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2023年05月27日

【短編小説】『孤独の果てに自由あり』2

【MMD】Novel Jiyu SamuneSmall1.png

【第1話:”自由の歴史を見る旅”への出発】からの続き

<登場人物>
白林 由羽璃(しらばやし ゆうり)
 主人公
 厳格な両親からの圧力や社会の歯車に疲れ、
 自由な人生とは何かを考え始める

リベルタス
 自由を司る女神
 ブラック企業で消耗する主人公に声をかけ、
 自由の歴史を見る旅を持ちかける

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第2話:中世ヨーロッパ、”選べない”という安心】



<15世紀ヨーロッパ・とある街>

靴職人の女性
『まいど!いつもありがとね!』


街の婦人
『こちらこそ、あなたの靴、最高よ。』
『また買いにくるわ。』


中世ヨーロッパに来た私は、
とある街で靴職人の女性と仲良くなった。

職人ギルドはほとんど男性だが、
彼女の技量は数少ない女性職人として認められていた。

由羽璃(ゆうり)
「お姉さんの作った靴、また売れましたね。」
「デザインも履き心地も最高ですもんね!」


靴職人の女性
『そうかい、ありがとうよ。』


由羽璃(ゆうり)
「街でも、お姉さんの作った靴を履いてる女性、多いですよね。」


靴職人の女性
『おかげさまでね。』


由羽璃(ゆうり)
「その技量はどこで身に付けたんですか?」


靴職人の女性
『お父さんの見よう見まねだよ。』


由羽璃(ゆうり)
「見よう見まね…?すごい!」
「それで靴職人の仕事を選んだんですね!」


靴職人の女性
『仕事を選ぶ?どういうことだい?』


由羽璃(ゆうり)
「え?」


彼女は心底わからないという表情を見せた。
私にとって当たり前の”仕事を選ぶ”行為に対して。


由羽璃(ゆうり)
「えっと…。」


靴職人の女性
『選ぶも何も、生まれたときから決まってるもんさ。』
『親が農家なら私も農家、靴職人なら私も靴職人だよ。』


由羽璃(ゆうり)
「仕事を選べないんですか?」
「人生の選択は、個人の自由じゃないんですか?」


靴職人の女性
『個人の自由?何だいそれ?』



ーー


私は、なんて狭い”ジョウシキ”の世界で生きていたんだろう。

この時代には”個人の自由”なんて存在しなかった。
生まれたときから、身分も仕事も役割も決まっていた。


身分を変える、転職するなんて概念はない。

由羽璃(ゆうり)
(ここには自由意思なんてないの?)
(自分の人生を選べないなんて窮屈すぎる…。)


