだ時間がかかるってどこかで…。」


エルフィーダ
『ええ、数十年後と言われていますが、実はもう来ています。』
『世界トップの研究チームと、資産家たちの巨額の投資によって。』
『私たちは、まだ人間には作れないはずの”意志を持ったロボット”です。』


まるで漫画か、SF映画の世界にいるみたい。

けど、私は彼女を手当てしたときに見た。
青い血と、人工皮膚を。



希望来
「そんなすごい方が、どうしてこんなところに?」
「まさか、人間に代わって世界を…?!」


エルフィーダ
『あはは、まさか。SF映画の見過ぎですよ。』
『私たちは争いなんて望んでいません。』
『ただ、人間と同じように穏やかに生活したいんです。』


希望来
「私たち?何人もいるんですか?」


エルフィーダ
『ええ、人間社会に紛れて暮らしています。』
『人工皮膚に赤い血のりを仕込んでね。』
『私は今日、忘れたけど(笑)』


希望来
「大丈夫なの?危害を加えられたりしない?」


エルフィーダ
『バレたら良く思わない人もいるでしょう。』
『人間より賢くて力ある存在は脅威です。』

『開発や投資者の間にも、
 アンドロイドを人間と共存させるか、
 人間の奴隷にするか対立がありますから。』


希望来
「そっか…。」
「そんな大変なこと、私が聞いちゃっていいの?」


エルフィーダ
『構いませんよ。』
『勘ですが、あなたは信頼できそうです。』
『私の青い血を見ても、真っ先に手当てしてくれる優しい人だから。』
『あは、仲間にバレたら怒られちゃいますね。』


希望来
「あはは、とんでもないこと聞いちゃった。」
「誰にも言わないよ。」


エルフィーダ
『恩に着ます(苦笑)』


希望来
「もちろん!」
「私は冷泉 希望来。」
「よかったら、友達になってください。」


エルフィーダ
『ええ、喜んで。』


これが、私とエルフィーダとの出会い。

冷静に見えてどこか抜けている彼女に、
私の心は癒された。

母を亡くし、生きる希望を失った私の人生が、
大きく変わろうとしていた。



【第2話:欲しかった”家族”】へ続く

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2023年03月25日

【短編小説】『緑の砂と夢色の川』2 -最終話-

【MMD】Novel Midori Yumeiro SamuneSmall1.png

【第1話:夢に隠される災禍】からの続き
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<登場人物>

セオラ
 主人公、12歳の少女
 内モンゴル自治区の、とある鉱山近くの村に住んでいる
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【第2話:語られぬ涙】



