2023年09月27日
【短編小説】『なぜ学校にはお金の授業がないの?』1
<登場人物>
・深澤 真知(ふかざわ みしる)
主人公、10歳、小学5年生の少女
親も学校もお金について教えてくれないことに
疑問を持ち始める
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【第1話:独占する者、使い捨てられる者】
<紀元前1世紀頃:欧州・とある地域>
お金持ちが神の国へ入るよりも
ラクダが針の穴を通る方がまだ易しい
宗教家
『この教えを民衆へ広めてください。』
『”清貧”の尊さを説くのです。』
幹部信者
『かしこまりました。』
『異を唱えるわけではありませんが…。』
『なぜこのような教えを広めるのですか?』
『貧する者なら誰しも豊かになりたいと思うのでは?』
宗教家
『そうです。』
『だからこそ清貧を正しいと思い込ませることが大切です。』
幹部信者
『どういうことでしょう?』
宗教家
『民衆の反乱を抑えるためです。』
『”一握りの権力者だけが富を独占する権利を持っている”』
『”自分たちの貧しい暮らしは神から与えられた最高のもの”』
『そう信じ込ませればよいのです。』
幹部信者
『なるほど!』
『そうすれば富の独占への不満を逸らせると。』
宗教家
『そういうことです。』
『民衆から少しでもお金について考える機会を奪うのです。』
幹部信者
『かしこまりました。』
とある宗教家が唱えた教えは数百年後、
ヨーロッパ地域のほとんどの人々が信じる
巨大な宗教となりました。
「お金は卑しいもの」
「お金持ちが天国へ行くのは難しい」
そういった
お金に対する負の思想も、
同時に広く信仰されるようになっていました。
それから2000年以上の月日が流れ…。
ーーーーー
<19世紀:欧州・とある国>
国の指導者
『側近よ、工場建設の状況はどうだ?』
側近
『順調です。』
『もうじき大量生産の準備が整います。』
指導者
『そのまま進めてくれ。』
『財界から要望が届いている。』
『”工場で働かせたい人材が不足している”』
『もっと労働者を確保できないか”とな。』
側近
『聞いております。』
『与えられた仕事を従順にこなす機械のような労働者がほしい”と。』
指導者
『私が言うのも何だが、あんな劣悪な労働条件ではな…。』
『募集したところで、よほど困っている輩しか来ないだろう。』
『民衆もバカではあるまい。』
側近
『仮に人数が集まっても、遠からず反乱が起きるでしょう。』
指導者
『だろう?』
『そうなったら最悪、操業停止に追い込まれるかもしれん。』
『何とか反抗させず、都合よく労働者を動かす方法はないか?』
側近
『少し時間がかかりますが、こんな方法はいかがでしょう?』
指導者
『ほう、何か良い案があるのか?』
側近
『はい、幼い子どもたちを集めて教育する場所を作るのです。』
『つまり”学校”です。』
指導者
『ガッコウ?』
側近
『はい、大人と違い、幼い子はまだ疑うことを知りません。』
『それを利用して、学校で”これ”を教え込むのです。』
ひそひそ
指導者
『それは名案だ!』
『これで都合の良い工場労働者を大量生産できる!』
『さっそく各地域へ教育機関の設置を手配してくれ。』
側近
『かしこまりました。』
数年後、
この国の空は昼間でも
どんよりした灰色に染まりました。
その下には黒煙を吐き続ける、
無機質な工場が立ち並んでいました。
その中では
気力も表情もなくした労働者たちが、
ひたすら手を動かしていました。
それから、さらに200年ほど月日が流れ…。
ーーーーー
<現代:とある国>
真知
「ねぇママ。」
母
『どうしたの真知?』
真知
「パパ、毎日帰りが遅いよね。」
「それに、いつも疲れて帰ってくる。」
母
『パパはお仕事を頑張ってくれているからね。』
真知
「お仕事ってそんなに辛いの?」
母
『内容によるけど、辛いことが多いわ。』
真知
「ママが昼間に行っているお仕事も?」
母
『…そうね…。』
真知
「パパはどこでお仕事しているの?」
母
『会社というところよ。』
真知
「カイシャ?」
母
『ええ、会社をやっている人に雇ってもらってね。』
『そこで働かせてもらっているの。』
真知
「そっか。やっぱりパパってすごいね!」
母
『…そうね。』
真知
「ねぇママ。」
母
『なぁに?』
真知
「パパとママがこんなに働くのはどうして?」
「お金をもらって生活するため?」
母
『そうよ。』
『働いてお給料をもらっているから生きていけるの。』
真知
「会社からお金をもらっているの?」
母
『そうよ。』
真知
「会社に入るってすごいこと?」
母
『すごいことよ。』
『たくさんお勉強して、やっと入れるの。』
真知
「そっか、そうだよね。」
「ママ、いつもお仕事してくれてありがとう!」
「パパが帰ってきたら、パパにも伝えるね!」
母
『ええ…パパもきっと…喜ぶわ…。』
ーー
後日の放課後、私はクラスメイトの
咲姫(さき)ちゃんの家に招待されました。
咲姫ちゃんのお父さんは
いくつかの会社を経営しているそうです。
咲姫ちゃんの家は
絵本に出てくるようなお屋敷ではありません。
それでも、
小学生の私でも高級だなと感じるものが
そこかしこにありました。
真知
「咲姫ちゃんのパパが会社をやっているって本当?」
咲姫
『本当だよ。』
真知
「どんなお仕事をしているの?」
咲姫
『うーん…詳しくは知らないけど…。』
『色んな”とりひきさき?”っていうところへ行ったり。』
『あとは、会社を”しさつ?”に行ったりしているよ。』
真知
「そっか、パパ忙しそうだね。」
咲姫
『うん…だから、なかなかパパに会えないの…。』
『帰ってきても書斎にこもってお仕事ばっかり…。』
真知
「そっか…。」
(私のパパは会社に雇われてるんだよね?)
(咲姫ちゃんのパパは会社をやっている。)
(仕事は全然違うけど、会社をやるって大変なんだなぁ…。)
咲姫
『たまにパパとお話できたときにね。』
『パパはどんなお仕事しているのって聞いてみたの。』
『そしたらね…。』
『パパの会社でみんなが喜んでくれるものを売ってるんだよ。』
『そしてパパの会社で働いてくれている人たちにお給料を払うんだよ。』
『って言ってたの!』
真知
「そっか!」
「咲姫ちゃんのパパはお給料を払う人なんだね!」
咲姫
『うん、だから私パパを尊敬してるんだ。』
『あんまり会えないのは寂しいけどね。』
『私や会社の人のために頑張っているパパはかっこいいもん!』
真知
「ほんとにかっこいいよね!」
「咲姫ちゃんのパパはどうやって会社を作ったの?」
咲姫
『うーん…わかんない。』
『パパは私が生まれる前から”しゃちょう”だったから。』
『親戚もみんな会社をやっていて、パパが”継いだ”?みたい。』
私は、私のパパと
全然違うお仕事があることに驚きました。
お金をもらう方法は
会社に入るだけじゃないことを知りました。
けど咲姫ちゃんのパパがどうやって会社を作ったのか、
どうやって「お給料を払う側の人」になったのかを
知ることはできませんでした。
そして私は気づきました。
学校にはお金の授業がないことに。
どうして学校では、
生きるために大切なお金について
教えてくれないのでしょう?
⇒【第2話:逃げ切る者、ラットレースに勤しむ者】へ続く
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