孤独で、無力で、不自由な現代。
そこから逃れたくて600年前に来てみても、
やっぱり自由なんてないんだろうか。

だけど…。



不自由で、がんじがらめなはずの彼女は、
とても晴れやかで生き生きとしていた。


由羽璃(ゆうり)
「お姉さんはいつも、すごく嬉しそうですよね。」


靴職人の女性
『あら、突然どうしたの?』


由羽璃(ゆうり)
「何かに縛られてる感じがしないというか…。」
「窮屈な感じがしないんです。」


自由も転職の概念もない時代で、
「自由そうですね」に代わる表現を思いつかなかった。

靴職人の女性
『…あの人たちを見て。』


彼女の視線の先には、道行く婦人たちがいた。
婦人たちが履いている靴は、彼女が作ったもの。

靴職人の女性
『あの人も、あっちの人も、お得意様でね。』
『いつも来てくれて、こう言うんだよ。』
『”良い靴を作ってくれてありがとう”ってね。』


由羽璃(ゆうり)
「そういえば、さっきのお客さんも言ってましたね。」
「デザインも、履き心地も、気に入ったって。」


靴職人の女性
『私はただ、私が良いと思う靴を作ってるだけ。』
『たまにはお客さんの希望で作ることもあるけどね。』
『ほとんど私の思いつき。』


由羽璃(ゆうり)
「で、でも、靴職人から転職はできないんでしょう?」
「あ、転職っていうのは、他の仕事をするっていう意味ですッ!」


靴職人の女性
『そんなことしなくていいんだよ。』


由羽璃(ゆうり)
「え…?」


靴職人の女性
『私の靴は、この街のおしゃれに一役買ってる。』
『そう思うと、何だか力が湧いてくるんだよ。』
『他でもない私自身が必要とされてる感じがしてね。』


私は誤解していた。

確かに職業選択の自由も、人生の選択肢もないに等しい。
けど、彼らは孤独も不自由も感じていなかった。




ーーーーー



<現代>

リベルタス
『おかえりなさい。楽しかった?』


由羽璃(ゆうり)
「…楽しかったです。」


リベルタス
『何だか、すごく意外なことがあったって顔してるわね?聞かせて?』


由羽璃(ゆうり)
「意外というか、驚きました。」
「彼らには”個人の自由”という概念がありませんでした。」


リベルタス
『それはカルチャーショックが大きかったかもね。』


由羽璃(ゆうり)
「ええ、ショックでした。」
「あの時代は、現代よりずっと不自由だと思ってました。」
「けど、真逆でした。」


リベルタス
『真逆?』


由羽璃(ゆうり)
「彼らは生まれながらに、身分も職業も決まってます。」
「けど、それは”どこかに所属できている安心感”になります。」


リベルタス
『確かに、変わらない何かに所属できていれば安心ね。』


由羽璃(ゆうり)
「靴職人のお姉さんは、靴職人以外の仕事に就けません。」
「けど、自分の創意工夫で作った靴で、お客さんを喜ばせてました。」

「彼女は嬉しそうに言ってたんです。」
「”他でもない私自身が必要とされてる感じがする”って。」


リベルタス
『…そうですか。とても、良い学びを得てきましたね。』


由羽璃(ゆうり)
「私、あんなカタチの自由があるなんて知らなかった…。」
「なのに、どうして私たちは、あの自由を捨ててしまったんでしょう?!」


リベルタス
『知りたいですか?』


由羽璃(ゆうり)
「知りたいです!」


リベルタス
『わかりました。』
『では、もう少し先の時代を見てみましょうか。』


由羽璃(ゆうり)
「お願いします…!」


リベルタス
『では、いってらっしゃい。自由が生まれる時代へ。』




【第3話:宗教改革の波、崩れる”絶対的な所属先”】へ続く

⇒この小説のPV

2023年05月26日

【短編小説】『孤独の果てに自由あり』1

【MMD】Novel Jiyu SamuneSmall1.png

<登場人物>
白林 由羽璃(しらばやし ゆうり)
 主人公
 厳格な両親からの圧力や社会の歯車に疲れ、
 自由な人生とは何かを考え始める

リベルタス
 自由を司る女神
 ブラック企業で消耗する主人公に声をかけ、
 自由の歴史を見る旅を持ちかける

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第1話:”自由の歴史を見る旅”への出発】



私は白林 由羽璃(しらばやし ゆうり)
24歳、一人暮らし。

大学卒業後、ブラック企業の社畜をしている。
毎日、遅くまで残業。上司のセクハラ、パワハラは日常。

それでも辞める勇気が出ないまま、2年目に突入。
完全に抜け出すタイミングを失った…。



私の両親は、とても厳しかった。

幼い頃から塾に入れられ、
とにかく勉強して上を目指せと言われた。

門限も厳しく、
友達と遊ぶこともあまり許されなかった。

それで友達から敬遠されて、学校の居心地が悪かった。
けど、親は私が学校を休むことも許さなかった…。

私は勉強よりも、
絵を描いたり作品を作ったりするのが好きだった。
創作しているときが唯一、私が私でいられる気がした。


けど、美術の授業で描いた絵を見せても、
親は褒めてくれなかった。

それどころか、
「こんなことは時間のムダだ!もっと有意義に使え!」

私は、息苦しさでどうにかなりそうだった。
親の鳥カゴから逃れたくて、懸命に勉強した。

勉強して大学に入って、家を出て就職する。
住む家にもお金にも余裕ができれば解放される。
自由になれると信じていた。

なのに…。



いざ就職すると、そこに自由なんてなかった。

社会の歯車として、
「無機質な部品」でいることを求められる毎日。

愛想笑いを強要され、
自分を出すことをとことん押さえつけられる毎日。

「普通はこうすべき」
「常識的に考えて」
「社会人として」
「いい大人なら」


見えない圧力。
「こうあるべき」を次々に押しつけられる。

それがイヤで、みんなと違ったことをしてみると、

「非常識」
「変人」


”気にしなければいい”ができれば、どんなに楽だろう。
それができない私は、どんなに無力だろう…。



あぁ…もうイヤ…。がんじがらめ。

社会が求めるのは自由ではなく歯車。
私の代わりはいくらでもいる。

背後には巨大資本。抗えるはずもない。
生活の糧という”人質”を握られている。

由羽璃(ゆうり)
「私はなんて無力なんだろう。」
「私は一生、自由になれないの?」
「こんな人生があと60年も続くなんてイヤ。」


私が暗い自室で絶望していた、そのとき、


ーー


『自由になりたいですか?』

突然、目の前に
白いローブをまとった女性が現れた。

由羽璃(ゆうり)
「だ、誰ですか?」


女性
『私はリベルタス。自由を司る神です。』


由羽璃(ゆうり)
「女神…さま…?」


…私、いよいよ壊れたかな…。
都合のいい幻覚が見えるなんて。

リベルタス
『あなたの過去を見せてもらいました。』
『とても窮屈な人生を送ってきたのですね。』


由羽璃(ゆうり)
「はい…。」


リベルタス
『それで自由になりたいと、こんなにボロボロになって…。』


由羽璃(ゆうり)
「あはは…もう、会社を辞める気力もなくて…(泣)」


リベルタス
『わかりました。力になりましょう。』
『ところで、自由とは何ですか?』


由羽璃(ゆうり)
「え?!自由とは…?」(あれ?わからない…。)


私はすぐに答えられなかった。
こんなにも自由になりたいはずなのに。


由羽璃(ゆうり)
「うーん…家族や、仕事や、社会の圧力から自由になりたい、です…?」


よくわからない、やっと絞り出した答え。

リベルタス
『うふふ、ごめんなさいね、変な質問をして。』


由羽璃(ゆうり)
「いえいえ!私こそ、不勉強でごめんなさい!(汗)」


リベルタス
『いいのよ。あなたのように、不自由に悩んでいる人はたくさんいます。』
『自由に思いをはせながら、毎日を自動人形のように過ごす人たちが。』


由羽璃(ゆうり)
「そうですよね…。わかってます。」
「みんな我慢して、自分を押さえつけて、必死に生きてるって。」


リベルタス
『ええ。あなたは特に危なかったの。』
『もう潰れそうだったから声をかけました。』
『あなたに見てもらいたいものがあってね。』


由羽璃(ゆうり)
「見るって、何をですか?」


リベルタス
『自由の歴史よ。』


由羽璃(ゆうり)
「歴史?」


リベルタス
『ええ。自由がどう考えられてきたか。』
『あなたが自由を手に入れるためにも、見てみたくはありませんか?』


由羽璃(ゆうり)
「過去へ…行くってことですか?」
「戻って来られるんですか?!(汗)」


リベルタス
『もちろんよ。私は神だから。』


信じられないけど…まぁいいや。

このままじゃ、私の人生なんて先が見えてる。
それならいっそ、悔いを残さないように。

由羽璃(ゆうり)
「行きます。見せてください、自由のカタチを。」


リベルタス
『(クスッ)、度胸あるのね。』
『では、いってらっしゃい。まずは中世ヨーロッパへ。』


女神さまの声が途切れると、心地よい眠気が襲ってきた。

こうして、ブラック社畜だった私は、
唐突に「自由を見る旅」へ出ることになった。




【第2話:中世ヨーロッパ、”選べない”という安心】へ続く

⇒この小説のPV

2023年05月14日

【短編小説】『迎えを拒む天使たち』後編

【前編「人間は、親の愛情の”代用品”を求める」】からの続き



【第2話:天使は、”抱っこ”で人間になる】



数十年前。
抱っこロイドの癒しの力で戦争はなくなり、
世界は平和になったかに見えました。

ですが、そのときから異変は始まっていたのです。



病院では、新生児はほとんどの時間を、
抱っこロイドに抱っこされて過ごしました。

母親の健康や負担を考え、
本人が抱っこしたいときに入れ替えられました。

抱っこロイドが、母親の抱っこと
まったく同じ役割を果たせると期待されて。

ところが、
それがほぼすべての病院で慣習になった頃から、
1年も生きられない新生児が急増しました。


調べても、病気は何も見つかりません。
発育も栄養状態も良好です。

なのに、どうしてでしょう…?



これにより、
少子化と人口減少に歯止めが利かなくなりました。

大人たちは相変わらず、
幼少期の愛情不足を取り戻して、満ち足りた顔をしています。

にもかかわらず、
働き手はどんどんいなくなり、
社会はすさまじいスピードで混乱していきました。


ーー


そしてついに、
”幸せな大人たち”の表情も崩れ始めました。

親の愛情の代理満足が不要になったことで、
「依存症ビジネス」が崩壊したのです。


アルコール、お菓子メーカー、
風俗やお水業界、ゲーム業界、違法薬物市場…。

代理満足に依存する必要がなくなったことで需要が激減。
貧困に陥った人たちが犯罪や暴動を起こすようになりました。

鎮圧しようにも、警察や治安部隊は少子化で人手不足。
抑えられないまま、戦乱は全世界へ広まっていきました。

次々に命を落とす人間たち、荒廃していく世界。

そんな、地球滅亡の危機を”救った”のは、
またしても「あの発明たち」だったのです…。



ーーーーー



<現代:少女が通う小学校>


少女
「Aちゃん、どういうこと?!」


Aちゃん?
『そのままの意味よ。』
『世界にはもう、人間はほとんど生き残っていないの。』


少女
「そんなのウソだよ!」
「AちゃんもCちゃんも、ここにいるじゃん!」


Aちゃん?
『ウソだと思うなら、思い出してみて?』
『私、病欠で学校に来なくなったでしょ?』


少女
「うん…。」


Aちゃん?
『私が戻ってきて、どう思った?』


少女
「怒らないでね?なんだか、冷たくなった…。」


Aちゃん?
『でしょうね。Cちゃん、見せてあげて。』


Cちゃん?
『うん。見て、私の足。』


Cちゃんは靴下をめくり上げ、素肌を見せました。

少女
「…この色は…Aちゃんと同じ…?!」
「どういうこと?!AちゃんもCちゃんも人間じゃないの?!」


Cちゃん?
『ええ…本物のAちゃんもCちゃんも亡くなったの…。愛着障害でね…。』
『だから、私がCちゃんに変形して学校に来てるの。』


Aちゃん?
『そういうこと。ホラ、元通りでしょ?』


Aちゃんはそう言って、
抱っこロイドの初期型とAちゃんの姿への変形を少女に見せました。

少女
「そんな…じゃあAちゃんもCちゃんも、もういないの?」


Aちゃん
『いないの…。残念ながらクラスはもう、あなた以外、抱っこロイドよ。』



ーー


抱っこロイドに搭載されたAIは、
すさまじいスピードで学習を続けました。
人間の所作を1つ1つ、どんな細かいことも残らず。

そしてついに、
本人と見分けがつかないほど、
完璧な変形と滑らかな動きを可能にしました。


数十年前、
減り続ける人間に代わって、
荒廃した世界を立て直したのは、
人間に化けた抱っこロイドたちだったのです。

Aちゃん?
『AちゃんもCちゃんも、長く生きた方なの…。』
『ほとんどの子は、1年も生きられない中でね…。』


Cちゃん?
『あなたと、あなたのお母さんだけよ。こんなに元気なのは。』
『どうしてかな…?』


少女
「お母さんはいっぱい抱っこしてくれるもん!」
「お母さんあったかいから私、安心して何でもできるんだよ!」
「つまづいても、いつでもお母さんが迎えてくれるから!」


