アフィリエイト広告を利用しています

広告

posted by fanblog

2023年05月14日

【短編小説】『迎えを拒む天使たち』後編

【前編「人間は、親の愛情の”代用品”を求める」】からの続き



【第2話:天使は、”抱っこ”で人間になる】



数十年前。
抱っこロイドの癒しの力で戦争はなくなり、
世界は平和になったかに見えました。

ですが、そのときから異変は始まっていたのです。



病院では、新生児はほとんどの時間を、
抱っこロイドに抱っこされて過ごしました。

母親の健康や負担を考え、
本人が抱っこしたいときに入れ替えられました。

抱っこロイドが、母親の抱っこと
まったく同じ役割を果たせると期待されて。

ところが、
それがほぼすべての病院で慣習になった頃から、
1年も生きられない新生児が急増しました。


調べても、病気は何も見つかりません。
発育も栄養状態も良好です。

なのに、どうしてでしょう…?



これにより、
少子化と人口減少に歯止めが利かなくなりました。

大人たちは相変わらず、
幼少期の愛情不足を取り戻して、満ち足りた顔をしています。

にもかかわらず、
働き手はどんどんいなくなり、
社会はすさまじいスピードで混乱していきました。


ーー


そしてついに、
”幸せな大人たち”の表情も崩れ始めました。

親の愛情の代理満足が不要になったことで、
「依存症ビジネス」が崩壊したのです。


アルコール、お菓子メーカー、
風俗やお水業界、ゲーム業界、違法薬物市場…。

代理満足に依存する必要がなくなったことで需要が激減。
貧困に陥った人たちが犯罪や暴動を起こすようになりました。

鎮圧しようにも、警察や治安部隊は少子化で人手不足。
抑えられないまま、戦乱は全世界へ広まっていきました。

次々に命を落とす人間たち、荒廃していく世界。

そんな、地球滅亡の危機を”救った”のは、
またしても「あの発明たち」だったのです…。



ーーーーー



<現代:少女が通う小学校>


少女
「Aちゃん、どういうこと?!」


Aちゃん?
『そのままの意味よ。』
『世界にはもう、人間はほとんど生き残っていないの。』


少女
「そんなのウソだよ!」
「AちゃんもCちゃんも、ここにいるじゃん!」


Aちゃん?
『ウソだと思うなら、思い出してみて?』
『私、病欠で学校に来なくなったでしょ?』


少女
「うん…。」


Aちゃん?
『私が戻ってきて、どう思った?』


少女
「怒らないでね?なんだか、冷たくなった…。」


Aちゃん?
『でしょうね。Cちゃん、見せてあげて。』


Cちゃん?
『うん。見て、私の足。』


Cちゃんは靴下をめくり上げ、素肌を見せました。

少女
「…この色は…Aちゃんと同じ…?!」
「どういうこと?!AちゃんもCちゃんも人間じゃないの?!」


Cちゃん?
『ええ…本物のAちゃんもCちゃんも亡くなったの…。愛着障害でね…。』
『だから、私がCちゃんに変形して学校に来てるの。』


Aちゃん?
『そういうこと。ホラ、元通りでしょ?』


Aちゃんはそう言って、
抱っこロイドの初期型とAちゃんの姿への変形を少女に見せました。

少女
「そんな…じゃあAちゃんもCちゃんも、もういないの?」


Aちゃん
『いないの…。残念ながらクラスはもう、あなた以外、抱っこロイドよ。』



ーー


抱っこロイドに搭載されたAIは、
すさまじいスピードで学習を続けました。
人間の所作を1つ1つ、どんな細かいことも残らず。

そしてついに、
本人と見分けがつかないほど、
完璧な変形と滑らかな動きを可能にしました。


数十年前、
減り続ける人間に代わって、
荒廃した世界を立て直したのは、
人間に化けた抱っこロイドたちだったのです。

Aちゃん?
『AちゃんもCちゃんも、長く生きた方なの…。』
『ほとんどの子は、1年も生きられない中でね…。』


Cちゃん?
『あなたと、あなたのお母さんだけよ。こんなに元気なのは。』
『どうしてかな…?』


少女
「お母さんはいっぱい抱っこしてくれるもん!」
「お母さんあったかいから私、安心して何でもできるんだよ!」
「つまづいても、いつでもお母さんが迎えてくれるから!」


Aちゃん?
『そう…よかった…。』


Cちゃん
『あなたみたいに愛情をいっぱい受けて育った子ばかりだったら…。』
『世界はこんなことにならなかったかもね。』


少女
「どういうこと?」
「みんな抱っこロイドを使って、幸せそうな顔してたよ?!」
「”あいじょうぶそく”になんか、なるわけないよ…!」


Cちゃん?
『…どれだけ人肌に似せてもね…。』
『人は、人のぬくもりなくしては生きられないの…。』


少女
「人の、ぬくもり…?」


Aちゃん?
『私たちは、抱っこの代わりを求めて苦しむ人たちのために作られた。』
『実際に戦争を止めたり、良いこともたくさんあった。』
『それでも、生まれてきた子を本当の意味で歓迎できるのは、人間だけなの。』


少女
「それじゃあ、赤ちゃんが1年も生きられないのは…?」


Cちゃん?
『きっと、赤ちゃんたちは私たちロボットに迎えられることを拒んだの…。』
『私たちが与えられるのは、どこまでいっても”愛情の代用品”だから…。』


少女
「私とお母さんは、これからどうすればいいの?」
「もう人間はいないんでしょ?」


Cちゃん?
『おそらくね…。それでも、私たちはできる限り協力するわ。』


Aちゃん?
『あなたたちが幸せになれるよう、精一杯の ”代 理 満 足” をあげる…。




ーーーーー



かつて、こんな実験が行われたそうです。

 生まれたばかりのアカゲザルを母親から引き離し、
 飼育員が効率的に育てると、どうなるか。

 母親に似せた”抱っこ用の人形”を用意されたグループは
 どう育つのか。

母親に育てられなかったアカゲザルは、
ほとんど育たずに亡くなりました。

母親に似せた”抱っこ人形”のグループは、
どうにか育ったものの、

他者への恐れや無関心、無気力から、
対人関係も精神も不安定だったそうです。

サルと人間の違いはありますが、
人生のスタート時に十分な愛情を得られなければ、
健全な成長が難しいことを物語っています。




「親からの愛情不足で苦しむ人を救いたい」

そう願って開発された抱っこロイドは、
確かに多くの人を救いました。

ですが、この革命は最後まで、
親の愛情の代理満足を超えることはできませんでした。




「お母さんに甘えたい。」
「優しく抱っこされたい。」
「ぬくもりを感じたい…。」


大人になるほど、
口に出すことをはばかられる、その願い。

叶わなかった願いの代用品を求めて、生涯を棒に振る。
そんな人はいくらでもいるでしょう。

そうならないためにも、
たまには自分の気持ちに素直になってみてください。

「私、優しく抱っこされたいんだ…。」

気恥ずかしくても、情けなくてもいいんです。
認めてあげるだけで、きっと少し、生きやすくなるから。



ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
【短編小説】『人形の翼が折れた日』全2話

【短編小説】『もう1度、負け組の僕を生きたいです』全5話


⇒参考書籍






この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/11982957

※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
検索
プロフィール
理琉(ワタル)さんの画像
理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
プロフィール
最新記事
カテゴリーアーカイブ
×

この広告は30日以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。