2023年03月24日
【短編小説】『緑の砂と夢色の川』1
<登場人物>
・セオラ
主人公、12歳の少女
内モンゴル自治区の、とある鉱山近くの村に住んでいる
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【第1話:夢に隠される災禍】
もしも、石油も石炭も天然ガスも一切使わず、
無限にエネルギーを作れたら。
もしも、太陽光や水や風の力だけで、
人類が使うエネルギーをすべて賄えたら。
「地球に眠る資源が枯渇する」
そんな恐怖から解放される。
何の消費も環境破壊もなく、
無限にエネルギーを生み出せる。
そんな夢物語が実現するとしたら。
それは、とある国の言葉で
こう呼ばれるのかもしれません。
『グリーンエネルギー』と。
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<中国・内モンゴル自治区、とある村>
セオラ
『お母さん、ただいま。』
母
「お帰りなさい。おばあちゃんの様子はどう?」
セオラ
『おばあちゃんの病気、あんまりよくないってさ…。』
母
「そう…。」
セオラ
『ねぇお母さん。』
『どうして村のみんなはこんなに病気になるの?』
母
「向こうの山からね…。」
「身体に良くないお水が流れてきて、川に混じってしまうの。」
「その水を飲んだり、洗濯に使ったりしているからよ…。」
セオラ
『向こうの山?』
『お父さんや村のみんなが働いているところ?』
『いつもみんなでたくさん岩を掘っているよね。』
母
「そうね。」
セオラ
『岩を掘るのが仕事?何をしているの?』
母
「…岩の中に、キラキラした砂つぶが入っているでしょう?」
セオラ
『うん、綺麗だよね!』
母
「お父さんたちはね…。」
「その砂を取り出すために岩を掘っているのよ。」
セオラ
『えぇ?!あんなに小さい砂を?!』
『どうして?綺麗だから?!』
母
「あの砂をたくさん取り出して、欲しい人たちに売るの。」
「そうやってお金を稼いでいるから生活できるのよ。」
セオラ
『そうなんだ…。』
『でも、その山から良くないお水が流れてくるんでしょ?』
母
「ええ…。」
セオラ
『もしかして、岩をたくさん掘っているから?』
母
「そうね…。」
「あの砂を掘り出すと、良くないお水になっちゃうの。」
セオラ
『そうなの?!』
『だったら止めちゃえばいいのに!』
母
「そういうわけにはいかないの…。」
「ご飯が食べられなくなったら困るでしょう?」
セオラ
『困るけど、みんなが病気になったら意味ないよ!』
『私、おばあちゃんもお父さんも元気になってほしいもん!』
『川のお水を汚してまで、どうしてあんな砂を掘るの?!』
母
「それはね…地球の環境を守るためよ…。」
セオラ
『守れてないじゃん!』
『木だって草だって枯れているよ!』
『なのに、どうして地球の環境を守るためなの?!』
母
「………(涙)」
山を掘って、砂を取り出して、欲しい人に売る?
それは地球の環境を守るため?
私には理解できませんでした。
私が暮らす村も、森も、川の水も汚れています。
そのせいで村のみんなが病気で苦しんでいます。
こんなのおかしいよ!
そう憤る私に、お母さんは何も言えませんでした。
なにしろ、
「山を掘って、砂を取り出して、欲しい人に売る」
それが地球の環境を守るためというのは、
事実だからです…。
ーーーーー
<翌朝>
私のお父さんは、
村のみんなと軽トラックへ乗り込み、
山へ向かいました。
セオラ
『いってらっしゃーい!』
『お父さん…身体の具合がよくないのに大丈夫かなぁ…?』
母
「………。」
セオラ
『そういえば、あのトラックはどうやって動いてるの?』
母
「ガソリンという燃料を入れて動かしているの。」
セオラ
『ガソリン?』
母
「ええ。あなたもお腹が空いたら何か食べるでしょう?」
「車も同じで、動くためにガソリンを食べるの。」
セオラ
『そうなんだ。』
『トラックはガソリンを食べるんだね!』
『ガソリンはどうやって作るの?畑で見たことないよ?』
母
「ガソリンは畑には実らないのよ。」
「ガソリンは”石油”というものから作るの。」
セオラ
『セキユ?それはどこにあるの?』
母
「石油は地面の下や、海の底に埋まっているの。」
「たくさん取れる場所があって、みんなで掘り出しているのよ。」
セオラ
『地面に埋まっているの?!』
『じゃあ、ここを掘ったらセキユが出てくるの?』
母
「ここにはないの…。」
「石油は、遠い国の深い地中にあるのよ。」
「あのお山よりずっと深いところにね。」
セオラ
『そうなんだ…。』
『私がセキユを掘ったら、お父さんが喜ぶと思ったのに。』
母
「ふふッ、そうね。」
「お父さんも村のみんなも喜ぶわね。」
セオラ
『セキユって、お水みたいに湧き出てくるの?』
『なくならないの?』
母
「湧き出てはこないわ。」
「掘り続けたら、いつかなくなっちゃう。」
セオラ
『なくなっちゃうの?』
『大変!トラックの食べ物がなくなるよ?』
『そしたらお父さんが仕事へ行けなくなっちゃうよ?!』
母
「そうなの…。」
「だから、石油の代わりの食べ物を探しているのよ。」
「そのために、お父さんが掘っている砂が必要なの。」
セオラ
『どうしてあの砂が必要なの?』
母
「電気を作るためよ。」
セオラ
『デンキ?家を明るくする電気のこと?』
『電気でトラックを走らせられるの?』
母
「ええ。」
「あの砂をたくさん集めれば電気を作れるの。」
セオラ
『たくさん電気を作れるの?』
『それならトラックの食べ物は安心だね!』
『あの砂がたくさんあれば、セキユを掘らなくていいんだよね?』
母
「……そうね…。」
セオラ
『…お母さん?どうしたの?』
『セキユを掘らなくていいんでしょ?!』
ーー
どうしてお母さんは、
こんなに悲しそうな顔をするんだろう?
私にはわかりませんでした。
セキユを掘り続ければ、いつかなくなる。
そうしたら、お父さんのお仕事や生活が危なくなる。
あの砂を掘ればその心配がなくなる。
一見、良いことずくめです。
なのに、
地球の環境を守るためなのに、村は汚れている?
セキユを掘らなくて済むのに、お母さんは悲しい顔をする…。
ちぐはぐ過ぎて、私にはさっぱりわかりません。
ですが、その疑問は後日、すべてつながります。
この村へ訪れる”欧米の偉い人たち”によって。
⇒【第2話:語られぬ涙】へ続く
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