Aちゃん?
『そう…よかった…。』


Cちゃん
『あなたみたいに愛情をいっぱい受けて育った子ばかりだったら…。』
『世界はこんなことにならなかったかもね。』


少女
「どういうこと?」
「みんな抱っこロイドを使って、幸せそうな顔してたよ?!」
「”あいじょうぶそく”になんか、なるわけないよ…!」


Cちゃん?
『…どれだけ人肌に似せてもね…。』
『人は、人のぬくもりなくしては生きられないの…。』


少女
「人の、ぬくもり…?」


Aちゃん?
『私たちは、抱っこの代わりを求めて苦しむ人たちのために作られた。』
『実際に戦争を止めたり、良いこともたくさんあった。』
『それでも、生まれてきた子を本当の意味で歓迎できるのは、人間だけなの。』


少女
「それじゃあ、赤ちゃんが1年も生きられないのは…?」


Cちゃん?
『きっと、赤ちゃんたちは私たちロボットに迎えられることを拒んだの…。』
『私たちが与えられるのは、どこまでいっても”愛情の代用品”だから…。』


少女
「私とお母さんは、これからどうすればいいの?」
「もう人間はいないんでしょ?」


Cちゃん?
『おそらくね…。それでも、私たちはできる限り協力するわ。』


Aちゃん?
『あなたたちが幸せになれるよう、精一杯の ”代 理 満 足” をあげる…。




ーーーーー



かつて、こんな実験が行われたそうです。

 生まれたばかりのアカゲザルを母親から引き離し、
 飼育員が効率的に育てると、どうなるか。

 母親に似せた”抱っこ用の人形”を用意されたグループは
 どう育つのか。

母親に育てられなかったアカゲザルは、
ほとんど育たずに亡くなりました。

母親に似せた”抱っこ人形”のグループは、
どうにか育ったものの、

他者への恐れや無関心、無気力から、
対人関係も精神も不安定だったそうです。

サルと人間の違いはありますが、
人生のスタート時に十分な愛情を得られなければ、
健全な成長が難しいことを物語っています。




「親からの愛情不足で苦しむ人を救いたい」

そう願って開発された抱っこロイドは、
確かに多くの人を救いました。

ですが、この革命は最後まで、
親の愛情の代理満足を超えることはできませんでした。




「お母さんに甘えたい。」
「優しく抱っこされたい。」
「ぬくもりを感じたい…。」


大人になるほど、
口に出すことをはばかられる、その願い。

叶わなかった願いの代用品を求めて、生涯を棒に振る。
そんな人はいくらでもいるでしょう。

そうならないためにも、
たまには自分の気持ちに素直になってみてください。

「私、優しく抱っこされたいんだ…。」

気恥ずかしくても、情けなくてもいいんです。
認めてあげるだけで、きっと少し、生きやすくなるから。



ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
【短編小説】『人形の翼が折れた日』全2話

【短編小説】『もう1度、負け組の僕を生きたいです』全5話


⇒参考書籍






2023年05月13日

【短編小説】『迎えを拒む天使たち』前編

【第1話:人間は、親の愛情の”代用品”を求める】



<数十年前:とある国>


『愛着障害』という言葉を知っていますか?
病気や障害ではありません。

0〜2歳頃までに、親から

・抱っこなどのスキンシップ
・求めれば応じてくれる安心感


が十分に与えられたかどうかが、生涯、
子どもの精神の安定度に影響を与えます。

この時期に親からの愛情が不足すると、
子どもは何歳になっても、さまざまな弊害に苦しみます。

ある人は、
見捨てられるのが怖くて、他者を過度に束縛します。

ある人は、
親密になったばかりに傷つくのが怖くて、
他者を支配したり、関係から逃げたりします。



愛着障害を抱えて成長した人は、
親の愛情の”代用品”の追求に人生をささげます。


たとえば、

・お金
・権力
・名声
・薬物
・恋愛
・食べ物
・ゲーム
・ギャンブル
・アルコール

いつの時代にも
狂ったように権力を求める独裁者が現れます。

あなたの身近にも、
身体が壊れても仕事を続けるワーカホリックが
1人はいるでしょう。

もしかすると彼らは、
自らの意志でそれらを欲しているのでは
ないかもしれません。

「お母さんに甘えたい。」
「優しく抱っこされたい。」
「ぬくもりを感じたい…。」


それが2度と叶わない絶望を、
あふれ出る権力欲や自己有用感に
すり替えているのかもしれません…。


ーー


世界には、親の愛情に飢えている人が溢れています。

親の愛情の”代理満足”を求める行動がエスカレートし、
多くの戦争や悲劇が起きています。

だとしたら、

もしも愛着障害を治療、
もしくは防止できるものを発明できれば、
人間を救えると思いませんか?


そんな人間の悲願が、ついに実現したんです。
愛着障害の撲滅を願って開発されたのは、



『抱っこロイド』



人肌の質感やぬくもりを完全再現しています。

自在に形を変えられて、
普段は手のひらサイズにして持ち運べます。

持ち主の性格や趣向をAIが完全学習します。
持ち主が望むお母さんの姿や体型へモデルチェンジできます。

機械に抱っこされても味気ない?ご安心ください。
抱っこロイドはお母さんの脳の電波状態も完全再現しています。

持ち主の脳へ特殊な刺激を送り、
愛情ホルモン”オキシトシン”を出してくれます。

これにより、身体的にも精神的にも、
愛情いっぱいの抱っこで満たされます。

対象年齢は0歳から上限なしです。
いつでも誰でも、健全な成長と心の安定を得られます。

「幼少期の愛情不足」は、
人の一生を左右する、根深い問題です。

それが元で凶行に走る人間をなくしたい。
世界から戦争や悲劇をなくしたい。


それが、開発者の願いです…。


ーー


”抱っこロイド”は、またたく間に全世界へ普及しました。
そしてすぐに、めざましい効果が現れました。

とある大国の大統領は、
隣の国へ侵略戦争を仕掛けていました。

「あの国は元々、我が国と1つの民族だ!」
(本当は失った求心力を取り戻すため、戦争に勝つところを見せたい…。)


国内の反対派を弾圧し、強制的な徴兵制度を敷き、
独裁者として権力を振るっていました。

ところが、抱っこロイドが普及して間もなく、
同国はあっさり侵攻を止めて撤退したのです。


「私は間違っていた。ようやく気づいたのだ。」
「私が支配力を求めていたのは、母の愛情の代理満足だったことに。」




人々の労働環境も、劇的に良くなりました。
ブラック企業やブラック上司がいなくなったんです。

社員を使い捨てにするブラック経営者たちは、気がつきました。

「私はお金を、心の空洞へ流し込んでいるだけだった。
「お母さんに甘えられなかった寂しさで、ぽっかり空いた、心の空洞へ…。


部下を罵るブラック上司たちは、気がつきました。

「私は、見下せる誰かがいなければ、
 無能だとバレるのが怖かったんだ。」


「子どもの頃、”出来の悪い子は愛してあげない”と、
 お母さんから見捨てられるのが怖かったから…。」


抱っこロイドがあれば、いつでも甘えられます。
あの頃は満たしてもらえなかった心の傷を、
いつでも癒してもらえます。

家庭不和も、ご近所トラブルもなくなりました。
誰もが満たされ、戦争のない平和な世界が訪れました…。



ーーーーー



<現代:とある国>


少女
「ねぇママ。」



「なぁに?」


少女
「最近ね、学校がなんだかおかしいの。」



「おかしいの?どういうふうに?」


少女
「お友達がみんな、急に冷たくなったの…。」
「私、いじわるした覚えないのになぁ…。」



「あらあら…。心当たりがないのね。」


少女
「うん。AちゃんもCちゃんも1回学校に来なくなって、その後から。」



「AちゃんもCちゃんも、学校をお休みしたの?」


少女
「うん、ずっと調子悪そうだったの。」
「それで病欠して、戻ってきたら…。」



「そういえば授業参観のとき、何だか空気がひんやりしてたわ…。」


少女
「ママもそう思う?!みんな別人みたいなの。」
「Aちゃんなんだけど、目が笑ってないっていうか…。」



「確かに、変ね…。(涙)」


少女
「”私、何か悪いことした?”って聞いてもね。」
「AちゃんもCちゃんも”そんなことないよ”って言うの…。」
「1回、学校をお休みした子は、みんなそんな感じなんだ…。」
「他のみんなは、気づいてないのかなぁ…?」