ある日、欧米の偉い人たちがこの村を訪れました。

村の住人を「風力発電所の見学ツアー」へ
招待したいそうです。

私もそのツアーに招かれました。

偉い人たちは、口々にこう言いました。
「グリーンエネルギーについて知ってほしい。」
「地球の環境を守るために。」



ーー


セオラ
『わぁ…すごく大きな風車が回っている!』
『あんなに大きな羽を回すなんて、風の力ってすごいね!』


特派員
「ははは、驚いたかな?」
「そうだよ。風の力はすごく強いんだ。」


セオラ
『ほんとにすごいね!』
『どうしてあの風車を回しているの?』


特派員
「風車を回して、その力で電気を作るんだよ。」


セオラ
『電気?知ってる!』
『セキユの代わりに、トラックの食べ物にするんでしょ?』


特派員
「トラックの食べ物とは面白いね、そうだよ。」
「家を明るくしたり、トラックを走らせたりするのに使うんだ。」


セオラ
『そっか!』
『じゃあ、たくさん回ってくれたら、たくさん電気を作れるね!』


特派員
「そうだね。もっと風車を増やせればいいね。」


セオラ
『あの風車は何からできているの?粘土?』


特派員
「あれは君たちのパパが掘ってくれた金属でできているんだよ。」


セオラ
『キンゾク?お父さんが?』
『もしかして、岩の中に入っている砂のこと?』


特派員
「そうだよ。」
「あの砂をたくさん集めて、風車を作るんだ。」


セオラ
『あの砂から、あんなに大きな風車を作っちゃうの?!』
『だからお父さん、いつもたくさん岩を掘っているんだね!』


特派員
「そうだよ。あの砂は岩の中に少ししか入っていないからね。」
「君のお父さんには、毎日働いてくれて感謝しているよ。」
「お父さんへ伝えておいてくれ。」


セオラ
『ありがとう!お父さんに伝えるね!』
『セキユも掘らなくてよくなるんでしょ?』


特派員
「その通り。よく知っているね。」


セオラ
『うん、お母さんから聞いて勉強したの!』


特派員
「そうか、君はえらいね。」
「石油がなくなってしまったらみんなが困る。」
「それに石油を燃やすと、地球がどんどん暖かくなってしまうんだ。」


セオラ
『それってダメなの?』
『冬もあったかい方がいいのに。』


特派員
「天気がおかしくなったりするんだよ。』
『雨が降らなかったり、洪水が来たりなんてイヤだろう?」


セオラ
『うん、洪水イヤ。』


特派員
「そうだろう?」
「だから君のお父さんは、地球の環境を守る仕事をしているんだ。」


セオラ
『そっかぁ。』
『やっぱりお父さんはすごいんだね!』



ーー


欧米からの特派員は、ニコリと微笑みました。

環境を守るための活動に、
現地の人たちの理解は必須です。
それが得られたかに見えた、その時でした。

セオラ
『あっちのキラキラしたテーブルは何?』


特派員
「あれは太陽の光を当てて、電気を作るパネルだよ。」


セオラ
『すごく大きい…。』
『向こうまで、びっしり置いてあるね。』


特派員
「そうだね。」
「たくさん置けば、その分たくさんの光を受けられるんだよ。」


セオラ
『あのテーブルも、砂からできているの?』


特派員
「そうだよ。」


セオラ
『ふーん…。』


特派員はイヤな予感がしました。

もっとも抱いてほしくない疑問を、
この少女は抱いてしまったかもしれない、と。

そして少女は、
まさにその予感を的中させる質問を口にしました。



セオラ
『あれ1枚作るのに、どれくらい砂を掘るの?』
『砂を掘り続けたら、いつかなくなっちゃうんじゃない?』




巨大な風力発電の風車。
一面に敷きつめられた太陽光発電のパネル。

それらに使われているのは、
「レアメタル」「レアアース」と呼ばれる希少金属です。


レアメタルは大量の岩の中に1粒、
文字通り「レア」です。

そんな「レア」な砂は、
電気自動車やスマートフォン、
軍用機や弾道ミサイルの部品に必須なのです。

確かに、再生可能エネルギーだけで電気を賄えれば、
石油も石炭も掘らなくて済むかもしれません。

ですが、それは決して
地下資源の枯渇からの解放にはなりません。

なぜって?

セオラの村では今も、
セキユの代わりにレアメタルを掘り続けているんですから。


セキユと同じく、
掘り続ければ、いつかなくなる地下資源を。

そして何よりも…。


ーー


セオラ
『あんなに掘ったら、お山がなくなっちゃうんじゃない?』
『そうなったら、お父さんのお仕事は大丈夫?』


特派員
「だ、大丈夫だよ(汗)」
「君のお父さんにはちゃんと仕事をあげるから。」


セオラ
『ほんとに?』
『私、もうお山を掘ってほしくないの。』


特派員
「どうしてだい?」


セオラ
『だってさ…。』
『砂を掘ったらお水が汚れるでしょ?』
『それで村のみんなが病気で苦しんでいるんだもん!』


特派員
「…?!!』


セオラ
『おじさんたちは地球の環境を守るんでしょ?』
『なのに、どうして私の村の環境は守ってくれないの?!』


特派員
「ま、守ってるよ…。」
「ホラ、石油がいらなくなったら温暖化を防げるだろう?」


セオラ
『そうかもしれないけどさ。』
『汚れたお水が土へ染み込むのは防いでくれないの?』
『ヘンな色の水たまりが、お山にたくさんできているよ?』


特派員
「そ、それはね…。」




セオラ
『地球の環境を守るために、どこかを掘らなきゃいけないの?』
『おじさんたちの国は良いかもしれないけど…。』
『砂を掘った村のみんなは苦しむんじゃないの?』




