2023年04月08日
【短編小説】『反出生の青き幸』2
⇒【第1話:子孫を残す不幸】からの続き
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<登場人物>
・冷泉 希望来(れいせん みくる)
主人公
名家の生まれだが、生い立ちから
”結婚””子ども”への強い拒否反応を持っている
・エルフィーダ
人間そっくりに作られた女性型アンドロイド
仲間とともに人間社会に紛れて生活している
・ヴィオス
エルフィーダが所属する
アンドロイドコミュニティのリーダー
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【第2話:欲しかった”家族”】
エルフィーダと友達になってから、
私の人生は少しずつ明るくなっていった。
休日には2人で遊びに行ったり、
お酒を飲んで職場の愚痴を言い合ったりした。
彼女らは食べ物もお酒も、
人間と同じように摂取できるそうだ。
AI技術の進歩は、人間の想像を超えていた。
私は思わず、どら焼きを頬張るネコ型ロボットを思い出した。
未来へのボタンを1つでも掛け違えば、
・人間に虐げられたロボットたちが反乱を起こす
・人間の能力を超える存在を排除しようと戦争が起きる
そんな世界線へ移行するんだろう。
それでも私は今、人間の”ささやかな幸せ”を
彼女と共有できることが嬉しかった。
私は彼女がアンドロイドであることを忘れ、
親友との時間を楽しんだ。
ただ1つ、私と正反対の悩みがあることなど、
気にも留めないまま。
ーー
ある日、エルフィーダは私に
アンドロイドのコミュニティを紹介してくれた。
彼らは普段はそれぞれ仕事を持ち、
バラバラに生活してるという。
コミュニティのリーダーの自宅は広いので、
いつしか溜まり場になったそうだ。
希望来
「わ、私は人間だけど、行っても大丈夫かな…?」
エルフィーダ
『大丈夫。』
『リーダーが”ぜひ恩人を連れてきてほしい”ってさ。』
希望来
「恩人だなんて…。」
エルフィーダ
『まーいいからいいから!怖くないって!』
『ホラ、行くよ希望来。リーダーに紹介するね。』
私はエルフィーダに引っ張られ、リーダーの家を訪れた。
彼女よりも長身で、美形の男性が出迎えてくれた。
ヴィオス
『初めまして。ヴィオスと申します。』
『その節は彼女を助けてくれてありがとう。』
希望来
「れ、冷泉 希望来と申しますッ!」
「よよよろしくお願いします!」
ヴィオス
『ははは、緊張しなくていいよ。』
『君のことはエルフィーダから聞いている。』
『他人のことばかり優先する、優しい人だってね。』
希望来
「あ、あり、ありがとうございます!」
ヴィオス
『ゆっくりしていってね。』
『僕らは普段はバラバラだけど、家族みたいなものだから。』
希望来
「は、はい!ゆっくりさせていただきます!」
エルフィーダ
『ね?怖い人じゃないでしょ?(笑)』
ヴィオス
『おいおいエルフィーダ、何を吹き込んだんだよ?』
エルフィーダ
『へへ、何もー?』
ヴィオス
『まったく…(苦笑)』
そんなやり取りの後、
ヴィオスは穏やかな笑顔で、
その日集まっていたメンバーを紹介してくれた。
初めは緊張していた私は、
気づいたら打ち解けていた。
帰る頃、私の心はあたたかさで満たされていた。
ーー
その後、
私はコミュニティのみんなと過ごす時間が増えた。
彼らは私が人間であることなど気にせず、
1人の大切な存在として受け入れてくれた。
私が仕事でミスして落ち込んでいたときも、
イヤな顔1つせず寄り添ってくれた。
ここには私の血縁者どころか、人間すらいない。
けど、私にとっては人間以上に心安らげる場所だった。
初日に、ヴィオスが言っていたっけ。
『僕らは家族みたいなものだから』って。
安全な家、あたたかい家族。
私がずっとほしかったもの。
手に入らないと諦めていたもの。
それは皮肉にも、
血のつながりからもっとも遠いところで手に入った。
ヴィオス
『みんなを家族のように大切にできる理由?』
希望来
「ええ。皆さん本当にあたたかくて。」
「本当の家族みたいに、お互いを思いやっていて。」
「人間の私も、こんなに大切にしてくれて感謝しています。」
「どうしてここまでしてくれるんですか?」
ヴィオス
『そうだね…。少し矛盾するけど…。』