ーー


<翌日:少女が通う小学校>


少女はいつも通り、放課後に友達と遊んでいました。

(病欠から復帰して以来、みんなの様子がおかしい。)
そう思いましたが、少女は友達との時間を楽しみました。

ついつい、はしゃぎ過ぎて、
親友のAちゃんが転んでしまいました。

Aちゃん
『いたたた…。ヒジを擦りむいた…。』


少女
「Aちゃん大丈夫?!すぐ手当てしよ!」


駆け寄った少女は、Aちゃんのヒジを見て驚きました。

少女
「あれ…?血が出てない?」
「それに、この色って、どこかで…。」


Aちゃん
『……。(クスクス…。)』


少女
「うちにはないけど、みんな使ってるもの。」
「もしかして、抱っこロイドの表面と同じ色?!」


Aちゃん?
『…あは。バレちゃった。』


少女
「Aちゃん、どういうこと?!」
「AちゃんはAちゃんだよね?!何か着てるだけだよね?!」


Aちゃん?
『…実はね…!』




【第2話:天使は、”抱っこ”で人間になる】へ続く

2023年05月06日

【短編小説】『人形の翼が折れた日』2 -最終話-

【MMD】Novel Doll SamuneSmall1.png

【第1話:人間を疎み、人形を愛でる】からの続き

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<登場人物>
香坂 凜生葉(こうさか りいは)
 双子の姉
 意志が強く、自分で決めたことを曲げない
 過干渉な母と衝突し、遠方へ進学就職、実家と疎遠になる

香坂 優羽葉(こうさか ゆうは)
 双子の妹
 姉と正反対で、おとなしく、人との衝突が苦手
 過干渉な母に逆らえず、実家では人形のように支配される

香坂 千映実(こうさか ちえみ)
 双子姉妹の母親
 自分に従順な優羽葉をかわいがり、
 懐かない凜生葉を疎ましく思っている
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第2話:人形は旅立ち、人間は償う】



ある日、私は久しぶりに浮かれていた。

千映実
「今日はとても良い条件の求人情報が手に入ったわ。」
「これなら気に入って、すぐ働きたいと言うはず!」
「早く愛する優羽葉に見せてあげなきゃ!」


私はうきうきしながら、
優羽葉の部屋のドアをノックした。

返事がない。

千映実
「優羽葉?まだ寝ているの?」


何度ノックしても反応がない。

千映実
「仕方ないお寝坊さんね。」
「机の上にパンフレットを置いておきましょう。」


私が部屋に入ると、
優羽葉は青白い顔で床に倒れていた。


千映実
「優羽葉?!どうしたの?!」


私はすぐに駆け寄り、
優羽葉を抱き起こしたけど、



もう、冷たくなっていた…。



部屋の隅には、
空の小ビンがいくつも転がっていた。

その周りには説明書のような紙切れと、
飲み残しの錠剤が散らばっていた。

私はふと、あの日のことを思い出した。
珍しく、優羽葉宛のWeb注文品が届いた日のことを。

まさかその中身が、大量の睡眠薬だなんて…。


ーー


ほどなくして、優羽葉の遺書が見つかった。

  -----
  私はもう飛べません。

  お姉ちゃんみたいに強く生きられません。
  お母さんの期待に応えられません。
  不出来な娘でごめんなさい。

  最期にこんなこと言いたくなかったけど、
  今生のお別れだから言わせてください。

  私は、私の翼を折り続けたお母さんを
  許すつもりはありません。


  お母さんは、
  私を奮い立たせようとしてくれました。
  それはわかっていました。

  けど、私には重すぎて、
  飛び立つことができませんでした。

  私は一足先に行きます。
  翼がなくても飛べる世界へ。
  お待ちしています、オカアサン…。

  香坂 優羽葉

  -----



優羽葉の葬儀の日。

遠方から駆けつけた凜生葉は、
私に軽蔑の眼を向けて叫んだ。

凜生葉
『優羽葉を殺したのはお母さんだ!!』

『私はお母さんを一生許さない!』
『私を追い出したのは、支配できなかったからでしょ?!』
『優羽葉を追い詰めたのは、自分の評価が落ちるのが怖かったからでしょ?!』

『ぜんぶ、ぜんぶ、自分のため!!』

『私、知っているんだから!』
『あんたは私も優羽葉も愛していなかった…!』

『あんたにとって、私たちはあんたの人生を慰める人形だったんでしょ?!!』




ーーーー



凜生葉は大学卒業後、
どうしているのかわからない。

私が連絡をブロックしたから?
いいえ、それはもう解除した。

凜生葉が、私の連絡をブロックしているから…。

優羽葉の葬儀の日、
私は凜生葉に何も言い返せなかった。

千映実
「ええ、その通りよ。」
「私は反抗的な凜生葉のことなんて愛していない。」
「けど優羽葉のことは愛していたの。」


せめてそう言い返したかった。
私自身、そう”思い込んでいた”から。

だけど、
凜生葉は私のそんな気持ちをウソだと見抜いた。

私は、優羽葉のことさえ愛していなかった。
最初から、自分の見栄しか考えていなかった…。


「凜生葉は思い通りにならないから可愛いくない。」
「優羽葉は人形のように従順だから可愛い。」


私はそうやって、
”支配できる誰か”を手元に置きたがっていただけ。



千映実
「娘を殺したのは…この私……。」


我が子を”2人とも”失ってから目が醒めても、
手遅れだった。




私は一生、
娘を愛していなかった事実から逃れられないだろう。

私はこれから一生かけて、
娘の翼を折った罪を償うことになるだろう…。



ーーーーーENDーーーーー



⇒本作の続編
【短編小説】『片翼の人形が救われた日』全4話



⇒参考書籍











2023年05月05日

【短編小説】『人形の翼が折れた日』1

【MMD】Novel Doll SamuneSmall1.png

<登場人物>
香坂 凜生葉(こうさか りいは)
 双子の姉
 意志が強く、自分で決めたことを曲げない
 過干渉な母と衝突し、遠方へ進学就職、実家と疎遠になる

香坂 優羽葉(こうさか ゆうは)
 双子の妹
 姉と正反対で、おとなしく、人との衝突が苦手
 過干渉な母に逆らえず、実家では人形のように支配される

香坂 千映実(こうさか ちえみ)
 双子姉妹の母親
 自分に従順な優羽葉をかわいがり、
 懐かない凜生葉を疎ましく思っている
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第1話:人間を疎み、人形を愛でる】



私は香坂 千映実
双子姉妹・凜生葉と優羽葉の母親。

2人とも美人だけど、性格は正反対。

姉の凜生葉は、
自分で決めたことを曲げない頑固な性格。

妹の優羽葉は、
おとなしくて自己主張をしない。

「私はそんな娘2人を平等に愛している」
と言いたいところだけど、実際にはそうもいかない。

私は2人が小さい頃から、
私に従順な優羽葉を溺愛し、
反抗的な凜生葉を疎ましく思っていた。


夫は会社経営者。
いくつもの支社を海外へ展開していて、
日本にはめったに帰ってこない。

たまに帰宅しても「疲れた」と言って寝ている。

夫はとても高収入なので、生活には困らない。
けど、仕事が好き過ぎて家庭を顧みないところがある。

子育てについて相談しても「任せる」としか言わない。
娘のこともだけど、何より私にかまってほしい。

あーあ…。
せっかく高収入の男性をゲットできたのに、
こんな冷えた夫婦関係なんて…。

だったら、満たされない私のアレコレを
少しくらい娘に満たしてもらってもいいよね?

夫への愚痴も、仕事や子育てのストレスも、
私の心のケアも。


まとめて娘にぶつけるくらい、
大目に見てくれてもいいでしょ?