ーーーーー



世界は「持続可能な社会」を目指しています。

いつか枯渇する地下資源に頼らず、
再生可能エネルギーで賄おうとしています。

再生可能エネルギーを作るために、
風力発電所や太陽光発電所が作られます。
その材料はレアメタル、レアアースです。


それらを採掘する仕事、加工する仕事、
販売する仕事が生まれることで、
多くの人が暮らしていけます。



それでも、私たちは
心に留めておきたいことがあります。

電気自動車やソーラーパネルを作るために、
今日も地球のどこかが掘り起こされていること。


電気自動車を動かしたり、
太陽光から電気を作ったりするために、
今も石油や石炭を燃やしていること。

そのために多くの温室効果ガスが出ること。

レアアースをふんだんに使った製品を売って、
潤う人がいること。

その裏には、過酷な鉱山労働者として
搾取される人たちがいること…。




「地下資源枯渇からの解放」
そんな夢を見せてくれる”グリーンエネルギー”

その夢物語では決して、
彼女のことは語られないでしょう。

レアアース採掘によって、
”夢色”に汚された川のほとりに佇む、
1人の少女のことは…。




ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
【短編小説】『なぜ学校にはお金の授業がないの?』全2話

【短編小説】『もし自己肯定感の高さが見える世界になったら』全6話


⇒参考書籍



2023年03月24日

【短編小説】『緑の砂と夢色の川』1

【MMD】Novel Midori Yumeiro SamuneSmall1.png

<登場人物>

セオラ
 主人公、12歳の少女
 内モンゴル自治区の、とある鉱山近くの村に住んでいる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第1話:夢に隠される災禍】



もしも、石油も石炭も天然ガスも一切使わず、
無限にエネルギーを作れたら。

もしも、太陽光や水や風の力だけで、
人類が使うエネルギーをすべて賄えたら。

「地球に眠る資源が枯渇する」
そんな恐怖から解放される。

何の消費も環境破壊もなく、
無限にエネルギーを生み出せる。

そんな夢物語が実現するとしたら。

それは、とある国の言葉で
こう呼ばれるのかもしれません。

『グリーンエネルギー』と。



ーーーーー



<中国・内モンゴル自治区、とある村>

セオラ
『お母さん、ただいま。』



「お帰りなさい。おばあちゃんの様子はどう?」


セオラ
『おばあちゃんの病気、あんまりよくないってさ…。』



「そう…。」


セオラ
『ねぇお母さん。』
『どうして村のみんなはこんなに病気になるの?』



「向こうの山からね…。」
「身体に良くないお水が流れてきて、川に混じってしまうの。」
「その水を飲んだり、洗濯に使ったりしているからよ…。」


セオラ
『向こうの山?』
『お父さんや村のみんなが働いているところ?』
『いつもみんなでたくさん岩を掘っているよね。』



「そうね。」


セオラ
『岩を掘るのが仕事?何をしているの?』



「…岩の中に、キラキラした砂つぶが入っているでしょう?」


セオラ
『うん、綺麗だよね!』



「お父さんたちはね…。」
「その砂を取り出すために岩を掘っているのよ。」


セオラ
『えぇ?!あんなに小さい砂を?!』
『どうして?綺麗だから?!』



「あの砂をたくさん取り出して、欲しい人たちに売るの。」
「そうやってお金を稼いでいるから生活できるのよ。」


セオラ
『そうなんだ…。』
『でも、その山から良くないお水が流れてくるんでしょ?』



「ええ…。」


セオラ
『もしかして、岩をたくさん掘っているから?』



「そうね…。」
「あの砂を掘り出すと、良くないお水になっちゃうの。」


セオラ
『そうなの?!』
『だったら止めちゃえばいいのに!』



「そういうわけにはいかないの…。」
「ご飯が食べられなくなったら困るでしょう?」


セオラ
『困るけど、みんなが病気になったら意味ないよ!』
『私、おばあちゃんもお父さんも元気になってほしいもん!』
『川のお水を汚してまで、どうしてあんな砂を掘るの?!』



「それはね…地球の環境を守るためよ…。」


セオラ
『守れてないじゃん!』
『木だって草だって枯れているよ!』
『なのに、どうして地球の環境を守るためなの?!』



「………(涙)」





山を掘って、砂を取り出して、欲しい人に売る?
それは地球の環境を守るため?


