2023年03月25日
【短編小説】『緑の砂と夢色の川』2 -最終話-
⇒【第1話:夢に隠される災禍】からの続き
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<登場人物>
・セオラ
主人公、12歳の少女
内モンゴル自治区の、とある鉱山近くの村に住んでいる
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【第2話:語られぬ涙】
ある日、欧米の偉い人たちがこの村を訪れました。
村の住人を「風力発電所の見学ツアー」へ
招待したいそうです。
私もそのツアーに招かれました。
偉い人たちは、口々にこう言いました。
「グリーンエネルギーについて知ってほしい。」
「地球の環境を守るために。」
ーー
セオラ
『わぁ…すごく大きな風車が回っている!』
『あんなに大きな羽を回すなんて、風の力ってすごいね!』
特派員
「ははは、驚いたかな?」
「そうだよ。風の力はすごく強いんだ。」
セオラ
『ほんとにすごいね!』
『どうしてあの風車を回しているの?』
特派員
「風車を回して、その力で電気を作るんだよ。」
セオラ
『電気?知ってる!』
『セキユの代わりに、トラックの食べ物にするんでしょ?』
特派員
「トラックの食べ物とは面白いね、そうだよ。」
「家を明るくしたり、トラックを走らせたりするのに使うんだ。」
セオラ
『そっか!』
『じゃあ、たくさん回ってくれたら、たくさん電気を作れるね!』
特派員
「そうだね。もっと風車を増やせればいいね。」
セオラ
『あの風車は何からできているの?粘土?』
特派員
「あれは君たちのパパが掘ってくれた金属でできているんだよ。」
セオラ
『キンゾク?お父さんが?』
『もしかして、岩の中に入っている砂のこと?』
特派員
「そうだよ。」
「あの砂をたくさん集めて、風車を作るんだ。」
セオラ
『あの砂から、あんなに大きな風車を作っちゃうの?!』
『だからお父さん、いつもたくさん岩を掘っているんだね!』
特派員
「そうだよ。あの砂は岩の中に少ししか入っていないからね。」
「君のお父さんには、毎日働いてくれて感謝しているよ。」
「お父さんへ伝えておいてくれ。」
セオラ
『ありがとう!お父さんに伝えるね!』
『セキユも掘らなくてよくなるんでしょ?』
特派員
「その通り。よく知っているね。」
セオラ
『うん、お母さんから聞いて勉強したの!』
特派員
「そうか、君はえらいね。」
「石油がなくなってしまったらみんなが困る。」
「それに石油を燃やすと、地球がどんどん暖かくなってしまうんだ。」
セオラ
『それってダメなの?』
『冬もあったかい方がいいのに。』
特派員
「天気がおかしくなったりするんだよ。』
『雨が降らなかったり、洪水が来たりなんてイヤだろう?」
セオラ
『うん、洪水イヤ。』
特派員
「そうだろう?」
「だから君のお父さんは、地球の環境を守る仕事をしているんだ。」
セオラ
『そっかぁ。』
『やっぱりお父さんはすごいんだね!』
ーー
欧米からの特派員は、ニコリと微笑みました。
環境を守るための活動に、
現地の人たちの理解は必須です。
それが得られたかに見えた、その時でした。
セオラ
『あっちのキラキラしたテーブルは何?』
特派員
「あれは太陽の光を当てて、電気を作るパネルだよ。」
セオラ
『すごく大きい…。』
『向こうまで、びっしり置いてあるね。』
特派員
「そうだね。」
「たくさん置けば、その分たくさんの光を受けられるんだよ。」
セオラ
『あのテーブルも、砂からできているの?』
特派員
「そうだよ。」
セオラ
『ふーん…。』
特派員はイヤな予感がしました。
もっとも抱いてほしくない疑問を、
この少女は抱いてしまったかもしれない、と。
そして少女は、
まさにその予感を的中させる質問を口にしました。
セオラ
『あれ1枚作るのに、どれくらい砂を掘るの?』
『砂を掘り続けたら、いつかなくなっちゃうんじゃない?』
巨大な風力発電の風車。
一面に敷きつめられた太陽光発電のパネル。
それらに使われているのは、
「レアメタル」「レアアース」と呼ばれる希少金属です。
レアメタルは大量の岩の中に1粒、
文字通り「レア」です。
そんな「レア」な砂は、
電気自動車やスマートフォン、
軍用機や弾道ミサイルの部品に必須なのです。
確かに、再生可能エネルギーだけで電気を賄えれば、
石油も石炭も掘らなくて済むかもしれません。
ですが、それは決して
地下資源の枯渇からの解放にはなりません。
なぜって?
セオラの村では今も、
セキユの代わりにレアメタルを掘り続けているんですから。
セキユと同じく、
掘り続ければ、いつかなくなる地下資源を。
そして何よりも…。
ーー
セオラ
『あんなに掘ったら、お山がなくなっちゃうんじゃない?』
『そうなったら、お父さんのお仕事は大丈夫?』
特派員
「だ、大丈夫だよ(汗)」
「君のお父さんにはちゃんと仕事をあげるから。」
セオラ
『ほんとに?』
『私、もうお山を掘ってほしくないの。』
特派員
「どうしてだい?」
セオラ
『だってさ…。』
『砂を掘ったらお水が汚れるでしょ?』
『それで村のみんなが病気で苦しんでいるんだもん!』
特派員
「…?!!』
セオラ
『おじさんたちは地球の環境を守るんでしょ?』
『なのに、どうして私の村の環境は守ってくれないの?!』
特派員
「ま、守ってるよ…。」
「ホラ、石油がいらなくなったら温暖化を防げるだろう?」
セオラ
『そうかもしれないけどさ。』
『汚れたお水が土へ染み込むのは防いでくれないの?』
『ヘンな色の水たまりが、お山にたくさんできているよ?』
特派員
「そ、それはね…。」
セオラ
『地球の環境を守るために、どこかを掘らなきゃいけないの?』
『おじさんたちの国は良いかもしれないけど…。』
『砂を掘った村のみんなは苦しむんじゃないの?』
ーーーーー
世界は「持続可能な社会」を目指しています。
いつか枯渇する地下資源に頼らず、
再生可能エネルギーで賄おうとしています。
再生可能エネルギーを作るために、
風力発電所や太陽光発電所が作られます。
その材料はレアメタル、レアアースです。
それらを採掘する仕事、加工する仕事、
販売する仕事が生まれることで、
多くの人が暮らしていけます。
それでも、私たちは
心に留めておきたいことがあります。
電気自動車やソーラーパネルを作るために、
今日も地球のどこかが掘り起こされていること。
電気自動車を動かしたり、
太陽光から電気を作ったりするために、
今も石油や石炭を燃やしていること。
そのために多くの温室効果ガスが出ること。
レアアースをふんだんに使った製品を売って、
潤う人がいること。
その裏には、過酷な鉱山労働者として
搾取される人たちがいること…。
「地下資源枯渇からの解放」
そんな夢を見せてくれる”グリーンエネルギー”
その夢物語では決して、
彼女のことは語られないでしょう。
レアアース採掘によって、
”夢色”に汚された川のほとりに佇む、
1人の少女のことは…。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『なぜ学校にはお金の授業がないの?』全2話
【短編小説】『もし自己肯定感の高さが見える世界になったら』全6話
⇒参考書籍
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