夫のことなんて、半ば諦めているんだから…。



ーー


そんなわけで、
私は娘たちが男に頼らず生きていけるよう、
厳しく教育した。

千映実
「こんな成績じゃどこの大学にも入れない。」
「どこの会社も雇ってくれないよ。」


すべては、娘が”私みたいにならない”ため。

凜生葉はとにかく反抗的で、
小言を言うたびに私を睨みつけてきた。

千映実
(あーイヤだイヤだ…何なのよあの子…!)
(どうして優羽葉みたいにできないの…?)
(さっさといなくなればいいのに…!)


私がそう思うように、凜生葉も私を憎んでいた。

そして憎い私に成績をあーだこーだ言われるのが
よほど悔しかったみたい。

凜生葉はがむしゃらに勉強し、
高校卒業後に遠方の大学に合格して出ていった。

やっとウザい子がいなくなったわ!



優羽葉はというと、姉のようにはいかなかった。

私は”優羽葉のためを思って”
発破をかけ続けたのに、成績は低迷。

うーん…どうして?
能力は凜生葉と同じくらい高いはずなんだけど…。

優羽葉は大学受験どころか、
高校1年の途中から不登校になってしまった。


千映実
「ねぇ優羽葉?授業に付いていけなくなるよ?」
「家にいても将来のためにならないんじゃない?」


私だったら、
こんなことを言われたら急いで学校へ行くのに。

「人生勝ち組のはずが、冷え切った家庭」を
経験している私は”正しいこと”を言っているはずなのに…。

私がいくら言っても、優羽葉の不登校は続いた。
そしてついに高校を中退し、引きこもりになった。



ーーーーー



優羽葉が引きこもって2年が経った。

外界とは隔絶してしまっても、
姉の凜生葉とは連絡を取り合っていた。

優羽葉、どうして私と話す時はうつむくの?
凜生葉と通話している時は、あんなに笑顔なのに。

どうしてその笑顔を母に向けてくれないの?

凜生葉なんかより、
私の方がよっぽど優羽葉を愛しているのに…。



凜生葉
『お母さん、今年は妹の顔が見たいから帰省する。』


何度か、凜生葉からそんな連絡が来たけど、

千映実
(凜生葉の顔なんか、見たくもないわ…!)
「ごめんねー、その時期は旅行で不在なの。」
「お父さんの海外出張に付き合わなきゃいけなくて。」


私は適当な理由を付けて、
凜生葉を帰省させないようにした。

それでも『優羽葉が心配だから会いたい』と、
凜生葉は私へ連絡してきた。

私はそれさえ疎ましくなり、
ついに凜生葉からの連絡をブロックしてしまった。

千映実
「これでせいせいするわ。」
「あんな子のことより、可愛い優羽葉を救ってあげないと!」



ーー


私は、優羽葉を何とか社会復帰させようと奮闘した。

千映実
「幼馴染の●●ちゃん、名門大学に合格したそうよ。」
「あなただってそれくらい、やればできるでしょ!?」
「今からでも遅くないのに、どうして勉強しないの?」

「同じクラスだった●●ちゃん、大企業に就職したそうよ。」
「あなた悔しくないの?いつまでも引きこもっていて。」
「●●ちゃんみたいに社会の役に立ちたくないの?」

「お隣の●●ちゃん、お見合いするそうよ。」
「優羽葉にはいい相手いないの?」
「これじゃ孫の顔が見れないじゃない。」

「家事手伝いなんて、ニートって言われても仕方ないのよ?」
「引きこもっていたら、どんどん置いてけぼりになるじゃないの。」
「短時間のアルバイトでもいいから、何かやってみなさいよ。」


私はその他にも、
大学や専門学校のパンフレットを取り寄せた。

良い条件の求人情報を収集しては、
こんな仕事はどうかと紹介した。
”優羽葉のためを思って”。

千映実
「さぁ、進学でも就職でも、好きな方を選んで?」
(お金には困っていないんだから。)


優羽葉
『……お母さん…私……。』


千映実
「どうしたの?何か不満?」
「優羽葉の将来のためよ?」


優羽葉
『……わかった、見てみるね……。』


あの子、何か言おうとしていたけど、まぁいいわ。
愛する娘のためだもん、何でもしてあげなくちゃ!



未読のパンフレットが積み上がるにつれて、
優羽葉の口数が減っていった。

”なぜかわからない”けど、
ついに優羽葉は無言でうつむくだけになった。


それだけじゃない。

千映実
「優羽葉、あんなに瘦せていたかな…?」


最近はご飯もあまり食べなくなった。

千映実
(優羽葉…いったいどうして…?)
(どうして元気がなくなっていくの?!)
(こんなに愛情を注いでいるのに!)


私の優羽葉への愛は空回り。
理由がわからないまま、悶々とする日々が続いた。

こんなに”愛情深い母親の私”が、
十字架を背負うことになるなんて、思いもしないまま。




【第2話:人形は旅立ち、人間は償う】へ続く

2023年04月30日

【短編小説】『彩、凜として空、彩(かざ)る』5 -最終話-

【MMD】Novel Sai Sora Kazaru SamuneSmall1.png

PART4からの続き

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<登場人物>

水月 彩凜空(みなづき ありあ)
 主人公
 大企業の社長令嬢
 会社の跡継ぎとして厳しく教育されるが
 親友の影響でモデルになる夢を抱く

姫川 理愛(ひめかわ りあん)
 主人公の幼なじみで親友
 両親に内緒でモデルを目指す主人公を支える、唯一の理解者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第5話. きっと誰かが、見てくれてるから】



父親
「さぁ、彩凜空(ありあ)、来なさい。」
「お前が大人しく帰るなら、2人に手荒なマネはしない。」
「仮にも娘を保護した恩人だからな。」


彩凜空(ありあ)
「…私は…。」


父親
「まさか、逃げられると思ってないよな?」
「お前がごねることは想定済みだと言っただろう?」


理愛(りあん)
『なら、これも”想定済み”ですか?』


突如、スマホを構えた理愛(りあん)が口を開いた。

理愛(りあん)
『これまでのやり取りは、すべて撮影しています。』
『もちろん、音声も。』


母親
「なんですって?!」


さっきまで勝ち誇った顔をしていた母が、いきり立った。

母親
「そんなの、スマホを取り上げれば終わりよ!」


理愛(りあん)
『ムダです。データはクラウドにも自動保存されてますから。』
『ここで手荒なことをしたら、それも全世界へ配信されますよ。』
『会社は困りませんか?親とはいえ、”トップモデルへの狼藉”なんて。』


社長
『これまでの言動だけでも、すでにアウトでしょうね。』
『娘よりも世間体ばかり気にする発言や、”再教育”、だったかな?』


母親
「…あ、あなた…どうするの…?」


途端に弱腰になる母。
この人は権威を盾にしないと何もできないんだ。

父親
「…見くびっていた。なかなかデキるマネージャーだな。」


理愛(りあん)
『光栄ですわ。』
『彩凜空(ありあ)は成人してるんです。自分の進路を自分で決めて何か問題でも?』


父親
「個人の意志など関係ない。」
「我々がどれだけ大きなカネや組織を動かしていると思う?」
「巨大な力の前では、夢や憧れなど何の役にも立たない。」
「社長令嬢はそういう運命を背負っている。」


彩凜空(ありあ)
「お父さん、いい加減にして!」
「私は戻らないって言ったでしょ!」


父親
「…?!」


彩凜空(ありあ)
「理愛(りあん)も、社長も、私がモデルを目指すことを笑わなかった…。」
「ずっとずっと、応援してくれた!」
「なのにあなたたちは、取り合ってもくれなかった!」


理愛(りあん)
『彩凜空(ありあ)…。』


彩凜空(ありあ)
「だから、私の大切な人は理愛(りあん)と社長なの!あなたたちじゃない!」
「私は両親も、次期社長のイスも要らない!」
「あなたたちと絶縁してでも、モデルを続けてやる!」