『僕らアンドロイドは”次世代へ希望を託せないから”かな。』
希望来
「次世代への希望…?どういうことですか?」
ヴィオスは少し俯きながら、話し始めた。
ヴィオス
『希望来がエルフィーダと遊んで、驚いたことはある?』
希望来
「人間と同じように楽しんで、食事もできるんだって驚きました。」
ヴィオス
『そう。僕らは人間とほとんど変わらない。』
『ただ1つ違うのは、僕らは一代生物ということ。』
希望来
「一代生物?」
ヴィオス
『僕らは人間と違って、子を成すことができない。』
『人間で言う寿命…耐用年数を迎えたら…。』
『再生工場へ送られ、造り替えられる。』
希望来
「さ、再生工場?!」
ヴィオス
『そう。ドロドロに溶かして、新たな人格のアンドロイドを作る。』
『僕らは知識や経験は伝えられても、血縁の子へ希望を託すことができない。』
『いくら人間そっくりに作る技術が進歩しても、これだけは再現できないんだ…。』
希望来
「血縁の…子…。」
胸の奥が、チクリと痛んだ。
エルフィーダ
『私たちはただ生きて死んでいくだけ。』
『未来へ遺伝子を残せないなんて悲し過ぎる。』
『だからこそ私は自分を精一杯に生きるの!』
ーー
私は、ずっと血のつながりに苦しんできた。
”名家の跡継ぎを産む”
そのいざこざのために父を失い、
母も苦労の末に他界。
少なくとも私の家系では、
血をつないでも不幸な人間を増やすだけ。
だから私は子孫を残したくない。
なのに私の身体には、
子孫を残す機能が備わっている…。
それが最大の苦しみ。
エルフィーダやヴィオスの苦しみは、私と正反対。
こんな私は、彼らの目にどう映っているだろう。
羨望?それとも、失望…?
私は急に怖くなった。
もし私の悩みを彼らに話したら、
受け入れてもらえなくなるかもしれない。
せっかく、諦めていた家族が手に入ったのに。
せっかく、親友ができたのに…。
大切なものを失う恐怖が襲った。
だけど、
私は自分を偽ったままなんてイヤ。
それこそ私を信頼して、
受け入れてくれた家族に失礼。
希望来
(大切な彼らに…ウソをつきたくない!)
私は覚悟を決め、
抱えていた悩みをすべて話した。
嫌われたら仕方ない。
短い時間だったけど、
本当の家族ができて嬉しかった。
希望来
(今までありがとう…。)
そう言いかけた私に、
ヴィオスは微笑んで言った。
ヴィオス
『知っていたよ。』
希望来
「え…?」
ヴィオス
『家のこと、跡継ぎ騒動のこと、ご両親のこと。』
『希望来が結婚や子孫の問題で苦しんでいること。』
エルフィーダには、
お酒の席で軽く話したことがあった。
エルフィーダもヴィオスも、
すべて知った上で私を受け入れてくれたの?
希望来
「ど、どうして…?」
ヴィオス
『実は、希望来の実家はこのプロジェクトの大口の出資者なんだよ。』
『だから失礼を承知で、エルフィーダがきみを連れてきた後で調べさせてもらった。』
エルフィーダ
『今まで黙っていてごめんね。』
希望来
「すべて知った上で…?私を追い出さないの?」
エルフィーダ
『どんな苦しみを背負っていても、希望来は希望来でしょ?』
『それもあなたの一部!』
ヴィオス
『そうだよ。』
『一面だけで家族を追い出すなんて絶対にしない。』
『希望来はエルフィーダの親友で、心優しい仲間。』
エルフィーダ
『そうそう!それだけで十分!』
『あれ?なにさー?泣いちゃって。』
希望来
「え…な、泣いてなんか…!泣いて…(涙)」
エルフィーダ
『しょうがないなぁ。』
『よしよし、お姉さんがなでなでしてあげよう。』
『飲みながらね!』
ヴィオス
『君はすぐ人の家を宴会場にする(苦笑)』
エルフィーダ
『いいじゃない!希望来のため!』
ヴィオス
『わかったわかった。』
『僕は料理を作るから、酒の調達は任せたよ。』
エルフィーダ
『はーい!さすがリーダー!』
…あぁ…私、最高に幸せ。
夢じゃないよね?
私が、こんなにあたたかい家族に囲まれるなんて。
私の実家が、アンドロイド研究の大口スポンサー。
それだけが気になったけど、まさか…。
いいえ、もう縁を切られている。
今さら何もしてこないよね?
私の微かな不安は、
杞憂に終わってほしかった。
⇒【第3話:”由緒ある血筋”】へ続く
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