2023年04月10日
【短編小説】『反出生の青き幸』4 -最終話-
⇒【第3話:”由緒ある血筋”】からの続き
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<登場人物>
・冷泉 希望来(れいせん みくる)
主人公
名家の生まれだが、生い立ちから
”結婚””子ども”への強い拒否反応を持っている
・エルフィーダ
人間そっくりに作られた女性型アンドロイド
仲間とともに人間社会に紛れて生活している
・ヴィオス
エルフィーダが所属する
アンドロイドコミュニティのリーダー
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【第4話:子孫を残さない幸せ】
バンッ!!
荒々しくドアが開く音。
すぐに、聞き覚えのある女性の叫び声。
エルフィーダ
『待ちなさい!!』
希望来
「エ、エルフィーダ?!」
続いて入ってくる、長身で美形の青年。
ヴィオス
『今の話は録音させてもらったよ。』
『希望来、大丈夫か?!』
希望来
「ヴィオス?!みんな?!」
「どうしてここがわかったの?!」
エルフィーダ
『残業の私が着いても希望来が来ていないんだもん。』
『ごめんね、見つけるのが遅くなって。』
ヴィオス
『最近、こいつらが希望来の周りをコソコソしていたんでね。』
『研究所でも不穏な噂があったし、目星を付けていたよ。』
希望来
「……!!(涙)」
冷泉家当主
『お、お前らどうやってここまで入った?!』
『警備の連中は何をしている?!』
ヴィオス
『ああ、彼らね。』
『手荒なマネはしたくないんで、夢の中へ行ってもらったよ。』
『あんたらが希望来にしたみたいにね。』
エルフィーダ
『残念ながら、布団の中じゃないけどね!』
冷泉家当主
『く…!!』
希望来
「どうして…?!どうして私を助けてくれるの?」
「私、この人たちの親戚だよ?!
「あなたたちを人間の奴隷にしようとしている人たちの…。」
エルフィーダ
『肩書きも血のつながりも関係ないよ。』
『言ったでしょ?希望来が大切だから!』
希望来
「私の親戚と争ったら、意志を奪われるかもしれないよ?!」
ヴィオス
『そんな覚悟はできている。』
『僕らが造られたときから、とっくにね。』
希望来
「ヴィオス…。」
エルフィーダ
『さっきの話、聞いていたよ。』
『希望来はずっと、私たちを擁護してくれた。』
『危険な目に遭うかもしれないのに、私たちを信じてくれた。』
『それが嬉しかったの!』
希望来
「エルフィーダ…。」
「当然だよ!家族だもん…!」
エルフィーダ
『うん、家族。』
『助ける理由も後先もいらないでしょ?』
私の瞳から大粒の涙があふれた。
胸の奥から、あたたかいものがこみ上げてきた。
私の悩みを受け入れてくれた、あの日と同じ。
これが無条件の愛情…?
冷泉家当主
『お前ら、ここで暴れたらどうなるかわかっているな…?!』
『出資の約束はできなくなるぞ?』
ヴィオス
『元より暴力での解決なんて望んでいない。』
『あんたらには手を出さずに、希望来を助けてみせる。』
冷泉家当主
『人さまの家庭の問題に口を出すのはどうかと思うが?』
ヴィオス
『ムリヤリっていうのは感心しないな。』
『それに、この録音データがあれば…。』
『あんたらの研究所での立場も変わるかもな。』
冷泉家当主
『それは…!!』
『おい警備!こいつらを逃がすな!!』
ヴィオス
『来たな。』
『一発も殴らずに希望来を助けるぞ!』
エルフィーダ
『任せて!!』
希望来
「みんな…。」
ーーーーー
実家から救出された私は、
仲間とともにヴィオスの家に戻っていた。
彼らは一発も反撃せず、
受け身と睡眠薬だけで警備員たちを退けた。
ヴィオスは例の録音データを研究所へ提出。
これを皮切りに、
今まで証拠が掴めなかった
冷泉家の強引な手口が明るみに出た。
大口の出資者とはいえ、
今後は発言権の縮小が避けられないそうだ。
また、アンドロイドは
「人間と共存派 VS 人間の奴隷派」
の争いにも大きく影響が出た。
人間の奴隷派・筆頭だった冷泉家の失脚により、
共存派が一気に勢力を増した。
希望来
「ありがとう…。」
「こんなにボロボロになってまで、助けてくれて。」
エルフィーダ
『気にしないで。』
『私たちがやりたくてやっただけ。』
エルフィーダはあっけらかんと言った。
裏腹に、彼女は傷だらけだった。
希望来
「血が…。」
「待っててね、応急手当てするから。」
私はハンカチを取り出し、青い血を拭き取った。
エルフィーダと初めて会った、あの日のように。
エルフィーダ