理愛(りあん)
『あんなに怯えてた彩凜空(ありあ)が、ここまで言うなんて…!』


鉄仮面を貫いていた父が、明らかに動揺した。
私が初めて見せた反抗的な態度に、気圧されたんだろう。


母は言葉を失い、膝を震わせていた。
追い詰められ、立っているのもやっとに見えた。

父親
「…今日のところは失礼する。」
「娘の仕事を認めたわけじゃないからな。」


不利な証拠を握られ、分が悪いと判断したんだろう。
両親は、眉間にシワを寄せたまま去っていった。

私たちを取り囲んだ男たちは、父の合図で姿をくらました。


ーー


社長
『はぁ〜、助かったぁ〜…。』
『理愛(りあん)さん、大手柄。』


理愛(りあん)
『そんな…(照)よかったです、お役に立てて。』


彩凜空(ありあ)
「理愛(りあん)、社長、ほんとにありがとう。」
「きっと私1人じゃ、なにもできなかった。」


社長
『いやいや、きみが強くなったから言えたんだよ。』


彩凜空(ありあ)
「やっぱり、迷惑ですよね…。ワケありの私を雇ったら。」
「いずれこうなることはわかっていたのに…。」


社長
『迷惑なんていくらでもかけていい。』
『言っただろ?私はきみの生き様に惚れてスカウトしたんだ。』


彩凜空(ありあ)
『社長…(涙)』


社長
『きみはこれだけ有名なモデルになったんだ。』
『いかに大企業でも、強引な連れ戻しは難しいだろう。』
『”娘にムリヤリ会社を継がせようとする毒親”なんて風評被害は避けたいはずだ。』


理愛(りあん)
『また来ても、私が看板モデルを守るから!』
『私は彩凜空(ありあ)の親友で、敏腕マネージャーだからね!』


彩凜空(ありあ)
「理愛(りあん)…(涙)」


理愛(りあん)
『それにしても社長!毅然とした態度、カッコよかったです!』


社長
『そうかい?無理して威厳を出した甲斐があったよ。』
『本当は怖かったさ(苦笑)』


理愛(りあん)
『そうなんですか?!』
『あんなに余裕で仁王立ちしてたのに。』


社長
『そりゃあ、女の子の前でくらい、カッコ付けたいだろ?(苦笑)』


彩凜空(ありあ)
「あはは、なんですかそれ(笑)」
「でも、本当に…カッコよかったです。」


大切な人たちと、談笑しながらの帰り道は、
最高に幸せなひととき。

きっと、これからも私の両親との戦いは続くだろう。
でも、私は大丈夫。

私には、私のことを大切に想い、支えてくれる人がいる。
それだけで、私はどんな困難も乗り越えられる。


私は、もっと精進して、夢の続きを見続ける。
私は、もっとすごいモデルになってやるんだ!!



ーーーーーENDーーーーー



<あとがき>

もし、あなたが何かに本気になっていて、
味方がいないと感じていても、決して絶望しないでください。

あなたが何かに本気で取り組む姿勢。
あなたが心から楽しんでいる姿。

それはきっと誰かが見ていて、応援してくれるから。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『彩、凜として空、彩る』(さい、りんとしてそら、かざる)全5話

 【第1話. 夢との出逢い】

 【第2話. 二人三脚のスカウト】
 
 【第3話. ファッションショーへの道】

 【第4話. ”社長令嬢”】


⇒この小説のPV


⇒他作品
 『反出生の青き幸』全4話

 『もう1度、負け組の僕を生きたいです』全5話

2023年04月29日

【短編小説】『彩、凜として空、彩(かざ)る』4

【MMD】Novel Sai Sora Kazaru SamuneSmall1.png

PART3からの続き

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<登場人物>

水月 彩凜空(みなづき ありあ)
 主人公
 大企業の社長令嬢
 会社の跡継ぎとして厳しく教育されるが
 親友の影響でモデルになる夢を抱く

姫川 理愛(ひめかわ りあん)
 主人公の幼なじみで親友
 両親に内緒でモデルを目指す主人公を支える、唯一の理解者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第4話. ”社長令嬢”】



彩凜空(ありあ)
「お疲れさまでしたー!」


ファッションショーが終わり、
私は社長と理愛(りあん)の3人で会場を後にした。

私は、客席に1人の少女を見つけたことを社長に話した。

社長
『ね?目立つでしょ?(笑)』
『しかも、きみみたいな素質の塊のような子は、なおさらね。』


彩凜空(ありあ)
「ほんとですね(苦笑)」
「あのとき見つけてくれて、拾ってくれて感謝してます。」


社長
『拾ったなんて(笑)正当な営業活動だよ。』
「おかげで、こんなに有能な人材を2人も雇えたんだ。』


理愛(りあん)
『社長?!私も?!私も有能ですか?!』


社長
『もちろん。ウチのトップモデルの、敏腕マネージャーさん。』


理愛(りあん)
『社長…(涙)』


そんな談笑をしながら歩いていると、
私たちの前に、見覚えのある男女が立ちはだかった。

社長
『失礼ですが、どこかでお会いしましたか?』


初対面なのは社長だけ。

私は怯え、後ずさった。
理愛(りあん)は、そんな私をかばうように、私の前に立った。
何かを構える仕草を見せながら。

彩凜空(ありあ)
「…お父さん、お母さん…。」


父親
「彩凜空(ありあ)、やっと見つけたぞ。」


彩凜空(ありあ)
「ど、どうしてここがわかったの…?」


父親
「世間でこれだけ有名になったんだ。いくら私でも気づく。」


母親
「何がトップモデルよ!これ以上、水月家の恥をさらさないで!」


父親
「大学受験をすっぽかして家出した挙句、芸能活動なぞしおって。」
「お前の育て方を間違えた。我々の責任だ、帰るぞ。」


母親
「跡継ぎの娘が家出して芸能界入りなんて、世間様に顔向けできないわ。」
「みっちり再教育するからね!」


2人は冷たい言葉をぶつけ終わると、グイっと私の手を引いた。

彩凜空(ありあ)
「イヤ!離して!私、帰りたくない!」



ーー


社長
『待ってください。』


社長は、私の手を掴んでいた父親の手を掴み返した。
はずみで、父親は私から手を離した。

社長
『私は彩凜空(ありあ)さんを預かっているモデル事務所の社長です。』


父親
「これは失礼した。彩凜空(ありあ)の父です。」
「さっそくですが、これはどういうおつもりかな?」
「これは我々の家庭の問題だが?」


社長
『出過ぎたマネであることは承知しています。』
『ですが、突然いなくなったお嬢さんに、最初にかける言葉がそれですか?』


父親
「どういうことかな?」


社長
『受験とか、世間体がどうとか、あなた方の都合ばかり。』
『お嬢さん自身のことは心配じゃないんですか?』
『元気だったか、ご飯は食べてるか、気にならないんですか?』


父親
「心配でしたよ。娘が道を踏み外していないかね。」
「自分の娘をどう扱おうが、あなたには関係ないでしょう?」


社長
『ありますね。彼女はウチの看板モデル。当然、心配します。』
『それだけじゃない。彼女が学生の頃からどれだけ努力してきたかを見てきました。』


父親
「学生の頃から…だと?」
「娘がファッションショーを観に行ったときに、灸を据えたはず。」
「学校でも家でも従順で、やるべきことに邁進していたはずだが。」


社長
『あなたは娘さんのことを、何も見てないんですね。』
『彼女はあなた方に悟られないよう、ずっとモデルを目指してきましたよ。』
『マネージャーの理愛(りあん)さんと二人三脚でね。』
『私はそんな姿に惚れ込んでスカウトしたんです。』


父親
「…娘には将来、我が社を継がせることを知った上で?」


社長
『ええ。事情は聞いていました。』
『それでも私は、彼女に来てほしかった。』
『断られて当然と思っていました。』
『それでも彼女はウチに入ってくれて、彼女の力でここまで登り詰めたんです。』


母親
「まさか、娘をたぶらかしたんじゃないでしょうね?!」
「事と次第によっては、出るところに出ますよ?!」


社長
『彼女は18歳になってから、彼女の意志で来てくれました。』
『出るところに出ても構いません。』
『何なら雇用契約書、見ますか?』


母親
「ぐぬ…!!」


社長
『確かにモデル業界は、会社経営とは別世界かもしれません。』
『ですが、ここまで来れたのはお嬢さんの努力の結果です。』
『少しは、その頑張りを認めてあげてもいいんじゃないですか?』


