2023年04月29日
【短編小説】『彩、凜として空、彩(かざ)る』4
⇒PART3からの続き
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<登場人物>
・水月 彩凜空(みなづき ありあ)
主人公
大企業の社長令嬢
会社の跡継ぎとして厳しく教育されるが
親友の影響でモデルになる夢を抱く
・姫川 理愛(ひめかわ りあん)
主人公の幼なじみで親友
両親に内緒でモデルを目指す主人公を支える、唯一の理解者
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【第4話. ”社長令嬢”】
彩凜空(ありあ)
「お疲れさまでしたー!」
ファッションショーが終わり、
私は社長と理愛(りあん)の3人で会場を後にした。
私は、客席に1人の少女を見つけたことを社長に話した。
社長
『ね?目立つでしょ?(笑)』
『しかも、きみみたいな素質の塊のような子は、なおさらね。』
彩凜空(ありあ)
「ほんとですね(苦笑)」
「あのとき見つけてくれて、拾ってくれて感謝してます。」
社長
『拾ったなんて(笑)正当な営業活動だよ。』
「おかげで、こんなに有能な人材を2人も雇えたんだ。』
理愛(りあん)
『社長?!私も?!私も有能ですか?!』
社長
『もちろん。ウチのトップモデルの、敏腕マネージャーさん。』
理愛(りあん)
『社長…(涙)』
そんな談笑をしながら歩いていると、
私たちの前に、見覚えのある男女が立ちはだかった。
社長
『失礼ですが、どこかでお会いしましたか?』
初対面なのは社長だけ。
私は怯え、後ずさった。
理愛(りあん)は、そんな私をかばうように、私の前に立った。
何かを構える仕草を見せながら。
彩凜空(ありあ)
「…お父さん、お母さん…。」
父親
「彩凜空(ありあ)、やっと見つけたぞ。」
彩凜空(ありあ)
「ど、どうしてここがわかったの…?」
父親
「世間でこれだけ有名になったんだ。いくら私でも気づく。」
母親
「何がトップモデルよ!これ以上、水月家の恥をさらさないで!」
父親
「大学受験をすっぽかして家出した挙句、芸能活動なぞしおって。」
「お前の育て方を間違えた。我々の責任だ、帰るぞ。」
母親
「跡継ぎの娘が家出して芸能界入りなんて、世間様に顔向けできないわ。」
「みっちり再教育するからね!」
2人は冷たい言葉をぶつけ終わると、グイっと私の手を引いた。
彩凜空(ありあ)
「イヤ!離して!私、帰りたくない!」
ーー
社長
『待ってください。』
社長は、私の手を掴んでいた父親の手を掴み返した。
はずみで、父親は私から手を離した。
社長
『私は彩凜空(ありあ)さんを預かっているモデル事務所の社長です。』
父親
「これは失礼した。彩凜空(ありあ)の父です。」
「さっそくですが、これはどういうおつもりかな?」
「これは我々の家庭の問題だが?」
社長
『出過ぎたマネであることは承知しています。』
『ですが、突然いなくなったお嬢さんに、最初にかける言葉がそれですか?』
父親
「どういうことかな?」
社長
『受験とか、世間体がどうとか、あなた方の都合ばかり。』
『お嬢さん自身のことは心配じゃないんですか?』
『元気だったか、ご飯は食べてるか、気にならないんですか?』
父親
「心配でしたよ。娘が道を踏み外していないかね。」
「自分の娘をどう扱おうが、あなたには関係ないでしょう?」
社長
『ありますね。彼女はウチの看板モデル。当然、心配します。』
『それだけじゃない。彼女が学生の頃からどれだけ努力してきたかを見てきました。』
父親
「学生の頃から…だと?」
「娘がファッションショーを観に行ったときに、灸を据えたはず。」
「学校でも家でも従順で、やるべきことに邁進していたはずだが。」
社長
『あなたは娘さんのことを、何も見てないんですね。』
『彼女はあなた方に悟られないよう、ずっとモデルを目指してきましたよ。』
『マネージャーの理愛(りあん)さんと二人三脚でね。』
『私はそんな姿に惚れ込んでスカウトしたんです。』
父親
「…娘には将来、我が社を継がせることを知った上で?」
社長
『ええ。事情は聞いていました。』
『それでも私は、彼女に来てほしかった。』
『断られて当然と思っていました。』
『それでも彼女はウチに入ってくれて、彼女の力でここまで登り詰めたんです。』
母親
「まさか、娘をたぶらかしたんじゃないでしょうね?!」
「事と次第によっては、出るところに出ますよ?!」
社長
『彼女は18歳になってから、彼女の意志で来てくれました。』
『出るところに出ても構いません。』
『何なら雇用契約書、見ますか?』
母親
「ぐぬ…!!」
社長
『確かにモデル業界は、会社経営とは別世界かもしれません。』
『ですが、ここまで来れたのはお嬢さんの努力の結果です。』
『少しは、その頑張りを認めてあげてもいいんじゃないですか?』
父親
「娘は努力する場所を間違えている。」
社長
『そうでしょうか?』
『彼女は学校の成績も優秀でしたよ。』
『決して、モデル業以外をおろそかにしていたわけじゃない。』
母親
「そんなムダなことをやってなかったら、もっと良い成績が取れたのよ!」
彩凜空(ありあ)
「お母さん!」
「…私と成績、どっちが大事なの…?」
母親
「(ギクリ)…な、何を行ってるの?!」
「あなたに、決まってるじゃない…!」
彩凜空(ありあ)
「そっか…わかった。」
「(…やっぱりね。私よりも世間体、地位、名声、か…。)」
私は、母の取り乱した表情を見て、決心した。
彩凜空(ありあ)
「私は戻らない。会社も継がない。」
「この人たちと一緒に、モデルを続けます。」
母親
「な、何を言ってるの?!」
「そんなこと許されるわけないでしょう?!」
社長
『…ずっと、親に逆らえなかったきみが…。』
『…強くなったな。』
ーー
父親
「フン。やはり我々の管理下に置いておかなければ、毒されてしまうか。」
「ところで、私たちが2人だけで来たとお思いかな?」
社長
『どういうことです?』
父親
「娘がごねることは想定済み、ということだ。」
パチン
父が指で合図すると、
部下らしき男たちが、私たちを取り囲んだ。
父親
「できれば話し合いで戻ってもらいたかったが。」
「応じないなら、強引に連れて帰ることになるぞ。」
…これが「力」だ…。
お金、権威、実績、人脈。
それらがあれば、大抵の人は動かせる。
不都合な真実だって、もみ消せる。
私、せっかくここまで来れたのに…。
このまま連れ戻されちゃうの?
私は、どうして大企業の社長令嬢なんかに生まれたの?
私はただ、叶えたい夢に向かいたいだけ。
肩書きなんか、名声なんか…いらないよ…!
私の夢に付き合ってくれた理愛(りあん)は…社長は…?
みんなの気持ちは…どうなっちゃうの…?!
⇒PART5 -最終話- へ続く
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