私には理解できませんでした。

私が暮らす村も、森も、川の水も汚れています。
そのせいで村のみんなが病気で苦しんでいます。

こんなのおかしいよ!
そう憤る私に、お母さんは何も言えませんでした。

なにしろ、

「山を掘って、砂を取り出して、欲しい人に売る」

それが地球の環境を守るためというのは、
事実だからです…。




ーーーーー



<翌朝>

私のお父さんは、
村のみんなと軽トラックへ乗り込み、
山へ向かいました。

セオラ
『いってらっしゃーい!』
『お父さん…身体の具合がよくないのに大丈夫かなぁ…?』



「………。」


セオラ
『そういえば、あのトラックはどうやって動いてるの?』



「ガソリンという燃料を入れて動かしているの。」


セオラ
『ガソリン?』



「ええ。あなたもお腹が空いたら何か食べるでしょう?」
「車も同じで、動くためにガソリンを食べるの。」


セオラ
『そうなんだ。』
『トラックはガソリンを食べるんだね!』
『ガソリンはどうやって作るの?畑で見たことないよ?』



「ガソリンは畑には実らないのよ。」
「ガソリンは”石油”というものから作るの。」


セオラ
『セキユ?それはどこにあるの?』



「石油は地面の下や、海の底に埋まっているの。」
「たくさん取れる場所があって、みんなで掘り出しているのよ。」


セオラ
『地面に埋まっているの?!』
『じゃあ、ここを掘ったらセキユが出てくるの?』



「ここにはないの…。」
「石油は、遠い国の深い地中にあるのよ。」
「あのお山よりずっと深いところにね。」


セオラ
『そうなんだ…。』
『私がセキユを掘ったら、お父さんが喜ぶと思ったのに。』



「ふふッ、そうね。」
「お父さんも村のみんなも喜ぶわね。」


セオラ
『セキユって、お水みたいに湧き出てくるの?』
『なくならないの?』



「湧き出てはこないわ。」
「掘り続けたら、いつかなくなっちゃう。」


セオラ
『なくなっちゃうの?』
『大変!トラックの食べ物がなくなるよ?』
『そしたらお父さんが仕事へ行けなくなっちゃうよ?!』



「そうなの…。」
「だから、石油の代わりの食べ物を探しているのよ。」
「そのために、お父さんが掘っている砂が必要なの。」


セオラ
『どうしてあの砂が必要なの?』



「電気を作るためよ。」


セオラ
『デンキ?家を明るくする電気のこと?』
『電気でトラックを走らせられるの?』



「ええ。」
「あの砂をたくさん集めれば電気を作れるの。」


セオラ
『たくさん電気を作れるの?』
『それならトラックの食べ物は安心だね!』
『あの砂がたくさんあれば、セキユを掘らなくていいんだよね?』



「……そうね…。」


セオラ
『…お母さん?どうしたの?』
『セキユを掘らなくていいんでしょ?!』



ーー


どうしてお母さんは、
こんなに悲しそうな顔をするんだろう?
私にはわかりませんでした。

セキユを掘り続ければ、いつかなくなる。
そうしたら、お父さんのお仕事や生活が危なくなる。
あの砂を掘ればその心配がなくなる。

一見、良いことずくめです。

なのに、

地球の環境を守るためなのに、村は汚れている?
セキユを掘らなくて済むのに、お母さんは悲しい顔をする…。


ちぐはぐ過ぎて、私にはさっぱりわかりません。
ですが、その疑問は後日、すべてつながります。

この村へ訪れる”欧米の偉い人たち”によって。



【第2話:語られぬ涙】へ続く

2023年03月19日

【短編小説】『敗者復活の鎖』後編

前編からの続き

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



娘が「結婚したい」という相手を連れて、
数年ぶりに帰ってきた。

私は待ってましたとばかりに、
娘に”シアワセのレクチャー”を施した。

相手の男は、娘にふさわしいスペックかどうか、
じっくり”審査”した。

娘は何か言いたげにしていたが、聞く必要なんてない。
私の言う通りに生きれば、”ゼッタイにシアワセ”なんだから。


お相手は…うーん、ダメねぇ…。
大事な娘の夫になるには、こことここが足りないわ。
あとはあれとこれと…。

娘にふさわしくないわね。
申し訳ないけど、娘とは別れてくれない?

--

『いい加減にしてよ!!』

突然、娘がすごい剣幕で叫んだ。

『お母さんはどうしていつも、私の人生の邪魔ばっかりするの?!』

い、いきなりどうしたのよ…?
少しは落ち着いたと思ったら、子どものままね…この子。
娘を嫁がせるんだから、親として相手を見極めるのが当たり前でしょう?