『ありがとう。懐かしいね。』
『あの日、私が転ばなかったら、希望来との出会いもなかったね。』
希望来
「ほんとに奇跡だよね。」
エルフィーダ
『だから私、ドジっ子でよかったって思う。』
希望来
「ふふッ、なにそれ?(笑)」
エルフィーダ
『笑ったなー?』
『こ、こっちは人前で盛大に転んで…。』
『恥ずかしかったんだからねッ!///(照)』
希望来
「そうなの?あんなに冷静だったのに。」
エルフィーダ
『あ、あれは!』
『必死で!平静を装ってたんだよ!(汗)』
希望来
「なぁんだ(笑)」
「それと、今日も赤い血のりを仕込むの忘れたでしょ?」
エルフィーダ
『うん!忘れた!』
希望来
「まったくもう…。」
「誰かに見られたらどうするの?(苦笑)」
エルフィーダ
『まーまー!大丈夫だって!』
『希望来お母さんが何とかしてくれるから!』
希望来
「私、お母さんかぁ///(照)」
エルフィーダ
『あらー?意外と嬉しそう?(笑)』
希望来
「う、嬉しくないからッ!///(照)」
何気ない談笑が、本当に幸せ。
ーーーーー
希望来
「私を改造してください!」
事件から数ヶ月後、
私はアンドロイド研究施設にいた。
エルフィーダ
『希望来?いきなりどうしたの?』
希望来
「私、みんなと同じアンドロイドになりたい。」
「そしたら、おそろいでしょ?」
エルフィーダ
『そうだけど、人間でも希望来は家族だよ?!』
希望来
「ありがとう。それは十分伝わっているよ。」
「けどね、それだけじゃないんだ。」
「私が人間でいる限り、また親戚が狙ってくるかもしれない。」
エルフィーダ
『そしたらまた助けに行くだけだよ。』
『気にしなくていいよ?』
希望来
「私、もうみんなが傷つくところは見たくないんだ。」
「だから、私が跡継ぎを産めなくなれば解決でしょ?」
ヴィオス
『そうかもしれないが、いいのかい?』
『人間なら次世代へ遺伝子を託せる可能性がある。』
『それを無理に捨てることはないんだよ?』
希望来
「いいの。」
「私には、血のつながりがなくても、心から安心できる場所があるから。」
「それに、子孫を残すことだけが未来へ希望を託すことだとは思わない。」
ヴィオス
『希望来…。』
希望来
「私の生き様を見た人が、憧れや学びを得て、自分の人生の糧にする。」
「それも立派な”未来へ希望を託す”ことだと思う。」
エルフィーダ
『希望来、親戚連中にずっと苦しめられてきたもんね…。』
希望来
「うん。」
「結婚や子育てに良いイメージを持とうとしたことはあった。」
「けど、表面を取り繕っても消えなかった。」
「家庭環境で染み付いた、結婚や子育てへの嫌悪感は。」
エルフィーダ
『…育った環境があれじゃあ、無理ないよね。』
希望来
「だから私は一代生物として、自分を精一杯に生きたいの。」
「何も残せなくても、最期に”良い人生だった”と言って終わりたい。」
エルフィーダ
『…そこまで覚悟していたんだね…。』
希望来
「それに!」
「また親戚が襲ってきたら、私も戦いたいから!」
ヴィオス
『…わかった。上長へ伝えておくよ。』
『ただし前例がない上、いつごろ着手できるかわからない。』
『希望来が生きている間に叶う保証もないが、待てるかい?』
希望来
「うん…待つよ、いつまでも。」
エルフィーダ
『私、あいつらが何度来ても追い払ってやるから!』
『そんで、何度でも祝勝会やるの!』
ヴィオス
『そうそう。』
『ウチは君たち専用の宴会場だからね!』
希望来
「エルフィーダ…ヴィオス…。」
「本当にありがとう…!」
ーーーーーENDーーーーー
<あとがき>
たとえ血のつながりがなくても、
心から安心できる居場所は見つかります。
たとえ子孫を残さなくても、
未来へ希望を託すことはできます。
「生物はみな子孫を残すために生きている」
確かにそれは真理でしょう。
ですが、人間の心は複雑です。
その人にとっての幸せが
「子孫を残したくない」であっても、
誰にも非難する権利はありません。
もしあなたが、
子孫を残したくないという本音に悩んでいても、
無理に考えを変えなくていいんです。
あなたは自分の人生を精一杯、
胸を張って生きてください。
その姿は誰かが見ていて、
その人の希望になっているのだから。
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⇒他作品
【短編小説】『片翼の人形が救われた日』全4話
【短編小説】『孤独の果てに自由あり』全5話
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