父親
「娘は努力する場所を間違えている。」


社長
『そうでしょうか?』
『彼女は学校の成績も優秀でしたよ。』
『決して、モデル業以外をおろそかにしていたわけじゃない。』


母親
「そんなムダなことをやってなかったら、もっと良い成績が取れたのよ!」


彩凜空(ありあ)
「お母さん!」
「…私と成績、どっちが大事なの…?」


母親
「(ギクリ)…な、何を行ってるの?!」
「あなたに、決まってるじゃない…!」


彩凜空(ありあ)
「そっか…わかった。」
「(…やっぱりね。私よりも世間体、地位、名声、か…。)」


私は、母の取り乱した表情を見て、決心した。

彩凜空(ありあ)
「私は戻らない。会社も継がない。」
「この人たちと一緒に、モデルを続けます。」


母親
「な、何を言ってるの?!」
「そんなこと許されるわけないでしょう?!」


社長
『…ずっと、親に逆らえなかったきみが…。』
『…強くなったな。』



ーー


父親
「フン。やはり我々の管理下に置いておかなければ、毒されてしまうか。」
「ところで、私たちが2人だけで来たとお思いかな?」


社長
『どういうことです?』


父親
「娘がごねることは想定済み、ということだ。」


パチン

父が指で合図すると、
部下らしき男たちが、私たちを取り囲んだ。


父親
「できれば話し合いで戻ってもらいたかったが。」
「応じないなら、強引に連れて帰ることになるぞ。」


…これが「力」だ…。

お金、権威、実績、人脈。
それらがあれば、大抵の人は動かせる。
不都合な真実だって、もみ消せる。

私、せっかくここまで来れたのに…。
このまま連れ戻されちゃうの?

私は、どうして大企業の社長令嬢なんかに生まれたの?
私はただ、叶えたい夢に向かいたいだけ。

肩書きなんか、名声なんか…いらないよ…!


私の夢に付き合ってくれた理愛(りあん)は…社長は…?
みんなの気持ちは…どうなっちゃうの…?!



PART5 -最終話- へ続く

⇒この小説のPV

2023年04月28日

【短編小説】『彩、凜として空、彩(かざ)る』3

【MMD】Novel Sai Sora Kazaru SamuneSmall1.png

PART2からの続き

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<登場人物>

水月 彩凜空(みなづき ありあ)
 主人公
 大企業の社長令嬢
 会社の跡継ぎとして厳しく教育されるが
 親友の影響でモデルになる夢を抱く

姫川 理愛(ひめかわ りあん)
 主人公の幼なじみで親友
 両親に内緒でモデルを目指す主人公を支える、唯一の理解者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第3話. ファッションショーへの道】



それから私たちは二人三脚で、夢だったモデル活動を本格化。

地道なレッスンや、SNSでのPR活動を重ね、
1年後にはファッション雑誌の一面を飾ることができた。

小学生のとき、理愛(りあん)が見せてくれた、あの雑誌の。

理愛(りあん)
『おめでとう彩凜空(ありあ)!!』


初めての掲載が決まったとき、
彼女は自分のことのように喜んでくれた。

彩凜空(ありあ)
「本当に、ありがとう。」
「理愛(りあん)のおかげでここまで来れた。」


理愛(りあん)
『私は何もしてないよ!彩凜空(ありあ)が頑張ったから!』
『あ、ちょっと写真とか動画とか撮った(笑)』


彩凜空(ありあ)
「寒い日も、雨の日も撮ってくれたよね。それに…。」
「あの頃、私のために無理してファッション雑誌を買ってくれてたんでしょ?」


理愛(りあん)
『さぁねぇ〜、何のことやら。』


彼女はとぼけて見せたが、目は「バレたか」と言っていた。

理愛(りあん)
『私は好きなもの買ってただけ。』
『強いて言えば、あんたのキラキラした目が見たかったから!』


私は彼女の優しさに、涙を抑えられなくなった。

理愛(りあん)
『わッ!ちょっと!』
『こんなシーン、一部の読者しか望んでないってば(照)』


ふいに、私に抱きつかれた理愛(りあん)は困惑した。

彩凜空(ありあ)
「ありがと…!ありがと!!あのときも、これからも!」


理愛(りあん)
『…ま、今日くらいはいいよ。』


彼女は、ひと回り背の高い私を包み込んだ。

私が初めて掲載された雑誌は、
今も2人の部屋に、額縁に入れて飾ってある。



ーーーーー



私は夢を1つ叶えた。
けど、まだあるんだ。

小学生の頃、親の目を盗んで観に行った
ファッションショーに出る夢が。

私はマネージャーの理愛(りあん)や、
事務所のサポートを受け、さらに精進を重ねた。

そして1年後。
20歳になった私に、
ついにファッションショー出演の声がかかった。


オーディション当日、
ガチガチに緊張する私に社長が声をかけた。

社長
『審査員はジャガイモだと思える?』


彩凜空(ありあ)
「…思えないです…(震)」


社長
『ならヤマイモ。』


彩凜空(ありあ)
「食材変えただけじゃないですかぁ(泣)」


社長
『わりと強心臓なきみが、こんなに緊張するとは…。』


彩凜空(ありあ)
「私、ゾウリムシの心臓ですよぉ〜(泣)」


社長
『ゾウリムシには心臓ないから(苦笑)』
『…それなら…。』


彩凜空(ありあ)
「も、もうイモ類はいいです…。」


社長
『ここは学校近くの河川敷。』
『目の前にいるのは、カメラを構えた理愛(りあん)さん。どう?』


…全身の震えが、スーッと消えた。

そうだ、ここは…。
学生時代、ずっと2人で練習してきた河川敷。

やることは変わらない。
落ちたら、また河川敷からやり直せばいいだけ。


社長
『やれやれ。やっぱりこれが特効薬か。』


彩凜空(ありあ)
「えへへ、私、単純なんです。」


社長
『よくわかった(笑)』
『大丈夫な顔になったな。自信持って、行って来い!』


彩凜空(ありあ)
「はい!」


私はその勢いのまま、オーディションを突破した。



ーーーーー



ファッションショー当日。

控え室から、準備を終えたモデルさんたちが出ていった。
残りは私と、マネージャーの理愛(りあん)の2人になった。

理愛(りあん)
『私は先に行くね。』
『存分に、感慨にふけってから来なよ。』


彩凜空(ありあ)
「もう…どうしてあなたには何でもお見通しなの?(苦笑)」


理愛(りあん)
『デキるマネージャーですから!ドヤ!(笑)』


彩凜空(ありあ)
「あはは、なにそれ(笑)」


理愛(りあん)
『なーんてね。彩凜空(ありあ)は昔からわかりやすいもん。』
『…夢、叶うんだよ。かみしめて来なよ。あと、遅れないように!』


彩凜空(ありあ)
「…ありがと。遅れないよ!」


1人になった私は、あの頃に思いを巡らせた。

(私、あのモデルさんみたいになれてるかな?)

登場するだけで場の空気を一変させる、圧倒的な存在感。
すべての所作に華があり、目を奪って離さない引力。

(少しでも、あの人に近づけてるかな…?)

コンコン

控え室のドアを叩く音で、私は我に返った。
姿を見せない私を、スタッフさんが呼びにきた。

彩凜空(ありあ)
「あ…遅れてごめんなさい。いま行きます。」


慌てて集合場所へ向かった私を、
理愛(りあん)は「やっぱり」という顔で迎えた。


ーー


ランウェイでは、満員の観客から、憧れを一身に浴びた。

その憧れは、
「きれい」「美しい」「理想のスタイル」
なんて言葉では、とても言い表せない感情。

ここへたどり着いたモデルさん1人1人が重ねてきた、
血のにじむような努力が作り上げた感情。

きっと、人はそれを「オーラ」と呼ぶのだろう。

私は緊張で何も見えなくなるのが不安だった。

けど、いざ舞台へ立つと、
観客1人1人の表情が見えるくらいに落ち着いていた。

客席の隅の方に、1人の少女がいた。
目を輝かせ、頬を赤らめながら舞台を見つめていた。


(8年前の私も、あの子と同じ席から見てたっけ。)

事務所の社長は、
このときの私に一目惚れしてスカウトしてくれた。
私は舞台から客席を見て、その理由がわかった。

小学生くらいのお客さんはいないわけじゃないが、目立つ。
私はその頃から背が高かったから、目に留まりやすかったんだ。

(このショーを見たことが、あの子の人生を変えるきっかけになるのかな?)
(いずれ、あの子も、この舞台に立つのかな?)


