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2023年01月20日

【短編小説】『心だに 君の際なられば 果報』

【MMD】Novel NejiBana SamuneSmall1.png



あなたは、捩花(ネジバナ)を知っていますか?

桃色の、小さくてかわいい花を、
らせんのように咲かせるんです。

捩花(ネジバナ)の花言葉を知っていますか?
それは思い焦がれること、『思慕』

ぐるぐると絡まり合う、茎(くき)と花。
淡く、どこか儚げな佇まい。

捩花(ネジバナ)は、
あなたに逢いたくても逢えない、
私の思いを表してくれるんです。

引き裂かれて、なお募る、私の思いを。



人の気持ちは、誰の目にも映りません。
だからこそ、私は思うのです。

誰にも見えない、人の気持ち。

もし一生の中で、
その一端でも、見える相手に巡り逢えたなら。

そして、
その人の気持ちと、私の気持ちが、
ほんの少しでも、重なり合ったら。

それはとても、幸せなことだと。




私は幸運にも、
そんな幸せを見つけられたんです。

なのに…。

地位、名誉、お金、出世、

どうして、そんなものの都合で、
私たちの幸せを、奪われなければいけないのですか?


家柄、身分、政略結婚、分不相応、

それは後から誰かが決めたこと。
人の本質ではありません。

なのに…。

家柄の違い、身分の違い、

そんなことで、
どうして私たちは、結ばれてはいけないのですか?




家柄の違い、身分の違い。
この決定に背けば、多くの者が罰せられます。

私の行い1つで、
大切な人たちを失いたくはありません。

それに、あなた方は言うでしょう。

身分違いの恋。
始めから、叶わない恋。
わかっていたはずだ、諦めなさい、と。

出逢うことさえなければ、
そんなに恋に苦しむこともなかったのに、と。

わかっています。
わかって…いますとも…。

出逢うことさえ、なければ…私は…。




いいえ、たとえ出逢っても。

見えるはずのない、あなたの気持ちの、
一端でも、見えてしまわなければ…。

あなたと私の気持ちが、重なり合う幸せを、
感じさえしなければ。

いっそのこと、
ただの通りすがりで、終わっていれば…。


どれほど”シアワセ”で、苦しくて、
不幸だったでしょう…。

どうして割り切ることが、できるでしょう…。



知っていますか?
捩花(ネジバナ)には夏葉と、冬葉があることを。

夏はねじれながら、上に伸びるんです。

もっともっと空へ近づいて、
あなたへの思いを届けたいから。

冬は地面に沿って咲くんです。

じっと寒さに耐えて、
あなたへの思いを守るように。

捩花(ネジバナ)は春も夏も、秋も冬も、
枯れることはありません。

家柄の違い、身分の違い、

そんなことで引き裂かれようと、
決して枯れない、あなたへの思いのように。




きっと、今生ではもう、
あなたと一緒になれないのでしょう。

あなたの手を握ることも、
あなたの腕に包まれることも、
叶わないのでしょう。

ですが、

たとえどれだけ
私たちの身体を引き離そうと、
私たちの心まで引き離すことはできません。

私を高貴な身分の方と一緒にしようと、
いずれ私たちの身体が朽ち果てようと、

私たちの思い出からは、誰ひとり、
私たちを追い出すことはできないのです。


だからせめて、心だけでも、
あなたの隣にいさせてください。

私は、あなたへの思いを、
枯れることのない捩花(ネジバナ)に託します。

春も夏も、秋も冬も。

いつまでも、あなたを、慕い続けています…。

芝付の 美宇良崎なる 根都古草 あひ見ずあらば 吾恋ひめやも

(あなたに逢うことがなければ、私は恋に苦しむこともなかったろうに)


万葉集『根都古草』


ーーーーーENDーーーーー



⇒この小説のPV


⇒過去作品
【短編小説】『また逢いましょう、ホタル舞い降りる川で』1

【短編小説】『ゆりかごは、この手でゆらしましょう』

【短編小説】『いのちの電話と、聞き上手』前編

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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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