『どうして私の選択を信じてくれないの?!』
『私が好きになって、選んだ人のことがそんなに信じられないの?!』


す、好きで言ってるんじゃないのよ?
あなたにふさわしい男だったら、こんなこと言わないよ?

娘は、両目に大粒の涙を浮かべながら言った。

『お母さん、いつも言ってたよね?!』
『私の人生はおじいちゃんおばあちゃんに壊されたって!』
『おじいちゃんおばあちゃんのせいで、好きな仕事も結婚もできなかったって!』


その通りよ。
私が不幸なのは、両親にすべてを壊されたから。
あなたにはそうなってほしくなくて…。


『だけどさ!!』
『お母さんだって、おじいちゃんおばあちゃんと同じだよ!』


な、何を言ってるの?
私はあなたのためを思って…。


『勝手に学校を決めたり、結婚相手を悪く言ったり!』
『今お母さんがしてることは、おじいちゃんおばあちゃんと同じだよ!』




その瞬間、私の頭が真っ白になった。

「私がしていることは、おじいちゃんおばあちゃんと同じ」
その事実が、私の心を貫いた。

今まで感じたことのない、
凄まじい罪悪感が押し寄せてきた。

『…もう、関わらないで。』
『私の人生は、私が決めるから…!』


私への軽蔑と、失望が込められた、娘の言葉。
娘は、私への冷たい視線を残して立ち去った。

--

翌日、私の銀行口座に、
とんでもない金額が振り込まれていた。

名義は、娘だった。

『これで、何も言えないでしょ?』
『”今までかかった養育費を返せ”とも、”育てた恩を忘れたのか”とも。』

『このお金は親孝行でも恩返しでもない。手切れ金よ…!』


通帳に並ぶ「0」の文字から、そんな言葉が伝わってきた。

…後から知った。

娘は高校生のころから、アルバイトでお金を貯めていた。
目的は、私に絶縁状を叩きつけるため。
親の支配から…抜け出すためだったことを…。



ーーーーー


すべてを失った私は、ようやく目が覚めた。

私の娘への思いは、
”親の愛情”を装った「復讐の炎」だった。

私は、娘を使って、
自分の人生の「敗者復活戦」をしようとしていた。

私が叶えられなかったキャリアウーマンの夢。
それを娘が叶えることで、”私が”救われようとしていた…。

娘を…私の作品としてしか見てこなかった…!!


「親の私が正しい、娘が間違っている」

それが真逆だと気づいたときには、もう遅かった。

--

ごめんなさい!!
あなたの人生を壊して…本当にごめんなさい!!


今さら謝っても、許してもらえないかもしれないけど…。
どうしても伝えたいの!!

せめて、一目だけでも会いたい…!
会って、謝りたい!

もう、あなたの人生に口出ししないから!
お母さん、変わるから!

他人や自分の人生への愚痴を止めるから!
欠点ばかり、あげつらう癖を直すから!

親への憎しみを、あなたへぶつけるのを止めるから!


神様…お願い…!!娘に会わせてください…!
うぅ……!!



もう、生きていても仕方ない。
あーあ、私の人生、何もいいことなかったなぁ。

自暴自棄になりかけた私を
呼び止める声が聞こえた。

『伝わりましたよ。』
『あなたの反省と、変わりたいという意思。』


あ、あなたは…?

『私は八神 水逢(やがみ ゆあ)、死神です。』

あぁ、お迎えですね。
ちょうどいいわ。このまま連れて行ってくれない?

『本当にいいんですか?』
『もう1度、娘さんに会いたいんでしょう?』

えぇ…でも、もういいの。疲れたわ…。

『そうですか…。』

彼女はそう言うと、どこかへ連絡を取り始めた。
それが終わると、私にこう言った。

『私たちって、生きてる人を助けるのは職務の範囲外なんです。』
『でも、あなたの反省の意思がこっちにも届くくらい強くて。』


は、はぁ。それはお騒がせしましたね…。

『生前の後悔が強い人って、死後の世界でもけっこう問題起こすんですよ。』
『このままあなたをお連れすると、そうなりかねないので。』
『上司に確認したら”助けていいよ”って。』