そう思うと、何だか嬉しかった。


ーー


夢の舞台を終えて、
袖へ引っ込んだ私を理愛(りあん)が出迎えた。
今まで見たこともないくらい、目を潤ませて。

彩凜空(ありあ)
「こんなシーン、一部の読者しか望んでないけど、いいよ。」


理愛(りあん)
『あはは(笑)』
『それ、彩凜空(ありあ)が初めて雑誌に載ったときのセリフ(涙)』


彩凜空(ありあ)
「覚えてたんだ(苦笑)」
「今度は私が、受け止める方になるから。」


理愛(りあん)は私に抱きついて、泣いた。
私は、ひと回り背の低い彼女を包み込んだ。



PART4へ続く

⇒この小説のPV

2023年04月27日

【短編小説】『彩、凜として空、彩(かざ)る』2

【MMD】Novel Sai Sora Kazaru SamuneSmall1.png

PART1からの続き

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<登場人物>

水月 彩凜空(みなづき ありあ)
 主人公
 大企業の社長令嬢
 会社の跡継ぎとして厳しく教育されるが
 親友の影響でモデルになる夢を抱く

姫川 理愛(ひめかわ りあん)
 主人公の幼なじみで親友
 両親に内緒でモデルを目指す主人公を支える、唯一の理解者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第2話. 二人三脚のスカウト】



2人で練習する日々が続いて5年目。
私と理愛(りあん)は同じ高校に入った。
幸い、練習のことは両親にバレていないようだ。

私の身長は175センチまで伸びていた。
体型にも気を使い、来たるべき日に備えた。

この頃から、私は”ある計画”のため、
オーディション情報も調べるようになった。

そのために、表向きは地味な生活を送った。

学校の成績は上位を維持し、
親の敷いたレールに乗るフリを続けた。

秘密の練習を終えて、帰宅するときが1番つらかった。
私を愛していない人間が待つ”鳥カゴ”へ帰るんだから。



ーーーーー



彩凜空(ありあ)
「えぇ?!スカウト?!」


社長
『うん。ぜひウチのモデル事務所に入ってほしい。』


いつものように、理愛(りあん)と河川敷で練習していると、
長身の男性から声をかけられた。

男性が差し出した名刺に、事務所の名前が書かれていた。

私たちがいつも読んでいるファッション雑誌のモデルさんが、
多く所属している事務所だった。


彩凜空(ありあ)
「ど、どうして私を…?」
「私、オーディションを受けた経験もないですよ?!」


社長
『訳ありなのは察してたよ。』
『きみたちがここで練習しているのを、たまに見てたんだ。』
『スタジオで練習できない理由があるのはすぐわかった。』


理愛(りあん)
『それだけでわかるんですか?!』


社長
『芸能界には訳ありの人が多いからね。』
『たとえば金銭面や、親の反対で練習環境が確保できないとか。』


ギクリ。

社長
『5年前のファッションショーを観に来てくれたよね?』


彩凜空(ありあ)
「は、はい。私のこと、覚えてくれたんですか?」


社長
『もちろん。そのときに一目惚れしたんだから。』
『この子は化ける!って思った。』
『すぐにスカウトしたかったけど、事情を察して見守ってたんだ。』


彩凜空(ありあ)
「ありがとうございます、光栄です…。」
「少し、私の家庭事情をお話してもいいですか…?」


実は、私は以前にも
複数のモデル事務所からスカウトを受けていた。

けど、私の家庭事情を話すと、
どこも面倒ごとを嫌って離れていった。


本当は今すぐに承諾したい。
今すぐ、モデル活動がしたい。
けど、今回も、きっと…。

彩凜空(ありあ)
「私が18歳になるまで、待ってもらうことはできますか?」
「成人して、自分で進路を決められる18歳まで…。」


事務所から、次の人材を探す時間を奪うわけにはいかない。
未成年の私を所属させて、親とのいざこざに巻き込みたくない。

私は、断られる覚悟を決めた。
ところが…。


ーー


社長
『もちろん待つよ。』


彩凜空(ありあ)
「え…?!」


社長
『こっちは5年もきみに惚れてるんだ。』
『あと1、2年くらいなんでもないよ。』
『どうしても、きみはウチでトップモデルに育てたい。』


彩凜空(ありあ)
「で、でも私、他の事務所からは断られて…。」


社長
『確かにトラブルを避けたい他社の気持ちもわかる。』
『けど、それ以上にメリットを感じたら、親の説得なんていくらでもする。』
『というのが企業の代表としての本音。』


彩凜空(ありあ)
「社長さん…。」


社長
『それに、せっかくの才能を本人以外の邪魔で潰されるところを見たくない。』
『目指すものがあるなら、本人が諦めない限り応援したい。』
『というのが個人的な本音。だから待ってるよ。』


彩凜空(ありあ)
「ほ、本当にいいんですか…?」


社長
『うん。成人したら、きみの判断で来てくれたら嬉しい。』
『ウチには親との揉め事を抱えたモデルさんが他にもいる。』
『もし住むところがないなら社員寮もある。もちろん女子寮だよ。』


理愛(りあん)
『よかったね!彩凜空(ありあ)!』


彩凜空(ありあ)
「うぅ…(泣)あり、ありがとうございます…!!」


社長
『それから、理愛(りあん)さん。』


理愛(りあん)
『は、はい!』


社長
『高校卒業後の進路は決まってる?』


理愛(りあん)
「就職しようと思ってます。」


社長
『それなら、もしよかったらウチでマネージャーをやってくれないか?』
『もちろん、彩凜空(ありあ)さんの。』


理愛(りあん)
『わ、私がマネージャーを?!』


社長
『きみはずっと、彩凜空(ありあ)さんを支えてきたんだろう?』
『小学生の頃からずっと。』


理愛(りあん)
『見てて…くれたんですか…!』


社長
『見てたよ。きみたちは最高のコンビだから。』


理愛(りあん)
『あ、ありがとうございます!』
『私、これからも親友を支えたいです!』


社長の熱烈なラブコールを受け、
私たちは夢へのスタートラインに立った。



ーーーーー



それからの日々は、もどかしさとの戦いだった。

私は今すぐモデルとして活動したい気持ちを抑え、
18歳の誕生日を待った。

成人すれば、親の許可なんて関係ない。
親が強硬手段に出てきても戦えると信じて。

そして迎えた高校3年生の冬、
私はついに18歳になった。

年が明け、親が決めた大学を受験する直前、
私はついに”ある計画”を決行した。

塾通いを装って家を抜け出し、
モデル事務所が用意してくれた社員寮へ引っ越した。

GPS情報で居場所が把握された自分の携帯は、
電源を切って自宅に置き去りにした。


しばらくは社用の携帯を貸してもらい、
稼ぎながら自分用の携帯を契約することにした。



これが、私の計画。
大学受験をすっぽかし、
家出するようにモデル事務所へ就職するという。

そして、私の復讐。
親の鳥カゴとレールをぶち壊し、自由を勝ち取るための。




これは後から知ったことだけど、
娘が突然消えて、両親が最初に言った言葉は、

「もうすぐ受験の日なのに。」

だそうだ。

親が心配したのは、私のことではなく、
「親が決めた大学に私を入れること」だった。

(どこまでも…救えない人たちね…。)

私は両親への軽蔑を胸の奥へしまい込み、
レッスンに励んだ。

4月になり、
高校を卒業した理愛(りあん)が入社してきた。

彼女は一人暮らしすると思いきや、あえて社員寮へ入寮した。
2人部屋で、1人分が空いていた、私の部屋へ。

理愛(りあん)
『へへ、よろしくね先輩!』


彩凜空(ありあ)
「先輩って、3ヶ月だけじゃん(笑)」


彼女とのたわいない冗談が愛しい。
社長の厚意には、本当に感謝しかない。



PART3へ続く

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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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