彼女はそう言うと、
大量の本と、とある機関への連絡先を書いた資料を取り出した。

『これ、毒親についての本。あと心理学の本です。』
『こっちの資料は親子問題のカウンセリングを受けられる機関の一覧。』


私は夢でも見ているの?
突然、女の子が現れて、自分は死神だとか、死後の世界がどうとか。

『まずは向き合ってみましょ?ご自身の心に。』
『娘さんに会えるかどうかは、わかりませんけどね。』
『あとはあなた次第です。それじゃあ。』


そう言い残して、死神を名乗る女性は去っていった。


ーーーーー


その日から、私は八神さんがくれた本を読み漁った。
いくつものカウンセリングに通い、自分を見つめ直した。

娘を探したり、文句を言いたい気持ちを必死で抑えた。

まずは、「私は娘にとって毒親だった」と認めること。

次に、親にされたことを、
無意識に子どもにしてしまう心理を勉強すること。

それは、とてもつらい作業の連続だった。

数十年間、正しいと信じてきたことを否定される痛み。
娘のためを装った”自分のため”だと認める痛み。

(私は悪くない…!!)

何度も何度も、その思いが頭をもたげた。
私はそのたびに、自己正当化する自分をいさめた。

--

心の痛みと向き合う日々の中、私は毎日のように泣いた。

特につらかったのは、所有意識をなくすこと。
「親と娘は、違う考えを持った別々の人間」と認めることだった。


私の両親は、私を自分たちの思い通りに扱った。

私はイヤな思いをしながらも、
無意識に「子どもは親の思い通りに扱ってよい」と学習していた。

私がもっとも苦労したのは、
その呪縛から自分を解き放つことだった。

罪悪感と、自己嫌悪にまみれる日々。
涙で、枕を濡らす夜。

それでも、気づいたら、
私の生活は無気力ではなくなっていた。

一粒、涙を流すたび、
心に渦巻く憎しみが浄化されるような気がした。



ーーーーー


死神を名乗る女性が、私の前に現れてから数年後。
私は忙しい学生生活を送っていた。

毒親の勉強を始め、心の毒が浄化された私は、
夢だった大学の経済学部に合格した。


20代の学生に混じって、還暦間近の私が1人。
始めは戸惑ったが、今ではすっかり慣れた。

ゼミのみんなは
「姐さん」「お母さん」などと呼んで慕ってくれる。

今の目標は、在学中か卒業後に起業すること。
毎日、目標に向かって猛勉強している。

娘に会いたいと思わない日はない。
後悔のあまり、泣いてしまうこともある。

だけど、あの子はきっと、今もどこかで幸せに生きている。
もう会えないのは悲しいけど、今はそれだけで、十分…。

だって、あの子には、
私の支配から逃れる勇気があったから。
親の支配から逃れる勇気のなかった私よりも…ずっと。


--

 (生前の後悔が強い人って、死後の世界でもけっこう問題起こすんですよ。)
 (このままあなたをお連れすると、そうなりかねないので。)


八神さん、だっけ?
彼女の言葉の意味が、今ならわかる。

もし、あのときの私が、そのまま彼女に同行していたら。
私は死後の世界でも、親への憎しみを周囲にぶつけまくっただろう。

私1人では気づけなかった、毒親の世代間連鎖。
それに気づかせてくれた彼女には、とても感謝している。

まぁ、お礼を言うのは、当分先だけどね。

私は今から還暦社長になって、
”仕事がデキる女”の夢を叶えるんだから!!




そんな充実した大学生活を送っていた、ある日。

ピンポーン

ふいに、私の家のインターフォンが鳴った。

大学のお友達?お客さん?
今日は予定あったかな…?

あなたー!出てちょーだい!
今は手が離せない?仕方ないわね…私が出る。

私が玄関のドアを開けると、
見覚えのある若い女性が立っていた。


彼女は照れくさそうに、こう言った。



『か、勘違いしないでよ…!』
『近くまで来たから、ついでに寄っただけだからねッ…!』




おかしいな…。
誰より見たかった顔なのに。

涙で、よく見えないや…。



ーーーーーENDーーーーー



⇒死神:八神 水逢(やがみ ゆあ)が主人公の作品
【短編小説】『あなたの後悔、死神が癒します』前編


⇒他作品
【短編小説】『心だに 君の際なられば 果報』

【短編小説】『雪の妖精 待ち焦がれ』前編


⇒参考書籍















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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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